「うんっ、くう、ふぅ、ううん、はぁ・・・」
くぐもった吐息が薄暗い部屋の中にひびく。
部屋の中にいるのはあどけなさの残る少女と、老齢に差し掛かったような外見を持つ男だ。
男は目を閉じ、反らせた胸の前で腕を組み、足を肩幅ほどに広げて立っていた。
少女は首に(犬の首に巻かれるような)皮の首輪をつけ、上半身を覆うレザーの黒いビスチェを着ていた。
しかしその下着に胸を覆うべきカップは無く、
その場所には、代わりに赤い荒縄が乳房を変形させるほどきつく縛り付けられていた。
胸を絞る事によって乳首は痛々しいほどとがっている。
乳房には玉のような汗が浮かび、とがった乳首はなにか塗りつけているのではと思われるほどピンク色だった。
少女は後ろ手に縛られ、たちひざのポーズで一心不乱に男の怒張をくわえ込んでいた。
ジュブジュブといった、唾液にまみれた口が怒張をこするときに出る音がいやらしく鳴り響く。

「ううん!」
時折思い出したように体が震える。
その原因は少女の股間に深々とささり、いやらしくうごめく物体であるに違いなかった。
秘所に埋め込まれたバイブレーターは、落ちないようにバンドで固定されている・・・。


「狩魔は完璧をもってよしとする・・・」
目を閉じ、詩でも吟ずるように男はつぶやく。しかし顔にはなんの表情も浮かんでいない。
「完璧な奉仕、完璧な悦び、完璧なまぐわい・・・」
「冥、狩魔家の一員であるからにはすべてに完璧を求められる事、わかっておろうな」
そういいながら狩魔豪は狩魔冥(!)のとがった乳首をつねり上げた。
「!!」
痛みに冥の歯が豪の肉茎を強くこすりつけた。豪の顔に怒りの表情が浮かぶ。
「痴れ者!何をしておる!」
豪は罰として冥の股間に刺さったバイブレーターの出力を最大にした。
「うううう!!はぁぁぁぁ・・・」
激しい秘所の振動に冥は思わず口を離してしまった。
長時間あごを使っていたため、流れでるよだれが冥の口からこぼれ落ち、床にしみを作った。
息がうまくできないのか、冥はだらしなく口を開けハァハァと細かい呼吸を繰り返す。


「そのようなことで、完璧な奉仕ができると思うな。快楽におぼれてはいかん」
厳かな雰囲気で冥をしかりつけた後、一転して豪はやさしい声をだした。
「しかし、上手になってきたな、冥よ。これならばそろそろ誰としても恥ずかしい事はないであろう」
しかし、いまだバイブが秘所を刺激続けているため聞く余裕が無いのか、冥は荒く息を吐き続ける
だけだ。後ろ手に縛られているため、地面に手をつける事もできず顔が直接床についている。
豪の眼が怪しく光る。
(試すのによい相手がおる・・・)
かすかに口元をゆがめながらどのように計画を実行しようか豪は考え始めていた。


うららかな春のその日、私、御剣怜侍は公私にわたるの師匠といえる狩魔豪検事の家に呼ばれた。
大学の春休みのため、数日前から狩魔冥がアメリカから帰ってきているらしい。
昔一緒に暮らしていたため、久しぶりに食事でもという事であった。(冥が腕を振るうとの事・・・)
日本にいたなら中学生であるはずの冥が、すでに大学生であるという。
しかし、彼女の資質と親の教育を目にしていた私には、驚くに当たらない。
・・・ところで冥が日本に帰ってきてから、初めて会う事になる。
私も検事にり、冥は勉強のためアメリカに残ったため一緒にいた記憶は数年前のままだ。
何年振りであろう。どのように変わっているかとても興味がある。

