喫茶店シリーズ#1

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『喫茶店の人々』

裁判所からの帰りに、王泥喜は住宅街の奥にある一軒の喫茶店に向かった。
看板もメニューも出ていない、通りすがりの通行人には決して喫茶店だとわからないようなその建物のドアを押す。

「よぅ」
小さな丸いテーブルが二つと、5、6人も座ればいっぱいのカウンターの向こうで、大きなマスク型のメガネをかけたマスターが顔を上げた。他に客はいない。
「お、その面構えは裁判所からの戻りじゃねえのかい。今日も元気に負けてきたのか」
王泥喜は、カウンターの椅子を引いて腰掛けた。
「ひどいですね。当たってるだけに、なんとも言えませんけど」
「まあ、腐らねえことだ。弁護士に敗訴は付き物だぜ。なんせ、依頼人というヤツはウソをつく生き物だからな」
注文もしていないのに、勝手にコーヒー豆を挽きながらマスターは言った。
「でも、今日の依頼人は・・・」
「おっと、ここで仕事の内容は話さねぇ。それがオレの店のルールだぜ。でなきゃ守秘義務が守れねえからな」
ドリップが始まって、コーヒーのいい香りが店の中に立ち込める。

店のドアが開いて、白い影が飛び込んできた。
「あっは、やっぱり来てたね、オデコくん」
先ほどの裁判で検察側証人に立った捜査官だ。
王泥喜は、ついニヤケそうになる頬を押さえて、唇を尖らせる。
「牙琉検事みたいな呼び方しないでくださいよ、茜さん」
茜は、ひょいと身軽に王泥喜の隣の椅子に腰掛けた。
「へえ、今日の検事は、あのロック坊やだったのかい?」
マスターが王泥喜の前に白いマグカップを置き、茜の分のコーヒー豆を挽きにかかる。
「ううん、今日は狩魔検事。王泥喜クン、最短敗訴記録だったんじゃない?ムチで打たれる間もなかったもんね」
「クッ、相手が狩魔 冥じゃ、この新米坊やじゃ、歯がたたねえだろうさ。検事局広しといえど、連勝記録を立ててるのは狩魔か御剣だからな」
茜の前で小馬鹿にされて、王泥喜は黙ってコーヒーを飲んだ。
「そうそう、負けて当たり前だよ。なんせ相手は今年の検事・オブ・ザ・イヤーなんだからさ」
なんの慰めにもなってない。
「・・・仕事の話はしないのがルールなんじゃ・・・」
「だから、事件の内容は聞いてねえだろうさ」
コーヒーをドリップしながら、マスターがニヤッと笑う。


裁判が終われば、この喫茶店で一杯のコーヒーを飲む。
成歩堂から教わったこの習慣は、気持ちをリセットするのに最適だった。
やたら法律や裁判に詳しいこのマスターは、過去も正体も不明。
ただ成歩堂の古い知り合いらしい、ということしかわからない。
そして、やたらと美味しいコーヒーを出してくれるということと、ここにくれば、茜に会えるという事・・・。
ただ、難点は。

店のドアが開いた。
この店はこの時間からが繁忙だ。
「豪快に連勝中のようだな、ご令嬢」
マスターが気軽に客に声をかける。
狩魔冥はちらっと王泥喜と茜を見ると、小さな丸テーブルの椅子に腰掛けた。
「マキアートにしてちょうだい」
「了解だぜ」
茜が、肘で王泥喜をつついた。
「出ましょ。あたしまだ、検事に出す報告書をまとめてないのよ」
だからってなんでオレまで、といいかけたものの、ついさっきぐうの音も出ないまでにやり込められた相手と同じ空間は確かに辛い。
代金を置いて、茜に引っ張られるように店を出る。
この店、検事や弁護士ばかりを相手にしていてやっていけるんだろうか。

