「ばいばい、みぬきちゃん。今日もステージ頑張ってねー」
「うん、ばいばい」

制服を着た成歩堂みぬきは、手を振りながら校門をくぐった。
吐く息はまもなく白くなるだろう。あの事件からもう一月近くが立っていた。

シルクハットをかぶっていないため、オドロキほどではないが髪のとがった部分が揺れる。
そろそろ進学の時期だが、出席日数は少ないのに妙にできの良いみぬきは、近くの高校に
受かる程度の学力は確保しており、毎日のステージと当番制の家事と
最近少しづつ増えたオドロキに来る依頼の手伝いなど、忙しい日々をすごしていた。

(今日はオドロキさんがまことさんの勉強を見に行く日だし‥‥
パパは御剣さんのところで勉強してるし‥‥
誰もいないね。ステージも遅番だから、どうしよう)

ぽっかりと空いた時間。今まではそんな時は魔術の練習を繰り返していた。
しかし今は、なんとなく事務所でひとりぼっちで魔術の練習をする気持ちにはなれない。
それはこの半年近く、毎日のように顔をあわせていたオドロキとの接触が少なくなりはじめた
ことにも関係があるかもしれないし、また、成歩堂が司法試験の勉強を改めて行っている
ことにも影響しているとも思われる。

絵瀬まことは、学校に通ったことがないということだった。それに関して、本人の希望や、
オドロキやみぬきも学校にいくことを薦め、年齢から高卒認定(旧大検)の勉強を
まずすることにしたのだ。それを喜んだオドロキは仕事の合間を見ては勉強を教えにいっている。

みぬきも同行したことがあるが、感嘆するほどの速度で記憶し、吸収するまことに、
オドロキもみぬきも賞賛を惜しまなかった。
そしてその笑顔にも、みぬきは感に堪えなかった。

(美人だな、まことさん。やっぱりあんな美人だと、オドロキさんも目が眩んじゃうね)

オドロキは厚意でまことの勉強の手伝いをしているのだとみぬきは思うが、そこにもちろん
好意が存在するのだろうと思っていた。なにしろ、15歳のみぬきは、もう子どもじゃないし
女の子でもあるのだったから。

少し考えてから、あえて口に出した。迷いでも吹き飛ばすかのように。
「みぬきもまことさんのところに行こう」


シルクハットとマントはともかく、その下の服装はこの季節には寒い。しかし、それでも
着続けるのが魔術師の心得であるとみぬきは思っている。
着替えたみぬきは、おやつ用にかりんとうを持ち、ずいぶんと早くどぶろくスタジオへと到着した。
ドアからは光が漏れている。その、人を受け入れることのなかったドアは、まだわずかな人数では
あるが、外へと開いている。

ノックもせずにドアを一気に引きあけた。挨拶の大きな声は途中で消える。
「こんにちは、まことさん、オドロキさん‥‥」

ソファーの上にまことが座っている。膝の上には手をそろえて。
その指にはマニキュアが光っている。もちろんあのマニキュアではない。
オドロキが、みぬきと一緒に選び、贈ったものだ。ついでに同じものをみぬきも贈って
もらっており、今もみぬきの指に同じ光を宿していた。

まことの上半身は見えない。赤いスーツの男が、覆いかぶさるように彼女の頭をささえていた。
ひどく近づけていたその頭から離し、ドアを振り返った。

「みぬきちゃん?」
「みぬき‥‥ちゃん?」
オドロキとまこと、二人の声がかぶさる。そのかぶさった声で、みぬきは我に返った。

「ごっ、ごめんなさい、みぬき‥‥」
乾いた返答を漏らすと、すぐに踵を返す。
不思議そうな顔をしている二人を視界の隅に捕らえて、みぬきは今来た道を走り始めた。


みぬきは泣いたりはしない。なんとなく足が向かった人情公園にたどり着いた頃には、
思考も落ち着きを取り戻していた。ショックなんかはちっとも受けていない。

(はあ、なんだかびっくりしちゃった)
(キス、してたんだね、あれ)
(うーん、オドロキさんてば意外に手が早いんだ。さすがはハラグロ)

ほうと漏らした吐息はわずかに白んでいる。そういえば、ずいぶんと気温も下がってきた。
みぬきは自分の露出した二の腕を抱え込む。その動作に呼応したように、携帯電話が鳴った。
サマンサマンのテーマだ。出ずに放置した。

しばらくなり続ける携帯に、いいかげんバイブモードにしようとした時に、声がかかった。
「携帯には出てくれよ、みぬきちゃん」

オドロキはそのままみぬきの前に立つ。
みぬきはふてくされるわけでもなく、オドロキの視線を受け止めた。
「それで、みぬきちゃんはひょっとしてなにか勘違いしてると思うんだけど」
「勘違いなんかしてないですよ。まことさん、綺麗だし」
「いや、前後の文脈が繋がってないから。いわんとしていることはわかるけど」
「良かったですね、オドロキさん。まことさん、いい人だし」
「さっきのは、まつげが目に入ったから、それを」
「異議あり! 今時、そんなベタな言い訳にはダマされません」

