パイプオルガンの調べ




早く、検事局に行きたい。
早く、あの上司から離れたい。
ずっとそう思っていた。

同じオフィスの、真向かいに机を構えている男。
なんであの男が居るだけで部屋の温度が3度も上がるのよ…。


「やあ、トモエちゃん。相変わらず泳いでる?」
手をポンポンと鳴らしながら、オフィスに入ってきた。
その笑顔は、相変わらず“暑い”。
「ええ、まあ」
渋々返事をする。何よ。毎日嫌でも顔を合わせる癖に。

巌徒主席捜査官はお気に入りのパイプオルガンの前に立った。
「どう?トモエちゃん。一曲弾いてみない?」
「え…私がですか?」
ピアノは中学までしか習っていなかったから、ある程度譜面は読めても、未だ週に何時間も弾く巌徒よりは上手くはなかった。
それ以上に、ピアノではなくパイプオルガン。滅多にあるものではない。
初めてこの部屋に来たときから多少の憧れは抱いていたものの、巌徒が弾くまでは飾り物だとばっかり思っていた。
「……いいんですか、これ、巌主席徒捜査官の…」
「はっはっは、このボクが言ってるんだよ?」

パイプオルガンの前に立った。
(そういえば、茜が弾きたいって言ってたっけ…)
「あの、私…あまり弾けないのですが」
「何でもいいよ、君の得意な曲で」
試しに、“ド”の音の鍵盤に右手親指を置いた。
「ピアノとはまた違うだろう?」
とても重い鍵盤。
親指に力を入れ、やっと鍵盤を叩く。

ジャーーーーーーーーーーン!!

「きゃっ!」
急いで鍵盤を離した。
「今更びっくりすることはないだろう。ほら、弾いてごらん」


私は椅子にも座らず、小学校の時に習った「月の光」を弾き始めた。
「ドビュッシーか。いいね」
自分の背後に、巌徒が立つ。男の体温が近く感じられた。
弾いている私の両腕の下から、巌徒の手が入ってきた。
真っ黒なツヤのある皮手袋に包まれた指は、とてもしっかりと太い。
その指が私のジャケットのボタンに手を伸ばしてきた。
プツッ、とボタンを外す音がする。
「……巌徒主席捜査官。」
むすっとした顔で巌徒の顔を見た。
……このはれんちオヤジ…。
ここに来るまでは、とてもアコガレていたのに。

「君は逆らえないはずだよ?絶対にね。」
「!」
そう、巌徒は知ってる…SL9号事件の本当の犯人を。
私がそれを隠すためにしたことも。
「……いいかい、演奏を止めちゃいけないよ?下にも聞こえてるんだからねえ?」
しらじらしい笑顔で私の顔を覗き込んだ。
じっとりと嫌な汗が頬を伝う。
「おや、暑いようだね」
(アンタの存在が暑いのよ)と思いながら、鍵盤を叩く。
「そのからだをもっと熱くしてあげよう」
皮手袋の指先をくわえ、するりと外した。
スカートをたくし上げ、もう片方の手を忍ばせてくる。
「ほら、もっと腰を突き出しなさい、ちゃんと支えててあげるから」
手が太ももの辺りに辿りつくと、親指の爪を立てビッ、とストッキングを破った。
「荒々しい事は好きじゃないんだけどね、今日はこの後約束があるんだ、チョーさんと」
ストッキングに開けた穴から、手が入ってくる。さらに、下着の中に侵入してきた。
「まだ濡れてはいないようだね?」
すぐ、中指を立てて動かし始めた。
太い指は嫌いではないのだが、相手が巌徒捜査官。濡れるものも濡れない。
「大丈夫。すぐびっしょりになるから」
中指の腹を膣壁に擦りつける。
「っ……!!」
ジャケットのボタンを外していたほうの手が、胸に直に滑り込んできた。
乳首を、強く摘む。
「大きすぎないのがいいね、このくらいでちょうどいいよ」
「……」
「ボクはね、トモエちゃんをこうやって抱くために君に尽くしてきたんだよ。まさか、君から寄ってくるとは好都合だった。」
「違う……!!私は検事に…」
自分の秘部を弄っていた巌徒の指が、“芽”の部分に当たった。
「きゃ……ッ」
「からだがずいぶん反応してきたようだね。じゃあ、ごホウビあげようか」
胸を触る手を止め、私の下着を下ろした。


