の雨が降っている。
何かを願うように、るように。
どこかのかの思いを乗せて、ひらひら、ひらひらと。

アカダノサクヤ

【アカダノサクヤ】
色は淡紅。
花径は中輪。
花弁数は一重。
開花時期は4月上旬~下旬。
樹、自体は強いが花弁は弱く散りやすい性質をもつ。
また、ソメイヨシノと同じく自己繁殖能力は無く、人の手によってのみ繁殖が可能。

島国であるレンジャー連邦に自生させることも考慮し、潮風に強い大島桜をベースに、遅咲きかつ、四月、十月ごろと年に二度開花する十月桜や、その他遅咲きの桜と配合する事で連邦の厳しい環境に適応できるようにしたもの。
しかしもともと連邦のような西国に根付かないはずの植物の為、桜を植樹する環境自体をデリケートに管理する必要がある。
なお、二季咲きは確認されていない。
主な植樹地は病院傍の公園や水辺近くなど連邦内において樹木の姿が見られる場所や水辺の近くなど比較的管理がしやすい場所に植樹を行い、有志からの提案であるポリマーでの土壌管理やスプリンクラーなどで環境管理を行っている。

*花径は中輪=花が完全に開いた状態でおおむね3~3.6cm
*花弁数は一重=花弁数は5枚





***** サクラ並木にまつわるお話 *****
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* 職場にて ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* とある若者と親父の話 ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* 真とサク ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* 桜の雨 ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

***** 後日談 *****
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* じにあと藍 ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* にゃふにゃふと空 ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* ラヴと悠 ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*


゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*  ***** さくらの ***** ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*






「サクラねえ…東国ならまだしも、この砂漠で咲かせようなんて酔狂だ。」


翠の目をした年嵩の黒猫が、まだつぼみもない桜を積んだトラックが市民病院の方向へと向かうのを見て尻尾を揺らした。

「サクラかー、見たことないけどここじゃだめにゃの?」

その彼の隣を歩くのは、少女という年頃の人形猫士の元気なボブカットの子。

「ちゃんと咲きますよ、ナツメちゃん。大丈夫です。」

さらに二人(二匹?)の後ろから一人の眼鏡の女性の声。その人は大量の書類やCD-R、書籍やらが入った段ボールをふらふらしながら運んでいたが、ものの十数メートルで力尽きてぜいはあ言いながらその場に荷物を置いて腰を叩く。

「…運動不足だそ、むつき。」
「いつも仕事ばかりしてるからにゃー♪」
「わーん、分かってますー!」

黒猫…猫士のヒスイは、やれやれとため息をつくと人の姿になり、地面に置かれたダンボールを持ち上げる。

「あ、すみません;」
「…早く荷物を持ってもらえる様に、旦那と仲直りするんだな。」
「ハイ…。」

寂しそうに苦笑いする彼女に、こちらも色々と大変そうだ、と思いながらヒスイは口の端だけを上げて笑い、ナツメはよくわかんないな、という風に首をかしげた後、調子の外れた鼻歌を歌い出しながらご機嫌で先を歩き出した。

むつきは自由になった両手を所在なさげにしていたが、静かな街の様子を見ながらヒスイとナツメの後について歩く。
マンイーター以降の被害で国は大きな傷を負い、そしてまたそこに暮らす人々の心にも大きな傷跡を残している。
激減した人口、生活保護がなければ暮らせないほどの経済へのダメージ…。
あんなに賑やかだった街頭も今は人もまばらで活気がなく、それに彼女は国中で上がっていた火葬の煙を思い出して唇を強く噛んだ。

「…サクさんがね、この先何があっても、何度も美しい花を咲かせる桜の様にこの国の人達に生きて欲しいって言ってた。」

ヒスイは自分のやや後ろでぽつぽつと話し出すむつきの言葉に黙って耳を傾ける。

「サクラの花はとても儚いものだけど、その後に緑の葉をおい茂らせ、根を深くはり、時には岩を砕く強さを持っているの。」

桜は再生の象徴、そしてその美しさは見る者の心を揺さぶる力がある。又この花を見たいと思える不思議な魅力は人々の力になるのではないか、と思わずにいられないもの。

「それでサクラか…、サクも考えたな。」
「サクさんだけじゃないよ、真さんもー。」
「ああ、最近悩んでたのは分かってたが、これの件か。」

ヒスイは自分はちっとも国の為に何もできてない、と会議室で嘆いていた彼の姿を思い出し笑う。

「嘆いているだけより、よっぽどいいな。」
「うん!」

藩王が、摂政が、その仲間たちが、この砂の大地に強い根を張ろうと動いている事にヒスイはそっと笑みを浮かべた。

「サクラ、楽しみだなあ…。本当に綺麗なのよ、だから私も少し二人のお手伝いさせてもらってたの。」
「にゃ、ナツメも後で混ぜてもらうんだよー!」
「そうか。」
「夜星くんとタンジェリーナちゃんも一緒、賑やかだったわよ。」

