矢張×冥


来週にはアメリカへ帰国してしまう狩魔冥は、珍しく早い時間で仕事を切り上げようとしていた御剣怜侍を食事に誘った。
「そうだな…君さえよければ」
僅かに考え込む様子をしてから連れて行かれたのは、およそ御剣の趣味とは思えない「らーめん屋」だった。
あのレイジが…信じられないと目を丸くしていた冥はさらに信じがたい光景を目にすることになる。
「おっそ~い御剣検事!」
店の前で待っていたのは冥の宿敵、トンガリ頭の成歩堂龍一とその助手、綾里真宵だ。
「…どういうコトかしら?」
言葉は震え、鞭を持つ手に力が入る。この面子で楽しい夕餉など人をバカにするのもいい加減にしろと言いたげだ。
「こちらが先約だったのだ!…たまにはこういう所もイイものだぞ」
悪びれずに言う御剣が憎らしい。
「あ、あのちょっと…」
不穏な空気を察した成歩堂が二人の間に割ってはいる。
「狩魔検事も来てくれたんだ、嬉しいよ。えっと、じゃあせっかく4人揃ったんだし、この際らーめんより本格的な中華にしない?」
らーめんではさすがに冥に悪いと気を回した成歩堂に膨れっ面の真宵が口を挟む。
「え~、あたしらーめんのほうがいい!」
不満げな真宵に向かってさらに畳み掛けるように説得を続ける男性陣。
「真宵くん、中華料理には無論『みそらーめん』もあるぞ!担々麺というのだ」
「小皿でいくつも料理が頼めるし…」
それを聞いて真宵はニッコリと笑って承諾した。
「狩魔検事もそれならいいよね?」
(この男の笑顔には弱い。すげなく断る気にさせないというか…つまり私は彼に嫌われたくないのかしら!?)
冥が拒絶の意思を見せなかったので、一行はそこからほど近い「中国飯店」の暖簾をくぐった。

「狩魔検事、もう食べないの~?あ、なるほど君それも~らいっ」
出された料理を端からつまんでは口に入れていく真宵を冥は唖然として見ていた。
この細い身体のドコにそれだけ詰め込めるのだろうと、素朴な疑問がわく。
「真宵ちゃんの食べっぷり、相変わらずスゴイよね」
「ム、見ていて気持ちが良い」
紹興酒を飲みながら点心をつまんでいる冥は、屈託なく笑い成歩堂に甘える様子を見せる真宵を少しばかり羨ましく思った。
(私にはちょっとムリね…)

「でもさぁ。こういうのもなんかイイね…ダブルデートみたいでさ」
ひとごこちついた真宵が箸を置いて皆に向かって言った。
ブホッ!円卓の隣で御剣が真宵を見つめ赤くなって咳き込むのが冥の目に入る。
不肖の弟弟子はどうやらこの天然胃袋少女に淡い恋心を抱いているらしい。
しかし真宵は青スーツのほうを意味ありげにチラリチラリと見上げている。
そして冥は、自分の心に思いを馳せた。
ここにいる4人はみなそれぞれ違う組み合わせを心に描いているのではないか…成歩堂の表情を見ることを躊躇った冥がそんなことを思ったときだった。

バンッ、と勢いよく個室の扉が開き派手な化粧の女性が飛び出してきた。
「じゃ、アタシ来週からグアムで撮影なの。さ・よ・な・ら!」
「ま、まってくれよォ、エリコ~」
女性を追うように部屋から転げ出てきたのは、御剣と成歩堂の盟友(?)矢張政志だ。
思わず目を逸らす4人。できれば関わりたくない、との思いが完璧に全員の行動を揃わせた。
「オオォ!?てめえ、成歩堂!なにカワイイ娘2人も侍らしてんだっ!こっちはよぉ、たった1人にもフラれちまったってのによぅ」
半泣きで成歩堂にヘッドロックを食らわせる矢張。
「うわわわわわっ!や、ヤハリもこっちきて一緒に飲めよ!…だから離してくれぇ(泣)」
パッと笑顔にかわり、そりゃ悪いねと冥と真宵の間にちゃっかりと腰を下ろす。

