*ロウ×シーナ
*ロウがヘタレ
*エロが短い
*ヤってるのにエロくない



「ほら、入んな、シーナ」
「・・・・ありがとう、ロウ」

某ホテルの一室である。国際捜査官の狼士龍は、同じく捜査官であり秘書のシーナに肩を貸してドアの前に立っていた。
その日、彼らはある事件の容疑者を逮捕した。長年追い続けている麻薬密売組織とは違った案件ではあったが、
迷宮入り寸前であったものであり、容疑者の発見・捕獲によって解決へと向かうことは間違いなく、まぎれもなく快挙と言えた。
護送される容疑者に現場は沸きかえり、そして現場責任者である狼はその晩、
99人の忠実な部下を労う為にささやかな宴を用意した。

シーナからキーを受け取りドアを開く。何の変哲もない――狼の部屋とも間取りは同じである――ホテルルーム。
ベッドの上に無造作にガウンがかかっているのが見て取れた。
ガウンを手に取り、代わりにようやく歩いていたシーナの体をくたりと横たえる。
「珍しいな、お前が酔うなんて」
「・・・・そうかもしれない」
普段は狼のサポートとして、体育会系とも呼ばれる狼捜査班の良い意味でのブレーキ役となっているのだが、
彼女なりにこの快挙を喜び、羽目を外したのだろうか。
「まぁ、しばらく横になっていれば問題ねぇだろ。頭はイタくねぇよな?水飲むか?」
「ああ」
目を瞑ったままシーナが頷く。
狼はガウンをハンガーにかけ、傍らのポットから湯を注ごうとして、中身が空なのに気がついた。
ありゃ、と頭を掻いてシーナを振り返る。
「ちょっと待ってろ。持ってくる」

部屋を出て自販機で水を購入した。
部下たちが酒宴を楽しんでいるざわめきが遠くで聞こえる。
あいつらは放って置いても問題ないだろう。優秀で、信頼できる部下たちだった。

部屋に戻るとシーナは先ほどと同じ格好でベッドに寝ていた。
「シーナ、水買って来たぜ。飲めるか」
声をかけても返事はない。ベッドサイドに近寄りながらもう一度呼ぶ。
「おい、シーナ」
寝てしまったのか、と思ったとき、ふらりとシーナが目を開けた。
普段のクールな眼差しからは程遠い、潤んだ瞳で狼を見上げる。
「・・・・ロウ」
どくりと胸が鳴った。

狼はシーナが好きだった。
各国の逮捕学を学び、国際警察に就職した頃からの秘書。
自分のことはほとんど語らず、常に涼しい顔をして自分より一歩引いた位置にいる。
しかし、的確なサポートでややもすれば理想に暴走しがちな狼を守った。
優秀なパートナーが、大切な女性になるのは早かった。

けれど、狼はそのことを表に出すことはしなかった。
自分はシーナの上司だ。気持ちを伝えても、立場上シーナは断れないかもしれない。
それは狼が望まないことだった。
反対にきっぱり振られるのも怖かった。
シーナは自分のことを語らない。感情を表に出さない。気持ちが読めない。
彼女に対して臆病だったと言われても、否定できないだろう。

立ち尽くす狼に向かって、シーナはゆるやかな口調で続ける。
「・・・・水」
「あ、ああ」
狼は内心焦りながらペットボトルのキャップを開ける。ふと気付いた。
「起き上がれるか?」
シーナは緩慢に首を振る。
「けどよぉ、このままじゃコボれちまうぜ」
身を横たえたまま、満タンのボトルを傾けることはできない。
上半身だけでも抱き起こそうか、それともストローはなかったか、そう考えている狼をシーナは見つめた。
「・・・・ロウ。飲ませて」
「あ?だから、今起こ・・・・」
言いかけて狼は絶句した。ベッドに横たわったシーナが見上げる、瞳の中に映る自分。
その瞼がそっと閉じられ、ほんの少し唇が差し出されるのを、狼は信じられない気持ちで見た。

「・・・・シーナ」
一瞬にして思考が蒸発する。
なんだこれは。口がやけに乾いた。水を飲めばこの渇きは収まるだろう。いや、水を欲しがっているのはシーナだ。
そうだ水だ、けれど明らかに他に欲しがっているものが。
ペットボトルの中身を呷る、口の中に心地よく水が流れ込む、それから、それから。
狼は恐ろしくぎこちなく体をかがめた。シーナの顔が近づく。
唇が重なった。


