御剣×冥②

 狩魔冥が目を覚ますと、そこは真っ暗な病院の一室だった。
(そう、私は狙撃されて、入院している…)
 昼間は手術の麻酔が残っていたため、ほとんどの時間眠ってしまっていた。その為、今の時間目が覚めてしまったのだろう。
 一日の事を振り返り、冥はぎゅっと自分の肩を抱き、胎児のようにまるまった。昼間、成歩堂龍一と御剣が来た時は強がってみせたものの、一歩間違えれば死ぬかもしれなかったのだ。恐ろしかった。
 13歳から検事になってこれまで勝ち続けていた。カンペキを維持していたのに。成歩堂龍一に負けてしまい。狙撃はされ、ロクな事が起こらない。
 涙がにじんで来る。五年間いままで、何が何でもカンペキを守り通す為に頑張って来たのは何だったのか。その上、今度こそ勝つと誓った裁判はあの男に横取りされてしまった。
 自分の存在意義が崩れていくような気がして、冥の心は張り裂けそうだった…。

 ガララ…。

 病室の扉が開いた音が響く。冥がハッとして時計を見ると夜一時を回っている。看護婦の見回りだろうか。カーテン越しに見えるシルエットは背が高い。男だ。
(わ…私が死ななかったので、狙撃者がトドメをさしに来たんじゃないでしょうね。それとも昼間の変態オヤジか…)
 検事が狙撃されるという事件の性質上、冥は同室に誰もいない部屋を割り当てられていた。人を呼ぶには、ナースコールしか無い。しかしナースコールで人を呼んで間に合うか…。
 とっさに冥はサイドテーブルのムチを掴んで身構える。拳銃にムチが勝てるとは思えないが、何もしないでやられっぱなしは、狩魔のプライドが許せない。
 かつんかつんかつん…男が冥のベッドに向かって来、患者をしきるカーテンに手をかけた。冥の心臓の鼓動が早まる。
 シャァ…静かにカーテンが引かれる。
「きゃあ!」
 恐怖の余り冥は目の前に来た男を確認するヒマも無く、渾身の力を振り絞ってムチで打った。
 ビシィッ。乾いたいい音が病室に響く。
「うぉおおっ なな…何をするメイ!」
 部屋に入って来た男は、冥渾身の攻撃を受けて悲鳴をあげた。
「なんだ…レイだったの」
 顔にできた赤いミミズ腫れをさすりながら、御剣はバツの悪そうな顔をした。
「こんな時間に、何も言わずに入って来てすまなかった、寝ていると思った」
「驚いた…」
 冥は一気に脱力感におそわれ、溜息をついた。
「キミはこちらに家族がいないから、入院に必要な道具が足りないかもしれないと思って持ってきたが…すまない」
「…礼を言うわ。でも昼間渡してくれれば良かったのに」
「昼間はその、余裕が無かった。王都楼の件で進展があったのだ…。明日は公判で来れないので、今来てしまったが…起こしてしまったか?」
「別に」
 スネた顔をして冥はうつむく。
「キズの具合は…その…大丈夫か?」
「こんなキズ、今すぐ退院してもいい位よ。パパは弾丸を摘出せずに15年間放置していたわ?」
「狩魔検事は弾丸が貫通していなかったので条件が違うと思うが…何か必要なものは無いか?」
