桜咲く、桜散る、卒業式。 式を終えた三年生達は、各教室で担任の話に耳を傾けていた。 先 「え〜。君達も、この学校から巣立つ時が来ました。    大学へ行く者、就職する者、それぞれ自分の道を見つけ――――」 担任の話は続く。 涙を堪えているのか、言葉に詰まる。 そのたびに生徒のすすり泣く声が教室を支配する。 話の最後、担任の言った一言で、それは最高潮に達した。 先 「あー……卒業式ってのはぁ、何回やっても慣れないもんだなwww はははwww グスッ」 生徒達 「せんせぇ〜〜〜〜!! うわ〜〜〜ん!!」 担任に群がる生徒達。それぞれ感謝の言葉を投げかける。 涙ながらに笑顔で応答する担任の顔は、悲しみと慈愛に満ち、 まるで我が子との別れを惜しむ父親のようであった。 三年D組も例外ではなく、同じ流れで学校生活の終わりを感じていた。 女 「うわ〜ん!! 男く〜ん!! 男く〜ん!!」 男に抱き付いて泣く女。 男 「ああもう泣くな。な?」 ポンポン その女をなだめる男。 女 「だって〜だって〜 うえ〜〜ん」 友 「泣くなって方が無理だろ〜。ましてや女ちゃんじゃ」 男 「ん〜。だな〜。しょうがないか……」 ナデナデ 男の机に腰掛ける友。 眼 「これで女子高生というブランドじゃなくなるのね。私は」 短 「うはぁ〜〜〜ん!! 眼鏡ちゃ〜〜ん 女ちゃ〜〜〜ん 三年間ありがとね〜〜〜 うわ〜〜〜ん」 眼 「アンタ。ホントにこういうの弱いのね……」 短 「だって〜〜〜 だ〜って〜〜〜」 眼 「はいはい。よしよし。いいこいいこ」 ナデナデ 自分のこれからを心配しながらも短髪をなだめる眼鏡。 いつも一緒に行動していたこの五人。 涙は流さなくとも、男も友も眼鏡も、別れを惜しむ気持ちは、女や短髪と少しも変わらない。 泣ける二人が羨ましくもあり、こんな時にまで顔を出すプライドや、少し冷めた目線の自分に、自己嫌悪すら覚えていた。 担任の話が終わり、終了の鐘が鳴っても、まだまだ生徒は教室に残っていた。 抱き合って泣き続ける生徒が居たり、アドレス帳を片手に走り回る生徒、 卒業アルバムの白紙ページに寄せ書きを書きあったり、片っ端から写メールを撮ったり…… 教室の壁の隅に、自分の名前を書き残す生徒まで居た。 他生徒からのリクエストや寄せ書きを一通り終えた五人は、男の机周辺に固まって教室を眺めていた。 女 「みんな別れたくないんだね〜……」 泣き止みはしたが、まだハンカチで鼻を押さえてグズっている女が口を開く。 男 「そりゃまぁ、そうだろうな〜……」 眼 「誰だって別れは辛いわよ……」 短 「うん……」 友 「なんだかんだで仲のいいクラスだったからなぁ……」 それぞれがポツリポツリとつぶやき始める。 男 「俺、この高校でよかったと思うよ」 友 「俺も。みんなに会えたしな」 眼 「そうね。私も同感。こんなにいい仲間に出会えるのは、物凄い幸運だと思う」 短 「ちょっとやめてよ〜〜 また涙出てきちゃうじゃ〜〜〜ん……」 女 「うわ〜〜〜ん!! やだよ〜〜〜 卒業やだよ〜〜〜」 再び泣き出した女と短に、三人はふっと優しく笑い、帰り支度を始めた。 男 「あははwww 悪かった悪かった。帰るぞ。泣き止め泣き止めwww」 ナデナデ 眼 「よしよし。ごめんね?」 ナデナデ 友 「そういえば、女ちゃんが泣くのは結構見たけど、短が泣くのは初めて見たかもしれないなwww」 短 「うるさい!! バカァ!!」 バチンッ 友 「いってぇ!! 今、カバンの金具当たったぞ!!」 男 「オマエはwww」 眼 「アンタは三年間、全然成長しなかったわねwww」 友 「えぇ〜……そりゃないぜ〜」(ルパン調) 女 「うわ〜〜〜ん 友君面白い〜〜〜 うわ〜〜ん」 男 「お前は泣くのか笑うのかどっちかにしろwww」 このあと、友の提案でカラオケに行った五人は、 女ちゃんが最後に歌った『涙そうそう』で、涙腺を崩壊させた。 ================================================================================ さっきまで笑って話をしていたのが嘘みたい。 