「それでよぅ、尽くした挙句にポイッってわけよ…くぅ~オレってどうしていつもこうなんだろうなあ」
成歩堂は矢張の愚痴にうんうんと頷き、御剣は「婚約不履行で訴えるか?」などとよくわからない慰めの言葉をかける。
「フラれたのなら男らしく諦めて次にいけばいいじゃないの。いつまでもこだわるのは女々しいわ」
できれば鞭を一振りしたいところだとでもいうように、ピシャリとした口調で冥が言った。
しかしそれを聞いて矢張は目を輝かせながら冥の手をぎゅっと握ったのだ。
「そう?そう?ヤッパそう思う?オレにはメイちゃんしかいない!これでよぉ~くわかったよ!!」
「バ、バカがなにをバカげたコトを・・・手を離しなさいっ」
みるみる顔を赤らめて矢張を振り払おうとする。
何とも思っていないオトコが相手でもこうして反応してしまう自分の体質に冥はほとほと困ってしまった。
それにしてもこの男だけは何度鞭を振るわれても自分を恐れずにちょっかいを出してくる。
男を寄せ付けない性格、との自己分析が彼にだけは通じないようだ。
成歩堂が相手の裁判でいつも自分は勝てないが、それとは別の意味で(このオトコにもなんだか勝てる気がしない…)
矢張の手を振りほどくのを諦めた冥はそっぽを向いてそんな事を考えていた。

食事が終わって店を出た5人。食べすぎついでに飲みすぎた真宵を送っていくといって成歩堂がタクシーに乗り込んだ。
「メイ、君も乗っていくといい」
御剣が当然のように勧めたが、冥は即座に断りを入れる。
自分を棚に上げて言うことではないが、彼には男女の機微というものが分かっていないというのが冥の感想だった。
「結構よ、独りで帰れるわ」
タクシーが出た後であらためて御剣が言った。
「では私が送っていこう」
「独りで帰れるって言ったでしょ。第一、方角が反対じゃない」
「オ、オレ同じ方向だぜ!オレが送ってくから御剣は心配しないで帰れよ!」
矢張はもう一台止まったタクシーに御剣を詰め込むと強引に発車させた。


「さて、と。どうするこれから」
「帰るわよ、もちろん。…きゃっ何するのよ!」
背を向けてタクシーを探す冥を、後ろから矢張が抱き締めたのだ。
「メイちゃん…もう少し付き合ってよ」耳元で男の低い声がした。
酔っているのかと思いなんとか首だけ捻って後ろをみると、マジメな瞳にぶつかり冥は困惑した。
「今夜だけでイイからさ…オレ、今日は一人でいたくないんだ」
一人寂しい夜。その心情なら冥にも十分理解ができた。幼いころから温もりのないベッドで彼女はいつも寂しかったのだから。
成長した今でもなかなか人と心を通わせられないため、寂しさは常に彼女につきまとっていた。
そんな自分をこの男は変えてくれるだろうか…?いつになく気弱な心がその腕を振りほどくのを躊躇わせる。
「いいだろ?頼むよ…」
さらに冥を抱く腕に力を込め、耳に触れんばかりに唇を寄せて囁いた。
男の体温をすぐそばに感じ思わず身を震わせた冥は、男の手から逃れたくて気がつくと首を縦に振っていた。
「サンキュ」
そう言うと矢張は冥の後ろ髪をかきあげて、うなじにそっとキスをした。

連れて行かれたのはホテルの高層階にあるエグゼクティブフロアの一室。
スイートとはいかないが、かなり高級であることに違いはない。
恋人でもない男と一夜を過ごすならこれくらいのお膳立ては当然との思いと、彼の経済状況についての複雑な思いが交叉する。
それを読み取ってか、矢張がニヤリと笑い親指を突き立てて言った。
「オレ、イイ女には金を惜しまないのよ」

