御剣×冥


ある晩の事だ。
小さいノックの音に扉を開けると、枕を抱えた冥が俯いて立っていた。
「眠れないの」という。
冷える廊下に立たせたままにはしておけないので、とにかく部屋に入れ、ベッドに座らせた。
どうやら一人で寝るのが寂しくなって、人恋しさに御剣の部屋をノックしたらしい。
これまでも何度かこういう事はあった。
まだ子供の言う事だし、甘えたいときに甘えさせてやればいいと思うのだが、この家の人間は人に頼る事を良しとしないし、彼女も他人に弱さを見せるのを嫌った。
そんな冥が甘えてくれるのが嬉しくて、何度か優しくしてやったのだが、どうやら本当に甘えてもいい人と認識されたらしく、こうして添い寝をせがまれる事もたまにあったのだ。
とりあえずは彼女を寝かしつけなければなるまい。
いつものようにベッドに寝かし、一緒に横になると毛布をかぶせた。
前は毛布の上から身体を叩いてやったりもしたのだが、腕が重いと嫌がられてしまったので、今は腕枕だ。
御剣とてまだ成人していないのだが、年の離れた彼女にとっては充分大人に見えるらしく、広く厚い胸元に寄り添うのが好きなようだった。
擦り寄る冥の邪魔にならないようにと腕を上げようとしたとき、ふいに彼女に触れた。



「いたっ‥‥」
小さな悲鳴を上げた冥に少々驚いた御剣は、何事かと覗き込む。
「どうした?」
「‥‥痛いとこ、あたった‥‥」
肩をすぼめるようにして己を庇う冥の身体に、指を伸ばしてみる。
痛めた箇所を探ろうと指を滑らせると、ふにと柔らかい弾力が戻ってきた。
「‥‥ゃん」
どうやら発育途上の胸に触れてしまったようだ。
「っ、すまない‥‥。‥‥ここは痛くないのか」
「そこは、痛くない。‥‥もうちょっと真ん中の方」
真ん中というのが身体の中心を指すのか、胸の中心を言っているのかは分からなかったが、御剣は指先一本分ほどずらしつつ、探るように軽く押していった。
薄いコットンのネグリジェの下から、未熟な弾力がそれでも主張するように心地よい柔らかさを指先に伝えてくる。


うっかりその感触に意識が集中しそうになった時、何か固いところに触れた。
確かめるようにそのしこりを何度か突いてみると、冥がまた声を上げて痛がった。
どうやら、強く押したり力を入れる加減を間違えると痛むらしい。
「ここは?」
言葉にして訊くと、冥が恥ずかしそうに目を伏せた。
「‥‥ベスが、胸、大きくなるときに出来るんだって、言ってた‥‥」
それは知らなかった。さすがに成長期の女の子の身体の変化についてなど、御剣には知識がない。
「そうか‥‥」
とは言ったものの、次のリアクションが思いつかない。
痛みの元は分かったのだから、手を離せばよいのだろうけど、今まで触れた事のない感触が惜しくていまいち行動に移せず、指は今も所在なげに冥の柔らかさを感じている。
何より冥が拒絶しないのが、きっかけを失わせていた。
突発的な出来事に対処できないという弱さを持つ彼女の事だ。どうしていいかわからないのだろう。

お互い口を閉ざしたまま、御剣の手は冥の胸を探るようにゆっくりと感触を味わう。
指先で突いてみたり、柔らかい肉を摘んでみたり、手のひらで撫でるように形の変わるのを楽しんだり。
次第に御剣はその行為に没頭し始め、冥が密かに息を荒げだしたのに、しばらく気がつかなかった。
すでにネグリジェの布地の上からでもはっきり分かるほど先端が敏感になっているのは分かっていたし、冥から抵抗する意志はまったく見られなかった。
混沈した意識の中で、ただされるがままになっている冥の耳元で御剣はささやく。
「‥‥肌に、触ってもいいか?」
冥はただ荒い息を繰り返すだけで、イエスかノーかも分からなかったが、お構いなしに御剣はネグリジェの前ボタンをはずしていく。
襟から胸元を露わにするように布地を除けていくと、まだブラジャーには早い冥は他に下着を着けておらず、白い素肌にふっくらと実りだした柔らかい乳房に、薄いピンクに彩られた小さな乳首がピンと御剣に主張するように愛らしく花を添えていた。
地肌のすべすべと吸い付くような滑らかな感触に加え、直に伝わる柔らかさとこりこりとした固さのコントラストに、御剣は一層夢中になってゆく。

