裁判所を出ようかという時に、電子音が鳴った。

「御剣検事の携帯じゃないですか」
帰り支度をしていた職員が言った。

どうせ糸鋸刑事あたりだろうと思いながら見る。

「今日、行く」

そっけない文章。
こちらの都合を聞くでもなく、許可を求めるわけでもない。
まったく、この姉弟子にはかなわない。

なんの用事だろう。
どうせ、回ってきた案件が気に入らないとか、刑事課がたるんでいるとか、そういうことだろう。
もしかして、なにかの資料を貸してくれとかいう用かもしれないが。

私は仕事をきっちり終わらせてから、まっすぐ自宅へ戻った。
夕食を済ませていないが、冥はどうするつもりだろう。
どこかへ連れて行けと言われる可能性もある。

部屋に入って上着を脱いだところで、インターホンが鳴った。
お早いお着きらしい。
オートロックを解除し、部屋のドアを開けると、狩魔冥が立っていた。
今朝、検事局の廊下で見かけたときのままの服装。
表情は、――――不機嫌。

どうぞ、と言うより早く入ってくる。
「夕食はまだだろう?」
言うと、首を横に振った。
「用が済んだら、すぐに帰るわ」
「用?」
冥はまっすぐリビングを横切って、寝室のドアに手をかけた。
「開けるわよ」
開けられるのは構わないが、目的がわからない。
冥はドアノブを回すと、私を振り返った。
真剣な顔。
「来て」
なんだ?
私は素直に冥について行く。

どうやら私には、このお嬢様には逆らわない、というプログラムが組み込まれている。
「寝て」
見えない銃を突きつけられているかのような従順さで、私はベッドに仰向けになった。
まさか、首を締められはすまい。
――――恐らく、だが。

冥は横になった私の上に馬乗りになる。
本当に、首を絞められるかもしれない。

ちらっと、そう思った。


冥は言葉少なに私を見下ろし、シャツのボタンに手をかけた。
ひとつずつ、外していく。
全部外したところで、胸をはだける。
かするように触れた手が冷たい。
体調でも悪いのかとその指先を握ると、冥はその手を振り払った。
「動かないで」
……ム。

しかし、目的が一向にわからない。
なぜ、私は脱がされているのだ?

冥の手が、ベルトをはずした。
静かな部屋に、金具の音と冥の息遣いだけが聞こえる。
「腰、上げて」
言われるままに体を浮かせると、冥がズボンを引き抜いて靴下と一緒にベッドの下に落とす。
枕から頭を上げると、冥は真剣な顔で、私のボクサーパンツを見つめている。
これも、脱がせるつもりなのだろうか。

今度は、生体解剖、という言葉が浮かんだ。
惨殺事件の被害者の写真を思い出した。
いやいや、それはないだろう。
――――恐らく。

冥の指が、下着を引き下ろしにかかった。
真剣な顔で、私の衣服を脱がせる。
最後に、腕と肩に絡み付いていたシャツを取り払われ、私は冥の下で全裸になった。


「その、冥。どういうことか、聞いてもいいのだろうか」
この状態で言うには、あまりにも間の抜けたセリフかもしれなかった。
冥は、じっと私の腰を見つめている。
真剣な目で。

なんだろう。
私のコレは、なにかの事件の重要な証拠品なのだろうか。

保管用のビニール袋に入れられたコレを想像すると、ぞっとする。
まさか。まさか、持っていくつもりではないだろうな。
冷やりとした感覚。
冥の指が、触れる。

ちょ、ちょっと待て。

その言葉は、冥の手で柔らかく握られることで封じられた。
珍しい壊れものに触れるように、冥は真顔でそれを扱う。
手のひらに包むように柔々と握ったり、指先でつまんでみたり、そっと擦り上げるようにしてみたり。
…そのようなアレは、困る。
背中に軽い痺れが走り、冥は目を見張って手元を見つめた。

仕方ないではないか。
私とて、健康な男なのだ。

冥はそれを見つめたまま手を離し、自分の服に手をかけた。
今度は、私が目を見張った。
視点を動かさず、私の太腿をまたいだままで冥はブラウスのリボンをほどく。
目の前で冥が下着姿になる。
ためらいもなくその下着にも手をかけ、私の目に二つの桜色の突起と白いふくらみが飛び込む。
膝立ちになって、スカートにも手をかける。


――――まったく、わけがわからない。

下着を取り去って裸になった冥が、私の胸の両側に手を付いて前かがみになる。
目の前で、胸が揺れる。
触れたら、殴られるだろうか。
冥は片手を下に下ろし、私に添えると、そのまま腰を下ろした。

まさか。

しかし、まだ固さの足りないソレは、冥の乾いたその場所を上滑りするだけだ。
何度か往復し、冥は眉根を寄せて体重をかけてきた。

「ま、待て!」

折れる。

私はあわてて冥の腰を両手でつかんで支えた。
場所も角度も違う。

冥は肩を落として私の脚の上に座り込んだ。
「…どうして、できないの」
私は肘をついて上半身を起こした。
弱々しい拳が、胸を叩いてきた。
「どうして。なぜ?」
冥の表情がゆがむ。

