神乃木×千尋①

2012年 2月16日 某時刻
  星影弁護士事務所

 私の最初の法廷が終わった。
 依頼人・尾並田美散の自殺という、余りにも悲しい結末で‥‥。
 諸々の手続きや検察との長い協議を終え、私は事務所に戻ってきた。
 星影先生とは現場で別れ、本格的な事後処理は明日からだ。
 日が変わりかけた街のネオンはやや大人しめに光り、窓には私の
青白い顔が映っている。
 部屋の中に視線を戻せば、鞄と一緒に今日の資料が投げ出されている。
 資料の合間から、私を見つめているものがある。
 尾並田さんの瞳。彼の写真だ。
 私が‥‥私がもっと上手くやっていれば‥‥!!

 と、私の頬を暖かい指がそっと撫ぜた。
「しけたツラは似合わないぜ、コネコちゃん」
 見上げると、神乃木さんがコーヒーを差出し笑っている。
 ‥‥‥‥こんな夜中でもやっぱりコーヒーなのね‥
「今日の悔しさを、一緒に飲みこむのさ。骨まで染みる苦さと、
 髪の先まで燃え上がる熱さをな。そうすりゃ、一生忘れねぇ‥。
 呑み込んだモンを、いつか必ず奴に返せる‥。」
 マグカップを受け取り、一口飲む。‥‥が、
「ぶっ‥‥‥‥ぐぶるほほほおおおおおォォォッ!」
「フッ。どうだ?」
「な、なんですかコレ!!」
「オリジナルブレンド01号‥‥苦味は骨髄まで、熱さは脳天まで‥‥よ」
「い、異議あり!何をどうすればこんな味になるんですか!?」
「これが、敗北の味だ。この味を何回味わい、何回呑みほし、
 何回噴出すかで、男の器量ってモンが変わるのさ」
 そう言って、彼は鬼のように不味いコーヒー、いや、既にコーヒーと
呼ぶには値しない、豆の煮汁をとことん濃縮しブードゥーの呪いを封じ
込めたかのような液体を飲み干した。
 うっ、うううう‥‥‥‥。
 勢い、私も飲み干す。そしてやはり‥‥
「ぐぶるほほほおおおおおォォォッ!!!!!!!!!」
 神乃木さんは、明るい笑い声をたてて、むせかえる私の背中を叩く。
「ははは、コネコちゃんにはカフェーのモカの方が良かったかな?」
「‥‥い、いぃえ!! おかわりをお願いします!」
 神乃木さんは、笑ってコーヒーサーバーからオリジナルブレンド01号を
注ぐ。
 ‥‥‥‥うっ、まだ残っていたなんて‥っ!
 ハッタリが窮地を呼んだ。なみなみと注がれたオリジナルブレンド01号。
彼は、意地悪な笑みを浮かべている。
 くっ‥ここで負けちゃ駄目よ千尋!
 私は勢い良く立ち上がり、仁王立ちで恐るべき液体を飲み干した。
喉は苦味と灼熱でこの世の地獄。だが、体の隅々から、心の奥底から、
力が湧き上がる。私は空のカップを彼に突き出す。
「‥‥この味! 忘れません! 必ず彼女にも味合わせてやります!」
「それでこそチヒロだ」
 彼は、私の頭をくしゃっと撫でる。
 その掌の温かさ、私を見つめる瞳の温かさ。
立ち上ったばかりの力が、そこに行き場を求めている。

「‥‥どうした?」
 今日一日抑えていた感情が、そのはけ口を見つけ、心の鍵を叩いている。
「‥‥‥‥どうした? チヒロ‥」
 彼の指が、私の頬を撫で、今にも爆発しそうに震える瞼を抑える。
「‥‥無理するな、チヒロ」
「‥‥『泣くのは全てを終えた時だけ』って‥‥」
「ん?」
「あなたが言ったじゃないですか。『オトコが泣いていいのは
 全てを終えた時だけだぜ』って‥。ほら、メモにもあります。」
「くっ‥。新米はペンを走らせる‥だが、その本質は掴めずじまい、か」
「なんですかそれ!!」
 私は彼を突き飛ばし、背を向ける。
「ちょっと感動して、座右の銘にしようと思ってメモして、信じて、
 実践しようと思っていたのに‥嘘だったんですか!?」
「あれはオレの哲学だ。お前はオレじゃねぇし、男でもねぇ」
「わ、私は法廷に立つ以上、男性と同じ気合と責任を有するべきであって、
 先輩がそうするなら私も‥‥」
 私の体を、ふわりと彼の逞しい腕が包む。
「違うな」
 耳元で囁かれる。
「お前は女だ。‥‥オレの大事な女だ。
 オレのチヒロが泣いていいのは‥‥‥‥オレの胸の中だけだぜ」
 その言葉で、私の頭は爆発した。
 私は彼にしがみついて、泣いた。
 生まれて初めて、大声をあげて泣いた。
 尾並田さんを救えなかったこと、美柳ちなみの罪を立証できなかったこと、
 D16号事件の弁護士すら出来た、疑惑の無罪ひとつ勝ち取れなかったこと‥。
 そして今ここに、私のすぐそばに彼がいてくれることに、泣いた。
 彼は、私を強く抱き締めてくれた。
 彼の唇が、私の涙を掬い取ってくれた。
 私の口唇は、あさましくも彼の口唇を求め、彼は与えてくれた。
 激しいキスの合間に、私は恋人の名前を呼び続けた。