最初に触れたときに、痛みを伴う箇所は大体理解したので、そこを刺激しないようにゆっくりとあくまで優しく、ふわふわとした未成熟な胸の柔らかさを楽しむ。
冥はすっかり頬を紅潮させて息を荒げるだけで、されるがままになっていた。
御剣はしばらく思うままに行為を楽しんでいたが、しばらくするとゆっくり手を離し、寝間着を元のように合わせるとまた毛布をかけ直してやる。
彼女は少しぼぅとした意識の中で息を荒げていたが、優しく額にキスなどしてやっていると落ち着いたのか、しばらくして冥はそのまま眠りについてしまった。
彼女が寝付いたのを確認すると、御剣はそっとベッドを抜け出した。
そのまま床に腰を下ろすと、耐えきれないかのように身をかがめる。
あのまま冥の感触を楽しみたいところではあったが、なにせ自分の方が限界だった。
さすがにまだ幼い彼女に、男性自身をどうこうしたりするのは抵抗があったため、ギリギリまで我慢した。
触らなくても己自身がどうなってるか分かるくらい、欲望が膨れあがってるのが感じられる。
隣に眠っている冥に気取られないよう、愛しい少女に想いを馳せつつ、御剣は己を解放した。


そんな事があってからも、たびたび冥は御剣の部屋を訪れた。
あの行為の真意を悟って嫌われてしまうだろうと覚悟していた御剣は、拍子抜けしてしまった。
むしろ逆にその回数は増えていて、その度に冥は自分の肌に触れる事を許してくれている。
ただ変わらないのは、「眠れないの」と枕を抱えてやってくることだけ。
寂しい夜に、慕っている人間に肌に触れてもらうというのが、冥にとっては大変気持ちの良いものらしい。
例えそれが、御剣にとっては性的な目的であったとしても、それを理解して許しているようだった。
そこまで人の温もりに飢えているのかと哀れにも思ったが、擦り寄ってくる少女が愛しくて、必要以上に御剣は彼女を求めるようになってゆく。
お互い求めているとなれば、行為は段々エスカレートする。
触るだけでは飽きたらず、唇や舌で味わう事もするし、我慢できず彼女に触れながら欲望を吐き出す事も、いつしか許容してしまった。

デリケートな胸だけでなく、ふっくらと愛らしい唇も、まだ肉付きの浅い脚も貪った。
まだ生え揃っていない薄い茂みを掻き分けて、成熟していない秘所を見ながら達した事もあった。
こんな幼くても、感じればそれなりに濡れるんだと知ったときには、それは興奮したものだ。
ただ、冥からは決して手を出させなかった。
彼女は清廉なままでいて欲しかった。汚れているのは、汚い欲望の固まりである自分だけでいい。
もちろん冥自身は御剣が望むならと、行為に参加する事を厭わなかった。その度に御剣は固辞していたのだ。
くだらない倫理観だと思う。彼女に手を出させない事で、薄汚れた背徳感や罪悪感を軽くしたかったのかもしれない。そんなもの、軽くも無くなりもしないのに。
それともう一つ、御剣はその一線だけは越えないようにしていた。




いつものように生まれたままの姿で御剣に見られながら、冥が尋ねた。
「ねぇ、こういう事ってセックスではないのよね?」
「‥‥どうした、急に」
冥の足下に屈み込み、内股を舐め上げていた御剣が脚の間から冥を見た。
「本で読んだの。こういう行為は性交渉‥‥セックスにはならないのよね?」
確かに、性交渉の主目的である精液を女性の胎内に入れるという点では、御剣は男性器を冥に触れさせた事すら一度もないし、冥も処女のままであるから、該当しないだろう。
そうなると、自分たちは一体何をしているのだろうか。
「レイジは、セックスはしないの?」
「‥‥‥‥」
「私とは‥‥しないの?」
窺うような冥の態度に、御剣は彼女を不安にさせていた事を悟った。

