今日ももうじき終業という頃になって給湯室にいた私に声をかけてきたのは、あきれるくらい予想通りに神乃木センパイだった。
「なァ。今日が何の日か知ってるか、コネコちゃん?」
 …やっぱり。今朝起き抜けに情報番組を見てからずっと、絶対に来るだろうって思ってた。
 私は気づかれないように、そっとため息をついた。
「水曜日ですけど。それが何か?」
「…分かって言ってるな、アンタ」
 私をからかおうとするそぶりを隠しもしない、センパイのニヤニヤ笑い。
「2月22日、アンタのためにある日…だぜ。なァ、コネコちゃん?」
「…はぁ」
 もう、逃げることは出来ないらしい。
 私が背にした壁に手をついて、彼は私の顔を覗き込んで笑う。

「いいか、今日は本当にコネコになってもらうぜ…チヒロ」

 ものすごく不穏な台詞と、絶対に何か企んでいる微笑。
 そのまっすぐな瞳に射抜かれた私は、思わずこくりと頷いてしまった。


 すぐに家に連れ帰られるのかと思いきや、センパイは繁華街のある駅で途中下車すると言い出した。
 上機嫌で先を歩くセンパイの2歩後ろで、私は不安にかられる。一体、私はこれからなにをされるのか。もう、嫌な予感しかしない。
 …帰りたい…
 私は深く深くため息をついた。
 ここで立ち止まって、雑踏の中にまぎれてしまう事は簡単だ。けれどもそんなことをしたって、きっとセンパイは容易に私を見つけ出してしまうだろう。なんというか、そういう人なのだ、神乃木荘龍という人は。
「なあオイ、置いてっちまうぜ」
「…あ、ハイ」
 条件反射で返事をして、がっくりと肩を落とす。
 …やっぱり、帰りたいと言えばよかった。
 そんな私の後悔は、ぎらぎらとしたネオンが近づくごとにどんどんと大きくなっていった。

 妙に装飾の凝った廊下で、202と刻まれたライトが点滅している。
 ドアを開けるや否や、センパイは有無を言わさず私を抱き上げると大きなベッドへ運び、そして放り投げた。
「…せ、センパイ?スーツが皺になるので、あの…」
 愛用のブリーフケースのなかに手を入れてなにやらごそごそしているセンパイに、おずおずと進言する。だけど、センパイはまるっきり知らん顔だ。
「今日はコネコちゃんにいいものをやるぜ」
 鼻歌さえ交えながらセンパイが鞄から取り出した黒いモノは、まごうかたなき猫耳だった。
「え、コレ…」
「言ったろう?今日はホンモノのコネコちゃんになるんだ…チヒロ」

 身体の中に響く、甘い声。いつもの夜の声。
 こんな状況でこの声を聞かされるだなんて、思ってもみなかった。
 まさかとは思ったけれど、本気でこんなことをするとは。
 だいたい鞄からアレが出てきたということは、前々から用意して家から持ってきたっていうことで…それはイコール、これが計画的な犯行だっていうことだ。
 あまりの状況に発する言葉を思いつくことができず口をぱくぱくさせている私の頭に、あっという間にソレが装着される。
「なあ、見てみな。カワイイコネコちゃんが鏡に映ってるぜ」
 肩を抱かれて、ベッドサイドの大きな鏡へ身体を引き寄せられる。
 少しだけ乱れたスーツに、猫耳をつけた私。そしてそれを満足そうに眺める私の恋人が、そこにはしっかりと映っていた。
 逃れようもなく見せ付けられて、さっと頬に血がのぼっていく。

「クッ…可愛いぜ、チヒロ。すっかりコネコちゃんだな」
「い、イヤです、こんなの…」

 …イイだろう、たまには趣向を変えたって。
 そう囁かれて、思わず誤魔化されそうになる。まだ頭が混乱してて、うまく考えられない。
 赤味を帯びた照明のせいで、自分の肌が桃色に見える。
 でももしかしたらこれは照明のせいなんかじゃなくて、私の肌はとっくに快楽に染まってしまっているのかもしれない。

