宰相府帝國軍兵器開発コンペ/宇宙空母

 

宇宙空母
広大な砂漠の中央にそびえ立つ白亜の巨塔。その偉観を遙か眼下に見下ろした漆黒の宇宙空間で、星々を圧倒せんばかりの巨体を横たえているものこそ、帝國宰相の切り札ともいうべき宇宙空母である。

 

艦載機と攻撃力
その2000m級の姿は艦船というより要塞を彷彿とさせるものの、空母単体では何の攻撃力も持たない。しかし、そこに搭載されるI=Dや航空機と組み合わせて運用することにより、現代最強の戦闘機械群となるのだ。
今回新造された宇宙空母は、帝國軍初の正規空母であり、これまでの輸送艦に指揮能力を持たせただけのミアキス型補助空母とは一線を画した攻撃力と防御力を与えられている。
艦載機は、I=D・戦闘機・無人戦闘機(いずれも宇宙専用)を合わせて70機まで搭載可能で、5基の電磁カタパルトをフル稼働させれば20分以内に全艦載機を射出することができるが、全機を出撃させることはまずない。たいていの場合、搭載I=Dの少なくとも15%程度を、単純平面で構成された外部装甲板の間に設置されたトレンチ・ゾーンと呼ばれる部分にマウントし、防御火力として待機させているからである。

構造と防御力
全体の構造は、艦載I=D等を収容するハンガーデッキとコントロール・セクションのある戦闘ブロック、床屋や売店まで備えた居住ブロック、そして主機関の置かれた機関ブロックが一列に連結された形になっており、戦闘ブロックから長大な5基の電磁カタパルトが並んで前方に突き出している。さらにその周囲にミノムシのように無数の外部装甲板をまといつかせることで、単純な装甲機能に加え、前方からの電波に対するステルス機能と、後部の機関ブロックからの熱を遮断して発散させる赤外線へのステルス機能を与えようという試みがされている。

指揮
宇宙空母の指揮は、支援艦艇を含めた全体を統括する「総司令官」の下、空母そのものの指揮を執る「艦長」と、艦載機群を指揮する「飛行長」の連携によっておこなわれる。
戦術指揮所は飛行長の指揮下に置かれ、艦のセンサーや送り出した機による早期警戒網からの情報を分析し、必要とあればI=Dによる防衛網に攻撃指示を与えることになる。

電磁カタパルトがうなりを立てる。
だが、宇宙空母より飛び立つ影はない。発艦前の動作試験だ。
全身を爆発物の塊と化しているI=Dたちの発着には、万に一つのトラブルも許されないのだ。
強化ガラスで防御されたバブル状の管制室の中からフライトデッキを見下ろせば、巨大なI=Dの周囲を色とりどりの作業服に身を包んだ作業員たちが右往左往するのが一望できる。リリパット国の運動会のようだ。
だが、バブルの中の管制オペレータたちには、それぞれが目的を持って動いていることは一目瞭然だ。
ブリーフィングを終えたパイロットがデッキに姿を現し、それぞれの愛機へと足を運ぶ。
「カタパルト、2番、3番を準備」
ブラウンのジャケットの整備員が機体の最終点検をする傍らで、スカーレット・カラーの武器担当員たちが搭載した火器の安全装置を手際よく解除していく。すべての準備が完了すると、イエロー・ジャケットの誘導員によって、迅速にカタパルトの発艦位置へと移動させられる。
『こちら艦橋。準備でき次第、哨戒の小隊を発艦させろ』
「管制室、了解。2分後に発艦させる」
飛行長は各機の準備状況を示したボードを、ちらりと確認しただけで即答した。
管制室の中央には、いかにも急ごしらえで据えつけたようなマグネットボードが固定されており、その上にはカタパルトとデッキを模したと思しき枠が引かれている。そして、そこにさまざまなマグネットシールをくっつけたI=Dのイラストが張られていて、デッキからの報告を受けたオペレーターたちがせわしなく動かしている。これで、各機の状況を把握しているのだ。

 赤いシールは燃料補給がまだ、青いシールは武器弾薬の補給がまだの印。他にも幾つものシールが用意されている。シールがすべてはがされたイラストのみが、カタパルトを示す枠の中へと移されていく。

 本来はすべてをコンピュータ管理する予定だったのだが、現場での土壇場の変更が多く、最初のシステムでは入力や出力が間に合わないことが判明したのだ。

 とりあえず、この方法でも支障がなく、むしろ思いのほか使いやすいことが判明したため、システム改良依頼は優先順位のかなり下の方へ押しやられている。
「点検完了、了解」
「発艦を開始する。救護班は待機!」
発進位置へ移動したI=Dが電磁式カタパルトに固定されると、デフレクターが立ち上がる。
『707、発艦位置確認』
『708、発艦位置確認』
『退去完了。安全確認良し』
「射出方向クリア」
報告を受けた飛行長はマイクに向かって告げる。
「発射だ。行ってこい!」
リニアモーターが唸りを上げ、一瞬の衝撃と共に機体を艦外へと弾き出した。
続けて、もう1機。

 

 こうして、宇宙空母は戦闘態勢を整えていくのだ。

 

1700326:曲直瀬 りま:FVB

最終更新:2008年05月03日 16:52