笑いながらそう言うむつきの言葉に、最近入った新人の姿を思い出しながら、ナツメも行ったらさらに賑やかになるだろうな、と彼は苦笑。

「まあ、お前さんは本業の方あるんだから、ほどほどにな。」
「おろそかになんかしないわ、心得ています。」

そうしてしっかりと前を向き微笑む友人に頷いて、ヒスイはレンジャーのカラーであるピンク色の花が彼女たちの願いを抱いて咲き誇る事を祈り、この国の再生への新たな力になる事を想いながら、翠色の目を細め空を見上げたのだった。


(文:むつき・萩野・ドラケン )
(絵:矢神サク )




「無理だっつの!!」


「やっぱり難しいですか?水は水路から引けますけど。」
「そんな問題じゃねーわー!!あそこは桜の木が植えられるような場所じゃねぇ!!俺ぁ枯れると分かりきってるような仕事はしたくねえっ!!」

植木組合の一室で熱い討論が行われていた。

「ったく、何依頼してくるかと思えばよ。あの砂地が大問題なんだよ。あんな所じゃ根を張っても直ぐに強風なんか吹いて根っ子が露になっちまう。」
「ふむふむ(メモメモ)」
「しかもいくら水撒いたって根っ子が吸収する前に地下に染みこんじまう。」
「ふむふむ(メモメモ)……んん、…ちょっと待って下さいね。」


鞄をガサゴサと漁る。そして二、三枚資料を取り出した。


「客土をしてはどうでしょう?」
「あぁん?んなことしても結局直ぐに乾いてサラサラになっちまうぞ。」
「でも、芝生とかクローバーとかで蓋をしたら…」
「そりゃ良い考えだがな、桜の木の根を養うなら10m以上は土をもってこなきゃなんねーぞ?しかも、あの道沿い全部な。土何百t必要なんだ?」
「客土自体は芝生を育てる分だけあればいいんです。」
「?」

またもや資料が出てくる。

「これはオムツとかに使われているポリマーです。保水性が良くて緑化などにも使われているものです。これ使えませんか?」
「むっ…これか。」

腕組みをして考えこんでいる。口はヘの字のまま。

「…ポリマーで保水…客土と芝で蓋か……無理…ではないな。」
「いけますか!?」
「なんとも言えん。植える前に環境を整えられればなんとかなるかもしれん。このポリマーなんだが、根を全部カバー出来る分だけ確保できんのか?樹の枝と同じくらい根は伸びるからな。」
「それは任せて下さい!」
「よし…。」
「やってくれますか?」
「やったる。だが条件付けていいか?」
「なんでしょう?」
「植え終わった後の面倒見も俺に任せてもらいたい。やって終わりじゃ気持ち悪いんでな。」
「それは是非にも。親父さん、これからよろしくお願いします。」

若い男は立ち上がって握手を求めた。
その手にシワだらけの職人的で岩みたいな手が延びる。この手を見てこの人に依頼しようと思ったのだ。

「おぅ!任せとけぃ。」

この種類の人間の「任せとけ」は信用に価する。砂漠に桜なんて無茶な話だと思ったが、なんとか出来そうになってきた。

「だがお前らも手伝えよ。こき使っちゃる。」
「お、お手柔らかに…」


(文:空馬)
(絵:矢神サク )




病院に向かう一本の列を見た


長い、長い列だった

ある人は子供を抱えて

ある人は友の肩に抱かれて

様々な人が痛みを抱えて、苦しみを抱えて

その顔には笑顔は無く

何もできない自分が、辛かった

/*/

「はーいおーらいおーらーい!」

巨人がいた。
共和国最古のI-D、アメショーである。
平凡ながら汎用性が高く、ほんの少し前まで最前線で使用されていた名機である。
その彼の、数多の戦いを潜り抜けてきたその手が今握っているのは、銃では無く桜だった。
連邦のフィクションノート、矢神サクの指示に従い、穴を掘り、木を植えている。

