矢張×冥のSS投下します。
マイナーすみません。

時系列は検事1の後あたりです。



陥落


バルコニーの手すりにもたれると、冷たい風に頬を撫でられた。
三月の夜風はまだ少し寒いが、火照った頬には丁度良い。
狩魔冥は目の前に広がる庭をぼんやりと眺めながら、しばらく外気に身を晒した。

背中の向こうはパーティー会場だった。
主催はダミアン大統領・元ババル大使で、コードピアの再統一を記念した個人的な集まりと言うことだ。
しかし個人的とは名ばかりで、招待客はおそらく優に三桁を超えていると思われる。
冥ももちろん客として招かれた。
大使館の事件を解決したという感謝の意をこめて。
――御剣怜侍のおまけとして。

あの事件が解決を見たとき、確かに自分はその場にいた。
言い換えればただその場にいた『だけ』である。
事件を解決したのは自分ではなく御剣であり、国際捜査官の狼士龍だった。
主犯であるカーネイジの裁判の担当検事であるという大義名分が無ければ、功労者に名を連ねるのが憚られるほどだ。
そのことは良くわかっていたから、ダミアンや関係各位の感謝の言葉を丁重に断り、ずっと壁の花になっていた。
人の輪の中心で話に花を咲かせている御剣や狼を見ながら。

パーティーはあるホテルをまるまるひとつ借り切って行われていた。
大統領は参加者のためにホテルに宿泊用の部屋を確保しており、それゆえ特に閉会の時間が定められていない。
冥は何もすることが無く、たまに話しかけてくる誰かに適当に相槌を打ちながら、配られるシャンパンを飲み続けた。
ペースを考えずに飲んだせいで珍しく少し酔いが回ってしまったようだ。
人ごみの中にいることにも飽き、酔いを醒まそうとも思い、一人になれそうな場所を求めていたらこのバルコニーを見つけた。
会場内の窓から外へ向け設けられたバルコニーはかなり広く、建物の外庭が見渡せる開放的な場所だが、夜も更け風が出てきたこの時間は誰も寄り付かない。
人々はメイン会場の中央に集まっていることもあり、隅に位置するここは一人になりたい冥にとってうってつけの場所だった。

冥は自分の服装に目を落とした。
黒いシンプルなカクテルドレスと、同じ素材の手袋、数点のアクセサリー。
百人以上の招待客の中に自然と溶け込む装いだった。
要するに、話の中心にならなければ、ただの客の一人。
自ら話したくなるような活躍をしたわけではないし、話しかけられるような手柄も立ててない。
常に会場の中心にいる二人の男とは、住む世界が違っていた……。

「――っくしゅん……」
バルコニーに少し強い夜風が吹き付けた。
冥の身体は途端に温度を奪われ、くしゃみが飛び出す。
ノースリーブだったことを思い出し、一つ震えた。
――部屋の中に戻ろうかしら。
そう思ったとき、肩をふわっと暖かい何かが覆う。

「あっれー、カワイイくしゃみだと思ったら冥ちゃんじゃん!」

男物の黒い上着が肩から掛けられていた。
その持ち主は冥を認識すると、ぱっと笑顔を咲かせる。
「あなたは、確か……」
「うそーん! オレだよ。矢張さん家の政志くんだよっ!」
「そうだったわね」
「ジョーダンだろォ、この間会ったばかりなのにもう忘れられてんのかよオレ」
「顔は覚えていたのだけれど……」
そういえば、この不埒な男を名前で呼んだことはあっただろうか。

