書き込めるかな?
>>509の待っている人ではないが、投下させてもらいます。
4設定の御剣×茜
やさぐれ茜が嫌な人はスルーしてください。
近頃いいことがない。
じゃらじゃらしたアイドル検事の担当になることが多いからか、そのファンからやっかみを受けているらしい。
おまけにそのじゃらじゃら検事が裁判で負けた場合など、「初動捜査が杜撰だから」「新人弁護士に情報を横流ししたんじゃないの」などと非難を浴びる始末だ。
あたしが何をしたってのよ。
心中で毒づきながら、さくさくとかりんとうをかみ砕く毎日が続いている。
あー、雨が降りそう。
空を見上げて茜は憂鬱になった。すぐそこで強盗殺人が起こったらしく、現場へ向かわなきゃいけないのに、折り畳み傘を置いてきてしまった。
「ついてないなあ。一度戻んなきゃ」
こんな小さなことでも手はショルダーバッグの中のかりんとうに伸びる。
ストレスたまってるのかな、あたし。かりんとうを齧りながら愚痴るという芸当をしながら、茜は署内に引き返した。
小走りに階段を駆け上がったところで思わず足踏みをする。赤いスーツが、目に入った。
「そういうアレゆえ、手間をかけるが」とかなんとか、茜の直属の上司、課長と喋っているのが聞こえる。
主席検事となっている御剣怜侍は当然ながら、検事局のお偉いさん。
こんな風にわざわざ現場担当のところへ顔を出すような人間ではない。よって茜も顔を見るのは久しぶりだ。
今日はどうしたんだろうと茜が思っていると、課長と話していた御剣がこちらに気づいた。
「宝月刑事」
「お久しぶりです、御剣検事!あの、急ぎますので、あたしはこれで」
「ああそうだ、宝月君」
敬礼して前を通り過ぎようとした茜を、なぜか課長があわてて呼び止める。
「例の強盗殺人なら君は行かなくていいから。担当を外れてもらう」
「ええっ!?」
「次の現場は追って指示するから、とりあえず待機しておいて。えーとほら、調書のファイリングも溜まってるし」
「……では課長、よろしく頼む」
呆然とする茜を残して課長も御剣もどこかへ立ち去ってしまった。
現場を、外された。
一気に重くなった足取りで刑事課へ向かうが、部屋はがらんとして誰もいない。
鼻の奥がつんと痛くなった。あたし以外、みんな働いてる。
そりゃあ別に好きでやってる仕事じゃないけど。文句言いながらだったけど。そんなにあたし、ダメかな。
初動捜査と現場保存をしながら、こっそり科学捜査してたんだけどな。
「宝月刑事」
「きゃああっ!!……え?あ、御剣刑事」
「……驚きすぎだ」
「スミマセン。てっきり帰られたものだと」
心臓が止まるかと思った。御剣はいつの間に戻ってきたのだろう。
「ちょうど君と話をしなければと思っていたのだよ」
「あたしと、ですか?」
「時間はあるだろう。ついて来たまえ」
たった今現場をはずされた手ぶらの身だ。断ることもできず後をついていくしかない。
泣きそうだった涙は引っ込んだけれど、泣き損ねたことで消化できない鬱屈が大きくなるのを自分でも感じる。
おまけにダメなところを御剣に見られたのも追い打ちだ。
久しぶりに会ったのがよりによって現場を外されたところだなんて、恰好が悪すぎる。
連れてこられたのは御剣の執務室だった。
「どうぞ。入りたまえ」
失礼しますと蚊の鳴くような声で呟くと、茜は室内に足を踏み入れた。
ここに入るのはこれが二度目だ。一度目は刑事課への配属が決まってすぐ、報告と挨拶に訪れたとき。
科学捜査官になれなかったのはショックだったけれど、いずれ異動もあるだろうと、望みを捨てていなかった頃。
『茜さん。いや、宝月刑事』
ずっと敬語だった御剣の言葉遣いが変わった。刑事と検事、厳しい上下関係の中とはいえ、身内と認められたように。
『私は知人だからといって特別扱いはしない。だが君の努力や信念には大いに期待させてもらおう』
