1やったら色々たぎったので投下。

・厳徒×巴。和姦
・SL-9号事件の前後。1-5話の二年前
・エロは最初と最後だけ
・巴の性格が黒っぽかったり厳徒が猫被ってたり



ホテルの天井を見上げ、宝月巴は不意に蛍光灯の替えが必要なのを思い出した。
「――」妹の部屋の照明がそろそろ寿命だ、「おーい」帰りにディスカウント
ショップに寄らないと──「トモエちゃん? 起きてる?」
鼻先で手を振られて、巴は我に返った。
暑苦しい顔がすぐ近くにあって一瞬混乱する。立て直す。小さく顎を引くと、
厳徒は何時も通りの笑顔を浮かべて、そう、と言った。
「や。困るな、トモエちゃん。こういう時に関係ないコトを考えるのはシツレイ
だと思わない?」
こういう時──汗とその他体液で湿った内腿を撫ぜられて、巴の身体はびくりと
震えた。咄嗟に結んだ唇から細い吐息が洩れる。厳徒の太い指が内腿を、その先に
ある敏感な場所を這う。
巴の手が、ベッドに掛けたシーツを掴む。糊の利いたシーツに皴が寄るが、その
前にも大分乱れていたせいで対して目立たなかった。
「……主席、捜査官……っ」
男の役職名を呼ぶが、厳徒は返事はすれども手を止めようとはしない。巴は眉を
しかめ、達したばかりで熱く潤う場所への責めに耐える。今度は意識を飛ばさない
よう気をつけなければ。
厳徒は、同じ“命令”を繰り返すのを嫌う。
巴の様子に比べ、厳徒ときたら余裕綽々、むしろ鼻歌を歌わないのが不思議な位
の朗らかさで、玩んでいるのが同衾する女の身体ではなくパイプオルガンの鍵盤
としても違和感が無い。
もう片方の手が乳房に伸びるのを見ながら、巴は長く細く息を吐いた。厳徒の動き
は的確で、容赦がない。
――カレの捜査のようだと思った。
的確で、容赦がなく。
そしてとにかくしつこい。
考えが顔に出ていたのか、厳徒が巴の顔を覗きこみ、じっと見つめてくる。
「……」
「……」
普段は口数の多い厳徒だけに、沈黙は妙に恐ろしい。仮にも同衾相手に使う表現
ではなかろうが、居心地が悪いのは事実だ。
「……」
「……」
そして巴の場合、緊張以外のもっと差し迫った事情があった。
「……」
沈黙と共に動くのを止めた指、二本のそれは巴のなかに入ったままだ。こうして
じっとしていると、動かされている時とは別の圧迫感を覚える。
けれど。それでは足りない。
「……っ」
腰が動きそうになるのを巴は必死で抑える。

押さえつけられた内側は一度いったというのに──だからかもしれないが──
ひくひくと震え、新しい蜜を零して厳徒の指に絡みついた。その程度では足りない
と知っているのに。指だけでは届かないことを。

いきなり、厳徒が吹き出した。
被疑者への取り調べめいた態度から一気に何時もの表情に戻されて、巴は一瞬
混乱する。
狙ったかのように指が抜かれ、腰が大きく跳ねた。
「主席捜さ」
頬を真っ赤にしつつ開いた口が、厳徒のそれで塞がれる。ねっとりと入り込んで
くる舌に、しかし巴は応えてしまう。押しつけ、絡ませる。離れる際、朱色の唇の
端から唾液が垂れた。
「いや。ゴメン。ホンットゴメン」
全く悪びれた様子もなく、厳徒は巴のほっそりした腹をなぞる。指に残る粘液が
跡を作り、肋に到達した。
「トモエちゃんが可愛いからさ。ホラ。色々としたくなるのよ」
ひとりでにこにこ笑う厳徒を前に、巴は反応に迷った。
「……だからと言って、ここまでする必要が認められません」
ようやっと出たのはそんな台詞で、
「そこはホラ。男と女の違いだね。や。ボクも楽しみたいのは山々なんだけど、
齢がね。若いトキみたいに二回も三回もってワケにはいかないんだよ」
なら一回で終わらせればいいのでは──「だから。ね」提案は音声に変換される
以前で消える。とろとろに開いた場所に感じる、薄いゴム越しの熱く猛々しいモノ。
「イチバン楽しいトコロは、他の楽しいコト全部済ませてからがいいよね──!」
「ひ──っあう!」
充血した襞を押し分け這入ってくる硬度と質量に、巴の細い背がしなる。指とは
比べものにならない太さ、深さ。無意識に腰が浮き、なかのものを締めつけた。
反応に気を好くしたのか、厳徒がずず、と腰を引き、当然男性器も膣内を移動し、
刺激に巴は泣き声に似た音を洩らし。
「──う、あああ!」
引き留めるかのようにすぼまったソコを勢いよく突かれて目を見開いた。中から
粘液が押し出され気泡を作り、激しい動きで壊される度にじゅぶじゅぶと卑猥な音
を立てる。