きっと彼女は、何度も肌を触れ合わせているにも関わらず、肝心の男女の性の要である行為に行き着かないのに、不安になったのだろう。
自分はどういう意図で御剣に必要とされているのか。
御剣は、冥が幼いなりに男性として自分を求めているのだと、やっと理解した。
今の今まで、冥は性的な目的で自分の側にいるのではないと思っていたのだ。
想像だが、寂しさを埋めてもらっているうちに、愛情が深まっていってもおかしくはないだろう。
なかなか返答をしない御剣に、段々と不安が表情に出てくる冥が愛しくて、ぎゅっと抱き寄せると愛を込めて口づけをおくる。
「メイの身体はまだ、受け入れる準備が出来ていない」
嘘はない。彼女の身体で、今では見てないところなどない。
まだ初潮も迎えていない冥の身体では、無理をして愛を交わしても避けられない傷が大きくなるだけだ。
「‥‥まだ?」
「そうだ。君を、傷つけたくない」
とても今更な台詞には違いないのだが、それを今言っても仕方がない。

今は、冥の不安を取り除いてやることが先決だ。
「今はまだ、一線を越える事は出来ない。無理をするのは容易いが、それでどれだけ君が傷つくか、私にも分からない」
言葉の合間に、冥の頬や額に小さいキスを何度もおくる。
冥は縋りつくように御剣に抱きついてくる。なんて、愛しい少女だろうか。
「今はダメだが、大人になったら‥‥」
「オトナ‥‥?」
「そうだ。君がオトナになって、それでもまだ、私を頼ってくれるというならば‥‥」
冥の目を見る。不思議そうにはしているが、その目に不安はない。
「今、交わせない愛を、君に」
「‥‥やくそく?」
「約束だ」

それ以来、冥と肌を合わせていない。



あれからどれくらい経ったのだろう。
幼かった少女は時を経て、今、御剣の腕の中にいる。
これまでに色々あったが、それでも約束通り、「オトナ」として初めて一緒にベッドに入った。
愛らしさは昔のままなのに、濡れた姿は予想以上に艶っぽくて、御剣は狂おしいほどの愛しさと興奮を覚えた。
変わらない髪の柔らかさを堪能しつつ、過去に想いを馳せる。
「たいしたものだ」
「‥‥何が?」
いつから起きていたのだろう。
御剣の胸元に寄り添ってうとうとしていたはずの冥が、まだ夢見心地の瞳でこちらを見上げていた。
「昔を思い出していた」
「約束の事?」
冥は今夜、やはり昔のように枕を抱きしめて御剣のベッドを訪れていた。
ただ、「やくそく、したわよね‥‥」と、台詞は違ったけれども。
この時のこみ上げる愛しさを、御剣はきっと忘れる事は出来ないだろう。


「それもそうだが‥‥。あの時、よく最後を我慢出来てたものだと、我ながら思ってな」
「‥‥当然だわ」
少し考えた後、くくっ、と小さく笑いながら冥は応えた。
「あの頃最後までやってたら、さすがに変態よ、貴方」
「それは違うぞ、冥」
あまりな冥の言い種に、御剣はちょっと顔をしかめた。
「私は別に、少女だった君を好きだった訳ではない」
髪を梳いていた指を頬に滑らせて、しっかりと目を合わせる。
「昔も今も、ただ君を愛していただけだ」
冥は合わせた目をとろんと潤ませると、また御剣の胸に顔をすり寄せた。
「‥‥“今”、まで?」
顎を引き寄せ、一度伏せた顔をまた近づけ合う。
「もちろんこれからも‥‥。ずっとだ、冥‥‥」

紡ぐ言葉ごとゆっくりと唇を重ね合う。
御剣の胸に全てをゆだねてきた冥の身体をゆっくりベッドに沈ませると、口づけを重ねたまま己の身体をかぶせてゆく。
仮にも初めての冥に、再度求めるのはさすがに酷かと思ったが、まず自分は抑えきれないなと御剣は心の中で小さく彼女に詫びた。
とりあえず、冥に拒絶する意志はなさそうだし、今晩2回目の約束を果たす事にする。
これからもずっと、この約束は有効だろうなと思いつつ。

おわり**

最終更新:2007年11月10日 09:31