「よく来た。」
豪検事が自ら出迎えてくれた。険しい雰囲気を感じさせる凄みのある声だ。
私はもうなれてしまったが、初見の人はこの声を聞く事で緊張するであろう。
外見だけでなく、内面も恐ろしい人だ。
私はこの人のために人生を狂わされたものを少なからず知っている。
狩魔の完璧主義の犠牲者として・・・。


リビングに案内される。今日はメイドがいないのか、豪検事が自らお茶の用意をしてくれた。
しかし、本来ならば今日のもう一人の招待者である人物の姿が見えない。どうしたことか。
「冥・・・さんは」
昔は冥と呼んでいたが、会うのもひさしぶりだ。とりあえず無難な呼び方をする。
「うむ、今は少々別の場所で準備をしておる。着いたばかりで申し訳ないが挨拶にいってくれまいか」
こちらから挨拶に行くとはどういうことであろうか。
疑問に思いつつも案内されるまま家の地下の扉に手をかけた。
扉を開けると明かりはついておらず、それまでの明るさになれた私の目には何もうつらない。


・・・・・・・
・・・・・
・・・?
妙な・・・音がする。
何なのか・・・甲高い・・・虫の羽音のような・・・それに・・・
「ふぅうん、はあ・・・あは」
すすり泣くような・・・これは・・・声?
間違いない。これはあ、あえぎ声だ。ということは・・・。
「パチッ」
指を鳴らす音とともに部屋の明かりがついた。
鳴らしながら電気のスイッチを入れたのか。ご苦労な事だ。
私はそんな豪検事の茶目っ気に、(本人は大真面目なのだろうが・・・)
この場の異様な雰囲気も忘れ、少し和むような気持ちになった。
眩しさにくらんだ目が徐々に視界を取り戻す・・・。


「めっ(冥!)」
私は絶句した。
私から見て正面に大きないすがあるのが確認された。
昔のヨーロッパの王侯貴族が座るような派手な装飾の大きなものだ。
そこに・・・裸の女が座っている。
足首はそれぞれのいすの足に革手錠で括り付けられ、手はいすの後ろに回っていて見えない。
そして、虫の羽音のような音の原因は・・・
股間を深々と刺し貫いているバイブレーターのモーター音だったのだ。
うなだれていて顔は良く見えない。が、どうも見覚えのあるような・・・。
いや、わかっているのだ。
信じられないが今私の目の前にいるのは、狩魔・・・冥。
私の斜め後ろに立つ狩魔豪検事の娘に他ならない。
人間は本当に驚くと妙に冷静になるらしい。
それとも私だけであろうか。思いのほか取り乱すことは無かった。


「これは、どういうことですか、狩魔検事」
「フッ」
腕を組みうつむいているので表情は見えないが確かに笑ったようだ。
「今日貴様を呼んだのは他でもない」
「・・・」
「冥が日本に一時帰国した。であるから久しぶりに皆で食事をする」
「それは聞いておりますが、今この状況とどういう」
「冥ももう14歳だ」
「はい」
「狩魔家は14歳にして成人したとみなし、閨中の技を磨かなくてはならない」
「はぁ」
狩魔家というのはそんなに歴史のある家なのか?というか話に脈絡がない。
なぜセックスの技を磨かなくてはならないのだ。
「狩魔は全てにおいて完璧でなくてはならない」
呆けた私の顔が気に入らないのか、豪検事は表情を厳しくする。
「冥に手ほどきをした。今日、その技を実践に移さなくてはならん。
その相手として貴様を選んだという事だ。御剣怜侍」
なんだとっ!正気か?この親父!


