「刑事くんの事が好き。」
…唐突に、目の前のじゃらじゃらした男は言った。
またいつもの軽口だろう。あたしは、コイツのそれが大嫌いだ。
「死んで下さい。」
そう言ってスタスタとその場から歩きだす。
いくらかりんとうを貪りつつ突っ立っているだけだろうと、一応は勤務中。
わきまえろアホ検事。

「相変わらずつれないね。結構傷つくんだ、それ。」
とてもそんなふうには見えませんけどね。
「私事なら、後にしてくれません?今仕事中なんで。」
出来る限り、最大限にトゲトゲしく言ってやった。
「…刑事くん、やっぱりさっき言ったこと信じてない?」
「はい。」
「……。そこまで即答されるとヘコむよ…。どうしたら信じてくれるのかな?」
いい加減鬱陶しい。
こっちは仕事中って言ってんのに…。
そんないかにも軽薄な嘘、誰が信じるか。
「もう、うるさ…『宝月刑事~!!』
最後の手段、かりんとうを投げつけようとした瞬間、突然部下から声がかかった。
『ちょっと、みて欲しい所がありまして…こちらへ来てもらえますか?』
よかった。これでなんとかコイツから離れる事ができるみたいだ。
命拾いしたわね。検事さん。
「了解。それじゃあ案内して。」
そう言ってあたしはそいつの前から去った。なんとなく視線が痛かった気がするが、気のせいだと思い込む事にする。


思えばいつも流してきたけど、あの軽口の真意は深く考えた事もなかった。
別にあたしじゃなくてもいいだろうに。
その辺の女の子なら、きっとキュンキュンメロメロしてくれるはずだよ。

そんな事を思いながら、あたしは報告書をまとめていた。
もう夜も遅く、そとは暗闇に包まれていた。
「づぁ~…ほんっとに忌々しい作業よね、これって。」
カリカリと自分のペンの音だけが響く。
こんなに静かだと、不思議と色々思考を巡らせてしまうものだ。

あの検事は、初めて出会った時から嫌いだった。
じゃらじゃらしているし、言動が軽薄っぽい。
最悪。
これが第一印象。
そのうえ誰彼構わず口説くし、優しいし、本当に女たらし。信じられない。

…自分も、そんなどうでもいい女の一人なんだろう。
彼にとっては、ゲームか何かしてるようなきぶんなのだ。きっと。

なぜだか、とてつもなく妙な気持ちになった。
苛々して泣きたい気分。
それもこれも、すべてあのアホのせいだ。

すると突然、部屋の扉が開く音が耳に入った。
と同時に、聞き慣れた声。
「あ、刑事くんか。こんな時間まで残業?」

思わず、顔を思い切りしかめてしまった。
「…そうですけど。牙琉検事こそどうなさいました?」
「いや、資料を置きにきたらここの電気がついててさ、覗いてみたんだ。」
コイツも一応、こんな遅くまで働くんだな…なんて思っていると、いつの間にその男は、隣に佇んでいた。
そしてあたしの手元を覗き込み
「ふーん。報告書書いてるんだ。お疲れ様。」
「お気遣いどうも。」
とりあえず適当に返しておく。
というか、何でもいいけどコイツ顔近い。
「……あの。」
「なんだい?」
「離れて下さい。」
目を合わさずにそう言ってやると、あいつはまだ顔をどけず、くすくす笑って見せた。
「…なんですか」
「刑事くん、顔赤いね」
その一言で、自分でも分かるぐらいに顔が熱くなる。
よりによってコイツの前で!
「うううううるさいっ!こっちみるんじゃないわよっ!」
慌てて男の顔面をぐいぐいと押しやる。
「あはは。照れてる君も可愛いね。」
「………っ!!」
顔から火でもふいたんじゃないだろうか。
熱くて熱くて仕方ない。


