ウエディングドレス姿のみぬきちゃんがオレの前に立っている。
顔を赤くして、下から見つめてくるその姿がとてもかわいらしい。

日差しが差し込み、オレたちの影を伸ばしていた。
誰もいない教会。二人だけの世界だ。
国ではオレたちは一緒になることができない。
ここは誰でも結婚をさせてくれる町、ラスベガス。
Minuki Naruhodo と Hosuke Odoroki と書かれた婚姻証明書の前で
オレ達の影が重なる。
漢字で書かれたそれを手にすることは、生涯できない。

祝福する何者もいない中で体を離したオレの耳元に、小さく声がかかる。
聞き取れなかったその言葉を聞きなおすと、少しだけ大きな声で言ってくれた。
「やっぱり、王泥喜みぬきになりたかったな、って」

「みぬきちゃん‥‥」
あいかわらず、彼女は決して泣くことはない。その切なそうな顔のままに
させておきたくはなくて、もう一度唇を近づけた。

「発想を逆転させるんだ、オドロキ君!」
「きゃあっ!」

大きな声がして、みぬきちゃんが飛び上がった。

「せ、先生?」
これはたしかに牙琉先生の声だ。きょろきょろと見回すがどこにもいない。
そうだ、先生は刑務所のはずだ。こんなところにいるはずがない。

「結婚をし、成歩堂みぬきが、王泥喜みぬきになることができないなら!」
先生の声はさらに高い。どこにいるんだ、あの人は。

「彼と同じことをもう一度すればいい!」
彼? 彼って誰だ。

神父の姿をした先生がどこからともなく現れると、オレに指をつきつけた。
「成歩堂みぬきを養子縁組することで、王泥喜みぬきにすればいいんです!」
「な、なんだって!」

「パパっ!」
みぬきちゃんがオレに走りよってくる。見たこともない姿だが、
小学校くらいのころのみぬきちゃんだろうか。これはこれでやっぱりとてもかわいい。
「みぬきちゃ‥‥いや、みぬき」
抱きあげ、ぎゅっとしがみついてくるみぬきちゃんの体を抱きしめる。

「これでみぬき、王泥喜みぬきになれたんだよねっ」
「ああ、そうだね」
「みぬきねっ、大きくなったらパパと結婚するの!」
「ははは、みぬき、大きくなるのを待ってるぞっ」

そのままオレたちは教会を出て行く。後ろから先生の声が響く。
「オドロキ君、きみの未来に幸があるように!」

ありがとう、先生!


「牙琉! キミのそれは逆転とは言わない!」
「な、なにっ!」
それにかぶさるように声が響いた。教会のドアを開けて入ってくるのは成歩堂さんだ。

「発想を逆転させるとは、こういうことをいうんだ!」
先生に指を突きつける。さすがに似合っているな、場違いながらそう思う。
「成歩堂みぬきが、王泥喜みぬきになることができないなら!
王泥喜法介が成歩堂法介になればいい!」
「な、なんだってぇ!」

元通りの姿になったみぬきちゃんがオレにしがみついてくる。
「これでオドロキさん、本当のお兄ちゃんになれたんだねっ!」
「いや、最初から本物だから!」
「ホースケ、大きくなったらパパと結婚するのっ」
「オレ、そんなこといってないよ!」
「ははは、法介、男同士は結婚できないぞっ!」

「なああああああああるううううううううほおおおおおおおおおどおおおおおおお!!」

 

(なんて夢を見てるんだ‥‥オレは)
どんよりと顔に縦線をいれながら、オドロキはため息をつく。

(だいいち、養子縁組をしたところで、問題はなんにも解決しないよ。
そもそも、性的関係にある場合は養子縁組は認められないはずだ。
‥‥たしか。それにしても、それをどうやってみぬくんだろう。どうでもいいけど)

もう一度深く息をして、疑問とともに夢の残滓を外へと追いやる。
枕元の時計は普段の起床時間よりもかなり早い。
寒さは日に日に厳しくなっているはずだが、そんなことは二週間前から微塵も感じなくなっている。
体中から熱気を発散しているような少女とともにいるようになってから。

暗くなりはじめた思考を遮るように、目の前にある愛しい少女の顔を見る。
夢の中のそれと変わらず、オドロキの見慣れた、幼い表情が吐息を立てている。
あいかわらず起きる気配はない。感触を思い出し、唇に目がいく。
なんとなく手を伸ばす。

