*    *


朝起きたら、なぜか春美が隣で眠っていた。整った顔が無邪気に寝息を立てていて、無防備この上ない。白い浴衣はややはだけられ、その輝く柔肌は独身男性には目の毒だ。
ま、またか……。
あの夜以来、春美はことあるごとに「さみしい」と言っては御剣の布団にもぐりこんでくる。最初のうちは彼女に請われるままに傍にいたが、
すぐにそれは不適切な対応だということを思い知らされた。
ありていに言って、彼女は発育が良かった。まだ少女の幼さを残してはいるものの、その身体は柔らかく、女性の匂いをまとっている。
そう度々床を共にして、変な気分にならないとは断言できなかった。自分だって30代を迎えて、男盛りの時期なのだ。女子高生と不適切な関係に陥ったら、
それこそ冥が言ったように淫行罪で逮捕。秋霜烈日章はく奪だ。それだけは避けなければならない。いや、本来なら春美がこうしてベッドにもぐりこむことさえ
誰かに知られてはやっかいだ。この可憐に成長した少女を見れば、誰でも変な勘ぐりをしてしまうに違いない。それほど春美は魅力的な女性へと成長する兆しを見せていた。
「……春美くん。春美くん」
細い体を揺さぶると、長いまつげが震えて大きな瞳がゆっくりと開かれた。しばらくぼうっと視線をさまよわせ、御剣と目が合うと花がほころんだように笑顔を見せる。
「おはようございます。れいじさん」
「お、おはよう。……また、なぜここに?」
春美はゆっくりと身を起し、ベッドの上にちょこんと正座をした。いつもは高い位置で結わえられている髪が下ろされていて、ひどく色っぽい。
「……また、ひとりでいるのが、さみしくなってしまったのです……。申し訳ありません。わたくしがいては、れいじさんはゆっくりお休みになれませんよね……」
眉を下げて、すみません、と頭を下げる春美に、慌てて顔を上げさせる。
「いや、別に休めないことはない。ただ……その、このようなアレは、お互いによくないのではないかと……」
言いながら、まったく説得力の無い発言である自覚があった。こんな言葉で、聡明な彼女が納得するとは思えない。いっそ、眠れないから部屋に帰れと強く言えればいいのだが、
彼女の潤んだ大きな瞳にじぃっと見つめられては、とてもそんなことは言えなかった。
「? れいじさん、やはりご迷惑なのでしょうか……?」
「い、いや、そうでは……」
そう言ってしまって、御剣は後悔した。目の前の春美が、少し照れくさそうに満面の笑顔を浮かべたからだ。それはもう、幸せそうな笑顔だ。見ているこちらも幸せになれそうなほど。
「ふふ、よかった。わたくし、れいじさんの傍だととてもよく眠れるのです。ずうっとお傍にいたいくらい……」
「!!」
御剣が目を見張る。すると、春美もさっと顔色を変えた。真っ赤になった頬に手を当てる。
「あ! あの、えっと、その……わ、わたくし朝食の準備をしますね! あ、あの、れいじさんは、もう少しだけお休みになってください!!」
「う、うむ……」
慌てて御剣の寝室から飛び出していく春美の後姿を眺めながら、御剣は自分の顔まで赤く染まるのが自覚できた。
何なのだ、この妙に甘酸っぱい感覚は。彼女の言葉が、うれしくて仕方ない。あの夜抱きしめた彼女の身体の感触が、まだ残っているような気さえする。まるで──。
御剣は頭を振った。考えてはいけない。
自分が彼女に、好意を寄せている、なんて可能性は──。

