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**第54話 白き煙の果てに 「おかしい…」 男は西に向かい歩を進めながら呟いていた。 彼の名はヴォックス。太陽の位置から察するにもうそろそろ昼になりそうな頃だ。 彼は謎の空間での惨劇の後気がついたら見知らぬ崖の近くに立っていた。 ひとまずこの殺し合いに乗るかどうかは保留とし一度相対しながらも自らの全てをぶつけることの出来なかった相手に 今度こそ全力で挑もうと決意してからかれこれ5、6時間経過していた。 短距離の移動はともかくある程度の距離の移動となると愛竜にまたがり空を駆けていた彼はこれほどの距離を歩いたのは久方ぶりだった。 そう彼は幸か不幸かゲーム開始からこれまで誰とも遭遇しなかった。 本当に自分以外の人間がいるのかとさえ思えてきた。 そんな中突如空に自分をこのゲームに巻き込んだ主催者と思わしき人物の姿が映し出された。 辺りに響き渡る声はヴォックスの主君であり甥のアーリーグリフ13世の声に酷似していた。 一人また一人とこのゲームの犠牲となった者の名が読み上げられる。 ヴォックスはこの与えられた情報を聞き逃すまいと耳を傾け自分の名簿から名前を読み上げられた者の名に×印をつけた。 (ほう、あのラーズバード親子は死んだのか) 敵対国家シーハーツの軍人である二人とは直接刃を交えたことは無かったが、同じ戦場に立ったことは幾度とあった。 (この二人にも私の本気を見せてやりたかったのだがな) そんなことを考えながら残りの死亡者の名前にも印をつけた。 なおも放送は続き禁止エリアが指定されていた。 (今朝から今までで13人かと言うと大体ゲームに乗った者もこのぐらいと考えるのが妥当か… それに禁止エリアか、これの存在で徐々に活動エリアを減らし生存者同士を遭遇させようと言うわけだな) 地図を広げ禁止エリアに印と禁止となる時刻を記入していた最中にあることを閃いた。 (この状況なら早めに医療品を確保したほうが後々有利に事を運べそうだな。) そう考えを巡らせたあと診療所に向かって歩き出したもう目的地はすぐそこにあった。 ふと見上げた空には少し前までの静寂が取り戻されていた。 ここは診療所の一室。 一人の女性が診察室のベッドに腰を掛けていた。 アルベルによって手傷を負わされたオペラは少し前になんとかこの診療所にたどり着いていた。 一通りこの診療所の中を探し回って使えそうな物をかき集めたが包帯、湿布、消毒用アルコールなど今の傷を完治させるには効果が薄いものばかりであった。 だが文句を言ってもいられないジャケットと上着を脱ぎ殴られた部分に湿布をあて包帯をきつく締めた。 「クッ」この痛みが先刻の苦い記憶を思い出させる。 (私の剣は確実に見切られていた…やっぱり使い慣れた武器が必要みたいね) 上着とジャケットを着なおし診療所の窓の外に広がる空を見上げ呟いた。 「エルは…エルは無事なのかしら」 そんな彼女の問いに答えるように突如として空は暗くなり男の姿が映し出された。 「こんにちわ諸君。このゲームが開始されてから六時間が経過した。 よって、諸君もお待ちかねの定時放送を行いたいと思う。 発表するのはここまでの死亡者の名前、そして禁止エリアだ。 では、まずは死亡者を発表しよう。 ジェラード、ミント・アドネード、デミテル、スフレ・ロセッティ、クレア・ラーズバード、フレイ 、ノエル・チャンドラー、ロウファ アドレー・ラーズバード、ガンツ・ロートシルト、 ルシオン・ヒューイットエルウェン、ダオス死者は以上の13名、これで残りは49人だな。 」 「よかった…エルはまだ無事なのね」 続いて発表された禁止エリアも聞いてはいたが最愛の人の無事の知らせに安堵した。 だがその嬉しさも半減していた。かつての仲間ノエル・チャンドラーは何者かの凶刃によって命を落としてしまったらしい。 彼と冒険した期間は短かったがそれでも彼の治癒の能力には何度も助けられたし サイナードを手に入れたときに自分も連れて行ってくれと言った時の決意に満ちた目はとても印象的だった。 (ノエル。優しいあなたの事だから仇をとってほしいなんて思ってないでしょうね。 だから寂しくないようにすぐ他の皆もあなたのところに送ってあげるわ。そして最後は私も…) そう考えていた途中でギィィとこの診療所のドアが開く音を耳にした。 (誰か来た?余り戦える状況じゃないけれどこの建物は全体的に薄暗いわ。不意をついて一撃で決めれば勝機はある) そう決意すると素早く身を隠した。 診療所のドアを開け敷居をまたいだ時魔眼のピアスによって広げられた感覚がこの建物の中に誰かいることを告げた。 彼は今待合室にいる。そこには黒い革の3人掛けのソファーが規則正しく並んでいた。 他には視界の遮る物はないがソファーの影から不意を衝かれてはかなわない、気配を探りつつソファーの下や裏を調べた。 (この部屋にはいないようだな) 彼はいつでも反撃できる様にエーテル・フローズンをその手に持って奥にある診療室の扉を開いた。 (身を隠すにはうってつけの場所じゃないか) この部屋には間仕切りやベッド、机に戸棚少し工夫すれば身を隠せそうな物がたくさんあった。 そんな中彼が気になったのは左にある間仕切りだった。 静かに間仕切りまで歩を進め一気に間仕切りを蹴飛ばした。目の前に人影のようなものが現れた。 「うおおおおおっ!」 不意に現れた人影に驚きながらも持っていたエーテル・フローズンでその人影の頭部を思いっきり殴打した。 ガシャーンと乾いた音が部屋中に響き渡りヴォックスの足元には頭部の左側が見事に砕け散った人体模型が転がっていた。 「なんだ、これは?全く驚かせおって」 そう悪態つくと気を取り直しこの部屋の捜索を再開した。 ベッドの中、机の下、棚の影、身を隠せそうなところは一通り探したが何もでてこなかった。 (次はあの奥の部屋だな) 診察室の奥にある扉を見据えるとそちらのほうに歩き出した。 そこは各種備品が納められているらしき部屋だった この部屋に足を踏み入れた瞬間自分の中の感覚が警戒するようにと告げた。 (どうやらこの部屋にいるようだな) 先ほど以上に神経を研ぎ澄まし部屋を見渡す。 まず目に入ったのが部屋の中央にある人間の骨格を模った標本だった。 その標本は体をこちらに向けていてその腕には自分にも支給されていたデイパックと同じデザインの物が抱えられていた。 (どう考えてもワナだな。おそらくこのデイパックを調べている時に後ろから不意を打つつもりだろう まぁいい、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。どこから来るかわかっていれば対処くらいできよう) そう決意すると標本に歩み寄り空いているほうの手でデイパックを掴んだ。 ここで一旦止まり周囲の気配を探るがまだ相手は動かないようだ。 大きく息を吸いデイパックの中身を検めようとしたその時カランッと背後から物音が聞こえた。 (やはり後ろか!) 勢いよく振り返り音の発生源を探る。だが後ろには何もなかった。 どうやら先ほど砕いた標本の欠片が発した音のようだ。その時ピアスの効果なのか感覚が(後ろだ)とヴォックスに告げた。 顔を標本の方に戻すと物陰から飛び出して来た金髪の女が今まさに自分に飛び掛って剣を振り下ろしていた。 咄嗟に持っていたエーテル・フローズンで女の剣を受け止める。 あと一瞬でも振り返るのが遅ければ確実に自分の体は両断されていたであろう見事な一撃だった。 相手の表情は驚きを隠せないでいた。 「おおおおぉぉぉっ!」 剣を少し高い位置で受け止める事でできたガードがガラ空きな脇腹にまわし蹴りを叩き込んだ。 「グゥッ」 女はくぐもった声を上げると前かがみとなり蹴りを入れた脇腹を押さえてその拍子に持っていた剣を床に落とした。 チャンスとばかりに全体重を乗せた体当たりを女にかまし後方に吹き飛ばし落ちた素早く剣を拾い上げ、立ち上がろうとする女に剣を向けた。 「勝負あったなお嬢さん。」 女は崩れた体制のままこちらを睨み付けていた。その表情は険しいながらも整っており普通にしていれば大層美人であろうことを感じさせた。 