「いやーこんなところで冥ちゃんに会えるなんて思わなかったぜー。へへ、ラッキー!」
「……何故こんなところにあなたがいるのかしら……」
「あーオレ? アレだよアレ。トノサマン!」
「トノサマン?」
「国がまたひとつになった記念に、大統領じきじきに頼まれちゃったわけよ。トノサマンショーをやってくれってね!」
「ああ、それで……」
パーティーが始まる前にそんな余興があったのを思い出した。
「冥ちゃんも見た? トノサマンショー。オレ大活躍だっただろぉ! 最後の決め技、トノサマン・かつら剥き!」
「……悪いけど全く見ていなかったわ」
「えー。ちゃんと見ててくれよぅ。相変わらず連れねーなァ」
矢張は冥の隣で、冥と同じように手すりにもたれた。
先程トノサマンを演じたと言っていたが、今の矢張にその名残は全く無い。
白いシャツに黒いネクタイを締め、形の良いスラックスが脚を覆っている。
そこに、今は冥の肩に掛けられているジャケットを足せば、まあまあきちんとしたスーツ姿になる。
冥の知っている矢張は、胡散臭い画家スタイルかふざけた着ぐるみ姿だった。
いちおう格式ある場なので、彼なりに気を使ったのだろうか。

矢張はシャツの胸ポケットから煙草を引き出す。
火をつけようとして、はっと冥の方に目をやり、あわててやめた。
「別に構わないわよ。吸っても」
「いやいいよ、やめとく。綺麗な服にケムリがかかったら大変だしさァ。……って、ああぁぁぁ!!」
「何よ、騒々しい」
「オレとしたことが、肝心なこと言うの忘れてたぜ」
「肝心なこと?」
冥が首を傾げるのと、手を握られるのが同時だった。

「冥ちゃん、今日の格好いつもと違ってすげぇーかわいい! マジ綺麗!」

突然手放しで褒められ、茫然としてしまう。
あっと思ったときには既に腰を抱かれていた。
「しかも、香水ってこれクロエだろ? さっすがセンスいいねー!」
油断した。
矢張はこういう男だった。
隙を見せると途端に馴れ馴れしい態度に出る。
冥はとっさに鞭を探していた。
しかし、カクテルドレスとのバランスを考え、部屋に置いてきてしまったことを思い出す。

ただでさえ男物のジャケットに覆われているのに、至近距離に男性の気配がする。
慣れていなかった。普段は鞭で撃退していたから。 
呼吸のたびに耳元にかかる彼の息が、ひどくくすぐったい。
「ちょっと、離れてくれるかしら」
鞭が無い以上、口頭で警告するしかなかった。

「冥ちゃんってさ、御剣と付き合ってんの?」

「――――は?」
矢張は警告を聞かないどころか、とんでもないことを口にした。
「ねぇ、付き合ってんの?」
「つ、付き合ってないわよ!」
「マジ? オレてっきり恋人同士かと思った」
「そんなわけないでしょう。レイジ……御剣怜侍は、ただの兄弟弟子よ」
「好きだったりしねぇの? 御剣のこと。初恋の君とか!」
「あ、ありえないわっ」
御剣とは長い間同じ師の元で学んできたが、それだけだ。
そもそも、彼と自分とはもう、住む世界が違うのだから……。

「マジで! あーよかったー!」

突然、矢張に抱きすくめられた。 
「ちょっ……何するの! 離して!」
「良かったー。御剣と付き合ってるとか言われたらオレ、冥ちゃんのこと諦めようかと思ってたんだ」
「……はぁ? 何を言ってるの。離しなさい!」
先程よりも近くに矢張の顔があった。耳にかかる息がくすぐったくて耐えられない。
必死に抵抗すると、冥を抱きしめていた腕がするすると緩んだ。
しかしその腕は曖昧な位置で止まる。
冥はバルコニーの手すりを背にして、矢張の両腕の間に出来た空間に閉じ込められていた。

「さすがにさー、友達のカノジョ好きになるってモンダイだと思うワケよ。オレとしては。うん」
「勝手に理論を展開して、勝手に納得するのはやめて頂戴。そこをどいて。中に戻るわ」
冥はすぐ近くの男性の匂いに焦りを感じながら、それをぐっと隠して威勢を張る。
矢張はそんな冥を無視して、鼻先が触れ合う距離で微笑んだ。
「やだ。オレ、冥ちゃんのことホンキで口説くことにしたから」
「なっ……」
頬から耳にさっと朱が走るのを感じたが、冥はそれを押さえることが出来なかった。