「ん‥‥んふっ‥はぁ‥はぁ‥‥‥‥」
 千尋は貪欲に神乃木の舌を求めた。互いに体を押しつけ合い、熱さを伝え合う。
 じゅぶっ‥‥じゅるっ‥‥
 唾液の交じり合う音が、人気の無いオフィスに響く。
 千尋はいつのまにか、ストッキングに包まれた肉感的な脚を
片方上げて、神乃木の腰に絡みつけていた。
 神乃木の体はゆっくりと、唇を繋げたまま密着した千尋を
後方のデスクに押し倒した。
(くっ‥‥ジャマだぜアンタ)
 千尋の体を置く前に、神乃木はデスクに散らばった今日の資料を叩き落した。
尾波田の写真は、音も無く視界から消え去った。
 がたんっ‥‥‥‥!
 千尋の体がデスクに押し倒される。少し離れた神乃木を求め
両腕は宙に投げ出し、両脚を立ったままの男の腰に絡みつける。
「リュウさん‥‥お願い‥‥」
「お願い‥‥? 何をだ?」
 涙と唾液で濡れた顔を両手で包み、ついばむようにキスをした。
千尋はもっと神乃木を引き寄せようとするが、男はその力を
こらえ、唇と掌だけを彼女に与えた。
「あ‥‥‥あん‥‥お願い‥‥」
 千尋は脚の力を強め、自分の腰を押しつけた。神乃木の男根は
すでに準備完了し、服の上からもはっきりと情熱を伝えてくる。
腰を動かしひと擦りするごとに、千尋の股間は自分でも恥ずかしく
なるほどに、自然と潤んでいった。神乃木にも、千尋の変化は
伝わって行く。服ごしに、女の潤いが敏感な器官を刺激する。
 男は右手でストッキングを引き裂き太腿を上下に撫でた。女の
肌は汗で湿り、男の指までも離さぬかのように吸いついてくる。
「あんっ‥‥!!」
「どうした‥? こういうお願いじゃなかったのか‥?」
「あっ‥ちがっ‥‥」
「やめてほしいのか?」
「いやっ‥! やめないで‥‥でも‥‥あんっ‥お願い‥」
「何をお願いしてるんだ‥? 言ってみな。聞いてやるぜ‥」
 神乃木の我慢も限度がある。しかし、普段のSEXでは恥じらいがちで
自分から股を開くことなど無い恋人が、自分から腰を押し付け
ねだってきているのだ。服を脱ぎ執拗に愛撫する前から秘所を濡らし、
半開きの口で自分を求めている。こんな面があったのかと驚くほどだ。
(もっといやらしくなれ‥。引き出してやるぜコネコちゃん‥‥)
 しかし、千尋の反撃はあまりに強固だった。