プロポーションも抜群でジャケットの下の上着から覗く胸の谷間、深いスリットからでている見事な太腿、この女性から放たれる色気に一瞬思考が止まった。 「どこ見てるのよ!」 女はそう叫びながらこちらに液体の入ったビンを投げつけてきた。 反応の遅れたヴォックスは顔面でそのビンを受けてしまった。 砕け散る破片と共にビンの中身の液体を上半身に被る。 (これは油の臭い?) 続けざまになにやらまた液体をかけられた。 ようやく定まった視点で女を捉える。 女は火を点けた包帯をこちらに投げつけてきていた、回避するこのもかなわずたちまち全身に炎が燃え広がる。 炎に怯んでいると正面から強い衝撃が襲ってきた。後ろに吹き飛ばされながらも剣は手放さなかった。 素早く床を転げ回り体を包む炎を消した。彼らエアードラゴン乗りは自分の竜が言う事を聞かないうちはよくブレスをかけられる あの程度の炎なら対処に慣れている。立ち上がり再度備品室に入ろうとしたところで女と目が合った。 ダァン!強くドアが閉められた。今のうちに逃走を試みたようだが諦めたらしい。 (もう奴には反撃に移る手段はあるまい。だがこの私に手傷を負わせてくれた礼はたっぷりとさせてもらわなければな!) カランッ診察室の方から聞こえてきた物音に反応し標的であるこの男は後ろに振り返った。 (今だ!) 素早く物陰から飛び出し剣を振り上げた。 氷川村ではプリン頭にかわされたが今度は仕留める事ができる。 そう確信していたが男は剣を振り下ろそうとしたその時にこちらに振り返ると剣を受け止めていた。 (なんで受け止められているの?) 彼女の得意とする獲物は銃。気配を絶ち相手を仕留める術は会得しているはずだった。 そんな思考を巡らせたおかげで相手に反撃を許してしまった。 鋭い蹴りが応急処置しか済ませていない脇腹を捉え激痛が全身に駆け巡った。 「グゥッ」 思わず剣を落とし脇腹を押さえてしまった。 (拾わなきゃ) 咄嗟に手を伸ばそうとしたが男は体当たりを仕掛けてきた。 後ろの壁に叩きつけられ意識が飛びそうになる。 何とか気絶せずには済んで立ち上がろうとしたが相手はすでにこちらに剣を向けていた。 男は不敵な笑みを浮かべながら 「勝負あったなお嬢さん。」と言った。 (まだ手は残されているわ) どこかに隙は出来ないものかと男を睨みつけた。 だがその男は私を品定めするかのような目でこちらを見ている。 その視線はスリットから出ている太腿に釘付けになっていた。 (これだから男は!) 惑星エクスペルでもこんな男たちが言い寄ってきた。 その都度うんざりしながらもライフルを発砲しあしらったものだった。 だがチャンスが巡ってきた。 「どこ見てるのよ!」 ジャケットのポケットに用意していたビンを鼻の下が伸びている男の顔面に投げつけた。 ビンは中に入れたランタン用のオイル撒き散らしながら砕けた。 直撃を受けた男の顔は仰け反っている。 もう片方のポケットからランタン用の油を取り出してありったけの量をぶちまけ あらかじめアルコールに浸しておいた包帯を丸めたものを着火し男に投げつけた。 一気にその炎は男の体を包む。 (このまま一気に畳み掛ける) 先ほどの復讐の意味も込めてオペラは目の前の男に体当たりをした。 男は診察室の方まで押し出された。 (今のうちに) そう思い逃げるべく部屋を出ようとしたが先程蹴られた脇腹から激痛が走りその場に倒れてしまった。 何とか痛みを堪えて立ち上がり逃げようと部屋を出ようとしたところで火を消し終えた男と目が合った。 (殺される) 本能的に男から発せられる鋭い殺気を感じ取り一歩後ずさりしてしまった。 この一歩のおかげで逃げる機会を無くしてしまったオペラは勢いよくドアを閉め、備品室内にある机やら棚やらでドアを押さえつけた。 (どこか出口は?) 部屋を見渡すが奇襲を仕掛けやすいようにと選んだこの部屋には外に続く窓などはなかった。 (万事休すってやつかしら) 観念しようとしたその時先程の男の視線を思い出し身ぶるいをした。 体を押さえた手がジャケットの中の何かに当たった。 (これは?) ジャケットからそれを取り出すとオペラはその存在を思い出した。 (そうだこれは最初の支給品の中にあったもので、あの時の戦いでも使ったことがあった玉手箱とかいうアイテム。 あの時は確か『どーじん』と『どーじん?』と『どーじん!』が出てきてパーティ全体の空気が微妙な事になったっけ。 私の命運を握っているのは間違いなくこのアイテム。神様なんているわけ無いと思って生きてきたけど、もしこれで起死回生のアイテムがでてくれるようなら私神様を信じる!) オペラは大きく深呼吸をすると(神様お願い)と強い祈りを込めながら玉手箱の蓋を開けた。箱からは白い煙が立ちのぼった。この煙の先にあるものは果たして。 【I-07 沖木島診療所 備品室内/真昼】 【オペラ・べクトラ】[MP残量:100%] [状態:右肋骨骨折:右わき腹打撲←処置済みでしたが悪化してます。] [装備:なし] [道具:玉手箱←現在使用中+荷物一式*2] [行動方針:参加者を殺し、エルネストを生き残らせる] [思考1:お願い神様! ] [思考2:出てきたものを駆使して何とかこの場切り抜ける] 【I-07沖木島診療所 診察室/真昼】 【本気ヴォックス】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP+魔眼のピアス@ラジアータストーリーズ] [道具:透器エーテル・フローズン@VP、ミトラの聖水@VP、荷物一式] [行動方針:フェイト一行と本気を出して決着をつける] [思考1:この女を殺す] [思考2:フェイト一行の捜索] [思考3:竜もあったらいいな] [思考4:ゲームに対して乗るかどうかは保留] 【残り49人】 ---- [[第53話>渇いた叫び]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第55話>君が望むなら僕は]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第29話>ある男の思考]]|ヴォックス|―| |[[第40話>続・止まらない受難]]|オペラ|―|
**第54話 白き煙の果てに 「おかしい…」 男は西に向かい歩を進めながら呟いていた。 彼の名はヴォックス。太陽の位置から察するにもうそろそろ昼になりそうな頃だ。 彼は謎の空間での惨劇の後気がついたら見知らぬ崖の近くに立っていた。 ひとまずこの殺し合いに乗るかどうかは保留とし一度相対しながらも自らの全てをぶつけることの出来なかった相手に 今度こそ全力で挑もうと決意してからかれこれ5、6時間経過していた。 短距離の移動はともかくある程度の距離の移動となると愛竜にまたがり空を駆けていた彼はこれほどの距離を歩いたのは久方ぶりだった。 そう彼は幸か不幸かゲーム開始からこれまで誰とも遭遇しなかった。 本当に自分以外の人間がいるのかとさえ思えてきた。 そんな中突如空に自分をこのゲームに巻き込んだ主催者と思わしき人物の姿が映し出された。 辺りに響き渡る声はヴォックスの主君であり甥のアーリーグリフ13世の声に酷似していた。 一人また一人とこのゲームの犠牲となった者の名が読み上げられる。 ヴォックスはこの与えられた情報を聞き逃すまいと耳を傾け自分の名簿から名前を読み上げられた者の名に×印をつけた。 (ほう、あのラーズバード親子は死んだのか) 敵対国家シーハーツの軍人である二人とは直接刃を交えたことは無かったが、同じ戦場に立ったことは幾度とあった。 (この二人にも私の本気を見せてやりたかったのだがな) そんなことを考えながら残りの死亡者の名前にも印をつけた。 なおも放送は続き禁止エリアが指定されていた。 (今朝から今までで13人かと言うと大体ゲームに乗った者もこのぐらいと考えるのが妥当か… それに禁止エリアか、これの存在で徐々に活動エリアを減らし生存者同士を遭遇させようと言うわけだな) 地図を広げ禁止エリアに印と禁止となる時刻を記入していた最中にあることを閃いた。 (この状況なら早めに医療品を確保したほうが後々有利に事を運べそうだな。) そう考えを巡らせたあと診療所に向かって歩き出したもう目的地はすぐそこにあった。 