シーナの喉がゆっくりと水を飲み下す。
唇が離れた。無言で見詰め合う。狼はまだ驚いたように、シーナは熱をはらんで。
「・・・・ロウ。もっと、欲しい」
ささやくように紡がれた言葉。
狼はもう躊躇わなかった。水をもう一度口に含む。
今度ふたりが共有したものは、水だけではなかった。

「ん・・・・んん・・・・」
男の口付けは激しかった。狼という名が表す通り、獣のようにシーナを貪る。
歯と歯がぶつかるのも意に介さず、口腔内は男の舌で深く、荒々しく蹂躙されていく。
押さえきれずに漏れた声さえ唾液を絡めて喰い尽くされた。
ほどなくして狼の手が服の上からシーナの体をなぞり、形のよい乳房をなでる。
その頂が布地の上からでもわかるほどに主張を始めると、その部分をずらして肌を露にさせた。
白い肌が狼の目に眩しく映る。
その先端でぷくりと色付いている乳首を口に含むと、彼女の体はしなやかにくねった。
「んんっ・・・・」
舌で先端の硬いしこりを舐りながら、片手でもう片方の乳房をやわやわと揉みしだく。

シーナは目を瞑って愛撫を受け入れた。男の触れる部分が熱い。
その熱は肌を通じて、体の中心部へと溜まって行った。

彼女の肌が火照って行くのが汗ばんだ手のひらからも伝わってくる。
頬を上気させてうっとりとしている姿はたまらなく艶かしかった。初めて見る表情。
それをもたらしているのが自分だと思うと、気分はさらに高揚した。
柔肌にむしゃぶりつく度に点々とつく自分の跡。
もっと反応が見たくなり、彼女の足の間に手を滑らせると、
布地に守られた柔らかな茂みの奥にある泉はすっかり蜜をたたえていて
試しに指を差し入れると簡単にそれを溢れさせた。

中でゆるやかに動かすと、暖かくうねって締め付ける。
くちゅりという密やかな水音が二人の耳に届いた。
「ん・・・・あ、ああ」
眉根を寄せたシーナの前髪が乱れ、色素の薄いそれの間から普段は見えない額がのぞいている。
それは自分を語らない彼女の秘密を垣間見るようで、狼の心を酷くざわめかせた。
そのざわめきは先を争って狼の下半身に集まって行く。

ふと思いついて愛液を膨らんだ芽に擦り付けると、彼女ははっと体を震わせた。
「あ、あ、ロウ、ダメ・・・・」
「・・・・キモチ良く、ないのか」
こんなにはっきりと快感を訴えているのに。
訝しんだ狼に更なる言葉の爆弾が投げつけられる。
「そこは、すぐにダメになる・・・・から」
これで何度目になるのか。狼は頭に血が上る感覚を味わった。
いい加減、我慢の限界だった。

お互いの肌に張り付いた邪魔な服を取り去り、自身を入り口に擦り付けて確かめる。
狼のそれはもう十分に引き絞られていた。
「シーナ、行くぜ・・・・」
陶然と頷くシーナを確かめ、一気に最奥まで突き込んでしまいたい衝動を必死に殺しながら
できるだけ少しずつ腰を進める。
蕩け切ったそこは、待ち構えていたかのように狼を迎え入れた。
ぬかるみに誘われるままに、深く。まだ深く。
恐ろしく甘い底なし沼に嵌った気分だった。

全てを彼女の中に収めてしまうと、自然と息が漏れた。
「ふ・・・・」
目を瞑って挿入の刺激に耐えていたシーナが目を開く。
揺れる瞳で狼を見上げて、ささやいた。
「・・・・ロウ。もっと、欲しい」
貴方を。
そう続けられたのを聞いた時、狼は自分自身の最後のたがが外れる音をはっきりと聞いた。

じっくりと彼女を味わいたい。だから、可能な限りゆっくりと。
そう思っていた抽送速度が上がるのはあっという間だった。
彼女の体は魅力的だった。吐息とともにくねり、ねっとりと狼を包んで蠢き、敏感に跳ねて翻弄する。
狼はそれを夢中になって貪った。
打ち付けられる衝撃に耐えかねたようにシーナが狼の体をかき抱き、爪が狼の背中を引っかく、
そのかすかな痛みさえも快感に変わった。

