神乃木×千尋③

二人は桜並木を歩く。
雑踏からはかなり離れてしまったようだが、まっすぐ雑踏とは正反対の方向へ歩いているので、迷うと言う事もあるまい。もしも迷子になったなら、それは運が悪かったと言う事だ。
「満天の空を背景にした桜、結構良いモンだな」
そう言って、神乃木はコーヒーカップを傾けた。そのままごきゅ、と飲む。
「神乃木さんは、何時もコーヒーなんですね。たまにはお酒も飲まないんですか?」
「酒は甘い夢を見せる物だからな。苦い現実を見せてくれるコーヒーが、俺には似合ってるのさ」
(自分で似合うと言いますか……)
千尋は内心突っ込んだ。
「だが、たまには酒も悪くねえ」
「まあ、そうですね。でも、飲んでないじゃないですか」
そう言った千尋に、神乃木はコーヒーカップの中身を飲ませる。
じん、と苦く甘い味がした。
いきなりの事に驚いたが、千尋は口内に入って来た液体を舌先で味わう。
ある程度味わってから、千尋はそれを飲み下した。
それから、神乃木の方を見る。
「こ…れ………お酒ですか!?」
「ああ。驚いたか?」
そりゃあ、驚きますよ。と千尋が答えた。
誰も考えないだろう。
コーヒーカップに酒を入れて飲んでいるなどと言う事は。
「俺だって、人並みには風流を楽しむさ。その場に合わせてな」
神乃木はコーヒーカップに入った酒を、ごきゅ、と何時もコーヒーを飲んでいるペースと変わらずに飲んだ。
「風流を楽しむ事一回につき、酒は17杯まで。それが俺のルールだぜ」
「急性アルコール中毒になっても知りませんよ」
苦笑して千尋が突っ込んだ時、神乃木のコーヒーカップに、桜の花びらが舞い降りた。
表面に、ふわりと降りた花びらは、微かに揺れた。
「クッ……桜の奴も粋な事をしてくれるぜ」
「え?」
「見ろよ。桜酒だ」
そう言って、神乃木は千尋にカップの中身を見せる。千尋は覗き込み、「うわ、凄いですねえ」と感動してその桜酒を千尋は見詰めていた。
しばらく神乃木は黙っていたが、やがて脳内に豆電球が現れ、それが光った。
つまり、神乃木は何かを『ひらめいた』のである。
「……千尋」
神乃木は千尋の名を呼んだ。千尋はその言葉に、顔を上げる。
千尋は神乃木の顔に浮かぶ、何か掴み取れない笑みに、嫌な予感を感じた。
笑ったまま、神乃木は千尋の肩を抱く。
「千尋は、風流を楽しみたいか?」
「………………………………………………へ?」
間の抜けた声を上げてしまう千尋。
風流を楽しみたい?
現にこうして楽しんでいるではないか。
「楽しみたいですけど……でも、もう楽しんでいるじゃないですか」
「いや、今よりもっと楽しめる事さ」
そう言ってから、神乃木はコーヒーカップを掲げた。
「桜酒にあやかるぜ」
「?」
掴み取れない神乃木の言葉に、千尋は首を傾げた。

