横切り失礼してガントモ投下。

※SL9号事件以前の巌徒×巴。割と真剣にイチャイチャしてる
※事件以前から二人が愛人関係にあった、っていう妄想前提

*****


To:宝月巴
2014/10/XX    21:04
From:宝月茜
Sub:修学旅行一日目!

お姉ちゃんへ。今日は修学旅行一日目です!家を出るときに雨だったから心配だった
けど、晴れました!お寺とかいろいろ回ったよ。なんだか空気がちょっと違う感じが
して面白かったです。紅葉はまだ半分くらいらしくて(ガイドさんが教えてくれたよ
)ちょっと残念。キレイだったけどね
明日は自由行動でいろんなところに行く予定。なので明日も晴れるといいな。あとで
レポートを発表しなくちゃならないからちょっと大変だけど、すっごく楽しみ!
お姉ちゃんは何もなかった?仕事、あんまり無理しないでね
じゃあおやすみなさい!

PS.奈良公園のシカ、すっごくかわいかったよ!
あと男子がしかせんべい食べて「まずい」って言ってた。男の子ってバカだね

(添付画像)

(添付画像)

-END-


昨日の日付のメールを読み、新着がないことを確認し、巴は携帯電話を閉じる。ほう、
と息吐きソファに背を預ければ、ぬくぬくと何処までも沈んでいきそうな柔らかさとそれ
でいてしっかり体重を支えるスプリングの効きにうっかり眠気を催しかけて、慌てて姿勢
を正した。
かなり大きめのソファは巴が腰掛けると少々余る。横になっても寝返り一回程度なら
何とか打てそうだ。実際、部屋の主もベッド代わりに使っているのだろう。ソファと脇に
置いた毛布から、体臭とスタイリング剤の混じる、微かな。嗅ぎ慣れた匂いがした。
カーペットに落ちていた毛布は拾って畳んだが、ついでに目の前の座卓も片付けるべき
か否かで巴は迷い、手をつけないことにする。いくら卓上が雑誌と何かのコピーと新聞の
切り抜きとで隙間なく占領されているとはいえ、客が触るのは失礼だろう。
そう。巴は客だ。
なるべく考えないようにしていたのに、気づいてしまうと途端落ち着かなくなる。時計
を見れば、もう夜も遅い。他人の家を訪ねる時間ではない。それなのに巴は他人の家に
いる。着替えにと引っこんだ家主が戻るのを待っている。
足音と、廊下に続くドアの開閉音を聞き、巴は腰掛けたまま振り返る。
「や。お待たせ」
「いいえ。お邪魔していま…す……」

そこで巴が絶句したのは。家主がさっきまでの派手なスーツではなく、いかにも着心地
良さげなシャツとスラックス姿だったから、では勿論なく。彼の手にトレードマークの
黒手袋が無かったからでもなく。手に急須と湯呑みを載せた盆を抱えていたからだった。
「ソコ。テキトウに寄せてくれる?」
「は、はい」
巴はソファから下りて座卓を片付ける。とりあえず一番かさばるファイルを座卓の隅に
寄せ、新聞の切り抜きが散らばらないようまとめて雑誌を重しに載せた。「アリガト」
空いたスペースに盆が置かれる。家主は手慣れた仕草で湯呑みふたつに茶を注ぎ、ひとつ
を巴に渡す。礼を言い、素焼きの湯呑みに口をつける。広がる香ばしさと味から、一口で
高級なものと知れた。
ソファが沈む。
巴には大きすぎるスペースは、家主の巨躯には丁度好かった。ゆったりと腰を下ろし
背中を深く預けても、膝が自然な曲がり方を見せている。例え手にするのがほうじ茶だと
しても、洋画のワンシーンのように絵になる光景だった。まるで彼の為あつらえたかの
ようだ。
考えて、巴は内心苦笑する。
当然だ。ここは彼の家なのだから。物事が万事彼にとって都合の良いように整えられて
いたとして、何の疑問があろうか。
この家の中、唯一家主の所有物でないモノ。つまり宝月巴は、熱い湯呑みを抱えながら
隣の男を盗み見る。
(……全く)
どうして私は貴方の家にいて、貴方の淹れたお茶なんかご馳走になっているのでしょう
ね?
家主である巌徒海慈をぼんやり眺めながら、巴はここまでの経緯を思い出そうとして
いた。


