かつてのライバルが逮捕された。そんなニュースがたまたま日本に居合わせた冥の耳に飛び込んで来た。
最後に会ったのは7年前。そのすぐ後、彼が弁護士の職を追われたと聞いた。それ故に、彼と納得のいく決着が付けられないまま、一度も会うことなく現在に至ったのだ。
時折、友人たちを通して彼の話を聞いてはいたが、なんとなく会う気にはなれなかった。
しかし、そのニュースは冥の中で忘れていた記憶を呼び戻す。
何度崖っぷちに立たされても悪魔のような信念を持って何度でも蘇る、その男の存在。不死鳥、と言えるほどカッコいいものでもなければ、お世辞にも鮮やかとは言い難い逆転劇。
冥の脳裏に蘇ったのは、熱血漢に溢れた青年の姿だった。
あの男に殺人なんてできるはずがない、その思いが彼女の足を留置所に向かわせたのだ。


「久しぶりね、成歩堂龍一。」
突然現れた冥の姿に成歩堂はキョトンと目を丸める。
「もしかして私が思い出せないのかしら?まあ、無理もないわね。あれからもう7年も経っているのだから。」
「いや、忘れるはずないだろ。キミみたいにインパクトのある女性はそうはいないからね、狩魔冥。」
けたたましい音を立てて、冥のムチが面会室の仕切りに命中する。
「フルネームで呼ばないでって言ったはずよ、忘れたとは言わせないわ。」
「相変わらずだな、キミは。」
「あなたは、随分と変わったわね。噂には聞いてたけど、今はピアニストなんですって?」
「うん、よく知ってるね。で、キミがわざわざこんな所まで尋ねて来てくれたのはどういう風の吹き回しかな?」
他愛もない話から、確信を突かれて冥の顔から含み笑いが消えた。
「こんなところにいるあなたを尋ねる理由なんて、言わなくても分かりそうなものだけど。」
冥がそう言うと成歩堂はニット帽を深く被り、表情を隠すようにする。そんな成歩堂をよそに続けた。
「審理は明日なんですってね。」
「ああ。そういう情報は職業上すぐに入るよね、狩魔検事。」
「残念だったわね。私が担当検事ならあっという間に有罪判決をプレゼントできるのに。まあ、せいぜい頑張るがいいわ。じゃあ、それだけだから。」
そう言って冥が面会室を出る直前、耳に届いた小さな声に成歩堂は薄く笑った。あなたが殺人なんてできるはずない、という言葉に。


成歩堂が無罪判決を受けた翌日の夜、冥と成歩堂は食事をしていた。
「一緒にディナーをしてやってもいいわ、ここに来なさい」と、突然呼びつけられて来たところは冥の泊まっているホテルのレストランだったのである。
「残念だったわね、成歩堂龍一。無罪判決を受けるなんて。」
冥の嫌味な言葉も、素直でない彼女が素直に祝福の言葉が口にできないから、その裏返しだとが分かっているので微笑ましく感じてしまう。
「それにしても、変われば変わるものね。」
「何のこと?」
「あなたのことよ。幼女を貰ってたり、ポーカーのプロになってたり。それに―」
「それに?」
「何でもないわ。娘さんは一人にしといていいの?」
「あの子はあれで結構しっかりしてるんだ。ぼくが何日も帰らなくても大丈夫だしね。」
ふうん、と頷いて冥は手に持ったワイングラスを傾ける。アルコールのせいか、ほんのり赤く染まっている彼女が妙に扇情的で、思わず見とれてしまう。その視線に気づいた冥が居心地悪そうに顔を顰めた。
「何ジロジロ見ているのかしら?」
「狩魔検事、キレイになったな、と思って。」
「は?あなた、熱でもあるのではなくて?」
「まさか。」
「そろそろ、帰るわ。」
突き刺さるような成歩堂の視線に耐え切れなくなって、冥は腰を上げた。その瞬間、足がぐらりと揺れる。どうやら飲みすぎたようで急に立ち上がったために足に来たのだ。
自分へと倒れこんでくる冥の体を座ったまま抱きとめた。
「大丈夫?その様子じゃまともに歩けないだろ。部屋まで送っていくよ。」
「けっ…結構よ!離しなさい!」
「別に何もしないから。ほら、立って。」
冥の腕を自らの肩に回し、立ち上がる。離せ離せと喚く冥を何とか部屋まで連れ帰り、ソファに座らせた。