*    *

「御剣検事、何か悩み事ッスか? 視線が宙をさ迷ってるッス」
薄汚いコートを羽織った万年平刑事の糸鋸圭介が、上司である御剣に話しかけた。
事件現場を視察に来た御剣は、誰が見ても挙動不審だったが、尋常ならざる光景に誰も突っ込めずにいた。
「なんでもない。それより、事件の経過を説明しろ、刑事」
「了解ッス!」
すっきりしない頭で、報告書と同じ説明をばかのように繰り返す刑事の言葉を右から左へ聞き流しながら、今朝の出来事を反芻する。
目が覚めるまで彼女が自らの腕の中にいたと思うと、せつない気分になる。下ろされた長い髪が、さらさらと自分の腕や頬にかかる感触で目が覚めたことを思い出した。
目が覚めた瞬間に感じた穏やかな寝息や、自分の胸に息が吹きかかる感触、彼女の身体がわずかに身じろぎする瞬間に触れた、柔らかな肌……。
そのどれもが酷く愛おしく思えて、御剣は動揺した。
それに、最近彼女が自分を呼ぶ声──。
「れいじさん」
幸せそうな笑顔で名前を呼ぶ声が、自分の心まで穏やかにしてくれる。あの夜から、彼女は自分をそう呼ぶようになった。
あるいは、彼女の中ではもう何年も前からそう呼んでいたのかもしれない。
糸鋸刑事の説明を聞き終え現場を一通り視察した御剣は、いったん検察庁に戻って被疑者の尋問にそなえることにした。
自分の車に、ずうずうしくも遠慮なく乗り込んでくる刑事に、ひとつ質問を投げかける。
「……刑事。奥方は元気だろうか」
「マコくんッスか? 元気ッスよ! 子どもも大きくなって、今トノサマンシリーズに夢中ッス!!」
元気いっぱいで、自分、毎日ヘトヘトッス! と幸せいっぱいな表情で言われてしまい、御剣は脂汗を流した。これから自分は、何を聞こうとしているのか……。
「そうか。……奥方は、確か警官学校の指導教官時代の教え子だそうだな」
「そうッス! マコくんは、自分を理想の刑事だと言ってくれた、唯一の後輩ッス!」
「……目は大丈夫なのだろうか。奥方は」
「視力は悪いみたいッスね。メガネかけていますから」
「……確か、随分歳が離れていた、はずだが……」
その御剣の問いに、糸鋸刑事は頬を赤らめた。
「いやー。お恥ずかしいッス。9歳ほど離れているッス。幼妻ッス!」
気持ち悪いぐらい照れ始めた刑事を無視して、御剣は今度は冷や汗を流した。
……9歳で幼妻……。では、仮に私と春美くんがどうにかなったとしたら、一体……。
御剣は一生懸命首を振った。
な、何をバカなことを! 33歳の検事が、16歳の女子高生と……!? ありえないスキャンダルだ!!
「職場仲間から、さんざんロリコン扱いされたッス! 世の中、歳の差には厳しいッス!」
「ぐっ……!」
「でも、自分たちには関係ないッス! 愛があれば歳の差なんて!」
「……刑事」
「なんッスか?」
「やかましい」
「ひ、ひどいッス! 検事が振ったネタじゃないッスか!!」
「次の給与査定、楽しみにしておくことだ」
「横暴ッス! 訴えるッス!」

*    *
リビングでくつろいでいると、ドアの鍵が開けられる音がした。彼が帰ってきたのだと、素早く立ち上がって小走りに玄関まで走っていく。
「おかえりなさいませ、れいじさん」
「う、うむ……。ただいま」
御剣はなぜか、わずかに頬を赤らめて春美から視線をそらした。それが少しだけさみしかったが、いつもと同じようにスーツの上着を渡してくるので、それを受け取った。
「先に眠っていてもよかったのだが……」
「まあ。居候の身で、家主様より先に眠るなんてできませんわ」
話しながら、御剣の部屋へ一緒に入り、クローゼットに上着をしまう前に丁寧にブラシをかけた。そんな春美の行動を見て、御剣ははっとした表情をして慌てたような声をだした。
「は、春美くん。別に、そんなことはしなくても……」
「まあ。いつもしていることですよ。それにわたくし、これくらいのことしかできませんもの」
「そもそも、きみは成歩堂や真宵くんから預かっているのだから、家事などしなくてもいいんだ」
春美は御剣の発言をいぶかしんだ。これまでずっとやってきたことを、今更とがめるなんておかしい。
「どうかなさったんですか? れいじさん」
「う……別に、何でもない。その、前々から言おうと思っていたことなんだ」
いったん少女と距離をとり、冷静になりたい男の心境など春美には思いもつかない。大きな瞳をじっと御剣に向ける。
「れいじさん。わたくしに嘘をついても、だめですよ。見えてしまいますから」
春美がそう言うと、御剣はうっと苦い声を漏らした。もっとも、サイコ・ロックなど使わなくても、目の前の男が何かを隠しているのは簡単にわかるのだが……。
しかし、そう言っても御剣に話す様子はなかったので、春美は追及するのをやめた。
「とにかく、わたくし、働けもせず、収入もない身でありながら、真宵さまやなるほどくんのおかげでこんな都会の学校にまで通わせていただいて、
れいじさんにもご迷惑をおかけしているのです。わたくしでお役にたつことでしたら、何でもしますとも!」
「う……そう、か」
「ええ! おまかせください!!」
まくし立てると、御剣は引いた。押しに弱い人なのだ。
「今日は遅くなると伺っていましたから、お夕飯はないのですが……お夜食をご用意しましょうか?」
「いや、大丈夫だ。シャワーを浴びて眠るから、きみも休みたまえ」
「お風呂は入っていますから、きちんと温まってくださいね」
「あ……ああ」
「それでは、おやすみなさいませ」
「ああ。おやすみ」