 センパイは猫耳のついたカチューシャをうまく避けて私の頭を撫でると、さらりと肩に広がる髪をひと房掬い取って、ゆっくりと唇に押し当てた。
 それは、いつもの『はじまり』の合図。
「…あ」
 条件反射で、私の肩から力が抜ける。
 それを察したセンパイが、私の身体をベッドへと引き倒した。
「大丈夫だ、安心しろ。そんなに無茶なことはしねぇよ」
「……」
 ちゅ、と頬に口付けを落とされる。その言葉を信じていいものか否か、まだ私は迷っていた。
「怯えたコネコちゃんよりなついたコネコちゃんと遊ぶほうが、オレも楽しいからな」
 また、口付けられる。今度は額に。こめかみに。添えられた手が頬を撫でる。
 その優しい手はいつもと同じで、私はようやく少しだけ警戒心を解いた。
「…ほんとう、ですね?」
「ああ、コーヒーの神様に誓ってもいいぜ」
 センパイは私に覆いかぶさったまま、瞳を閉じて恭しく胸に手を当てた。
「…そういうのは、私に誓ってください」
 指先で、ちょんと唇を突く。少しかさついた色の薄い唇が、ふっと笑みを浮かべた。
「クッ、違いねェ…誓うぜ。チヒロ」
 囁かれてすぐに降りてきた口付けはいつものように優しくて、もう疑う部分なんてどこにもなくて。
 だから私はすっかり安心して瞳を閉じ、センパイに身を委ねることにした。

 ベルトを外されスカーフを解かれ、スーツのチャックが性急に下ろされ袖を抜かれた。
 剥きだしになった下着は、何の飾り気もない黒。センパイが用意した猫耳と同じ色。
 センパイが、感嘆したようにほう、と息をついた。
「…綺麗な黒猫、だぜ…」
「や、だ…」
 急に恥ずかしくなって、脱がされたスーツを掻き抱いて身体を隠す。けれども、それはすぐに大きな手に阻まれた。
「こら、ちゃんと見せろ。せっかく綺麗なんだ」
「じゃあ…せめて、電気を…」
「消すわけねェだろ?」
 私の懇願は、ニヤニヤ笑いとともに、見事に瞬殺される。
「チヒロのコネコ姿、シッカリ焼き付けておかねぇとな」

「ば、馬鹿な事を言わないでください!」
「コイビトの可愛らしい姿を焼き付けておきたいって思うのは別に馬鹿なことじゃねェだろ」
 微笑んで、な?と小首を傾げられる。
「…あの、そんなことしてもかわいくありませんよセンパイ」
「ったく、つれねぇコネコちゃんだぜ…」
「つれなくて結構です」
 ぷい、とそっぽを向いた。視線の先には鏡があって、否応なしに自分の今の姿を実感させられる。うまく言いくるめられてしまったことを後悔したって、もう遅い。
 背後から、大きな手が私を抱きすくめてくる。
「そんな悪いコネコちゃんにはお仕置きが必要だな」
 喉の奥で、くつくつと笑う声。
 一体なにを、と振り返るよりも早く、首筋に鋭い痛みが走る。
「ひ…ッ!」
 歯を立てられたのだと気づいたその時には、もう強く吸い付かれていた。
「ダメ、センパイ…痕、が…っ」
「大丈夫だ、いつもの格好なら見えやしないさ」
「そうかもしれないですけど、んっ!」
 言うなり、またちゅうと音を立てて吸われる。今度は肩口。少し戻って鎖骨。
 体中にキスを降らせるその手順もいつもどおりなのに、部屋の明るさが、目の前の鏡が、私をどんどん追い上げてゆく。
 私を抱きしめていた手はいつの間にか太股をまさぐり、腰のラインを辿って脇腹へと上がってきていた。
 ぞくり、と快感に肌が粟立つ。
「ん、あっ…」
「なんだ?いつもよりもヨさそうじゃねえか」
「そんな、こと…な……はあぅっ」
 心底楽しそうな声も、もう霞がかかったようにしか聞こえない。
 私はぼうっとしたままそれでもどうにか言葉を紡ごうとして、そして失敗する。
 センパイの大きな手が私の胸を下着ごと包んだ感触が、すべての理性を断ち切った。