胸を張って御剣と向かい合えたあの時とは違う。
今の自分は、その期待に応えられている自信がない。
カーテンの引かれる音で茜は我に返った。
雨がますます近くなっているのだろう。カーテン越しにも空は嫌な色をしている。
窓から離れた御剣が茜の元へ戻ってくる。睨みつけられているわけでもないのだろうが、顔が険しい。
早くここから出ていきたい。息苦しさに負けて茜は御剣に尋ねた。
「あの、あたしに話ってなんでしょう」
「うむ。君の職務に関することだ。そう……先ほど課長に、君を現場から外すように言ったのは、私だ」
「御剣検事、が……?」
「無論それには理由がある」
目の前が真っ暗になるって表現は本当だったんだ。そう思うくらい、この何年かで一番のショックかもしれなかった。
直属どころか上の上からお達しがあるくらい、何か問題視されることをしてしまったんだろう。
「そっか……あたし、そんなにダメなんですね。そこまでのこと、しちゃいましたか」
「宝月刑事?」
「でもあたし、科学捜査で弁護士に協力した形になったこと、後悔はしてません」
「……君は何か誤解をしているようだ。理由があると、私は言ったはずだが?」
御剣が理由を説明しようとしているが、茜には自分を慰めようとしているとしか思えなかった。
「あた……あたしのことなんて、どうでもいいじゃないですか」
「む?」
泣きそう。違う、もう泣いている?子供みたいに自分の理屈ばかり並べ立てて、言い訳ばかりして、好きな人の前でボロボロだ。
「あれだけみんなに応援されても、留学しても、試験一つ通らない女なんて。ずっと科学捜査官になりたかったのに、結局なれなくて」
ショルダーバッグは置いてきてしまった。気を紛らわせるためのかりんとうがない。
無意識に白衣をまさぐった手が冷たいものに触れる。
指紋検出に使うアルミパウダーのビン。大事な科学捜査の道具。
それをとっさに投げ捨てそうになった自分に驚く。
御剣にもそれは伝わったのだろう。いっそ冷笑の域とさえ言える眼差しで茜を射抜いた。
「それで?君は逃げるというのかね」
御剣に腕をつかまれ、痛みに思わず顔をしかめる。
真正面からその険しい顔を見据えるだけの信念などもう茜には残っていない。
目を伏せた茜には見えなかったが、一瞬御剣は痛みを堪えるような表情を浮かべると、強く茜を引き寄せ抱きしめた。
「…………あ、の」
「私も経験したからこそ言おう。逃げても構わない」
驚きのあまり硬直した茜の肩口に顔をうずめ、御剣は低くうめくように言った。
「だが君はわかっているはずだ。アメリカで科学捜査官の試験を受けることもできた。それでも君が日本で刑事になることを選んだのはなぜか」
突き刺さる正論が痛い。抱きしめられている背中が痛い。耳をふさぎたくても動けない。
けれど裏腹に御剣の腕の中は心地よかった。張りつめていたものがゆっくりと溶け出していく気がする。
「あた、し……」
御剣の力が緩んだ。
少し身体を離し、茜を見つめる目には自嘲的な色が浮かんでいる。
「こんな正論を言うのは簡単だ。だが正論も慰めも、今の君を追いつめるだけだろう」
「それなら」
突き刺されたのは茜のはずだ。なのになぜか御剣の方がそんな顔をするのか。
それを見ているとぐちゃぐちゃだった頭が一気に冷えて、なのに、凍りついたように何も考えられなかった。
「言葉以外で慰めてください」
このまま抱きしめていてほしい、と。
茜をソファに倒し、御剣は覆いかぶさるようにその両側に手をつく。
暗さが増していく部屋で茜はじっと御剣を見上げていた。互いに無言。
ますますヒビが深くなっている。なんでこんなことに……とか思っているのだろう。軽蔑されている可能性だってある。
「御剣検事、さん?」
カーテン越しの稲光が一瞬その気難しい顔を鮮やかに照らす。いつ雨が降り出したのかもわからなった。