茫と霞む視界で、僅かながら、のしかかる厳徒の目を捉えた。
欲情した雄の。女を征服する男の。
そのふたつの熱の、どちらとも異なる、冷たい。見下すような、色が。



冷やりとした感覚は僅かながら思考能力を引き戻し。弱い箇所を何度も擦られて
呆気なく消え去る。
「しゅ…そう、さ、かんっ」
何かな、と問う声に、先程までの余裕はない。
「だめです、私、もう」
相手に輪を掛け、巴の限界は近かった。
薄く笑う気配があって。
痛みすら覚えるほど激しく突かれ、奥までこじいれられた巴の痛覚は、しかし
強すぎる刺激を強すぎる快楽としてしか判断できなかった。
押し殺して尚洩れる高い嬌声が、ひゅうっと息を呑み込む音で一瞬途絶えて。
がくがくと揺れていた白い裸身が、弓なりに硬直する。同時に巴のナカも貫く
ものを呑みこむように窄まり──巴は果てた。
弛緩した胎内に、追い打ちのように薄皮越しの射精が行われ、白い喉がちいさく
動いた。


「泊まっていく?」
事の後、シャワーを浴びて身支度をする巴へ、厳徒はぞんざいな口調で訊いた。
「いえ、家に妹を残しているので」
首にマフラーを巻き、巴はそう答えた。蛍光灯を替えなければならないことは
言わなかった。
「ふーん。そう」
厳徒は用件はそれきりとばかりに笑い、
「じゃ。また明日」
「はい。失礼します」
部屋を出る寸前。巴が振り向いた時には、厳徒はバスローブ姿のまま捜査資料
らしき書類に目を通し始めていた。


帰宅途中で深夜営業をしているディスカウントショップに寄り、替えの蛍光灯を
買う。
自宅に着くと既に十二時を回っていた。妹は──当然寝ている。
キッチンに向かい冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、
「……」
不意に。コップを用意し注ぎ飲み干す──そんなどうってことない作業が億劫に
なってしまう。
椅子に腰掛け、テーブルの上のボトルと蛍光灯を眺める。無音の世界で、冷蔵庫
が静かに唸っていた。
そこに。
「――あかね?」
「ひゃわっ?!」

きしりと床が軋むのを聞き振り向くことなく声を掛けると、背後から素っ頓狂な
返答があった。
「びっくりしたー。お姉ちゃんったら、急に声かけるんだもん」
「そう……ごめんね、起こしてしまったかしら」
「う、ううん! その……トイレ行くところだったから!」
歳の離れた妹はそう言って笑い、テーブルの上を見る。「あ」
「どうかした?」
「蛍光灯、買ってきたんだ」
茜は困ったように首をひねり、
「あたしも買っちゃった」
「蛍光灯を?」
「うん。ちゃんと替えたよ」
「自分で?」
「で、出来るよそのくらい! もう中学生だよ、あたし!」
その言い方がいかにも『子ども扱いされて拗ねる子ども』だったので、巴はふと
微笑んだ。茜はしばしむくれていたが、巴に早く寝るよう促され、しぶしぶといった
様子で下がり、
「おやすみ、お姉ちゃん。……お仕事、おつかれさま」
「ありがとう、あかね」
茜はてくてく自室に戻る。手洗いはどうしたのかと聞いても良かったのだが。
巴は怜悧な容貌にやわらかい笑みを浮かべ、お休みなさいと囁いた。

少しばかり胸が痛んだのは、きっと、帰宅時間の理由が妹の考えているであろう
ものとは異なっているからだった。


地方警察副局長にして主席捜査官・厳徒海慈と、副主席捜査官でありパートナー
でもある宝月巴の関係を邪推する者は少なくない。他愛ない噂と悪意ある中傷が、
常に二人の周囲にはあった。
噂に真実が含まれているのはこの際関係ない。

とにかく。噂が二人のキャリアにキズをつけなかったのは、ひとえに彼女らが優秀
であったからだ。下世話な男と女のゴシップなぞ、検挙率という厳然たる数値の前
では霞よりも軽い。
特に厳徒の優秀さは際立っている。幾度となく捜査上の不正行為を疑われながらも、
誰もその疑惑を口に出せない程に。
厳徒のギワクに関して疑い始めればキリがない。巴自身、彼の強引な捜査方法や、
やや秘密主義な面に不信感が全くないと言えば嘘になる。