 目の前の鏡に映るのは、いつもの私じゃない。
 快楽に溺れた、ただの一匹の猫だった。

「や、あ…ふ…」
「やっぱりアンタ、感度上がってるぜ」
「や、ウソ…んううううぅっ…は、ああっ」
 下着越しの愛撫が、もどかしい。こんなにも先を焦がれたことは、今までになかった。
 鏡の中の私ははしたなく喘いで、与えられる快感にただ酔っている。
 でも足りない、これだけでは足りない。自分でも意識しないうちにすり合わせた脚の奥で、湿った音がしたような気さえする。

「どうして欲しい、コネコちゃん…言ってみな、聞いてやるぜ」
 下着に包まれた私の胸を捏ね回しながら、センパイが耳元に囁きかける。その声にさえ、感じてしまう。
「これ…はず、して…ください…っ」
 震える声で伝える。ホックを外して欲しいと背中を逸らす。
「よし、いいコだ…でも、そのお願いは聞けねぇな」
 センパイは肩口にキスをして、そのまま口でストラップを下ろした。
 力任せにブラジャーを押し下げられて、ふるんと乳房がまろび出る。
「あ…や…ああ…」
「何がイヤだ、こうして欲しいんだろ?」
 ふと気づくと、センパイは私の上に覆い被さっていた。
 もう鏡は見えない。それでも、恋人の熱い瞳は自らの痴態を思い知るには充分すぎた。
 下着越しにさんざん苛められたせいで、胸の頂はすでに硬い。
 きっと、今からピンポイントでソコを苛められる。想像しただけで、どくんと鼓動が跳ねた。
 熱っぽい瞳で私を見つめたまま、じっと動かない先輩。その視線だけでイかされてしまいそう。
 もう、たまらなかった。
「ね…お、ねがい…センパイ…ここ、触って…」
 自ら胸を摺り寄せ持ち上げると、触れられるのを待っているその場所を示す。
 センパイが、我に返ったようにはっと息を呑んだ。

「…クッ…凄いな、今夜のコネコちゃんは教えてないことまでしてくれるのか?」
 大サービスだ、と、熱に蕩けた瞳でうたうように囁く。
 そんな声にすら身体が震える。そうだ、私は今、とてつもなく恥ずかしいことを、自分から。
 でも、止められない。止めることができない。
 私の身体は今までの中途半端な刺激にとっくに感じきっていて、望むものが与えられたらきっとあっという間に達してしまう。
「あ、あ…ッ」
 耐え切れず、太股を擦る。今度は隠しようもなく、ぬちゅ、と湿った音がした。
 聞こえて欲しくはなかった。でもその期待は、センパイがごくりと喉を鳴らす音に脆くも崩れる。
「…チヒロ、今」
「い、イヤ…ち、違う、の…」
「違わねェだろ、なぁ」
 望んだ胸への愛撫は与えられないまま、先輩の手が私の秘所へ添えられる。
 蕩けきったソコを、無骨な指がすっと辿った。
「ひああああんっ!」
「すげェな…こんなに濡れたこと、あったかよ?」
「あ、ああ…っああっ」
 もうすっかり役目を為していないショーツを横にずらされ、ぐちゅぐちゅと無遠慮にかき混ぜられる。
 普段なら少し痛みを感じる荒々しい愛撫も、今の私には快楽のもとでしかない。
「あ、ん…んあああ…」
 頼りない弱々しい声が、引っ切り無しに喉から漏れ出てゆく。
 これだけ蕩かされているのに、さっきから望んでいるところには指一本だって触れられていない。
 …これで望んだ愛撫を与えられてしまったら、一体私はどうなってしまうんだろう。
 悦楽の底無し沼で、どんどんと溺れてゆくんだろうか。
「クッ…そろそろコネコちゃんの欲しいもの、くれてやるぜ」
 ひとしきり秘肉を弄ったあと、センパイは欲情した雄の顔でそう宣言する。
 