このような会話をしている間にも冥のあえぎ声は、間断なく聞こえてくる。
その声を聞いていると正直、頭が麻痺してくるかのようだ。
豪検事に導かれるままに、冥のそばへと近づいていった。
しかし・・・。まだ発達しきっていないとはいえ、胸はふくらみ、異物を差し込まれた秘所は大きく広がって、
充分に大人の女性の雰囲気が感じられる。
どのくらいこの状態でいるのだろう。肌には滝のように汗が流れ白い肌をつやつやと光らせている。
夢見心地のまま、私はテレビの中の風景を見るように客観的な気持ちでいた。
冥はいつ顔を上げたのか、こちらを向いて切なそうな表情を浮かべている。
部屋に入ったときには押さえ気味だった声も、今となっては我慢することなく出しているようだ。
ガチャリ・・・
足を拘束していた足枷を豪検事がはずす。はずされた足枷は床に重い音を立てて落ちた。
さらに後ろに回り手を拘束している手錠もはずしたらしい。
私は所在無くそんな光景を立ち尽くしてみていた。
両手両足が自由になった冥は立ち上がった。
それと同時に股間に差し込まれていたバイブレーターが落下する。


「冥・・・」
声をかけてみてどうするつもりだったのだろう。私は。
今、これからどうするべきであるのか。
冥は私が手を伸ばせばふれられそうなくらい近くまでに来た。
豪検事が声をかける。
「さあ、怜侍、冥、見せておくれ。完璧なまぐわいを・・・」
そんな、人前でセックスなどできるものか!
ふと亡羊とした気分からさめ断ろうと思った刹那、冥が私に抱きついてきた。
「な、冥、放したまえ」
「レイジ、ああ、レイジ」
熱に浮かされているかのように、冥はつぶやいた。
「ねえ、して、もう、めちゃくちゃに、ねえ、わたし、もう、ダメ、なの、ねえ」
「落ち着け」
「ねえ、して。素敵なオチンチン頂戴。もう我慢できない・・・」
ぐ、ぐ、ぐ
「クックックッ。女にそこまで言わせて逃げ出しては男がすたるぞ。怜侍」
豪検事は忍び笑いをもらしてベッドを指し示す。
「ちょうど、そこにうまい具合にベッドがある。
大丈夫だ、冥は今日は安全な日だ。狩魔の完璧な計算によりわかっておる」


「ねえ、レイジ。抱いてぇ」
もどかしそうに冥はズボンのチャックを下ろし、わたしのペニスを引き出そうと躍起だ。
それまで雰囲気に飲み込まれて元気の無かったわたしの息子だが、
冥にいじられているうちに充血しだすのを感じていた。
フム、悪くない・・・。
冥はかわいいし、妹のように感じている(冥に言わせれば私が弟のようだが)
とはいえ、女を感じさせるには充分な体だ。
父親が見ているというのが引っかかるが、どの道狩魔家に常識は通用しない。
なるようになれ、だ。
「クッ」
滑稽な気分になって思わず笑みがこぼれた。


私は冥の腕を引き上げた。
「あん」
もう充分に高まっているのかそのような行為でも甘い声をだす。
手を引きベッドに投げつける。
ベッドに倒れこんだ冥はハァハァと荒い息をつき、顔をあげようとしない。
服を脱ぎながら私の感情がどんどんと高ぶる。
こんな事になるとは思っていなかったが、楽しませてもらおうか、存分に。
胸に手を伸ばす。まだ硬さの残る乳房を円をかくようにもみしだく。
半開きになった唇をなぞるように舌でなめた後、強く吸った。
舌を割りいれると、待っていたかのように冥も舌を絡めてきた。
唾液を送り込むと、むさぼるように飲み込む。
(冥との初めてのキスがこんなに濃厚なものになるとは・・・)
妙な感慨を持ちながら、胸の硬くなった部分に指を当てた。
乳房はまだ小さいが、乳首はすでに大きくなり大人であるという事を主張しているようだ。
軽くつまみあげる。こねくり回す。指の腹で押しつぶす。
「ふん、ふ、はん」
唇をふさいでいるため、冥は苦しそうに鼻から息を吐き出した。
声もつらそうだ。私は唇を離す。


