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追い詰められし者の牙」(2008/03/07 (金) 13:00:09) の最新版変更点

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**第74話 追い詰められし者の牙 「なめんなよ!死ぬ前にこのジェストーナ様の力、とくと目に焼き付けておけ!」 と威勢よく飛び出してはみたものの、やっぱりガブリエル超恐え~。 もうなんつーの? 身に纏うオーラからして格の違いを感じさせやがる。 だがしかし、男ジェストーナ、一度腹を括ったからには背中は見せねぇ。 こうなりゃ最初からクライマックスだぜ。 この俺様の鋼鉄をも引き裂くこの爪でミンチにしてやらぁー。 ザシュッ! 鋭い刃物で切り裂く音が聞こえた。 だが手応えが無い。確認するとガブリエルは傷一つついてない。 ありゃ?切れたのは服だけですか? 「この程度か?やはり魔物は魔物と言う事か…」 ひどく冷めた目で俺を睨むガブリエル。 「いけない離れて!」 そう叫んでこちらに駆け寄るセリーヌが助けた少女A(俺命名) 肝心のセリーヌは目をつぶって精神を集中なさってるご様子。 相変わらずの早口で詠唱してる。 その足元に無人君がのんきに手を振ってやがる。 やっぱり君は役に立たなかったね。 とか突っ込んでる場合じゃねぇ。 少女Aの援護もセリーヌの呪文もすぐに来そうにない。 つまり俺が、目の前の恐怖から逃れるには、俺自身でどうにかするしかないわけだ。 こうなりゃ奥の手だ。 地獄の業火と恐れられたこの火炎で。 「食らえ!」 放った火球でガブリエルが火だるまに………ならねぇ!? せいぜいガードに使った左腕の袖を焦がし、軽い火傷を負わした程度。 おいおい? 冗談だろ!? もうあれだよ? 俺のバトルフェイズは終わりだよ? 「多少芸はできる様だな? 他には何ができるんだ?」 だから終わりだっての。 「もう品切れか…。なら死ね!」 そう叫ぶやいなや手をかざすガブリエル。 その刹那。ガブリエルを中心にリング状の力場が広がった。 なにこれ? 痛っ! 超痛い! その力場に吹き飛ばされる俺「くぅっ!」「ああっ!」と他二名。 無人君だけはしゃがんでその力場をやり過ごしてやがった。あの野郎っ! しかしこれでわかった。 俺達には万が一にも勝ち目がねぇ。 だから、この二人には悪いがこのまま死んだ振りをしてやり過ごしさせてもらうぜ。 隙を見てとんずらだ。 卑怯者と罵りたければ罵りな。だがこれが、このジェストーナ様の処世術よ! と、誰に聞かせてるのかわからない言い訳じみたことを考えながら、ジェストーナはそれこそ死ぬ気になって死んだ振りを始めた。 肢閃刀を地面に突き刺し杖代わりに立ち上がるアリーシャ。 ちらりと左右を見る。 左には、先程魔法で自分の危機を救ってくれた、奇抜な服を着た女性が頭を押さえながら立ち上がっている。 (よかった。無事みたいね) 右には、果敢にも男に飛び掛かった一見凶悪な魔物が、身動き一つしないで倒れている。 (まさか? やられてしまったの?) ふと、死ぬ間際に見た光景が脳裏をよぎる。 オーディンの放った攻撃から、その身を呈し自分を守った深緑を思わせるような色した長髪、少し捻くれたハーフエルフの青年の後姿。 (また、私は誰かに守られてしまった。オーディンと戦った時もルーファスがその身を盾にして私をかばってくれた。 私が弱いから。傷つけたくないからと、泣き言を言っているから、私を守ろうとした人はみんな死んでしまう…) 「ふん、脆弱な。