千尋

「異議あり!」
千尋は鋭い視線を証人に向け、相手を圧迫するかのような声を上げる。
またもや証言を覆されるのかと青褪め怯えきった証言台の男。
有罪だという確信がボロボロと崩壊していく検事の歪んだ顔。
どよめく裁判官達。
傍聴人達の好奇の視線が背中越しにも感じるほど神経は敏感に研ぎ澄まされていた。

(これよ!これが堪らないの……!)
この感覚を求めるようになったのはついぞ最近の事だ。
例えるなら生か死か。ギリギリの駆け引きで会心の指摘をした時、
『ああ、敵の悲鳴って…何て心地よく、胸にヒビくの!』
そう頭の中でスパークした。
今日は特に調子が良い。
頭が冴え渡り、一分の隙も見逃さない。
そのせいだろうか。
相手の打ち立てたロジックを崩す時の悦びは今日に限って別の快感を引き寄せ始めていた。
(やだ、濡れてる……)
自分の一挙手一投足に世間から切り離されたこの場の空気は震え、証人が唸る。
その度に子宮の奥がジンと熱くなると自覚する頃には裁判も佳境を迎えていた。
頬は上気し、全身から汗が吹き出る。


「いいですか、そもそもあなたの証言には――」
矛盾点を突きつけ、相手が悲鳴を上げるたびにクレヴァスは濡れそぼり、
ぐっしょりしたショーツから抜け出した蜜が腿を伝う感触に千尋は
誰かにバレやしないかと緊張し、それがより興奮を呷りたてていく。
幸い正面からも、裁判官達からも千尋の下半身は見えない。
チラリと傍聴席を見るがどうやら大丈夫のようだ。
しかし改めて大勢の人が居るんだと認識してしまうとそれまでもが欲情を掻き立てた。
今すぐ証人に差し向ける指を亀裂に滑り込ませて慰めたい誘惑に駆られる。
恥毛を掻き分け秘唇に沿って指を這わせ、親指で突起物を弄びながら
思う存分中指を埋めて襞で締め付けたい。
資料を握る左手でスーツの上から乳房を左右交互に揉みたい。
感じるがままに嬌声を上げ、頭を真っ白にして快楽に身を委ねたい。
そんな願望が余計に体を火照らせ、止め処無く溢れ出すモノに拍車を掛ける事になった。

「弁護人、どうかしましたか?」
「いえ。大丈夫です。続けます」
ハッと意識を上半身に引き上げてそう答える。
自分でも何が大丈夫なのか分からない。
(私ってばとんだ変態だったみたいね)
詰めを怠らぬよう慎重に発言しながらそう独りごちた。
あと少し。あと少しで終わる。
終わってしまう。
股間の疼きは終わりの無い螺旋階段を昇っているというのに。
目の前の証人は無理のある嘘の上塗りを施そうと小刻みに震えながら何かを呟く。
それを見ているだけで股間は疼き、膝がガクガク揺れそうになる。
椅子はあるが、座ってしまったら溢れるジュースがスーツに染みを作り
今度は立てなくなってしまう。
震えぬよう足を少し開きながら、淫水が腿で絡んで滴り落ちない事を願った。
「待った!あなた、先ほどこう言いましたよね――」


結局千尋のペースで物事は進み、無罪を勝ち取った。
急いでトイレに駆け込み、滴り落ちそうな雫を拭きたかったが、
足早の千尋を聞きなれた声が呼び止めてきた。
「千尋さん!」
「なるほどさん、今日も来ていたんですか」
「いやー、いつにも増して凄かったですね!手に汗握っちゃいましたよ」
異議ありっ!と成歩堂が千尋の真似をしてみせ、それから笑った。
純朴そうな屈託の無い笑みを見せられて素直に可愛いな、と思った。

「折角来てくれたんですし、一緒にお食事でもどうですか?」
提案に無邪気に賛同する成歩堂を見て、千尋はついに秘部から垂れ落ちたのを感じた。
最終更新:2006年12月12日 20:13