ふと見上げた空には少し前までの静寂が取り戻されていた。 ここは診療所の一室。 一人の女性が診察室のベッドに腰を掛けていた。 アルベルによって手傷を負わされたオペラは少し前になんとかこの診療所にたどり着いていた。 一通りこの診療所の中を探し回って使えそうな物をかき集めたが包帯、湿布、消毒用アルコールなど今の傷を完治させるには効果が薄いものばかりであった。 だが文句を言ってもいられないジャケットと上着を脱ぎ殴られた部分に湿布をあて包帯をきつく締めた。 「クッ」この痛みが先刻の苦い記憶を思い出させる。 (私の剣は確実に見切られていた…やっぱり使い慣れた武器が必要みたいね) 上着とジャケットを着なおし診療所の窓の外に広がる空を見上げ呟いた。 「エルは…エルは無事なのかしら」 そんな彼女の問いに答えるように突如として空は暗くなり男の姿が映し出された。 「こんにちわ諸君。このゲームが開始されてから六時間が経過した。 よって、諸君もお待ちかねの定時放送を行いたいと思う。 発表するのはここまでの死亡者の名前、そして禁止エリアだ。 では、まずは死亡者を発表しよう。 ジェラード、ミント・アドネード、デミテル、スフレ・ロセッティ、クレア・ラーズバード、フレイ 、ノエル・チャンドラー、ロウファ アドレー・ラーズバード、ガンツ・ロートシルト、 ルシオン・ヒューイットエルウェン、ダオス死者は以上の13名、これで残りは49人だな。 」 「よかった…エルはまだ無事なのね」 続いて発表された禁止エリアも聞いてはいたが最愛の人の無事の知らせに安堵した。 だがその嬉しさも半減していた。かつての仲間ノエル・チャンドラーは何者かの凶刃によって命を落としてしまったらしい。 彼と冒険した期間は短かったがそれでも彼の治癒の能力には何度も助けられたし サイナードを手に入れたときに自分も連れて行ってくれと言った時の決意に満ちた目はとても印象的だった。 (ノエル。優しいあなたの事だから仇をとってほしいなんて思ってないでしょうね。 だから寂しくないようにすぐ他の皆もあなたのところに送ってあげるわ。そして最後は私も…) そう考えていた途中でギィィとこの診療所のドアが開く音を耳にした。 (誰か来た?余り戦える状況じゃないけれどこの建物は全体的に薄暗いわ。不意をついて一撃で決めれば勝機はある) そう決意すると素早く身を隠した。 診療所のドアを開け敷居をまたいだ時魔眼のピアスによって広げられた感覚がこの建物の中に誰かいることを告げた。 彼は今待合室にいる。そこには黒い革の3人掛けのソファーが規則正しく並んでいた。 他には視界の遮る物はないがソファーの影から不意を衝かれてはかなわない、気配を探りつつソファーの下や裏を調べた。 (この部屋にはいないようだな) 彼はいつでも反撃できる様にエーテル・フローズンをその手に持って奥にある診療室の扉を開いた。 (身を隠すにはうってつけの場所じゃないか) この部屋には間仕切りやベッド、机に戸棚少し工夫すれば身を隠せそうな物がたくさんあった。 そんな中彼が気になったのは左にある間仕切りだった。 静かに間仕切りまで歩を進め一気に間仕切りを蹴飛ばした。目の前に人影のようなものが現れた。 「うおおおおおっ!」 不意に現れた人影に驚きながらも持っていたエーテル・フローズンでその人影の頭部を思いっきり殴打した。 ガシャーンと乾いた音が部屋中に響き渡りヴォックスの足元には頭部の左側が見事に砕け散った人体模型が転がっていた。 「なんだ、これは?全く驚かせおって」 そう悪態つくと気を取り直しこの部屋の捜索を再開した。 ベッドの中、机の下、棚の影、身を隠せそうなところは一通り探したが何もでてこなかった。 (次はあの奥の部屋だな) 診察室の奥にある扉を見据えるとそちらのほうに歩き出した。 そこは各種備品が納められているらしき部屋だった この部屋に足を踏み入れた瞬間自分の中の感覚が警戒するようにと告げた。 (どうやらこの部屋にいるようだな) 先ほど以上に神経を研ぎ澄まし部屋を見渡す。 まず目に入ったのが部屋の中央にある人間の骨格を模った標本だった。 