「じょ、冗談ばかり言わないで」
「冗談なワケねーじゃん。オレが嘘ついたところで、天才検事の冥ちゃんならぴゃぴゃーっと暴いちゃうし」
「それはそうかもしれないけれど……」
「オレあんま頭よくないから正直に言うしかないって、最近イヤってほど実感したんだ。わかるだろ」
大使館の事件のことを言っているのだろうか。
あの時、矢張がひた隠しにしていた恥ずかしいことは残らず表沙汰になった。もっとも、証明したのは御剣だが……。

「だから正直に言うんだけどさ、冥ちゃん。オレ、冥ちゃんが好きです!」

これ以上削れないほどシンプルな言葉だった。
日頃の成果で、冥は単純な言葉が持つ強さを知っている。
言葉は簡潔であればあるほど突っ込みどころがなくなる。つまり揺るがない。
「……って無視はないだろぉ。返事がほしいんだけどなァ」
「………」
自分は今、どんな顔して立っているのだろう。考えたくなかった。
それなのに、矢張は冥の顔を覗きこむ。
「困ってるってコトは余地があるってコトだと思うぜ」
忘れていた。
この男は時々、百万回に一回くらい妙に鋭いツッコミをするのだ。

「……いい加減にして。叩くわよ」
粋がってみても、絞り出した声では威力がない。
冥がこう言えばいつもは飛んで逃げる矢張も、今回は動こうとしなかった。
「ムチ、持ってないじゃん」
「ひ、平手で叩くわ……」
冥がそう言うと、矢張は皮肉の混じったような笑みを浮かべた。 
「じゃー叩いていいぜ。叩かれるほど嫌われてんならオレ、とっとと退散するわ」
「私が本気じゃないと思っているでしょう。本当に叩くわよ」
「だから叩いていいって」
「……バカ!」
冥は手を大きく振り上げた。

「……どうしたの? 遠慮なくやっちゃっていいんだぜー」
振り下ろせなかった。
威勢よく上げた手の、行き場がない。
「冥ちゃんのそういうところ、大好きだ」
所在無く上がりっぱなしの腕を矢張に捕まれる。
そのまま強い力で抱き寄せられ、唇を奪われた。

「風が出てきたなぁ」
唇が離れても抱き寄せられたままで、矢張の声が彼の胸板を通して聞こえる。
くぐもった声が言った。

「身体冷えちゃっただろ。部屋で少し温まろうぜ」

***********************

『温まろう』なんてただの詭弁だと思っていたら、矢張は本当に湯船にお湯を張り始めた。
広くて使い心地のよいバスルームで時間をかけながら、高まっていく鼓動を必死に抑える。
――何故あの時、手を振り下ろせなかったの?
何度も自問したが答えなど出ず、心臓はオーバーペースで収縮運動を繰り返すばかりだった。

バスローブだけを纏って浴室から出ると、先にシャワーを浴びていた矢張がこちらを見る。
「すげー部屋だぜここ。こんなとこにポケットマネーで泊めてくれるなんて、あの大統領いいとこあるよなー」
確かに悪くなかった。
むしろ、自分が案内された部屋より矢張の部屋の方が少し格上に思える。
トノサマンはそんなに偉いのだろうか。検事の自分よりも。
――検事と言っても、自分は何もしていないけれど……。

どうしていいかわからず立ち尽くしていると、矢張に引き寄せられ抱きしめられた。
髪をひと束掬われて、そこに唇が落とされる。
そのままひょいと抱え上げられ、ベッドに運ばれた。