 千尋はきっと唇をかみ締め、自分のブラウスを引き裂いた。ブラジャーを
ぐっと下に引っ張り強引に弾き飛ばすと、たわわな白い乳がぽろりとこぼれた。
ピンクの乳頭はぴんと天を仰ぎ、神乃木を誘うかのように呼吸とともに揺れている。
「‥‥して‥。お願い‥‥‥‥めちゃくちゃにしてぇぇ!!!!」
 神乃木のお楽しみ計画は一瞬にしてふっとんだ。
「う‥うおおおおお!!!!」
 神乃木は千尋にのしかかり、乳の谷間に顔をうずめた。
「あっ、あぁぁん!!!!」
 唇、舌、そして神乃木の髭が千尋の乳を攻撃する。
「あっ、はぁ、んっ、あくっ、ううぅぅん!!!」
 神乃木が乳の先端にしゃぶりつくと、千尋はびくんと体を振るわせた。
しゃぶりついたまま、舌で転がすと、彼女は男の頭を抱き締め喘いだ。
男はそのままの姿勢で女の腰に手をかけ、残ったストッキングと下着を
引き剥がした。そして、望みのものが手に入るとわかった女が両足の
緊縛を緩めると、あわただしくベルトを抜き取り、己の剛直をさらけ出す。
「リュッ‥‥‥‥はぐぅぅぅぅっ!!」
 言葉もかけず、秘所に触れることもせず、神乃木は一気に男根を突き立てた。
腰の摺り寄せで潤んでいたとはいえ、神乃木の巨根を受け入れるには準備不足だった。

「うぐっ! あぅ‥‥い‥‥ひぃっ、あっ、んんんっ!!」
 男は千尋の苦痛に構わず、乱暴に腰を動かした。みっしりと絡みつく
肉壁に、男の理性はもうひとかけらも残っていなかった。
「めちゃくちゃに‥‥してやるぜ!!」
 逃げようとする千尋の脚をつかみ上げ、M字に開きデスクに押しつける。
 ずぶっ‥‥ぐじゅっ‥‥ずぶっ‥‥ずぶっ‥‥
「あっ‥! ひぃっ‥‥! いぃぃぃぃっ!!!」
 千尋の手が男の肩を掴んだ。そして、震える指で男の服をひっかける。
「んっ、んんんんん!!」
 ボタンが弾け、男の裸の胸が外気に晒される。女は狂ったように男の
衣類を剥ぎ取り、褐色の逞しい胸に手のひらを這わせた。
 体の奥に、脚に、掌に男の熱気が注がれる。
「とんだオイタするコネコちゃんだな‥‥」
 男はにやりと笑うと、首からぶらさがったネクタイを外した。そして、
男の熱を求めてさ迷う女の腕を、女の頭の上まで引き上げネクタイで縛る。
「あ‥‥あぁ‥‥」
「器物破損で有罪だぜ‥‥!」
 縛られた手首を抑えつけ、男は女の上半身の上に乗りかかった。
 体勢が変わり、男根は膣の腹側をこすり上げ、更にみっちりと
奥まで侵入した。男の腹で肉芽が押し潰され、厚い胸に豊かなバストが包まれる。
「あひぃっ‥‥!!」

 男の舌が女の顔を這い回る。耳たぶを吸い上げ、涙が止まらぬ頬をなめ上げ、唇を犯す。
 腕を縛り上げられた屈辱的な体勢ながら、いや、だからこそか、千尋の性感はかきたてられた。
体全体に彼の呼吸を感じ、 彼を受け入れるだけの存在。彼を求めるだけの存在意義に
千尋は溺れ、男の男根に熱い波をかぶせる。
 じゅぷっ‥‥じゅぷっ‥‥じゅぶっ‥‥じゅぷっ‥‥
「あっ、はぁっ、はくっ、んっ、んっ、んっ、んっ、ううんっ」
「くっ、ハァッ、ハアッ、ハァッ、うっ‥‥」
 二人の喘ぎ声と、水気を増した下半身の結合音だけが部屋に響く。

「んっ‥‥‥‥はぅぅぅぅぅっ!!!!!」
 先に達したのは女だった。千尋の壁がきゅうっと締まり、体から力が抜ける。
「どうした‥? 言わなきゃわかんねぇだろうがよ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
 男はピストン運動を緩めなかった。達したばかりの敏感な肉芽が、
内壁が、突き上げるペニスに攻めたてられ、千尋の体は何度も痙攣した。