そうは言っても、春美はすぐに眠らない。明日の朝食の下ごしらえや弁当の用意をすると、春美が寝支度を整えるのは毎日日付が変わるころなのだ。いつも、御剣は休んでいる時刻。
春美は頬を少し赤くして、御剣の部屋へそっと忍びこんだ。暗い部屋が怖いと語っていた彼は、夜も橙色の明るい明かりを灯して眠っている。
広い部屋は整理されていて、本棚にはめいっぱい本が並べられていた。机の上には、きちんと書類がそろえて置かれてあり、主の几帳面さがにじみ出ている。
その様が何だか主のイメージにぴったりで、春美はいつもそれを見ては微笑んでしまう。
春美はその机を横切り、セミダブルのベッドに横たわって眠っている御剣の顔をのぞき込む。白い肌に橙色の明かりが映って、いつもよりも血色が良さそうに見えた。
いつも眉間にヒビが入っているのに、寝顔ではそれも薄くなっていて、ちょっぴりだけ幼く思える。
深い寝息に伴って、厚い胸板やのどぼとけが上下に動くのを眺めて、ああ、やっぱりこの人は男の人なんだと思う。
春美は、あの約束が再び結ばれた夜、御剣の傍がとても居心地がいいことを知ってしまった。どうしても毎晩、一緒にいたかった。彼の傍はとても温かく、安心できる。
彼と一緒にいれば、もう二度と恐ろしい夢など見ないのではと思えた。

そんな安心感がありながら、一方で破裂するかと思うほど心臓が音を立てている。今でも、彼の寝顔を見るだけで、鼓動が速くなりすぎて死んでしまうかもしれないと思う。
でも、一緒にいられるなら、このまま心臓が爆発しても構いません……。
春美はそう思いながら、御剣の端正な顔に自らの顔を近づけた。
いい夢が見られる、ないしょのおまじない。自分が安心できる、でも絶対にないしょのおまじない。
お願いですから、今夜も起きませんように。

そう願って、ここ最近の習慣を、今日も静かに繰り返した。

*     *

深夜のはずなのに、部屋に人の気配を感じて目が覚めた。こんな時間にこの部屋へ侵入してくる人物は、一人しかいない。
今日こそ、部屋へ帰ってもらう!
心に決意を固めるも、起きるタイミングを逸してしまったため、彼女がベッドへ入り込んできたところを注意してやろうと待ち構える。
しかし、少女はいつまで経っても、ベッドへ入ろうとはしなかった。
何をしているのか、と瞼を開くと、見覚えのある美しい少女の顔が近付いてきた。そして──あろうことか、自分の唇に、何やらやわらかなものが……。
驚きで目を見開くと、いつの間に離れたのか、少女と──春美と目が合った。
「あ……その、起こしてしまいましたか?」
「……い、いや……その……」
頭がうまく回っていないので、口もうまく回らない。そもそも、まともな状態だってこんな時に何と言えばいいのかわからない。
つくづく、自分のボキャブラリーは法廷内に限られているのだと思い知らされる。 春美も御剣と同様のようで、徐々に状況を理解し、顔を真っ赤に染めていった。
「あ……あの……」
「……は、春美くん……?」
「ど……どうして起きてしまわれるんですかっ……」
春美は半泣きの形相で逆切れした。
「ど、どうしてって……」
「い、いつもは、少しくらいなら起きないではないですかっ……」
い、いつも、と言うのか、彼女は。
「いつも……こ、こんなことを?」
春美は、これ以上ないというほど顔を真っ赤にして、その場に崩れ落ちて泣き出してしまった。身体を震わせ、声を震わせているその姿に、御剣は焦った。
まずい。今のは完全に私が泣かせた……!!
「は、春美くん……」
「わ、わたくしのこと、軽蔑、されたでしょうっ……! 恥ずかしい女だとお思いなんでしょう!」
「そ、そんなことは……」
「いいえ! そうに決まっています!! ううっ……れいじさんのばかぁっ……」
ぽろぽろと涙をこぼす彼女の姿に胸が痛む。
「わ、私が悪かった。その……起きてすまない」
なんだか間の抜けたことを言っている自覚はあった。春美は大粒の涙をこぼしながら、御剣をにらみつけた。──かなり怖い。
「れいじさんは悪くありません!! わ、わたくしが悪いのですっ……! は、はれんちな、うぅ……」
「春美くん……な、泣かないでほしい……。その、私は気にしていないから……」
「気にしてくださいっ!!」
ではどうすればいいのだ!!
御剣はあっさりと袋小路に陥った。この手のことは、全くどうしたらいいのかわからない。
「き、気にしてくださいっ……! わたくし、別に興味本位でしたのでは、ありませんっ……! ちゃんと、考えてくださいっ……」
しゃっくりの中に混じる声をつなげると、そう言っているように聞こえる。御剣はうなだれた。こんな状況なのに……。
何だか色んなことを期待している自分がいることに、呆れてしまう。
「……わかった。考える、から。だから、春美くんに少し聞きたいことがある」
冷静な御剣の言葉を聞いて、春美は顔を覆っていた両手を外して、ゆるゆると御剣を見上げた。泣きはらして真っ赤になった瞳から、まだまだ大粒の涙がこぼれていた。
御剣はそのしずくを指で拭ってやる。
「……な、なんでしょうか……?」