唇を塞がれて押し倒され、啄ばむようなキスと舌を絡め取られるような激しいキスを交互に繰り返した。
バスローブの腰紐が解かれ、鎖骨に唇が這う。
冥は慌てて胸元をかき合せて押さえた。
矢張はそれ以上無理に脱がそうとはせず、頬に口付けを落とす。 
「オレ、冥ちゃんとこうしたいなーってマジ夢にまで見てたんだぜ。
ホント、夢なんじゃねぇの? 今から運を使い果たして、明日交通事故で死ぬんじゃねーかなオレ」
矢張は頑なにバスローブを押さえる冥の腕をさすり、唇を這わせた。
それはロックが解けるまでやさしく繰り返される。
「……大袈裟よ」
ゆるゆると力を抜くと、身体を覆うものがそっと剥がされた。

「やべぇ、綺麗すぎて……想像以上だった」
恥ずかしさで、まともに矢張の顔が見られない。
矢張は冥の上に馬乗りになり両脚で挟みながら、自分も羽織っていたバスローブを脱ぎ捨てた。
間近で見る男性の裸体に、冥は思わず目を閉じる。
閉じられた瞼から始まって、唇、首筋、二の腕。
全身に優しい口付けが落とされ、その後を暖かい掌の感触が追う。
「スタイルがいい」だとか「肌が綺麗」だとか、触れる箇所全てに褒め言葉がついてきた。

言葉と手のひらの温もりに少しほぐされたところで、胸元へ手が伸びてくる。
四本の指がふくらみを揉みしだき、残った親指の腹で頂を擦られた。
「……!」
脳の一番脆いところに刺激が走る。
ひた隠しにしていた官能の芽が少しずつ晒され、必死に抑えようとする理性と対立する。
手だけだった胸への愛撫に、唇が加えられた。
「んっ……」
擦られて敏感になっている部分を舌で転がされ、そこは急速に硬くなっていく。
「あっ……ん」
吐き出す息とともに、とうとう喉の奥から声が漏れた。
自分の声なのに酷く淫らに感じて、羞恥心でかき乱される。

胸から離れた唇は首筋を這って耳朶を捉えた。
「ふ……あっ」
甘く噛まれ、身体がびくんと震える。 
「あぁっ……んっ」
こんなのが自分の声だなんて信じられなかった。
恥ずかしくて気が狂いそうなのに、耳朶への刺激は止まらない。
「やぁっ……だ、駄目っ」
冥は覆い被さる矢張の身体を、両手でブロックした。 
「冥ちゃん、ここ弱いだろ。バルコニーで抱き締めたとき気付いちゃった」
矢張は冥の両手首を強引に掴み、頭の上で拘束した。

「やっ……あっ、嫌っ」
今までは冥のペースに合わせてくれていたのに、急に強引に攻められて、戸惑った。
戸惑いながらも、抗えない快感に身体が反応する。
意識が飛びそうだった。
「っ……ああっ!」

さんざん攻められた後、弱点を開放された。
しかし冥の手首は矢張の片手で拘束されたままで、もう一方の手が内腿へ伸びてくる。
そこに触れられると、くちゅっといやらしい音がした。
「こんなに感じてくれてたんだ……」
証拠とともに事実を突きつけられて、言い逃れが出来ない。
恥ずかしくて顔を隠したかったが手首が拘束されていて、顔を反らすしかなかった。
「冥ちゃんにそんなに恥ずかしそうにされるとこっちがテレちゃうぜ」
矢張は冥の頬にちゅっとキスを落とすと、指を動かした。
「はっ……あっ」
形に沿って撫で上げられただけで痺れるような、眩暈のような感覚に襲われる。
それだけでどうにかなりそうだったのに、指は容赦なく内部に侵入してきた。
「あっ……やっ、やめ……て」
かき混ぜられるたびにくちゅくちゅと恥ずかしい音がする。
快感の波に何度も襲われて、抵抗したいのに身体に力が入らない。

拘束されていた手首が軽くなったと思ったら、そのまま太腿を抱え込まれた。
指が踊っていたその場所に、今度は温かい舌が差し入れられる。
「やっ、駄目! そんな……」
今までとは比べ物にならない強い衝動に駆られた。
羞恥心を気にかけている余裕が無くなり、あられもない声が漏れ出すのを防げない。
ときどきふわっと意識を攫われそうになる感覚に耐えるのが精一杯だった。 