ひとつひとつは些細なことなのだ。
その。些細なファクターが積み重なり、巡り巡って一見理解不能な状況を生み出す。
世の中というのは大体そんな感じで回っている。

原因のひとつめは──多分、朝のエレベーターだ。


──朝は雨が降っていた。
巴は地下駐車場に車を停め、靴をスニーカーからパンプスへ履き替え降りる。助手席の
傘はそのままにしておいた。本当は広げて乾かした方が良いのだろうけれど、そこは横着
を決め込む。警察局の設備で有難いのは、駐車場が屋内にあることだ。お蔭で天気を気に
せずに済む。
普段より大分早い出勤時間。駐車場にも、階段を上がった先のロビーにも人影はない。
否。
ロビーのエレベーターに誰かが乗ったらしく、扉が閉まりかけているところだった。
急ぐべきか、次を待つかで巴は迷い、
「あ」
扉が途中で開いたのを見、慌てて向かう。最後はほとんど小走りになってエレベーター
に滑り込み、
「おはよ。トモエちゃん」
「お早うございます、主席捜査官。ありがとうございました」
ボタンを“開”から“閉”へと押し替える上司へかるく一礼した。
「今日、早いね。急ぎの用?」

別にそういうわけでもなかった。担当している事件もないし、今の仕事は書類整理か
電話番くらいのものだ。このまま火急の捜査か入らなければ、明日からの土日も休日と
して消化できるだろう。
なので、今の時間に巴が警察局にいるのは不自然──とまではいかずとも、珍しくは
あった。
「いいえ、」そこで巴は言葉を濁し、別に隠し立てすることでもないのだと思い直す。
「家にいても、やることがないので」
巌徒は怪訝そうな目を向けてきて、「イモウトちゃんは?」
「修学旅行です。明日まで」
「へえ。ドコ?」
「京都と奈良……今日は京都の方だったかしら」
「あ。やっぱり、修学旅行っていったら定番だよねえ」
「そうですね。私も、中学は京都でした」
とりとめのない会話の傍で、巴は巌徒が傘を持っているのに気づいた。広い肩が濡れて
いるのにも。彼も自分と同じく車出勤だったはずだけれど、と内心首を傾げる。と。視線
に気づいたのか、巌徒がひらりと手を振った。相も変わらずの黒手袋だ。
「コレ? 今日は電車」
「珍しいですね。車はどうされたんですか」
「車検」
エレベーターが目的の階に到着する。チン、と、ベルが鳴って扉が開き、巌徒が先に
出る。開ボタンを押していた巴も続いて降りた。
「代車はあるんだけど、乗り心地がイマイチでさ。電車乗るのも久しぶりだったから、
結構シンセンだったよ」
通勤ラッシュはイヤだから早めに出たけど、と巌徒は続け。
そこで不意に足を止め、背後の巴へと向き直る。
「トモエちゃん。じゃあ、今日、ヒトリなんだ」イモウトちゃんがいないんじゃね──
特に他意の見えない巌徒の言葉に、巴は微かに目を伏せ、「──はい」直ぐに顔を上げ
答える。
「じゃ。仕事、終わったら。ゴハン食べに行こうよ。どうせ明日は休みだし」
断られる可能性なぞ微塵も考慮していない笑顔で言い放たれ、巴はしばし応答に迷った
様子で──おそらく食事だけで終わらぬであろうことや、それによって巌徒と巴双方の
時間を食い潰すことや、しかし巌徒自身が望んだのであればそもそも巴には断る余地は
ほぼ残されていなかったこと、等々を吟味する様子で──最終的にはやや諦め混じりの
面持ちで頷く。
巴の返答を受け、巌徒は陽気に手をポンポン鳴らし、
「や。良かった、良かった。来週まで、トモエちゃんのカオ、見れないと。淋しいから
ねえ」
「また、ご冗談を」
「ホントだって。トモエちゃん、キミ、ボクのパートナーだもの」
冗談とも本心ともつかぬ台詞に、巴がちいさく苦笑する。
しかしその怜悧な印象の頬へ刹那朱が差したのを、おそらく巌徒は見逃さなかった。
犯罪捜査に四十年近くを費やし、最も優れた捜査官にのみ許される“主席捜査官”の
肩書きを持つ男を、彼女は信頼し、尊敬し。憧憬の念すら抱いている。共に捜査に携わる
ようになってから、男の、主に人格的な面での欠点も随分と見てきたはずだが、巌徒海慈
“捜査官”に対する敬意は些かも揺らぐことはない。
パートナー。
信頼のおける、対等な相棒。
そのたったヒトコトで、彼女は隠しきれない誇らしさを滲ませる。飼い主から「よく
やった」の一言を与えられた、賢い猟犬のように。


地方警察局副局長にして主席捜査官・巌徒海慈と、副主席捜査官である宝月巴。
警察局内にて抜きんでた実績を誇るこのコンビは、仕事の内でも外でも、余人の思う
よりほんの少し近しい間柄だった。
少なくとも。宝月巴の側からは、そうだった。


