・ナルマヨ (既に付き合ってる設定)
・前半2/3真宵視点、後半1/3ニット視点
・わりと純愛かと思う
・結構長文

よろしかったらどうぞ



あたしが初めて男の人に抱かれたのはハタチの誕生日だった。

その日、東京からなるほどくんがみぬきちゃんを連れて遊びに来てくれて、
はみちゃんと三人であたしの誕生日を祝ってくれたんだ。

なるほどくんが資格を失ったあの事件からもうすぐ2ヶ月。

事件直後から、みぬきちゃんの身辺調査をしていたなるほどくんが
彼女を引き取る決意をするまでの約2週間、うちでみぬきちゃんを預かっていたから、
学年が一つ違いのはみちゃんとみぬきちゃんは既に打ち解けていた。

遊びに来た時は、女同士仲良く3人でお風呂に入り、
そして一頻り話したあと、二人は二つ並んだお布団にこれまた仲良く潜り込む。
それが恒例になっていた。

2人が寝たあと、疲れきった顔をしていたなるほどくんをどうにか元気付けたくて、
あたしはこの日のために買い込んでキンキンに冷やしていたビールや缶チューハイで、初めての晩酌。

今まで全くお酒を飲んだことがないとは言わないけど、ほとんど舐める程度。
あたしの回りには検事さんや警察官ばかりだったから。
お祝いの席で多少は多めに見てもらっても、こうやって本格的に飲むのは初めてだった。

いつかなるほどくんやイトノコさんが美味しそうに飲み干していたビールを、あたしも一気に流し込んだ。

苦かった。
なんでこんなに苦いのが美味しいのかな?
口に含んで思いっきり眉を顰めたあたしを見て、なるほどくんが苦笑する。
目を白黒させながらなんとか飲み干して、残りの大部分をなるほどくんにあげた。
あたしにビールはまだ早かったみたい。
そばにあったカルピスハイで慌てて口直ししたあたしを、なるほどくんはクスクスと笑ってる。

彼がお酒を飲み干すピッチは速かった。
あたしは上下する喉仏をじっと見つめる。

「ね。なるほどくん。帽子取ったら?禿げるよ。」

なるほどくんがぶはっと吹いた。

「ちょっと、真宵ちゃん!」

「うそうそ。…ここでは隠すことないんだよ。」

なるほどくんが驚いたように目を見張る。

「なんで」

そう言い掛けて口をつぐんだ。

「分かるよ、なるほどくんが考えてることは。だからせめてここでは何もかも忘れてさ。」

座卓の向かいで胡坐を掻いているなるほどくんに手を伸ばし、そっと帽子を取りながら頬を撫でた。
あたしの指を、無精ヒゲがザラザラと突き刺す。
その指を持ち上げるように、なるほどくんの引き締まったというよりやつれた頬が微かに綻んだ。

「…ありがとう。」

「うん、この後ろ向きな頭こそが成歩堂龍一だよ。」

見慣れた頭が現れて、あたしの顔も思わず綻ぶ。
あたしは何気なく開け放した庭に目をやった。
視線の先には蛍が数匹。

屋敷の裏を流れる清流にはこの時期、無数の蛍が舞う。
どれ位いるんだろう?
ピークの時には恐らく数百、或いはもう少し…?

少し離れたところから見ると、蛍の光の点滅に合わせてうっすらと茂みや森の姿が浮かびあがるほど。
それは幻想的な光景だ。

数時間前にはみちゃんと一緒に二人を案内してあげたら、
都会っ子のなるほど親子は儚い群舞にいたく感激していたのだった。

あたしと彼はビールとチューハイを片手に縁側に腰掛けて、蛍の舞と満天の星空を飽くことなく眺めていた。

…この2ヶ月、色々あったな。
あたしは家元になり、それと入れ替わるようになるほどくんは弁護士を辞め…。

隣でボケーっと空を眺めているこの人が捏造なんてするわけがない。
だいたいなるほどくんのスタンスは、勝負よりも依頼人を信じた上での真実の追究なのだ。
捏造する理由がないのだ。