独りで帰る通学路は、いつもこんなに寂しかったかな。 夜だからかな。こんなに寂しいのは。 いままでこんなことなかったな〜。小学校の時も、中学の時も。 カラオケでみんなに泣き顔見られたな…… まぁ、いいか。泣いてもいい日だしね。 あ、でも、泣いてたのにアイツにからかわれなかったな。 アイツも成長したのか、はたまた自分も泣いてたからなのか…… まぁ、成長したことにしてやるかw はぁ〜。アイツと短を最後まで見届けられなかったなぁ〜 焚きつけちゃえばよかったなぁ。残念。 短は今頃アイツと一緒か〜。ちゃんと伝えられてるかな〜 最後なんだからがんばれよ〜。後悔すんなよ〜 よし。最後にお節介やいてやるかw  ピピピッ よし。あとは短次第ね。 今日の夜あたり、電話来るかもw 来なくてもこっちから電話して聞いてやろw あ〜あ。青春だなぁ。コンチクショウ!! 大学行ったら私もがんばってみようかな〜…… 眼 「あ〜あ。終わった終わった〜!!」 あれ? 今日はおぼろ月だったっけ? ================================================================================ 今日が最後だ。最後のチャンスだ。 言わなきゃ。言わなきゃ…… でも、今まで蹴ったり殴ったりとかしてたからな…… やっぱ私のことキライなのかな…… みんなと別れてから全然喋らないし…… うん。そうだよね。やっぱ私みたいな女の子は嫌いだよな…… 散々痛い目にあわせてきたからな〜…… ああ。なんであんなことばっかりしちゃったんだろうな〜…… はぁ……いまさら後悔してもしょうがないか……自分のせいだしね…… 友 「どうした? 全然喋らないけど」 短 「!!! あ、アンタだって喋らないじゃない」 友 「ん〜」 短 「何よ……」 友 「いや、明日からは毎日みんなと会えないんだな〜と思うとさ」 短 「何? アンタらしくない。気持ちわるぅ〜www」 友 「そういうお前はどうなのさ」 短 「え? 私? 私だってそりゃモチロン……」 友 「だろ? やっぱそうなんだよなぁ。毎日面白かったもんな〜」 短 「そうだねぇ……」 友 「あー。でも、お前の拷問も受けなくて良くなるのか」 短 「拷問って!! なによそれ!! いっつもアンタが悪いんじゃないの!!」 友 「んなことねぇよ。いきなりわけもわからず殴られたことだってあるぞ?」 短 「それは……アレよ……なんか……殴りたかったのよ」 友 「あるんじゃねぇかwww」 短 「悪かったわよ!! ごめんなさい!! これでいい!?」 友 「ああ。うん。ごめんなさいか……」 短 「なによー。謝ったんでしょー。文句でもあるのー?」 友 「んや、今の『ごめんなさい』聞いて、殴られなくなるのもちょっと寂しいかなって」 短 「……」 友 「ん? なんだ今の。あれ? マゾ宣言っぽくね?」 短 「バカじゃないのwww」 友達としては見てくれてるのかな……? 言わないでおいたほうがいいのかな……  ピピピッ ピピピッ 短 「あ。メール……」  『From:眼鏡ちゃん』  『Sub:頑張れ』  『最後ぐらい素直になりな。   正直、勝てる試合じゃないかもしれないけど、負ける試合でもないと思うよ。   自分の気持ちに嘘付いたまんまじゃ、気持ち良く前向いて進んでいけないよ。   どうせあんたのことだから、言わずに友達のまんま〜とか考えてるんだろうけど、   それは逃げてるだけだからね。   もう一度言うけど、負ける試合じゃないよ。   最良の結果にはならないかもしれないけど、悪い結果には絶対ならない。   あんた達をずっと見てきた私が言うんだから間違いない。信用しなさい。   仲間の絆は壊れない。大丈夫。みんなだって、友だって、そんなに子供じゃないよ。』 短 「あ……」 友 「ん? どうした? メール誰から? なんだって?」 短 「ううん。