「はい、おっけーでーす!すいません手伝わせてしまってー!」

サクは頭上で丸を作った。
それを見たアメショーはそろそろとサクに歩み寄ると傅く様に膝を折る。
その胸から顔をひょっこりと出す大柄な男、双樹 真が大声を張り上げた。

「いえいえーどうせヒマしてましたからー。それはそうと、上から見てみませんか?高いところから見る桜ってのもまた乙なもんですよー」

手招きをする双樹。

「はーいおねがいしますー」

「了解でーす」

笑顔でコックピットに潜る双樹。
それと同時にアメショーは、サクを手に乗せて立ち上がった。
手の上のサクの隣で開くハッチ。

「いや・・・実に綺麗ですねぇ・・・」

呆けたように桜並木を眺める双樹。
いつか見た桜も綺麗だったが、これはまた違う美しさが在るものだ。
そう思う。
遺伝子操作等が行われていないからかもしれない。
双樹がこのプロジェクトに関わる際に、一番気にしたのがそこだったからだ。
あの少女の物憂げな瞳を、双樹はまだ忘れていない。

「本当ですねぇ・・・」

サクもまた感慨深そうに呟いた。
脳裏に浮かぶのはあの日の人々。
笑顔もなく、喜びもなく。
ただうつむいて歩く人の列。
少しは、力になれるだろうか。

「しかし、どうしてこれだったんです?」

双樹が首をかしげる。
国民の為に何かをしたいというサクの気持ちを双樹は知っていた。
知っていたからこそ、サクがなぜこの手段を選んだのかが気になったのだった。

「どうして・・・ですか?」

うーんと首を傾げるサク。

「・・・列を、見たんです」

「列?」

「病院に向かう国民さんたちの列を」

マンイーター事件の・・・だろうか。
双樹は思う。
あれはひどい事件だった。
たくさんの人が死んで、それを悲しむ暇も無いくらいにたくさんの命が消えていった。
あのたくさんの火葬の煙はまだ、まぶたの裏に焼き付いている。

「みんな、俯いていました。みんな苦しそうでした。どの顔も、苦しくて悲しくてしょうがない。そんな顔をしていました。」

その時の情景を思い出したのか、ギュッと資料を抱きしめて俯くサク。

「思ったんです。せめて、ほんの少しでも力になれないかって。」

サクは顔を上げた。
その目は昔でも今でも無い何かを見つめるようで、双樹はそれを眩しく思う。

「少し、下に降りませんか?」

笑顔で告げるサク。
少し困惑したように双樹は頷いた。
膝を折るアメショー。
地に降りるとサクはとたとたと小走りに桜並木を歩いて行く。

「真さん真さん、こっちに来てください!」

双樹を手招きするサク。
双樹はやや困惑したまま、コックピットから飛び降りるとサクに走り寄った。

「どうしたんです?いきなり」

サクはふわりと笑うと空を指差した。

「上・・・?」

双樹はゆっくりとサクの指先を視線で追った。

「・・・!!」

そこにあったのは息をのむような風景。
抜けるような青と薄紅のコントラスト。
舞散る花びらが陽光に煌めきまるで一枚の絵画のような情景がそこにはあった。

「病院への道に、ちょっと楽しみがあればなって思ったんです。」

「これは・・・確かに楽しみになりますよ!絶対!!」

興奮気味に告げる双樹。

「そうして、これを見たみんなが、もう少しだけ頑張ってみよう。あと少し前を見てみよう。そう思ってくれたらいいなぁって。」

「きっと、なってくれますよ。きっと」

双樹は笑う。

「そう・・・ですかね」

サクも恥ずかしげに微笑んだ。

「さて、そろそろ次に行きましょうか。他が開花に間に合わなかったら嫌ですしね」

「ですねーでは行きましょうか。」

アメショーに乗り込む双樹をちらりと見たあと、サクは空を見上げた。
この桜は、これから何年も何年も咲き続けるだろう。
私たちがこの世界に必要でなくなって、去ることになったその後も。
銀一郎と銀二郎達が大人になったその後も。

「サクさーんいきますよー」

双樹の催促に歩き出すサク。

「はーい今行きますー」

きっと、ずっと咲き続けるだろうから。


(文:双樹 真)
(絵:矢神サク )