たかが魔物風情が出てくるからこうなるのだ」 燃えるような髪の色をした男が魔物に向かって吐き捨てた。 キッとその男を睨むアリーシャ。 (この人はオーディンと同じだ。強大な力を持ちながら、自分より弱い者達を虐げる事にその力を使う。 この人はこの島で生かしておいてはいけない人だ。今ここで止めないと、もっと多くの人を殺してしまう。 傷つきたくないとか、傷つけたくないとか言っている場合じゃない!) 刀を構え、バックからボーガンを取り出すと矢を装填した。 「詠唱時間は私が何とかします。貴方は魔法に集中してください!」 左にいる女性にそう告げる。女性は少し驚いたような表情を見せたが力強く頷きすぐさま詠唱を始めた。 それを見てアリーシャはボーガンの照準をガブリエルの頭に向け、矢を放った。 シュッと鋭い風切り音と共に射出された矢だったが、ガブリエルは少し首を反らしただけで回避した。 矢は背後の建物の壁に突き刺さった。 「やあぁぁぁっ!」 すかさず刀の間合いに飛び込むアリーシャ。 戦う事を嫌う彼女だったが、旅の中でそんな事も言って入られない。 不向きながらも自分の能力が活かせる戦い方を習得していた。 小柄な彼女は、持ち前の機敏さを活かした戦い方をする。 一撃は軽いがとにかく手数を入れる。 間髪いれずに攻撃し、その隙に重戦士による一撃か、術師による強力な魔法を見舞ってもらう。 今回も自然とその様な戦闘スタイルとなった。 刀を袈裟懸けに振り下ろす。 その太刀筋を見切りバックステップにてそれをかわすガブリエル。 すかさずアリーシャ目掛けて蹴りを放つ。 が、アリーシャはその蹴りを、体を捻り紙一重でかわしながら刺突を右の肩口に見舞った。 さして深い一撃ではなかったが、その肩口から出た血が肢閃刀を伝った。 「ちぃっ!」 大きく飛び退き間合いを離したガブリエルは、左手をかざしディバインウェーブを放とうとした。 「させないっ!」 身を低くし、地を這うように飛び掛かりガブリエルの足目掛けて刀を横薙ぎに払う。 アリーシャは今までのやり取りの中でフットワークならこの男に勝っていると確信していた。 ここで更に足に傷をつければより有利に戦えると思い、無理な体勢ながら足を狙った。 それにこの低さなら、この男の放つ力場もかわせると踏んだ。 ガブリエルはディバインウェーブを中断し、跳躍するとその攻撃をかわした。 足元にはうつ伏せ状態のアリーシャがいる。 その頭目掛けて足を振り下ろす。 アリーシャは転がり攻撃をかわし、立ち上がりざまに刀を振り上げた。 踏みつけようとしたところをかわされ隙が生じたガブリエルは、回避行動がとれず右腿に傷を負った。 そのまま返す刀を上段に構え、左足で踏み込むと共に振り下ろし追撃を加える。 この一撃は身を反らされ空を切った。 アリーシャはそのままその反動を利用し、体を回転させ右薙ぎに刀を大きく振り切る。 一撃目の振り下ろしは布石で本命はニ撃目であった。 だがガブリエルも十賢者の頂点に君臨する人物である。 場数もそれなりに踏んできている。 彼女の攻撃を先読みし、その横薙ぎを屈んで避けた。 続けざまに大振りの動作で開いた体に掌打を打ち込む。 「もらった!」 普通の相手なら当たっていただろうし、肋骨の数本はへし折る一撃だったが、かわされていた。 アリーシャはニ撃目をかわされるや否や、振りきった時に柄から離した左手で光子を2連射し、 ガブリエルの魔法によって作られた瓦礫に打ち込み転移した。 ガブリエルの掌打はアリーシャの肋骨の代わりに瓦礫を砕いていた。 すかさず間合いをつめるアリーシャ。 動きっぱなしでそろそろ息があがってきている。 (まだなの? このままではいつか反撃を許してしまう) だが、尚も果敢に攻めるアリーシャ。 