成歩堂×千尋⑪
「パンツ」

「なっるほどーくん、なぜなぜっあなたはあたまがぎざぎざなのよー
まゆげはなみなみ~なぜなっぜよー」
昼の明るい日差しと真宵ちゃんの屈託のない笑顔、そしてこの調子はずれで意味不
明の歌。この組み合わせは、今日の僕にはちょっとこたえる。歌だけは今回だけと
はかぎらないかもしれない。格好も変だが、中身も結構変な子らしい。
とぼとぼと歩く僕に、真宵ちゃんは元気ないよとちょっと不満そうに口をとがらせ
た。ツッコミでも期待していたのだろうか。
裁判の後だから疲れがたまってるのかなと答えると
「ナルホド君はもう歳だもんね」
と真宵ちゃんはニヤリと笑う。
いつもなら反論するところだけど、今日はなんだかそれもできない。

僕たちはまた千尋さんのアパートにやってきた。
こっそりと僕は上着のポケットに手をいれた。あれが、ある。今日の朝あわてて入
れてきた。もちろん本当は持ってくるつもりはなかった。朝のどさくさの勢いで
突っ込んできてしまったのだ。万が一真宵ちゃんにバレたらどうなるか考えるだけ
でも恐ろしい。変態弁護士(24)故人で上司のパンツを云々とタブロイド誌にでるか
もしれない。目に線を入れてくれるだろうか。いやいやそんなことをマスコミは取
り上げないか。

真宵ちゃんが部屋の片づけを始めた。
僕も何をすればいいか彼女に聞きながら片づけ始めた。遺品といっても大半は捨て
なければいけない。ひたすら二人でゴミ袋にものを放り込む。
昨日のことがあってから、僕はおかしいほど千尋さんに関して敏感になっていた。
千尋さんの部屋にはいるときだって息苦しくなったし、今だって遺品を見るだけで
変な呼吸になるほどだ。
歯ブラシとか、タオルとか、持って帰りたい。持って帰って……そこまで考えて吐
き気を覚えた。やっぱり僕は変態なのか。

そんな僕の心情なんかつゆ知らず作業中、真宵ちゃんは僕にいちいち元気に話しか
けてくる。おしゃべりが好きな子だとは知っていたけど、今日は特にすごい。その
内容というのが、千尋さんの昔の話だったり、そのとき片づけている遺品に関する
エピソードなのだ。言葉や顔は明るいけれど、実の姉を亡くしたショックが多分ま
だ抜けていないんだろうか。おしゃべりでき気をまぎらわせているのか。
それでも表向きは明るい彼女は、そう思うと健気だし痛々しい。
それにこの遺品整理だって、もし僕がいなければ一人でやるつもりだったのか。親
戚の人とうまくいっていないのかな。
でも、彼女がひたすら話し続けてくれたおかげで僕は少し気が楽になってきた。

「う~~ん」
急に真宵ちゃんが部屋の真ん中で仁王立ちしてうなり声をあげた。
僕も立ち上がって部屋を見回した。だいたい半分くらいは処分できたが、まだまだ
荷物は多い。人一人が生きているというのはそれだけ色々なものがいるんだなと思
わず感心してしまうほどだ。
「どうしよう。これ以上はどうしたらいいかわかんないなぁ。捨てなきゃいけない
んだろうけど、う~~ん」
「そうだね。ホント、千尋さんにどうしたらいいか聞きたいよ」
思わず僕の口からそんな言葉がついて出た。
故人である千尋さんを霊媒師の卵、真宵ちゃんは霊媒で呼び出せるのだ。だから直接聞けてしまう。

しかし僕は自分で言ってから後悔した。
まず第一に真宵ちゃんはまだ修行が十分じゃなくて、霊媒を気軽にはできない。真
宵ちゃんは、少しそのことを気にしているようだ。
そして第二に、僕が昨日してしまった、アレのことがある。向こうは何も知らない
だろうが僕が気まずい。
しかしそんな僕の後悔をよそに、真宵ちゃんは元気に
「うん、それ名案だよ!ナルホド君さっすが~」
と言うが早いが、飛ぶようにトイレに飛んでいった。行動が早い子だ。
「気合いとシューチューリョクでちょっとがんばってみるね。うまくいったらお姉
ちゃんにはナルホド君から説明よろしく!」
トイレだと集中できるのだろうかも思ったが、まあ個室だし何となく分からないで
もない。
英単語を覚えるなら電車の中か、トイレの中がいいと聞いたこともある……はいい
が、今千尋さんに出てこられたらいやだ。自分が気まずくてどうしたらいいかわか
らない。