(ぷにゅ、ぷにゅ、と)
張りのある小さな唇を指先でいじる。はじくような感触の、手触りを楽しむ。
「おいーっす」
下唇を手前に引き、小さく声を出してみる。整った顔が崩れて、かなり変な表情だ。
頬を両脇から押しつぶしたり、鼻を上向きに向けてみたり、後で知られたらかなり
怒られそうな表情をさせてみたりした。
「はははは、はは」
笑い声が漏れた。部屋の中にすぐに消えてしまったけれど。

(そういえば昨日は、みぬきちゃんの前で、ほとんど笑えなかった)
相変わらず崩した顔から指を離すことなく、神妙な表情でオドロキはみぬきを見る。
そのまま、ベッドの上に、裸のまま半身を上げ、背筋を伸ばす。
くだらない夢と、目の前にいる面白い顔の少女のせいで、少しはすっきりしたようだ。
オドロキは持ち前の強いまなざしを取り戻す。涙のあとはもう見えていない。

(泣いていても解決なんかしないよな)
(みぬきちゃんのために、オレのために、より良い方法を考え、選択しよう)

みぬきと同じように、オドロキも本来前向きと勢いが信条だ。
大きく息を吸う。最近忘れていた。元気を出すためには、これが一番だ。

「王泥喜法介、大丈夫ですっ!!」

「朝からうるさいなぁ、オドロキさんは」
耳元でとんでもない声を聞かされ、それによって叩き起こされたみぬきはふてくされている。

そんな声が聞こえていないのか、返事もせずに朝食の用意をしているのはオドロキだ。
化粧の時間がほとんどないみぬきは朝にあまり時間がかからないが、
シャワーなどを浴びている間に作っている。

着替えたみぬきが食卓についた後、オドロキはさっそく用件を切り出した。
「みぬきちゃん、今日は時間はある?」
「えっと、今日は学校が終わったらその後は何もないですけど」
「そうか。じゃあ帰りはすぐに事務所に寄って」
「うん、わかった」

仕事でもあるのかな、とみぬきは思った。
昨日よりはずっと元気そうなオドロキをみて、みぬきは口に出さずにほっとする。
オドロキに言ってはいなかったが、昨日のオドロキはとても憔悴しているように見えたのだ。
そのままにするのが忍びずに、だから、恥ずかしかったけれど、元気を出してもらおうと
自分から積極的にしてみた。

昨夜を思い出し、食事をしながらみぬきは赤面する。オドロキには何を見られてもいいとは
思っているが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

普段は朝の早いみぬきが先に出るが、朝の早かった今日は二人で一緒に部屋を出る。
糊のきいたシャツにトレードマークの赤いスーツを身にまとったオドロキを間近で見る。
力強く前を見るオドロキの横顔は、いつからかみぬきの胸を熱くさせるものになっていた。

視線に気がついたオドロキが、みぬきの顔を見る。その視線に昨日のようなぶれはない。
「行こうか、みぬきちゃん」

部屋からさほどかからず、分かれ道に近づく。
みぬきは握っていた手をはなし、足を止めて、男を見た。
「いってらっしゃい、みぬきちゃん」
「いってきます、オドロキさん」

人のいないほうから、そっと頬にキスをして、学校へと向けて駆け出した。


事務所についたオドロキは、昨日は目を通す時間のなかった成歩堂が残した書類を読み始めた。

内容は、やはり別の法律事務所や弁護士の紹介状がメインだ。
中にはアメリカのものもある。手回しのいいことに、ペアでの宿舎が用意される
ということまで書いてある。この国からいなくなることまで想定しているのだろうかと、
オドロキは思った。
それ以外にも、王泥喜法律事務所を設立するパトロンになってくれるという
書類まであったのには驚いた。
あやしげな商売のようだが、そんなに儲かるものなのかなと不審がる。
他にも、専属弁護士契約の予約もはいっている。なんとかマシスという署名だ。
画家のようだが、そんな職業に弁護士が頻繁に必要なのだろうか。

かなりの分量のあった書類をすべて読み終わり、オドロキは一息つく。
二週間でまとめるにはかなり大変だったろう。成歩堂に感謝の意がおきる。

成歩堂への怒りはあった。最初から言ってくれていれば、みぬきとは仲の良い兄妹として
ずっと過ごせていたことだろう。
こんなことになる必要はなかったはずだ。

ただ、それでもオドロキは、みぬきを一人の女性として愛せたことと、
その時間をくれた成歩堂に、ある意味では感謝もしている。
この二週間はオドロキにとって、代えようもなく大切なものだった。