「じゃあ、ぼくは帰るよ。今日は誘ってくれてありがとう。久しぶりに会えて嬉しかったよ。」
「ちょっと待ちなさい。」
自分を引き止める言葉に成歩堂は少々驚いた。一体冥は自分に何を言おうと言うのか。正直、これ以上冥と一緒にいたくなかった。彼女の姿に湧き上がる欲望を抑えるのは意外とキツいのだ。
「何?」
ソファに座る彼女を見下ろすと一枚のカードが差し出される。それは数年前に扱った事件に関係するカードに落書きが描かれた物で。
「ずっと、渡しそびれていたから。」
それは成歩堂に弁護士時代を思い起こさせる。
「こんな古いものを、わざわざありがとう。」
「別に。捨てるに捨てられなかっただけ。これを書いた子の気持ちを考えるとね。」
「真宵ちゃんか。懐かしいな。」
「なんだ、変わってないところもあるんじゃない。」
懐かしそうにカードを眺める成歩堂の表情は7年前のそれで、冥の表情が自然と綻ぶ。そんな冥の屈託のない笑顔が、成歩堂の心を揺らした。
「狩魔検事、ダメだよ、そんな顔しちゃ。」
「え?」
成歩堂の言葉の意味が分からず呆ける冥を真っ直ぐな視線で捕らえる。
「そんなカワイイ顔されたら、約束が守れそうにない。」
「何言って…」
言いかけた冥の言葉は成歩堂の唇で遮られた。離そうとして抵抗してみるものの、両手をソファに押し付けられるようにして拘束されているので思うように動けない。
成歩堂の熱い舌が冥の口中に侵入し、冥の中を激しく犯してゆく。しばらく堪能した後に、唇だけを解放した。


「このっ…ナルホドーがっ!何を考えているの!?」
縛られて動かせない手の代わりに、反抗的な視線を投げつける。しかし成歩堂は冥の視線にたじろぐことなく、優しい目で冥を見据えている。
「仕方ない。好きだったんだ、昔から。忘れてたのにこんなタイミングでぼくの前に再び現れるから…」
「バカがバカらしくバカな戯言を…そんなこと初めて聞いたわ!」
「あの時はそんなこと言えなかったからね。」
両手を押し付けたまま、首筋に舌を這わせると冥の体がビクリと震える。
「じゃっ…あ、なんで、今更…そんなこと言えるわけ…?」
「人はね、変わるんだよ。ぼくにとってこの7年はいろんなことがありすぎた。」
「確かに、あなたは変わったわ。あの最後の証拠品、あなたの仕業でしょう?犯人のあの弁護士の態度を見たらあの男が本物を持ち去ったことは一目瞭然だわ。それに、あの新米弁護士がそんなことをするようには思えない。」
「だったらどうだって言うんだ?」
成歩堂は悪びれもせず、ふてぶてしく笑っている。
「もうぼくは弁護士じゃない。それにあの証拠品を使ったのは彼だ。」
その言葉に冥は胸中から湧き上がる怒りを感じて、成歩堂の手を振り払った。
「あなたがそんなこと言うなんて…よっぽどのことがあったのでしょうね。例えば、あの弁護士に陥れられたとか。」
冥の言葉に成歩堂の表情が険しく変わった。抑えていた欲望が再び顔を覗かせる。
「キミにはわからないだろうな。7年もあの地下室でポーカーをし続けるということがどんなことか。」
「狩魔は完璧をもってよしとする。そんなあなたの女々しい言い訳なんて分かるわけないでしょう。」
「相変わらずだな、キミは。でもキミのそんなところが好きだな。」
冥をソファに押し倒し、ブラウスを肌蹴させて鎖骨に舌を這わせる。
「そっ…んな、口車にっ…」
下着を剥ぎ取ると露になった冥の乳首を優しく刺激した。
「あんっ…ダメ…」
口に含んだり、指で刺激したりしているとそれは見る間に固くなってゆく。
「何がダメなんだ?こんなに固くしちゃって。」
「いや…やめなさいっ…」
キッと睨みつける冥の視線を軽くあしらうように冷笑を浮かべると耳元で囁きかける。
「わかってないな。そんな反抗的な目をされたら余計に刺激される。ぼくはそんな目をした挑戦者に片っ端から勝利してきたんだ。」
両腕で冥の体を抱えあげてベッドの上に寝かせ、組み敷くように覆いかぶさると、冥は困惑に表情を歪ませた。
「どうして…」
「ベッドの方がいいだろ?まあ、ぼくはどっちでもいいんだけど。」
飄々と言ってのける成歩堂を信じられないといった表情で眺める。これから自分が何をされるかが安易に想像できてしまう。
「はっ、離しなさい!私にこんなことをして許されると思ってるの!?」
「別にいいよ、許してくれなくても。ぼくはね、ずっとキミを抱きたいと思ってたんだ。」
「このっ…やめなさい!ナルホドー…」
非難めいた言葉を吐く冥の唇を塞ぎ、欲望のままに荒々しく貪る。そうしながら左手は胸を揉み、右手はスカートの中へと滑り込ませる。下着の上からなぞると閉じようとする冥の足を自らの体を割り込ませて遮った。
そのまま指を下着の中へ滑り込ませてクリトリスを転がすように弄ると冥の中から徐々に粘液が溢れてくる。成歩堂が唇を解放すると、その口からは切ない吐息が漏れた。
「どう、気持ちいい?」
「やめ…なさい…今やめるなら許して…やっ…!」
体は感じながらも口では減らず口を叩く冥の中に、指を立てた。すでにしっとりと湿っていたそこは、なんなく成歩堂の指を飲み込む。
「キミの上の口は反抗的だからね。下の口に聞くことにするよ。」
スカートとショーツを一気に剥ぎ取り、両手で膝を固定し、足をM字に開かせると成歩堂は濡れた秘所に口づけた。
「ひっ…いやぁ…」
「嫌じゃないだろ。こんなに濡らしてさ。」
ぴちゃぴちゃとわざと淫猥な音を立てながら下の口を丹念に舐め上げてゆくと、抵抗していた冥の体から力が抜けてゆく。
さっきまで暴れていた足も今は力なく成歩堂の手中に収まっている。それをいいことに、足をさらに大きく開かせて二本の指を突き立てた。