──だから。と。巴は考える。

巴と巌徒が一緒にいること自体は不自然ではない。
捜査官として、巌徒の補佐として犯罪捜査に携わり。プライベートでは巌徒の食事に
付き合い。カラダを求められれば応じる。確立されきったルーチンは、双方の合意あって
成されるものだ。倫理的に恥じる点はあっても、違法行為でも何でもない。
巴には目的がある。捜査官としてのキャリアを積み、ゆくゆくは現場捜査にも精通した
検事になる。そのために巌徒の元で学び、知識と経験とコネとを得る。目的のために利用
し、代償として利用される。ギブアンドテイク、分かり易くて大変結構。

ここまで全くムジュンはない。
お定まりのルートを辿りホテルの一室にしけこむ算段になったとて、おかしなところは
何ひとつ無い。……はず、なのだが。


「トモエちゃんさ。偶に、考えがヨソ行くよね」
咎める言葉は心外だった。
抗議に開きかけた口から、細い喘ぎが洩れる。巌徒の手になぞられる肌が湿り色づいて
いるのは、シャワーの熱が残っているから、だけではない。
ベッドの上。組み敷かれる格好で巴は巌徒の腕の中にある。どちらも素裸だ。汗と唾液
に濡れた乳輪をくるりと引っかかれ思わず身をよじる。と、胸だけではなく、もっと下の
方からも鋭い刺激と濡れた音が生まれ、疼きを押さえるためシーツを強く握った。巴の、
割り開かれた太腿の間では巌徒が片膝をついている。逞しい足は体液でとろとろに濡れた
茂みと触れる位置にあり、少しでも身体を動かせば擦りつけることになる。やわらかく
解れた入り口や、朱くカタく膨れた花芯とか、快楽を作れる、そういうところを。
自分から求めるには羞恥心が強過ぎて必死で押さえ込んで、それでいて巌徒がユビだの
舌だので与えてくるものだから、そちらを堪えるのにも気を散らして。
この状況で、ナニかを考える暇があるものか。
といった反証を行いたかったのだが、実行に移すには些か余力と時間が足りなかった。
巌徒が足を組み換え、巴の両の膝裏を掴み、持ち上げ、倒す。「──あ」腰が上がり、
浅い刺激に濡れきった場所が曝け出される。照明は落としてあるとはいえ、真の暗闇では
ない。慣れれば同衾相手の輪郭程度は把握可能な暗さだ。そこに。相手の前に、性器を
晒すのは酷く恥ずかしかった。
「こんなに。濡れてるのにねえ」
「……ッ」
ユビで浅く掻き回される──足を持ち上げたままで一体どうやっているのだろう。器用
なものだ──とぐちゃぐちゃと音がして、自分の内側から体液が掻き出されまた溢れるの
を感じ。相手にも分かるのが知れて。
臀部に。汗の滲む、かさついた肌が触れる。支える。巌徒の身体だ、と理解するのと、
薄いゴムで覆われたカタいモノが狭い入り口をこじ開けたのはほぼ同時だった。
上から割り裂く感触に、重みに、細い腰がびくつく。角度がカンペキには合っていない
せいで、腹側の内壁にキツく当たる。痛みか、痛みに似た快楽にか、強張り狭まるナカへ
他人の肉は構わず沈んでくる。