しかし、最後の一線は越えていない。
少なくとも、巴と組んでの仕事では無かったと言いきれる。

それ以外がどうであるかは、巴には判断不可能だ。
“証拠”がない。
そして巴にとって『“証拠”がない』ことは『“真実”ではない』ことと同一に
なる。
裁きの場では証拠が全てだ。
証拠は嘘をつかず、真実のみを語る。
捜査官は証拠を探し出し、その語りかけを正しく把握するのみ。私情を挟むなど
もっての外だ。

警察局主席捜査官・厳徒海慈。
彼への評価に、私情は挟んでいない。はずだ。
何故なら、巴と厳徒の関係は、そんな感情が似合うものではなかった。


『警察局での部屋。共有にしようよ。ホラ、そっちのがベンリでしょ?』
そう提案した、というか既に本決まりだと告知したのは厳徒で、了承したのは
巴だ。しかし知らされてから二日で用意されるとは予想外の更に外だった。そして
内装に頭痛を覚えることになるのも想定の範囲外だった。
「……パイプオルガン」
「そ。いいでしょ。トモエちゃんも弾いてみる?」
「い、いえ、結構です」
警察局十五階の広々としたオフィスに入ると、まず視界に入るのは正面の巨大な
パイプオルガンである。
……巴は目をしばたかせ、テレビや外国の教会の写真でしか見たことのない楽器
を眺め、次いで隣の厳徒へと視線を移す。
やたらとゴキゲンな男は「弾いてみるか」なぞと訊ねてきた。ということはアレ
は馬鹿みたいな置き物ではなく、本物のパイプオルガンなのだろう。警察局に置く
意味が全く分からない。
自分用のデスクがごく普通のスチール製なのを確認し、巴は内心ほっとした。
他人の趣味をどうこう言いたくはないが、捜査官の個人デスクが高級樫材である
必要性が全く見いだせない。
そんな下らない我侭を通せる程度に、厳徒は権力を持っているということだ。
「や。窓もね。最初はステンドグラスにしようかなと思ったんだけど」
巴は部屋側面の窓を見る。
大きな窓には、ごくごく普通の強化ガラスが嵌まっていた。どうやら寸前で考え
直してくれたらしい。
「止めたんですね。……どうして、ですか」

「お。トモエちゃん。気になる?」
いえ特には──答える前に厳徒が窓へと歩き出したので、巴は返答を呑みこんで
広い背を追う。
「ホラ。ステンドグラスだとさ」
厳徒は窓の前で立ち止まる。色付き眼鏡の向こう側で、瞳が眇められた。
「見えなくなるでしょ。外」
外。つられて巴も窓越しの風景を見る。
警察局最上階の窓からは、空と他のビルの頭が見える。
「ボク、高いトコロ好きだからさ。気分いいからね。他、見下ろすの」
返しに困って厳徒を見上げると、彼の口元には屈託のない微笑が浮かんでいた。
「それに。ホラ。ナントカと煙は高いトコロが好きって言うしね」
更に困った。
眉間にしわを寄せる巴に対し、厳徒は手を打ち合わせて一笑する。
「ダメだよトモエちゃん。ジョークには、ジョークで返さないと。愛想が悪いと
苦労するでしょ?」
「はい……努力します」
「そうそう。ガンバッてね」
厳徒は表情もそのままに、
「タテマエや正義感だけで生きていけるほど、此処はアマくないからね」
嘲るように、言った。

正義を遂行すべき世界で、正義感だけでは生きていけない。ひどいムジュンだ。
けれど宝月巴は、そのムジュンを受け入れた。
正義を滞りなく達成するためには“チカラ”が必要だ。他の捜査員を思い通りに
動かすチカラ、下らない外圧に抗するためのチカラ。
“チカラ”の必要性は、厳徒と共に居れば分かる。
彼の無茶も、我侭も、黒い疑惑をいなすのも、彼が今まで培ってきた“チカラ”
あればこそ。巴は厳徒の遣り方を、彼の傍で吸収することにしたのだ──と。
「! 主席捜査官?!」
「うん。どうしたかな」
腰を抱き引き寄せておいてどうしたもこうしたもあるものか。
巴が抗議するのも何のその。手袋に包まれた厚いてのひらがスーツ越しに肢体を
まさぐる。
「こんな場所で……第一仕事中ですよ!」
「大丈夫、大丈夫。ここ、他の建物より高いから。安心していいよ」
「そういう問題ではありませんっ」
まさかとは思うが、こんなことをする為にオフィスの共有を持ちかけたのか。否、
さすがにそこまでは無いと思う、というか思わせて欲しい。仮にも主席捜査官、
曲がりなりにもパートナーがそこまで度外れた色ボケなのは嫌過ぎる。唯でさえ
困ったところの多い人物なのに。