「冥」
「はい」
妙にしおらしく返事をする。常に無い事だ。面白い・・・。
「ずいぶんと感じているではないか。私はまだ胸をもんでいるだけだぞ」
肩を震わせ、ベッドに顔をうずめた。
「イジワル・・・」
(か、かわいい)
私自身もずいぶんと興奮しているらしい。
押さえがきかなくなり、うなじ、耳たぶ、首筋をむさぼるように強く吸い上げ嘗め回した。
「はぁ、はぁ」
私はいよいよ冥の大事な部分へと手を滑らせていく。思わず息が荒くなる。
淡く生えている繊毛を包み込むようになで上げる。
そんな何てことない愛撫にも冥は、体をしならせる。
「冥、冥、かわいいぞ」
つぶやきながら秘所に指先を触れさせた。
ぴくん。
冥の体がまた大きく跳ねる。
すっかり洪水だ・・・。
もともと、バイブで充分に高められていたのだろう。
冥の秘所の周りはあふれ出した淫液でぬるぬるになっている。
「これは、すごい・・・」
「いやぁ、いわないで」
私に悪い感情が芽生えている。もっともっと冥をいじめたい。
「だが、事実だ」
含み笑いをしながら耳元でささやく。
「あはん、はぁ」
ぶるぶると体をふるわせ、冥はいやいやをするように首をふる。


「冥、いやがっているのか?ここはあとからあとから蜜があふれでてくるぞ」
半開きになった花弁を指でさらに開き、中指で割れ目をこすりあげると、
言葉のとおりぬるぬるした液体があふれでてくる。
指が、まだ未開発なクリトリスに触れた。まだ小さい。
私は皮をめくり敏感であろうその豆を、淫液をまぶした人差し指でやさしくなであげる。
冥は私の手首をつかむがその力は弱い。
「どうした、冥。やめてほしいのか」
いじわるな気持ちで私は冥に問いかける。
「いや・・・」
「どういやなんだ」
「あははははあん」
言葉を継ぎながら、わたしは指を細かく震わせてクリトリスを刺激し続ける。
「やめないで・・・」
「何?」
「気持ちいいのぉ、もっとしてぇ」
最高だ!大声で笑い出したくなる気持ちをおさえ、私は指を膣穴の中へと挿しこみ狭い膣壁を前後に動かす。
膣の中は熱い。そして絡みつく淫液がじゅぶじゅぶといやらしい音を立てる。
抜き取った指についた白濁した液を、冥に見せつけ、私は笑いかける。
「冥、もうとろとろだ。もうそろそろ良いだろう?」
冥は焦点の合わない瞳をこちらに向けて答える代わりに抱きついてきた。


痛いほどにいきり立ったペニスを膣へと宛てる。
「いくぞ、冥」
冥は瞳を閉じてコクンとうなずいた。
「来て、レイジ」
ここまで夢中になって冥の体をむさぼっていたが、ふと豪検事のことが気にかかった。
私が顔を上げると豪検事は身じろぎもせず腕を組んだままこちらを見つめている。
その表情からは感情を読み取れない。
「ねぇ、レイジ」
じれたように冥がつぶやいた。
「す、スマン」
私は気を取り直し彼女にまた集中した。
ゆっくりとゆっくりと冥の中へと進入していく。
「はあん」
甘い声をもらしあごをのけぞらせるその仕草に、私の気持ちははやる。だが、あせりは禁物だ。
このままではすぐに果ててしまいそうだ。
慎重に奥へと到達すると、私は一度動きを止めた。
下になっている冥の背中に手を差し入れ軽く抱きしめる。
徐々に腰を動かしていく。
じゅぼっじゅぼっ、前後に動くたびに驚くほど大きな水音が聞こえてくる。
(せまいな・・・)
充分に濡れているにも関わらず冥の中はすこしきつい。
言い知れない気持ちよさが下半身に広がる。我慢できない。クッ、入れたばかりなのに・・・。
私も興奮しすぎているという事か。