呼吸が、短く、速くなる。
腹のすぐ裏側は、巴の“感じる”場所のひとつだ。充分に解されていた孔は強引な挿入
にも反応し体液を吐き出す。押さえていたはずの足がびくんっと跳ねて、けれど支える
巌徒は動かず代わりに巴の身体が揺れる。
「ん──!」
よじれた身体が偶然受け入れるのに最適な姿勢を取り、ずるりと深く、滑らかに男根が
這入り込む。一気に進まれ繋がる場所が驚いたように痙攣し、ぎゅっと絡みつく。組み
敷かれた身体が強張り、「──っ、は──」弛緩する。咥えた場所も緩み、僅かな隙間
からとぷんと蜜を零し。「ッ?! ん、く、あ、!」抵抗を失ったのをいいことに最奥
まで一気に捻じ入れられて声を上げる。
巴はシーツを掴み、涙を滲ませ喘ぐ。もう抑える余裕はない。
ほんの少し。一秒か、二秒か、もっとか。けれどそんなに長くはない時間、どちらも
動かず薄闇に互いの呼吸だけが──七割がた巴のものだったが──響き。
太腿を強く掴まれ、巴は強く目をつぶる。どうせ無駄になると知っていたので、口は
閉じなかった。
衝撃。
引き寄せられる。奥に、カタい先端が当たる。腰を掴まれ、揺すぶられる。蕩けて敏感
になったナカは男根で埋め尽くされてそれだけで辛いのに、動くよう強制されるのだ。
しかも不安定な姿勢だから休むことはおろか楽な姿勢を探すことすら許されない。
そんな風に。勝手に己れを扱われているのに、巴のカラダは快楽に震える。自由になる
上半身をベッドの上でよじり反らした喉から嬌声を零し続ける。
腰が、下がる。
「っか、あ──」
身体を揺すぶられるそこに、動きの中心となっていた男根が引かれ、強く突き入れる
衝撃が加わる。絡む襞を引きずられ抉られる刺激が巴を無理矢理押し上げる。ぎちぎち音
立て蜜と襞と被膜越しの肉とが擦れ血と快感とを集める。
ぎ、と。限界まで脚を広げられ、ナカを小刻みに強く擦られる。巴はされるがまま、唯
巌徒の呼吸が大分荒くなったのを頭の片隅で捉えながら最後の呼吸をし。
ひときわ強く貫かれる衝撃と、そこから来るしろいナニかに背を反らし全身を痙攣させ
──過敏になった粘膜でゴム越しの射精を感じ、指の関節が白くなるまでシーツを握り
締めた。

「あの、主席捜査官」
「ナニ?」
情交後の余韻や会話を楽しむでもなくシャワーを浴びて身支度をして、そこで巴は巌徒
に問うた。
「……私、集中していませんでしたか」
「ソレ。ボクの質問だと思うんだけど」
それもそうだ。
巴が眉根を寄せる前で、巌徒は答えを与えるでもなくさっさとスーツを身に着け、手袋
を嵌めて。
「じゃ。ボクは帰るね」
「お泊まりに、ならないのですか?」
「まあね。今日は、家で。ゆっくりしたいし」
巌徒は巴も当然部屋を出るものと思っていたらしく、カードキーを取り上げ、
「──」
「──」
「──トモエちゃん。帰らないの」
「……できれば」
躊躇いながらも頷く部下に、訝しげな視線を向ける。巴はしばらく抵抗するが、結局は
無言の圧力に屈し、理由を答える。

「帰っても、意味がないので」
「イミ?」
「……今日は、妹が、いないんです」
妹──宝月茜は修学旅行とかで、確かに自宅にはいない。それが帰宅しない理由になる
とは、巌徒には全く不可解だったが、「じゃ。カギは、置いていってもイイね」それ以上
を詮索する気もないらしくカードキーをサイドテーブルへ戻す。
「じゃあね。トモエちゃん。また来週」
「はい。お気をつけて、主席捜査官」
派手なオレンジスーツの姿がドアの外へ消えるのを見送り。
巴は、深く溜息を吐いてベッドへ座る。乱れたシーツは出来る範囲で直したが、汗やら
何やらまでは抜けない。
鞄から私用の携帯電話を取り、メールを確認する。新着無し。妹からのメールは無し。
先程まで二人で使っていたベッドに今は一人で腰掛け、携帯を片手に手持無沙汰に天井
を眺める。宿泊に問題はない。暇を潰したければテレビでも点ければいいし、何ならもう
眠ってしまえばいい。
ひとりの家に帰りたくないのなら、そうすればいい。
──苦笑、というか、自嘲が洩れる。意味のないことをしている、という気分だった。
ぱん、と膝を打つ。帰るふんぎりがついた。
携帯を鞄に仕舞い、首にマフラーを巻きつけ、最後に忘れ物がないかをざっと確認し、
カードキーを持ってドアを静かに開け、
そこで。ノックの体勢で固まる巌徒と目が合った。
しばし沈黙が流れ、
「……忘れ物ですか?」
至極まっとうな巴の質問は、「ま。似たようなモノだけど」些か歯切れの悪い回答で
返される。「何をお忘れでした?」見逃してしまったらしい、と部屋へ戻ろうとする巴の
腕を。巌徒が掴む。
振り返りざまの半端な姿勢で、巴は巌徒を見上げ。
「トモエちゃん。クルマでしょ」
「はあ」そもそもホテルまでの足は巴の車だった。
「ボク。今日は電車なんだよね」
「そう、でしたね」巌徒の車は車検に出した、と、朝にも聞いた。
「今。雨、降ってる」
「……あの、主席捜査官」
「送ってくれる?」
巴は幾度か瞬きし、断られるとは考えていないけれど何やら微妙な面持ちの上司の。
体温の伝わらない革手袋の手を見て、
頷いた。

 

最終更新:2020年06月09日 17:34