まったく。やれやれ。

「どうするつもりだったんだ?」
足元に丸まったタオルケットを引き寄せて、冥の肩にかけてやる。
「できると思ったのに」
それはつまり、そういうことを?
それにしては、無茶苦茶もいいところではないか。

「なにがあった?」
脚の上に冥を乗せたま、片手で起こした上半身を支え、もう一方の手で冥の髪を撫でた。
しばらく冥は不機嫌そうにうつむいていたが、そのうちぽつぽつと話し出した。
「若いからって、馬鹿にして…」
どうやら、扱った案件のことで検事局の同僚たちから陰口を叩かれたらしい。
若くして検事になり、ろくな人生経験もないのに被告人や被害者に偉そうなことを、ということだろう。
そのくらいのことなら私もずいぶん言われてきたが、冥の場合、父親のこともある。
ベテラン検事たちに文句を言われるな、というほうが難しい。

今、冥がどんな事件を担当しているのかは、さすがに聞けない。
守秘義務というものがある。
それでも今回は、なにをしても気に入らない先輩たちのイヤミがずいぶん堪えたのだろう。


「……なるほど」
私は納得した。
「で、今のこれはなんだ?」
冥が、唇をとがらせた。
「だって。…したことなかったから」
それには、さすがに少し呆れた。
とにかく、したことのないことをやってみて人生経験を積もうとしたのだろうか。
手っ取り早いのが、これだったというわけか。
「まったく無茶をするんだな。キミは」
「できると思ったもの。私だって、なにをどうするかくらい知ってるのに」

なにを、どうするか。
それしか知らずに、やってみようと思ったのか。
冥が真剣なだけに、私は思わず笑いそうになった。
「なによ」
「いや。…その相手に私を選んだのはなぜかと思ったのだ」
「……だって」
「私なら、逆らわないと思ったのだろう」
「……」

まったく、まったく、困ったお嬢様だ。

「姉弟子にむかって、生意気よ」
冥の両手が伸びて、私の顔を両側からつねり上げた。
痛いではないか。
私はその両手をつかんで引き離し、そのまま腕を背中に回した。
引っ張られて、私に倒れこむ形になった冥の顎に指をかける。

驚いた顔の冥に、キスした。
顎を挟んだ手に力をこめ、唇を開けさせて進入する。
冥が舌を奥に引っ込めた。
不慣れなことこの上ない。
それでもしばらくされるままになっていた。
唇を離すと、うつむいた。
「なによ」
「したいのだろう?」
「…場所が違う」
なるほど。
そういう、認識なのだな。

私は腰をずらして冥の肩をタオルケットごと抱いた。
どうも、この体勢はきつい。
「そうだな。キミがしようとしたのは、裁判だ」
「なんですって?」
「だから。その前に、あるだろう。警察から事件が送致されてきたり、取り調べたり、起訴状を書いたり。そういう手順が必要なのだ」
この例えは、わかりやすかったらしい。
冥は、納得したように頷いた。
「じゃあ、今のは?」

――――そうだな。

私は冥の体を抱きかかえるようにしてベッドに倒した。
「事件発生、だな」
冥が私を見上げて首をかしげた。
「じゃあ、これは?」
冥に覆いかぶさるようにして、もう一度キスをした。
手を、頬から首筋へ滑らせる。

「逮捕」


丹念に、冥を取り調べた。
こんなことが必要なの、と言う冥の口をふさぐ。
そのまま下に下りていく。
両手で包んでいた乳房をそっと揉みしだいた。
やわらかく、あたたかい。
心臓が、トクトクと早く打っている。
先端に舌をつけると、ぴくっと震えた。
そのまま、ゆっくりと舐め上げる。手のひらで、肩から腕にかけて撫で下ろす。

指を絡めるように手のひらに這わせると、まだ指先が冷たい。
緊張しているのだということに思い当たる。
胸から顔を離して、つないだままの手を持ってきて指先を口にふくんだ。
冥の指先が私の口の中で暖まる。
冥が空いた手で私の肩先を押して体を起こした。
ベッドに付いて体を支えていた手を取られる。
私たちは向かい合って座る形で、見つめあいながらお互いの指を舐めた。

冥が先に笑った。
「くすぐったい」
自由になった手を背中に回して抱き寄せる。
そっと撫でる。
「…んっ」
冥が声を上げた。
背中を大きく撫で上げ、軽く肩を噛む。
そのまま手を腰に下ろし、前に回して乳房をつかんだ。
乳首の先端に指先を当てる。
そのままこねるように回す。
「ん、ふ…っ」
甘い吐息。

「いま、どこ?」
何度も乳首を吸い上げては離し、ぷるんとした感触を楽しみながら太腿を撫でていると、冥が聞いた。
「…取調べだな」
「長くない?」
「自白がないんだ」
手を内腿に滑り込ませる。
「自白?」
冥が本能的に脚を閉じようとした。
「ウム。尋問に答えろ」
一度は強張った脚から、力が抜ける。
さっきは乾いていたその場所に指を向ける。
縦になぞりながら、音を立てて乳首を吸った。
「なに…?」
「どこがいい?」
被疑者は、尋問の意味がわからないようだった。