「茜さんは、あのマスターのこと知ってるんですか?」
目の前をすたすたと歩く茜の背中に聞いてみる。
「あ?なに、王泥喜クン。もしかして知らないとか?あのヒトの過去」
茜が振り向き、王泥喜はその隣に追いついて並んだ。
「か、過去ってほど大げさなものなんですか?!」
うーん、と両の手のひらを組んで空に突き出す。
白衣の袖に隠れていた手首が覗いて、王泥喜はドキっとした。
「ま、過去のない人間なんていないってこと。マスターしかり、成歩堂さんしかり。それに」
茜は指で王泥喜のオデコをツンとつついた。
「キミもね」
飛び跳ねた心臓の音が聞こえるのではないかと、王泥喜はあわてた。
「茜さんにも、ですか」
茜の顔から笑顔が消えた。
「あ、すみません、オレ、なんかよけいなこと」
「あるよ」
歩いているうちに、住宅街を出てしまった。
それでも、茜は歩き、王泥喜はその後をついていく。
「そりゃ、あるよ。なにもなきゃ、あんな人に出会わないよね」
あんな人?
王泥喜が不思議そうな顔をしたのを見て、茜はプッと小さく噴出した。
「法廷を必ず荒らす、恐怖のツッコミ男」
王泥喜もついつい笑った。
「いけないなー、自分のトコの所長をそんなふうに笑って」
「いやいや、言ったのは茜さんですから!」
あはは、と笑う茜の声に、王泥喜は今日の敗訴の痛手から立ち直れるような気がしてきた。
反省すべき点はたくさんある。まだまだ依頼主に振り回される傾向があるけど、それでもがんばるんだ。大丈夫だ。


「・・・たい」
「えー、なんか言った、王泥喜クン?」
また少し前を歩いていた茜が足を止めて、王泥喜を待つ。
「・・・知りたいです」
茜に追いついて、立ち止まる。
「え?」
「茜さんのこと。その、過去」
思わず、抱きしめる。
「え、ちょ、ちょっと!なに?!」
「過去だけじゃなくて、その、今も、・・・オレ」
言ってしまってから、王泥喜はふと周りのネオンに気がついた。
ヤバイ。
いつの間にか、ホテル街の入り口に来てしまっている!
こんなとこでこんなこと言ったら、まるで・・・。
「やっぱり、若い子はちがうね」
「え・・・?」
「いいよ、あたし」
茜を抱きしめる腕を緩めると、反対に腕を取られた。
「ええええ?!」
なりゆきで王泥喜は、そのまま一番近くのホテルに入ってしまった。

こ、これがラブホテルというものか。
部屋のドアを閉めて王泥喜が立ち尽くしていると、茜はクスっと笑った。
「やだ、そんな顔されたらこっちも緊張しちゃうよ」
「い、いや、大丈夫です。あの」
こういうとこ、よく来るんですか・・・とは、さすがに聞けなかった。
茜がさっさと白衣を脱ぐ。
胸元のリボンを緩めて、立ったままの王泥喜を見る。
「そこに居る気?」
王泥喜はやっと動くようになった足で部屋の中に進み、ベッドに腰掛けた。
でかい。そして、派手だ。
ふふふと笑い声のするほうを見ると、ブラウスのボタンを開けたところから、茜の白い胸元が見え、王泥喜はごくりと喉を鳴らした。
「ほんと、若いと気が早いのかな」
茜が腰に手を当てて見下ろした。
王泥喜は、とっさに両手で自分の股間を隠す。
茜は王泥喜の足元にひざまずき、両手をつかんで広げさせると、ジッパーを降ろした。
「あ、茜さん・・・」
「うふ、元気だね」
「うわ・・・」
いきなり口に含まれて、思わず声が出る。


自分をくわえ込んでいる茜の口元と、上から見ることで下着まで見える胸元。
王泥喜はそっと手を伸ばして茜のベストを肩からすべり落とす。
茜の舌が裏筋を舐め、指先が睾丸をくすぐる。
「茜さん、そんな、うう」
一方的にされて、王泥喜はベッドに両手をついてのけぞるしかなかった。
「気持ちいい?」
王泥喜のモノを口から離して、茜は王泥喜のズボンとトランクスを引き下げた。
「は、はい・・・、すっごく・・・」
「あたしも、気持ちよくして」
茜は腰掛けたままの王泥喜をそのまま押し倒して、上に乗ってきた。
王泥喜のシャツを脱がせて裸にする。
耳と肩を甘噛みしたり、胸を撫でて乳首をつまんだりする。
「ああっ、茜さんっ」
王泥喜は茜の手首をつかむと、体を入れ替えて上になった。
「ダメです、こんなの・・・。オレだって、オレだって」
組み伏せた茜の唇を奪った。
柔らかくてぷるんとしたそれをむさぼり、舌を入れる。
茜がそれに応え、お互いに存分に味わうと、王泥喜は茜のブラウスを脱がせた。
ブラジャーを取ると、丸い乳房がこぼれた。
片手でゆるゆると揉み、もう一方に吸い付く。
自在に形を変えるその柔らかな膨らみに、王泥喜は夢中になった。
先端が徐々に硬さを帯び、王泥喜は音を立ててそれを吸った。
その間に、手が茜のパンツと下着を剥ぎ取り、脚を開かせる。
腕とわき腹を撫で、尻と太ももをつかむ。
「当たってるよ・・・、王泥喜クン」
茜が甘い声で言い、王泥喜の股間に触れた。
「う・・・」
茜の開いた脚の間に体を入れようとすると、茜が両手を突っ張って止めた。
「だめ。まだだよ。ちゃんとあたしを気持ちよくしてくれてから」
王泥喜はもう一度むしゃぶりつくように茜の胸に顔を埋めた。
「王泥喜クン・・・、ねえ待って」
茜の言葉に顔を上げると、茜はにっこり笑った。
「あたしが上でも、いい?」
茜は仰向けになった王泥喜の上にまたがった。
ぷるんとした乳房が目の前で揺れる。絶景だ。
茜は両手を王泥喜の肩に置き、腕から指先まで強めに何度も撫でおろした。
それからソフトに鎖骨から胸と腹を愛撫する。
乳首の周りは特に念入りに。
そして、腰まわり。