「……春美くんは、私のことが好きなのだろうか……?」

春美の瞳から、ぴたりと涙が止まった。そして顔を真っ赤にして視線をあちこちにさまよわせ、最終的には御剣と視線をぴったりと合わせて、こくりとうなずいた。

「はい。……わたくし、れいじさんのことがとっても好きなんです」

春美の瞳とその言葉に、御剣は想像以上に激しく動揺した。
なんだか……考えていた以上に、うれしいのだが……。
胸がじんわりと温かくなってくる。自分の感情と理性がかみ合わず、混乱してすべての動きが止まってしまう。
自分の立場上、彼女の気持ちを受け取ってはいけない。だから「そうなのか。私も春美くんは好きだ」と頭のひとつも撫でてやらなければ。
それで、いつものように大人と子供に、家主と居候に戻れることだろう。
だが、もう。彼女以上に自分が、もう、そんな関係には戻れないことはわかっていた。
御剣は、目の前で大きな瞳を震わせている春美を見た。未だに涙の余韻と羞恥で顔を真っ赤にしている。不安のためか、身体を震わせている様に鼓動が高まった。
「……春美くん」
「はい」
可憐な声音が、強張っている。彼女の緊張が御剣まで届きそうだった。
ああ。どうしてこんなに……愛おしいと思うのだろう。
「……やはり、その、先ほどのことは、気にしないでほしい……」
「え……」
御剣の言葉に、春美は再び涙をにじませた。瞳に絶望の色が宿る。そんな少女の白磁の頬に手を添え、そっと唇を重ねた。
その瞬間に、春美の身体が大きく揺れる。触れただけで離れ、改めて春美の顔を見ると、真っ赤になって、頬に手を添えていた。照れたときにする、彼女の幼いころからのくせだ。
「あ……あの……」
「……これから、たくさんすることになるだろうから、気にしないでほしい」
「れ、れいじ、さん……?」
「あと、その……きみが、私にキスをするのも、その理由も、私には、とてもうれしいものだから……もっと、してもらってかまわない」
何だか、こんな感じで大丈夫なのだろうか。いくらなんでも、これは一回り以上年上としてきちんとリードできていないのでは、などと考えてしまう。
恋愛は得意分野ではないにしろ、ここまで不器用でもなかったはずだ。しかし、なぜか彼女の前では、こちらもつられてスマートなやり方ができずにいる。
もっとも、彼女からのアプローチがなければ一生気づかなかったはずの感情に戸惑っているせいかもしれない。だが、もう理性や常識などでは、この感情はごまかせない。
「あ、あの……。そ、れは……れいじさんも、わたくしと同じ気持ちだと、思ってもっ……?」
浴衣の胸元をぎゅっとつかむしぐさが、やはりまだ少女の面影を残している。だが、彼女は自ら大人と子どもの──その一線を飛び越えたのだ。
なのに彼女ときたら、そんなことにはまるで気が付いていない。無自覚な春美の様子が、なんだか妙にかわいく思えて、御剣は頬に笑みを浮かべた。
「……私も、きみが愛しいと、思う」
「……っ……れいじさんっ!」
春美は、やっぱり涙を浮かべて御剣に抱きついてきた。その小さな体を抱きしめて、春美の陽だまりのような温かな体温を独り占めにする。
細いのにふかふかとした身体は抱き心地がよくて離れがたい。