御剣はちらりと窓の方を見やった。
「雷は、今でも?」
茜のトラウマを覚えて、気遣ってくれることに驚いた。
冷静そうに見えたとおり、本当に冷静だ。こんな状況に流されているのは自分だけなのだろう。
「今でも怖いし、キライです。でも……今は、御剣検事の方が怖い」
「……どういう意味だろうか」
僅かな沈黙を挟んで、御剣は静かに茜に口付けた。
一度唇を離し――それが「始まり」の合図だったのだろう。
躊躇いを捨てたかのように御剣が再び唇を重ね、少しずつ深くなる行為に茜は緩く目を閉じる。
ファーストキスもそうだし、憧れの御剣とこういうことになるだなんて、昨日どころか一時間前の自分ですら思わなかった。
だから、怖い。
あたしは自棄でこんなことができる女だと思われるのも、これくらいのストレスで自棄になってると思われるのも。
何より、これまで我慢してたことが全部崩れてしまいそうだ。全力で寄りかかってしまいそうになる。
目を泳がせると、さっき脱ぎ捨てた白衣が目に留まる。これだけは皺になったら嫌だからと、自分でソファの背もたれにかけた。
こんな状況でも「これだけは」って思ったのは、やっぱり譲れないから、なんだろうか。
見ていると泣きそうになって、茜は手を伸ばして白衣を掴んだ。
『これで大体の手筈は整ったか。あとは早急にテストの実施に移らねばならないな』
『あー……そういや僕、まだ茜ちゃんに話してなかったんだ』
『む?彼女を推薦したのは貴様だろう。まだ話をつけてなかったのか』
『裁判員の調整に意外と時間くっちゃってさ。彼女はアメリカ帰りで陪審員制度にも詳しいから後回しでも間に合うかなって。悪いけど御剣、これから頼めないか』
『なに?』
『刑事課に話を通して彼女を空けてもらうのはお前の担当だっただろう。ついでに本人にも話せば話が早い。それとも彼女に会いたくない理由でもあるのかい』
『……貴様、何を企んでいる』
『別に。この件で彼女が立ち直ればと思うだけだよ』
君が僕を引っ張り出したようにね。そう成歩堂は続けた。
成歩堂の思わせぶりな口調は今に始まったことではないが、今日ほどわざとらしいのは初めてだ。
何のカードを握っているのか、彼女への説明を怠ったことは故意のように感じられてならない。
そして彼女と二人きりになった途端、これだ。
なぜ彼女とこんなことになっているのだろう。唇を重ねながら、確かに御剣はそう思っていた。
それ以前に、思わず彼女を抱きしめてしまった自分にも苛立ちと疾しさが積もるばかりだ。
『私は知人だからといって特別扱いはしない』
そう言った手前積極的に関わることはしなかったが、茜のことは気にかけていた。
かつての上司の妹だからではない。何度か彼女の科学捜査に助けられ、明るさに励まされたときから。
いつの頃からか、一人異国に留学する心細さを思いやるようになっていた。
彼女が夢を叶え、科学捜査官として戻ってくるのを、御剣とて待っていたのだ。
白衣が床に落ちた。
ボタンを外し露わになった肌は薄暗い部屋でも白く浮き上がる。
柔らかな膨らみに手を這わせると、小さく戦慄きが伝わってくる。
先ほどのキスもどこかぎこちなかった。単なる緊張なのかはたまた。茜の様子から御剣にある疑念が湧き起こる。
「君は初めてなのか」
ぎくりとしたように茜が身じろぎをした。御剣が身体を起こそうとするのをとっさに引き留める。
「……そうだ、って言ったらやめちゃうんですか?」
「質問に質問で返すのはやめたまえ」
「う~。ハジメテ、です」
気づかないフリするのが優しさだと思いますけど、と茜は口を尖らせる。
その言葉も仕草も、御剣の脳裏から疚しさを吹き飛ばすには十分すぎた。それだけの覚悟があるというのならば。もうどうにでもなってしまえ。
「……それは、失礼した」
腕に絡まる指を一本ずつ外し、御剣は茜を再び組み敷いて、言葉を奪うように口づけた。