神乃木は、千尋の事を急に桜の幹に押し付けた。
押し付けられてしまった千尋は、何が起こったのか、また何が起きるのか分からずに、目を白黒させた。
そのまま神乃木は千尋の服のジッパーを摘まむと、ゆっくりと下げた。
服で抑えられていた胸が、露わになる。
素早く神乃木は、千尋の胸を守っていた下着を持ち上げた。
「きゃっ!」
いきなり服を脱がされて、千尋は叫んだ。そして「何するんですか! いきなり!」と訴える。
そんな千尋をよそに、神乃木は千尋の両腕を取ると、そのまま胸の下で交差させ、持ち上げさせる。
千尋の胸は、寄せて上げられるような形になった。
形良く作られた胸の谷間が、神乃木の欲を刺激する。
だが、神乃木はそこをぐっとこらえ、谷間を作らせたまま、「そのままだぞ」と訳の分からない事を言った。
何が何やら良く分からないものの、神乃木にそう言われた千尋は「はい……」と素直に答えて、胸の谷間を作ったまま、じっと立ち尽くしていた。
その千尋の胸の谷間に向けて、神乃木がカップを傾けた。
作られた谷間に、カップの中身……酒がとろとろと流されて来る。
「んっ!」
いきなり冷たい液体を掛けられ、千尋は思わず甘い吐息を吐く。
だが、そうなっても谷間を作るのを止めないのは、愛の成せる技だろうか。
ある程度酒がそこに溜まると、神乃木はカップを傾けるのを止めた。
そこに丁度タイミング良く桜の花びらが舞い降り、まるで桜酒を添えている器のような役割になった。
(まさか……)
千尋は想像した。
容易に想像出来た。
と、言うか自然と想像出来た。
そして、それはすぐ起こった。
神乃木が、千尋の谷間にある酒を飲み始めたのだ。
何故か、舌まで使って。
「あっ……んんっ」
千尋の胸に触れられる神乃木の舌の感覚と、少しくすぐったい髭に刺激され、千尋は甘い声を上げる。
「ん、あふっ……神乃木、さん……………っ!」
じゅる、と音を立てて酒を飲み(舐め?)続ける神乃木に、千尋は甘い声で名を呼ぶ。
神乃木は顔を上げると、千尋の方を見た。
「荘龍、だ。こう言う時くらいは、名前で呼んでくれても、良いんじゃねえか? 千尋」
意地悪く笑う神乃木に、千尋の頬が紅潮した。
「……荘龍さん」
「よし、良い子だ」
千尋の言葉に納得すると、神乃木は再び酒を飲み始めた。とは言っても、もはや酒は飲み干され、肌に残った酒を、神乃木の舌で拭い取るだけなのだが。
「あ、ああんっ!」
その舌の暖かさに、千尋はあえぎ、身をよじらせる。
千尋のそんな反応を見て、神乃木は満足する。
「こう言う桜酒も、悪くねえ」
「ん、ふ……こ、これっ、桜酒なんて、言いませ……」
最後まで言う前に、神乃木は千尋の胸の先端に吸い付いた。
そのままぺろり、と舐めてやる。
「あ、ああっ……荘龍さんっ! う、くっ………」
舌ではあるものの、恋人からの甘い愛撫に、千尋はとろんとした目で神乃木の事を見詰めた。
そしてそれと相対するように激しくあえぎながら神乃木の名を呼び、身体を震わせる。
一方の神乃木も、千尋の溶けたような甘い声に、欲求が増大して行く。
神乃木は先程よりも強く胸の吸い付き、その先端に軽く歯を立てた。
びくり、と千尋の身体はまるで電流が流れたように震えた。
「んふああああっ!」
人の気配が無い、と言う事で何処かで安心しているのであろうか、千尋のあえぎ声は徐々に大きくなって行き、それが二人の事を高めて行く。
神乃木は片方の乳房を口に含みながら左手で(右手はカップを持っているので使えないのが残念だ)、千尋の服の白く細いベルトを外し、下ろしかけた服のジッパーに指を掛けた。
「あ……っ! 荘龍さ……」
千尋が何か抗議をしようとする声で、神乃木の名を呼び掛けたが神乃木はその手を止めようとは思わなかった。
そして、そのまま一気に下ろす。
千尋の身体を覆っていた服は、前部が開かれ、その隙間から千尋の白い肌が覗いた。
月の光に照らされ、千尋の素肌は神秘的ではあるけれど何処か妖艶な雰囲気をかもし出した。
千尋の胸元が、酒と神乃木の唾液の跡でてらてらと淡く輝いている。
神乃木は横目でそれを楽しみながら、左手をさらされた千尋の下着に指先を触れさせた。
ひくり、と千尋の身体が反応する。
「ふ、あ……荘龍さんっ……ふ、風流を、楽しむんじゃ、なかった……んですかっ……!?」
千尋は慌てて神乃木の行動を止めるべく、抗議の声を上げた。
「んむむむんむんむむ、んんんんむんむむんんむんむう、むんんうううむむんんむむんうう?」
「ひあっ……わ、分かりませんっ!」
口に千尋の乳房を含んだまま神乃木が喋ろうとして、千尋の胸に刺激を与える。千尋はそれに伴う快楽に思わず大きな声であえいでから、異議を唱えた。
神乃木はゆっくりと千尋の胸から口を離す。
つ、と千尋の胸の先端と神乃木の唇の端を、唾液が繋ぎ、そっと切れた。
「んな事言われても、千尋のそんな姿を見たら、最後まで楽しむしかないだろ?」
「なっ……………!」
その言葉があまりにも気楽な調子だったので、思わず千尋はなじろうとした言葉を忘れてしまう。
「これも一種の風流、だ」
そう言って、神乃木はカップの酒を又一口含む。
(そんなバカな!)
反論しようとした口は、神乃木の唇によって塞がれた。
神乃木の口から、千尋の口内に、神乃木の唾液混じりの酒が入って来る。
千尋は目を閉じてその『特別な酒』を飲み下した。
「~~~っ!」
受け入れてしまった後、千尋は慌てて唇を(半ば強引に)引き離し、そのまま神乃木の事を引き離そうとする。
だが、そうはさせないと言わんばかりに、神乃木は千尋の下着に触れている左手の指先を、千尋の太股の間に滑り込ませた。
肌が擦れる感覚が、下半身に広がった。
「あっ!」
千尋が足を閉じるよりも早く、神乃木の指先は千尋の下着の内、くぼんだ部分へと到達した。
下着越しに、神乃木は指を立ててその部分を刺激した。
「あっああんっ!」
その行為に到達するまでがあまりにも早く、千尋は声を抑えると言う心の準備も出来なかった。そのために、千尋の口からは淫猥な響きを持った声が出た。
神乃木の指先は、千尋の敏感な部分をショーツ越しに弄んだ。
強く、弱く、激しく、優しく……
その一定でない快楽の波に、その部分は徐々に湿り気を帯びて行く。
「んくっはあ…………荘龍さんっ! こ、こんな所……誰かに、見られたらっ……」
野外でするなど初めての事で、千尋は快楽と困惑の中で神乃木に訴える。神乃木はにやり、と笑ってから、千尋の耳元に口を近付けた。
「何の為に、わざわざ雑踏と正反対の方面に行ったと思ってるんだ?」
「え……」
下腹部の刺激と、そこから発生する快楽にあえぎながら、かろうじて千尋は神乃木の言葉に首を傾げる。
「それ、は……道に、迷わないため…………はうぅっ!」
千尋が答えかけた時、神乃木は左手を寄り激しく動かし、ショーツ越しにその入り口に指を突き立てた。巨大な快楽の波に、千尋は鳴く。
「ファイナルアンサー?」
「……んくっ、ふ………う?」
「ファイナルアンサーかどうか聞いてるんだよ」
「ちょっ……あふうっ! んんっ………それ、何時のネタですかっ………あひっ!」
訳の分からない事を神乃木は言いながらも、しっかり左手の指先は動かし続けている。その動きに翻弄され、千尋は快楽の躍りを躍らされる。
あえぎ声、と言う歌を歌いながら。
「ファ、ファイナルアンサーかどうか、って言っても……それしか、理由は無いじゃ………ああぅっ!」
神乃木は黙って指を動かし続ける。
快楽にあえぎ続ける千尋の脳裏には、何故かティンパニのトレモロが響いていた。
何故だ。
自分は混乱しているのだ、と千尋は勝手に結論付けた。
そこに、再び神乃木の指先の運動で、意識が引き戻される。
「ん、ひぃっ………あ、っくぅ………」
黙り続けている間に行われている指先の運動は、千尋の『女の部分』にかなりの刺激を与え続ける。
千尋の下着は湿り気を帯びているどころではなかった。神乃木が指を動かすたびに、もはや千尋のその部分はショーツ越しではあるものの、くちゅり、と歌っている。
「…………………」
黙り続ける神乃木の姿に、何処か雄々しい物を感じ、その雄々しい人物が自分の秘部を激しくいじっていると考えると、千尋はそのギャップの差に、淫奔な気分になる。
「ひうっ……そ、荘龍さぁんっ…こ、たえ……何なんで、すかっ! うくっんっ……」
身をよじらせ、半ば悲鳴の混じった千尋のあえぎ(訴え?)声に、神乃木はにんまりと笑った。
「……………残ッ念!」
「い、何時までそのネタ、続けてるんですかぁっ! は、ふう……っ!」
渾身の力を込めて、千尋は突っ込んだがそれを神乃木は、指先をより激しく動かす事で制する。
「クッ……俺が、ここまで来たのは……………こうした行為に及ぶに当たって、千尋が心おきなく鳴けるように場所を考えていたからだ」
「鳴くって言うより、泣く、なんですけどっ!」
「良いじゃねえか、どっちも同じだ」
「ち・が・い・ま・す!」
何とか千尋は自身のペースを取り戻し、神乃木に突っ込む。
「クッ……ご主人様に爪を立てるコネコちゃんには、しつけが必要だな」
いきなり逆切れ。
けれどそれを突っ込まず、千尋は神乃木の言葉に、思わずぎょっとした。
何故なら神乃木は千尋の事をいじめようと思うと、必ず千尋の事を「コネコちゃん」と、昔の口調で呼ぶからだ。