なんでもない」 友 「??? あそ」 そうだよ……ね…… うん。よし!! キメてやる!! 言え!! 言うんだ!! 友 「ん? なんか言った?」 短 「ん? うん。あのさ、友は遠くの大学行っちゃうんだよね」 友 「そうだけど……なんだ? 急に」 『俺だけみんなと離れるーー!!』とかうるさかったっけ。 短 「うん。それでさ、独り暮らしするんでしょ? んでさ。良かったらさ、遊びに行ってもいいかな?」 友 「もちろん!! みんなで来てよ!! 大歓迎するぜ!!」 なんだろう。なんかにやけちゃうなw 短 「うん。みんなでも行くんだけどさ……その……私一人で行くことがあってもいいかな……?」 友 「え……? お前一人で?」 そう。一人で。 短 「うん……ダメ〜……かな?」 友 「いや、別にダメとは言わないけど……なんでまた一人で?」 そうそう。コイツはこういうやつなんだよなw 短 「それはぁ……」 友 「それは?」 短 「だからぁ……」 友 「だから?」 短 「つまりぃ……」 友 「つまり?」 ええい!! 鈍感野郎!! こうしてやる!!  チュッ 友 「!!!」 短 「こういうことだ!! バーカ!!」 ベチンッ 友 「いってぇ!!」 短 「じゃあね!! 遊びにいくからね!! 来るなって言っても行ってやるからなー!! バーカ!! あははははwww」 友 「???」 ポカーン…… あ、大事なこと伝えるの忘れてた。 短 「おーい!! 友!!」 友 「ん? お? あ?」 短 「卒業アルバムよこせ」 友 「え?」 短 「卒業アルバムだよ。早く!!」 友 「お、おう」 短 「余白のページ。今書いてあげる」 友 「なんで? 書いてやるかバーカとか言ってたくせに」 短 「気が変わったの!!」 キュキュキュキュキュ 「はい!! じゃね!!」 友 「おう……」 あーあーあーあーあーあーあーはーずーかーしーいー 帰ってお風呂入ったら眼鏡ちゃんに電話しよ。 なんかすっごく話したい。なんか、すっごく……あーもーなんかわかんない!! 友 「なんて書いたんだ? アイツ」     『大 好 き !!』 ================================================================================ はぁ〜。春だけど夜はまだ寒いな そうだねぇ〜…… …… …… …… …… カラオケ、楽しかったなぁ うん〜。男君が泣いてるとこ、初めて見た〜w あー。泣いちゃったなぁw 私の歌で泣いてくれて、なんか嬉しかったよ〜 あれは卑怯だよw だって〜歌えって友君に言われたんだも〜んw 友か〜……友な〜…… うん…… アイツ一人だけ遠くの大学なんだよな みんな家から通えるとこなのにね〜…… そうな〜…… でもさ〜でもさ〜、会いに行けばさ〜いいだけじゃん。ね〜? うん。そうなんだけど……やっぱさみしいかなって みんないなくなっちゃうわけじゃないんだからさ〜……ね〜? グスッ そうだな。ごめんごめん ナデナデ うん〜。男君が元気ないのヤダ〜…… キュッ 悪かった…… ギュウ…… うん…… キュウッ…… あのさ なに〜? 大学卒業したらさ うん〜 結婚しようか? !!! ビクンッ でさ、いっぱい働いてさ、縁側庭付きの家買ってさ …… 子供も二人ぐらい居てさ うん…… グスッ 大きくなってさ、お前みたいなのんびりしたヤツとか、俺みたいなヤツとかはっきりしてきてさ うん…… グスッ それぞれ結婚してさ、家を出て行ったらさ、ネコでも飼おう うん……うん…… グスッグスッ ふたりで歳とってさ、お前の大好きだったおじいちゃんおばあちゃんみたいな夫婦になろう うん……うん…… ギュゥゥゥゥ…… な? うん……うん……なるよ〜……私、なるよ〜 グスッグスッ うん。一緒になろうな…… ギュウ…… 男君…… 女…… 大好き…… ギュウギュウ 俺も……大好きだよ…… クシャクシャ ――――そして重なる影二つ ※新ジャンル「マッタリしすぎ」 ※俺的まとめおわり