ゴドー×冥


「・・・ハァッ・・・ハッ・・グッ・・・!」

「歯は立てるな。・・よし、よし・・いいぜ・・。」


あれからしばらくしてゴドーは神乃木荘龍として自由の身になった。
どんな裁判でも逆転させてしまうトンデモ弁護士の成歩堂や
検察から警察まで顔が効く検事の御剣やらが
成歩堂の呼びかけで神乃木をサポートした結果であった。

そんな中、神乃木は自由の身への葛藤と戦いながらも
生きなければならないということを自覚していった。

他人に幕を引いてもらうというのは初めは我慢しがたい真実だったが
もうその真実を自覚しなければならないというところまで話は進み自由の身になったのである。
手を掛けてくれた人には物で礼をするという格好付けたやり方でありながらも感謝の気持ちを表した。
つまり、本人の葛藤はあったにしても結果的には順調だったということである。

ただ。一つだけ。

大きな狂いがあった。

狩魔 冥。

どうして彼女とこんな奇妙な関係になってしまったのか。



「・・・あぁ・・・。」


「・・・手、離してくれないか。今日はもう終わりだぜ。」
「神乃木荘龍、他言したらただじゃ済まないわよ。」
「お嬢ちゃん。じゃあバレないようにお口の周りでも拭いたらどうだい?」
「・・・ッ!」

二三発鞭が当たるのを無視して神乃木は涼しい顔でズボンを上げた。

「こんな裁判の真っ最中に俺とお嬢ちゃんが会ってるってことは誰もしらないんだろうな。」
「そんなの、当たり前だわ。」
「そうか。・・・さぁ、そろそろ開廷の時間だぜ。先に行きな。可愛い子チャンには優しくするのが俺のルールだからな。」

トイレから出て行く冥はどこか寂しげに捨て台詞を吐いた。

「そうね。私はまだ貴方に何もされていないわ。」

神乃木と冥はただ、成歩堂と御剣という共通の知り合いから知り合いになっただけで
知り合い以上に仲良くなることも、それ以上の関係もない筈だったが
元々気の強い女とからかい上手な男という関係なのだから自然と話す回数は多くなっていった。
そして、たまたま家の方角が同じだったので知り合いとしてバッタリ会ったある日
二人きりという空気も手伝って奇妙なことが発生したのだった。
それから二三度こういうことが続いている。

しかし、神乃木は"してもらっている"だけという状態から抜け出せずにいた。
故人へのあまりにも強い貞操にも似た思いと、日に日に色に溺れていく感覚のギャップから
苦しく悩んでいたために、最後の行為まではしていなかったのである。



それから数日後、何故か二人が会うことは必然として成り立っていた。

「神乃木荘龍。呼び出し通り来たわよ。・・で、何かしら。」
「クッ・・・照れ隠しが下手だねぇ。お嬢ちゃん分かってるんだろう。そんな顔してるぜ。」
「ちょ、ちょっと!からかうのもいいかげ・・・んっ・・・。」
「・・ハァ・・・分かっ・・てるんだろ・・ン・・・。」
「・・・こ、ここは・・っ。・・・人が・・・。」

冥が喋ると神乃木は力強く彼女を引き寄せて口を塞いだ。
使われていない控え室に人など来る筈は無いのだが
冥からしたらこんな男を拒絶無しに受け入れる訳にはいかなかった。
冥の思考はどんどん薄れて行き、神乃木の背中を強く掴んだ時
突然、神乃木の方から口を離してきた。
冥の方はというと、憎まれ口を叩くのも忘れキョトンとした様子で神乃木を見つめていた。

「それじゃ、よろしく頼むぜ。」
「・・・・・。」
「どうしたんだい。あぁ、もっとして欲しかったのか?」
「・・ふざけないで!」

ふざけないでと言いながらもいつも通りに男のズボンを下げてしまう自分の姿に冥は複雑な心境だった。
そう、まさにいつも通りの行為が始まろうとした時に
神乃木は複雑そうな顔をして小さく嘆いた。

「なぁ・・・もしお嬢ちゃんが嫌ならしなくてもいいんだぜ。っていうのは俺が言うのはおかしいか?」
「何度もやらせておいて、今更になって気を遣うつもり?おかしいわ。それに私の名前は狩魔冥よ。」
「お嬢ちゃんはもうとっくに俺の素性なんかは調べつくしてるんだろ。それ以外のことも成歩堂達を見てりゃ察しも付くだろう。」
「話をするために呼んだなら、初めからそういってくれる?」

そう言って、冥は神乃木のズボンを上げ、今まさにという体勢から立ち上がり、少し離れ
神乃木の残念そうな姿を期待したが当の本人は気にせず話を続けた。



「言っても仕方ねぇだろうが中途半端なことしてるのは分かってるんだ。だからこそ悪いとも思ってるんだぜ。」
「・・・・・。」
「初めての相手はちゃんと選んだほうがいい。こんな優柔不断な奴よりもな。」
「今の発言、セクハラで訴えるわよ。」
「それに・・勿論だが口でするのなんか初めてだったんだろう。」

冥の頬がかぁっと一気に赤みを帯びていく。

「もっ・・・・も、もう貴方のセクハラによる罪は確定したわ!」
「こんなセクハラ男といて楽しいか?」
「楽しくないに決まってるでしょ!」
「ならどうして出て行かないんだい?お得意の鞭を振り回すのも忘・・・おっと、振り回さないでくれよ。」
「話をしていたから帰らなかっただけよ。じゃ、話が終わったなら帰るわ。初めからそのつもりよ。」