僕は急いでトイレまで駆け寄って、ドアを開けようとした。鍵がかかっている。
しょうがない。扉を叩いた。返事はない。
いやでも、真宵ちゃん、申し訳ないけどまだ余程のピンチにならなきゃ霊媒できな
いから大丈夫かもしれない。いや、でも万が一……
そう堂々巡りをしながらトイレの前を二度往復した。
もう一度、叩いてみた。そしてさらに一度ドアノブに手をかけたその時、懐かしい
声が聞こえた。

イヤな汗が脇の下にじわりとするのを感じた。
どうやら万に一つの確率で霊媒は成功しまったらしい。

「あら、ここ、私のアパート?」
千尋さんがクビをかしげながらトイレから出てきた。
生きていた頃と同じまなざし、唇、大きな胸、肉感的な足……だめだ。今はすべて
いやらしく見える。きっと彼女の体がいやらしいんじゃない。僕が変態なんだ。
息が少し苦しい。変な呼吸のせいで、千尋さんにこの緊張がばれやしないかとさら
に緊張する。
千尋さんはそんなこと知らないようで、普通に話しかけてくる。
「ナルホド君、真宵は何で私を呼んだのかしら。」
「えっと、あの」
言いよどむ僕の顔に千尋さんの顔が近づいてきた。
大きく心臓の音が自分の全身に響いた。
「どうして私の顔見ないの?」
「いや、ちょっと」
僕はごまかすことしかできない。手のひらにびっしょりと汗をかいていた。千尋さ
んは少し困った顔になって部屋を見回した。
「今は、遺品整理してくれてるの?」
「……はい」
「えーっと、この状態から推理するに、あとどう処分したらいいかわからないもの
が残ってる、とか?」
「はい」
僕はバカみたいにハイとしか答えられない。情けないと思う。千尋さんが一言発す
るたびに緊張していく。苦しい。それに緊張のせいか下半身が熱くなってきた。
どうしようもなくてうつむく僕に千尋さんはしょうがないわねという表情だ。その
表情も僕は好きだ。いや、好きだった、か。でもだめだ。今顔を上げて千尋さんの
顔を見たら、きっと、もうだめだ。
千尋さんがうつむいて押し黙る僕の肩に手をかけた。
「どうしたの?あなた変よ?」
その瞬間あのにおいがした。

昨日かいだパンツのにおい。
千尋さんの残り香と同じ。

そう思ったときには、僕は勃起していた。

よりにもよって最悪なタイミングで勃った。千尋さんが見ている前だ。
僕は直立不動でずっと目をふせていた。怖かった。千尋さんにしかられる。しから
れるならまだいい。蔑まれるのが怖い。
次に起こる何かからの衝撃から身を守るように目をきつく、堅く閉じる。千尋さん
がどこを今見ているかわからないけど、どう考えても僕の突如、彼女からしてみた
らきっと理由もなく勃ったムスコを見ているだろう。
変態は変態らしく罵られるんだろうか。いや、もういっそ罵ってくれた方がいい。
心の中で大きく僕は叫んだ。



何も音のしない時間が続いた。自分の心臓の音だけが聞こえる。体が、熱い。
ひどく長い時間、僕は目をつぶっていた気がする。目の筋肉が疲れてきた。でも実
際はどれぐらい経っただろう。こういうときは大抵大して時間は経ってないと決
まっている。
「ナルホド、君」
びっくりするぐらい近くから千尋さんの声がした。その声は僕が今まで聞いたこと
のないような甘くて小さな声だった。
「罪は裁かれるわ」
驚いて目を開けると、千尋さんは僕の肩に腕を回した。彼女の豊かな胸が僕の体に
押し当てられる。やわらかい。暖かい。彼女の頭は僕の目の前にある。抱きつかれ
た、らしい。
千尋さんの髪のにおいが鼻をかすめた。
「し、しょ、ちょう……」