キスしたい……。

先ほどは自分で「これからたくさんすることになるから」などと言っていたのに、そんな欲求が生まれることに、まだわずかに戸惑った。
だが、一度高ぶった欲求は容易には静まってはくれないようで……。腕の中の春美を見ると、彼女もこちらをうかがっていたのか、目が合った。
春美は恥ずかしそうに頬を赤く染めたが、にこりと笑って視線をそらすことはなかった。それに気を良くして、御剣はさっと春美の唇を奪う。
小鳥が餌をついばむような接触だったが、春美は顔を真っ赤にして照れた。
「まあ! れいじさんったら……」
「ふ……これしきでそんな態度では、私が困ってしまうな」
御剣は春美を抱きあげて、ゆっくりとベッドに横たえた。春美が驚いて、何かを決意したように身体を固くしたが、気にしないことにする。
そして──再び、その紅い唇を自らの唇でふさいだ。今度は、触れるだけの唇から舌を挿しこみ、口内をかき回し、舌を絡める。
「ん、ふっ……ぅ、んぁ…」
鼻息が交じる甘い声に、御剣は理性が溶けていくのを感じた。唾液を交換し、唇を舐め、何度も何度も口づけると、その激しさに春美の瞳から涙がこぼれる。
だが、嫌がるそぶりも見せず、むしろ御剣のがっしりとした広い背中に手をまわし、しがみついてきた。その身体の柔らかさと細さに、一層口づけに熱がこもった。
春美の舌はたどたどしく、どうしたらいいのかとさまよいながらも、時々御剣の動きに応えてくる。

こんな、キスも知らない少女に欲情するなんて、自分はどうにかしてしまったに違いない。そう思う反面、彼女と一緒ならどうなってもいい、と思う自分もいる。
もう、あとには引けない。
とろけるような熱いキスを終えると、御剣は春美を見た。
「……今ならまだ、やめることもできる……と、思う。きみが選んでくれ」
だが、春美は精一杯首を横に振った。キスの余韻で、顔を真っ赤にしている。少女らしい初心な反応なのに、匂い立つような女の気配もまとっていて、
そのアンバランスさに御剣は目まいを起こしそうになった。
「やめ……ないでください……。れいじさん……すきです」
今、自分はどんな表情をしているのだろう。きっと、いつも刻まれている眉間のしわは薄くなって、眼尻が垂れ下がっているに違いない。
もしかすると、頬はみっともなく紅潮して、微笑んでいるかもしれない。誰にも見せられない表情をしていることだけは確信できた。
目の前の彼女以外には、決して見せられない──。
「今夜一晩、ずっとそう言っていてくれないだろうか」
「え?」
「……どうやら私は、きみの口からその言葉を聞くのが酷くうれしいらしい。……ダメだろうか?」
そう懇願すると、目の前の少女は頬を紅潮させ、瞳に涙をいっぱいに浮かべて抱きついてきた。この細い体のどこにそんな力があるのかと思うほどの強い力で、
御剣は一瞬息が詰まる。耳元で、春美の息遣いと鈴の音のような声が聞こえた。
「……あなたが望むなら、何回でも言います。……大好きな、れいじさん」
御剣は愛しさにまかせて、再び春美に深く口づけた。


何も纏わない春美の身体は白く、美しかった。男に裸体を見せるのに怯えているのか、わずかに身体を震わせている。落ちつけようと肩を何度か撫でてやると、
さらに緊張させてしまったようで瞳をぎゅっと瞑られてしまった。
「春美くん。そんなに怯えないでくれたまえ。……少し傷つく」
「え、あ! す、すみません。わたくしったら……どうしたらいいのかわからなくって、ついうろたえてしまって……」
まさしくうろたえて、瞳をさまよわせている春美。そのかわいらしい仕草に、御剣はまたみっともない表情をしてしまいそうになる。慌てて手のひらで口元を隠した。
「う、うむ……無理もない。その……ゆっくりでいいから、慣れていけばいい」
「は、はい!」
そうは言っても、初めてで緊張するなという方が酷だろう。御剣は自分の高ぶりをこらえ、しばらく抱きしめるだけに留まった。すると、徐々に春美の身体から力が抜け、
表情も柔らかなものへと変わっていった。
「やっぱり、れいじさんといると、とっても落ち着きます……」
「む……そうなのだろうか……」
「ええ。……れいじさんは、わたくしのことを大切にしてくださいますもの」
無条件の信頼に、やっぱり頬がほころんでしまう。骨抜きとは、こういう状態なのかもしれないとぼんやりと思った。
「……私は、きみといると動悸が酷い……」
「まあ! 大丈夫ですか?」
心底心配そうな瞳で見つめる春美。別に身体的な病というわけではないのだが……どうも彼女には意図が伝わっていないようだ。別にかまわないが。
余計な力が抜けた春美の身体を、唇と舌でたどっていく。首筋に口づけ、鎖骨、肩、胸元、へそ、太もも……。
舌で舐めあげ、唇できつく吸いつくたびに、春美の細い身体が震えてしなる。
「んっ……は、あ……、れいじ、さんっ……」
ちゅっ…つっ……ぴちゃ……
春美の肌と御剣の唇や舌が接触するたびにかすかにリップノイズが響き、春美は頬を一層紅潮させる。本能的に快楽の予感を感じ取っているのか、
肢体をくねらせる動きが扇情的で、御剣の牡の意識を覚醒させるようだ。吐き出される声も、徐々に色を帯びてくる。
胸の頂は、桃色に染まってぴんと立ちあがっていた。白いまろみを手のひらで包むと、成長途中だというのに片手でわずかに余るほどの質量を備えていたことに驚く。