勢い良く閉まった扉を見つめながら神乃木はぼんやりと考えた。
できれば彼女の気持ちに答えてやりたいという気持ちと
それはできないという考えが同居していて答えが見つけられずにいたのである。
そして、いつかは彼女と繋がってしまうだろうという考えが思い浮かんだ時には
ある意味での安心感と、また別の意味でのとても強い罪悪感に支配された。
冥の方は自分があの男に魅かれているということに気付きながらも
そんなことを思ったところでどうしようもなかったので
この、呼ばれたら奉仕するという関係を半ば認めていた。
そんな奇妙な関係だった。




「・・・よぉ。お嬢ちゃん。」
「どうしてこんな所にいるのよ。」
「どうしてって・・。お嬢ちゃんこそどうしたんだい?」
「別に。」

そっけない冥の姿に神乃木は思わずクッと噴出した。
その姿を見るや否や冥は鞭に手をかけたが殴られるのを防ぐためか神乃木は話を続けた。

「お見舞いに来たっていうのに花束も無しか。全くせっかちなお嬢ちゃんだぜ。」
「神乃木荘龍。貴方定期的に病院に通っているのね。どうしてかしら。」
「そうだな。いや・・・お嬢ちゃんがその理由を調べられない訳ないんじゃないか?」

少しの間沈黙が流れた。
冥は相変わらず強気な顔をしているが、内心返す言葉がなくて困っているようだった。

「・・・クッ。困らせちまったみたいだな。冗談だ。見舞いに来てくれて嬉しいぜ。」

礼まで言われてしまった冥はもうトドメを指されたといった様で、
染まった頬を隠すように向こうを向いてしまった。
神乃木はそのあどけない姿に不思議な感情さえ覚えた。
今回の入院は一週間で、後2日で退院できるからもう5日間も暇だった。
考える時間はたっぷりあった5日間の内に、神乃木はもう吹っ切れていた。
今だに、言い難い罪悪感にも似た感情は消えないが
冥を振り回すのもまた納得しがたいことで、期待に添えようと思ったからだ。
流石に神乃木も冥の気持ちには気づいていたようで、気付いていなかったのは実は冥本人だったのかもしれない。



「別にな。入院っていっても体にオイル挿すようなモンで、俺自身はなんともない。」
「そ、そう。それを聞いて安心したわ。勿論、知り合いとしてだけど。」

神乃木はベッドから起き上がって窓の方を向いた冥に近づいた。

「安心してくれて良かったぜ。お嬢ちゃんに心配かける趣味はないからな。」

神乃木の腕が冥を優しく包む。
冥は思いもよらない出来事に、つい本心ではない事を口走ってしまう。

「やめて。こんな不特定多数の人がいる所でこういうことは謹んでくれるかしら。」
「ここは個室だぜ。鍵だって閉まってる。」
「ちょ・・、コッ、コーヒーを買ってくるわ。」
「もう飲んだ。」



冥が抵抗して時間が経つほど神乃木の呼吸か近づいてきて、吐息が掛かる。
何かを喋ろうとした神乃木の口から漏れた息が耳元に掛かると冥はきゅっと唇を噛んだ。
神乃木はその反応を楽しむかのように、わざとらしく耳元でぼそぼそ嘆く。

「今まであそこまでやってくれて、今更嫌って訳にはいかねぇぜ。お嬢ちゃん。」
「・・・・ッ!それとこれとは・・ッ!」
「別じゃねぇぜ。俺が恩返しをする番だ。こっち、向いてくれるか。」

顔を真っ赤にして振り向いた冥をすぐさま抱きしめ、その口を塞ぐ。
冥は口を塞がれながらゆっくりとベッドに押し倒される自分の姿と口内に侵入してくる
暖かいものの感覚とで、頭が真っ白になりそうだった。
神乃木の舌は冥の舌から歯の裏を這っていく。
「・・・ッハァ・・。悪いな。苦しかったか。」
「神乃木荘龍!・・私がこんな風に流さ・・・ッン。や、やめて。」
神乃木の口はそのまま冥耳たぶを齧る。
そのままその口は耳から首筋までゆっくりと下がっていく
その感覚に、冥はくすぐったくさえ感じた。
骨のごつごつとした男らしい手が、冥の胸元にかかる。
神乃木自身も理性を忘れかけて冥の首元に舌を這わせながら胸元のボタンに手をかけていく。
「・・・ふ・・ちょっと、ちょ、神乃木・・荘龍・・ッ!」
「・・お嬢ちゃん・・・。」
「そ、そじゃなくっ・・ん・・よ、呼んでるのよっ・・。」
「そうか。ん?・・何がだ?」



それはドアノックの音のことだった。

「神乃木さーん。採血しますから開けて下さいねー。」
「今、開けるぜ。」

神乃木は耳元で悪いな。とつぶやいてから冥をすぐそばの椅子に座らせた。
いかにも面会らしく座っているその姿を怪しむものはいなかったであろう。
看護婦も早々に仕事を済ませて帰っていった。
おかしな点を強いてあげるとしたら、赤くなっている冥の顔を看護婦が訝しげに覗き込んだことくらいか。
その内に面会時間も終わりが迫り、冥はまた憎まれ口を叩いて足早に帰っていった。