自分の懐からゴムを取り出す。
「ボクは証拠を残すのが嫌いなのでね。だから、ナマでするのはやめておいてあげるよ」
口を使って器用に片手で開け、それを銜えたままスラックスのジッパーを下ろす。
さらに片手で器用に装着しているのか、ごそごそと背後で音を立てていた。
「処女のきつい締まり具合も好きだけどね、ボクはトモエちゃんのちょっと使い込まれたくらいのほうが好きだなァ」
準備もなしに、巌徒の太い肉棒が入ってくる。
「あああッ!!」
「どうだい?ボクの使い込まれたものもなかなかいいでしょ?」
ギッ、ギッと中でゴム1枚を隔てて熱いものがうごめく。
からだ全体にそのリズムが響いてくる。
「はあぁ、……がんとしゅせ…ッ……もっと、ゆっくり…」
自分が弾いている曲のテンポと、巌徒の刻むリズムがどうしても合わず、鍵盤を叩く指がもつれそうになる。
「いいんだよ?ここはボクとトモエちゃんの二人しかいないんだから大声を出しても。」
「はあん、んん…」
「いいねぇ。君が女に戻る瞬間を、ボクしか見れないのかと思うと」

「スローな曲だと、ちょっとテンポが取りにくいね」
パンパンパン…
だんだん、小刻みにからだを打ちつけてくる。
「はあ、あうッ…いや、もう……」
「ダメダメ。ダメだよ、ともえちゃん。先になんてイカせないからね。」
「あッ、あ…」
「待て、と言ってるんだよ。あれ。聞こえなかった? 」
瞬時に顔つきが変わった。

再び胸を弄んでいた指先が、私の口の中に入ってきた。
「……ホラ。アレを咥えるように、いやらしくしゃぶってごらん?」
「う…んぐ……」
ちゅぶッ、ちゅうッ…
革の手袋の味がする。これなら素の指のほうがまだよかった。
「いや。まいっちゃうな、もう。トモエちゃんはこんなにイヤラシイんだー。」
嫌がらせとも取れるくらい、からだを激しく打ち付けてくる。
ちょうど先に果てたらしく、最後に、強く長く押し付けてきた。
「んんーーーッ!!」
自分の中にも快楽が走る。
ジャーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
手を止めてしまったパイプオルガンが、全体重を乗せて奏でた。
この音はきっと局中に響き渡ってしまっている。
もとより、巌徒の弾くそれとは明らかに違うから、もしかしたら勘のいい市ノ谷響華辺りには気付かれてしまうかもしれない。
「トモエちゃんのからだはやっぱりいいね。……また、たのむね。」
ズルリと引き抜かれた肉棒は、自分の愛液でてらてらと光っている。
「こんなにイヤラシイからだだったなんて…マイっちゃうな。」
片方の手にべったりとついた私の愛液を、蜂蜜のように舐めとっている。
「今日はちょっと“とろみ”が強い。こんなプレイは初めてだからキンチョーしちゃったのね。」
あんなに抵抗したはずなのに、たっぷりと自分の愛液にまみれてしまった様子を見て、ちょっと自分のからだが信じられなくなった。


「じゃあ、トモエちゃん。お疲れ様。」
まるで何もなかったかのような顔をして、オフィスから出て行った。
セックス後特有の虚脱感に苛まれ、 床にへたりと座り込んだ。


巌徒がエレベータに乗ったあと、再びエレベータが到着する音がした。
(誰か、来る―――!)
しかし、からだが動かない。

「失礼するよ。資料、届けに来た、ぜ…?」
入ってきたのは…罪門恭介だった。
一瞬空気が凍る。
無理も無い。私は 自分の愛液でぐちゃぐちゃになっていた。
ストッキングは穴だらけになり、スカートもめくれ上がっている。上半身も、乳房があらわになった姿。
彼には一番見られたくなかった。

彼は私の前にしゃがみ、顔を見た。
「アンタ、もしかしてまた…!」
こくん、とだけ頷いた。
「恭介……」
今まで我慢していたせいか、安堵感でいっぱいになり涙がこぼれて来た。
「……こりゃあヒドイ。あのお偉いさんも乱暴なことしてくれるぜ。……顔を挙げな。」
「んん…」
恭介のキスはとても優しい。脳天までとろけそうになる。


罪門恭介とこんな深い関係になったのは、ごく最近のことだった。
それより以前からも、仕事・プライベートに関わらず彼にはよく気遣ってくれた。
ただ、私がそれを愛情だと気付いたのが、ごく最近なだけなのだった。
彼にだけはこのこと…つまり、厳徒に無理矢理抱かれているのを言っていたので、
今さら動じることはなかった。

本当の理由は言えないのだけれど。


彼が、髪の毛を梳くように、頭を撫でる。
「お願いです…恭介。」
「わかってるぜ、オレに気持ちよくしてもらいたいんだろう?」
こくん…
「あ、今日はダメだな。ザンネンだが‥‥スキンをきらしてる」
「いえ…無くていいです…」
「……そうなのかい」
恭介は私の愛液がべっとりとついた秘部に顔をうずめた。
「そんなところ…舐めないで」
「あんな男とのセックスなんて忘れさせてやるさ。大丈夫、アンタは穢れてなんかないぜ」
優しい舌遣いで、秘部の中をかき回す。
「ほお‥‥アンタのからだは正直なんだな。」