オドロキは全てを過去形で考える。
みぬきと別れることは、彼の中ですでに既定事項となっていた。

「みぬき、ただいま帰りました!」

事務所のドアが開く。
多くの書類がのった机の前で、オドロキはいつものように声を返した。
「お帰り、みぬきちゃん」


こわばった表情のみぬきを見るのは悲しい。その思いは表情に見せず、オドロキは続ける。
オドロキの謄本をまず見せてから、言葉をなくしてしまったみぬきへ、
成歩堂の2つの話、4つの選択を聞かせた。

「オレの話はこれで終わりだ。昨日の昼、成歩堂さんにここまで聞いたんだ。
みぬきちゃんに話を聞かせない、という選択はなくなったわけだけど」

最初にオドロキが消去したのは、みぬきに真相を伝えない、というものだ。
何も言わずにそのままつきあうことは、自分が許せなかった。
何も言わずに消えることは、考えはした。それも取らない。
他の、わざと自分を嫌わせる、などの選択肢も考えた。

全ては捨てた。自分は弁護士だ。全ては対話のなかでしか生まれない。
誤魔化しや逃げで、それを否定することはできない。

「それで‥‥オドロキさんの結論はどうなったんですか」
固い表情はくずさない。名前を呼ぶ前のためらいは、兄と呼ぶ行動だったのだろうか。

「昨日抱いてくれたのは‥‥そういうことですか?」
「オレの望む選択は、みぬきちゃんとは別れることだ」

揺ぎない発言に、表情が固くなる。告白の、その時よりもなお。
「そして、オレは、この成歩堂なんでも事務所でそのまま働いていきたい。
みぬきちゃん、キミとも二週間前までのように、付き合いたい」

ひどく自分勝手なことを言っているな。オドロキは思う。
捨てた上で、元通りにつきあっていきたいと言っているのだ。
ひどい男だ。

「みぬきちゃんが、オレがそばにいることを許せないといっても、出て行くつもりはない」
(首だとでも言われればどうしようもないけど)
後の台詞は口に出さずに、閉じる。みぬきの発言を待つために。
それは、さほど待つこともなく、返された。

「‥‥パパは、選択はオドロキさんに任せるっていったんですよね」
「ああ」
「じゃあ認めます」

あっさりとそう言った。表情もぬぐったように元に戻っている。


「そう」
みぬきの許諾に、無感動な返答を口に出す。

「はい。でも」
「でも?」
「でも、今日までは恋人ですよね」
「え?」
「だって、一緒に働いてても、友達でも、そうじゃなきゃ兄妹でも、裸で一緒のベッドに
寝てるのは変ですよね」
「まぁ、そうだけど、それは今朝までということなら」
「ダメです。ものごとには区切りってものが必要なんです」

強い口調でみぬきは詰め寄る。もごもごと反論を口にしようとしたが、
昨晩体を合わせた弱みに、オドロキはいい答えを探すことができず、しかたなく折れた。
「‥‥わかったよ。じゃあ、どうしようか。恋人らしく、デートでもしようか」

みぬきはふるふると首を振る。
「手を繋いだり、一緒にごはんたべたり、お買い物したりなら、2週間前までも
ずっとしてましたよね」
「まぁ、たしかに」

「オドロキさんの部屋に行きましょう」
「何をするの?」
「決まってるでしょ」

みぬきはオドロキに指をつきつけて、宣言した。

「Hです」

 

オドロキは飲み物とできあいの食料を買ってアパートへと向かっている。
みぬきは着替えてから薬局へと行くという。
一緒にいこうよとオドロキは誘ったが、それは明日からでもできますといって意に介さなかった。

自宅への道中で、冷たい風にさらされながらオドロキは先ほどまでは見せなかった迷いの表情で
自問を続けていた。
(これでよかったのかな)

考えても答えが出ることではない。というよりは、考えたら答えはひとつしかなかった。
結局は、セックスと愛だ。
オドロキは、セックスと、それ以外を比べたときに、あまりにも失うものが
多すぎると感じた。理性的に言うと、全てを敵に回すもう一方は選ぶことは不可能だ。
セックスがなくとも、みぬきを愛せることはオドロキは自負している。

