ナルマヨの続き。



御剣と一緒に事務所に戻り、ドアを開けると応接室の方から真宵ちゃんの声がした。
ただいま、と言おうとしたとき、御剣がぼくのスーツの上着をひっぱった。
「待て、成歩堂」

「…くないですか?」
あれ、真宵ちゃん、電話でもしてるのかな。
「…かしら、普通だと思うけど」
返事が聞こえるということは、相手がいるみたいだ。
御剣が、ひとさし指を唇に当てる。
「えー、多いよ!なるほどくんなんか週に一回でもくたびれたって言うけどなあ」
ん?ぼく?なんだ?
「それはどうかと思うけど」
相手の声は狩魔検事だな。
御剣がここで狩魔検事と待ち合わせたと言ってたけど、先に来てたんだろう。
検事局では人目をはばかるからといって、弁護士の事務所で待ち合わせる検事というのも変だけど。
「その一回が、ものすごいのではないの?」
とたんに、はじけたような、二人の笑い声。
ふりかえると、御剣が目をそらした。

「そうかなあ。あ、じゃあ時間ってどのくらいですか?」
「それって、全部で?」
「んー、じゃ、全部」
「どこから?しようかって言うところから?脱いでから?」
「えええええ、しようか、なんて言う?!」
「言わないの?」
「言わないです!も、いきなり、ぎゅってして、ちゅってして」
「なによそれ」
また、笑い声。

……こ、これは。
いわゆる、その。
女の子同士で、ものすごくキワドイ話をしているのだろうか。
ど、どうしよう。
ただいまと言うにしても、出て行くタイミングが難しいぞ。
御剣が、ぼくの上着をつかんだまま、オフィスの方に静かに移動した。
「ど、どうするんだよ」
ぼくが小声で言うと、御剣はじろっとにらみつけてきた。
「聞いたことがわかったら、私は冥に殺される」
ううう、狩魔検事、怖いからなあ。
真宵ちゃんと狩魔検事は、ぼくらが聞いていることなんか全く気づいていないみたいだった。


「ねえねえ、それってやっぱり御剣検事が言うんですか?しようか、って?」
「私が言うと思う?」
「えー、想像できないなあ。あの顔で?」
ぼくの隣で、『あの顔』が、真っ赤になっている。
「あんな感じよ。ウム、そういうアレは、どうだろう、って」
「あー、それならわかります!!」
御剣がふるふると震えている。ふりむくのが恐ろしい。
真宵ちゃんの笑い声が、痛い。
「あのねあのね、それで…」
真宵ちゃんが、ちょっと声を落とす。
誰も聞いていないと思っているはずなのに、なんだ?
くすくす、と狩魔検事の笑う声がもれ聞こえてくる。
「……」
「ええええ!!そんなに?!」
いきなり真宵ちゃんが大きく叫んで、ぼくらは揃ってビクっとする。
「そうなんだあ・・・。もしかして、なるほどくん、ソウロウかなあ」
メマイがした。
御剣が、ニヤっと笑ってぼくの肩に手を置いた。
ううう、慰めてくれるな。
「そうなのか?成歩堂」
「…うるさい」
そんなはずは、ない。
…と、思うんだけど。真宵ちゃん、不満なのか?

「でも、長ければいいというものでもないと思うわ。チロウやインポテンツの恐れもあるし」
今度は、御剣がメマイを起こしたようだった。
さ、さすが狩魔検事。
恐ろしい単語を、起訴状を読み上げるように淡々と・・・。
「そっか。長ければ気持ちいいってわけじゃないの?」
「ま、テクニックなんじゃない?」
「御剣検事って上手いんですか?」
「さあ…私、あまり比べられるデータを持ってないのよ」
あまり、ってことは、いくらかは狩魔検事もデータがあるんだろうか。
真宵ちゃんは、ぼくが初めてだけど、だからって、コイツのデータを集めなくても・・・。
本気でメマイがするらしく、御剣はぼくのデスクの椅子に腰を下ろした。
「そんなに下手なの?成歩堂は」
…ひ、ひどい。
真宵ちゃんの返事を聞くのが怖い。
「あ、こないだ。ほら、アレがあったじゃないですか、ヤッパリさんのSMグッズ」
…御剣の非難めいた視線がぼくに突き刺さる。
ああ、真宵ちゃん、いったい何を言い出すんだ!
「まさか、使ったの?キチクね、あのオトコ」
「…キチクだな、成歩堂」
御剣まで、追い討ちをかける。
「で、でも叩いたりしてないぞ。か、軽く縛ったけど…」
なにを言っているんだ、ぼくは。