今度は、もう少し大きく乳房を吸いたてた。
「どこが気持ちいい?」
ぱっ、と冥の顔が朱に染まる。
「こっちか」
体を横にして背中にも舌を這わせた。
「あんっ」
背中から抱いて肩甲骨のあたりに赤く跡をつける。
その間にも片手で胸を揉み、下にも指を入れる。
「尋問だ。どこがいい?」
くちゅ、という音がした。

指先で乳首をつまみ、脚の間にもぐりこませた指先で敏感な芽に触れる。
「きゃっ…!」
冥の体が反り返った。


「ここ?」
力を入れすぎないようにそっと捏ねた。
「あ、あっ、だめ、いやっ」
後ろから抱きしめられた姿勢で、冥は前に回された腕を押し返そうと必死になる。
「自白がないと調書が書けないのだが」
「あ、…もうっ!」
息を乱して冥が泣きだしそうな声を上げた。

私は冥の脚の間に移動し、そこに顔を埋めた。
「い、きゃ…!」
大きく何度も舐め上げる。
「あ、あ、んっ!」
「気持ちいいか?」
冥の腰が撥ねた。
「ん…」
やむをえない。
自白、とみなそう。

すでにたっぷり濡れている。
膝の裏に手を回して開く。
「起訴だ」
バカ、と言われたような気もする。
「できるか?」
冥が頭を上げて、自分の中に進入しようというモノを目で確かめた。
こくっ、と喉が鳴る。
「これ…、大丈夫かしら…」
さきほどとは形状が違う。
「無理か?」
先端を押し当てて滑らせた。
「…できるわよ」

まったく、気の強いお嬢様だ。

場所と角度を定めて、腰を進める。
「やっ…」
反射的に痛みで引こうとする体を抑えつけた。
「できないか?」

今にも泣き出しそうな顔のまま、冥が小さく叫んだ。
「できるわよ!」

この気の強さが、たまらない。

それでも、なるべく痛みを与えないようにゆっくり動いた。
次第に潤いが増し、動きも滑らかになる。
「…っ、あ、んっ…、ん!」
冥の表情が変わる。
私の両肩に乗せられた手が、強くつかんでくる。
熱い壁が私を包み込み、絡みつき、絞り上げる。
「はっ、はっ、あっ」
速度を上げると、冥の体がうねった。
きつい。
思わず、呼吸が乱れる。
「…くっ」
「あ、や、いやっ!やめ…、ああんっ」
逃げようとする腰を抱き寄せて突き上げた。
「ん、ああ!」
冥がぎゅっと抱きついてきた。
締め上げられる。


冥がしがみついたまま喉を反らせた。

ギリギリのところで引き抜く。
その先を考えていなかった。
どうにもならず冥の腹の上に出した。
体をひくつかせ、冥が泣き出した。
「あ、いや、すまん」
あわてて、手近なタオルケットを引き寄せてぬぐう。
そんなにイヤだったか。
いきなり体の上に出されたのがショックだったのかもしれない。
冥は腕で顔を覆って、グスっと鼻を鳴らした。
「冥、まだ気持ち悪いか?ちょっと匂いが…」
ふき取った後に顔を近づけてみる。
「洗ってくるか、風呂を入れよう」
起き上がろうとすると、冥が腕をつかんだ。
「いや、行かないで」
そのまま、しがみついてくる。

「違う、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫」
ほっとする。
「だから、いいの。そうじゃないの」
なるほど。
私は冥の体に腕を回して抱きしめた。
初めての経験に気持ちがついていかないのだ。
しばらく抱いていると落ち着いたのか、くすっと笑う。
「私、できた?」

顔を見つめ、唇を重ねた。
おずおずと舌を差し出してきた。
それを吸いたてる。
「ん…ふ」
一度離して、また吸う。
繰り返すと、冥の体から力が抜けた。

くうっ。

いきなり、冥の腹が小さく鳴った。
見ると、冥が真っ赤な顔をしていた。

そうか。夕食がまだだったな。

私は膝の上に冥を抱きかかえて、腹に手を置いた。
「がんばって、上手にできたら腹が減ったか」
冥が、また拳で私の胸を叩いた。

用が済んでも、私の方で冥を帰すつもりはなくなっていた。


「ああ、その。さっきの話だがな」

バスタブで後ろから冥を抱いてお湯につかりながら、私は言った。
「長く生きてるだけで、法律改定すらろくに把握できていないオヤジの言うことなど、気にすることはない」

パチャ、とお湯の音がした。
「…でも、知らないことがたくさんあるのは本当だわ」
まあ、それはそうだ。
しかし、検事が独身だからと言って離婚訴訟を扱わない、という理由にはならない。

お湯の中で、先ほど汚した冥の腹に手を回した。
「私にわかることなら、教えてやる」

もう一度、冥の腹がくうっと音を立てた。

思わず笑うと、冥が自分の前にある私の腕をつねった。

「弟弟子のくせに、生意気よ」

最終更新:2020年06月09日 17:21