浴衣の着付けエトセトラ



「……」
「……」
微妙な面持ちで成歩堂と御剣は、成歩堂法律事務所受付前のソファーに腰掛けていた。
それというのも本日近所の神社で行われるお祭に行く為に、この部屋の隣の所長室で
女性メンバーの浴衣着付けが行われていて、そちらの会話がかすかにだが聞こえてくる。
否が応にも男の性。自然と耳を澄ましてしまう。

「あぁっ!冥さん違う違う!ここはこうやって…」
「えっ…ちょっと分からないわよ」
「えっと…こうして…」
「きゃっ!!どこ触って…」
「……うぅ、何だか悲しくなってきた」
「まっ真宵さま!どうされたのですか!?」
「だって同い年でこの差だよー?見てはみちゃん!Cカップはあると見たね!!」
「『しーかっぷ』ですか…?かるま検事さんすごいです!(何やら理解していない)」
「ちょっ…!!やだ、やめなさいったら!…ぁんっ」
「いいなぁ…」
「もう!いつまで揉んでいるつもり!?……まったく…あなただって可能性はあるわよ」
「ホント!?どうすればいいの?」
「………誰かに揉んでもらう…とか」
「えぇええぇっ!!ホントっ!?それでおっきくなる!?」
「…可能性はね……何よ、その目は」
「て事は、冥さんは誰かに揉んでもらったのかなぁ…?ふっふっふ」
「……!!!」
「そのレースいっぱいな下着も誰かさんの趣味?」
「わぁ!かるま検事さんの下着、とっても可愛いですね!!」
「う、あ…だ…誰かって誰よ」
「いつもそこの椅子に座ってる………」
「あー!あー!!言わなくてよろしいっ!!」
「へぇー…」
「あぁっ!もう!ニヤニヤするな!!」



「……」
「……な、何だよ御剣」
チラリと視線を向けられて思わず焦る成歩堂。
「いや、敢えて言うまい」
「……」
成歩堂は自分の趣味と傾向(行い)を第三者に暴露された事にただただ頭を抱えるしかなかった。



「…んしょ、冥さん苦しくない?帯ゆるいとすぐ解けちゃうから少しキツ目に締めないと」
「ぅ…ん……大丈夫…っ」
「わわ!そこまでガマンしなくていいよっ!!………わ、冥さん何だか色っぽい」
「…は…何言って……」
「………冥さん…もしかして縛られ…」
「ばっ…!ちっ!!違うわよ!!コレが苦しいだけなんだから…!」
「あはー、ゴメンゴメン。…どう?これで大丈夫?」
「…えぇ」
「………ホントにされたコトない?」
「しつこいっ!」


「……」
「………」
顔を向けずとも視線が痛い。
(いっそ何か言ってくれぇ…)
「…フッ」
御剣の失笑が成歩堂の心に突き刺さる。
(ああああああ……)
更にガックリと項垂れる成歩堂だった。

カチャリ。
ふいに扉が開けられた。
「お待たせー」
浴衣に身を包んだ真宵が先陣を切ってやってくる。
「ほう…」
その姿を見て、御剣が感嘆の声をあげる。
「お待たせいたしました!」
「…待たせたわね。……?どうしたのよ、そっちは」
「あぁ、まあ…少し苛めすぎてしまったようだ」
「?」
訝しげな表情で疑問符を浮かべる冥を目の前にして、御剣は肘で成歩堂に合図を送った。
「…ん?あぁ、着替え終わったんだ……うわ…」
先ほどまでの落ち込みようとは打って変わって、成歩堂は照れくさそうな表情を見せる。
「やっぱり女の子の浴衣姿はいいね。皆可愛いよ」
「あぁ、そうだな」
御剣も相槌を打つ。

「じゃあ、準備も出来たようだし出かけようか」
全員で事務所を後にする。
「…ねぇ、レイジに苛められたってどういう事よ」
「え、あぁ…いや、何でも…ははは」
神社に着くまでの間、成歩堂は冥からの質問を冷や汗混じりの笑顔でかわす事しか出来なかった。


■終■
最終更新:2006年12月12日 21:40