「んー、でもね。ちょっと、良かった」
うわ、自分の顔が熱くなった。
そうか、そうだったのか。
「…そう?」
「うん。あのね、目隠しをしたんですけどね。なんにも見えないでしょ?予想が出来ないから、ちょっとのことでもすごくびっくりするのね」
「ふうん」
「それと、あのブルブルするのとか」
「……使ったの?」
「御剣検事は、そういうの使わない?」
「…使わないわよ!」
ああ、なにやら話がエスカレートしてるぞ。
女の子って、友だちにこんなことまでセキララに語っちゃうものなのか?
ついに、御剣が頭を抱えた。

「その、それは、どうだった?いいものかしら」
うわああ。
「狩魔検事、興味津々だぞ、御剣」
小声で言うと、御剣は顔を上げた。
「わ、私はそのようなものには、頼らん」
小声な上に、弱々しい。
インポテンツが、そうとうこたえてるな。
「んとねー。結論から言うと、けっこうイイかも」
ま、真宵ちゃん…。バイブ、気に入ってたんだ。
あれから使ってないけど、それが不満だったのかな…。

「なんかこう、あのブルブル加減がねー……」
「………」
「…うん、そういうとことか。あと、……」
「…それで……」
「…で、…ぐーんって…」
「…ッた、というわけ?」
「うん、そうなの」
「あきれた、それまではナシ?」
「んー、まあそうですね」
「最低だわ、成歩堂龍一」
…ままま真宵ちゃん、なにを告白してるんだ!!
ふ、と御剣が人をバカにしたように笑う。
「つまりアレか、成歩堂。キミは道具に頼らねば、女性を満足させられないのか」
う、うるさい。そんなことは…!!

「それまではどうしてたの?」
「んー、どうって言っても」
「いきなり、ぎゅってしてちゅ?」
「うん。で、帯ほどいて」
「待って、シャワーは?」
「えっと、しないときもあるけど、浴びるときはそのまんま一緒に行って」
「シャワーなしなんて、考えられないわ」
「そ、そうかな、やっぱり。でもお風呂って堅いし床は冷たいし」
「待って待って、それどういうこと?シャワーしたまま、そこで?」
「え、まず一回そこじゃないの?」
「ち、ちがうでしょう?そこから、その、ベッドに移動しないの?」
「するけど、まず一回…」
ううう、真宵ちゃん。たぶん、ぼくのすることが全部、みんながすることだと思ってるな。
だけど、一緒にシャワーすると、洗ってあげたいし、裸を見て触るわけだし、そしたらその気になるじゃないか。
そっか、床が堅くて冷たいのか…。気をつけよう。
「あ、でもお風呂でしかできないこともあるし」
「できないこと?」
「お湯かけたりとか。シャワー強くして、なるほどくんに当てると喜んでるし」