き、着痩せをするタイプなのだな、春美くんは……。
一切の衣類を取り払った少女の身体は、いつもの装束からはわからなかったが見事に均整がとれていた。御剣は、その柔らかなまろみを優しく揉みしだく。
十分な弾力に、御剣の興奮はいやおうにも煽られる。片方のまろみの頂を口に含み、舌でねぶると春美の声がひと際高くなった。
「ぁあ! ふ、んっ……ぁ……や、ぬるぬるしますっ……」
固いしこりをきつく吸い上げ、唇で甘噛みする。舌で執拗に刺激を与え、少女が最も声が高くなる部分を探した。執拗に胸をいじめると、びくりと大きく身体を震わせ、
高く悲鳴を上げる場所を見つける。
「は、ぁ……あ!? やんっ……!! だ、だめ、れいじさんっ……! そこ、何だか変ですっ……」
「んっ……ちゅぅ……ここ、か。春美くんは、素直だからやりやすいな」
「……ふぁあんっ! やぁんっ…な、なんなんですかっ……ぁんっ!」
「……きみが気持ちいいと感じる場所を探しているのだよ。でないと、あとあときみに辛い思いをさせてしまうからな」
そう言いながら、御剣はその弱い部分を指でいじりながら、もう一方の手は春美の秘所へと向かった。
「ひゃんっ……! や、そんなとこ、触ってはだめぇ……」
触れると、くちゅりと粘着質の音が響き、指に粘液が絡みついてきた。その粘液を指にからみつかせ、さらに別の赤く充血した個所へ指をやる。
立ちふるえている突起に指を這わせると、春美の身体が大きく震えた。
「っやああんっ!!」
「──ッ……どうも、春美くん、は、ひどく感じやすいタイプのようだな……」
ぴったりと閉じられたふとももの間に指を入れ秘所をまさぐっているが、どこも春美の愛液でべたべたになっていた。御剣は春美の足を持ち上げ開かせる。
その行為に、慌てる春美。
「いやっ……! そ、そんなことをしては恥ずかしいですっ……! やめてください!!」
「む……しかし、こうしなければできないのだが……」
もちろん別のやり方だってあるにはあるが、初めての春美にはどれも少し辛いに違いない。困ったような表情をすると、春美も困ったような瞳に涙を浮かべた。
「こ、こんな恥ずかしい格好をしなければ、できないものなのですか……?」
「う、うむ……。大丈夫だろうか」
春美は困惑していたが、一度自分も「やる」と覚悟を決めた手前、嫌だと逃げ出したくはなかった。
最も、たとえ嫌だと言い出しても、もはや御剣は止められないところまで高ぶっているのだが。
「だ、だいじょうぶ、ですっ……!」
「ふ……そうか」
春美の開かれた身体を眺め、御剣は生唾をごくりと飲み込んだ。はじめての刺激にひくひくと震える秘所が、淡く色づいて御剣を誘っていた。
すでに濡れそぼったその箇所に、御剣は舌を寄せる。
ちゅっ……くっ……ぷちゅっ……ぴちゃっ
「は! ぁ、あんっ……れ、れいじ、さ……あぁ! そな、とこっ……舐めてっ」
丹念に突起を舐めあげ、くぼみに舌を浅くいれ、春美の身体は快楽に震えた。
「あ! あぁんっ!! だ、だめぇ……れいじさんっ…れいじさんっ……!」
ぴちゃりぴちゃりと蜜を舐めとる音が室内に響く。それと同時に、自分の舌技に啼く少女の艶のある声が耳に届き、御剣の下半身を奮い立たせた。
今すぐにでも──! 
そう思うが、なんとかこらえて彼女のこれから迎える苦痛を和らげたいと、丹念に秘所をもみほぐす。
興奮で立ちふるえる突起を口に含んで舌で刺激し、膣内に指を入れる。まず一本だけ入れるが、それだけでもぎゅうぎゅうとしめつけてきた。あまりの狭さに、御剣は不安になる。
「……春美くん、力を抜いてほしいのだが……」
「ふぇ……あっ……むり、ですっ……そ、な……」
どうも感じすぎてしまっているようだ。身体が言うことをきかないのかもしれない。だが、このままアレを挿入するとなると、彼女がきっと辛い……。
御剣は困ったが、とにかく彼女を落ち着かせようと口づける。
「んっ……ふ、ぁむ……んんっ」
「は……ちゅっ…む、はるみ、くんっ……」
深い深い口づけに、春美も御剣も酔いしれる。いつの間にか、もう春美はキスのコツでも掴んだようで、的確に御剣の舌に応えてくる。まったく、末恐ろしい少女だ。
あまりの気持ちよさに、御剣の意識の方がどうにかなりそうだった。興奮した一物を春美の濡れそぼった秘所にこすりつけることで、高ぶりをやり過ごそうとする。
一物と秘所が擦れ合うたびに、卑猥な水音が寝室に響き渡った。