・・・・・
冥はまだ私の背中に手をまわし、足を腰に絡みつけしがみついた格好だ。
やってしまった・・・。14歳の子供に、しかも中出しを・・・。
いくら興奮してたとはいえ。
冥の体温を体に感じながら呆然としていていると、拍手が聞こえてきた。
「よくやった。怜侍、冥。・・・女がオーガスムに達すると同時に男が射精。完璧なセックスだ」
私が顔を向け目が合うと、狩魔豪はニヤリと笑った。
「これでこそ、我輩が見込んだだけの事はある」
この人は、狂っているのであろうか・・・?
実の娘を男にレイプさせた上、それを観察しているとは。
ふと我に帰ると得たいの知れない恐怖に急に体が冷える気がした。
「なぜ、そんな顔をしておる。貴様は私の期待に答えたのだ。胸をはるが良い」
「はあ・・・」
私は体を起こして、体に巻きついた手足をそっと引き離す。
ペニスがずるりと抜け出した。
冥の秘所からは、先ほどの情交のしるしである白い液体がどろりと垂れていた・・・。
そばにあったティッシュを渡すが、冥は呆けてしまっており受け取ろうとしない。
しかたがない。私はティッシュで後始末をした。


豪が声をかける。
「冥」
「はい」
「お前はこの後の食事の準備をしにいきなさい」
「はい」
冥は素直に言葉に従い部屋を後にした。私を一瞥した後に。
歩く後姿が心もとない。
豪はクククと笑い、私に告げる。
「冥の作る食事はうまいぞ。完璧だ!存分に味わうが良い」
・・・黙れ、完璧主義者め。

食事ができるまでの間、また食事中も冥は一言も話をしない。
豪がたまに話を振り、私がぽつぽつと答えるという、
会話が弾みようも無いシチュエーションのまま時が過ぎる。
このような状況で味わう食事に味など感じられようはずも無く、
私はとにかく目の前にある皿をきれいにしようと努力する他無かった。
いや、正直に言うと多分おいしいのだろう。普段であれば。
しかし、鉛でも入っているのではないかと思われるようなこの胃の重さでは・・・


時折味についてほめても帰ってくるのは沈黙だけだった。
なぜ、こんな事に・・・。
冥と結ばれた事についてはおおきく異議は無かったが(まだ早すぎるという気持もあるが)、
このような形で結ばれようとは・・・。
というか処女ではなかったし。処女かどうかが私の価値観に大きな影響をあたえるわけではないが、
だが今の状況から考えると初めての相手は父親ではないか?
だとしたら恐ろしいことではないか?

冥はこの事をどう思っているのか無言を貫いている。
・・・常識的に考えて、うれしかろうはずはないが・・・。
拷問のような時間はやがて終わり、私は狩魔邸を後にした。
結局冥は食後もほとんど言葉を発することはなかった。


その後、私は事件の捜査で忙しく、冥はおろか父親の豪検事ともろくに会話も交わせぬまま3日が過ぎた。
今日は午後からの出でよかったため、私はコーヒーを飲みながら久しぶりにゆったりとした時間を持っていた。
しかし、このような時は、やはり冥とのあの日が思い出される。また、その後の冥の態度を。
「ピンポーン」
誰だろう?こんな朝早くから。
インターホンの音にモニターを覗き込むとそこには
「冥・・・」
私の部屋をなぜ知っていたのだろうか。いや、父親に聞いたのか・・・。
来た用件の想像はつく。