それはあたしだけじゃなく、御剣検事やイトノコ刑事、はみちゃんに冥さん。
皆が思っていることだろう。
だけど今の時点でそれを証明する証拠がなくて。
あたし達は仲間の、何回も助けてくれた人の失脚を為す術なく見ているだけだった。

「…2年前。」

不意になるほどくんが口を開いた。

「2年前のこの時期にも来たけど、蛍なんて気付かなかったな。」

2年前。
あたしが殺人事件の容疑者として逮捕された時だ。

考えてみれば、あの3年間で何回なるほどくんに助けられたろう?
まず出会いからして最悪だった。
お姉ちゃんの事件で容疑者にされたあたし。
それを弁護してくれたなるほどくん。

2年前の今頃、再びあたしは容疑者にされ。
そして誘拐だってされた。
4ヶ月前には命も狙われ…。

考えてみると凄い経歴の持ち主のあたし。
だけど、その度になるほどくんに助けられた。
守られていた。

そんなことを考えていたら苦しくなるほど胸がいっぱいになり、
気付けばなるほどくんの手に手を重ねた。

男の人特有の、血管が浮きだった骨ばった手。
この手に、何度守られたんだろう。

感極まって泣きそうになり俯くと、なるほどくんが怪訝そうな顔で覗き込んだ。

「どうしたの?」

「ううん。…あたし、何回守られたのかなあって思ってさ。」

真実を追究するために、何度もつきつけた人差し指。
異議を唱える凛とした声。
それら全てが蘇る。

「なるほどくんにはいっぱい助けて貰ったのに、そのなるほどくんが一番大変な時にあたしは何も出来なくて…。」

言っているうちに、自己嫌悪の海に沈んでいく。

「はは。そんなことないさ。キミが知らないだけでね。助けられてたのはぼくの方だよ。」

なるほどくんは優しいからそう言ってくれるけど…。
情けなくて涙が出そうだよ。
でも誰よりも傷つき疲れきっているなるほどくんの前では泣けない。

ここで我慢しなきゃ女じゃない…っ!

あたしはそう言い聞かせてグッと堪えた。
何か、今のあたしの気持ちを伝える方法…。
なるほどくんを励まして笑わせる方法…。

「あ。」

発見!
発見したよ!

あたしはタッと縁側から飛び降りて下駄を突っかけると、なるほどくんの手を引っ張って駆け出した。

「ちょ、真宵ちゃん!どこ行くの!」

突然あたしに引っ張られたなるほどくんは、慌ててサンダルを引っ掛けて転びそうになりながら追ってくる。

屋敷を飛び出し、裏手の小川に掛かる小さな橋へ。
橋の脇にはこれまた小さな階段があって、そこから河原へ降りられるようになっている。
川幅は狭いけれど、その水の綺麗さと冷たさと言ったらピカイチ。
この小川の少し上流にある滝で、あたし達霊媒師は滝行しているの。

なるほどくんとみぬきちゃんを連れて来た数時間前よりは数は減っていたけど、それでもふわふわと蛍は舞っている。
あたしはそこで茂みのある一点に狙いを定めると、忍び足で近づいてふわっと両手を合わせた。

「つかまえた…!」

あたしはなるほどくんの元に駆け寄って得意げに手を差し出す。

「ほらほら。蛍の光は一匹じゃこんなに儚いけど、それがいっぱい集まれば森だって浮かび上がるんだよ!」

そっと広げた手のひらには、身じろぎ一つせずに点滅する蛍の光。

突然つかまえてごめんね、と小さく呟き手を宙へ翳すと、蛍はふわりと飛び立って仲間のところへと帰って行った。

「一つ一つは小さなことでも、それが集まれば大きな何かを照らし出すんじゃないかな?」

そうだよ。
あたし、今すっごい良いこと言った!
何か、何か一つでも良いからなるほどくんの力になれ…!