その夜、神乃木は反応した己を思い出して独り言を嘆いた。

「こんな使いモンにならねぇ体でも、こんなに欲は残ってるんだな。
 ・・・・こんな俺を、許してくれるか。いや、湿っぽくしてる方が罰当たりなのかもな・・。」

また己が反応しだして神乃木は余計に自分を責めながら夜を過ごした。
そして冥もまた、高鳴る鼓動を抑えられず、また認められずに眠れぬ夜を過ごした。




それから二日後、神乃木は疲れていた。
自分が休んでいた間の仕事の量は思っていたよりも多く、すべて片付けるのは容易なことではなかった。
冥に会わなくてはいけないとは思っていたが、そんな余裕もなく
もうすぐ一日が過ぎようとしていた帰り道だった。

「・・・あ。ゴドーさん。」
「あぁ、よぉ。成歩堂か。」
「奇遇ですね。」
「そうだな。事務所はこっちじゃないんじゃないか?どうしたんだ。」
「えぇ、・・ちょ、ちょっとこの辺で証拠品集めなくちゃいけなくて。」
「そうか。」
「・・はい。」
「クッ、証拠品集めなくちゃいけない人間が、こんな夜中に公園のブランコに乗ってるってのかい?」
「いや、ははは・・・。」
「・・・・コーヒーでも飲むか?」
「あ、はい。ありがとうございます。」

夜中に公園のブランコに大人が乗っているというのはそう珍しくない光景である。
そのまま二人はそれを椅子代わりに缶コーヒーを飲みながら当たり障りのない話をしていたが
突然、成歩堂がため息をついて自分の今日の事を話し始めた。



「はぁー・・・。本当、僕って情けないんですけど・・。」
「そうだな。」
「やっぱりそう言いますか。まぁ、たいした事じゃないんですけどね。」
「・・・・。」
「・・・・。(うぅ、やっぱり言うの嫌だなぁ。格好悪いし。)」
「成歩堂。ここまで言ったら最後まで話す。それがルールだぜ。」
「(う・・。)・・・・いや、僕、帰れなくなっちゃって。」
「締め出されたのか。」
「はい・・。矢張にその、ビデオっていうんですか。借りさせられたんですけど、見つかっちゃって。」
「で?」
「真宵ちゃん今夜は泊まるって言ってるし、僕は家の鍵忘れてきちゃったしで・・。」
「・・クッ。大人なようでそういう所は子供な嬢ちゃんだぜ。」
「そんなこんなで、ぼーっとしてたらこんな時間になっちゃんです。ははは・・。」
「全部置いてきたのか?」
「はい。鞄ごと置いてきちゃって。」
「じゃ、帰るしかねぇな。アンタきっと待たれてるぜ。」
「ははは。待たれてるどころか、もう寝ちゃってるんじゃないですかねぇ。はぁ。」



「成歩堂。・・・欲はあるか?」
「え?いや、だからその。ビデオは矢張が無理矢理貸してきたわけですから・・。」
「見てないのか?」 「・・・見ました。(僕がどうしてこんなこと答えなくちゃなんないんだ・・。)」
「じゃあ、あるのか。」
「え?いや、今は持ってないんでお貸しできないんですけど・・。」
「欲だよ。」
「欲ですか?そうですねぇ。・・ありますよ。普通に。」
「こんな俺が、今更になって色に欲を持つのはおかしいことだと思うか?」
「うーん。そうですねぇ。」
「変な質問しちまって悪いな。」 「僕は・・・おかしくないと思いますよ。別に。」
「・・・・。」
「僕は最近そういうドラマを見たから感化されてるだけかもしれませんけど。」
「・・・・あぁ。」
「引きずってばかりいたらプラスになるものもマイナスなっちゃうんじゃないですかねぇ。」
「そう思うか。」
「だから、欲を持つのも仕方ないことだと思いますよ。いいんじゃないですか。」
「そうか・・。」
「はは・・、すいませんね。僕はこんなこと言えた義理じゃないんですけどね。話の脈絡もないし。」
「いや、参考になったぜ。落ち込んでるときに悪かったな。」
「いえ、僕こそお付き合いありがとうございました。・・ちゃんと鍵取りに行く気になりましたよ。」



神乃木はずっと病室に落ちていた、今はポケットの中にある紙切れが気になっていた。
ただ電話番号とだけとれる数字が書いてあるだけで、それが誰のものかは全く書いていない
味気のないメモ書きだったが、それが誰のものかは言うまでもない。
面会が終わった後、コーヒーを飲もうと何気なく手を伸ばした先に
いかにもわざとらしく、これ見よがしに紙切れが落ちていたのであった。
その古典的な方法に、神乃木は呆れ笑いをしたものであったが
それどころか、何故だか同時に愛おしさも増したのであった。
しかし仕事漬けになっていた今日は電話をかける気にもなれずに今まで来てしまった。
そんな時に成歩堂と会って、つい話込んでしまった訳だったが
幸か不幸か、気持ちが軽くなっていたのは確かだった。