「ロウ・・・・ロウ・・・・っ」
「シーナ、シーナ」
乞われるままに口付けを交わし、耳元で熱い息とともに名前を繰り返す。
他に言葉は要らなかった。
それだけの期間を共に過ごしてきた。
息継ぎのタイミング、リズムの強弱、互いの快感の密度さえ手に取るようにわかる。
繋がった部分から灼熱の感覚が背筋をびりびりと走りぬけ、脳髄に叩き込まれていく。
それはどろどろとふたりの体内を駆け巡り、体を満たし、収まりきれなくなって溢れ出す。
溢れたものはぐちゅぐちゅと音を立て、その音がさらにふたりを駆り立てた。

シーナが息を詰めて体を強張らせた。きゅうと狼が締め付けられ、同時に彼女の喉がのけぞる。
その白さを目に焼き付けて、狼もまた滾った欲望の波を彼女の奥に注ぎ込んだ。

狼が目を覚ますと、部屋はまだほの暗かった。
そろそろ夜明けだ。霞がかかったような頭をひとつ振って起き上がる。
わずかな違和感があった。ハンガーにかかっているはずのジャケットがなく、
変わりに女物のガウンがある。
ここは自分の部屋ではない?
そうだ、昨日は酔ったシーナをこの部屋に送って、そして・・・・。
狼の頭はようやく覚醒した。

少々照れながらベッドを振り返る。が、思惑と違いシーナはそこにはいなかった。
「・・・・シーナ?」
問いかけの答えは背後からやって来た。
「起きたか」
そこにはいつものチャイナ服姿のシーナが立っていた。

「おはよう、ロウ」
「あ、ああ」
挨拶を交わしつつも、違和感はますます大きくなる。
睦み合い、契りを交わした翌朝だというのに、この色気のなさはなんだろう。
甘い朝を期待していたわけではないが、いくらなんでも平然としすぎではないか。
きっちりと服を着込んだシーナの姿は、上半身裸でジーンズのみ穿いた自分とは対照的だ。
ご丁寧にファーまで肩にかけている。
いつもと変わらないクールな佇まい。
そう、まるで何もなかったかのようだった。


そこまで考えて、狼は一気に固まった。
まさか。
昨夜、シーナは珍しく酔っていた。明らかに普段と態度が違っていた。
肩を貸さなければ歩けず、また体を起こせないほどで、それは、俗に言うならば、
『泥酔状態で前後不覚だった』状態ではないのか?
「まさか、シーナ」
そこまで言って狼は言葉を失った。

「ロウ?どうした」
ぺちぺち、と頬を叩かれる。
かろうじて立っていた狼は、それでも健気に声を絞り出した。
「昨日の・・・・こと、覚えてるか、シーナ」
「ああ。どうやら呑み過ぎてしまったようだ。宴会場にいたはずが気付いたらここにいた。
・・・・お前もいるということは介抱してくれたんだろう?ありがとう。もう大丈夫」
普段は心地よく耳に響く涼やかな声が、今度こそ狼を打ちのめした。

狼の口から声が絞り出される。
「・・・・ろ」
「ろ?」
聞き返すシーナに、涙目で狼は叫んだ。
「狼子、曰くッ!・・・・『酒は呑んでも、呑まれるな』ああああああッ!!」
アオオオオオン。
明け方のホテルに遠吠えが響きわたった。


この世の終わりのような顔をして狼が自分の部屋に戻って行った後。
シーナはベッドサイドに残されたペットボトルを手に取った。
気だるい動作で中身を喉に流し込む。少しだけ残っていた水はとっくに温くなっていた。

「・・・・バカね。覚えているに決まっているでしょう」

こんなにたくさん痕をつけて。
あんなにたくさん名前を呼んで。
この体の隅々まで探り尽くして。
信じられないほど奥深くまで貴方を刻み込まれた。

ベッドに身を投げ出す。まだ暖かく、ほんのりと狼の汗の匂いがした。
シーナは残された男の匂いを苦しいほど胸に満たす。
いつか自分は彼を裏切るだろう。
それは既に定まった未来で、覆ることはない。
だって自分は組織の人間なのだから。
その時、彼はどんな顔をするのか。罵るだろうか。自国を食いものにした犯罪者と憎むだろうか。
いや、情の深い彼のことだ。きっと傷つく。
そして、その日はたぶん、遠くない。

だから忘れた方がいいのだ。こんな、ひと時の甘い夢は。
幸せを想像してしまわないように。彼との日々が永遠に続くと勘違いしてしまわないうちに。
たとえ、どんなに忘れられなくても。
彼女はぽつりとつぶやいた。
「ロウ。・・・・ごめんね」
好きよ。


(了)

 

最終更新:2020年06月09日 17:38