不敵に笑うと、神乃木は千尋の秘部から指を離すと、ショーツに指を引っ掻け、そのまま勢い良くショーツを膝下までずり下ろした。
後はショーツが勝手に地面までふわりと落ちる。
多量の水を含ませた跡を残して。
「んくぅっ!」
いきなり下腹部に外気が当たり、千尋は微かに声を漏らす。
そんな千尋の太股上部には、千尋が流した膣液が、べったりと付いていた。
勿論それは、神乃木の指先にも言える事。
「下着越しにいじっただけなのに、俺の指先にコネコちゃんの蜜が付いちまったぜ」
「!」
指先を千尋に見せながら言う神乃木の言葉に、千尋は赤面する。
千尋は神乃木の事を恨めしそうに見た。
正直、千尋は焦って何とかしようと思っていた。神乃木の『いじめ』は大した物であるのだから。
身をよじり、何とか神乃木の指から逃れようとする千尋の事を、神乃木は一旦コーヒーカップをしまい(何処にしまったのだろうか、千尋には良く見えなかった)、右手で千尋の両腕を木に押し付け、神乃木の身体自体が千尋の身体を木に押し付ける形になった。
そして、何にも守られていない千尋の『素』の部分に、神乃木は予告も無しに指を挿れた。
「んくっ、あああぁっ!」
その速さに、千尋は甘く、悲鳴の混じった声を上げた。

