・冥→成歩堂(マイナーですみません)
・冥の片思い
・成歩堂と真宵が恋人関係
・成歩堂が駄目な大人
・エロがない
・遅すぎるバレンタインネタ

書き手が初心者で初投下。
しかもケータイからなので、読みづらいかとは思いますが、ご了承下さい。

大丈夫な方は、神が降臨するまでの暇つぶしにどうぞ。



「………………」

ここ、成歩堂法律事務所に異様な空気が流れている。
その中には僕と、狩魔冥がいた。
応接用のテーブルを挟んでソファーに座り、既に10分近い沈黙が流れている。
彼女は眉間に皺を寄せて、僕を睨みつけていた。
眼力で殺されるんじゃないかと思い、たまらず視線を逸らす。

何なんだ…?やって来るなり黙り込んで…。真っ先に用件を済ませるタイプだと思ってたんだけどな…。
さっきだって、何の用だと聞いたら「ちょっと待ちなさいよ!この成歩堂龍一がっ!」ってムチ振り回すし…

その時の彼女の形相を思い出し、身震いした。

…まさか!真宵ちゃんとの事、何か言いに来たのか?!「ロリコン」とか「女の敵」って思われているんだろうか?!
違うぞ!僕はロリコンじゃない!!
確かにマヨイちゃんとは歳が結構離れてる。法曹界に身を置く者にしてみれば、この関係は不適切かもしれない。
だがしかし!僕達には誰にも負けない愛がある!!
まぁ、いろいろ致してはいるけれども、愛し合う男女なら当然のこと!!歳の差なんて関係ないのです!!だから!僕達の恋愛は、罪にはならない!!!…………ならないといいけど、なる、かなぁ。

とにかく、マヨイちゃんとは軽い気持ちで付き合ってる訳じゃないことは、ちゃんと分かって貰おう。

僕は視線を泳がせるのをやめ、彼女を真っ直ぐ見た。
視線がぶつかると彼女は、ぱっと下を向く。
流石におかしく思って、声をかけた。
「…狩魔検事。本当にどうしたんだ?ずっと黙り込んでいるし…。君らしくない」
それが切欠になったのか、「…ああ、もう、私としたことが」と自分に苛立ったように言うと、彼女は自分の鞄をあさった。
そして、品の良い青の包み紙と白いリボンで丁寧にラッピングされた小さな箱を取り出し、テーブルの上に置いた。
「………………」
「………………」

「ちょっと!!何ぼさっとしてるのよ!?」
「えええええ!?」
「サッサと受け取りなさい!」
「僕!?」
「他に誰がいるのよ!」
「…一体誰から?」
「なっ!私に決まっているでしょう!?他に誰がいるのよ!」
「狩魔検事が!?僕に?!」
「そうよ!」
「………何かの証拠品…?」
「このっ…!な、る、ほ、ど、う、りゅういちがああああああああ!!!」
…華麗なムチ捌きに声も出ない。

叩かれた激痛で突っ伏しているからだけど。

彼女は息を整えて、ソファーに座り直し、包みを開けろと促す。
納得いかないと思いつつ、ヨロヨロと立ち上がり、テーブルの上に置かれた包みを丁寧に開いた。
「これは…?」
「見て分からないのら、眼科に行くことをお薦めするわ」
「いや、そうじゃなくて。…何で、僕にチョコレートなんか…」
包みの中には、ココアパウダーをまぶしたトリュフチョコが四つ入っていた。
訝しんでいると、彼女は呆れたように言う。
「バカはバカ故にバカさ加減がバカにできないわね。…昨日は何の日?」
「え…?昨日は………あ」
そう。昨日はバレンタインデー。
想いの籠もったチョコレートが花を添え、愛を告白する日。
…何か恥ずかしいな。

勿論、その日はマヨイちゃんと一緒に過ごした。
修行の為に今朝、倉院に帰ってしまったけど。

『……好きだよ…、なるほどくん』

頬を桜色に染めながら渡してくれた、手作りの、甘い、甘いチョコレートは、まだ食べきらずに大切に保管してある。
そして、チョコレートなんかよりも、甘くとろけるような一夜を共にしたことは、言うまでもない。
「顔」
「…へ?」
彼女の不機嫌な声で現実に引き戻される。