「は・・・あっ」
思わず、王泥喜の声が漏れる。
自分の体の上にある茜の尻を両手でつかんで、胸の上まで引き寄せた。
目の前に、柔らかな陰毛が揺れている。
両手の親指でかき分ける。割れ目に指を滑り込ませる。
「あんっ」
どうやらいきなり敏感なところに触れてしまったらしく、茜が王泥喜の胸の上で跳ねた。
茜に膝立ちさせ、王泥喜は仰向けのまま茜の股間に舌を入れる。
王泥喜の顔にまたがる形になった茜は、中腰でソコを舐めまわされるつらい姿勢に、思わず反り返ってベッドに両手をついた。
おかげで奥のほうまで見やすくなった王泥喜は、自分の頭の下に枕を入れて首を曲げ、茜の腰を抱き寄せてぺちゃぺちゃと音を立てて舐めた。
「あ・・・いい、王泥喜クン」
膝を折って体を反らせたまま、茜が目を閉じた。
舌が奥のほうまで入ってくると、茜の内部から蜜が湧き出た。
それを指でからめとり、陰部をぐちゃぐちゃにかきまぜると、茜が悩ましげな声を上げ始める。
そのまま指を中に入れる。
ヒダを何度もこすると、茜が力尽きたように倒れた。
お互いに仰向けのまま頭を逆にして重なった状態で、王泥喜は茜の中をかき混ぜつつ、舌で敏感な芽をつつく。
「ああ、ああん・・・いいよ、すごく・・・」
「茜さんの、ここ、すごいです」
「うん・・・っ、あっ・・・王泥喜クン・・・上手いの、ね」
茜がシーツをつかみ、王泥喜は手を伸ばして茜の胸に触れる。
硬く立っていた乳首に触れると、茜がびくっと震える。
中に入れた指が、きゅっと締め付けられるようだ。
奥の方のヒダを強くこすり上げると、茜が腰を浮かせる。
「あああっ、そ、そこっ、ああんっ」
「ここ、ですか?ここが気持ちいいですか・・・」
「あっ・・・ああっ、あっ」
何度も刺激すると、どんどんあふれてくる。
茜は腰をつかまれたまま上半身をずらし、首を曲げて王泥喜の硬く反ったものを口に含んだ。
「うわあ・・・っ」
先のほうの溝をなめられて、王泥喜は茜の脚の間に埋めていた顔を離した。
69の形になる。
茜の中に指を入れているものの、咥えられてしごかれてはたまったものではない。
入れた指をかろうじて動かしながら、王泥喜は茜にされるままに股間を硬くしていった。
「う・・・、あか、茜さん、オレもう・・・」
「んぐ・・・大丈夫?王泥喜クン・・・」
王泥喜は体を起こして、ぐいっと茜の上に覆いかぶさった。
「大丈夫です」