 …ああ、ようやく、ようやくだ。

 私はまたさっきのように、胸を抱き寄せた。

 だけれどセンパイは、私の期待とはまったく違う行動に出た。
 仰向けの私をぐるんとひっくり返すと四つんばいにさせ、顔を鏡のほうへと向けさせる。
 蕩けきった痴態が丸見えだったけれどそれでももう、恥ずかしさより快楽を求める気持ちのほうが強かった。
 早く触れて欲しい。早く、早く。
「…セン、パイ…」
「しっかり見ときな、コネコちゃん…きっと、トリコになっちまうぜ」

 後ろから覆いかぶさられ、熱いものが押し当てられる。
 え、と思ったときには、もう遅かった。
 ずちゅっと淫猥な音を立てて、センパイは私を後ろから貫いた。

「あ、ああああああああああああッ!!」

 さっきまで望んでいたものとは違う。それでも、彼の侵入を待ち焦がれていなかったといえば嘘になる。
 バババっと目の奥で火花が飛ぶ。今までとは質の違う、圧倒的な快楽。
 きもちいい、きもちいい…きもちいい!
 みっともなくひくひくと柔肉を震わせ、与えられたモノを噛み締めた。

「クッ…そんなに動くんじゃねえ、チヒロ…」
「あ、あああ…だ、って…っ」
 欲しいの、欲しいから、動いちゃうのに。
「もっとシてやりたいのに、これじゃオレが持たねえだろう?…そんなみっともないのはゴメンだぜ」
「ん…あはあああああああああああっ!」
 ぐっと押し込まれて、ひときわ大きな声が漏れる。
「…あ、ああ、ああああっ…」
「イイ、みたいだな、チヒロ…ッ」
 正確で深いストロークが、がくがくと私を揺さぶる。
 …もう、何も考えられない。

「…チヒロ、鏡。見てみろ」
「う、くぅ…ん」
 激しい交接の最中にぐいと頤を持ち上げられ、鏡を注視させられた。
「よく見ろ…いやらしいコネコだろう?これが、今のチヒロだ」
「あ…はぁ…ああああ…ん」

 涙で霞む視界と、ぼんやりと熱で曇った頭。
 それでも、目の前の光景がどれほどのものかっていうことくらいは、わかった。
 どうしようもなく乱れた髪。頭の頂上には、つくりものの可愛らしい耳が鎮座している。
 ブラジャーは押し下げされ、ショーツは履いたままクロッチをずらされて、ぐっぷりとセンパイの欲を受け入れていた。
 まるで動物のように四つんばいで。後ろから。

 …それはただの、淫らな雌猫。
 自分で認めた瞬間、身体に電気が走った。

「あ、ああ…っ」
 視界が真っ白になる。バチバチと火花が散る。
 私からは死角になっている秘肉。そこから、愛蜜がとろりと太股を伝うのがわかった。
「クッ…凄いな、今、少しイッただろう?」
「あ、あ…ああ…ん…」
 もう、まともな言葉が紡げない。ぐったりと力の抜けた身体で、掠れた声で喘ぎ続けることしかできない。

「そんなにキツくされたら、もう我慢できないぜ…」
「う、やああああぁん…っ!」
 ひときわ深く貫かれて、悲鳴を上げた。スピードは下がるどころか、どんどん加速していく。
「や、あ、やああ、こ、こわれ、ちゃう…っ!」
「壊れやしねぇさ、これくらいじゃ、な!」
 ぐいとギリギリまで抜かれたかと思うと、腰を回すように打ち付けられる。