「顔が気持ち悪いわ。またムチを食らいたくなければ、にやけるのを止めるのね、今すぐ」
「…はい……」
手で口元を隠した。
いつの間にか表情が緩んでいたみたいだ。
そんな様子をジト目で睨むと、彼女はいつもより饒舌に語る。
「日本では、女が男に贈るのね。
こういう習慣は、私には全く理解できないけど。…まあ、チョコレート会社の経営戦略に乗ってみてもいいかしらと思ったのよ」
「はあ……。でも昨日だよ、バレンタイン」
「わ、私だって暇じゃないのよ!持ってきてやっただけ感謝しなさい」
銀髪をぱさりと揺らし、腕を組み、偉そうにふんぞり返る。やっと彼女らしくなったなと、少し安心した。
「………………」
「………………」

「だから、何でそこで終わるのよ!?」
「えええええええええ!?」
「サッサと食べなさい!」
「え」
「…なによ」
「……………毒とか入っ」
「こっ…!!なるほどうりゅういちがあああああああああ!!」
またムチで打たれる!と身構えるが、いつまでたっても鋭い一撃はやって来ない。

恐る恐る目を開けると、ムチを振り上げたまま、彼女は突っ立っていた。

「…狩魔検事?」と声をかけると、ゆっくりとムチを持った手を下に降ろした。
「バカはバカだから、バカだけど、…バカなのに…バカ……何で、貴方なんか…」
それだけ言うと、力無くソファーに腰を降ろし、それきり、彼女は下を向き、黙ってしまった。
予想外の展開に驚いて、彼女に近づく。
「ごっごめん!言い過ぎた!」
「バカ!!寄らないで!」
「はい!」
「いいから、サッサと食べなさい!」
「はいい!」
表情は伺い知れないが、物凄い剣幕に思わずその通りにしてしまう。
箱から一つ取って口に含んだ。
カカオの芳醇な香りと、口当たりの良いビターチョコレートのほろ苦さが、口いっぱいに広がって溶けていく。
「…美味しい」
「当然よ。…私が作ったんだから」
更に驚いた。
いつもの彼女からは、お菓子作りなんてイメージが無かったから。
「…何か失礼なこと考えてるでしょう?」
「そ、そんなことないよ!」
思考を読まれて慌てると、彼女は少し笑って顔を上げた。
「料理くらい、一通りできるわよ。『狩魔』は完璧なんだから。…もう食べないの?」
「い、いや、頂きます!」
チョコレートを次々咀嚼していく。

食べ終わるまで、彼女はそれを黙って見つめていた。
「えっと…、ごちそうさまでした。その……ありがとう」
頬を掻きながら礼を言うと、彼女は勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、私はこれで失礼するわ」

やっぱり、聞いておいた方がいいのかな。分からないけど、…気になるしなぁ。

「狩魔検事」
「…な、なに」
「……僕の勘違いだったら悪いけど、その………君は、僕のこと、好き、なのかな」

彼女の顔が、みるみるうちに真っ赤になった。

余程予想外だったんだろう。何か言おうとしているようだけど、頭に口が追いつかないのか、「えっ、うあ、その」などと声を発している。
あの、天才検事狩魔冥が、なんて分かりやすいんだろう。

…ていうか、この反応は、その、僕の言った通りってことなんだよな………?

「何で貴方が赤くなるのよ!貴方には綾里真宵がいるでしょう!!」
「わっ分かってるけど!今日は君が変だから気になって、…それにっ、そんな反応されたら照れるんだよ!」

「この浮気者!綾里真宵が可哀想だわ!」
「浮気なんかしないよ!してないよ!!」
「とにかく、用件は済んだから私は帰るわ!」

勝手な言い分に、カチンときて、帰ろうとする彼女の腕を掴んで止める。
「君は何がしたいんだ、さっきから」
彼女は僕を睨みつけ、掴まれていない手で、僕のネクタイを力一杯引っ張り、顔を近づけてきた。
「貴方こそ何よ!?これ以上、何を聞きたいっていうの!何を言わせたいの!?
貴方には、…貴方には、もう、…綾里真宵がいるじゃないっ…」
彼女の瞳が悲しみに揺れていた。
その悲痛な叫びに、姿に、掴んでいた手を思わず緩めた。
その途端、彼女が胸に飛び込んできた。
「えっ!?わ…!」
その勢いに耐えきれず、後ろのソファーに倒れ込む。
彼女は胸に顔を埋めて、シャツをしっかりと掴んでいる。
艶のある銀髪から、シャンプーの良い香りがした。
香水を付けてると思ったのに意外だ、なんて場違いな事を考えていると、彼女は語り出した。
「今日はそれを渡して、食べるのを見たら、すぐ帰るつもりだったわ。それで私の気持ちは終わりにしようって決めて…!!
それなのに、何故、気持ちが揺らぐような事、聞くの…!伝えてしまったら、私は…私…!」
僕は手を少しさまよわせて、慟哭する彼女の髪を優しく撫でた。
びくりと、彼女の肩がはねる。