ガチャガチャとみぬきの背から機械が飛び出し、シルクハットをとりあげる。
そのままボウシくんは、普段とは違う立ち姿でオドロキを威嚇しはじめた。
「いや、スタンドじゃないんだから、ジョジョ立ちはやめようよ」

「それに、気にしなくていいのに。みぬき、祝福します」
「だから違うって。なんていったらいいんだよ」
「じゃあちゃんと証拠を見せてください! キスしてないっていう証拠を」
「わかった、じゃあまことさんを証人にして、オレ達がキスしてないってことを」
「ダメ。つきつけられるのは、証拠品だけです」

「厳しいしばりだな‥‥ だいたい、無茶言うなよ。してないんだから、それを証明するなんて
無理に決まってる。それに、オレはまことさんにキスしたいなんて思ってない。
そう思ってるのは、別の人だ」

ほんの少し、みぬきの表情が変わった気がする。オドロキはそう思った。

「じゃあ有罪です。証拠がないんだから疑わしきは罰すです。煙のないところに火は立たないんです。
みぬきはそう判決を申し渡します」
「‥‥わかったよ」

今度は表情が固くなった。と思った。

「有罪を認めるんですね」
「違う。証拠がないんなら、結果を否定する別の証拠を作ればいいんだ。偽の煙を吹き飛ばす、
本当の火が立てた煙を作ればいいんだよ」
「それって、ねつ造じゃないですか!」
「ねつ造じゃないさ」

オドロキはみぬきに近づく。
最後の言葉の後に、まだ紅をさしたことのない、その唇に口付けた。


しばらしくして唇が離れると、ことんと、オドロキの胸に力が抜けたようにもたれかかった。
「これで、無罪、かな」

胸元の赤い耳を見ながら、そう呟くオドロキの顔もひどく赤い。
まるでそのスーツみたいに、とからかわれるだろうほどに。

「‥‥異議あり」
みぬきの小さな言葉が響く。

「まだ、駄目なの」
「法廷は、証拠が不十分だと、思います」
顔を隠したまま、オドロキを掴んだ手に力を入れて、そう呟く。

「‥‥これ以上の証拠は、今すぐには用意できません」
「2時間の、猶予を与えます。その間に、証拠を用意してください」
「弁護側、了解しました」

オドロキは間髪をいれず、そう返した。

 


「本当にいいの? みぬきちゃん」
「オドロキさんは相変わらず土壇場に弱いのか強いのかわからないなぁ」

事務所にほど近いオドロキのアパート。みぬきは何回もきたことがある。
普段の仲の良い兄妹のように騒ぎながら歩く彼らを知っている人物が、ここに来るまでの
道行きをみかけたら、何をこそこそしているのだろうと訝しげに思っただろう。

「証拠を用意できないと、判決は有罪とします」
みぬきは本気のようだとオドロキは思った。だとしたら、自分に正直になるべきだろう。
もう何も聞かず、シルクハットをはずし、もう一度唇を重ねる。軽くついばむように。
オドロキはみぬきの唇をねぶる。そのまま舌を口内へと流し込み、舌を重ねた。
びっくりして引き下がったみぬきの舌。無理に追うことはせず、出てくるのを待つ。
やがておずおずと登場した頃に、あわせて手のひらをそっと胸に触れた。
ひくんと震える、目をきつく閉じるみぬきを、オドロキは目を開けて鑑賞した。

半年以上、一緒にいたみぬき。色々なできごとの中で、明るく元気な女の子という
言葉が見事に似合う彼女に信頼を持ち、惹かれはじめていた。
まだ15歳の女の子。成歩堂と違う方法で彼女の助けになり、また、彼女にとって
必要な男になりたいとも思っていた。
自分が求めるのはまだ早いと自制し、成長を待っていたつもりだった。
それでも、彼女が望むなら、とても途中で止められるものではない。
もう、オドロキは最後まで引くつもりはなかった。

長い、いやらしいキスが終わり、ぽうっとしているみぬきは、オドロキの手で自分の服が
脱がされはじめていたことにやっと気がついた。すぐに手を制す。
「あのっ、ボウシくんの秘密がバレちゃうので、後ろを向いていてください」
「はいはい」
素直にしたがったオドロキは、何かを片付ける不思議な音を聞きながら、自分の赤いスーツを
脱ぎはじめた。


「もういいです」
シルクハットも魔術師の服装もとりさり、清潔で飾り気のない上下の下着だけを
つけたみぬきは、オドロキもあまりみたことのない、それこそまだ少女の風景だ。
胸のふくらみも大きくはない。