グルグルと指を回しながら、舌でクリトリスを転がしていると冥の腰が揺れ始めた。
「狩魔検事、どうしたんだい?」
「やっ…ダメっ」
「何が?」
「やめて…もう…」
一層深く指を突き立てて掻き回すと冥の中が指をきゅうきゅうと締め付けてくる。
意地の悪い笑いと共に冥を見やると恥ずかしそうに真っ赤な顔を背けて何やら体をもじもじと揺らしている。
成歩堂は服を全て脱ぎ捨てると再び冥の上に覆いかぶさった。
「ほら、言ってくれなきゃわからないよ。」
軽く口付けて耳元で熱い吐息と共に囁きかける。そのまま首筋に噛み付くと冥の体がゾクリと震えた。
「そんなの…だって…ああんっ…」
触れられてもいないのにすでに固く反り返った熱い剛直を入り口にあてがい焦らすように何度も擦ると、求めているものが与えられない辛さに冥の理性がガラガラと崩れてゆく。
「成歩堂、はやく…」
「はやく、何?」
「して…もう、ダメ…ッ」
己を求めて腰に足を回してくる冥の姿を満足そうに見ながら、さらに焦らしにかかる。
「何を?それだけじゃわからない。」
「挿れて、はやく…っ!」
もはや何を言っているのかわからない。熱く疼く体を早く鎮めてほしい、ただそれだけだった。冥から引き出した己を求める言葉を引き金に、一気に己の猛りで貫いた。
「ああっ…んっ…」
成歩堂の侵入だけで今にも達してしまいそうなほどに仰け反り、締め上げる。その感触は成歩堂自身をさらに成長させてゆく。
「くっ…すごい、狩魔検事。締め付けてくる…」
腰をゆっくりと動かすと、我慢できないといった様子で冥は腰を擦り合わせてきた。
「はあっ…あっ…」
ぐるりと腰を回すと冥の口から甘い声が漏れる。
「キミがこんなに感じやすいとはね。かわいいよ、狩魔検事。すごくいやらしい。」
羞恥心を煽る言葉をわざと言うと、冥は案の定反発してくる。
「変なこと、言わないで…あああっ!」
しかし軽く動くだけで、その非難めいた言葉は喘ぎ声に代わり、反抗的な表情は恍惚としたそれに変わる。成歩堂が突き上げ始めると、冥は成歩堂にしがみついて自らも腰を揺らした。
「狩魔検事、気持ちいい?」
「んっ…はぁっ…いい、もっと…」
冥はもはや快楽の虜となってしまっている。自然に出てくる成歩堂を求める言葉に羞恥心を感じる余裕もなく、突き上げられるままに喘ぎ、乱れた。
「あっ…成歩堂、もう…っ」
冥が達する気配を察して直前で成歩堂が冥の中から出ると、どうしようもなく疼く体を抑えきれない。
「いやっ…やめないで!はやく来て、お願い…」
そんな冥とは対照的に成歩堂は余裕の表情を浮かべている。
「そんなに焦らなくても、ちゃんとしてあげるからさ。」
言ってあぐらをかくように座り冥を引き寄せると、形のいい冥の尻を両手で掴み自身の上に落とした。そのまま突き上げ始めると冥の両腕が首に回され、密着状態となる。
「すごく締まってる。気持ちいいよ、狩魔検事…」
突き上げながら耳元で囁くと、上で揺れる冥の締め付けが一層きつくなる。尻を掴んで揺さぶると結合が一層深くなった。


