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 **闇に包まれた未来  ◆pKH1mSw/N6 
 
 
 闇。
 天は葉に、地は土に、左右は森に、前後は黒に囲まれた闇。
 人の不安を否応なく駆り立てる闇の中で、すすり泣く声が聞こえてくる。
 
 「うっく……ひぃ……ふえぇ……」
 皿を割ってしまったせいで井戸に投げ落とされ、
 死んだ後も皿を数え続けるという無意味な行動を延々と続けているドジッ娘メイドさん型幽霊の如きすすり泣き。
 暗闇の中を歩きながら、SOS団公認の正真正銘ドジッ娘メイドである朝比奈みくるは泣き続けていた。
 その服装は何故か北高の制服ではなくメイド服。理由はわからない。ギガゾンビの趣味かもしれない。
 
 「ひぐ……な、なんであたし、連れてこられたんですか? こ、ここはどこなんですか?」
 虚空に向かって問いかけるも、帰ってくる答えはない。
 「黙りなさい」という強気な叱咤も、「やれやれ」とでもいうような呆れながらの説明もない。
 「う……うぅ……」
 泣き虫メイドさんは遂に、近くの大木に背中を預けて座り込んでしまった。
 暗い暗い森の中、デイバック片手に袖を濡らすメイドさん。
 どう形容していいのかサッパリわからない。
 
 周囲にはみくるの嗚咽だけが響いていたが、それもやがて終わりを迎えることになった。
 「ひぃ」
 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて目の前の茂みを凝視する。
 恐怖をなみなみと湛えた視線の先で、茂みは確かに蠢いていた。
 ガサガサ、ガサガサ
 「あ……あ……」
 緊張が臨界点を突破する。
 限界を迎えたみくるの精神が、金切り声を発生させるよう声帯に命令を出す直前、茂みの中から何者かが飛び出した。
 
 ピィーーーーッ
 
 甲高い泣き声が響く。
 一羽の小鳥がみくるの肩をかすめ、夜空へと消えていった。
 
 
 呆然と、小動物の飛翔を見送るみくるの肩から力が抜ける。
 「ふう……」
 そのときには、みくるの精神は安定を取り戻していた。
 突然こんな出来事に巻き込まれてしまったために失っていた平常心が戻ってくる。
 そう、彼女に混乱している暇などないのだ。
 
 (とにかく、考えましょう。今確実にわかることは、この殺し合いが相当危険な状態だということです)
 落ち着きを取り戻したみくるが思考を巡らせる。
 こう見えても未来から派遣されたエージェント。
 ドジであったり臆病であったりはしても、むやみやたら、考えなしに動くことはしない。
 (まず、未来と連絡が取れません。それに、この時間平面上にこんな出来事はなかったはずです。
  ……私が下っ端だから教えられていないだけかもしれませんけど……うぅ……と、とにかく!)
 ネガティブスパイラルに陥りそうな思考を無理矢理軌道修正する。
 (あの仮面の男、「時空刑務所」とか「亜空間破壊装置」とか「タイムパトロール」とか言ってました。
  もしかしたら、未来の[禁則事項]かもしれないし、[禁則事項]かもしれません。
  あの青いタヌキさんなら事情を知っていそうですけど……キョン君たちと合流するのが先決です)
 SOS団の仲間たちや、友人である鶴屋さん。彼らなら間違いなく信用できる。
-何故か小泉一樹はいなかった。朝倉涼子ですらいたというのに。
+何故か古泉一樹はいなかった。朝倉涼子ですらいたというのに。
 
 とりあえず今後の方針を決めたみくるは、立ち上がろうと腰をあげた。
 その手が、何か柔らかいものに触れる。
 何だろうと見ると、それは支給品が入ったデイバックだった。
 ろくに中身も見ないまま持ち歩いていたのだ。
 (そういえば……武器が入っているとか言ってましたね)
 デイバックの中に手を入れると、見た目からは信じられないほど物が入っていた。
 地図、コンパス、筆記用具……
 そして、みくるの手が一般の支給品以外のものに触れる。
 デイバックの中から引きずり出すと、それは水泳帽のような灰色の被り物。
 一緒についていた説明書にはこう書いてあった。
 『石ころ帽子。被ることで相手から認識されなくなる。ただし、本来の石ころ帽子と異なり制限が加えてある。
  装備者が動くことで音が発生した場合、音を消すことができない。そのことで人に気付かれる可能性がある。
  その後で注意深く見られたとき、石ころ帽子は効力を失い、装備者は発見されることになる。
  見つかってから被っても効果は無効。また、少しでも破れた場合、効力はなくなる』
 