「(はい。狩真―――)」
「よぉ。元気かい。」
「(答えてる途中で話すのはやめてくれるかしら。)」
「悪いな。気持ちが高ぶっちまってな。」
「(ふざけてるの?用が無いんなら切るわよ。)」
「相変わらずつれないお嬢ちゃんだぜ。ところで、どうして俺がこの番号を知ってるか、聞きたいか?」
「(ぇ、ぁ、・・ど、・・・どうしてかしら?)」
「いやぁ、ちょっと紙切れが落ちてたもんでね。」
「(そ、それが私の番号だったとでも?)」
「クッ、クククク・・・。」
「(な、何笑ってるのよ!)」
「いや失礼。俺は今、二つの選択肢で悩んでいてだな、一つは――」
「(自分のペースで話すのはやめて。欲しいわね)」
「今日は疲れたから、もう家に帰って寝ちまうか。」
「(・・・?)」
「もう一つは、体に鞭打ってでも今から可愛いお嬢ちゃんに会いに行くか。」
「(・・・私だったら、そのくらい自分で決めるわ。)」
「迷ってるんだが。どうだい?一緒に決めようぜ。」



冥はこの男と話すのが得意ではなかった。
疲れるし、余裕を持たれてからかわれるし、とにかく今まで周りにいたタイプではない。
その癖自分はどうかというと結局その男の電話に出て、会いたくなってしまうのだ。

「そうか。じゃあそうするぜ。」
「(ええ。それじゃあ。)」
「あぁ、またな。」

携帯電話をポケットに押し込めて、神乃木はまた歩き始めた。
問いに答えた時の彼女はいつも通り勝気で、素直ではない口調で答えた。
彼女の答えはこうだった。

「(そうね。迷ってるなら・・・後者にでもすればいいんじゃないかしら?)」




誰もいなくなった裁判所の検察控室のソファに座り、コーヒーをゆっくりと味わっていると、ドアが開かれる音が無機質に響いた。
「見事だったぜ、お嬢ちゃん。」
冥の今日の裁判の相手、神乃木荘龍は部屋に入るなり、冥へ賛辞を送った。
神乃木は出所後、検事・ゴドーとしての自分にピリオドを打ち、神乃木荘龍として弁護士に戻った。そして、今は自分で法律事務所を構えている。
冥が相手の裁判は19回目だった。
「当然のことだわ。」
神乃木の方にちらりとも振り返らず、無愛想に答える冥のそばに歩み寄り、いつものように大きなカップのコーヒーを飲む。
「9勝10敗。お嬢ちゃんがオレより先に10勝するとはな。約束どおり、言うことを聞いてやるぜ。」
「別に聞いてほしいことなんてないわ。だいたい、そんな賭け、あなたが勝手に決めたことでしょう。」
神乃木は、何回も冥と関わっているうち、たまに見え隠れする彼女の本質に惹かれていった。まさか、自分が一回り以上も年下の彼女に惹かれるとは思っていなかったし、なにより、千尋の亡き後、再び惚れる女が現れると思っていなかった。
しかも、冥には御剣という恋人がいることも承知の上だ。
そして、彼女はまだ神乃木に心を開いていないのも事実だった。
(ちっ…やっかいな女に惚れちまったもんだぜ…)
神乃木の心の内を知るよしもない冥は、頬杖をついてコーヒーを口に運んだ。




「せっかくだから、飯でも奢るぜ?今からどうだ?」
強引なのはいつものことだ。めんどくさいから断ってしまおう、そう思っていても、何故か神乃木のペースにのせられてしまう。
「何か予定でもあるのか?」
「別にそういうわけじゃないけど…」
言ってしまった後、予定があると言えばよかったと後悔するが後の祭。
「じゃあ、決まりだぜ。」
半ば強引に強引に連れ出され、洒落たホテルのレストランに入った。
シャンパンで乾杯し、食事をする2人の姿はまるで恋人同士のようだ。
だが、他人から見えるほど、2人の仲は甘くなく、それどころか、神乃木のアプローチを冷ややかに返す冥は楽しんでいないかのように神乃木には思えた。
「オレと食事じゃつまんねぇか?」
「別にそんなこと言ってないわ。」
「そう見えるのはオレの勘違いか?」
「特別楽しくはないわね。」
女性の扱いに慣れている神乃木は冥から見ると軽く感じるのだった。
軽々しく扱われるのを苦手とし、口説かれることに慣れていない冥はどう対処していいかわからない。
本気で聞いていると流されそうになるかもしれない、そう思ってわざと冷たい態度をとった。

店を出ると神乃木は自分の家に向かって車を走らせた。
当然家に送ってもらえると思っていた冥は、途中で自分の家と関係ない方向に向かっていることに気づく。あわてて神乃木に抗議した。
「ちょっと、私の家に向かってないじゃない!」
「ああ、ちょっとオレんちに忘れ物しちまってな。」
「忘れ物、って私を送ったら帰るのでしょう?」
「お嬢ちゃんに渡すものを忘れたのさ。」
「は?」
神乃木の言っている意味がわからず、間の抜けた返事がこぼれた。
「コイツは特別なプレゼントだぜ。あんたが今度担当する事件の情報だからな。10先勝の本当の賞品だぜ。」
「次の事件って…成歩堂龍一が担当の…?」
「ああ。何故かゴクヒ情報がオレんところにあるぜ。どうだい?欲しくないか?まるほどうも知らない情報だぜ?」
その情報は、冥に神乃木の家へ向かわせるには十分だった。
「せっかくだからもらっておくわ。」
神乃木はそのまま自分の家へ車を走らせた。


