成歩堂×千尋④

所長から連絡があった。
担当している事件の調査に出かけるので、事務所に顔を出すのは午後からになるとの事だった。
ぼくは留守番。
とはいっても所長が居ないんじゃ、働き始めてまだ一ヶ月の僕ではお客さんが来ても対応できない。
綾里法律事務所は開店休業状態ということになる。
「退屈だなあ…」
そう一人ごちて、ぼくは来客用のソファにどさっと座り込んだ。
事務所を見回す。どこを見ても整然と片付いているが、それでも人をくつろがせる柔らかい雰囲気も
ちゃんと備えている。
部屋はその住む人を表すというが、全くその通りだと思う。所長の綾里千尋さんは、そういう人だ。
いつもアイロンをかけてあってピンと皺ひとつないスーツ。そばにいるとシャンプーか香水かの、
いい匂いがする。キレイな髪と、キレイな笑顔と、スーツで覆い隠しきれていない肉感的な
カラダと……・
ヤバイ。
千尋さんの胸の谷間を思い出して不穏に疼いた股間を、ぼくは焦って抑えた。いかんいかん。ここは
仕事場だぞ。
理性の声に、本能が答える。
…でも、誰もいないんだし。

いやいやいや、でも、だな! 神聖な仕事場で、しかも自分の上司に欲情なんて、よくないんじゃないのか、やっぱり!?
…今さら、何言ってるんだ。ヨコシマなことを考えたのは別にこれが初めてじゃないだろう?
理性と本能が矢継ぎ早に会話を交わす。
そうなのだ。今までもつい所長に劣情を抱いてしまったことは実は、ある。千尋さんは…何と言うべきか、その…
もうちょっとミニスカートはいてる自覚持って下さいというか、結構自分の色気に無自覚な所があって、ぼくはよく
ドキドキさせられていた。
椅子に座って足を組んだ時のフトモモや、床に落としたものを拾おうとして露わになった胸の谷間を思い出す内に、
股間のモノはますます硬度を増していく。
…一度だけ。一度だけなら、いいよな。
とうとうぼくは、欲望のささやく声に負けた。
千尋さんの事務所で、千尋さんを汚す妄想をする事を、一度だけ許してもらおう。
ぼくはソファを立って、所長室のドアを開けた。真っ直ぐに千尋さんのデスクに向かい、その椅子に腰かける。
…いつも所長の豊満な肉体を包んでいるこの椅子にもたれかかると、あのイイ匂いがかすかに鼻を
かすめたような気がした。
ズボンのジッパーを下ろして、さっきから自己主張を始めていた息子を取り出す。手の平で包んで上下に
こすりながら、ぼくは所長の顔を思い浮かべ、目を閉じた。
(…なるほどくん…)
千尋さんを…このデスクにうつぶせに押し倒して…後ろから覆いかぶさったら千尋さんは
どんな顔をするだろう…。
あの豊満な体に、自分の体を押し当てて体重をかけて、動きを封じる。ピッチリとしたミニスカートを
捲り上げ、尻を露わにする。ストッキングを破り、下着をずらしていきなり指を押し込んだとき、
千尋さんはどんな声をあげるのだろうか。

