うらみ×トラ①

真新しい、つやつやと光を返す黒い椅子に顔を乗せ、凭れかかる一人の少女がいる。
黒のワンピースを身にまとい、頭には包帯が何重にも巻かれており、かなり痛々しい。
生気の抜けた白い肌、艶の無い黒髪。「怪我人」の名に相応しい風貌の少女だが、
彼女は今、スカートを腰までたくし上げ、下着は脱いで床に投げ、秘部を夢中で弄っていた。
細い指先が線をなぞる度、くちゅくちゅと粘りを帯びた水音が響く。
その音が、更に彼女の痴情を掻き立て、煽り、表情はどんどん溶けていった。

「ん…ん、ぁ、トラさま……トラさまぁ…」

呼吸も追いつかず、口は開けたままで、浅く早く繰り返す息の中に、男の名が混ざる。
口端から涎が垂れて、椅子にまで垂れても、彼女の手は止まる事が無い。
逆に、椅子に僅かに残る男の香りを辿って、勢いを増していく。

「ああ、あっ、トラさま、もっと、お願い、もっと…」

男に弄られる自分を想像しては喘ぎ、腰を揺らして、椅子の縁に胸を押し付ける。
現実では決して叶う事が無い――そう悟っていた少女は、
日々空いた時間を使って、こうした自慰に耽っていた。
少女が自慰に浸るこの部屋、ビルは、言わばサラ金会社のビルだ。
彼女はここに勤める男に好意を寄せているのだが、彼は彼女の事を恐れていた。

少女の名は、鹿羽うらみ。彼女の祖父は、暗黒社会ではかなり名の知れた、恐るべき人物である。
そのせいもあってか、うらみが好意を寄せる男――虎之助は、彼女に頭が上がらなかった。
とあるきっかけから、彼と彼女は同じ職場で働く事となったが、
どんなにうらみが想いを寄せても、彼は上辺だけの返事しか返さず、下手に回るばかり。
うらみは、一途な子だった。
例え上辺だけでも、一緒に居る事ができるなら…うらみは、それだけで満足だった。
――気持ちだけは。

「あっ、あっ…あっ、そ、そこ、ダメっ…」

気持ちでは、頭では、一緒に居るだけで満足…そう思い込んでいても…体は駄目だった。
恋心と興味が入り混じり、そして、自分の背後に浮かぶ、祖父の権威に怯える男への苛立ち。
最初は興味だけで、下着の上から軽くなぞるだけだった自慰。
それはどんどんエスカレートし、今では痴態を晒す自分にたまらない劣情を抱いていた。
今、この状況で、彼が帰って来たら…。ふと頭を過る考えにすら、感情が爆発する。
「んぁあああっ!!」

ビクンッ!と大きく背が反り、震えながら、膣へと潜りこませていた指を引き抜く。
すっかりふやけた指先を暫く見つめ、笑みを浮かべながら、それを口へと運んだ。
小さく何度も吸って、自分の味を確かめながら、今度は、今まで椅子を押さえていた、
もう片方の手を下半身へと移動させる。まだ足りないのか、足の付け根なども軽く撫でながら、

「……トラさまったら…エッチなんだから……ククッ」

妄想の中の彼を、悪戯に笑った。

ぼんやり、机の上の時計に視線を当てる。針は、4の数字を指していた。
もうすぐ、彼が帰ってくる時間だ――服を直して、掃除しなければ。
なんとか気だるい体を起こそうとしたが、今日はあまりにも激しすぎたのか、
体がなかなか言う事を聞かない。
それとも、これから起こる事を予測していたのか。
…ガチャガチャと、特徴のある、鍵を回す音が部屋に響く。
うらみの肩が跳ねた。

(…あの音は…トラさま…?なんで…早すぎる…いつもは、5時に帰って来るのに…)

落ちついて一度鍵をひねれば、すぐに開くのを、
虎之助はいつも、苛立っているように何度も鍵を回して、ようやく扉を開ける。
うらみは彼のその癖を知っており、音で彼だと判断するのだ。
戸を開けたのは、やはり虎之助だった。
片手にビニール袋を下げて、肩を揺らしながら歩き、部屋へと入る。

「うらみちゃ~ん、ケーキ食べますかぁ~?買ってきたん、やけ、ど…」

珍しく気を利かせて、ケーキを買い早めに帰って来たのが失敗に繋がる。
裏返った猫撫で声で、部屋に居るはずの彼女を呼びかけ、
そして次の瞬間自分の目に飛びこんできた光景を疑う。
あまりの驚きに語尾は消え、猫撫で声は更に裏返った。
いつもなら、給湯室から、まるで幽霊のように、音も無く姿を現すはずの少女が、
今は、自分のお気に入りの椅子に上半身を委ねて、下半身はあられもない姿。
腰まで捲り上げたスカート、下着は床に脱ぎ捨てられて、
柔らかそうな白い尻が、自分の方へと向けられている。
その状況を理解するのに、暫く時間がかかった。

(……この女…変態か……?)