冷や汗がにじむ。
そんなことを、バラされるとは思わなかった。
御剣が、小さく咳払いをした。

「それは、アソコに当てるんでしょ?」
「うん。裏側とか先っぽ、いいみたいですよ」
「舐める?」
「へ?」
「怜侍は舐めさせるわよ。やっぱり裏側とか先っぽがいいみたいだけど」
ああ、御剣を見る勇気がない。
そ、そうか。コイツ、狩魔検事に舐めさせてるのか……。
「えええ、あんなモノを?」
…真宵ちゃんに、あんなモノ、と言われてしまった。
「まあ…、見てキレイなものではないわね。でも」
また、くすくすと笑う声。
「優位に、立てるわ」
隣で、ぐう、といううめき声がした。
うーむ、人の生活というものはわからないものだ。
「うーん、舐められはするけど…」
「あれは、ちょっと屈辱的ね」
「え、そ、そうですか?きもちいい…ですけど、あたし」
「まあね。嫌いではないわ。でも、いいところで焦らされたりすると、屈辱的よ」
ものすごく冷静な声で話してるけど、すごいこと言ってないか、狩魔検事。
法廷では真面目くさってるけど、御剣の性癖が、見えてきたぞ…。
「怜侍も、私がどこがいいか知っててやってるわけじゃない?そこをもっと、って思ってるときに外されると、わざとじゃないかって腹立たしくなるわ」
「えー、なるほどくんもずっとはしてくれないよ。なんでかなー」
「そこじゃないと思ってるのかしらね。そこ、って言う?」
「んー、言うときもあるよ。そしたら、そこしてくれるけど」
「じゃあ、怜侍のほうが性格悪いわ。そこ、って言ってもこっちは?って言うんだもの」
「えー、そこ、ってとこをしてくれたら、イケるのになあ」
「だから、こっちも仕返しするのよ」
「どうやってですか?」
「舐めてるときに、ビクンビクンってなるんだけど、そこで止めるの」
「ひゃあ、そしたら?」
「むお、とかなんとか言うわよ」
「うわあ、御剣検事、かわいい!」
かわいい、とか言われてるぞ、オマエ。
御剣はすっかりヘコんでしまった。
気の毒に。

「あ、仕返しで思い出した」
真宵ちゃんが動く気配がして、ぼくらは思わず身をかがめた。
「これこれ、こないだなるほどくんの部屋で使ったんですけどねー」
ま、まさか。
「すっごいヌルヌルなんですよ。これつけて、いじったら、もう」
「も、もう?」
ああ、やっぱりあのローションだ。
背中に、またいやな汗がにじんだ。
御剣の視線が刺さる。
「アウアウ言ってました。気持ちいいみたいで」
「そ、そう…」
……なんか、複雑だ。
「あたしも、けっこう良かったし。あたしたちはお風呂場だから、だいじょぶですけど」
「まあ、確かに…、部屋で使ったらひどいことになりそうね」
「あ、まだ開けてないのが一本あるから、持って行きます?お風呂はイヤですか?」
ま、真宵ちゃん、狩魔検事に勧めてるぞ、御剣!!
「これつけると、挿れるときにもヌルってするから、ちょっと違う感じで。あの」
「そうね。じゃあ、いただくわ」
か、狩魔検事が受け取ったぞ、御剣!!
声に出さずに、御剣の肩をバシバシ叩くと、御剣は笑いを隠すように手で口元を覆った。
なにを想像してるんだ、なにを!
「これですねー、なるほどくんの…に、……で、……」
「すごいわね…」
「ちょっと…ったりして、それで……」
「…いいわ、どうせいつも怜侍の部屋でするし。…今日もこれからしたがるだろうから」

女の子たちの話は、限りがなさそうだ。
それに、これ以上立ち聞きを続けると、本当に御剣が立ち直れなくなる可能性がある。
「大丈夫か、御剣」
「う…ウム。かなり、くらった気分だが」
「しっかりしろ。傷は浅いぞ」
真宵ちゃんと狩魔検事がまた賑やかな笑い声を立てた所で、ぼくは思い切って声をかけた。

「ただいまー、真宵ちゃん。御剣も来たよー」

応接室から、真宵ちゃんと狩魔検事が顔を出した。
「あ、おかえり、なるほどくん、御剣検事!」
「あら」
狩魔検事が、御剣を見て首をかしげた。
「どうしたの御剣怜侍。顔が赤いわ」
狩魔検事の白い手が、御剣の額に触れた。
「ウム、いや、なんともないのだ」
「ちょっと熱い気もするけれど。風邪かしら」
額から頬と首筋に手を滑らせて、狩魔検事が顔をしかめた。
うわ、今の状況でこんなことされたら、御剣はキツイぞ。
案の定、御剣の顔がゆがんだ。
狩魔検事の手をとって首筋から引き離すと、そのままドアに足を向ける。
「では、失礼する」
「あ、ああ、またな、御剣。…狩魔検事」
「また来てねー」
無邪気に真宵ちゃんが手を振る。
御剣に手を引かれて歩く狩魔検事のハンドバッグには、あのローションが入ってるんだよな…。