「あぁぁぁぁぁ!!! い、いやぁぁぁぁっ!!!!」
「どうした? 何があった? 言ってみな、聞いてやるぜ!!!!」
「あうっ! はっ、はぁぁぁんっ! あっ、イッ、
 イッちゃった、イッちゃったのぉぉ!! あうっ! うっ、またっ‥‥!」
「またイッちゃったのか? 良かったじゃねぇか、ドンドンイキな!!」
「はぐぅぅぅぅっっっ!! うっ、あっ、い、イィィ!!」
「イイのか? どこがイイんだ? 言ってみな、聞いてや――」
「全部ぅっ! イイのぉ! ぜんぶっ、リュウさんのぜんぶぅぅっ!!!」
「あぁ、オレもサイコーだぜ!」
 男は太い両腕で女の体を抱き締めた。女は縛られた腕を男の背中に回し、
白い脚を絡みつける。最大限に密着した二人は、快楽の海にとろけきった。
 じゅぶっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ
 男の腰の動きが早くなる。早く、そして女の奥底までかき乱す。
「あっ! あっ! あっ! いっ! イィっ!」
「もう一度言ってみな! "お前の"どこがいいんだ!?」
「あっ、はぁっ! 全部‥! 全部‥!」
「どこが一番イイんだ? ここか?」
 子宮口を突き上げると、女の悲鳴は高まった。髪を振り乱し、男を強く抱き締める。
 男の絶頂は目の前まで来ていた。が、
「お‥‥‥‥奥の院がいぃっ! して! して! もっとしてぇ!!
 奥の院でしてぇっ!!!」
(おくのいん‥‥‥‥って何だぁ?)
 聞きなれない単語に、男は一瞬、快楽の海辺から戻った。せがまれることも
初めてだったが、今までの優しいSEXでは、淫靡な単語を無理に言わせなかった。
(‥‥珍しい表現だな‥‥‥‥)
 スピードの落ちたペニスを、女は強く締め上げた。
「うおぬっ!?」
「して‥。‥‥‥奥の院に、して‥‥‥。奥の院に‥ぶちまけてぇぇ!!!」
「う、うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 男は"奥の院"にぐっと押し入り、熱い情熱を吐き出した。

 ちゅっ‥‥ちゅっ‥‥ちゅっ‥‥
 二人は繋がったまま、軽いキスを交わしていた。
 女の顔はまだ涙で濡れていたが、ゆるんだ笑みを浮かべている。
「チィ‥‥」
「リュウさん‥‥‥‥」
 こんな時でないと恥ずかしくて呼べない名前で愛しい人を呼ぶ。
「あっ‥‥‥‥」
 男の硬度が徐々に蘇り、愛液と精液でたっぷりと濡れた女の肉路を
塞いでいった。
「あっ‥‥‥‥」 
  今日の裁判のことなど、二人の頭からはとうに消えうせていた。
 ただ、相手の熱気だけを貪り、新たに熱を発し、とめどもない永久機関と化していた。
 朝日が昇り、愛弟子の最初の泥仕合に労働意欲をかき立てられた星影所長が
定時前に出所してくるその時まで――――






2019年 2月9日 某時刻
 地方裁判所 第X法廷

ナルホド「異議あり!!!!!」
ゴドー「調子に乗ってるな…まるほどう
   だがアンタののってる調子は‥‥‥‥」

 葉桜院で起こった殺人事件の審議。
 あの人は検事として立ち、私の弟子が弁護をし、
 被告人は私の妹、被害者は母‥‥。
 死者の私は謎の美人弁護士補佐‥‥。

ナルホド「異議あり! 今の証言はこの証拠品と矛盾しています!!」

 ねぇなるほどくん。気付いている? 
 今日の彼は、一度もコーヒーを噴出していないの‥。
 彼はもう負けないのよ。
 彼の勝負は終わっているの。
 終わりを‥‥つきつけてあげて! 彼のために‥‥!




ゴドー「オトコが泣いていいのは‥‥
    すべてを終えたときだけ、だぜ。」



2016年 某月 某日 某時刻
 XX刑務所面会室

 私は今、ガラス越しに彼と向き合っている。
 検事と弁護士補佐ではなく、一人の男と女として。
「‥‥‥‥オイ」
 刑務所暮らしで今まで以上に性格が楽しくなったのだろうか、
彼の声は少しくぐもった。
「その、前から言おうと思っていたが‥‥‥‥」
 彼の指が私を指して揺れる。あぁ、そうか。今の私は春美ちゃんに
霊媒してもらっている身だ。髪型も髪の色も違う。特に、乙姫様のような
髪型は、子供がやれば可愛らしいかもしれないが、私くらいの女が
やるとちょっと趣味に走りすぎかもしれない。
「あぁ、この髪? はみちゃん、この髪型作るのに時間かかるらしいの。
 毎朝一時間くらいかけているから、壊すの可愛そうで‥‥。
 でも、私だってこと、わかってくれるでしょう?」
 彼は、フェイスガード越しに頭を抱えてしまった。
 ‥‥そんなにおかしいかしら? ‥ま、まさか、若作りしすぎ!?
「いや、それはどうでもいいが‥‥その、だな‥‥」
 調子が出ないみたいね。そこで‥‥‥‥

  く ら え !!