気が付くと、瞳から涙が溢れていた。
「……泣くほど嫌だった?」
矢張は困ったような顔をしながら、冥の涙を拭う。
「好きだぜ冥ちゃん。だからオレの手で気持ち良くしたい」
素直にそう言われて、責めるわけにはいかなかった。

この男は何を考えてるかすぐ顔に出るし、それを隠そうともしない馬鹿だ。
でも、逆に言えば彼の言うことは彼の心の全てであり、間違いなく真実だった。

「もしかして痛かったとか? ごめんな!」 
かぶりを振る。
「……気持ち良かった」
なんとかそれだけ言って、矢張の胸に顔を埋めた。


もう待ちきれない、そうとでも言うように、一気に挿し貫かれた。
浮き上がる腰を押さえつけられ、最深部を激しく突かれる。
二人分の激しい息遣いと、結合部から聞こえる淫らな音が、かじりついていた理性を吹き飛ばす。
「気持ちいい」「もっとして欲しい」そんな淫猥な言葉が引き出されても、もう抑えようとは思わなかった。

唇を貪り、脚を絡めながら繋がり、快感を求め合う。
前から後ろから、感じるところは全て攻め落とされて、意識を遠くに運ばれる。

冥はその晩、何度も何度もイかされ続けた。

***********************

翌朝、早々に冥はホテルを後にした。
アメリカで次の裁判が待っている。
フロントでチェックアウトの手続きをしている時、丁度通りかかった御剣に声を掛けられた。
空港まで車を出すという御剣の厚意をありがたく受ける。

「昨日は途中から姿が見えなかったが早々に部屋に戻ったのか?」
空港内で、荷物を持ってくれている御剣にそう聞かれた。
「ええ」
「矢張が来ていたのは知っていたか。会場内にいたはずだが」
「そうだったの……」
言葉を濁した。

御剣が大きな荷物を預ける手続きをしてきてくれると言うので、ベンチに座って待つ。
朝、部屋に一人残してきた男のことを考えた。
早朝にベッドから抜け出した冥は、ぐっすり眠っている矢張を起こすことなく部屋を出た。
そのままチェックアウトしたので、一言も話していない。
部屋を出る際、連絡先を残してくる気は毛頭なかった。
自分から「連絡して」とお願いしているようで癪に障るから。
しかし思いなおして、冥は自分のメールアドレスを大きく書き記した。
油性マジックで、眠っている矢張の背中に。
(――バカみたいな顔して寝てたけど、あの男、気付くかしら)

その時、鞄の中で携帯電話が鳴った。
電話を取り出すと、メールが一通届いている。
目が痛くなるような背景に、ハートマークやら何やらで飾りたてられた蠢く文字の羅列……。

「メールか?」
不意に声を掛けられ顔を上げると、手ぶらの御剣が立っていた。
「……トノサマンからよ」
「トノサマン?」
冥は携帯電話を小さな鞄にしまいこみ、ベンチから立ち上がった。
搭乗を促すアナウンスが聞こえる。

「ありがとう、ここでいいわ」 
「そうか。気をつけてな」
「ええ」
歩き出そうとする冥を、御剣が止めて訊いた。
「なんだか雰囲気が違うように思うのだが……何かあったか?」
「雰囲気が違うってどういうことかしら」
「うム、そうだな。一言で言えば綺麗になった」
思いがけない言葉に、冥はぷっと吹き出した。
「あなた、野暮なのよ」
そのまま振り返らず、歩き出す。

飛行機が飛んでしまえばしばらく携帯電話が使えなくなる。
その前にメールで伝えなければならないことが二つあった。


その一。送られてきたメールが誤字脱字だらけで判読不明なこと。
その二。デコレーションメールのやり方を教えて欲しいこと。次に会うときに。

(終)

最終更新:2010年10月05日 20:47