神乃木の骨ばった指が、千尋の内部を犯していく。
指が動くたびに、秘部は先程よりも大きな音で、神乃木の指のリズムに合わせてぐじゅ、くちゃっ、と鳴く。
その音が、千尋の耳に届き、千尋は赤面して首を横に振る。
「やっ……荘龍さんっ! 音、立てないで………あふっ、あぁ……」
「嫌だ」
千尋のあえぎ混じりの懇願に、神乃木はきっぱりと言い放った。
「言っただろ。しつけが必要だと。しつけは礼儀や作法などを教えて、再び起こる事が無いようにする事、だぜ」
そう言いながら、神乃木は先程よりもっと激しく指を出し入れし、わざとその時に発生する音をかなり響くようにした。千尋は耳を塞ごうと思ったが、あいにく千尋の両腕は神乃木の右腕に固定されていた。
「荘龍さんっ! あ、ふ……止め………」
「異議は認めねえ」
にやり、と神乃木は言葉を割り込むと、それ以上千尋に何かを言わせないために、自身の唇で千尋の唇を塞いだ。
そのまま、神乃木は千尋の歯をそっと舌で開かせ、温かな千尋の口内へと侵入して行く。
ねっとりとした互いの唾液が、神乃木の舌にまとわりつく。
「んっく、ふううぅ……」
一方の千尋は口内の侵入者に眉をしかめ、しにくい呼吸を何とかあえぎ混じりにしている。
神乃木の舌はそのまま千尋の舌を求め、執拗に千尋の口内を荒らしまくる。
恐らく、千尋の舌を絡み取る事くらい、容易に出来るだろう。
だがそれをあえてしないのは、やはり『しつけ』だからか。
耐え切れなくなった千尋は、自らの舌を動かし、神乃木の舌と触れた。
その瞬間、神乃木はもっと唇を押し付け、激しく千尋の舌を絡め取り、千尋の唾液を舐め上げた。
千尋の舌が、神乃木の舌に遊ばれ、自身に唾液をまとわせる。
「んむっ……ん、うううっ!」
頭の中が快楽に対する期待で満たされて行く。
千尋は目を閉じると、自分からもより激しく舌を動かした。
それが分かると、神乃木は右腕から千尋の両腕を解放する。
空いた千尋の両腕は、そのまままっすぐ神乃木の首に交差された。

千尋の口内を神乃木は舌で犯しながら、再び神乃木は左手の指先に意識を向ける。
神乃木の指先は、溢れた愛液で濡れ、その濡れた指先は更に滑りが良くなり、千尋の内部へと、千尋の深くへと侵入出来るようになる。
何の予告も無く、神乃木はより深くを人差し指で貫いた。
びくり、と千尋の身体が震える。
「あっあああぁ………っ!」
その勢いによって、神乃木の唇から離れた千尋の唇から、千尋の鳴き声が上げられた。
千尋の『部分』が、神乃木の指を締め付ける。
がくがくと千尋の足は小刻みに震え、口から漏れる熱い溜息が、神乃木の首筋に掛かる。
「イっちまったか?」
「っ!」
神乃木の容赦ない言葉に、千尋はこれ以上に無いくらい赤面した。
千尋の身体中がほてり、神乃木の指を引き止めるべく、吸い付いたように千尋のその部分は締まり、快楽に酔いしれて流れたその部分の『涙』が、神乃木の指を伝う。
神乃木は黙ったまま、そこから自身の指を引き抜いた。
月明かりに照らされ、妖艶に輝いた指先の液体が、不意に色を無くす。
空は曇り、月の光は雲に少し隠されてしまった。神乃木の指先があまり見えなくなったように、千尋には神乃木の表情があまり見えなかった。
神乃木はそのまま、指を千尋の口にねじ込んだ。
「!!」
いきなり指を押し入れられ、千尋は声にならない叫びを上げる。
唾液まみれであった千尋の舌に、神乃木の指先が触れる。勿論、千尋自身の蜜も。
「これが、お前の味だ。コネコちゃん」
指を嫌らしく動かしながら、神乃木が言った。
千尋は始め、その指先の動きに翻弄されないようにじっと耐えていた。だが、やがてその嫌らしい神乃木の指先の動きは、千尋の舌を挑発し始める。
ぐりぐりと押し付けたと思ったら、つつ、と舌を撫でるようにしたり、かと思えば抜き挿しをし始めたり。
神乃木のそんな指先の動きに、千尋は自然と舌を自分で動かした。
先程無理に押し付けられた味とは、又違った味がしたような気がした。