口腔を蹂躙する御剣を茜は受け止めるのが精一杯といった様子で。
「ぅ、ふ……っく……ぁ」
息を荒げる茜の首筋をきつく吸い上げながら御剣は囁いた。
「今更やめられると思わないことだな。君が煽ったのだ」
滑らかな肌はどれだけ触れても飽きそうにない。
手で触れ、舌で刺激するうちに少しずつ茜の緊張が解けてきたのか、吐息交じりの声が上がり始める。
もっと声を聞きたいと御剣も半ば愛撫に夢中になっていた。
服の上から下半身を撫ぜ、腰のベルトを外そうと手をかけると、茜は少し我に返ったようで不安そうに御剣を見つめてくる。
「あ、の……」
「すまないが腰を浮かせてくれないだろうか。脱がせられない」
淡々としている(ように見える)御剣を茜はどう思ったのだろうか。切なげに瞳を揺らせると御剣の首に抱きつき、自ら唇を重ねる。
浮いたその腰からすべてを取り去り、御剣は茜の中心に触れた。十分とは言えないが潤んでいる。
「ひ…、っ……あ、や……」
とっさに茜は脚を閉じようとするが、片膝を割り入れて防ぎ、「やだ」か「やめて」のどちらかを言いかける口をふさいだ。
どちらにせよ、聞いたところで同じことだ。やめることなどできない。
花芯に触れ、秘所に指を差し入れる度に跳ねる腰。甘い嬌声が耳を打つ。
茜の媚態に御剣も余裕がなくなってくるのを感じた。
固くなった自身を取り出すと、本能的に逃げようとする茜の腰を捉える。彼女が欲しくてたまらない。
「く……あかね、くん」
やはり苦痛なのだろう。身体を強張らせる茜の中はきつい。涙を浮かべている茜の髪を指で梳かすと、彼女は眼を開いた。
何か言いたげな茜の口元に耳を寄せると、御剣の頭を抱きしめて茜はうわ言のように囁く。
「いいんです。忘れたいって言ったの、あたし、だから……っ」
「……………………」
「優しく、しないで、ください」
その言葉に甘えたわけではないが、御剣は茜の中で少しずつ動き始める。
茜が望んだとおり、何も考えられなくなればいい。
日本で警官になる道を選んだのは、異動で科学捜査官になれる可能性がまだ残されているからだ。
彼女はただ科学捜査官になれればいいのではない。大切な人がいる日本で、皆の役に立ちたいのだ。
けれど自分に期待する人たちには今の鬱屈した状況を打ち明けられない。
弁護士バッジを剥奪された成歩堂に、罪により検事ではなくなってしまった姉に、まだ可能性がある人間の泣き言など聞かせられるはずがないのだから。
一人立ち尽くす彼女は、御剣に昔の自分を思い起こさせた。
目指した道が身内の罪によって揺らぎ、それでもこの道を歩みたいのだと、自分の持つ信念を何度も確かめなければならなかったこと。
そうして立て直した心が折れてしまうほど今が辛いのならば、逃げても構わない。彼女は戻ってくると信じている。
君が落ち着くまで抱きしめたい。
私が、君のそばにいよう。
考えているだけのつもりだったのに、気づけば御剣こそうわ言のように口に出していた。
だが、初めての痛みと刺激に翻弄される茜には聞こえていないのかもしれない。
時折差し込む稲光も、それより怖いといった御剣も。
やがて茜は一際大きく声を上げ、御剣の腕の中に力なく落ちた。
10月9日 某時刻
御剣は別室で関係者とモニターを眺めていた。
成歩堂の悪運の強さには感服せざるをえない。
最初は別の事件を選んでいたところに、土壇場でこの事件が起き、どう転ぶかわからぬまま成歩堂はテスト内容の変更に踏み切った。
その結果はどうだ。七年の雌伏を経て悪夢から蘇えろうとしているではないか。
成歩堂だけではない。この事件に関わった者は大なり小なり何かを得て、取り戻して大きく変わろうとしている。
その渦の中に彼女――宝月茜も含まれていると、御剣は信じていた。
以上です。
5が出て、新しい設定が増える前にと焦って書いてしまった。
自分も全裸で待機組に戻ります。