成歩堂×千尋?⑨

「初恋の人を想ってオナニーした時の
その人を汚してしまったような罪悪感」
多分、今のこの苦々しい思いはそれに似てると思う。
やらなきゃよかった。やっちゃはいけなかったんだ。

僕がこんな苦々しい気持ちになってしまったのは、昨日千尋さんのアパートに遺品を整理に行ったのがきっかけだった。

千尋さんは、僕、成歩堂龍一の、いやもう元上司になってしまうのだろうか、綾里
法律事務所の所長だった。
彼女は先日事件に巻き込まれて殺されてしまった。
容疑者はその妹である真宵ちゃんだったんだけれど、僕が間一髪のところで無実を
証明し、晴れて自由の身となったのだ。

真宵ちゃんが拘置所から出所してしばらく経った今日、彼女が遺品整理をしに千尋
さんが生前住んでいたアパートへ行くと言い出した。
整理といってもかなり大荷物もあるので男手が必要だからと、僕は連れてこられ
た。
最初は一瞬、若い女性の部屋、しかも元上司のアパートなんかに僕が行ってもいい
ものかとためらった。それにそもそも身内でもない。
そのことを真宵ちゃんに聞いたら、別にかまわない、親戚の人は忙しいし、大体ナ
ルホドくんはお姉ちゃんにまだ一人前の男扱いされてないからヨユーだよと笑われてしまった。
一人前じゃない男は男じゃないのかとツッコミを入れたいところだったが、確かに
真宵ちゃん一人じゃ大変だろうからとついて行くことにした。
真宵ちゃんは着くなり、トイレに行った。
僕はうっかりーーいや、今考えると故意だったかもしれないーー手元のタンスの引
き出しをあけてしまった。
そこに入っていたのはパンツだった。
そして僕はそこで……多分ここまで言えば大抵の人は眉をしかめると思う。
そうだ、僕のやったことは最低だ。
僕はそこにあったパンツを二枚、上着のポケットに入れた。

その日着いたのがもう4時過ぎだったから、部屋の状況をさっと見て真宵ちゃんは明
日また来ようと言った。僕はそのままそれを返す時機を逸した。
だからその二枚のパンツを自分の家に持って帰ってきてしまった。
ずっと心臓が大きく打っているのを感じていた。
万引きをしたときのような、好きな子に告白したあとのような興奮を覚えた。
僕は変態だ。
家に帰ってすぐに、ゆっくりポケットからパンツを取り出してひらいた。興奮で手
は震えていた。血が上った頭の片隅で、自分がおかしいのにどこかで気づいてい
た。でも止まらなかった。
千尋さんのパンツは、一枚目が白い生地にレースが青の清楚な感じの、二枚目は黒
くて大人のセクシーさのあるものだった。

それから、今考えるともう嫌で仕方がない。
僕はパンツに顔を埋めた。
そして鼻を擦りつけるようににおいを嗅いで、たまらなくなって、オナニーしてし
まった。
達するのにそう時間はかからなかった。

それが、ついさっきのことだ。
僕は、最低だ。

今はそこに転がっているパンツは自分の罪の証拠のようで見たくなかった。
僕は千尋さんのことが好きだ。でも、こんなイヤらしい意味で好きだったのだろう
か。
彼女を頼れる上司で、尊敬していた。
確かに胸は大きし、スタイルはいい。性格も好きだ。だからそういう対象になりか
ねはしたけど、でもそういう目で見ないようにしていた。それはいけないことだと
どこかで言い聞かせてきたのに。
しかも彼女はもう亡くなっている。
死者のパンツで死者を思っての自慰行為なんて死者を貶めてる。

明日また千尋さんの部屋にいかなきゃいけない。
罪の意識にさいなまされながら、僕はその日なかなか寝付けなかった。



つづく
最終更新:2006年12月13日 08:02