「はい、差し入れのコーヒー」
 例のカフェーからテイクアウトしてきたモカ・マタリに、彼の表情が
和らぐ。指し入れ口からカップを入れると、彼はまず嬉しそうに匂いを
堪能し、ゆっくりとコーヒーを味わった。
「ふぅ‥‥これが無くっちゃ落ちつかねぇ」
「毎日は無理だけど、また持ってくるわ。それで、さっきの話は?」
「‥‥男が表に出ると7人の敵に出会う‥」
 始まったわね。
「だが、女が表に出ると、必ず一人の詐欺師に出会う。
 イイ女が表に出ると、7人のナンパ師に出会う!
 そして格別イイ女のお前がそんな格好をしていれば、
 70人のナンパ男と777人のブルービデオのオジサンが寄ってくるぜ!!!」
「あら、そんなの蹴散らせないほどヤワじゃないわよ?」
「フッ‥だが、オレの極上のコネコちゃんに舌なめずりする奴は
 一人残らず去勢してやるぜ。そんな身勝手な男なのさ、オレは‥‥‥」
「もう‥‥リュウさんたら‥‥危ない人ね」
「チィ‥‥。お前の魅力がそうさせるんだぜ。
 オレは今も昔もお前に首ったけなのさ」

どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!

「な、なんだぁ?」
「いいの、気にしないで。それよりリュウさん‥‥」
 面会室の前で待たせていたなるほどくん達かしら。何かにけつまづいた
らしいわ。いいムードの時に邪魔してくれるわね。
 ようやく恋人同士として再会したお熱い二人の逢瀬なのに。

「チィ‥‥‥‥」
 恋人同士の秘め事の時だけの呼び方で彼が私の名前を呼び、ガラスに手を当てる。
 私も手を差し伸べ、冷たいガラス越しに彼のぬくもりを求める。
 ガラス越しに額を合わせ見詰め合う。
「リュウさん‥‥‥‥リュウさん‥‥‥‥っ」
 7年間、行き場を失っていた涙が溢れる。
 恋人を失った悲しみ、綾里の宿業、綾里が犯した罪。
 自分の死にすらこぼれなかった涙が、
 7年間隠されてきた涙が、滝のように溢れてくる。
「チィ‥‥‥‥すまなかった‥」
「‥違うの、違うのよリュウさん。私‥‥‥‥‥私‥‥
 あなたのそばにいることが、とても、嬉しいの‥‥‥‥」

 だって、女が泣いていいのは、恋人の腕の中だけだから‥‥‥。


その頃のなるほど君@面会室前。

な、ななななななんだってぇぇーーーー!!
リュ、リュウさん&チィ!? く、首ったけぇぇ!?
「い、いたたたたた! いたいよなるほど君! なんでぶつの!!」
「はっ、ごめんよマヨイちゃん。なんか、なんというか‥‥
 他人の口から聞くと、こ、こんなにここまで
 気恥ずかしいセリフだったなんて‥‥!!」
「ふぅむ。なにか心ときめきますな」
「あんたなんでここにいるんですか裁判長!!!」





おまけ
 2016年 某月 某日 某時刻
  ??????
舞子『まず私がちなみを霊媒しますでしょう。何せ、ブランクがありますから
   抑えられなかったら‥‥』
ゴドー「その時はオレが抑えるさ。」
舞子『えぇ、お願いいたします。もし抑えられなかったら、私の命など
   構いません。どうとでも始末して下さい。葉桜院にはあやめさんもいますし、
   奥の院でしてしまうよりも、ダメな時はすぐに‥‥』
ゴドー「い、今なんと?」
舞子『は? ですから霊媒で押さえられない時はすぐに――』
ゴドー「い、いや、その前だ!」
舞子『奥 の 院 で し て  しまうより――』
ゴドー「奥の院でしてしまいましょう!!!!!」
舞子『えっ? で、でも、奥の院には娘が行くでしょうし――』
ゴドー『奥の院で娘がイクのは当たり前だろうよ!』
舞子『はっ? あ、あの、でも行くのが大変なんですよあそこは』
ゴドー「‥‥女の幸せの為に労力を惜しむ‥
    それはオレの流儀じゃねぇぜ奥さん!!」
舞子『あ、あの‥‥微妙に会話が成り立ってませんが‥‥?』

 数々のリスクを超え、奥の院にて犯行に及んだのはひとえに、
中枢神経をズタズタにやられた男の暗いリビドーの表われだったかもしれない――――
最終更新:2007年12月28日 00:07