それが、彼が判断した、この光景を表す言葉だった。

視線と表情で、彼が言いたい事を悟ったのか、みるみるうちにうらみの頬に赤みが差していく。
だが、視線は外す事無く、真っ直ぐ虎之助を見つめていた。

「……トラさま…見て……しまわれましたね…ククッ…」
「! い、いや!見て…み、見たけど、言いません!言いませんから!ええそらもう!」

彼女の言葉に、途端にダラダラ冷や汗を流して、場を取り繕うとする虎之助。
うらみは彼の言葉を聞き流し、さっきまで言う事を聞かなかった体をユラリと起こして、
音も無く彼へと近づき、前へ立った。
まくったスカートは歩く事で元の状態へ戻ったが、足を伝う雫はまだ乾いておらず、
近づかれる事で、淫靡な雌の匂いが、ほのかに香る。
虎之助は、その姿に思わず、ごくりと喉を鳴らした。

「……誰にも言わないと…約束しますから…お願いがあるんです、トラさま……」

窓から差し込む夕日の光も、そろそろ落ちつく頃合。
その光を背にして立っているうらみの表情は、暗く影がかかり、上手く読み取る事ができない。
先程とは別の唾気が、虎之助の喉を流れた。

「(殺される…!?)」
「……私を…抱いて………違う…ククッ……虐めてください…」
「………………………はァ?」

覚悟を決めていた彼に投げられた言葉は、彼の想像とはまったく違ったものだった。
予想だにしていなかった言葉に、頭が真っ白になる。
この状況、そして彼女の言葉で、自分が為すべき事は瞬時に悟った。
だが、虐めろと言われても、彼女は暗黒界に生きる者は皆恐れる、影の首領の孫娘。
下手な事をするわけにいかない。が、彼女の申し出を断ったら、それこそ…。
混乱が混乱を呼び、パニックを起こす虎之助。
心の中の天使と悪魔がそれぞれ武器を片手に、激しい戦争を繰り広げている。
滝のように流れ溢れる冷や汗。体も震えて、ケーキの入ったビニール袋がカサカサ笑っていた。

「………おねがい………」

倒れ込むように、虎之助の胸に寄り添ううらみ。
薄手のシャツごしに、うらみの胸の感触が伝わる。
下手な事をするわけにもいかないが、彼女の願いを断るわけにもいかない。
普段悪事にしか使わない脳味噌をフル回転させ、ようやく彼の頭上に豆電球が光を灯した。

棚の引き出しを勢い良く開けて、乱暴に中を掻き出す。
そして、ひとつの小さな箱を引っ張り出した。
今は顔を背け、小さな体を更に小さくしたうらみを、ゆっくりと床の絨毯の上に移動させる。
うつ伏せに寝かせ、腰を高く持ち上げさせて、先程と同じように尻を自分の方へと向けさせた。
スカートをまくると、白い肌が顔を見せる。
形の整った、崩れのまったくない、綺麗な双丘に、またしても喉を鳴らす。
恐怖と緊張、劣情の入り交ざった表情を浮かべながら、その双丘に手をかけた。

「……や……」

恥ずかしさで、思わず声を零すうらみ。
心から慕う男に、今、自分の恥ずかしい部分を曝け出している。
だが、それは何故か心地良く感じられた。
すでに、散々うらみ自身が弄った後の秘部は、真っ赤に火照っている。
虎之助は、そこへ顔を近づけ、わざとらしく音を立てて、舐め始めた。

「ん、んぁ、いや、いやっ、…あ…あぁ、ん…」

自分の指で弄る以上に、快感をもたらす舌の動きに、うらみの口から喘ぎが零れる。
巧みに蠢く舌は、すぐにうらみの弱点を突いて、執拗にそこを攻め始めた。
「ふぁ、…ぁん…トラさまぁ…」
「(…こいつ、初めてじゃないのか…?)」

あまりにも敏感に声を返す姿に、彼は小さな疑問を抱く。
現実では初めてであったが、想像の中では何度も繰り返されていた事。
今、それが、まさに現実のものとなっている。
その事で、うらみの感情は異常なまでに高ぶりを見せていた。
慣らさなくとも充分だと判断した虎之助は、口を離し、箱に手をかける。
蓋を開けると、そこには小さなバイブが入っていた。
引っ掛けた女にでも使おうという、軽い気持ちで購入したおもちゃが、
今は、自分の命を繋ぎ止めるアイテムになろうとは…。
真面目に考えると涙が浮かぶ。
雑念を降り切って、コンセントを繋げ、慎重に気遣いながら、
先端をうらみの恥部へと挿入し始めた。
すんなりと飲みこまれ、バイブは深々入り込む。

「あ…冷、たい…」

ひくりと腰が持ち上がるのを見て、燃えるどころか、
逆に心臓を鷲掴みされたように、激しく動揺を見せる虎之助。
しかし、ここまで来て止める事も出来ず、半ばヤケになりながら、スイッチを入れた。