恭介が、ベルトのバックル部を緩める。さらにズボンを緩め、自分の肉棒を出した。
既に硬く上を向いている。
こんなにボロボロにされた自分を見ても、そんな感情を抱いてくれたのだろうか。
「さあ、おいで。君の好きな体位でしてあげるよ。」
ゆっくりと恭介の膝の上に乗った。
「自分で入れてごらん。一番よく感じるところに。」
生暖かい、彼の肉棒を両手で掴んだ。
先端に、先走りなのか朝露が溜まっている。
「きょうすけぇぇ…」
改めて感じる彼の肌の暖かさに、今まで我慢していた感情がボロを出す。
「頑張って検事サマになるんだろう?」
腰にそっと当ててくれる手さえ嬉しく感じる。
「ん…」
私は、ゆっくり自分の体の中に恭介のからだの一部を埋めた。
腰を落とすと、更に自分の奥深くへと入っていく。
「はああ……」
吐く息が震える。
「ああ…すごい奥に当たってるね。ココで行き止まり、みたいだぜ。」
「この体位が一番深く入るから好きなの…」
「そのまま動いてみようか。」
「んッ、んッ…」
腰を上下に揺らしてみるが、いまひとつ巧くない。
恭介はポンチョを外し、床に引いた。
床に直接横にさせない、彼なりの心遣い。
「……恭介も脱いで」
首に巻いたバンダナとワイシャツのボタンを上から外していく。
肩まで脱がすと、彼の首筋にかぷっと噛み付いた。
「おやおや、まだ“真っ最中”なのに…困ったベイビイだぜ」
恭介は頭を撫でて、自分を引き剥がそうとはしない。そのまま自分で服を脱ぎ始めた。
甘えると噛み癖があるのを知っているのは恭介一人だけ。
茜に甘えたことはないから、この癖の事は知らない。
恭介の首筋には、既に噛み痕(あと)が複数ついており、自分が何度も甘えたあとが見て取れた。
「……痛くない?」
「そりゃあ、痛いさ。でもベイビイの心の痛みよりは痛くないよ」
「優しいのね」
「テキサスの男は、使命感と女にはめっぽうヨワいのさ。」
くすっ、とだけ笑った。彼のテキサス啖呵は相変わらずだ。


「もうそろそろ、いいかい。」
しびれをきらしたのか、床に押し倒された。
「やっぱりオレがやらないとダメなようだね。」
軽くキスをする。軽く乾いた唇が、湿りを戻した。
「いいかい?イきたくなったらちゃんといってくれよ。」
「でも、恭介が」
「アンタが気持ちいいのが一番さ。‥‥中に出してもいいのかな?」
あまりにもストレートな質問に顔が紅くなった。
すぐに声が出ず、ゆっくりと頷く。
「アイツよりはデカくないかもしれねえが、アンタを満足させることくらいはできるさ。」
グッと膣内に押し込まれる。
「……ッ!!」
「痛くないかい?」
パァン、パァンと、ややゆっくりではあるが心地よい打ち方。
こくん、と頷く。
「ゆっくりと深呼吸してみな。」
はあああ……とゆっくり息を吸っては吐いた。
恭介が首筋から胸へと、愛撫していく。

彼とのセックスは、自分にとって“癒し”、そして“救い”のようなものだった。
本当に、気持ちがいい。
「あああッ!!恭介、い・イ…」
「おっと、それ以上は言っちゃいけねえぜ。」
「お願い、もっとして。恭介で私の中を満たして。」
「ああ。」
恭介がキスを求めてきた。さらに激しいのは、興奮しているからなのか、巌徒に対する嫉妬心だろうか。
さっきよりも早いリズムで、私の中に打ち付けてくる。
愛する人からトン・トンと最奥を突かれる衝撃は他のどの快楽にも変えがたい。
「…もう…あッ、ああ……!!」
「巴………ッ…!」
恭介が私の中で果てると同時に膣内を恭介の精液が満たし、いつもより多かったのか、
接合部分からいくらばかりか溢れ出た。

自分の上にからだを重ねた。じんわりと汗が滲み出ている。
「……どうやら、オレも今日は頑張っちゃったようだぜ。」
いつもならさらりと言ってのけるのに、珍しく照れながら言った。
「……かわいい。」
ぎゅううと抱きしめる。
すると、彼が私を抱き起こし、ぎゅうっと抱き返した。
「アンタを支えられるのはオレしかいねえと思うし、今のオレにも…アンタが必要だ。
 …今の事件が解決してアンタが検事になれたら、一緒になろう、な。」
「ええ‥‥。茜もきっと‥‥喜んでくれるわ。」

ごめんなさい…恭介。この事件の“本当に”解決する日は…きっと来ない。
私は涙がこぼれないように、目を固く瞑った。
最終更新:2006年12月12日 22:17