 成歩堂が不在の為に「そういう問題じゃ無いだろう」というツッコミが無いのが寂しい。
「明日退院するわ、必要無い」
 機嫌が悪そうな冥を見て、御剣は眉をひそめる。
「邪魔だったようだな、すぐに帰る」
「待って」
 立ち去ろうとする御剣の上着をとっさに冥がつかんだ。不安げな表情を見せる。
「何だ?」
「…そこの椅子に暫く座っていなさい」
 そう言って、冥はベッドサイドに置かれた見舞客用の椅子を指さした。
「解った」
 素直に御剣はベッドサイドの椅子に腰掛ける。
 カーテンの隙間から差し込む街頭の光で、冥の顔がうっすらと照らされる。少し憔悴した雰囲気が見て取れた。
「メイ…大丈夫か?」
「平気…だけど、少し…肩を貸してくれる?」
 移動するのに手を貸して欲しいという意味と取り、御剣が席を立ちかける。
「待って、そのままでいて」
 ベッドから身を起こした冥は、御剣の肩に頭を預けた。
「少しだから…」
「う、うム…遠慮するな」
 緊張で訳の分からない返答をする御剣。しかしツッコミは不在である。
 御剣に頭を預ける冥はいつもの検事の姿では無く、18歳のただの少女、狩魔冥だった。狩魔の名に縛られ、虚勢をはっている姿が嘘のように今はその体は小さく感じる。
 18歳の少女に狩魔の名は、一体どれだけのプレッシャーを背負わせているのだろうか。
 御剣はいたたまれずに、そっと冥の体を抱いた。
 沈黙を破り、「悔しい…」メイがぽつりと呟いた。
「王都楼の裁判の件は、仕方が無かった」
「違う、それも悔しいけれど」
 言葉を切って、苦しげに息をはく。
「あなたにこうしてもらうと、安心してしまうのが悔しい…この私が!この狩魔冥が人に頼る事で安心してしまうなんて!」
「メイ、今のキミは狙撃された事で弱気になっている。それは人として当然だ。ましてやキミはまだ18さ…」
 御剣が年齢の事を口にした途端、冥は激昂し、側にあったマクラを勢いよく御剣に投げつけた。
「また…また私の事を子ども扱いするの御剣怜侍! バカにするのはやめなさい!」
 マクラを投げつけた動きで傷口が痛んだのか、肩を押さえながら苦しげに喋る。
「あなたがそんな風に扱うから…」
「落ち着くんだメイ、キズにさわる。確かに…キミはもう昔と違う。大人になった。それは認めよう」
「そうやってまた、子ども扱いするのね」
「そんなつもりは無かった…年齢をひきあいに出したのは不適当だった」
「本当に私の事を子ども扱いしてないって言える?」
「うム、誓おう」
「じゃあ私のことが抱ける?」
「うム…、何だと?」
 適当に頷いてしまったものの、話の内容を理解して御剣は焦る。
「あの、そういうアレは…どうだろうか」
 極めて常識的な返答だが、しどろもどろになる御剣を見て、冥の表情は冷静な検事としての仮面を取り戻してゆく。
「…冗談よ。明日は王都楼の公判最終日でしょう?狩魔家の名に恥を上塗りしないように、せいぜい準備して頑張る事ね」
 そう言って、冥は御剣に背を向け、頭からふとんをかぶってしまった。