ある程度舐めさせると、神乃木は指を千尋の口から引き抜いた。
「よし……合格だ」
「あ、ふうっ………」
何が合格なのか分からないのだが、異議を申し立てるような冷静な理性も残っておらず、千尋はただ激しい息遣いでそれに答えていた。
その時、神乃木はひざまずいた。
何をしたいのか、千尋には理解しかねた。
神乃木はそのまま、千尋の両足に手を掛け、顎を突き出した。
「あっ……」
そこで、何をされるのかやっと分かった千尋は、制止の声を上げようとした。
だが、その前に神乃木は千尋の秘部を舐め始めていた。
ざらり、とした舌の感触が、敏感に反応するその部分の周辺に広がる。
「んく、ぁっ…………荘龍さんっ、駄目っ……そこ、は…………汚い、からっ……」
千尋の訴えに答えず、神乃木はそこを舐め続ける。
始めは音を立てず、しかしだんだんと神乃木はそこの部分に舌を押し付け、激しく舌を動かした。すると、そこは大袈裟な音が立ち始める。
千尋は神乃木の事を見ていられなかった。雲に隠れ、月の光がくぐもったとは言え、相手のシルエットは見えているのだ。
そして、その相手は今、自分の両足の間に顔を押し付け、音を立てて舐めている。
顔を背け、目をきつく閉じる千尋。
桜吹雪が、二人の周りに舞い降りる。
神乃木はしばらく舐め続けたが、やがて顔を離し、カップを手に持つと立ち上がった。
先程の桜吹雪のために、カップにはまた花びらが浮かんでいた。
「………千尋」
顔を背けている千尋に、呼びかける。千尋はおずおずと神乃木の方を見詰めた。
「もう一回、俺は桜酒を飲むぜ」
「え、ええ」
何故そんな事を言うのだろうか、と千尋は思った。その時、神乃木は千尋の口に酒の入ったカップを押し付ける。
千尋は驚いたが、すんなりと口内に酒を受け入れる。
と、神乃木はそこでカップを千尋の唇から離すと、代わりに自分の唇を押し付けた。
唇を開かせ、神乃木は酒を吸い寄せる。
千尋の口から吸われた酒は、神乃木の喉を通った。そこで、神乃木は千尋の唇から自分の唇を離す。
呆然としていた千尋だが、やがて、「お、お酒を飲みたいなら、自分で飲んで下さい!」と言った。
そんな少し怒っている千尋の髪を、どきりとするほど優しく神乃木が撫でる。