「…!あ!あっ…!ああっ!あー!」

恐怖と緊張で、手が震えていたため、いきなり「強」のメモリにしてしまった事を激しく後悔する。
だが、時はすでに遅く、高速とも言える激しい振動にに、体すら突き動かされるうらみ。
最初は死を覚悟し、意識を宙に漂わせていた虎之助だったが、
バイブに犯され喘ぐ彼女の姿を眺めるうち、男の性が目を覚ましてきた。
再び、喉を鳴らす。
改めて考えてみれば、うらみは大人しく可愛い娘だ。良く言えば、物静かでお淑やかで。
そんな娘が、自分のいない所でオナニーに耽り、
それを見られても怯む事無く、好機とばかりに犯される事を望む、淫乱な一面…。
かなりオイシイんじゃないか?そんな考えが脳裏を過る。

「あああっ!あ、ああっ!ト、トラ、さま、あっ、あっ…!?」

ズボンのベルトを外し、ジッパーと下着も一気に下げて、
顔を覗かせた息子の頬を挨拶程度に撫でた後、それをうらみのもう一つの穴へと突き入れた。
膣はすでにバイブに占領されている。空いている穴と言えば、アナルしかない。

「いっ…!痛い!いや!あああああっ!」

何の準備もされていない場へ、突然入り込む異物に、悲鳴に近い声を上げるうらみ。
だが、それは逆に、虎之助の感情を煽るだけのものになった。
膝裏を持って、うらみ自身を起こし、座位の体勢を取らせる。
淫具は捻りを利かせ、更に奥を目指し、
取りつけられた小さな指は、クリトリスも突つき振動を与える。
加えて、虎之助の激しい突きも負けず、うらみを追い詰めた。
捕らえて離さず、奥へと進む度に締め付けはきつくなり、扱かれていく。

「痛い!痛いっ…!あ、ああっ、あ…お、おかしく、なり、そう…!
あ、ああ、トラさま、幸せ、私…私…っ…、…あ!いやぁ、あ!ああああー!」
「うおおおおああああああ!」

肉食獣の咆哮にも似た声を上げ、勢い良く射精する虎之助。
その量は多く長く、大量の精が吐き出された。
ペニスを引き抜くと、受け止めきれなかった精が床に散る。
そして、うらみはがくりと意識を落とした。
軽く息をつき、スイッチも切って、うらみから引き抜く。
虎之助は、今まで生きてきた中で、味わった事の無い素晴らしい開放感に満ちていた。
うらみの願いを聞き入れ、命が助かり、そしてついでに溜まっていたものも吐き出した。
無宗教の虎之助も、この時ばかりは神の存在を有難く思ったと言う。
――それにしても、勿体無い。
命が助かった、と判断した彼の頭は、もう悪事へと方向を変える。
さっきも、ふと考えた事だが、うらみの風貌と隠された一面を思うと、
ビデオにでも撮って売り捌けば、いい小銭稼ぎになるのでは?
頬を桜色に染め、瞳は虚ろに、口端から微かに涎が流れている、この姿を写真に撮るだけでも…
あれやこれやとアイディアが脳内を飛び回り、首を捻りながら、下ろしたズボンを直す。
…不意に、シャツが引かれた。

「……トラさま……」

ぞっとした。
シャツを引く手は、うらみのものだった。
片手でシャツを引き、片手は床に置いて、疲れた体をなんとか起こす。
その姿を見て、虎之助は少し前に流行ったホラー映画を思い出した。
…井戸の中から、無気味な動きで這い出て、こちらへと歩み寄る少女の姿…。

「…私……幸せです……ククッ。これで…私達の愛は、永遠ですね…ククッ…」

目の前へと迫る女、乱れた髪の間から覗く、恐怖を煽る眼差し。

「…私ばかり喜んでいては、不公平ですよね…私も…トラさまを喜ばせてあげたい…」

ユラリと立ち上がり、何故か給湯室へと消えるうらみ。
再び芽生えた恐怖に逆らう事無く、この場から逃げ出そうとする虎之助だったが、
情事の疲れと、情けない事に腰が抜けたせいもあって、思うように体が動かない。
ジタバタしている間に、うらみは音も無く部屋へと戻ってきた。
手に持っているのは、停電時用の蝋燭、古新聞古雑誌をまとめるためのビニール紐、
そして今から何に使うのかフォークと包丁、あるのは少し頷ける注射器。

「……安心なさってください……おじいさまに、仕込まれていますから…ククッ。
最初は痛いかもしれませんが、徐々に快感へと変わるんだそうです…。
……神経が、麻痺するから……ククッ…」
「ひ………きゃあああああああああああああーーーーーーーー!!!!」

後に、ビルの住人はこう証言する。
あの日、悪徳金融「カリヨーゼ」から、絹を裂くような悲鳴が聞こえた――と。



これでうらみタソものも終わりです。
で、この後ゴドマヨエロに行こうと思っていましたが、ネタバレやエロ度の事など、
少し身を潜めて考えてこようと思います。
ネタバレで不快になった方がおりましたら、本当にすみませんでした。
もしかしたら保管庫の管理人さんにお世話になるかもしれません…
その時はよろしくお願いします。管理、お疲れ様です。
最終更新:2006年12月13日 08:13