「…ごめん。僕が鈍すぎた。非道いこと言ってごめん。でも、僕は…」
「分かってるわ。…言わないでよ」
こんな時、どうしたらいいのか分からない。
今まで、こんなにも激しく気持ちをぶつけられた事がなくて、戸惑うばかりだ。
それでも分かることは、彼女の気持ちには応えられないこと。
彼女もそれは望まないこと。

でも、泣くこともせず、叶わぬ想いに苦しむ彼女を放ってはおけなくて、自分が出来ることを何かしてやりたいと思った。
「…僕に何かできることはない?」
彼女は顔を上げ、僕をキョトンと見つめる。
「…驚いたわ。貴方、天然なの?それともわざとなの?」
「…?」
質問の意味が分からず、ただ見つめ返していると、彼女がぎこちなく笑って頬を染め、重なった身体をもっと密着させてきた。
「…私に、思い出をくれる?」
その意味を理解して、一瞬だけ。
自分の下で、快感に身を捩り、切なく喘ぐ狩魔冥が頭をよぎってしまった。

「それは、えっ、いや、その、あの」

うう。顔が熱い。舌がうまく回らないぞ…。

彼女がふっと笑って胸から離れ、隣に座る。
そして、倒れた体勢のまま、呆然とする僕を見た。

「…何、その無様な格好は。座ったらどう?」
「いや、君が…うぎゃああ!」
ムチの鋭い一撃で、ソファーから転げ落ちた。
…さっきより威力が増してる気が…。

「さっきのは冗談よ。…それとも、する気があるの?」
「なっ!?そっ、そんなこと…ないよ!」
「当然ね。「ある」なんて言おうものなら、食べたチョコレートを、痛みで全て吐き出すまで、ムチで叩かせて貰うわ。
不誠実な男は大嫌いよ」

一瞬よぎったあの光景は黙っていよう。

「…でも、そうね。何かしてくれるのなら」

彼女は何かを思いついて、意地悪く微笑んだ。
「まず、隣に座りなさい」
「はあ…」
「目を閉じなさい」
「はあ…。え。」
「早くする!」
「はいっ」
思わず目を閉じてしまう。
…素直すぎるだろ、僕。と、自分に呆れる。
暗闇の向こうから、彼女の声が囁く。

「私がいいと言うまで開けないで…」

自分の顔に、何かが近づく気配がする。コレはもしや、と思い、緊張して息を止める。
彼女の息が、鼻にかかるのを感じて、
マヨイちゃん、ごめん!と心の中で叫んだ。

が、予想していた唇の感触はなかった。

代わりに、蝶が、左目の睫を掠めた気がした。

「もう、いいわよ」

目を開けると彼女は帰り支度を整えていた。
テーブルに置いてあったチョコレートの箱も包みも片付けられている。

まるで、最初から、何も無かったかのように。

「今度こそ、失礼するわね」

見送ろうとする僕を手で制して、扉まで歩いていく。
そして一度だけ振り返り、いつもの強気な微笑えみで、
「今日のことは他言無用よ。…忘れなさい」
と言って、静かに扉を閉めた。

彼女の瞳が、少し潤んでいたように見えた。


しんと静まり返った事務所で、白昼夢を見ているような、奇妙な感覚に陥る。

…僕が傷ついてるような気がするのは何でだろう。

「………僕って女々しいな」
そう呟くと、またソファーに仰向けに倒れる。

溜め息をつくと、ほろ苦いチョコレートの香りが広がった。

目を閉じて、蝶が掠めた睫を触る。
ほんの少しだけ、濡れていた。


言葉や態度ではなく、それこそが、彼女の恋の終わりを告げているような気がした。



最終更新:2020年06月09日 17:44