【注意書き】
・はみみつ
・ちょっとだけ成まよ+響みぬ+王茜
・エロがない
・小ネタ

以上を御承知の上、お読みください。



かわいくて、幼い奥さんをもらった御剣怜侍の、はじめてのクリスマス。もっとも、妻・春美とクリスマスを一緒に過ごすのは初めてではない。
彼女が幼いころ、成歩堂法律事務所で何度もパーティーをしたものだ。けれど美しく成長した彼女と、あらためて二人きりで過ごすと思うと思わず緊張した。
その緊張は、クリスマスソングが街中に流れて久しい頃。12月に入ってからの彼女の言葉が発端となっていた。
幼い妻は、街中にきらめくネオンの光を見てこう言ったのだ。
「れいじさん。わたくしのところへも、サンンタさまは来られるでしょうか?」
わたくし、結婚して苗字が変わってしまいましたから、サンタさまも迷ってしまわれるのではないでしょうか。
その発言を聞いて、御剣は眉間にしわを寄せた。
「……あー……。春美くん。倉院の里には、いつも……その、サンタがやってきていたのだろうか」
夫の問いに、妻はきらきらとした笑顔で答えた。
「はい! わたくし、いつもいい子にしていたからと、大きなぬいぐるみやお菓子をいただいていたのです。里でも、真宵さまと二人でたくさんのプレゼントをもらいました」
あの女系の里にサンタクロース役ができる人材がいるとは思えない。わざわざサンタ役を演じるために電車で出張した幼馴染の気苦労が知れた。
「れいじさん。サンタさまは、きちんとわたくしのところへ来てくださるでしょうか。何か、届け出などできれば良いのですけれど……」
真剣に悩む美しい横顔を見つめて、御剣は途方に暮れた。まさか、妻と一緒にクリスマスを過ごすのに、サンタごっこをしなければならないのか……!!


「成歩堂。お前が憎い。心底憎い」
恨めしげな幼馴染の視線に、成歩堂はわずかに腰を引いた。
暇をもてあまして事務所でお茶をすすっているところへ、すごい形相の御剣が訪ねてきた。
御剣家のクリスマスにまつわる話を聞かされて、正直、成歩堂はどうでもいいと思った。
けれど、他にこんなことを相談できる友達のいない幼馴染を放り出すのが不憫に思えて、適当に話を合わせることにする。友情は美しい。
「そ、そんなこと言われたって、過ぎたことだろう? あのころは真宵ちゃんたちが喜んでたし、いいことしたー、くらいに思ってたんだよ」
だが、よく考えてみれば彼女たちは田舎出身とはいえ、生粋のお嬢様なのだ。
真宵は確信犯としても、まだ幼い春美が毎年「サンタ」なる人物にプレゼントをもらっていれば、その誤解を解く機会はない。あの大きく澄んだ瞳で
「サンタさまは今年も来られるのですよね?」と聞かれて、違うと言える人物があの里にいるだろうか。いや、いない。
春美は来年で17歳になるはずだが、そんな歳までサンタクロースの存在を信じ続けていてもおかしくはないのだった。
「まあ、いいんじゃないか? サンタ役やれば」
「それでは、私がいないことを春美くんが怪しむだろう」
「ま、まさかぼくにサンタ役をやれって!? 冗談だろう! こ、今年は、ほら。王泥喜くんやみぬきがいて、事務所のパーティーも賑やかになるだろうしさ。
ほらほら、真宵ちゃんだってこの時期は里から降りて、年末年始だらだらするしさ」
必死にクリスマスの予定を埋めようとする成歩堂だったが、御剣のお茶を運んできた王泥喜に一蹴された。
「それなんですけど、この前牙琉検事に会った時に“かわいいひとと一緒にクリスマスを過ごすことができそうだ”とか言ってましたよ。あれって、多分みぬきちゃんなんじゃないですか」
「ぐっ……いつの間に……!」
「あと、オレもクリスマスは予定があるんで」
御剣は王泥喜の発言を聞いて、肩をすくめた。
「……子どもがいつまでも、親孝行をしてくれるとは限らない、ということだな」
「くっ……! 待った!! それでも! ぼくにはまだ真宵ちゃんという、大きな子どもがいる!」
「ひどい言い草ですね。呪い殺されますよ」
「トノサマン・スピアーで刺殺されるぞ」
「とにかく! 新婚のクリスマスにサンタの格好して乗り込むなんて、絶対に嫌だからな!!」
あらためて聞くと、誰でもやりたくない。
御剣は成歩堂の強い拒否に途方に暮れた。その時、王泥喜が口を開いた。
「あのー。そもそも、“サンタがくる”って条件からして間違ってるんですから、そこから解決した方がいいんじゃないですか?」
「……と、いうと?」
「だから……」