それほど大きくないが、落ち着いた綺麗なマンションの1部屋に冥を招き入れる。
事務所と兼ねているというリビングには最低限の必需品以外は置いてなく、生活の匂いがしない。
冥をリビングのソファに座らせるとコーヒーをいれるくらいにしか使わないキッチンへ入った。
コーヒーを入れながらふと見ると、ある小ビンが視界に入る。
それは、この間弁護した吐麗美庵の店長、本土坊薫からお礼に、と押し付けられたものだった。
本土坊によると、それは体の中に眠る欲望を(ムリヤリ)引き出し、体も心も大胆になるアロマだそうだ。早い話が媚薬である。
別に使う気もなかったのだが、本土坊がしつこく押し付けるのでなんとなく持って帰った。
もし、コレを使ったら…冥の媚態が脳裏に浮かぶ。彼女はどんな顔で感じるのか、どんな声で鳴くのか…欲望は理性を容易く押さえ込む。
神乃木の手が小ビンに伸びる。そのまま、冥に出すカップに1滴2滴と落としてゆく。
(クッ…何をやっているんだ、オレは…)
現実を見据え、少々怯んだ。だが、一度点いた欲望の炎で、戸惑いは焼かれてゆく。
そのまま、本土坊特製アロマ入りコーヒーを冥に出した。
「資料を持ってくるからそれでも飲みながら待ってな。」
そのまま神乃木は書斎に姿を消していった。




「待たせたな…」
神乃木は資料をテーブルの上に置くと冥の横に腰を降ろす。
「何で向かいに座らないのよ。」
「この方が説明しやすいからな。」
怪訝な顔の冥を一言で黙らせると資料について補足を加えた。
時折、わざと冥の耳元に近づき、囁くようにしゃべると冥はビクッと体をこわばらせた。胸の奥からこみ上げてくる熱いものを感じ、体の力が抜ける。
神乃木に気づかれてはいけないと思い、必死に振り払おうとするが、そんな冥の思いとは裏腹に体の疼きは増す一方だった。
説明を終えた後、神乃木は冥の異変に気づき、そっと肩に手を回してみる。
「さわらないで!!」
体に触れられ、一気に体は熱を上げる。とっさに神乃木の手を振り払った。
(クッ…すげぇ、効いてやがるぜ…)
「なんか様子がヘンだぜ?」
白々しく両手で冥の肩を抱き、顔を覗き込むと冥は身じろぎを始めた。
「はっ、離さないとどうなるかわかってるんでしょうね!」
両肩を抑えられ、ムチを取り出せなくて焦っている冥に唇を重ねた。
「さぁね。どうなるんだ?」
もう一度冥の唇に触れると、今度はゆっくり舌を差し入れた。
「…んっ…」
いきなりのことにあっけとられる冥の舌を弄ぶように神乃木の舌が絡められてゆく、
(ちょっと…なんのつもり?)
口に出せない言葉を精一杯伝えようと必死で抵抗するががっしりした両腕に抱きしめられて身動きが取れない。
神乃木の舌が冥の舌を貪る度に、冥の体に電流のような感覚が突き抜け、体の熱はますます上昇してく。
いつしか反抗する力も抜けてゆき、神乃木のされるがままになっていった。


神乃木が冥の唇を開放すると同時に我に返り、慌てて立ち上がり体を突き放す。
「一体なんのつもり?こんな真似…許されると思っているの!?」
「その割には感じてるように見えたぜ。」
「だっ、誰がっ…」
ムチを掴んだ手を振り上げようとするが、神乃木に掴まれ力が抜ける。ムチはゴトリと床に落ちた。
「あいにくだが、そんな趣味はないぜ。」
神乃木の視線を体中に感じ、熱いものが頭からどんどん下に降りてゆく。
目は潤み、頬は上気している艶かしい表情で抵抗する冥の姿は神乃木の欲望をさらに駆り立ててゆく。
神乃木は冥を抱き寄せると、唇を耳元に這わせ、弄るように耳の裏から首筋にかけて舐め回した。
再び冥の理性は官能の渦へ飲み込まれていった。
冥が抵抗しなくなるのを見計らうと、腰に回していた右手で乳房に触れ、ゆっくりと撫で回す。
「あっ!」
触れられただけで、快感の声が漏れる。冥の吐息を耳元に感じながら、乳房を揉みしだく。膨らみ始めた自分の股間に押し付けるように左手は冥の腰を引き寄せた。
神乃木の膨らみを感じると、体に痺れを感じ、無意識に足を神乃木の足に絡み付ける。
逃げたいはずなのに、体はそんな思いを無視するかのように動いてしまう。
唇は神乃木の耳元を這いまわり、腕は首に回ししっかりと抱きついていた。
(クッ…この乱れ様、アロマが効いてなきゃ絶対にしねえだろうな…)
左手を腰から下へ落とし、自分の足に絡み付いてくる太ももを臀部にかけて撫で回す。そうしながら、自分の昂ぶりを冥の秘所へ擦り付けると、冥も足を上下させ、腰を摺り寄せてきた。それを感じ冥を突き上げるように、どんどん硬く大きくなるのが分かる。
「クッ…いいぜ、冥…イイ表情だ…」
「あっ、あなたに呼び捨てにされる筋合いは…んっ…」
かろうじて憎まれ口を叩く冥の口を塞ぎ舌を差し入れると今度は冥も積極的に舌を絡めてくる。その感触を楽しむように舌を吸い、唾液を注ぎ込む。
「こんなコトしてるんだから呼び捨てぐらいいいんじゃないか?オレのことも名前で呼んでいいぜ。」
「はぁっ…あっ…」
抵抗する気力を快楽が包み込んだ。
「あっちへ行こうぜ。」
神乃木に抱えられ、寝室へと進んでいった。