「そんなに恥ずかしがる事もないのに。可愛い可愛い。」
この男の軽口がまた始まった。
やめて欲しい。こっちは不快でたまらないのに。
「うるさい。気色悪い事いわないで。」
顔も合わせられない。恥ずかしい。
「ひどいなあ。本気なのに…。」
なにかと口を開けば本気、本気って…
聞き飽きた。そんな軽薄な嘘は。
「…本気とか、軽々しく言うな。迷惑。どうせ、その辺の女にも言ってるんでしょうが。」
俯きながら放ったそのあたしのせりふに、男はキョトンとしていた。
沈黙が痛い。
しかし数秒後、みるみるうちにそいつの顔が綻んでいくのがわかった。
なんだかとてもイイ顔している。
しまったと思った時にはもう遅い。
「…刑事くん、ヤキモチやいてくれてるの…?」
ヤキモチ
ヤキモチ
ヤキモチ
ぶあっと、脳内で反芻された。
ああ、そうだったの。
この落ち着かない感情の正体は。
モヤモヤとしていた何かが晴れていく。
「やっ…ヤキモチなんかじゃ…」
だが、頭では分かっていても、心では認めたくないようだ。
だって、このあたしが。こんなじゃらじゃらした男に。

次の瞬間、すうっと何かが頬を伝う。
男は、目を丸くしてこちらを見ていた。

泣いてしまった。訳もなく、ぼろぼろと雫がこぼれる。
どうしてしまったんだろう、自分は…。
ああもう、今日は失態の連続だ。死んでしまいたい。

すると、慌てて目の前の男は、腰を屈めて目線を合わせてくる。
「ごめん、刑事くん、ごめんね、泣かないで!」
そう言って頭を撫でてくる。
とても優しい手つきにどきりとした。
「触るんじゃ、ないわよ…っ。」
悪態をつくけど、まだ涙は止まらない。
「ごめんね。」
次は、頬にキス。おでこにキス。
頭が麻痺したようにクラクラとしてきた。心地いいと感じつつも、この状況を甘んじて受け入れるのも癪だ。
「何調子のってんのよっ…!!このっ、セクハ」
言い終わらぬうち、唇をふさがれてしまった。
熱くて柔らかい、その男のそれは、ひどく優しく。
長い長い口付けに、溶けるようだった。


「……」
どちらからともなく、唇を離した。
その瞬間目が合って、とっさにそらしてしまった。すごく顔が熱い。
そりゃそうだ。これがあたしのファーストキス。
なんの因果かこんな男に捧げてしまった。
「…刑事くん…可愛い…」
男の吐息があたしの唇をくすぐる。
「…うるさい…」
そう告げたあと、また口付けが再開される。
さっきのような長いキスではなく、啄むように何度もなんども。
「んっ…」
むずがゆくて、思わず声が漏れる。
いつの間に、あたし達はお互いの首に腕をまわし、求めあっていた。

そのうち軽いだけのキスだったのが、舌を絡ませる濃厚なものになる。
自分の頭の中で、水音が繰り返される。
「ふぁ…っぁ」
初めての感触に、背中のあたりがぞくぞくするのがわかった。
男は、巧みに舌を動かし、口膣をかき回す。
「はっ…んんっ」
駄目。くらくらして、頭がおかしくなりそう。
狂おしくて、まわした腕にさらに力を込めた。


おもむろに、そいつは私の胸元のリボンをほどき、ブラウスのボタンをはずしにかかっていた。
キスしながらだっていうのに、器用なもんだ。
あたしは、少し驚いて反抗する。
「ちょ…っとっ、なに、して…っん」
「ん…ごめんね。」
とかなんとか言って、止める気配は一向にない。
ぷちぷちと順調にボタンをはずし終え、遂にはブラのホックにまで手をかけている。
「あんたっ、ねえ…!人のはなし、聞いてんの…?」
すると突然唇が離れ、深くて長いキスが終わった。
「…ごめんね。…我慢できそうにないんだ…。」
驚いた。いつもの余裕のあるにやけ顔じゃなくて、とても苦しそうな表情で目を見てくるものだから。
「………っ!」
思わず、言葉を失ってしまった。