星に祈りながら、会心の笑みであたしはなるほどくんを見つめる。
なるほどくんはそんなあたしを黒目がちの瞳でまじまじと見ている。
あまりにもじっと見つめられて、あたしの笑みは次第に引き攣ってしまう。

あ、あれ…?
変なこと言っちゃったかな…?

ちょっと自信を失いかけた時だった。

「真宵ちゃんにはかなわないな…。」

そう呟いたかと思ったら、突然ギュッと抱きしめられた。

「なるほどくん…?」

…2ヶ月間、どんなに辛かったろう?
なるほどくんはあれ以来、あまり人の目を見なくなった。
たった2ヶ月で、人はこうまで変わるんだ。
事情を知らない世間に反論する術もないまま叩かれ、優しいこの人はどんなに傷付いただろう。

そんな時に傍にいれなくてごめんなさい。
守ってあげられなくて、ごめんなさい。
力になれなくて、ごめんなさい──。

あたしは沢山の「ごめんなさい」を込めて、思いっきり抱き締め返した。

『いつも傍にいるよ。』

そう言ってあげられないもどかしさ。

『よく頑張ったね。もう、大丈夫だよ。』

7歳上の大きな弟に、この一言を言える日はいつ来るのだろうか?
早く、1日も早く彼に安穏の日が訪れるように、あたしは心から願う。
ふと顔をあげれば、あたしを見つめていたなるほどくんの優しい瞳と視線が交わって。
どちらからともなく唇を重ねていた。

長い長いキス。
ただ唇を重ねるだけの行為なのに、甘い甘いそれ。
その甘い行為はまだ数回しか経験がなくて、未だに息が苦しくなって「プハッ」と唇を離す。
そんなあたしを、なるほどくんは苦笑するんだ。

もう、バカにして!
そのうち。
きっとそのうち上手になるんだから…!

そんな気持ちを込めてキッと見上げたなるほどくんの顔は、苦笑なんてしてなかった。
苦笑の変わりに浮かんでいたのは、優しい微笑。
その微笑が浮かんだ唇は、再びあたしに降って来た。

「──っ!」

重ね合わせた唇に導かれて微かに開かされた隙間から、
温かくて軟らかいものが入って来て、あたしは驚いて目を見開いた。

これは、噂に聞く大人のキス…?

尖らせた舌であたしの唇と歯列をなぞり、そして舌を絡め取った。

「ん…ふっ…」

どうやって息継ぎしたら良いのか分からなくて、唇が離れたほんのわずかな間に酸素を求める。
意図しないのに漏れる甘い吐息。
酸欠なのか、だんだん頭がボーっとして来る。
離れた口からは透明の糸が二人を繋ぐ。

月明かりに照らされたなるほどくんは、
切なげで、どこか神秘的で、それでいて何か獲物を狙ってるような…、
今まで見た事のないような顔をしている。
まるで魔法にかかったように何も考えられない、あたし。

そうやって何回か口づけを交わしたあたしは、
行き場がなくて二人の間で折り畳むようにしていた腕を彼の後頭部に滑り込ませた。
それが合図だったかのように、キスは時々音を立てて激しさを増す。

「真宵ちゃん…」

「ん…」

名前を呼ばれて顔をあげれば、切なげな彼がまっすぐにあたしを見つめていて、
眉を下げて少し困ったように言った。

「やばい…抱きたい…。」

抱きたい?
変なの。
今こうやって抱き締めてるじゃない。

訝しげなあたしの視線で何を考えてるのか察したのか、なるほどくんは目を逸らしながら言った。

「その抱くじゃなくて、もうちょっと大人の…。」

その一言で、さすがのあたしも気が付いた。

「えと。えーっと…その、あの…せ、せ、せっくすしたいってこと、かな…?」

今にして思えば他に言葉があったはずだけど、
舞い上がっていたあたしはそのものズバリを指し示す単語を発していた。
自分で言った言葉に赤面したあたしの耳元で、同じく顔を赤くしたなるほどくんが低く掠れた声で囁いた。