「だいじょぶなのかな、御剣検事。ね、なるほどくん」
くるくるした目が、すぐ近くでぼくを見上げている。
ぼくは、真宵ちゃんの頭を軽く、こつんとゲンコツでつついた。
「えー、なに?」
「もう、ハラハラさせないでくれよ。いつも狩魔検事とあんな話してるの?」
真宵ちゃんが、ぽっとほっぺたを赤くした。
「やだ、聞いてたの?」
「うん。ちょっとね。…御剣も」
「えええ?」
両手でほっぺたを包むそのしぐさが、かわいい。
「きっとアイツら、これからすごいことになるよ」
「すごいことって?」
「…あんなことやこんなこと」
うふふ、と真宵ちゃんが笑ってぼくの腕に手をからめてきた。
腕に、柔らかい胸が当たる。
「あたしたちも、する?あんなことやこんなこと」
「そうだねー」
ズボンのポケットに手を入れて、自分自身を抑えながら、ぼくは何食わぬ顔を作って言った。
「舐めて、くれる?」
ほっぺたを真っ赤にしたまま、真宵ちゃんがこくん、と頷いた。
急いで、事務所を閉めてアパートに帰ろう、と思った。

*** *** *** *** ***

レストランで食事をしてからマンションに戻ると、冥はソファに座ってテレビをつけた。
リモコンでニュース番組をハシゴしながら、届いていた夕刊にも目を通す。
仕事熱心だ。
それが一通り済むのを待って、私は彼女の隣に腰を下ろした。
「…さっき、だが」
「なに」
つっけんどんな返事が返ってくる。
しかし、これは不機嫌なのではない。
不機嫌ならば、返事そのものが返ってこないのだ。
「なんの話をしていたのだ、真宵くんと」
たたんだ夕刊紙の折り目を整えながら、冥が首を傾げるように私を斜めに見上げた。
「なんのって?」
「いや。ずいぶん、楽しそうだったではないか。笑い声が聞こえた」
冥がほんのわずか、目尻を赤くした。
「あなたには、関係ない話よ」
ものすごく、関係があったような気がするが。
「そうか。…では、その」
冥の手から夕刊を取り上げて、きれいなカーブを描いた彼女の頬に手を添える。
「そういうアレは、どうだろうか」
冥が、くすっと笑った。
たぶん、私たちは今、同じことを思い出している。
唇を挟むようにくちづける。
挟んだ冥の下唇を、舌でつつく。
…このキスも、私の『癖』として話題になったのだろうか。
普段なにげなくしていることが、気になりだした。
ふいに、冥が私の口の中に舌を押し込んできた。
自分のそれを絡めると、冥の体から力が抜けたようにしなだれかかってきた。
「ん、…ふっ」
くったりした体を抱きしめると、冥が吐息まじりにささやいた。
「シャワー、してきて」
「…私が先に?」
「ん。いいでしょ?」
普段は、先に冥がシャワーを使っている間にベッドや避妊具を整えるのだが、まあいいだろう。
ソファから立ち上がって、バスルームに向かう。
先ほど聞いた話が断片的によみがえってくる。
冥の本音を聞けたということは、喜ばしいことなのかもしれないが、複雑だ。