「春の夜の、やみはあやなし梅の花…色こそ見えね、香やはかくるる」
神乃木が突然和歌を歌い出し、千尋は驚く。
「凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)の歌だ」
「は、あ………」
あえぎも落ち着き、甘い吐息混じりに千尋が言う。
「春の夜の闇は分別が無い、だがその中の梅や、桜の花は色こそ見えなくなるが、香りは隠れはしない。そんな歌だ」
「それ、で………何が……」
ぐったりとなって木に自分の体重を預け、無防備な体勢で居る千尋の頬を、神乃木はそっと撫でた。
「どんなに月が隠れようと、どんなに千尋が見えなくなろうと、千尋の声は、千尋の香りは隠れはしないって訳だ」
神乃木の言葉に、(恐らく見えていないであろうが)千尋は気絶しそうになるくらい赤面した。
「俺は、少なくともそうさ。だから……千尋もそうなってくれねえか?」
ぽつりと言った神乃木の言葉に、千尋は目を丸くする。
千尋が何か言うよりも先に、神乃木は自分のズボンのベルトを外し、チャックを下ろした。
そしてしばらくごそごそとして、勃起した自身のモノを取り出した。
「!」
それを暗がりではあるものの直視してしまい、千尋は慌てて目を逸らす。
だが、神乃木はそんな千尋の頭を掴むと、ゆっくりと膝立ちさせるまでの高さに持って行く。
「気持ち良くなるのは二人平等。それが俺のルールだ」
そう言って、神乃木は千尋の方を見る。
「胸」
「へ?」
「胸、使ってくれ」
その言葉に、意図を理解しようと一瞬千尋は黙り、そして「なっ……」と言ってから神乃木の方を見た。
「じょ、冗談も程々にして下さい!」
「千尋。こう言う行為に冗談もくそもあるかよ」
苦笑して、神乃木は千尋の事を引き寄せる。
千尋は勢いで胸の合間に神乃木のモノを配置させる形になる。
そのまま神乃木は引き寄せるのを止めた。千尋に後は任せる、と言った感じにも見えなくない。
(このまま、逃げてやろうかしら……)
そんな事を思いながらも、自分の目の前にある神乃木のモノを見ると、千尋の羞恥心と、淫佚感が刺激される。
千尋は黙って自分の乳房を寄せ、それを挟んだ。
「グッ……う」
神乃木は挟まれ、唸り声にも似た声を漏らす。
自分の行為が、神乃木を刺激している。そう考えると千尋の方も興奮して来た。
千尋は神乃木の勃起したそれを挟んだまま、それをこするように胸を押し当て、身体を動かす。
(わたし……お酒に酔ってるのかしら……?)
こんなにもすんなり、神乃木の言う事を聞いて恥ずかしい事をする自分の醜態を、ぼんやりと思い返した。
こすり続ける内、神乃木のモノが徐々にその大きさを拡大して来ているのが分かった。
千尋は恥ずかしさを覚え、神乃木の方を見上げる。
「荘龍さ……」
『さ』と唇を一番大きく開いた所で、神乃木は肥大化してきたそれを千尋にくわえさせた。
「んむっ……」
口を『さ』と開いた時の大きさよりもかなり大きな神乃木のモノをくわえ、千尋は苦しそうにあえぐ。
いつもより(いつもも実はそうなのだが)、神乃木が押し気味になっているのは、酒のせいだろうか。
「ん、んんうぅぅっ」
その苦しさに少し涙を浮かべたけれども、千尋は何とかそれをこらえ、口の中の物を舌で舐め始めた。
(泣くのは……全て終わってから、なんだから!)
※使う場面違います。

とにかく、千尋は神乃木の事を満足させるべく、必死に神乃木のモノを舐め上げる。
こうした行為はやはり慣れなく、どうしてもたどたどしくしか出来ないが、それでも千尋は自分から顔をもっとそれに寄せ、なるべく口の奥まで導いた。
つ、と先端から液体が出て来たのが分かる。
多少どころではない苦しさに、千尋の顔が歪む。
「クッ…………ち、千尋っ!」
「んんぃ?(はい?)」
切羽詰まったような神乃木の声に、千尋は顔を歪めながらも目を神乃木の方へと向ける。
「出、す……ぞ」
かろうじて千尋の耳に届いた言葉に、千尋はぎょっとする。
まだ心の準備も出来ていない。(いや、実はもうある程度出来ていたのだが)
千尋が何か異議を唱えたり、行動を起こす前に、神乃木はぐっと身体に力を入れたかと思うと、そのまま欲を千尋の口内へとぶちまけた。
「んん、んんんんんんんんんっ!」
口内に放出される熱い液体に、千尋は思わず喉の奥で悲鳴を上げる。
そのくぐもった悲鳴に、神乃木は慌てて千尋の頭を引き離した。
千尋の顔に、それがべっとりと付けられる。
「んくぅっ……」
口内と顔面に放出された液体を感じ、千尋はかろうじてそれだけあえぐ。
甘美な快楽だけが、残っている。
くたり、として立ち上がる事も出来ない千尋。
「大丈夫か、千尋」
神乃木の問いに、千尋はふてぶてしく笑う。
「いきなりピンチか」
千尋の笑みを見て神乃木がそう言った。
何時の間にか、お互いの顔が見えるくらいにまで、月の光が照らしていた。
千尋は口内に残った液体を何とか飲み下そうとしたが、その量の多さと喉につっかかるねとねとした感覚に、なかなか飲み下す事が出来ずに居た。
「コーヒーは、その濃度に応じて飲む量も加減するものだ」
(言っている事が、訳分からないんですけど……)
口の中に物を残したままなので、言葉で突っ込む事も出来ず、千尋は目で訴えた。
そんな千尋の表情に、神乃木は「クッ……」と笑った。
「つまり……………無理して飲もうとしなくて良い、って事さ」
(じゃあ、始めからそう言えば良いのに……)
そんな事を思いながら、千尋は唇に入れていた力を緩めた。
唇の端から、神乃木がそこに居た証が一筋、頬を伝い、落ちる。
千尋は力もあまり込められない手で、顔に付いた粘液を何とかぐしぐしといじり、拭い去ろうとする。
だが、逆効果で、広がるばかりだ。
困惑して千尋はただ溜息だけ吐いた。
「立てるか、千尋?」
珍しく気遣って来る神乃木。千尋は立ち上がろうとして見たが、それが無理だと分かると、素直に首を横に振った。
途端。
神乃木がにやり、と笑う。
「じゃあ、俺が立たせてやるからな」
先程の笑みは一体何だったのだろうか、と千尋は思いながらも、神乃木に自分の身体を任せた。