シュル…
リボンを解き、胸元をはだけると、下着に包まれた肌が露わになる。その美しさに神乃木は思わず息を呑んだ。
下着を持ち上げるとツンと尖った先端が顔を出す。神乃木が突起に舌を這わせると冥の体がびくっと跳ねる。そのまま先端を口に含み、チロチロと舌で転がしてゆく。
「あん…あぁ…」
冥の呼吸が荒くなり、シーツを握る手に力がこもる。
舌で胸を愛撫しながら、右手は下に降ろしてゆき、スカートの中へ潜り込ませると、手のひらを冥の秘所に当てて軽く擦る。
そのまま割れ目に沿って動かすと冥の腰がピクッと動いた。じんわり濡れているのが分かる。
「服がジャマだな。」
慣れた手つきでブラウスを剥ぎ取りスカートを抜き取りタイツを脱がせると、瞬くうちに冥は下着だけの姿にされてしまった。
「クッ…綺麗じゃねーか。」
一点の落ち度もない冥の体は神乃木の目を釘付けにした。
(狩魔の完璧主義…さすがだぜ…)
「わっ、私だけ脱がされるのは不公平じゃないかしら?」
冥に見とれている神乃木をもどかしく思い、なんでもいいから言葉を繋ごうと開いた口からはわけのわからない言葉を発してしまう。
「おっと、それもそうだ。失礼したな。」
あっという間に下着だけになると冥の上に覆い被さるようにまたがった。
「こんなときぐらいそんなマスクは外したらどう?」
「それはできねえな。コイツがなきゃ冥のカワイイ顔が見れなくなるからな。それに、コイツがあればこんな暗い部屋の中でも昼間みたいによく見えるのさ。」
「なっ…なんですってぇ!」
恥ずかしさに逃げ出したくなるが、上からしっかりと組み敷かれているので身動きが取れない。
神乃木はくすっと一笑に付し、体を逆転させると冥の両足を押し広げ、ショーツの上から秘部を指でなぞるとそこは既に冥の蜜がぐっしょり染み出していた。
「あんっ…」
「もうこんなに濡れてるぜ?」
甘い女の匂いを感じながら、さらに秘所をまさぐり、突起を見つけると優しく捏ねた。
「あっ! あぁっ……あぁん」
冥の体に電流が走る。快感に身をくねらせるが、神乃木に固定された足は開かれたままピクピクと痙攣する。
「そんなに気持ちいいのか?」
突起を刺激するように指で摘み冥の腰がのけぞると、その隙にショーツを抜き取る。
顔を埋め、あふれ出る蜜を舐めとりながらクリトリスを刺激する。
「あっ、いや…もう…」
ギリギリのところでまだ感情を抑えている冥の膣に中指を埋め、掻き回す。舌はクリトリスを這いまわっている。
「あぁん…ダメッ…」
「遠慮することはない。思いっきり感じてみな。」
中指を折り曲げGスポットを刺激しながら、クリトリスを吸い上げると冥の理性は完全に欲望に飲み込まれた。
「あっ…あん…いい…もっと…」
自分の体がこんなにも感じるものだとは、冥には信じられなかった。
最初の相手は御剣で、お互いに体の関係はその相手しか知らず、しかし、そういうものだと思っていた。
自分から御剣の体を求めることはなかったし、最中も常に冷静だったように思う。
その自分が今は好きでもない、それどころか敵視さえしているような男に弄られ、乱され、今まで口にしたことのないような嬌声を発している。
頭の中は真っ白になり、ただただ快感を求める。あるいは御剣が相手なら淫らな女と思われるのが嫌でこんなに大胆にはなれないだろう。
だが、この男の前では不思議と欲望のままに感じてしまう。そうすることによってさらなる快感を与えてくれる、そんな気がした。
自分の昂ぶりに火をつけているのがアロマだということを知らずに。
「もっと…あっ…激しく…」
冥の乱れた姿と言葉は神乃木の欲望を高めてゆく。冥の中を2本の指でぐちゅぐちゅと掻き回しながら、空いた左手で冥の手を掴み、自分の股間へと誘導する。そこは既にはちきれそうな程膨れ上がっていた。

「もっと気持ちよくして欲しいならオレのもよろしく頼むぜ。」
神乃木の膨らみをそっと掴み上下に擦ってみると、かすかにピクッと動く。神乃木はブリーフを脱ぎ捨てた。
目の前に露わになった神乃木の肉棒は日本人とは思えないぐらい太く長く反り返り、その先端はヌラヌラと湿っている。
その逞しい剛直を5本の指で掴み、擦りながら亀頭に口付け舐めまわしてみる。
「クッ…はぁ…気持ちいいぜ、冥…」
神乃木の指のスピードも増してゆく。冥は快感に身を任せながら、肉棒を口で咥えこみ亀頭に舌を這わせつつ指を上下に擦った。
「ああ…冥…いいぜ…」
神乃木がさらに快感を求めようと腰を振ると、冥は口をすぼめて神乃木の肉棒をピッタリと包み込んだ。
「冥…すげぇぜ…最高だ」
神乃木の腰のスピードがさらに増し、肉棒の熱が上がってゆくのが口を通して冥に伝わる。
「クッ…もう限界だ!!イクぜ…」
頭を押さえ込まれるのを合図に冥は神乃木の肉棒を吸い上げる。瞬間、剛直が引きつったかと思うと、口内に熱い液体が流れ込んでくる。
「はぁっ…はぁ…」
ドクン、ドクンと脈打つ鼓動にあわせ、神乃木の欲望が冥の口内を侵してゆく。
出し終わり、押さえていた冥の頭を解放する。冥は口内の液体を飲み込み、そのまま神乃木の肉棒に絡まった液体を舐めとってゆくと、再び神乃木の肉棒が膨らみ始めた。