バスルームにシャワーの蒸気が満ちた所で、いきなりドアが開いた。
振り返ると、冥が服を脱いで立っていた。
「め、冥?」
以前、何度か一緒に入ろうと誘ったことがあるが、ことごとく撥ねつけられてきたというのに。
そんなことなどおかまいなしに、冥はさっさと入ってきて、シャワーヘッドの下にいる私にくっついてきた。
「いや?」
嫌どころではない。
一度、冥と一緒に風呂に入ってみたかったのだ。
成歩堂が、うらやましかったのだ。
少し冷たかった冥の体が、湯を浴びて温まってくる。
私はボディソープをスポンジで泡立て、その泡をとって冥の体に乗せた。
泡は、シャワーに流されて少しの間もそこにとどまらない。
シャワーのコックをひねって、湯をバスタブに溜めることにした。
暖かい蒸気が立ち上り、冥の白くて華奢な体を泡で埋め尽くす。
重力で流れ落ちる泡の間から、冥の胸のふくらみが現われる。
そこを手で覆ってそっと揺らすと、冥が小さく息を漏らした。
肩をつかんで体を回し、後ろから抱きしめる。
両手で胸を揉むと自由に形を変える、その柔らかな感触に私自身も興奮を禁じえない。
持ち上がりかけたソレが、冥の体に触れたようだ。
「んっ…」
片手を体に回して強く抱き、もう片方の手を下に滑らせようとしたところで、バスルームのドアの近くに落ちている見慣れない容器に気づいた。

「あれは、なんだ?」
予想はついたが、冥の体を抱きしめたまま聞く。
「ん…、ああ、…真宵に、もらったのよ」
手を伸ばしてそのかわいらしい容器を拾う。
外国製のシャンプーのような模様が描いてある。
蓋を開けて、手のひらに出し、冥の胸の突起に塗りつけた。
「やん…」
冥が身をよじり、思ったより粘度の低いそれが、とがりはじめた先端から垂れる。
香りがついているらしく、ふわりとバスルームに甘い香がただよう。
ぬるりとした液体を手と体の間にはさんで、すべらせる。
いつもと全く違うなめらかさで、冥の体を撫で回すと、糸を引いた。
つかもうとした乳房が逃げる。
思わず、自分の喉がこくりと鳴ってしまった。
肩から垂らすと、私の胸と冥の背中がすべる。
体重をかけていた冥が、ぬるりと滑るように落ちた。
「きゃっ…」
あわてて脇に手を入れて支え、ゆっくりとバスルームの床に倒した。
ふと、真宵くんが「床が堅くて冷たい」と言っていたのを思い出した。
タオルか何かを敷いたほうがいいだろうか、と見回すと冥の腕が伸びて私の首にからみついた。
背中を抱くと、ぬるりとした。
少し暖かいのは、ローションが発熱しているのだろうか。
そのまま撫でまわすと、冥が悩ましい声を上げた。
この段階からこんな声は、そうそう聞けるものではない。
背中のローションを広げるように、小さな尻をマッサージすると、するりと指が割れ目に入った。
「あんっ」
いい声だ…。たまらん。
抱きつこうとして滑る感触を楽しむように、冥が体を上下させる。
……気持ちいい。
冥が体をひねって、正面からすりよせてきた。
二つのふくらみが、ヌルヌルと共に胸に当たる。
「冥……」
「んっ…」
胸の間に手を入れて、先端を擦ると、冥はぴくんと喉をそらせた。
その表情が、愛しい。


「うん…っ、ね…、まって」
冥が私の手をとどめようとしたが、待てる道理がない。
胸から尻までを何度も撫で回し、前から指を入れようとしたところで冥が屈んだ。
「ぬおっ?」
冥がローションの容器を取り、私の局部に垂らしたのだ。
すでに半分ほど堅くなりかけていたソレに、とろりとした液体がかかる。
冥の指がからみついた。
「…くっ」
思わず、声が出た。
今までも手で触られたり、口に含まれて舌で舐めまわされたりしたことはあるが、これは新しい。
なんともいえない感覚が立ち上る。
冥がくすくす笑いながら、持ち上げたり回したりしながら、手のひらで包んでしごき始めた。
粘り気のある液体が垂れ、袋の方がしびれてきた。
それを指先でたぷたぷと揺らされる。
ソレがむくむくと立ちあがり、先端がピンと張ってきた。
「ねえ」
「…む、な、なんだろうか」
「きもちいい?」
なんというストレートな尋問だろうか。
「う、ウム…」
不覚にも、呼吸が乱れる。
今ここが証言台だったら、私は問われるままに、やってもいないことまで証言してしまうだろう。