「ああああっ!気持ち、いい…成歩堂、もっと…っ!」
奥までかき回され、輪をかけて引き出される快楽に溺れる。もはや冥には理性など一欠けらも残っていない。すすり泣くような声で喘ぎ、成歩堂にしがみついて自ら腰を打ち付ける。
冥に触発されるように成歩堂もまた、冥をしっかりと抱えて奥まで突き上げた。
「狩魔検事、最高だよ。すごくいやらしく絡み付いてくる…」
「はあんっ…すごい、いいっ…もっと、激しくして…」
よがり狂いながら我を忘れて呻く冥を成歩堂はさらに激しく突き上げる。
「どう?まだ、足りない…?」
「いいっ…成歩堂、すごいっ…ああああっ…」
髪を振り乱し、涙を浮かべながら快楽に身を任せる冥を見ながら成歩堂は自分の限界を感じていた。
腰を激しく打ち付けると結合部からはぐちゅぐちゅと淫猥な音が漏れ、溢れかえった愛液が成歩堂の腹の上を伝って落ちる。抉るように何度も深く貫くと、冥が嬌声を発した。
「あああっ…!もうダメ、いい、いっ…いく…っ!」
「くっ…ぼくもいきそう…だ…」
初めて苦しそうな表情を見せ、低く呻いて成歩堂は冥の中に精を放った。冥の中は成歩堂の欲望を飲み込み、食い千切らんばかりの勢いで締め付ける。冥が首に回した手を離した後も、成歩堂はしばらく冥を抱きしめていた。

少々落ち着きを取り戻し、冥をベッドにそっと横たえ自らも隣へ寝転ぶと、冥は赤く染まった顔を逸らした。
「最悪だわ…」
「最悪だって?最高の間違いじゃないのかい?」
「そんなわけないでしょう!無理矢理私を…手篭めにしておいて!」
覗き込み視線を合わせると今にも噛み付きそうな勢いで冥が突っかかってきた。
「無理矢理とは酷いな。キミだって気持ちよさそうによがり狂ってたじゃないか。」
「なっ…よくもそんなこと言えたものね。恥を知りなさい!」
「あれだけの痴態を見たら、今更恥も何もないとおもうけど。それにキミがこんなに感じやすいとは知らなかった。誰がキミをこんな体にしたのかな。」
「そっ、そんなことあなたには関係ないでしょう!」
真っ赤な顔で怒声を浴びせかける冥と先刻の乱れ狂った姿とのギャップに、気の強い女を狂わせたという快感が再び蘇る。
鎮まったはずのペニスがまた固さを取り戻すのを感じて、再び冥の上に覆いかぶさり固くなりかけたそれで冥の秘所をまさぐった。その感触に見る見る膨張してゆく。
「ちょっ…まだやる気!?いい年してどんな性欲してるのよ!」
反抗の色を濃く映す冥の目は、軽く先端で突いただけで切なく潤んだ。
「仕方ないだろ、当分ご無沙汰だったんだ。そんなときにキミみたいないい女を抱いたら止めろって方が無理な話だ。」
「そんなのあなたの勝手でしょう!私には関係…あんっ…」
不意に乳首を咬まれて不覚にも声が漏れてしまう。
「関係ないとは言わせないよ。ぼくをこんなに刺激したのはキミなんだから。」
「あなたが勝手に欲情しただけじゃない…」
「そんなこと言わないでさ。ああ…もう、キミの中に入りたくて堪らない。」
耳元で熱く囁きながら了解も得ずにずぶずぶと淫猥な音を立てながら埋め込むと、すぐに熱い壁で締め付けられた。
「あんっ…もう、やめなさい…!」
「え?止めていいの?気持ちいいくせにさ。強がらないでせっかくだから楽しもうよ。」
そう言ってぐちゅぐちゅとかき回すと、冥は切ない喘ぎ声を漏らした。


そして長い夜は続く。


おわり

最終更新:2020年06月09日 17:50