びっくりしすぎて息がうまくできない。言葉を発しようとするたびにのどから変な
空気が出る。
堅くなった股間にも千尋さんの体はぐいぐいと押しつけられていて、刺激が与えら
れるから余計にそこに血が集まっていく。
そんな僕を尻目に、千尋さんは手を僕の上着のポケットに素早くのばした。そこは
彼女のパンツが入っているところだ。それに気がついた僕は驚いて彼女の手をのけ
ようとしたのだが、それより早く彼女はその自分のものだったパンツを取り出し
た。
「これで、しちゃった……のね」
なんでそれをと聞こうとした瞬間、先日の法廷でのことを思い出した。
そうだ、霊媒後、姿を現した彼女はすでに何が起こっていたか知っていた。それは
僕たちの行動を見ていたということだ。そうだ、彼女は亡くなったばかりの霊だか
ら……
「まだ私成仏してないの。成仏するまでは現世に魂だけ漂うのよ。だから」
「な、んで」
僕はそこまでしか言えなかった。何でもっと早く言ってくれなかったんだ?
千尋さんが自分のパンツを床に放り投げた。
「ナルホド君、あなたは犯罪者よ」
そう言うが早いが、千尋さんは堅くなっているあそこをズボンの上から握った。
「うわっ」
情けない声をあげたのはもちろん、僕だ。
「所長、なんで……」
千尋さんの行動の意味がわからない。
僕は罪を犯した。千尋さんのパンツでオナニーした。そんな僕をなんで千尋さんは
……
「成歩堂龍一に判決を言い渡します」
そう彼女は言うと、しゃがみ込み僕のズボンのチャックをおろした。僕の息子は苦
しそうに、ブリーフを突き上げたままズボンの外に飛び出した。
「綾里千尋のショーツの窃盗及びそれを使った背徳的な自慰により有罪」
と、千尋さんは厳かに告げると膝を床につき、布の隙間から息子を引きずり出し
た。姿を現したものは千尋さんの目の前で勢いよく上を向いている。彼女はそれの
竿の部分を掴むと、僕を上目遣いに見た。
「よって私の前でイってみせること」

千尋さんのぽってりとした唇がペニスの先端に押しつけられた。その柔らかい感覚
は敏感なところから脳まですぐに到達して、全身をしびれさせる。
カリのところまで口に含んだまま、舌の先でちろちろとペニスの先端を舐めてい
る。
「あ、ち、千尋さん……」
彼女の頭に手をかけると、千尋さんは上目遣いに僕を見る。
「どうして」
どうして千尋さんはいきなりフェラなんかしてるんだ。しかも彼女のパンツでオナ
ニーした変態の僕なんかに。
それ以上言葉が続けられない僕を無視して、千尋さんはペニスからいったん口を離
した。右手でそれを上へ持ち上げ、左手で袋に触れる。さっきとは違った電気に似
た衝撃が僕の全身を走る。
千尋さんは竿の裏側をツツっと舐める。
「ぅうぁッ」
あまりの気持ちよさに声が漏れる。
ペニスを彼女の舌がはいずるまわっている。千尋さんの唾液でそれは濡れていく。軽くキスされ、彼女の口の奥まで深くくわえられる。

窓の外が暗くなってきた。
部屋に差し込む夕日が千尋さんの顔を照らし出す。そこには今まで見たこともない
ような表情があった。夕焼けのせいだけではなくピンク色に染まった頬はきれい
で、粘液で濡れる唇は艶めかしい。
もう死んでしまった千尋さん。昨日の僕。そして今の僕と千尋さん。
目の前の彼女は彼女ではなく、体は妹の真宵ちゃんのものだ。でも今だけは千尋さ
んのものだ。僕のものを舐めている人は間違いなく千尋さんで、その唇も、頬も、
胸も、ふとももも、全部生前の千尋さんと変わらない。考えれば考えるほど不思議
な気分に頭がくらくらしてくる。
部屋に響く千尋さんの僕を舐める音と、確実に高まっていく快楽と、死者のする性
的な行為という背徳的だと思える行為だという思いとは僕をイかせるのに、時間はほとんど必要なかった。
「千尋、さん」
「もう出そうなの?」
「は、はい」
「そう。でも……まだダメ」
千尋さんはきゅっとペニスの先端のすぐ下を握った。すぐそこまで来ていた液体は
無理やりせき止められる。
多分、僕は今まで一番情けない顔で千尋さんを見ている。ずいぶん昔に弁護して
貰ったあの日の情けない自分よりも、多分ずっとどうしようもない顔をしているだ
ろう。
「あなたは私の言うことを聞く義務がある」
「千…所長……」
「大丈夫よ、ちゃんとイかせてあげるわ」
先端を握ったまま、千尋さんは空いている手で自分の着物の前を開き、自らの大き
な胸を露出させた。大きくて、でも白くて形がよい乳房が表へはじけるように出て
きた。
今まで見ることのできなかったそれを見た瞬間、無理やり出ることを止められてい
た白い液体が、千尋さんが押さえていたところを越えて飛び出してしまった。
「あっ」
その白く濁った液体は勢いよく千尋さんの顔と胸元とへかかる。千尋さんは目をぱ
ちくりさせて驚いている。
「ご、ごめんなさい」
僕は慌てて床に置いてあったティッシュを手にとってそれをぬぐう。
「ダメじゃない、ナルホド君」
彼女も自分にかかった結構な量の白いねっとりとした液体を拭き始めた。
情けないやら、恥ずかしいやらでひたすら謝るしかなかった。
「すいません、本当に、ごめんなさい」
「しょうがないわねぇ」
状況が状況でなければ、彼女が生きてたころのやりとりと同じだった。まだまだ未
熟な弟子と、それをちょっと呆れた調子でフォローしてくれる師匠。彼女の死後も
僕たちの関係は変わっていない。それが不思議だった。でもそれが自然な気がした。