「う、ムッ……!」
冥が口に咥えた。
舌が動き、複雑な刺激が加わった。
冥の口中でなにが行われているのか、こらえ切れない心地よさが一箇所から全身に伝わる。
舌で舐めまわしつつ、両手を脚や腰をマッサージするように動かしてくる。
粘つく液体で滑る感触が、体の中に火をつけるようだ。
このまま、冥の口の中にイッてしまいそうだ。
ふいに、バスタブから湯があふれ出し、膝をついていた冥がびっくりしたように床を見た。
もう、こらえきれぬ。
冥の両肩をつかんで、仰向けに押し倒した。
髪が濡れて顔にはりつく様までが艶かしい。
引き離された体にローションが糸を引いている。
両脚を開かせて、そこにもローションの容器を傾けて中身を垂らした。
桃色に染まったそこがてらてらと光り、びくんと震える。
「ああんっ、熱っ…」
バスタブからあふれる湯が作る浅瀬で溺れんばかりになった冥が、首を振ってもだえた。
冥の手が宙をさまよい、私はそれを握ってもう一度自分の局部に導いた。
片手で握ると、湯がかかって薄まったローションが、滑らかにしごき上げるのを助けるようだった。
冥は慣れた手つきで竿をしごきつつ、時折先端部をいじる。
その快感を散らすように、私は首を振って気を紛らし、冥の片脚を持ち上げて、手を差し入れる。
「…ん、あっ」
ローションを垂らしたそこを指でなぞると、水音がした。
バスルームにその音がピチャピチャと反響して、いやらしさを増す気がした。
縦に何度も動かして刺激すると、腰をひねって逃げようとする。
滑り込むように入った指を動かすと、冥は高い声を上げて、つかんでいた手を離した。
「ああんっ、いっ…、はあっ」
これほどまでに感じている冥を見るのは、初めてかもしれない。
中に入れた指で激しくかき回しながら、片手で胸やわきを撫でまわすと、湯の中で冥が跳ねる。
「あ、あっ、んっ、うん…」
薄紅に染まってきた体が動くたび、情欲がそそられる。
限界まで張り詰めた私自身が、冥を求めて揺れている。
挿れたい。
奥まで、限界まで深く、冥に突き立てたい。
指を曲げ、そのまま中を引っかくように引き抜く。
「あ、ああんっ!」


冥の体を抱き上げて、座らせるようにゆっくり沈めた。
ぬるっと抵抗なく入った。
「んっ…」
目の前に、冥の乳房が来る。
ローションがついていることを忘れて、思わず口に含んだ。
ほのかに、甘かった。
香りだけでなく、味もついているのか。
ゆっくり腰を揺らすと、冥がくぐもった声をたてて、私の胸に倒れこむ。
中に入っているだけなのに、動かしているかのような刺激が伝わってきて、私も思わず呻いた。
今まで感じたことのない気持ちよさだ。
濡れているのは、ローションだけではないようだった。
甘い香りに、冥の匂いが立ち混ざる。

「動いて、も…、いいだろうか…」
抱きしめた冥の耳元にささやく。
いつもなら、返ってくる答えは「バカ」である。
しかし、快感にとろりと溶けた冥は、そう言わなかった。
「お願い…。して」
ここで応えねば、検事ではない。
冥の腰を両手でつかむ。
そのまま上下に揺らそうとしたが、ローションで手が滑る。
体制を変えて床に寝かせようとしたが、あふれ続ける湯が渦を巻いている。
やむを得まい。
名残惜しい冥の中から一度、勇気の撤退を決める。
「あん、いやっ」
引き抜くのを拒むように、冥が抱きついてきた。
「少し流すだけだ。大丈夫…気の済むまで、してやろう」