「何か飲むか・・・」
招きいれながら聞く私に冥はにべもなく「結構よ」と答えた。
ぴりぴりとした雰囲気に包まれながら、とりあえずリビングのソファーをすすめる。
冥は、私の向かいのソファに深々と腰をしずめるなり皮肉交じりに口を開いた。
「お久しぶりね」
「まあ、久しぶりというかなんというか・・・」
「ご機嫌いかがかしら?」
「まあ、悪いというか良くは無いが・・・」
「忙しそうで何よりね」
「は、お気遣い痛み入る・・・」
こ、このような雰囲気はいやだ・・・。
どのように、話を切り出せばよいだろうか。
・・・・・・・・・・
な、何も思いつかない。ええい、ままよ。
「冥、今日の用件はなんだろうか」
いや、そんな事を言おうと思ったわけではないのだが、うまく言葉が見つからない。
冥はびっくりしたように眼を大きく見開いて私をみつめた。
だが、それは少々芝居がかっているように見える。


「用が無ければ来てはいけないのかしら」
二人は用が無くても行き来するような仲ではなかろう・・・!少なくとも今までは。
普段の癖で机をたたきそうになり振り上げた手を、私は顔をかいてごまかした。
冥はしばらく無言で私を見つめていたが、やれやれというように大きなため息をついた。
「まあ、そろそろいじめるのはいいわ」
やはりいじめられていたのか、私は。
「この前の話なんだけど」
「それは、あのセックス・・・」
「当然よ、他に何があるというの」
ぴしゃりと言われて私は無言になる。
「レイジ・・・ あなた、その時私の中にだしたわよね」
?・・・ うム、たしかに。しかしそれは冥が腰に足を巻きつけたからであって・・・

冥は片目を閉じて人差し指を私につきつけ、左右にふった。
「あの日、私危険日だったのよね」
「な、な、な」


なんだってー!!
「できてしまったのなら・・・責任をとってくれる?」
「そ、それは当然、そのように、あの、アレなんだが、いったいどういうことなのか」
狩魔検事は確かに排卵日ではないようなことを言っていたようだが・・・。
冥はくすりと笑った。眼は笑っていないが・・・。
「裁判に関わること以外でお父様の言うことなど、信じてはだめよ。レイジ。特に女性の体のことは」
そこで言葉をとめた後、冥はさらに衝撃的な事を(不思議と)楽しそうに話した。
「わたしお父様にうそついたんだもの」
「!!」
あ、頭がくらくらしてきた。
「冥」
「なあに?」
「君はまだ14歳で、その・・・結婚できる年齢ではないのだが。それでも産むというのだろうか」
さらに笑顔は凄みをました。神々しいほど美しく見えるなどと私は場違いな感想を持った。
うん、冥はたしかに美しくなった。
しかしどういう心境でそのような顔をしているのだろう。
「当然よ。あなた私をなめているんではなくて?」
「グッ」
なめているわけではないが・・・。というかなぜ私が彼女をなめていると思ったのか、
いや、やはりなめているのか、いや、そもそもなめるとはどういう事か。
頭の中を無意味な思考がぐるぐるまわりだした。


数分間、私と冥は無言のまま見つめあった。
・・・不思議と心が穏やかになった。
しかたがない。もしもそうであるのなら、これも運命だ。
あの時に拒まなかった私も、どこかでこのようになることを期待していたのかもしれない。
だが、女性は怖いものだな。
「約束しよう。責任を取るという言葉は、私のプライドがゆるさない。結婚しよう。冥」
「あいかわらず、回りくどいわね。ま、馬鹿馬鹿しいプライドだけど素直に聞いておくわ」
そういった冥の顔は・・・とびきり綺麗で・・・また、恐ろしかった。
冥は、私を許してくれたのだろうか。しかし、そのような事を聞くのは野暮で、格好悪い。
私は、思い切って切り出す。
「め、め、め、冥」
「何よ、変な顔して気持ち悪いわね」
ぐぐ、萎えそうな気持ちを抑えつけて、言葉を継ぐ。
「冥、順番が逆になって、その、何だが」
「いらいらするわね、何よ」
冥の表情が険しくなる。
「その、好きだ、冥の事」
その時の冥の顔は私の恐れたようなものではなかった。
彼女が少女の頃によく見せてくれた屈託のない無防備な笑顔だった。
やっと、言えた・・・。そう、私は冥が好きなんだ。ずっと好きだったんだ。
冥はソファーから立ち上がると、テーブルを飛び越え私の胸に飛び込んできた。
私も強く抱き返す。
「私も、好きよ、レイジの事。ずっと、ずっと、好きだった!」