「真宵ちゃんとセックスしたい…。」

その声に反応するように、あたしの身体の奥で、何かがキュッと、そしてじんわり熱を持った。
手を引かれて屋敷に戻るまで、二人は一言も言葉を交わさなかった。

******

「(なるほどくんが、せっくすってゆった…!)」

それはあたしにとってかなり衝撃的な一言だった。

なるほどくんとは3年も一緒にいたのに、下ネタの類の話をしたことがない。
それどころか、所謂性犯罪関係の話すらしたことがないような。

なるほどくんは刑事事件が専門だから、
婦女暴行や痴漢、強制わいせつなんて類の事件の弁護もあっただろう。
でもあたしはその公判に付き合った記憶がない。
ふと疑問に思ったそれを問うと、なるほどくんはいとも簡単にサラッと言った。

「やっぱり事件の内容が内容だから、
まずは実際会って依頼人がどんな人物かこの目で確かめてからじゃないと、
女の子の真宵ちゃんは連れていけないと思ってたし、公判自体も聞かせたくなかったしね。」

そっか。
あたし、そんなところでも守られてたのか…。

あたしの部屋の布団の上で正座してちょっと感動していたあたしを背後から抱き締めたなるほどくんは、
あたしの髪を右肩に掛けるように寄せて左の首筋に吸い付いた。
耳に掛かる吐息が熱い。
くすぐったくてぞわっと鳥肌が立つ。
思わず身を捩ると、ギュッと抱きすくめられ、あたしはどうして良いのか分からなくて硬直してしまう。

「…!」

舌でうなじをなぞりながら、肩からそろりと滑り降りて来たなるほどくんの大きな手が
あたしのそんなに大きくない胸をそっと包み、下から掬い上げるように揉みしだく。

脂肪の塊であるそれ自体は特に気持ち良くはないけど、なるほどくんの意思通りに形を変えるあたしの胸が凄くイヤらしく見えて、
それと同時になるほどくんにそんな事をされてる状況そのものに酔ってしまって、
なんだかボーっと何も考えられなくなりそうだった。
心細くなってふと後ろを向けば、心なしか目を潤ませたなるほどくんと目が合って、あたしの胸は高鳴る。
なるほどくんの右手が衿元から侵入して装束の合わせをグッと開き、二の腕の辺りまでが突然夜気に触れた。

6月と言っても、山里の夜の空気はひんやりと冷たい。
だけど火照った身体にはその冷たさが心地よかった。

なるほどくんは露になったあたしの肩に手を回すと、くるりとあたしを180度回転させた。
改めて向き合うあたし達。
ふと視線を落とせばささやかな膨らみを覆い隠す水色のチェックのブラが
なるほどくんの視線に晒されていて、照れ隠しにあたしは喚く。

「あ、あ、あたしだけこんな格好なんて、なるほどくんズルイよ!」

──そう言いたいのに、声が思うように出てこない。
そっとパーカーの裾を引っ張って、ポツリと一言「ズルイ」と呟くのが精一杯だった。

「ごめんごめん。」

それだけであたしの言いたいことを理解してくれたみたいで、ゴソゴソとなるほどくんはパーカーを脱いだ。
なのに、まだ下にTシャツを着ている彼にあたしは目を剥く。

「さ…さっきより薄着になっただけじゃん!」

怒ったように言うと、クスクスと笑いながら「まあ、そう焦るなよ。」って、彼は言った。

「焦ってなんか…!」

裸でいることや、それをなるほどくんが見てることや、
「焦ってる」なんて言われたことや、これからしようとしてることや…。

とにかく色々恥ずかしいことがあり過ぎて、あたしはそれを隠すように手を振り上げた。
──もちろん、左手で胸を隠して。

「何よぅ!」

だけど、なるほどくんには非力なあたしの抵抗なんて赤子の腕を捻る様なもの。
いとも簡単にあたしの腕の動きを封じた。
腕を取られたなら言葉でと、尚も抵抗を試みようとしたあたしの唇を、大人のキスで塞ぐ。