シャワーを浴びている最中も迷いが消えない。否、次第にその思いは強くなっていく。
しかし来週には日本を離れる、という事実が次第に冥の心を軽くした。
ベッドでビールを飲んでいた矢張はバスタオルを巻きつけただけの冥の姿を見て、軽く口笛を鳴らした。
のろのろと近づく冥の腕をもどかしげに引っ張りベッドへ押し倒す。
「あ、明かりを消して…」
男に組み伏せられ、恥ずかしそうに冥が呟いた。
「綺麗な身体なのにもったいねぇよ…あとでモデルになってもらおうかなァ」
楽しそうに言いながら、バスタオルに手をかけゆっくりと身体から引き剥がしてゆく。
「あっ…ダメ」
すべてを矢張の前に晒した冥が身体を折り曲げ、身を捩るようにして視線から遠ざかろうとする。
大理石のように滑らかな白い裸体を目にしただけで、下半身が痛いほど脈打つのがわかった。
しばらくその美しさに見蕩れてしまい手を出すことを忘れていた矢張が我に返る。
右腕で冥の両手を束ねると頭の上で固定する。胸元に口付けると、冥の鼓動が一層早くなった。
そのまま唇は冥の首筋を這いあがり、頬にキスをする。さらに左手で桜色の頂をやさしく転がした。
「ふぅぅ……ん!」
しっとりと汗ばみ艶やかさが増した肌の至るところに吸い付くように接吻を加えると、その痕が紅い花のように冥を彩る。
声を殺して、ぴくんぴくんと跳ね上がるように反応する冥に堪らなくなり矢張が耳元で囁いた。
「…キス、していいか?」
ここまでしておいてなんで今更そんなこと躊躇うのかしら、と冥はどこか冷静な心でそう思った。
「イヤなら、目閉じて好きな男のことでも考えてろよ」
「な…あっ………!」
胸先に強い刺激を感じ思わず声を漏らす冥の中に、矢張の舌が強引に割って入る。
こんな風に感じながら他の男を想うことなど冥にはできない相談だった。
互いの舌をむさぼる様に絡めあうと、頭の中でぴちゃぴちゃと官能的な水音が鳴り響く。

なだらかな身体のラインに沿って手を滑らせる。  
薄い茂みをやわやわと撫で上げ、掻き分けながら奥へと進んでいくとソコからはもう多量の蜜が零れ落ちていた。
「すげェよ、メイちゃん。もう…」
襞に指を這わせた矢張が上擦った声で言う。
「言わ、ないで…」両脚に力を入れる冥。
「もっと感じろよ。どんなに乱れたって、メイちゃんは綺麗だゼ」
クチュクチュと音を立てながら押し開くようにして敏感な箇所をなぶると、冥の喘ぎ声が一層高くなった。
舌は冥の堅く尖った乳首を捉え、ちゅうちゅうと吸い上げる。
下のほうも休むことなく慣れた手つきで中指を挿入し、リズミカルに動かす。
膣壁を擦りあげた時、冥の身体がビクンと大きく反応した。矢張りは一旦、指を引き抜くと今度は二本まとめて中へ差し入れた。
「はあぁぁぁッ!!」
差し入れた指を先ほど反応のあったあたりに合わせ、たんたんとピアノを叩くように交互に膣壁に打ち付けると、冥の身体はさらに熱っぽく妖艶なくねりを見せる。
きゅうっと締め付ける膣から惜しみなく抜いてしまうと、蜜が絡んでぬるぬるになった指で膨らみを増した小さな蕾をクリクリと愛撫してやる。
「ひぃ……ンッ!!」
ビリビリと身体中を電気のような快感が突き抜け、冥は四肢を痙攣させて絶頂を迎えてしまった。

何箇所もの性感帯をいいように弄られた冥は、その後も休むことなく矢張にイカされ続けた。
徹底的に女性に奉仕するのがこの男のスタイルらしい。
ヒゲを擦り付けるようにして秘所の中まで丹念に舌でねぶり、愛液で口中を満たす。