今までの関係についても、みぬきの年齢や、二人が会っていたのはアパートやその周辺に
限られることが良い方向に働く。もともとよくくっついていた二人だ。
気づかれることはないだろう。まことや茜には説明すればいい。
まだ肉体関係にまで及んだとは思っていないならば、なお好都合だ。

オドロキは、なにか暗くなり始めた考えをやめる。それを考えるのは明日でいい。
今日の自分は、恋人とやりまくるために料理をしなくてすむ買い物をしている
バカップルの片割れだ。眉間の皺を寄せるよりは、鼻の下を伸ばすべきだろう。

その時、ちょうどいいタイミングで携帯の着信音が鳴った。
非通知のディスプレイを見ながら受ける。

「はい、もしもし」
「やあ、オドロキくん」
「‥‥成歩堂さん?」


成歩堂の声だ。オドロキは不思議に思う。
この人はこっちの行動をずっと見ているんじゃないだろうか。

「オレに任せるんじゃなかったんですか」
「いや、すまない、気になったんでね。で、どうかな。決まったかい」
「ええ、決まりました」
「へえ、さすがに早いね。それで、どういうふうにしたの」
「みぬきちゃんには話しました。そして、彼女とは別れます。
ただし、事務所からは出ていきません。みぬきちゃんのそばにはいますよ」
「そう、か」
「今さら成歩堂さんがダメだとかいうのは認めませんよ。
それと、成歩堂さんがみぬきちゃんに今回の件で嫌われても、オレは助けませんからね」
「‥‥ああ、そうか。それは困るな。だけど、ま、大丈夫だろう」
「余裕ですね」
「そうかな。余裕なのは、キミのほうだと思うけどね。ぼくは、オドロキくんが

 『みぬきが好きだもん‥‥別れたくないもん!』 とかいうのかと思っていたが」
「成歩堂さん、ネタが古いですね」

オドロキは軽口に乗ってこずに冷たい口調のまま続ける。

「ごめん、真面目に話すよ。そんなにトゲトゲしないでくれ」
「そうしてください」
「オドロキくん」
「なんですか」
「みぬき‥‥のことだけを考えたんじゃないよな」
「違います」
「即答だね」
「恋人じゃないとしても、オレは彼女のそばにずっといられるんですから」
「恋人じゃなくなってもかい」
「一緒に働いている同僚としても、友達としても、兄としても、です」
「みぬきは、悲しまないだろうか。そういうふうになっても」
「みぬきちゃんのことはわかりません。でも、オレはそれでいいんです」
「それでキミは充分なのかな。心から、そう思えるかい?」
「おかしなことをいうんですね、成歩堂さん」
「?」
「あなたは、みぬきちゃんのことを心から愛してないんですか?」
「‥‥ああ、これは一本取られたな」

「オドロキくん」
「はい」
「ありがとう。これからも、みぬきのことをよろしく頼む」

通話の切れた携帯をしまい、オドロキはアパートへと再度歩き出した。


部屋の簡単な掃除をしている間に、いつものシルクハットをかぶったみぬきが帰ってくる。

「ただいま~」
「お帰り、みぬきちゃん」

視線を向けたオドロキは、抱えた袋の中のコンドームの数と栄養ドリンクを見てげんなりした。

(オレたちはこれから何をするんだろう?)

ベッドの上で互いに向き合う。すでに身にまとうものはない。
恋人としての最後の時間。しばらく互いの瞳を見つめ、やがてみぬきが声を漏らす。

「はじめて会ったときから、好きでした」
「それは嘘だよ」
即座に返した。

「オドロキさん、空気読んでください」
「いや、嘘だってすぐわかるし」
力を使ったわけでもないが、当たり前のようにすぐわかる。

「じゃあ質問を変えます」
むっとしたみぬきはオドロキに指をつきつけた。

「えっ、今の質問だったの?」
「おっぱいは大きいほうが好きですか」
「しかもその質問、全然関係なくない?」
「いいから答えてください」
「‥‥ええと、みぬきちゃんくらいのが」
「嘘ですね」
汗が出た。

「まことさんをHな目で見たことがありますね」
「ははは、そんなことが」
「嘘ですね」
だらだらと汗が出る。

「茜さ」
「待った! ちょっと待って。
じゃ、じゃあ、質問を返すよ。牙琉響也のことをかっこいいと思っている」
「はい」
(‥‥まぁ、本当にかっこいいからな)

「オレよりも、牙琉響也のことをかっこいいと思っている」
「はい」
(‥‥すこしくらいは反応してくれてもいいと思うんだけど)