「メイ、私の話を聞いてくれ」
「…まだ何かあるの?」ふとんをかぶったままで答える。
「正直な事を言うと、私はその…キミに好意を持っているというか…その、好きなのだろう」
「………」
「ただ、今、キミが弱っている所でそういう所につけこむのは…卑怯だと思った」
「…馬鹿による馬鹿な馬鹿らしい心配ね」

 病室のカーテンに二人のシルエットが重なった。
 ぎこちなく唇をあわせ、どちらともなく舌を絡ませる。冥はくすぐったさのような、別の何かのような不思議な感覚に身を少しよじらせる。
 そんな少女の仕草に愛しさを覚え、御剣は冥の唇から、首筋…そして鎖骨へと、少しづつキスを落としていく。
「はぁ…っ、レイ、くすぐったい…」
 それだけで、冥には既に刺激なのか、溜息のような言葉をもらす。
「声を出すと人が来る…」
「我慢する…」きゅと唇をかみしめる冥。
 御剣がワンピースのような病院着の合わせをほどくと、冥はブラはつけておらず素肌だった。肩の包帯が痛々しい。
 点滴があるため、全部は脱がせられなかったが、まだ少女の幼さを感じさせる小ぶりな胸があらわになると、冥は恥ずかしさで目をつむった。
 御剣は胸を手のひらで弧を描くように撫でる。冥は初めての感覚に身をよじらせる。
「は…っぁ」
 胸への愛撫を舌に切り替え、手はゆっくりと、背中、臀部、太股と柔らかくなでてゆく。感じやすいのか、冥は身をよじらせて声を押し殺すのに必死なようだった。太股から内股、そして布で隠された足の付け根に愛撫の手は移動する。ショーツに触れると、湿った感覚を感じた。
「メイ…濡れている」
「そんな事言わないで…あっ、あなたのせいで…」
 冥は目尻に涙を浮かべ、顔を真っ赤にする。
「私のせいで?」
 御剣の指が、冥の一番敏感な部分を探って布越しに刺激する。
「あ…っぁ」
 冥は電流のように体中に広がる甘美な刺激に、身をのけぞらせる。
「くぅっ…う…ん」
「苦しそうだ…やめるか?」御剣が体を離して聞く。
 冥はキッ、と睨む。
「イジワルしないで…」
 御剣は少し笑って、冥のショーツをゆっくりと下ろした。薄い若草に守られた、少女の誰にも見せた事の無い部分が暗闇に露わになった。濡れているのを確認して、中指をゆっくりと冥の体内に滑り込ませる。
「あ…っ」
「痛いか…?」
「いいえ…なんか…ぎゅっとなって…ヘンな感じ…」とろんとした目で冥が答える。
「キミの事が…欲しいメイ」
「…いいわよ。私も…ずっと好きだった」
「本当にいい…」いいのか、と御剣は言いかけてメイに止められる。
「私に何度も言わせて、恥をかかせる気?私は…」狩魔冥、と言おうとした冥に今度は御剣が言葉を途中で止めさせる。「メイだろう?私が好きな」
 今は、狩魔の名を捨てて欲しい。その言葉の裏を読んで、冥は無言でうなづいた。
 御剣はベルトを外して取り出した自分自身を彼女の入り口にあてがい、ゆっくりと体を沈めた。
 愛撫で濡れていたが、冥ははじめての痛みに少し涙をにじませる。しかし声には出さない気丈な態度が、また愛おしさを感じさせた。
「メイ…大丈夫か?」
「大丈夫、少し痛かったけど…もう大丈夫」
 その言葉を聞いてから、御剣は緩やかに動き始めた。
 充分に湿っていた為か、冥の痛みもそんなに大きくは無かったようだ。切なげな呼吸を取り戻してゆく。
「はぁ…っ、レイ…」
 御剣が欲望に耐えきれず、少しづつ動きを激しくしてゆく。
「あぁ…ん」声を殺していた冥が、耐えきれずに甘い声を漏らしてしまうが、すぐに御剣の唇で口をふさがれる。
「んっ…んん…っ」
 大胆に舌が絡まされ、口の中も腹の中もかき回され蹂躙されるような感覚に冥は酔いしれてゆく。
「レイ…私もう…っ」
 冥は自由になる左手で、決して離すまいとでもいうように御剣の頭をかかえこんだ。
「メイ…めい…っ」
 きつく抱きしめられ、自分の深い所でどくり、と熱いものが広がるのを感じた所で、冥の意識はとぎれた。


「狩魔さーん、おはようございます。検温のお時間ですよ」
 看護婦の声で目を冥が覚ますと、窓の外はもう明るい。
 自分の身体を見ると、普通に病院着を着たままだ。昨日の事は夢だったのだろうか…なんて夢!と顔を赤くした所で、看護婦から喋りかけられる。
「狩魔さん、昨日職場の方がお荷物を置きにいらしたんですよ。眠っていたので会えなかったんですね」と、少し微笑んで、サイドテーブルの上にあるメモを指さした。
『昨日はすまなかった。■■ 裁判が終わったらまた来るので、安静にしておくように 御剣』
 ■■、とボールペンで塗りつぶされた部分に「朝ま」という文字が読め、冥は微笑した。

(終)
最終更新:2006年12月13日 08:27