「―――…ッ!!」
矢張の動きが急に止まった。異変を察知して冥が快楽に痺れた身体を起こして矢張を見る。
「どうしたの…?」
「イヤ…そろそろ挿れようと思ったんだけど」
矢張のソレは、中途半端な硬さと大きさのままうなだれている。
「つまり、私って魅力的じゃないってコトかしら」
よく分からないままなんとなく傷ついた表情で冥が言うと、矢張が慌ててブルンブルンと首を振った。
「そうじゃねぇよ!…メイちゃんはオレの憧れだったからよォ、いざとなると、こういうコトもあるのよ…ハァ、オレ死んじまいたい」
ふぅんと首をかしげると、興味ありげに矢張に冥が近づく。
「してあげましょうか、その…私が」
矢張が答えるより先に両手で肉棒を支えるとゆっくりと唇を近づける。
「め、メイちゃん!?いや、オレあんまり女にそうゆうコトさせたことがないっていうか…」
「今度はアナタの番よ。いっぱい良くしてくれたから」
この男とならどこまでも淫らになれるというような、奇妙な解放感のようなものを冥は感じていた。
鈴口をチロチロと舐め上げながら、口を開け次第に深く受け入れていく。
いくらもたたぬうちに、冥の中でモノが張り詰めていくのがわかった。
「クッ……!メイちゃん、イイよすごく」

彼女の口から淫具を引き抜くと、四つん這いにさせて後ろから一気にズンと刺し貫いた。
「あぁあああ―――ッ!!」
しばらく奥に入れたまま、冥がピクピクと締め付けるのを愉しむ。
それから半分ほどズルリと引き出してから華奢な身体を抱きかかえると、また上方に向かってグッと突き上げた。
「はぁ……ンッ!ふ、かいの…いい」
冥の嬌声に矢張が堪らず、腰を打ち付ける速度を上げる。
「うおおおおおおおおッ!!」
ドクドクと吐き出された精液が冥の背中から尻にかけてをポタポタと伝い、汚していった。


「なぁ、もう少しシーツ下げてくんない?」
シーツを胸までぴったりとつけた冥に絵筆を握った矢張が注文をつける。
「嫌よ、ヌードモデルじゃないんだから。…ねぇ、私って検事に向いてるかしら?」
ふと冥は、女としての自分を見た矢張にそう尋ねて見たくなったのだ。
「メイちゃんはまだ検事以外の職に就いたことないんだろォ?だったらわかんねえよな。オレなんか20くらい職変えたけど、まだどこかに天職があるって信じてるしな!…まァあれだ。そんなシーツなんてあったって、オレはメイちゃんの『本質』を描いて見せるぜ~」
つまり、オールヌードを描くということか。描き終わったら即座に破いてやると冥は秘かに心に誓った。
鼻唄まじりで筆を走らせながら矢張が話し続ける。
「オレよぅ、今度映画のプロデューサー目指すつもりなんだ。いずれハリウッドへ行くから、そんときゃあまた逢おうぜ!」
「そうね、そのときはね」
ついつい、冥も苦笑しながら応じてしまう。
それから半時ばかり矢張は夢中で冥をスケッチしていて、冥はいつのまにか心地好い疲労感から眠りについた。

翌朝、検事局。
冥のデスクには矢張からもらった封筒が置いてある。中身は例のスケッチだろうがまだ確かめていない。
なんとなく、捨てる気にもなれず放っておいてあるのだ。
そこへ御剣がやってきた。
「メイ、昨日はあれからすぐ帰ったのか?ヤハリのヤツに何かされたわけではあるまいな」
「バカなこといわないでよ!…ちょっと、絵を描いてもらっただけ」
嘘の中に本当を混ぜて答える冥。
「ほぅ、コレがそうなのか?」
封筒を取りあげる御剣を慌てて制する冥だが間に合わない。
(見られる…アレを!)
御剣の反応が怖くて顔を上げられない冥に、思いもよらぬ言葉がかかる。
「良く描けているではないか。メイの凛々しさが良くでている」
(凛々しい??)
顔を上げてスケッチを覗き込む。
そこには、法廷で鞭を構えて戦う少女の姿が描かれていた。
「それが私の『本質』なんですってよ」

こみ上げてくる笑いを抑えつつ、冥はスケッチを引き出しの一番奥へとしまいこんだ。
最終更新:2006年12月12日 20:27