「じゃあ、牙琉響也のことを‥‥Hな目で見たことがある」
「いいえ」
反応は0だった。

「今度はみぬきの番ですね。まことさんとHしたいと思ったことがある」
「‥‥」
「オドロキさん」
「すいません、あります」

「‥‥もう一つ、質問しますよ。今、まことさんとHしたいと思っている」
「思ってない」
「茜さん」
「みぬきちゃん以外の誰とも、そうしたいと思ってない」

「最後に一つだけ。
みぬきを、連れて逃げたいと思ってませんか」
「心の底からそう思ってるよ」

唇があわさる。朝触ったときのように、初々しい感触を同じもので感じ取る。

「ん‥‥ふぁ‥‥」

舌先は二人の歯茎をめぐる。唾液がこくこくと溢れ、互いの口内を満たす。
胸元へこぼれた雫を使い、オドロキはみぬきの乳首へまぶそうとする。
それを押しとめると、かわりに唇をはずしたみぬきの舌がオドロキの胸へと近づいた。
舌先で申し訳のようについている乳首をこすりあげる。
ひくんと反応するオドロキを見て、みぬきはにっこりと笑う。
(ひょっとして、いじめる方が好きなのかな)
みぬきは今更ながらにそんなことに気がついた。
(いまさら、じゃないよね)
時間はまだ、たくさんある。

みぬきが上になり、シックスナインの体勢でオドロキはみぬきの
色づきの少ない性器を愛撫する。
ほんの少し広げ、口の部分を指先でこにこにとこねる。
クリトリスは刺激が強すぎるのか、みぬきは前戯にはあまり好まないようだ。
いつも一番最後の時に、若干触るようにしている。

みぬきは逆側でオドロキの先端を小さく舐めている。
口はよく回るというのに、舌先はやっぱりぎこちない。ちろちろと反応の良い場所を
攻めている。

ある程度潤ったと思った頃、オドロキは体を起こした。
みぬきは申し訳なさそうな顔をしている。

「気持ちよくないですか?」

それに返すことはなく、ベッドの横に腰掛けると、みぬきの細い腰を持ち、
自分の膝に股間をあわせた。

「な、なに、オドロキさん」

オドロキはそのままみぬきの腰を前後に動かした。
にちゃにちゃと音を立てて、膝の摩擦によってみぬきの幼い陰唇も前後へ動かされる。

「いい音だね、みぬきちゃん」
「やっ、やだ」

みぬきの手がオドロキの肩にかかる。かわりにオドロキは膝を前後左右に動かした。
みぬきの腰を固定したまま、ロデオのように動かす。
あいている唇で乳房への愛撫も重ねる。ちゅみちゅみと動きにあわせて
舌先と乳首が小さく触れ合う。

「こんなの、恥ずかしい!」
みぬきは顔を赤くして嫌がる。音はより強く、摩擦も薄く、膝にぬめりがあらわれ、
よりみぬきの羞恥が強まる。
ひきめくられた花はぬらぬらといやらしく開き、オドロキを猛らせる。

「やだ、みぬきも何かしたいです」
「ダメだよ」

みぬきは肩に手をおいたまま、支えの手を動かせない。
股間で赤くはれ上がるそれを見て、みぬきは何かしてあげたくてたまらない。
いつしか気づかないうちに、みぬきは自分で腰を振っていた。

「んっ、だめっ、オドロキさん、だめ」
みぬきが口から声を漏らすが、オドロキはもう体を動かしてはいない。
自らの腰を振り、オドロキの膝にこすりつけ、果てるまで自身で体を慰めていた。


「オドロキさんって、けっこうヘンタイだよね」
「一人でいっちゃうみぬきちゃんこそ‥‥ごめん、嘘」

ふりあげたこぶしを下げて、みぬきはオドロキに冷たい声をなげかけた。

「みぬき、15歳なのにHなことするし」
「それは、オレだけのせいじゃ‥‥いえ、すいません」

「まことさんにも色目を使ってたみたいだし」
「色目なんて使ってないよ! 美人だし、ほんのちょっとそう思ったことがあるだけだってば!」
「まことさんも、オドロキさんのこと、ちょっといい、って思ってたみたいだし」
「え、ほんと?」
つられた言葉に今度は冷たい目が返ってくる。