リップノイズと粘着質な水音と、シーツの衣ずれの音、二人の吐息、その合間に漏れる声……。
全てが御剣の興奮を高めた。
もう、待てない……っ……!
やや強引に春美の蜜壺へずぶりと二本の指を入れると、何とか受け入れられる程度に力が抜けていた。その二本の指で、膣内をできる限り慎重にかき回す。
「は…っ…はるみくん……大丈夫、だろうか。痛くは、ないか?」
「んぁっ! は、あっ、はいっ……あっ! でも、何だか、はぁあんっ!! へんな、っ……っぁあ…!」
御剣は秘所から濡れた指を引き抜き、代わりに高ぶりきってぬらぬらと光る自らのものをあてがった。
「はるみくん……痛かったら、言うんだ。……気持よくなれるよう、頑張るから……」
春美は興奮の涙で滲んだ瞳を揺らして、それでも懸命にこくりと頷いた。その姿にますます愛おしさが募り、唇にくちづけ、自らの情熱を彼女の中へ押しいれた。
「ああああああ!」
「っあ……! く、きつっ……」
ずぶずぶと胎内に剛直を沈めていくと、あまりの狭さに一瞬意識が遠のきかける。そこを何とか持ちこたえて、春美の膣内がモノになじむのを待った。
ゆっくりと腰を上下していると、徐々に粘液が助けてその締め付けを緩めてくれる。ゆっくりと奥へ進み、何とか全てを入れることができた。
「はるみくん……、痛い、だろうか……?」
春美はぽろぽろと涙をこぼしながら、御剣の身体にしがみついている。その瞳を覗き込むと、痛みと快楽のはざまでたゆたっているような、曖昧な表情をしていた。
その表情が少女とは思えないような扇情的な女の表情で、御剣の背筋にはぞくりと快楽の予感が走った。
「う……すこ、し……。でも、大丈夫、です……。れいじさん、優しくしてくださっていますから……」
健気な言葉に、愛しさがあふれそうになる。何度目かの口づけを贈ると、春美はうっとりとそれを受け入れた。
「ん……ふぅ……だいすき……っ。だいすき、れいじさん……」
「……うむ……。私も、その、春美くんが好きだ」
口づけを交わすうちに膣内がだいぶん緩やかになってきたのを感じて、御剣はゆっくりと腰を動かした。
膣内を動くたび、春美の嬌声とも悲鳴ともつかない声が耳元で上がり、興奮を煽った。
「あ、ああんっ! はあぁっ…あ、っ……!! ふぁあぁっ! れいじさぁんっ!!」
「っ……はぁっ……春美、くんっ……」
可能な限りゆっくりと動こうとしてはいるが、春美の中の気持ちよさに、早くも御剣の脳内は危険信号が灯っている。
ま、まずい……。我慢、できないかもしれない……。
耳元の春美の嬌声も、下半身をしびれさせる刺激も、彼女の温かさも……。全てが御剣を限界へと誘う。