そこら辺を込めて睨みつけると「恐い恐い」と笑われた。
本当はカケラも恐れていないのがよく分かる。
「じゃ。今夜七時ね」
「え──?」
「ホテル。住所はコレ」
此処“は”嫌みたいだから。言葉と共にホテルの名前と住所が書かれたメモ用紙
を手に押し込まれ、巴は、
「主席捜査官、冗談が過ぎます」
自分の字で、ホテル名と住所と日時、『検事局幹部との食事会。主席捜査官、
副主席捜査官の両名で出席』と書かれたメモ用紙を開く。
厳徒が手を打ち、誠意の感じられない謝罪と共に破顔した。
「や。トモエちゃんがあんまり真面目なモンだから。つい。ね」
「いえ、もう良いのですが……手を、そろそろ離していただけませんか」
だが。
くびれた腰に回る腕は、拘束を緩めない。
どころか強く引き寄せられて、巴はあやうく体勢を崩しかけ、たたらを踏んだ。
「部屋。取ってあるから」
耳元で囁かれる。
暑苦しい男の体温を帯びた息は、どこかひやりと冷たい。
「検事局のおエラガタについて、キミの感想を聞きたいんだけど。
勿論ボクも“色々”、話してあげてもいいし」
損にはならないだろう──? 言われるまでもなく巴には分かっていた。
頷くのを、男が予測しているのも、分かっていた。


『――もしもし、お姉ちゃん?』
「ええ。夕食は済ませた?」
『うん。お姉ちゃんは、帰りは何時くらいになりそう?』
「……ごめんなさい、早くて十一時を過ぎると思うから、先に休んでいて」
『分かった。あ、冷蔵庫にプリンがあるから。ひとつはお姉ちゃんの分ね』
「え、ええ、ありがとう……あかね?」
『なに?』
「……いいえ、何でもありません。戸締りはしっかりね」
『分かってるよー』
じゃあね、と通話は切れる。携帯電話を手に、巴は壁に背を預けた。


ホテルのロビーには、人影がちらほらとある。終わったばかりの警察局と検事局
との会食に出席していた面々だ。今日会ったばかりの顔もあれば、以前から見知って
いた姿もある。
巴は人の集まりから少し離れた場所にいて、今なら誰にも咎められることなく帰宅
できる。
できた。
過去形。
手の中の携帯に視線を落とす。自分の意志で電源ボタンを押し、通話を終了した。
家でひとりの妹に、「帰る」と言わずに話を終えた。
それが答えで、結論だ。

巴は顔を上げ、ロビー内を見渡す。
目当てのオレンジ色のスーツは直ぐに見つかった。やたらとヒラヒラした服装の
年配の検事、そして巴よりも若い、こちらも検事の青年と何やら談笑している。
もっとも、笑っているのは厳徒と年配の方だけで(但し彼は冷笑、と呼ぶ方が
相応しいな笑い方だった)、青年はしかめっつらをしている。
両名ともウデのいい検事だと聞いている。特に年配の方は、その年最も優秀な検事
に贈られる《検事・オブ・ザ・イヤー》受賞の常連だとも。
厳徒の言葉を借りるなら『顔を売っておいてソンはない人間』だ。
巴は背を伸ばし、彼らへと歩を進める。
巴が此処に残った目的、その達成のため。
ヒトを知ること、権力の趨勢を知ること、人脈をつくるコト。

巴の“これから”に必要なものを、得る。

「ご歓談中に失礼します。警察局副主席捜査官の、宝月巴、と申します」

傍で、厳徒が、出来のいい弟子を見るかのように。笑った。

それは“レンアイ”ではなく“トリヒキ”だ。
宝月巴が欲しいのは捜査官としての技術、知識、人脈。チカラ。
厳徒海慈が欲しがったのは優秀な手駒。女。
互いに欲しいものがあり、相手の欲しいものをそれぞれで持っていた。だから
近づき、提供し合った。信頼関係に似たものはあるかもしれないが、恋愛感情は
カケラも無い。性行為は合意の上ではあるが、愛情表現などではなく単なる対価
でしかない。
倫理的に見れば誉められたものではないのを、誰よりも巴自身が理解している。
けれど法には触れていない。

それだけが、巴に許された言い訳だった。

 

最終更新:2020年06月09日 17:39