その標本は体をこちらに向けていてその腕には自分にも支給されていたデイパックと同じデザインの物が抱えられていた。 (どう考えてもワナだな。おそらくこのデイパックを調べている時に後ろから不意を打つつもりだろう まぁいい、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。どこから来るかわかっていれば対処くらいできよう) そう決意すると標本に歩み寄り空いているほうの手でデイパックを掴んだ。 ここで一旦止まり周囲の気配を探るがまだ相手は動かないようだ。 大きく息を吸いデイパックの中身を検めようとしたその時カランッと背後から物音が聞こえた。 (やはり後ろか!) 勢いよく振り返り音の発生源を探る。だが後ろには何もなかった。 どうやら先ほど砕いた標本の欠片が発した音のようだ。その時ピアスの効果なのか感覚が(後ろだ)とヴォックスに告げた。 顔を標本の方に戻すと物陰から飛び出して来た金髪の女が今まさに自分に飛び掛って剣を振り下ろしていた。 咄嗟に持っていたエーテル・フローズンで女の剣を受け止める。 あと一瞬でも振り返るのが遅ければ確実に自分の体は両断されていたであろう見事な一撃だった。 相手の表情は驚きを隠せないでいた。 「おおおおぉぉぉっ!」 剣を少し高い位置で受け止める事でできたガードがガラ空きな脇腹にまわし蹴りを叩き込んだ。 「グゥッ」 女はくぐもった声を上げると前かがみとなり蹴りを入れた脇腹を押さえてその拍子に持っていた剣を床に落とした。 チャンスとばかりに全体重を乗せた体当たりを女にかまし後方に吹き飛ばし落ちた素早く剣を拾い上げ、立ち上がろうとする女に剣を向けた。 「勝負あったなお嬢さん。」 女は崩れた体制のままこちらを睨み付けていた。その表情は険しいながらも整っており普通にしていれば大層美人であろうことを感じさせた。 プロポーションも抜群でジャケットの下の上着から覗く胸の谷間、深いスリットからでている見事な太腿、この女性から放たれる色気に一瞬思考が止まった。 「どこ見てるのよ!」 女はそう叫びながらこちらに液体の入ったビンを投げつけてきた。 反応の遅れたヴォックスは顔面でそのビンを受けてしまった。 砕け散る破片と共にビンの中身の液体を上半身に被る。 (これは油の臭い?) 続けざまになにやらまた液体をかけられた。 ようやく定まった視点で女を捉える。 女は火を点けた包帯をこちらに投げつけてきていた、回避するこのもかなわずたちまち全身に炎が燃え広がる。 炎に怯んでいると正面から強い衝撃が襲ってきた。後ろに吹き飛ばされながらも剣は手放さなかった。 素早く床を転げ回り体を包む炎を消した。彼らエアードラゴン乗りは自分の竜が言う事を聞かないうちはよくブレスをかけられる あの程度の炎なら対処に慣れている。立ち上がり再度備品室に入ろうとしたところで女と目が合った。 ダァン!強くドアが閉められた。今のうちに逃走を試みたようだが諦めたらしい。 (もう奴には反撃に移る手段はあるまい。だがこの私に手傷を負わせてくれた礼はたっぷりとさせてもらわなければな!) カランッ診察室の方から聞こえてきた物音に反応し標的であるこの男は後ろに振り返った。 (今だ!) 素早く物陰から飛び出し剣を振り上げた。 氷川村ではプリン頭にかわされたが今度は仕留める事ができる。 そう確信していたが男は剣を振り下ろそうとしたその時にこちらに振り返ると剣を受け止めていた。 (なんで受け止められているの?) 彼女の得意とする獲物は銃。気配を絶ち相手を仕留める術は会得しているはずだった。 そんな思考を巡らせたおかげで相手に反撃を許してしまった。 鋭い蹴りが応急処置しか済ませていない脇腹を捉え激痛が全身に駆け巡った。 「グゥッ」 思わず剣を落とし脇腹を押さえてしまった。 (拾わなきゃ) 咄嗟に手を伸ばそうとしたが男は体当たりを仕掛けてきた。 後ろの壁に叩きつけられ意識が飛びそうになる。 何とか気絶せずには済んで立ち上がろうとしたが相手はすでにこちらに剣を向けていた。 男は不敵な笑みを浮かべながら 「勝負あったなお嬢さん。」