「オドロキさん、ちょっと目をつむって」
「痛いのはイヤだよ」
「コドモみたいなこと言わない。いいから早く」

仕方なく目を閉じる。緊張で少し肩が上がっている。

「‥‥オドロキさんって、ヘンタイだったんですね」
「うわあ!」

聞いたことのある人の声に、あわてて目をあけてもそこにはみぬきがいるばかり。

「い、今のは?」
「魔術師ですから、みぬき」

とくいそうなみぬきを前に、呼吸を落ち着かせる。
‥‥声帯模写か。オドロキはそう思った。ボウシくんの腹話術もたしかに見事な男声だ。

「オドロキ君、アンタ、ヘンタイだね」
「いや、茜さんの声真似もうまいのは認めるからさ。
その発言をさせるのはやめてよ」

「おデコくん、キミってヘンタ」
「やめなさい」
「ひゃあ! きゅ、きゅうに胸に触らないでください!」

「やっぱり、その声がいいよ」
真顔でそう言うと、オドロキは抗弁を遮るように、唇をあわせた。


「そろそろいいかな」

今日のオドロキは容赦なく、みぬきを攻めている。そろそろ自身も限界だ。
くったりとしたみぬきをベッドへ横たえ、買ってきた未開封のコンドームに手を伸ばす。
「ま、待って」
「?」

みぬきが止める。その視線にこめられた想いを感じて、オドロキが少し声を低くする。
「みぬきちゃん‥‥」
「違うの、みぬきがつけたいんです」

袋を丁寧に切り、コンドームを取り出す。袋は枕元に置き、オドロキの股間へと近づいた。


みぬきははじめての時のように、仰向けに横たわってオドロキを迎える。
オドロキはみぬきの足を持ち、自身を分け入らせた。

首に腕を回し、また、唇を合わせる。その頃には全て埋めていた。
唇を離し、腰を動かす。みぬきの顔をみつめながら、前後へと蠢く。

しばしの律動の果てに、オドロキは達した。
しおれないうちに性器から引き抜き、ゴムを廃棄する。

「次、です」
みぬきは体を起こし、まだ焦点が合わない目のまま、白濁にまみれたオドロキの性器をくわえた。
「み、みぬきちゃん」

時計は刻々と過ぎていく。
何回か休憩を挟み、時間帯はすでに深夜。

そろそろ限界かなというオドロキの前で、みぬきは驚きの発言をしていた。

「みぬきちゃん、もう一回いってもらっていい」
「あの、おしりの、ほうをお願いします。
何もつけないで、え、えっとだいじょうぶです!
ちゃんと調べて、綺麗にしておきましたから!」
自分で言っておいて顔を真っ赤にする。
そういえば薬局の袋の中にエネマなんとかというよくわからないのが入っていた。
あきれたオドロキはすぐには言葉が出ない。少しして出た言葉は、からかいの言葉だ。

「馬鹿だな、みぬきちゃんは」
「馬鹿っていうな!」
「そんなことなら最初から言えばよかったのに」
「言えるわけないでしょ!」
「大丈夫だよ、一回目から毎回ちゃんとほぐしてきたんだから」
「へんたい! へんたいへんたい!」
指先と舌でみぬきをいつくしみ、さらにみぬきをダメにした後。
いよいよそのときが近づいた。

「この体勢いやです」
「だって、普通の格好じゃ」
「オドロキさんの顔見えないのいや」

みぬきは駄々をこねる。やはり後背位はいやだというのだ。
「それくらいなら、みぬきが上になります」

オドロキはあきらめて横たわる。
みぬきのあまり豊かではない、それでもとても美しいからだが大きく広がった。

オドロキの性器を手に取る。
みぬきの股間に近づく。そのまますすめれば、オドロキの体がみぬきに埋まる。
何もつけていない今ならば、着床することもありえるだろう。
「オドロキさん‥‥」
オドロキは何もいわない。みぬきのするがままに任せている。

ここで彼女が正しいほうにいれたとしても、それでかまわないのかもしれない。
感情はそれを拒まない。直接、彼女の体とこすりあい、吐き出すことができたなら、
それはきっと果てしない喜びだろう。

みぬきは大きく息を吐き、自身の後ろに差し込んだ。

「くうっ」
「いっ!!」

強烈な締め付けと、強烈な痛みが襲う。ぎりぎりとしめつけ、オドロキを絞り上げる。
ほどなく精液を吐き出されるだろう。

時刻はもうすぐ24時を回る。

                                                つづく

最終更新:2020年06月09日 17:49