「は……、春美くん……。すまない……」
「あっ、はぁっ……! あ、れいじ、さんっ……!」
「少し、動くのを早くする、から……痛い、かもしれない……」
「……っ、だい、じょうぶ、ですっ……! わ、わたくし、れいじさんとなら、我慢、できますっ……!」
健気な言葉と潤んだ瞳に、御剣は参ってしまう。どうしたら、こんな素直な言葉が出てくるのだろう。かわいくて仕方がない。
御剣は情熱のままに腰の動きを速めた。肉がぶつかり合う音が部屋中に響くが、二人は互いの声に酔っていて耳に入らない。
「ああっ! はあん、れいじさぁん! わたくし、なにか、へんっ……っ」
「っ……はるみくんっ……!」
春美の膣内が急速に狭まっていく。もしかしたら、感じてくれているのかもしれないと思うと、御剣はいよいよ理性がなくなっていった。
「もしかして、気持ちいい、のだろうか……?」
「んっ……わかりま、せんっ……で、でもっ…あ! へん、なんですっ……からだ、しびれてぇ……」
御剣は春美の細い身体をぎゅっと抱きしめて、最奥へと楔を打ちつけた。狭い蜜壺を高ぶった己で遠慮なく引っ掻きまわすと、
春美がしがみつく力がますます強くなる。互いの身体がつながった場所からは蜜が溢れて、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てていた。
愛蜜に促され、春美の足を大きく開かせてより奥へと雄の熱をねじ込むと、少女は一層いやらしい悲鳴をあげて、身体を震わせる。
「あああぁ! はぁんっ、れいじさぁんっ!! からだがしびれて、っ……ぞくぞくって……やああぁんっ!!」
「ああ、はるみくん……。それで、いいんだ。……だいじょうぶ、だからっ……」
春美の身体を突き刺す度に、抱きついてくる腕に力が込められて、何だか甘えられているように感じる。彼女には今、自分しかいないのだと思うと、
独占欲が満たされて幸福な気持ちになれた。粘膜が擦れ、ぐちゅぐちゅと互いが混じり合う感覚に恍惚となる御剣。その激しすぎる快楽に、先に耐え切れなくなったのは春美の方だった。
「ふ、あぁっ……ん、ああああああっ!!」
「──ッ……!!」
御剣が最も深い場所へ先端を擦りつけた瞬間、春美は高い声を上げての身体を震わせた。その時を逃さず、御剣も己の熱い欲望を解き放ったのだった。



*     *

隣で安らかに眠る春美を見て、御剣は目の前に立ちふさがる難題に頭を抱えた。
どう他人に説明しても、三十路を越えた男が女子高生を手籠めにしたという状況は変わらない。 
それでも彼女が愛しくて自分のものにしたいと思ったのだから、ある意味この状況は想定内と言えなくもない。
さらに、この世間的にはとてつもなく後ろ暗い状況を打破する方法を、御剣はひとつしか思いつけないでいた。
彼女はこんなことを言い出す自分を怒らないだろうか。しかし、聡明な彼女のことだから、なぜ自分がこんなことを言い出すのか、きっと理解してくれるはず。
そう思った瞬間、十代の少女にひどく甘えている自分に気が付いた。情けないような、でも彼女相手では仕方がないような、複雑な感情が浮かんで消えた。
「んっ……」
寝返りを打ち、その拍子で目が覚めたのか春美は小さくうめいた。そのまま、大きな瞳をゆっくりと開く。
しばらく視線を宙にさまよわせていたが、御剣をとらえるとふわりと笑った。少しはにかんだ幸せそうな笑顔に、御剣はキスを贈る。
「おはようございます……」
「まだそんな時間ではない。……疲れただろうから、もう少し眠ったほうがいい」
そう言いながら、起きて自分の名前を呼んでほしいとも思う。よほど自分は彼女が好きらしいと、改めて思い知らされた。
「れいじさんは、お疲れではないのですか? ……一緒に眠ってほしいです……」
疲れなど吹き飛ぶかわいらしい声に、御剣はメイが言う「だらしないカオ」をした。
それと同時に、今までぐるぐると思い悩んでいたことなどさっくり捨て去って、それが一番いい方法だと決断する。

「春美くん、申しわけないのだが、明日は学校を休めるだろうか」
「? ええ……でも、なぜですか」
「倉院へ真宵くんに会いに行こう」
「真宵さまのところへ?」
春美はさっと顔色を変えた。もしかして、こんな関係になった自分をいつまでも家には置けないと、実家に帰されるのでは……!?
その想像にうっかり涙目になってしまった春美だが、御剣が頬を優しくなでるので、そうではないのかと混乱した。
「れいじさん……?」
「……きみと結婚する許可を、もらいに行こう。その、きみが嫌でなければ、なのだが……」
春美はまた瞳をうるませた。なんだか今日は泣いてばかりいる気がする。
「い、嫌だなんて……! そんな、そんなことありませんっ!!」
「ふ……そうか、よかった」
ぎゅうっと春美を抱きしめた御剣は、成歩堂や矢張たちに何とからかわれてもいいように、腹を決めておかねばならないと思った。

おわる

*    *

「なぁ、御剣。せめて高校卒業してからにしたらどうだ?」
「異議ありだ。現時点で春美くんは16歳。わたしは33歳だ。3年経てば36歳。」
「うお。リアルにかんがえるとおっさんだな。ぼくたち。……・で?」
「……3年の間に誰かに横取りされてはかなわん」
「……よゆーないな、オイ」

最終更新:2020年06月09日 17:44