ある程度かかった白い液体をふき取り終わると千尋さんは僕に背を向けた。顔を、
見せてくれない。
「もういいわ。あとは洗うから。とにかく片づけましょう。すぐに夜になる……」
彼女は胸元をしっかりと直し、床に散らばった自分の遺品を拾い上げる。
何事もなかったように整理を始める彼女に違和感を覚えた。さっきまで僕のものを
舐めていたのに。
「所長……いや、千尋さん」
疑問は、彼女がいる今、すべて解決しておきたかった。
千尋さんは振り返らないまま「なに?」と返事を返す。
「どうして、さっきはあんなことをしたんですか」
千尋さんは顔だけ僕の方を見た。
「意味なんて、ないわ」
先ほどの甘いような感じとは全く違う。突き放すような口調だ。そしてまた顔を向
こうに向けてしまう。
「千尋さん!」
僕はいつまでも前進しない問答にしびれを切らし、千尋さんの肩に手をかけると、
思い切り床に押し倒す。ゴトッと言う音が聞こえた。自分でも驚くほど乱暴なやり
方だとは思ったが、僕は勢いで彼女の上に被さった。千尋さんは抵抗したが、男の
僕をはねのけるほどの力はない。
「やめて!」
「答えて下さい」
「乱暴は嫌いです。やめなさい」
「……そうやってまた……僕は……」
もう僕は分かっていた。自分を偽る理由はなくなった。
亡くなった敬愛する師匠のパンツを盗んで、それで自分のオナニーした。それがば
れて、情けないことになってしまった。
これ以上見栄をどうやってこの人の前ではれるだろう。尊敬とか敬愛とか、純粋な
気持ちだけをこの人に持っているんじゃない。弟子としてだけでなく、男として千
尋さんが好きだとわかった。そして彼女が欲しい。多分それは彼女の生前からずっ
と思っていたことだ。今の今まで自分にも隠していた本当の感情だったけど、彼女
が亡くなった今頃になって気づいた。でももう隠している理由なんか全然ない。僕
にも、千尋さんにも隠す必要はないんだ。

したい。
して何が悪い。
千尋さんだってオレに好意を持ってる。

「千尋さん、あなたが欲しいんです」
もう鼻が触れるぐらいに近づいた僕の顔を、何とか近づけまいとする千尋さんの両
手を自分の手で押さえつけてしまう。
「お願い、離して」
手を拘束されても抵抗し続ける彼女の体を自分の全身で押さえつけ、耳元に口づけ
をした。千尋さんが左右に身をよじるたびに、僕と彼女のの体の間で、申し訳程度
にその豊満な胸を隠していた着物の前がずれていく。再び包むものがなくなった胸
の感触がワイシャツ越しに感じられる。柔らかく、そして暖かいその胸は少し汗ば
んでいるようだ。その胸の感覚をもっと感じたくて体をさらに密着させた。それか
らわざと自分の体を動かして、彼女の胸に刺激を与える。
「は……あっ」
千尋さんの少し荒くなった息が耳元でした。こんな刺激だけでこんな声を出すはずがない。