と言った。 (まだ手は残されているわ) どこかに隙は出来ないものかと男を睨みつけた。 だがその男は私を品定めするかのような目でこちらを見ている。 その視線はスリットから出ている太腿に釘付けになっていた。 (これだから男は!) 惑星エクスペルでもこんな男たちが言い寄ってきた。 その都度うんざりしながらもライフルを発砲しあしらったものだった。 だがチャンスが巡ってきた。 「どこ見てるのよ!」 ジャケットのポケットに用意していたビンを鼻の下が伸びている男の顔面に投げつけた。 ビンは中に入れたランタン用のオイル撒き散らしながら砕けた。 直撃を受けた男の顔は仰け反っている。 もう片方のポケットからランタン用の油を取り出してありったけの量をぶちまけ あらかじめアルコールに浸しておいた包帯を丸めたものを着火し男に投げつけた。 一気にその炎は男の体を包む。 (このまま一気に畳み掛ける) 先ほどの復讐の意味も込めてオペラは目の前の男に体当たりをした。 男は診察室の方まで押し出された。 (今のうちに) そう思い逃げるべく部屋を出ようとしたが先程蹴られた脇腹から激痛が走りその場に倒れてしまった。 何とか痛みを堪えて立ち上がり逃げようと部屋を出ようとしたところで火を消し終えた男と目が合った。 (殺される) 本能的に男から発せられる鋭い殺気を感じ取り一歩後ずさりしてしまった。 この一歩のおかげで逃げる機会を無くしてしまったオペラは勢いよくドアを閉め、備品室内にある机やら棚やらでドアを押さえつけた。 (どこか出口は?) 部屋を見渡すが奇襲を仕掛けやすいようにと選んだこの部屋には外に続く窓などはなかった。 (万事休すってやつかしら) 観念しようとしたその時先程の男の視線を思い出し身ぶるいをした。 体を押さえた手がジャケットの中の何かに当たった。 (これは?) ジャケットからそれを取り出すとオペラはその存在を思い出した。 (そうだこれは最初の支給品の中にあったもので、あの時の戦いでも使ったことがあった玉手箱とかいうアイテム。 あの時は確か『どーじん』と『どーじん?』と『どーじん!』が出てきてパーティ全体の空気が微妙な事になったっけ。 私の命運を握っているのは間違いなくこのアイテム。神様なんているわけ無いと思って生きてきたけど、もしこれで起死回生のアイテムがでてくれるようなら私神様を信じる!) オペラは大きく深呼吸をすると(神様お願い)と強い祈りを込めながら玉手箱の蓋を開けた。箱からは白い煙が立ちのぼった。この煙の先にあるものは果たして。 【I-07 沖木島診療所 備品室内/真昼】 【オペラ・べクトラ】[MP残量:100%] [状態:右肋骨骨折:右わき腹打撲←処置済みでしたが悪化してます。] [装備:なし] [道具:玉手箱←現在使用中+荷物一式*2] [行動方針:参加者を殺し、エルネストを生き残らせる] [思考1:お願い神様! ] [思考2:出てきたものを駆使して何とかこの場切り抜ける] 【I-07沖木島診療所 診察室/真昼】 【本気ヴォックス】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP+魔眼のピアス@ラジアータストーリーズ] [道具:透器エーテル・フローズン@VP、ミトラの聖水@VP、荷物一式] [行動方針:フェイト一行と本気を出して決着をつける] [思考1:この女を殺す] [思考2:フェイト一行の捜索] [思考3:竜もあったらいいな] [思考4:ゲームに対して乗るかどうかは保留] 【残り49人】 ---- [[第53話>渇いた叫び]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第55話>君が望むなら僕は]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第29話>ある男の思考]]|ヴォックス|[[第56話>掴んだ1つの希望と2つの絶望?]]| 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