「今度はオレが冥をイカせてやるぜ。」
冥の上に覆い被さり足の間に体を滑り込ませる。
胸に落とした舌をどんどん上昇させ、唇を捕らえるとお互いに舌を貪りあう。くちゅくちゅと静かなベッドルームに鳴り響く淫猥な音が二人の欲望を昂ぶらせてゆく。
神乃木の硬さを取り戻しつつあるペニスが冥の陰唇に触れると冥の秘所の熱が神乃木に伝わり、硬さを増す。
先端をあてがったまま腰を回すと冥の口から甘い吐息が漏れた。
「コレ、どうして欲しい?」
耳朶を甘噛みし、吐息を吹きかけながら耳元で囁く。
「そっ…そんなこと…」
「言わねぇとやめるぜ?」
自分の肉棒を掴み、冥の陰唇を擦るようになぞる。
「あっ…」
冥が吐息を漏らすと今度は蜜で濡れた先端でクリトリスを転がす。陰唇は肉棒を求めてヒクヒクと震える。神乃木の肉棒はもう挿入できる程硬くなっている。
「早く言えよ。欲求が溜まる一方だぜ?」
蜜が溢れてくる入り口をさらに激しく擦りながら、羞恥に顔を染める冥の表情を楽しむ。秘所の疼きが増し、どうにもならなくなり冥は口を開いた。
「…入れて…」
消え入りそうな小さな声を神乃木は満足そうに聞くと亀頭で冥の陰唇を掻き分け先端だけを埋めた。とたんに、冥の肉壁が絡みつく。
そのまま先端だけで出し入れしたり、くちゅくちゅと冥の中を掻き回す。
「ほら、入れたぜ。これでいいか?」
「…そ…そんなの…」
冥がアロマと快楽で我を忘れているのをいいことに、神乃木の意地悪は止まらない。
「じゃあ、この先はどうすればいいんだ?言ってもらわないとどうすればいいかわかんねぇぜ。」
先程の射精で余裕があるから、じっくり冥を弄りたい、そう思いながら先端を冥の中で掻き回す。その度に漏らす冥の甘い喘ぎ声を楽しんだ。
「奥まで…入れて…」
快楽に支配され、どうにでもなれ、と言わんばかりに言葉を漏らした。
「クッ…それでいいぜ。」
神乃木が既に剛直化した肉棒で一気に冥を貫くと、冥の肉壁は待ちわびていたかのようにあらゆる方向から締め付ける。
「はぁ…あんっ…」
肉棒が根元まで埋まり、冥の最奥を突き上げると、電流が体中を駆け抜ける。
「クッ…冥…いいぜ…最高だ、お前の中は。」
神乃木も冥の中を楽しむように腰を回した。


抜けるぐらいに腰を引き、もう一度冥の中に埋め、それをゆっくりと繰り返す。
「どうだ?入ってるぜ、冥の中に。」
冥の欲情をそそるようにわざといやらしく耳元で囁く。
「あん、いい…気持ちいい…」
「冥も感じてるんだろ?すげえ締め付けてくるぜ。」
神乃木が口攻めを続けると冥もどんどん大胆になる。
「こんなの…初めて…おかしくなりそう…」
「遠慮するな。好きに乱れてみろ。どうだ?オレのモノは?」
「大きくて…熱い…」
「熱いのはお前の中がいいから、だぜ?」
徐々に腰を打つスピードを速める。腰を打ちつける度に揺れる形のいい乳房をそっと掴み、先端を指で挟む。
「あぁぁぁっ…いい…すごい…」
「もっと乱れてみな!」
冥の膝裏を抱えあげ、突きおろすように腰を打ちつける。自分の下で自分に感じてこの上もなく乱れている冥の姿が神乃木の欲望を引き立てる。
「あんっ…はぁ…おかしくなりそう…」
自身を引き抜き今度は冥を抱き寄せるように引き寄せ、後ろから両足をの膝裏に腕を回すと冥の腰を自分の剛直めがけて降ろした。
剛直は冥の陰唇に飲み込まれてゆく。
「見てみな。」
神乃木に促されるまま正面を見るとベッドの横の鏡に二人の結合した姿が映っていた。
神乃木の手によって左右に大きく広げられた足の間には剛直が突き刺さっている。
その結合部からは冥の蜜が流れ落ち、冥の顔は上気して真っ赤になっている。自分の顔とは思えないほどその表情は艶やかだ。
「やっ…」
思わず目をそむけようとするが、神乃木に頭を固定させられる。神乃木が腰を突き上げる度に上下する自分の体が視界に入る。
それと同時に剛直が自分の中を激しく出入りする光景を目の当たりにすると、なぜか欲情してくる。
「ああん…いい…もっとぉ…」
自分でも信じられない声が上がる。神乃木の唇が頬を伺うとその唇に吸い付き、夢中で舌を絡める。神乃木も負けじと舌を絡め返す。
その間にも肉棒が冥の中を掻き回す。意識せずとも快楽に腰を打つスピードは速くなってゆくと、冥が肉棒を締め付けてくる。
「クッ…締め付けてくる…たまらねぇぜ。」
冥の上と下の口を激しく犯しながら乳房を両手で揉みしだいた。