正座した下肢をそれぞれ外に崩してペタンと座るあたしの肩に手を置き、唇や舌を奪っていく。
そして、肩から腕をなぞるように前に手を回し、胸を庇っていたあたしの左腕の戒めをそっと解いた。

なるほどくんに応えて必死で舌を絡めていたあたしは、いつの間にか両胸が温かい体温に包まれている事に気が付いた。

(…………!!!!!)

頭の中で声にならない悲鳴を上げる。
もう頭の中は真っ白。
どうして良いのか分からずもがくあたしの耳元で、なるほどくんが囁いた。

「真宵ちゃん…」

「うん…?」

正面から見るには近すぎて恥ずかしくて、あたしは少し目を逸らして彼の顔を見る。
なるほどくんはまっすぐあたしを見つめていた。

まるで、まだ弁護士バッジを付けていた頃みたいに。

たった数ヶ月前のことなのに、酷く懐かしいこととして思い出していることに気がついて。
気付けばあたしの瞳からは、この数ヶ月ずっと我慢していたものが溢れていた。
声もなくただただ涙を流すあたしの名前を、なるほどくんはもう一度口にする。

「真宵ちゃん。」

「…。」

「心配掛けてごめんね。」

「…そんなこと…っ」

あたしは涙の理由を察して欲しくなくて、必死にかぶりを振る。
だけどなるほどくんにはきっとそんなのお見通しで。
骨ばった指であたしの頬を伝う涙を拭って、
そのままあたしの頬を両手で包んで、しっかり見つめて言った。

「…大事にするから。」

「……う…ん…。」

「大事にする。」

二度目の言葉は抱き締められながら。
耳元で囁かれたその言葉が、あたしの頭に甘く響く。

今までだってずっと大切にしてくれてたのに、そういう事を言ってくれるんだね。
あたし、世界一の幸せ者だよ。

何とかこの気持ちを伝えたくて、あたしは自分からなるほどくんの唇に唇を重ねた。
それに応えるかのように、なるほどくんの手がスッと胸を包んであたしは思わず身を竦める。

ブラの上から大きな男の人の手が胸をまさぐり、そしてカップを下にずり下げると、直に乳房に触れた。

「…!」

なるほどくんは、あたしの首筋に血脈を見つける度に、一つ一つ紅い痕跡を残しながら手のひらで乳房を揉みしだく。
そして円を描くように揉んでいたあたしの胸のその先端を、親指で下からすり上げるように擦られた時だった。

「ぁ…!」

小さいけれど、確実になるほどくんには聴こえたであろう音量で漏れたその声に自分で驚き、慌てて口元を手で覆う。

なに?
なに、今の…。
あたしの声…?

自分で自分が信じられなかった。
だって、それはドラマだとか映画のラブシーンで、女の人が出すのと同じような声で。
あたしは、あれは場面を盛り上げる為の演技なんだって。
台本の女優さんの台詞の欄にそう書いてあるんだと思っていて。
だから、台本もない、女優でもないあたしが、どうしてそんな声を出してしまったのか、意味が分からなくて。
あたしは半ば呆然としながら、なるほどくんの腕に抱かれていた。
なるほどくんは俯くあたしを見ながら、先端への刺激を続けている。
視線を感じるのに顔をあげられないでいた。