(んっ…痛ッ…なるほどくん、やめ…ァ、あっ・・!)
(すぐによくなりますよ、千尋さん)
激しく指を動かしながら、そう囁きかけるぼく。
妄想の中で千尋さんを嬲りながら、千尋さんの反応を想像してみる。荒くなる息を殺そうと、
唇を噛んで堪える千尋さんも、いいよな。でもぼくが千尋さんの中に押し込んだ指を激しく
動かすうちに、次第に我慢しきれない声が漏れ始めたりして…
(んっ、ぁ、…はぁ、くぅッ…ん。やぁっ…)
(所長は意外とイヤらしいんですね。もうぐちょぐちょになってきましたよ。こんなに
エッチな人だったなんて知らなかったなあ)
(やめ、て…やめなさ、い、…ん、ふ、んんぅッ)
いつも冷静で理知的で、さもイヤらしいことなんて何も知りませんってカオした千尋さんを、
乱れさせてみたらどんなに征服欲が満たされるだろう。
…実際は、濡れ始めてるのはぼくの手の中の分身だけだったりするのだが。
ぼくの妄想の中の行為は、硬く膨張しきったコレを、千尋さんの中に突き入れる段階に
いたった。濡れて充血した所長の女性の部分を、指で押し開いてぼくのサオをあてがう。
所長はイヤイヤするように腰をねじって逃れようとするが、ぼくはそれを押さえつけて、
グッ…と一息にムスコを挿入した。
(ぁああっん! いやあッ、…なる、ほどくっ…)
抗議の声を聞かず、激しくバックから突きまくる。
(はァ、あ・・っ、ぬ、ぬいて…はぁっ、抜きなさいっ・・、上司の、
いうことが・・ん、あ、きけな、いの…はぁ・・はぁ、…っ)
(異議あり! 千尋さんのココがしめつけて離してくれないんです)
(ぁん、・・あぁ、ウソ、よ…ふぅっ、ん)
(最高ですね。千尋さんのココは) 言いながら、腰をぐりぐりと押しつけて千尋さんに
一層高い声をあげさせ、(あったかくて、キツくて、細かいヒダヒダがまとわりついて
くるみたいだ。もう、たまらない…)
所長を後ろから抱きしめて、デスクから抱え起こす。豊満な胸に腕を回して、激しく
揉みしだいてみる。
たぷたぷした肉の質感や、硬く尖った乳首の触感を手の平全体で味わう感触は
さぞ気持ちがいいだろう。位置的に、千尋さんの髪の毛がぼくの唇辺りに触れるので、
髪にキスしてみたり耳たぶに軽くかみついてもみる。
そういうしぐさのたびに、妄想の中の千尋さんは喘ぎ、ぎゅっと閉じた瞳には涙が
滲みはじめる。
(千尋さんがいけないんですよ。毎日毎日、ぼくを誘うようなイヤらしい色気を
ふりまいて。こんな目にあうのも自業自得なんですよ、千尋さん)
(ああ、ぁっ、・・ひっ、ァ、あ、なるほど…くっ・・、もうっ…
くぅん、ぁ、あ、あ、あっ)
ぼくの頭の中だけに響いている、千尋さんの喘ぎ声が小刻みに早くなっていく。
媚びるような、甘えるようなカワイイ声。普段の千尋さんは絶対に
聞かせてくれないような…・。考えるだけで、ぼくの手の中のモノは
もうイク寸前だった。
フィニッシュに、ぼくは妄想の所長に思いっきりイヤらしいことを言わせてみた。
(ぁ、ん、ああ…なるほどくん、お願いぃ・・! ぁはあ、出して、私の中に
いっぱい、なるほどくんの熱い精液ちょうだい!…ねっ、お願い・ん、はァ、
…ァ、あぁぁぁぁぁ――ッ!!)
どくっ、どくっ、びゅくんっ…
髪を振りながら乱れる千尋さんの姿を思い浮かべながら、ぼくは欲望の白濁を吐き出した。

「なるほどくん、留守番ご苦労様」
数時間して、千尋さんは言葉どおりに事務所に出勤してきた。
いつものパリっとしたスーツ姿、いつもの柔らかい微笑み。
けれどその姿を、いつものようには見ることのできないぼくがいる。尊敬している
大好きな人を、劣情のままに妄想の中で汚してしまったのだから。
「あら?どうしたの?何だか元気がないわね」
まさかあなたの乱れる姿を想像してオナニーしてましたなんて言えるはずがない。
ええ、まあ、などと言葉を濁すぼくに、ふふ、と千尋さんはいたずらっぽく笑って、
手にぶらさげた白い箱を掲げてみせてくれた。
「一人ぼっちで、さみしかった? なんてね。おわびにケーキ買って来たから、
二人でお茶にしましょうか」
その屈託のない笑みを前に、ぼくの抱えていた罪悪感がさらに募ったことは言うまでもない。


                          終
最終更新:2006年12月13日 07:59