横抱きにして、冥をバスタブに沈めた。
一緒に入り、湯の中で冥の体を手で洗うように撫でると、ローションが流れるのがわかる。
糸を引く粘つきが取れ、冥のなめらかな肌がもどった。
「ねえ…」
我慢できない、というように冥が両手を開いて私を求める。
気持ちは、私も同じだ。
「部屋に、行ったほうがいいだろうか?」
冥が首を振る。
「ここで…、まず一回、して…」
バスタブから抱え上げ、床に腰を下ろした上にもう一度冥の腰をつかんで降ろした。
「あ…」
挿れただけで、冥はくったりと倒れこんでしまった。
この格好は困る。動けない。
冥の脇に手を回して体を起こさせ、ついでに胸にも触れる。
「うんっ、あん!」
下から突き上げるように動かすと、声が上がった。
しかし、どうにもこれはキツイ。
体制を変えて冥をバスルームの床に仰向けにする。
「冷たいか?」
冥がぎゅっと目を閉じて首を横に振った。
唇がかすかに開き、頬が紅潮して、短く繰り返す息をつく。
感じているのだ。
私を迎え入れ、完全に無防備な姿で、快感を得ている。
もっと欲しいと言っているのだ。
私としては声が聞きたいところだが、しかたがない。
ゆっくり、そして徐々に早く動く。
中にはまだローションが残っているのか、こすれる感じが違う。
……イイ。
それは冥も同じらしく、短いあえぎ声が途切れ途切れに上がった。

「ん、あ、あ、あっ、うんっ、ああっ」
いかん、イッてしまいそうだ。
これでは、チロウどころかソウロウではないか…。
「くっ…」
「あっ…、レ、レイ…っ、そ、そこっ」
「ム…」
なるべく体をずらさぬように、そこを突いた。
「ああんっ、やん、あんっ、あああっ」
ここだな。
もう少し、こらえられるだろうか…。
「あ、んっ、んんんっ…」
冥は急に声を押し殺すように、歯を食いしばって横を向いた。
絶頂が近いときの表情だ。
少し速度を落とし、しばらく焦らした。
「んんんんんんっ!」
いかん、焦らしているつもりで焦らされる。
私は頭の中を無にして、欲望のままに動くことにした。
声もなく漏れる冥の吐息と、ぬめる感触に、この上なく興奮してくる。
イ、イキそうだ。
ぐい、と腰を使うと、冥がのけぞった。
「うん…!」
ビクビクっと体を震わせて、冥が達する。
ああ、なんと愛らしい表情なのだろう。
…きもち、いい。

避妊具を装着していないことを思い出して、寸前に引き抜くことが出来たのは奇跡的だったかもしれない。
冥の太股に、私の欲望が降りかかる。
「あっ、た、かい…」
とぎれがちに、冥がつぶやく。
「ウム、すまん…、かかった」
くすくす、と冥が笑った。
「洗って…?」
要請のままに、シャワーヘッドを外して、冥の脚に湯をかける。
「あんっ、くすぐったい」
冥が逃げる。
「む?気持ち良くはないのか?」
「今はくすぐったいわ」
そのまま冥の肩からも湯をかけ、立ち上がらせてバスタオルで体を拭いてやる。
足元に倒れたローションの容器から、残った中身が流れ出してしまっていた。
「なくなっちゃったわね」
「う…ウム」
まあ、手に入れる方法は、矢張が知っているだろう。
交代で私の体を拭きながら、冥が背伸びして私の耳元に息を吹きかけるように言った。
「後は、普通に…して?」
タオルごと冥を抱き上げて、私は部屋に運ぶことにした。
ベッドに放り投げるように降ろすと、冥がきゃっと声を立てて笑った。
タオルがはだけて、艶やかな肢体があらわになる。
触れると、ローションマッサージのおかげか、いつもに増して吸い付くようにしっとりとしていた。
予想外に、私自身が早くも回復しかけている。
なにもつけていない冥の肌に舌を這わせるのも、良いものだ。
まだ治まりきっていないのか、冥が小さく声を立てた。
ふと、意地悪な考えが頭をよぎる。
「キミは焦らされると、どうなるのだったかな?」
冥が悔しそうに、私の胸を両手で叩いて異議を唱えた。

 


後日、真宵くんには、ラーメンフルコースでもご馳走しておかねばなるまい。

最終更新:2020年06月09日 17:21