 
 相手から認識されなくなる道具。
 動いてしまったら気付かれてしまうが、じっとしている分には無敵だ。
 (でも……)
 そのための禁止区域。自分がいる地区が禁止区域に指定された場合、嫌でも動かなければならなくなる。
 それに、ずっと隠れているわけにはいかない。やるべきことがあるのだから。
 石ころ帽子を被り、次の支給品に手を伸ばす。
 二番目に出てきたものは綺麗な装飾が施された如雨露だった。
 特に説明書はなく、何の効果があるのかわからない。これは一時保留。
 そして、最後に出てきたのは……
 「薬箱ですかー。これなら私にも使えそうです」
 本音を言えば、みくるは銃器や刀剣類が出てこなくてホッとしていた。
 自分に戦いなどできるはずがない。武器に振り回されてしまうのがオチだ。
 その点、治療くらいなら自分も役に立てる。みくるにとっては最高クラスの当たり支給品だ。
 「それにしても随分と古風な薬箱ですね……ん、これは説明書?」
 薬箱を開けると、色とりどりの薬品の中に説明書が入っていた。
 『とある薬師の薬箱。ただし、傷薬など治療薬は別のデイバックに支給されており、この中身はそれ以外の薬品である』
 説明書の冒頭に不穏な文字が躍っている。
 嫌な予感がした。
 
 「えーと、これはワブアブの粉末……ワブアブという虫を乾燥させ粉末にしたもの。筋力を低下させる効果がある……虫ぃ!?
  気持ち悪い……ほ、他の薬は!? ひとつくらいまともな薬があるはず……こ、こここのお香は何でしょう?」
 粉末薬と一緒に入っているお香を手に取る。
 医療品としてのお香は、心を落ち着けるなどの効能があったはずだが……
 そんなみくるのささやかな期待は粉々に打ち砕かれた。
 「……激しい嘔吐感と気怠さに襲われるネコンの香煙に、燃やすと微かに甘い香りを放ち、激しい幻覚作用を持つ紅皇バチの蜜蝋。
  それと外科医術に使われる揮発性の高い液体で、吸った者の意識を一瞬にして奪うケスパゥの香煙……
  ってロクな薬ないじゃないですか! 興奮剤や覚醒剤まで! いやあぁーーっ!」
 そこまで口に出してから、みくるは慌てて口を閉じた。
 途中から、普通に声を出してしまっていることに気付いたからだ。
 被っている石ころ帽子では発する音までは防げず、現状で敵に襲われたらひとたまりもない。
 息を殺して周りを伺う。
 そのまま数十分が経過しても、みくるは動こうとしなかった。
 
 
 森は静かに佇んでおり、特に異常は感じられない。
 しかし、一度気になりだしてしまってからは、森全体が敵意を持って襲ってくるように思えてならなかった。
 
 ザワザワ、ザワザワ
 
 今まで、不気味だとは思っても危険だとは感じなかった森が、全てを溶かし尽くす悪魔の胃袋のように感じられる。
 このままでは、喰われる。
 肉体的にではない。精神的に喰い尽くされる。
 本能的にそう感じたみくるは巨木の根元から立ち上がり、移動しようとした。
 そして、一歩を踏み出したそのとき、
 
 今まで背中を預けていた巨木が火の柱と化した。
 
 「――――っっっ!」
 言葉にならない悲鳴をあげ、その場にへたり込む。
 熱によって繊維が爆ぜる音とともに、巨木がゆっくりと倒れ込んだ。
 燃え落ちる炎柱の向こうに、みくるは鬼の姿を見た。
 
 肉食獣のような鋭い眼光。
 明らかに人間とは思えない、ヒョウのような耳。
 血のような真っ赤な衣服。
 そして何より、自分の身長よりも大きい大砲を軽々と持ち上げる、その異常性。
 その口が歪み、言葉を形作る。
 陽炎の向こうに見える鬼は、こう言っているように見えた。
 