「やっぱり、パンツはあれとは違うんだね」
「あたりまえです」
そういって笑ったオドロキは下着に手をまわし、顔を胸元に埋める。
その動作にすでに遠慮はない。

「おっ、オドロキさん」
強く鼻から息を吸い込み、みぬきの匂いをかぐ。化粧品の匂いはなく、ボディソープの
淡い香りとみぬきの肌の香りとに包まれる。
それに気づいたみぬきはみるみる紅潮させて体を離すようにした。
オドロキは離れない。やわらかな小さい凹凸により深く顔を沈ませる。
それとともに指先は下着のなかへと侵入を開始した。

目を白黒させるみぬき。オドロキはその慌てぶりをコントロールしながら、
体にキスをし、指先でくすぐり、全身でその滑らかな肌を楽しんだ。
もちろん経験のないみぬき。それでも、その絶え間のない柔らかなふれあいに、
触れている相手がオドロキであることに、やがて体の芯に感じたことのない火照りを
みつけていた。

「あんっ、ふあっ」
甘い呼吸音が部屋に流れ続ける。
耳、うなじ、鎖骨、ひじ、背骨、太もも、ふくらはぎ、膝の裏。
オドロキは少ない性経験の中からではなく、とにかくみぬきの体に触れたいという欲求から
全身をくまなくめぐる。そして、やがてその臀部の中心近くに到達した。

「やっ、ダメっ!」
あわててみぬきが荒い息と赤い体のまま、身をよじる。
すでに脱がされていた下着がなく、まだ薄い体毛の隙間から、成長しきっていない
秘所が口を覗かせていた。

オドロキはその言葉を聞いて、驚いた。腕輪がわずかに反応したのだ。
それの意図することに気づき、みぬきに軽く声をかける。
「みぬきちゃん、ここ、気持ちよくないのかな」
「そんなとこ、なんともないですよっ! 第一、触っちゃダメなところだよ!」
腕輪の反応は強い。
「それは嘘だね、みぬきちゃん」
「う、嘘なんてついてません!」
「残念、キミも知ってるだろ。オレには、わかるんだ」
みぬきが恐れの目でオドロキを見る。
「そこだ!」

沈着の少ない、美しいとさえいえる後門にオドロキの舌が伸びる。


「やだっ、きたない、きたないよっ、したいれちゃやだぁっ」
自分の汚い場所をオドロキの舌に触れられている。背徳感が心を揺らす。
また、事実として、その感触はみぬきの体に火照った圧力をより加えている。

(オドロキさんが、オドロキさんがみぬきのお尻なんて舐めてる‥‥!)
耐え切れず高まっていく体。はじめての感覚にみぬきは逃がし方がわからない。
必死で、弱々しく逃げるように体を動かすが、腰を捕まえたオドロキはそれを許さない。

逃げる体のままに、みぬきの体はオドロキの下半身へと近づいた。
ゆえに、それを至近で目がとらえた。幼い頃、両方の父と風呂に入ったときに見たものと
同じとは思えないほど、グロテスクにそそりたつそれを目の当たりにした。
それが、自分の体にはいってくるのだと思い、恐怖に戦慄した。

それでも、みぬきは逃げ出すことはない。いつものように、乗り越えようとして、
目の前のオドロキの性器を見つめる。そして、その変なものを掴んでみた。

ぴくんと、オドロキが反応するのを感じた。その瞬間、みぬきの心に、何か感じるものが
あった。オドロキは何もいっていない。それでも、わかることがあった。
みぬきはオドロキのそれを捕まえたまま、その自身の名のごとく、弱点をついた。
「ここだね」

唇で先端をくわえる。そのままちゅっちゅっと吸うように触れた。
「はうっ」
オドロキはオクターブの高い声をあげて反応した。その声にみぬきは満足する。
そのままちろりと尿道口をこじられる。

「みぬきちゃん、駄目だっ」
「はきに、えをだしたのはおおおきさんれふ」
口内にほおばったまま、オドロキの反応の強い場所を責めつづける。
オドロキも、指を使って秘所への攻撃を追加した。

オドロキの指先がみぬきの核をほんの少しこすりあげる。
みぬきの口蓋がオドロキの先端をこする。
口の中に果てたのと、みぬきが達したのは、ほぼ同時のことだった。


みぬきの口を綺麗にした後、オドロキは局部にコンドームをつけはじめた。15歳に手を
だしている時点でちょっとあれだが、それでも彼は自分の快楽とみぬきを守ることを
天秤にかけることはしない程度には紳士だった。

「それ、なんですか」
「あ、えーと、コンドームだよ」
「へえー、これがそうなんですか」
面白がって先端をくりくりする。
「ふふふ、へんなの」
幼い顔で笑う。それに、オドロキの心も、分身も、ガツンという擬音でやられた。