千尋さんだって、オレに……

両手で拘束していた千尋さんの腕を左手だけでまとめて押さえつけた。上体を少し
起こし、右手で自分のワイシャツのボタンをはずし、千尋さんの腰に巻き付いてい
た帯をほどく。これでもう二人を胸と腹とを隔てるものはない。汗ばんだお互いの
肌がぴたりと密着すると、彼女の乳房の中央に堅くなった突起があるのに気が付い
た。
僕は左手はそのままに、自分と彼女との隙間に右手で差し込みむとその突起を指先
でつまんだ。
「っ……」
千尋さんは眉をひそめて声にならない声を出した。その反応は千尋さんを制圧した
い衝動に駆り立てた。さっきとは逆だ。今度は僕が責める番だ。
「かわいいですよ、千尋さん」
思ったことをそのまま彼女の耳元で、わざと息が耳にかかるようささやく。その瞬
間、押さえつけていた千尋さんの抵抗が少しゆるんだ。

「いやじゃ、ないんですよね」
そう聞く僕に千尋さんは目をつぶってしまって何も言わない。
「ならいいじゃないですか」
一人でしゃべっていた。
「オレは千尋さんが大好きです。だから」
「……やじゃないからっ、だから困るのよ」
ようやく聞けた千尋さんの言葉は、泣きそうな調子でとても小さかった。さっきま
での強い調子とのギャップに、思わず彼女の顔を見ると綺麗な黒い瞳が揺れてい
た。驚きのあまり僕の手はゆるんでしまい、千尋さんの腕は僕の手をするりと抜け
てしまう。
でも、彼女はもう抵抗したり逃げたりしようとはしない。
「でもお願い、ナルホド君、分かって」
千尋さんの手は僕の頬にやさしく添えられた。千尋さんの顔は本当に今にも泣き出
しそうだった。だけどそれは僕が彼女の願いを聞き入れる理由にはならなかった。
「嫌じゃないのに、それなのに……あなたは僕に……」
急に頭に血が上った。怒っているのでないと思う。でも、カッとはなっている。そ
んなまともにものを考えられない頭では、続く言葉が見つからなかった。
僕は何も言えないまま千尋さんの腕を掴んで、引っ張り上げた。
「痛いっ」
千尋さんは眉をひそめる以外の抵抗は得にせずに、体を起こした。
「今はいてるパンツ……」
床に落ちている千尋さんのパンツを拾った。
「脱いで下さい」
千尋さんの腰に手をまわし、彼女が今はいている真宵ちゃんのパンツを下ろしかけ
た。千尋さんが僕のおでこに手をのせた。僕の顔は、彼女の顔のある方へ向けさせ
られた。
「ナルホド君、お願いがあるの」
「もう、お願いされてもやめないですよ」
「それはもうわかったわ。違うお願い。入れるときはゴムして」
「ゴム、ですか」
別にゴムをつけるのがいやだというわけではなかったが、千尋さんにゴムをしてく
れと言われるのは変な気がした。今頃また僕は彼女が死人だということを思い出し
ている。
「この体は真宵のものなの。でも今は私が使わせてもらってるわ。自分の体液とか
は体から離れるときに持ち帰れるけど、他人のものは無理なのよ。だから……ゴム
をしないと」
「分かりました」
「分かりましたって、あなた持ってるの?」
掃除を始める前に脱いだ上着から財布を取り出すと、そこから小さな袋に入ったゴ
ムを取り出して千尋さんに見せた。
「これでいいですよね」
ゴムを床に放り投げた。最後までパンツを脱がせてしまうと、僕の目の前には千尋
さんの中へと続くはずの茂みが広がっていた。それも魅力的だったが、今はそれよ
りもしたいことがあった。
「こっち、はいてください」
千尋さんの、昨日僕が持ち帰ったパンツを千尋さんにはいて欲しいのだ。
「えっ?」
「千尋さんのパンツ、はいてくださいよ。さっきの真宵ちゃんのだと濡れちゃって
困りませんか」
千尋さんの顔は見なかった。
見る必要はない。どうせ僕を見下したような目で見てるんだろう。もう、そんなこ
とどうだっていい。
「オレは千尋さんがこれはいたところ、見たいんですよ」
パンツを広げ、穴の部分に足をいれるように促してみたが、千尋さんは入れようと
しない。じれったくなったので彼女の足を持ち上げるようとすると、ようやく自分
からはいてくれた。

そして、目の前には昨日オナニーしたときに想像した千尋さんの姿が現実に立って
いた。

スレにて連載中
最終更新:2006年12月13日 08:02