 
 『 ざ ん ね ん 、 は ず し ま し た わ 』
 
 
     ※     ※     ※
 
 
 朝比奈みくるは走っていた。
 危険から逃れるために。鬼から逃げるために。
 危険を皆に伝えるために。鬼から逃げるよう忠告するために。
 心の中でSOSを発し続けながらも、皆のために走り続けていた。
 炎が燻る地獄から、一目散に逃げてきたのだ。
 「ハァ、ハァッ!」
 息を切らしながらも、スピードを落とすわけにはいかない。
 もしかして今現在も追いかけられているかもしれないのだ。
 追いつかれたら殺されるかもしれない。いや、確実に殺されるだろう。
 問答無用で大砲を打ち込んできた相手だ。
 後ろを振り返る余裕なんてない。
 逃げろ。逃げろ。早く逃げろ。
 足を動かせ。立ち止まるな。前へ進め。
 助けを求めろ。危険を伝えろ。仲間を探せ。
 
 「あの女の人は、危険ですっ……!」
 
 
     ※     ※     ※
 
 
 「残念、はずしましたわー」
 カルラは特に残念がる様子もなく、構えていたハルコンネンを地面に下ろした。
 30mm 対化物用「砲」ハルコンネン。
 ついさっきまで装填されていて、先程巨木を消し炭にした弾丸は爆裂鉄鋼焼夷弾。残弾5発。
 もう一種類の弾丸は劣化ウラン弾。残弾6発。
 人間には到底扱えないその砲を、片手で易々と振り回す。
 見た目では脅威に感じる光景だが、実際にはカルラはハルコンネンを全く扱いきれていなかった。
 「おかしいですわねー。確かに”あの木の三つ隣”を狙ったはずですのに」
 いくら力があったところで、固定台座もなしに「砲弾」を相手に命中させることなどできるはずがない。
 まして、カルラは大砲など存在しない世界の出身なのだ。
 ハルコンネンも、『ヒムカミ(火神)の加護を受けた鉄の筒』くらいにしか認識していない。
 
 
 「やっぱり術法関係はウルトのほうが適任ですわね。私は太刀を使った戦い方のほうが性に合ってますわ」
 説明書通りにやってみて、自分にこの鉄筒はうまく扱えないということがわかった。
 試し撃ちも散々な結果に終わり、せいぜい鈍器としてしか使えなさそうだ。
 とは言っても、棍棒状の武器は趣味ではないので、太刀が欲しいところである。
 自分が握っても壊れないほど丈夫な太刀が。
 
 「さて、そろそろあるじ様と合流しようかしらねー」
 カルラは歩き始める。
 彼女は殺し合いをする気はなかった。
 邪魔する人間を屠る予定はあったが、それ以外の人間とは争うつもりはなかった。
 ハルコンネンを使ったのも、ただの試し撃ち。
 だから、”誰もいない森の中”を標的として使ったのだ。
 ギリヤギナの剣奴は、道端の石ころに気がつかなかった。
 
 弱き者達に目を向けなかったからこそ、ギリヤギナ族の国は滅びたというのに。
 
 
 【D-7森・1日目 深夜】
 【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
 [状態]:恐慌状態、全力疾走による疲労、服はメイド服
 [装備]:石ころ帽子(制限により、音を出して、それが他人に聞かれたら効力を失う)
 [道具]:支給品一式 、庭師の如雨露、
    エルルゥの薬箱(治療系の薬はなし。筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
 [思考・状況] 1.ヒョウ耳の女の人から逃げる。周囲の人に危険を伝える。
        2.SOS団メンバー、鶴屋さんとの合流。 
        3.青ダヌキさんと未来のことについて話し合いたい。
 
 【D-7森・1日目 深夜】
 【カルラ@うたわれるもの】
 [状態]:健康
 [装備]:ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)(棍棒としてしか使う気はない)
 [道具]:支給品一式 、ランダムアイテム残数不明(カルラが扱える武具はありません)
 [思考・状況] 1.ハクオロと合流。他の仲間とも合流したい。
        2.邪魔する人間には容赦しない。
 
 
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 |朝比奈みくる|43:[[不思議の国のバトー]]|
 |カルラ|41:[[経験過多、経験不足]]|





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