「みぬきちゃん、いくよ」
「‥‥はい、オドロキさん」
何度目か、唇を交わす。

オドロキは、ゆっくり、ゆっくりと分け入っていく。
痛い、とは一言もいわない。涙を流すことも、ない。
その表情にわずかに微笑みさえ浮かべながら、オドロキをうけいれていた。
オドロキも、それに言葉をかけることなく、自分を埋めつくした。

そのままみぬきを抱きしめる。細い。小さい。
コントラバスに5人くらい入るといったのが誇張ではないほどに。

こきざみに抽送を開始する。ただし、ゆっくりと。
痛そうな顔をしようとしないみぬきに、オドロキのほうが気を使った。
その中で、気づく。ある一点で、みぬきの体が反応をおこすのだ。
みぬくまでもない。
わずかに角度をかえ、その部分へ多く刺激がいくようにする。
ぴくん、ぴくんと反応する。

「ひょっとして、ここ、気持ちいい?」
必死で首を振る。腕輪に反応。その必要がないくらいにわかりやすい。

「そう、ごめん」
動きを開始する。まるで見当違いのところを擦る。痛くない程度に。
すこししてから、みぬきは何もいわずに背中に爪を立てた。

「んっ、んー、んっっ」
頑なに口を閉じて声を出そうとしない。いつしか抽送は滑らかに、オドロキのみつけた
場所と最奥を何度もこすりあう。

「はっ、はあーっ、あーっ、はっ」
声も高く、お互いをぶつけ合う箇所からは水音が混じり始め。

そして、最後が近づく。二人の顔が近づき、また、唾液を交換する。
互いの瞳には、互いが写っている。その姿は、どこか似たところがあるように思えた。
自分の姿が愛する相手の姿に似通っていることに二人は喜びを感じ。
その多幸感のまま、オドロキの精はゴムの皮膜越しにみぬきの体内へと放たれていた。


オドロキのベッドの上で、腕枕をしながら二人は至近距離で互いをみつめている。
その間にも時折、ついばむような口付けをかかさない。
みぬきから、一つ。お返しのように、オドロキから、一つ。

「なんだか、オドロキさんてみぬきの顔に似てますね」
「みぬきちゃんが、オレの顔に似てるんじゃないか」

「あの”力”も同じですよね」
「ひょっとしたら、この腕輪をみぬきちゃんがつけられたなら
オレと同じことができるのかな」

「みぬき、オドロキさんのこと大きな弟みたいに思ってたんですけど、
なんだか本当に姉弟みたいですね」
「オレが弟っておかしいって。
‥‥でも、そういえば、入院した成歩堂さんに事務所に入れって言われたとき、
このおニイちゃんになんとかしてもらえ、っていってたな」
「そういえば、そうですね。みぬきも、なんとかしてよ、おニイちゃん!
っていったかなぁ」

二人は笑いあう。

「オレたち、いけないことしたのかな、みぬき」
「おニイちゃんからみぬきに手をだしてきたんだけどね」

もう一度二人の唇が重なろうとしたときに、ガリューウェーブの曲が流れてきた。
オドロキの体が固まる。それを着信音で聞いたようなことがあったせいだ。
法廷のように汗を流しながら、

「‥‥ひょっとして、成歩堂さん?」
「ううん、アラームですけど。あ」
「そ、そう (助かった‥‥)」
「いけない、ステージが始まっちゃう!」

全裸のままベッドから飛び出し、あわてて用意するみぬき。
ボウシくんの色々が見えているような気がするが、オドロキにはなんだか良くわからなかった。

「ごめんね、オドロキさん! また明日!」
「う、うん、また明日」
ドアが大きい音とともに閉められる。静寂が戻ってきた。

明日。きっと朝からいちゃいちゃしてしまうのだろうとオドロキは思う。
感のいい成歩堂さんのことだ。戻ってきたら、すぐ気づかれるだろうな。
いっそ、こっちから先に電話で伝えておこうか。
いやいや、待てよ。そんなことを伝えたら、よし、じゃあ今日からぼくのことを
パパと呼んでくれ、なんていってきたりしないよな。
そこまで考えて、
「ハックショイ!!」
くしゃみをした。

そういえばもう冬も近い。さきほどまではみぬきちゃんが暖かすぎて
気づくことさえなかった。
オドロキはそこで一息つき、改めて裸の自分の姿に気づく。
(さてと、いいかげん着替えるとするか。 あ、あれ‥‥)


──その日、河津京作は、自分と同じ男物のパンツから
いろいろなものが飛び出すのを見て、パンツの奥深さを改めて知ったという。

                                                つづく

最終更新:2020年06月09日 17:50