指が触れている場所から広がる不思議な疼き。
その疼きが甘く感じられるようになるまで時間は掛からなかった。
少しずつ呼吸が乱れていく。
吐息が、身体が熱い。

あたしは必死で歯を食い縛りながら、変な声が漏れないように耐えていた。
だけど呼吸が切迫していくのは我慢出来なくて、鼻から漏れる吐息が静かな室内に響く。

「ん…!」

その先端が生温かい何かに包まれて目を落とすと、つい今まで指で摩っていたそこに、なるほどくんが吸い付いていた。
じんじんと熱い突起は、普段とは明らかに形を変えている。

あくまでも微乳じゃなくて美乳と言い張るあたしの胸の先で
淡く色付いて自己主張しているそれを、
なるほどくんは舌で舐め上げ絡め取り、唇で甘噛みする。
そこから生まれた甘い疼きがおへその下の身体の奥に響いていた。
その疼きはどうにも狂おしくて、あたしはいつの間にかもじもじと、太ももを摺り合わせるようにくねらせていた。

── なんで…?
お風呂の時に身体を洗いながら自分で触るのとは全然違う感覚。
同じ“触る”という行為なのに、どうしてこんな…。
言い様のない切なさが溜息となって漏れる。

「ふ…ぁ…」

屈むようにしてあたしの胸に顔を埋めるなるほどくんは、
微かに眉を顰め、伏し目がちに頬を紅潮させて、
あたしが今まで見た事がない顔をしていた。

これがなるほどくんのオトコの顔なんだ。
あたし達の前では決して見せなかった顔。
それを今、あたしは見ている。

新たな一面を見ているという喜びで胸がいっぱいになって、
あたしはなるほどくんの頭を腕に抱き締めると
怪訝そうに顔を上げたなるほどくんと目が合って、どちらからともなく唇を重ねる。

数を重ねるごとに濃厚になって行くキス。
だんだん痺れるような陶酔感に呑まれていく。
あたしの左の乳房で遊んでいたなるほどくんの手が、
身体のラインに沿って滑り落ちて行った。

胸、脇腹、腰──。

触れられたところがくすぐったくて、身を捩る。
それでもさわさわと軽いタッチで何度も撫でられているうちに、
くすぐったさが、肌が粟立つようななんとも形容しがたい感覚に変わっていく。
そのままあたしを膝立ちにさせると、
腰骨に触れていた手を下腹部へと滑らせ、ブラとお揃いの下着の中心をスッと撫でた。

「…!」

息を呑む。
なるほどくんの長い人差し指と中指が、あたしの中心の溝を下着の上から何度もなぞる。
そして、ある一点を見つけると、爪で引っ掻くように小刻みに刺激し始めた。

「く…ぅ…!」

それは、今まで感じたことのない強烈な感覚で、あたしはなるほどくんの肩に凭れ掛かって刺激に耐える。
中心から湧き上がる鋭く甘い感覚は、快感と認識するには十分だった。

今まで必死に変な声を出さないようにと堪えて来たけど、もう、限界──。
声が出ちゃう…!
ギュッとなるほどくんに抱きついた時だった。

「あ…っ!」

堪えきれなくなった声が漏れたのと、下着の中に異物を感じたのはほぼ同時だった。
その異物が彼の指だと認識して、あたしは思わず顔を歪める。
なるほどくんの肩を握り締めた手が震える。

恥ずかしい!
今すぐ死んじゃいたい…!

なるほどくんの指が秘裂に沿って滑り、中心を掻き回す。
疼いていた芯を捕らえられ、そこをクリクリと捏ねられたあたしは、
なるほどくんに抱きついたまま彼の耳元で、それまで堪えていたはしたない声をあげていた。

「あ…っ、ん…ぁ、ああっや、ん…は…ぁ…!」

誰にも触られたことのないそこが、熱く熱くなっている。
あたしの右胸で遊んでいた手がいつの間にか下着に掛かり、薄い布をスルスルと下ろしていく。

見られちゃう…!
腰を引いて彼の視線から下半身を庇おうとしたあたしは見てしまった。
色が変わった下着の中心とあたしの間に、透明な糸が繋がっているのを。

続き

最終更新:2020年06月09日 17:27