「レイジ」
「なんであろうか」
「私、明日アメリカに帰るわ」
「そうか」
「また、連絡するわね」
「心得た」
「見送りはいらない。ここでとりあえずさよならね」
「それはどうしてか?飛行機の時間を教えてくれれば、見送りにいく」
「そうはいかないでしょ?検事は忙しいのよ。狩魔は完璧をもって・・・」
「よしとするだな」
二人で微笑みあう。やっと私にも笑える余裕ができたようだ。
「じゃあ、またね」
冥は私の唇に軽く触れるだけのキスをして、部屋を出て行った。
それだけか・・・?
ヤレヤレ、あの日のいやらしい冥と今日の強気でそしてどこかウブに見える冥はどちらが本当の冥なんだ?


それから何回か文通のような事をして、それを上回る国際電話をしたが、
肝心の子供の話題は二人の間でなぜか語られる事が無く半年が過ぎた。
私が聞いてもはぐらかすのだ。
再び帰国した冥を豪検事のかわりに私が出迎えに行った。
おなかは特に目立たない。
「冥、子供は・・・」
「帰ってきていきなりその話題なの?おかえりは?」
冥は腕を組み小首をかしげて、少し私を見つめた。
そして皮肉げに笑うとこう言った。
「できてなかったわ。残念ね、レイジ」
そ、そうだったのか・・・。
「それとも、よかった。かしら?」
それは当然であろう。
一度腹をくくったとはいえ、14歳の若妻を迎え、その上子供までいるという状況は冷や汗が出る。
・・・と、思ったが、黙っておいた。
と、いうか黙らざるを得ない。
私は脱力のあまりめまいがして、たっているのがやっとだったからだ。
「もういちどいうわ。レイジ。おかえりは?」
「・・・お帰り」
その瞬間冥が私の胸元めがけて飛び込んできた。わたしは支えきれずよろけてしまった。
「ただいま!ずっと会いたかったの」
・・・いつだって冥は予想もつかないタイミングでまっすぐな気持ちをぶつけてくる。
そこがたまらなくいとおしいのだが。
「私も会いたかったよ。冥」


「なぜ、今日会うまで教えてくれなかったのか」
私の非難をあしらうかのように、冥は足を交差させて気障にお辞儀をした。
「罰よ。あの時私に優しくしなかった。お父様の命令とはいえ、ね」
「ぐぐう・・・」
「半年間、やきもきさせてやったけど、まだ足りないくらいだわ」
「と、言う事はあの危険日という話は・・・」
「それは、本当よ。・・・だって、レイジの子ならできても良いと思ったんだもの」
屈託無くなく答える彼女に妙なすがすがしさ、気恥ずかしさを覚えた。
こんな調子で私は一生冥にはかなわないだろうな。
まあ、何にしても今後は事に及んだらゴムをつける事だ。(というかまだ14歳だって・・・)

「レイジの顔見てほっとしたらおなかがすいたわ。どこか食事に連れて行ってくれる?」
「わかった、何がいい?」
「せっかく久しぶりの日本だからおいしいおすしでも、ね!」
私の問いかけに元気に答えながら、冥は私に荷物を押し付けすたすたと歩き出した。
こういう所は年相応に見えるが・・・。
「早くー!レイジ」
私は聞こえないように小さくため息をつき、
でも浮かんでくる笑みをおさえられないまま前を歩いている冥をゆっくりと追いかけた。

-おわり-

最終更新:2020年06月09日 17:21