そろそろ限界が近いと感じ、一旦腰の動きを止めると、繋がったまま自分と向かい合わせるように冥の向きを変え、足を自分の腰に掛けさせる。
「やっぱり、最後は間近でカワイイ顔が見たいからな。」
言うと冥の臀部を抱えるようにして自分の腰に打ちつける。
自らも快感を求めるべく腰を振り剛直で何度も冥を突き刺す。
快感に支配され、冥の表情は淫猥だ。いつも強がっている表情からは想像もつかない媚態に神乃木は息を呑む。
「カワイイぜ、冥。オレを感じてるか?」
「あんっ…すごい…気持ちいい…」
冥も自ら腰を打ちつけ神乃木の肉棒を味わう。神乃木が時々掻き回すように腰を回すと冥の腰の振りはさらに激しくなる。
「あああああぁ…もっと…もっと突いて!!もっと激しく!!あああっ…」
求められ、神乃木も興奮し、冥が壊れてしまうような勢いで最奥を突き上げる。
「クッ…冥…お前は最高だ…」
神乃木は冥を抱えて立ち上がり、冥の体を揺さぶりながら剛直を突き上げる。
「あああん…そう…もっと激しく突き上げて!!」
「すげぇぜ、冥。ぐちょぐちょだぜ。」
「あなたのも…すごく熱くて大きい…」
「クッ…お前の中が最高だからさ。」
部屋には腰を打ち合うパンパンという音と性器が擦れ合って上げる液体のぐちゅぐちゅという音が二人の欲望に拍車をかける。
獣のように冥の腰に激しく腰を打ち付ける。限界に迫り、腰を打つスピードは早くなり、冥を揺さぶる軌道は大きくなる。
「あああんっ…イ…イキそう…」
冥の言葉を聞き、抱えていた冥をベッドに横たえ、剛直で大きく何度も貫いた。
「あっ!あん…イク…ああああああっ!!」
冥の背中が弓なりに反り返り、ピクッと震えたかと思うと、今までにない締め付けが神乃木の肉棒を襲った。
「クッ…」
低いうめき声とともに神乃木の肉棒から精液が勢いよく飛び出した。
ドクン、ドクンと脈打つ肉棒で冥の中の名残を惜しむようにグチュグチュと掻き回し、冥を抱きしめキスをした。
「最高だったぜ。冥。お前が好きだった。」
(好き…?私のことが…!?)
神乃木に抱きしめられながら、意識を薄れるのを感じた。


目を覚ますと見知らぬ天井が視界に飛び込んでくる。横を見るとマスクを取った神乃木荘龍が眠っている。
はっとして自分のの体を探る。全裸だ。一瞬何があったのか理解できなかった。が、すぐに昨日の記憶が蘇る。自分の痴態を思い出し、震えた。
「ん…」
目を覚ました横の神乃木と目が合う。瞬間、唇を押し当てられる。
「なっ、なにするのよ!!」
神乃木を押し離し、睨みつけるが神乃木は当たり前だといわんばかりに平然と答えた。
「おはようのキス、だぜ。」
冥の頭に血が上り、頭上のムチに手が伸びる。その手を神乃木に掴まれた。
「朝から物騒なモノ振り回すんじゃねえぜ。」
神乃木と違って冥は擬似恋愛など楽しめるような性格ではない。が、昨日はどうしてあんなことになってしまったのか、どうしても思い出せない。
「昨日はあんなにすごかったのにな。素面に戻ればいつもどおりだな。」
「素面…?どういうこと?私は昨日お酒を飲んだ覚えはないわ。」
しまった、と天を仰ぎ前髪を掻き揚げる。
「説明しなさい!どういうことなの!?」
嘘をつくのは簡単だが、冥を抱いてしまった今、彼女に嘘をつくのはかわいそうな気がした。
「ちょっとアンタの心を開かせようと思ってこの間吐麗美庵の店長にもらったアロマを試してみたのさ。まさか、体を開いてくれるとは思ってもみなかったけどな。」
本当はその気だったが、さすがにそんなことは言えない。
「それってほとんどムリヤリじゃない!!」
「けど冥だって気持ちよかったんだろ?それならいいじゃねぇか。」
「ぐっ…」
言い返す言葉がなくなる。確かに、あんなに感じたのは初めてだし、絶頂を感じたのも初めてだった。心とは裏腹に体はスッキリしている。
神乃木とのセックスが気持ちよくなかったというと嘘になる。顔を真っ赤にし、俯いた。
「誰にもいわねぇから安心しな。」
「そっ、そういう問題じゃないでしょ!?」
「そうなのか?じゃあ、感じたくなったらいつでも抱いてやるぜ?」
「…もっと違うっ!!」
神乃木を睨みながら、昨日の最後に聞いた言葉がリフレインする。
 ―好きだ―
あれは本気で言ったのだろうか、いや、詭弁に違いない、という思いが頭の中を交錯した。




後日、本土坊薫が冥にムチのフルコースを食らったことは言うまでもない。
しかし、これをきっかけに神乃木と冥は接近してゆく。
神乃木は御剣から冥を奪うことができるのか。
そのうち、続く
最終更新:2006年12月12日 20:21