「…ばかっ…」
はらりと、あたしのブラが床に落とされた。

「ん…っあ」
右胸の先端に這う舌の感触に、体が震える。
座ったままの体制で、初めて味わう刺激に酔いしれていた。
「刑事くんのここ…ピンク色で可愛いね…」
そう言ってこいつは、もう片方の胸を包みこみ、揉みしだいていく。
「はぁ…っうる、さぃ…」
よくそんな恥ずかしいせりふを堂々と言えるな。

変態。
って言ってやったら、苦笑しながらキスをしてきた。

そのうち、男の手は胸元から、するすると下腹部に向かっていく。
突然の事にあたしは驚いた。
「!ちょっ、何してんのよっ!」
「何って…脱がすんだよ。このままじゃ難しいから、ちょっと立ってくれるかな?」
「…っ何平然と言ってんのよ!頭おかしいんじゃないの?!」
顔が燃えているのかと思うほど熱い。
「…そうかもしれない。」
くすくすと言いながら、そいつはそっと私を立ち上がらせた。
その時お腹に当たった硬いものは、例のジャラジャラしたアクセサリーだと思い込むことにした。


手慣れた手つきであたしのズボンと下着を取り払った目の前の男は、左頬を赤く腫らしていた。
「それにしても刑事くん…平手はひどいよ。」
「…あっ、あんたが、変なことするからでしょっ。」
そう。下着に手をかけられた時、つい反射的に殴ってしまったのだ。
それは小気味いい音をたてて。
それで今、この人は痛々しい有り様なのである。
「へ、変なことってさ…刑事くん…。」
ガックリとうなだれた彼は、頭を掻いた。
確かに、今までの状況からして、今更何を言うって話なんだけどさ…。
一応、負い目を感じて謝る事にした。
「…ごめんなさい」
あたしにしてはめずらしく素直だな。
「うん…まあ、気にしてないけどね。」
そう言った後、その検事はあたしを抱きかかえ、目の前の仕事用デスクに座らせる。
「…おしおきはさせてもらうよ。」
妖艶な顔で耳元に囁かれ、言いようのない感情に襲われた。
「なっ…」
次の言葉を発そうとしたとき、突然体中に電撃が走る。
「ひゃぁんっ」
気付くと、男独特の筋ばった指があたしの秘部を弄びはじめていた。
「ぁっ!あ!だ…っめっ…なにして…っ」
「綺麗だね…花みたいだよ…。」
一番敏感な蕾を執拗になであげてくる。
どくどくと、溢れるのがわかる。


快楽の行き場をさがし、男に必死にしがみついた。
「ふぁっ!ん、やっ…」
段々と激しくなってくる愛撫に、いよいよ何も考えられなくなってくる。
気のせいか、目の前のこいつまで息が荒く、頬も熱くなっているように見える。
「指、入れるよ…?」
そう言って、ゆっくりとナカにわって入っていく。
「あっ…」
さっきまでどこか物足りなかったものが、満たされていく感覚。
内側をさぐられ、淫猥な音が響く。
「やっ…、はぁ…っ」
なんとも言えない快感に身をゆだねていた時、ある一点を刺激された。
「………っ!」
にわかに、今までとは比べものにならない衝撃を受ける。
「はぁぁっ!そこ、だめ…っ!」
「ここがいいの?」
すると、その場所だけを強くこすりあげてくる。
「あうっ、だ、め…て、いって…んんっ」
集中的にせめられ、我慢ができなくなってきている。理性が吹っ飛びそうだ。
無意識にびくびくと腰が揺らめき出す。
「刑事くん…可愛い…」
「ふぁっ!あ、も…無理っ…!くる……っ!!」
「うん、いいよ。イッて…」
「ひゃうぅ…っ!!」
次の瞬間、目の前が真っ白になって、お腹のあたりが締め付けられるような感覚がした。

最終更新:2020年06月09日 17:50