神乃木は、千尋の脇を持つと、立たせた。
そしてそのまま、自分の方へと傾かせる。
千尋の背中には、たくましい神乃木の胸板の感触がした。
「え、あの……荘龍さん?」
千尋が神乃木の方を見た。
神乃木はあのニヤニヤ笑いのまま、いきなり千尋の片足を持ち上げた。
そして、そのまま自分のモノを、千尋の秘部に向けて挿入する。
愛液にまみれた千尋のそこと、先程放出した神乃木のモノから出た粘液と千尋の唾液とが付いたそれが、ぐちゅり、と音を立てて結合して行く。
「あっ、ふぁ……あああんっ!」
まさかそこまで及ぶとは思っても居なかった千尋は緊張のほぐれた口であえぐ。
「普段は可愛いコネコちゃんだが……」
神乃木は千尋の耳元に口を寄せた。
「俺の腕の中では、甘い娼婦だな」
「んくっ、ひぐぅっ……」
耳元で囁かれる神乃木の声。ただそれだけに千尋は感じてしまう。
それが例え、どんなに陵辱しがちな内容であっても、千尋にとっては(こうした時の)神乃木の言葉は絶対で、それは甘美な言葉として受け取られていた。
「千尋……お前、事務所で俺にいやがらせをしただろ?」
「え? ………う、ふぁ…っ」
下半身を動かし続け、奥へ、奥へと入って来ながら、神乃木は千尋に言った。千尋は快楽と現実との間に挟まれ、頭が真っ白になりかけながら、必死に考える。
何を、いやがらせしたのだろうか、と。
「花見に行くか行かないかで、俺が行かないって言ったのを聞いてから、お前は花見に行くと言った」
「んふああっ!」
「俺は思った。『これはもう、千尋にいやがらせをされているに違いない』と」
「そ、んな……わたし、ただ…………ああっ」
何か千尋が口応えをしようとすればするほど、神乃木は下半身を激しく動かし、千尋の内部を突き上げていた。
「大体…俺の居ない所で何か起こるかも知れない、って思わなかったのか?」
神乃木の言葉に、千尋はぼんやりとしながらも、「でも、心配ありませんよ」と言った。
「だって……星影センセイ、もっ…生倉センパイもっ………皆、皆良い人、ですか、ら……あふうっ!」
千尋の言葉に、神乃木は首を横に振った。
「俺が心配なんだ」
そう言って、神乃木は千尋の耳たぶを舐める。
「ふ、あああぁ……」
ちろ、と神乃木の舌の感触がして、千尋は思わず甘い吐息を吐く。
「お前が俺の居ない所で、俺じゃない誰かと居るなんざ、俺が許さねえのさ」
そう言って、神乃木は背中越しに手を千尋の胸まで持って行き、胸を揉んだ。
「ひうっ………あ、んっ!」
その切なくも強い愛撫に、千尋は目を閉じて身を委ねる。
下半身から訪れる快楽、胸部から訪れる快楽。
二つの快楽に千尋は神乃木と躍り、神乃木へとあえぎ声の歌を歌う。
お互いを止める物は何も無い。

「あ、ああんっ、そ、荘龍さぁぁんっ!」
「クッ、ち、千尋ぉぉぉぉっ!」
二人は思う様身体を動かしあい、互いの名前を呼んだ。
快楽から刺激される欲求は、相手の性。
「ふ、ああああんっ! 駄目、イっちゃう、またイっちゃうぅぅぅぅっ!」
千尋はそう叫び、千尋の身体が熱くなる。
神乃木の事を深くに掴んだまま、千尋のそこが震え、神乃木の事を締め付ける。
それに刺激され、神乃木もまた絶頂を向かえようとしている。
神乃木はぐ、と腰を前に突き出し、千尋の一番奥まで貫いた。
「千尋、出す、出すぞっ!」
神乃木の言葉に、千尋は顔を神乃木の方へと向ける。
「荘龍さんっ! き、来てっ! 一杯にしてぇぇぇぇっ!」
千尋のねだりと、神乃木の意思とで、二人は絶頂を向かえた。
「く、おおおおおおおっ!」
「あ、あああああっ!」
胎内の一番奥に神乃木の熱い液体が入れられている。千尋はそう思った。
熱くて、そして優しい物で千尋の中が満たされて行った。