脚を開かせて、先端を当てる。
まず軽くかき混ぜるようにくちゅくちゅと音を立てた。
「んっ・・・」
先が敏感なところに当たると、茜がぎゅっと目を閉じた。
そこを何度かこすると、茜は両腕を伸ばして王泥喜に抱きつく。
「ああん・・・焦らさないで・・・」
「言ってください・・・茜さん。どうしてほしいのか、オレに」
茜は薄く目を開け、王泥喜を優しくニラんだ。
「ずいぶんイジワルなんだね・・・。あんっ」
王泥喜が、膣口を捕らえた。
それでも中に挿れず、答えを求める。
「茜さん・・・さあ」
茜は腰を浮かせて王泥喜にこすり付けた。
「王泥喜クンの・・・、あたしに挿れて」
「・・・わかりました」
ぐい、と押し付ける。
半分ほど入ったところで一度引き抜き、浅いところで何度かそれを繰り返す。
十分に潤んだソコは、王泥喜にからみつくように締めてきた。
「や・・・」
茜が腰を動かす。
「もっと・・・王泥喜クン・・・」
「は、はい・・・いき、ます・・・」
強く腰を押し付けるように深く挿れると、今までにない刺激が王泥喜をさらに駆り立てた。
「ああ・・・あんっ!」
たまらず腰を打ち付けると、茜が声を上げる。
「い、いい、すごく・・・いいよ、ああっ、お、王泥喜くん、スゴイっ」
王泥喜が動かすのに合わせて、茜が腰を振る。
それが締め付けとなって襲い、王泥喜はたまらず呻いた。
「うう、き、気持ちいい・・・」
「あ、あたしもだよ、すごい、いいっ、ああっ、も、もっと」
ひたすら何度も腰を打ち付けると、茜の乳房が揺れ、王泥喜はそれをわしづかみにする。
「あか、ねさん・・の、おっぱい・・・」
「・・・ん、あっ」
「や、やわらかい・・・です・・・。中は熱くて・・・、オレをすごく締めてくるし・・・、ぐちゃぐちゃで・・・、すごい、気持ちいい」
「あん・・・いやらしいよ、王泥喜ク・・・」
「なんでですか・・・、全部、茜さんのこと・・・なのに」
「あ、あっ、いい、いいよ、王泥喜くん、そこ、そこもっとして」
「ここですか・・・、くっ・・・」
腰の角度を変えると、また違った圧力がかかり、王泥喜は限界を感じる。
「もう、もうダメです、オレっ・・・」
「あんっ、まって、あたし、あたしも、もうっ」
茜が両脚で王泥喜の腰をはさみ、何度か体を震わせて達した。
「んんっ」
その余韻で脈打つ腰を抱いて、王泥喜がヌメヌメとしたモノを引き抜くと、茜の腹の上に放出した。
「・・・く、はっ」
茜の横にどさりと倒れこむ。
「す、すみません、今・・・きれいに」
肩で息をしながら、茜の体をぬぐう。


すると、茜が両腕を伸ばして王泥喜の首に抱きついた。
「思ってたより・・・、ずっと良かったよ。なんか、気になっちゃったもん。王泥喜クンの、過去」
耳元で囁かれて、王泥喜は顔を真っ赤にした。
「そんなこと、オ、オレのほうが」
茜の背中に手を回して抱きしめながら、王泥喜はため息をついた。
茜の過去。
聞きたい過去と聞きたくない過去があるような、複雑な気分。
ふふっ、と笑って茜がベッドを降りた。
手早くシャワーを浴びて、服をつける。
「茜さん・・・」
「王泥喜クンはまだゆっくりしてっていいよ。あたしはホラ、報告書書かないとならないから」
「えええっ、そ、そんな」
きゅっとリボンを結び、メガネを頭に乗せて茜はカバンを取り上げた。
「じゃあね」
「あ、茜さん!あの、今度・・・いつ」
茜は左腕を上げて腕時計で時間を確かめた。
「そーだね。法廷か、またあの喫茶店でね」

呆然とした王泥喜をベッドに残して、女捜査官は足取りも軽やかにホテルの部屋を出て行った。
ようやく我に返った王泥喜が、シャワーを浴びようとベッドからノロノロ降りて、バスルームに近づくと、ドアに挟まっている小さな紙の包みに気づいた。
包みを開いてみるとその紙には、小さな手書きの文字が並んでいた。
『次は使い方を教えてあげるよ』
包みの中は、コンドームが2個。

「つ、次は2回だ・・・!」


王泥喜が興奮に鼻の付け根を痛いほど熱くしているころ、例の喫茶店では、裁判長とマスターがコーヒーを傾けながら法務省の人事について、無責任な噂話をしていた。


#2に続く

最終更新:2020年05月23日 16:14