桜の雨が降っている。


何かを願うように、祈るように。
どこかの誰かの思いを乗せて、ひらひら、ひらひらと。
その下で、二匹の猫士がその花びらを見上げていた。

/*/

薄紅色の花が咲いている。
見たことのない花。
そもそもこの国は砂漠の国であり、植物というものに縁遠い感がある。
とはいえこの数年、技術の進歩か環境の変化か、それなりに植物の姿も見るようになってはいたのだけれど。

「それにしても綺麗だねぇ・・・」

隣で呆けたようにその花を見上げているのはついこの間政庁にやってきた新人・・・いや、新猫猫士タンジェリーナ。

「まぁ・・・確かに綺麗・・・だにゃ・・・」

だが寂しくもある光景だ。と夜星は思ったが口には出さない事にした。
それはあまりにも粋に欠けるし何より俺の大嫌いな馬鹿が似たような事を言っていたらしい。

「さくらってゆーらしいよこの花。フィクションノートの人がいってた」

さくら・・・ねぇ。

「聞いたことあるにゃ。あの馬鹿が一升瓶片手に、散る花を見て宴を開くのが作法だと言っていたようにゃ気がするにゃ」

「うたげ!おいしいものが食べられるかなぁ・・・」

「さぁ・・・わからにゃいにゃーしかし、復興の願いや追悼をこうもよわよわしい花に誓うにゃんて一体にゃにを考えているんだかにゃー」

ちょっとした風にも花弁を散らす弱い花。
小さな砂嵐の一つでも来てしまえばあっとゆう間にすべて散ってしまうだろう。

「弱い?」

しかしタンジェリーナは首をかしげてこちらを見ていた。

「んーだってよわいじゃにゃいか。今だってこんなそよ風に多くの花びらがちってしまってるしにゃ」

「しんにーちゃんはこの花は強いって言ってたよ?」

「強い?」

見る限り目の前の花を形容するにふさわしくない言葉に困惑する。
あいつのことだ。
ほらでも吹きこんだんだろうか。

「うん」

そんな俺の気も知らず、無邪気に頷くタンジェリーナ。
目を輝かせて、花を見上げて、言葉を続けた。

「この花は負けないんだって。何度散ろうが、どんな嵐に遭おうが次の年にはまた新しく、綺麗な花を咲かせるんだって。人と手を携えて、何どでも、何度でも」

「何度でも・・・」

「うん」


復興の象徴・・・ね。
祈り・・・かもしれない。
たまにはあいつも粋な事をする。

「綺麗だにゃ・・・」

桜を見上げて心からそう呟く。

「本当だねぇ・・・」

タンジェリーナも同じように。

「しかし、あいつが・・・真がそんな洒落たこといったのかにゃ?脳みそに蛆でもわいたのかもしれんにゃ・・・いや、桜だけに毛虫かもにゃ」

「えっとね、しんにーちゃんは夜星に話したら文句ゆーからこう言ってやれって」

「ん?」

「さくさんからの受け売りだ・・・だって。うけうりってなぁに?」

なるほど、心得た。
謎はすべて解けた。
後で奴には俺を感心させた償いをさせるとして、今はタンジェリーナのなぁに攻撃をなんとか回避せねばなるまい。

「えーっと、受け売りってゆーのはにゃ・・・」

/*/

桜の雨が降っている
何かを願うように、祈るように
どこかの誰かの思いを乗せて、ひらひら、ひらひらと
その様は、命のきらめきにも似て・・・。

(文:双樹 真)
(絵:矢神サク )





L:サクラの並木 = {
 t:名称 = サクラの並木(アイテム)
 t:要点 = 道,たくさんのサクラの樹,咲いているサクラ
 t:周辺環境 = 花に気付く通行人
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *サクラの並木のアイテムカテゴリ = 藩国保有アイテムとして扱う。
  *サクラの並木の効果1 = 藩国内にサクラの並木道を作る事ができる。
  *サクラの並木の効果2 = 花見もできるので自然や季節を愛でるようになる。
  *サクラの並木の効果3 = 人の集まる場所に植える事で治安を+1上昇させる
 }
 t:→次のアイドレス = サクラ花見ブーム到来(イベント)

◆スタッフリスト
桜設定:双樹 真
サクラ並木にまつわるお話:双樹 真、むつき・萩野・ドラケン、空馬
後日談:楠瀬 藍、浅葱空
イラスト:矢神サク(挿絵、Top)、むつき・萩野・ドラケン(End)
桜アイコン:むつき・萩野・ドラケン
構成:矢神サク
すぺさるさんくす:柾之花店さん、連邦のみんな
最終更新:2009年04月01日 22:44