二人は、激しい息遣いのまま、その場に居た。
乱れた服をお互い直し、そして互いを見る。
月の光は雲によって隠されていた。
「春の夜の、やみはあやなし梅の花…色こそ見えね、香やはかくるる」
千尋はゆっくりと、先程神乃木が歌った和歌を歌う。
「さっきの、凡河内躬恒の歌だな」
「ええ………」
多少落ち着き、千尋はそれでも頬を紅潮させながら、神乃木の言葉に答える。
神乃木は千尋にこう説明した。『春の夜の闇は分別が無い、だがその中の梅や、桜の花は色こそ見えなくなるが、香りは隠れはしない』と。
「どんなに月が隠れようと、どんなに荘龍さんが見えなくなろうと、荘龍さんの声は、荘龍さんの香りは隠れはしません」
千尋がそう言うと、神乃木は顔を背け、「クッ……覚えてやがったか」と言った。
千尋も、そうなってくれねえか、と神乃木は言った。
暗闇の中でも、それが自分だと分かるようになってくれないか、と。
まるでバツの悪そうな風に顔を背けているが、恐らく神乃木は照れた顔をしているだろう。
声と、香りは隠れないのだから。
千尋は、ゆっくりではあるが神乃木の隣に位置すると、そのまま神乃木の方を向いた。
「荘龍さん、帰りましょう。きっと……皆さん、心配してます」
千尋が酒盛り場から離れてから、もう随分と経っただろう。事務所の人間の、自分達を探す必死の形相を想像しながら、神乃木に千尋はそう言った。
「……クッ………俺は結構、独占欲が激しいヤツ、だぜ」
そう言って、神乃木は千尋の身体を抱き寄せた。
ほてった身体が触れ合い、二人は思わず見詰め合った。
「もう少しくらい……せめて、俺が十七杯目の酒を飲み終えるまで、ここに居ねえか?」
神乃木の言葉に、千尋は頬を染め、目を伏せた。
もう少し、ここに。
二人きり、で。
「ええ……そうですね……」
たどたどしく、千尋が答えた。
いつもの千尋なら、「駄目です! 心配掛けさせた分だけ、申し訳無く思わなくっちゃ、ただのコーヒー好きの迷惑な人ですよ」と言うので、予想外の千尋の返答に、神乃木は微かに目を丸くする。
「千尋……良いのか?」
「? どうしてですか?」
小首を傾げ、千尋が尋ねて来た。
「その、アレだろうが。春って言ってもだな、まだ肌寒いだろうし」
口ごもりながらそれでも千尋の事を気遣う神乃木に、千尋は腕をそっと神乃木の首に回す。
「わたしも、風流をまだ少し楽しみたくなりましたから」
千尋はそう言ってから、愛しさに微笑んだ。
この人はわたしを愛してくれているのだ。
わたしがこの人を愛しているように。
そう思い、千尋はゆっくりと神乃木と口付けをした。
見事な望月は雲によって隠れていたが。
闇夜は決して二人を分けない。
それは二人が、目で見えるだけの世界で生きてはいないから。
もっと、その奥の、その深くの。
『深層心理』なる『真相真理』の中で生きているのだから。


春の夜の、やみはあやなし梅の花…色こそ見えね、香やはかくるる

何処かで、男性と女性の、微かに歌う声がした。




(終わり)

~おまけ~

「もうっ! 荘龍さんが帰るのをずるずる引き伸ばすから!」
「おいおい、俺のせいかよ」
膨れっ面で文句を言う千尋に、神乃木は苦笑した。
「そんなに怒るなって」
そう言って、神乃木は千尋の膨れた頬に口付けをする。
結局、二人が帰ろうと思ったのが随分後で。
どうにか迷わずに花見をしていた所まで辿り付く事は出来たけれど、その頃には星影事務所の人間は皆酔いつぶれ、結局後片付けをしたのは神乃木と千尋なのであった。

「めでたしめでたしってヤツだ」
「めでたくないですぅっ!!!」


(終われ)




今回は少しエロエロ度を増やしてみようと言う心意気の元、執筆しました。
でも、全然エロくない。誰かエロの書き方教えて! 単語も分からないし……
神乃木氏相変わらずキス魔だし。(前回Wちいちゃんでもそうだった……千尋とキスして終わったし)
身体重ねるよりキスの方が好きなのでは?(爆)
それにしても、神乃木氏、一人称『俺』ではなく『オレ』でしたね。後から気が付いてショボーン。
これ見て幻滅している神乃木ファンも居るのでは……スマソ。
最後の『深層心理』と『真相真理』はシャレであり、私が今手がけてるナルマヨ小説の題名でした。
機会があったら、ナルマヨ小説も載せたいなあ……
最終更新:2006年12月13日 08:35