 腰をつかんでいた手が片方離れて、私の胸を掴む。無骨な指先が、すっかり硬くなった頂を捻った。
 ようやく与えられたそれに、もう何度目かの軽い絶頂が訪れる。
「ひ、や…ああんっ!ああん!ああああっ!あ、やああっ!」
「クッ…凄ェ、キツ…いなァ、もう…イイ、か?」
「あっ、あああっ、わ、わたし、もっ…うん、ああぁっ!」

 がくがくと体が震える。それは、貫かれる衝撃のせいだけではもうなくて。
 身体の奥で、どくどくと脈打つものを感じる。
 もともとの圧倒的な質量。それよりもさらに膨らむのを、私は確かに感じ取った。

「く、ッ…ああ、チヒロ、チヒロ…ッ!」
「あ、あああ…んあ!あ、ああっ…そ、そうりゅ…そうりゅう、さん…っ!」

 こんな時にしか呼べない名前を、熱に浮かされたまま呼び続ける。
 必死にシーツを掴んで、行き場のない強すぎる快楽を享受した。

 汗ばんだ手が身体を這い回る感覚も、
 時折背中に落とされる唇も、
 不規則に漏れる吐息も、
 繋がった場所の熱さも。
 すべてを享受しようと、私は精一杯身体を開く。

「…は、そろそろ…イク、ぜ…、チヒロ…!」
「ん…きて、きて、きてええええっ!」
「ああ……く…うッ…!」
「ひ、ああああああああああああァァァッ!!」
 恥も外聞もなく叫んで、絶頂を迎える。
 同時に熱い情欲が身体の奥に注がれるのを、確かに感じた。


 意識を飛ばすその瞬間に、鏡が視界をよぎった。
 そこにどろどろに蕩けあった二匹の獣を認めて、ゆっくりと私は瞳を閉じた。

 まだ朧な意識のまま、大きく息をつく。目の前の肩にしがみ付きながら呼吸が整うのを待っていたら、大きな手が私をベッドに横たえた。
 後始末をしながら、頬に張り付いた髪を払ってくれる。
「…大丈夫か?コネコちゃん」
「だいじょうぶ、です…それと、いい加減そうやって呼ぶのやめてくれませんか?」
「クッ…さっきまでのアンタは完全にコネコだったぜ」
「…!!」
 センパイのやに下がった表情。なにを考えているかなんて、顔に全部書いてある。
 急に恥ずかしくてたまらなくなって、私はまだ整わない息でセンパイの顔面に枕を投げつけた。
「イテェな、何するんだ!」
「センパイが悪いんです!」
 布団を引き上げて、胸元を隠した。きっと私、真っ赤になってると思う。
 センパイはそんな私をやっぱりニヤニヤと見つめてくる。もう、耳まで焼けるように熱い。
 からかうのもいい加減にしてほしいなんて思うけれど、こんなふうにじゃれ合うのは本当のところ嫌いじゃない。
 こんなに大きなオトナなのに、まるで小さな男の子。好きな子ほどイジワルしたい…なんていうヤツだってことくらい、私だってわかってる。
 そんなセンパイがいとおしくて仕方ないから、私はいつも彼を許してしまうのだ。

 センパイもそのあたりは心得ていて、拗ねた私相手に本気で怒ったりはしない。
 さっき上げた怒鳴り声なんて忘れたって顔でぎゅっと抱きすくめられて、こめかみにキスを落とされた。
「…もう一度、コネコにしてやろうか?チヒロ…」
 耳元で、甘い甘い洋酒みたいなセンパイの声。
 条件反射みたいに、すぐにとろりと酔わされて蕩かされてしまう。
 唇が耳元から離れると、今度は額が合わさった。
 センパイの瞳の中に、みっともないほど蕩けた私の顔が映ってる。
 …ああもう、こうなってしまったら、どうしようもない。

 可愛がってやるぜ、コネコちゃん。
 くちづけながら囁かれ、私はふたたび陶然と瞳を閉じた。

最終更新:2020年06月09日 17:53