*     *

「“サンタクロースは、子どものところへ来るだろう? だから、もう子どもではない春美くんのところへは来ないんだ”」
王泥喜のセリフをそのまま言って、目の前でソファの上に正座する妻をちらりと見た。すでに寝間着の白い浴衣に着替えていて、その妙になまめかしい姿を直視できない。
妻は大きな瞳をさらに大きく見開いて、こちらを見つめている。
「まあ……。そうなのですか……。わたくし、世間的にはまだまだ若輩者ですから、てっきり“子ども”の範疇に入っているものだと思っていました……」
無論、世間的にはまだまだ子どもだ。しかし、法律的に言って完全に子どもとも言えない微妙な年齢でもある。だからこそこうして夫婦になることができたのだから。
しかし、そんなことを今は問題にしてはいけない。何か言われる前に、御剣は王泥喜からの解決案を続けた。
「う……その…、もう……“子ども”、では、ないだろう……? その、色々と、だな……」
妙に口ごもる御剣に、春美は顔を赤らめた。夫が言わんとしているところを理解したのだ。
「あ! ……そ、そう、ですね。その……わたくし、もう“子ども”では……ありません」
だからもう、サンタさまは卒業ですね。
そう頬を赤らめながら微笑む妻の可憐さに、御剣はよろめいた。
「と、ところで、春美くんは、サンタから何が欲しかったのだろうか? 私からでよければ、何でも好きなものをプレゼントしよう」
「まあ! 本当ですか?」
普段ものを欲しがらない妻が、一体何を欲しがっているのだろうか。それは、夫としても興味があった。
春美は白磁の頬を赤く染めて、小さくつぶやく。
「子どもが……」
「うん?」
「わたくし、れいじさんとの子どもが欲しいです……」
御剣の脳内は、一瞬停止した。空白の数秒を置いて、顔を赤く染める。
「そ、それは……その。うむ。……春美くんが、学校を卒業してから、追々、という風に考えていたのだが……」
しどろもどろになりながら未来予想図を話す御剣。いや、待て。重大な何かを見過ごしている気がする。
「……春美くん。サンタに欲しいとねだるつもりだったのは、もしかして……?」
「はい。コウノトリさんが運んでくださるなら、きっとサンタさまも運んでくださるに違いないと思ったんです!」
にこにこと話す春美に、一瞬嫌な想像が浮かんだ。
いや、まさか。昨今の学校内での性教育は進んでいるというし。よもや、知らないわけは……。
「……は、春美くん……? めしべとおしべの話を知っているだろうか……」
とりあえずジャブから、と思ったのだが、春美に遮られた。
「あ! あの、とりあえず、そういうのは、存じていますけれど……あの、でも」
とりあえず、知っているらしいことに一安心した御剣。顔を赤くして、なお言いつのる妻を見つめた。
「あの、でも。その……れいじさんが……“毎日”、“頑張って”くださるのに、できないのはなぜなのでしょうって……。わたくし、不安になってしまって……」
それはちゃんと避妊しているから……とは、気恥しくてなかなか言えない御剣だった。とりあえず、彼女の無用な不安は取り除くべきだろう。
「大丈夫だ。……時期が来れば、きちんと授かるものだから。それに、たとえ授からなくてもきみと結ばれて、私はとても幸せだから……。サンタに願わなくても、大丈夫だ」
細い身体を抱きしめると、春美が微笑んだ気配がした。
「ふふ……嬉しい。……れいじさんの言葉が、わたくしのクリスマスプレゼントです!」
ぎゅうっと身体を密着させられて、御剣は自分の顔がだらしなく緩んでいくのを感じた。細い妻の身体を抱きあげて、寝室へと移動する。
「あ、あの……?」
「……こういうのは、子どもをつくるためだけにするのではない」
抱きあげられた腕の中でおとなしくしている妻の頬に唇を寄せた。
「……愛情確認?」
「ふ……そうだな。春美くんが、私のことをどれだけ愛してくれているか、確かめてみようか」
御剣の言葉に、春美は満面の笑みを浮かべて首にしがみついてきた。
「ふふっ。それならわたくし、れいじさんに勝つ自信があります!」
「それは楽しみ、だな」
愛しい妻をベッドに横たえて激しい口づけを交わし合いながら、御剣は甘い一夜への期待を高ぶらせた。

おわる


おまけ

*    *

「はみちゃん、サンタの正体がなるほどくんだって、とっくの昔に知ってるよ」
「え」
事務所のこたつに入って、ぬくぬくと暖をとっている元・副所長の発言に、成歩堂は目を丸くした。
「いつだったか、なるほどくんがサンタコスに着替えてるシーンを目撃しちゃったんだって。それでね、はみちゃんってば優しいから“何も知らないままにする”って。あ、このかりんとうちょうだいね」
「それ王泥喜くんの。……ってことは、ぼくが毎年こっそり着替えとプレゼント抱えて里まで行ってたの、無駄だったってこと?」
「そんなことないよ! わりとおもしろかったし」
「わりとって……」
「ねーねー。それよりさ、あたしへのクリスマスプレゼントはー?」
「……さっきミソラーメン食べただろ。五杯も」
「うそー! あれ、クリスマスプレゼントだったの! そうと知ってたら、あと10杯は食べてたのに!」
「……食べ過ぎだよ、真宵ちゃん……」
いつものやりとりに、変わらない会話。今年は娘も従業員もいないけれど、まぁこんなクリスマスでもいいか、とみかんをかじりながら成歩堂は思った。

おわる

 

最終更新:2020年06月09日 17:44