鋭い踏み込みと共に無数の突きを浴びせる。 大きな動作を伴う攻撃はもう避けたい。 先程のような転移による回避は少々博打が過ぎる。 だが、この思考がいけなかった。 無数に細かい突きを放ってはいたが、どうしても攻撃のリズムが単調になってしまう。 ガブリエルはその旋律にあわせたステップを踏み、これらをことごとくかわした。 そしてガブリエルはアリーシャの疲れが出てきたその時を狙って刀の鍔元を握った。 刀の鍔元は刀身よりも切れ味に劣る。 「しまったっ!」 がっしりと握られ、押す事も引く事もできず驚愕の表情をするアリーシャ。 「離れてくださいませっ!」 背後で詠唱を続けていた女性から朗報が届いた。 すぐさま柄から手を離し、離れた位置にある瓦礫に光子を当て転移する。 「エクスプロード!」 ガブリエルの目の前に直径が人間の身長ほどありそうな火球が生じ、 それが徐々に大きくなりガブリエルを飲み込むと巨大な爆発を起こした。 それなりに離れた距離にいたものの、その熱風はすさまじく、息を吸えば肺が火傷しそうな程だった。 尚も爆発によって生じた煙が立ち昇る中、アリーシャはセリーヌのすぐ側まで駆け寄った。 「間一髪でした。ありがとうございます」 助けてもらった礼を言い、手を差し出す。 「申し遅れました私…」 だが彼女はこちらを見ようとはしない。視線は煙に固定したまま、額からは汗がにじみ出ている。 「まだですわ! 残念ですが自己紹介をする余裕はありませんわ!」 風が吹き、煙を払った。 そこにはまだあの男が立っていた。 爆発によるダメージを受けながら、尚も鋭い殺意と眼光をこちらに向けて。 アリーシャは驚いた。 これほどの威力の魔法を放つこの女性にもだが、それに耐え切ったこの男の底の見えない実力と生命力に。 「もう一度…。もう一度だけ、時間を稼いでくれませんこと? 今度はもっと強力な魔法をお見舞いしてやりますわ」 呆然とガブリエルを眺めていたアリーシャにセリーヌが告げた。 そう言った彼女の表情は硬く険しい。 アリーシャは自信が無かった。既にかなり疲弊していたし、扱いになれた刀剣タイプの武器は奪われてしまっている。 手元の武器は近接戦闘ではおよそ役に立ちそうに無いボーガンと、使用者と対峙した事はあるが扱ったことなど無い戦斧だけだ。 (けれど、やるしかない! 相手も疲れているだろうし、ダメージも残っているはず) 「わかりました。私の命を貴女に預けます。そして、貴女の命を預かります!」 バックからしまったセントハルバードを取り出し矛先を少し下げたような構えを取る。 矢を装填したボーガンは咄嗟に抜けるように腰帯に括りつけた。 「一蓮托生ってヤツですわね。よろしいですわ。私も貴女に命を預けますわ。私は何があっても詠唱を中断いたしません。 ですから、貴女も何があっても私の詠唱時間を稼いでくださいませ!」 セリーヌは目を瞑ると、体内の魔力を引き出しながら呪詛の言葉を紡ぎ始めた。 それと共に肌に彫りこんだ紋章が淡い光を放つ。 「わかりました。行きますっ!」 アリーシャは地面を蹴ると真っ直ぐ男に向かって行った。 その動きを見て男は左手をかざした。 (またあの攻撃がくる!) アリーシャはガブリエルと背後で詠唱をしているセリーヌとの間に立ち彼女の盾となった。 吹き飛ばされそうになるが、戦斧の石突を地面に突き刺し何とか踏ん張った。 力場の余波を受けたらしく、背後の女性は苦悶の表情を浮かべていた。 だが尚も詠唱を続けている。 再度間合いをつめるべく駆け抜けた。 ガブリエルを間合いに入れると、アリーシャは戦斧の柄の中程を持ち攻撃した。 リーチの差による優位は捨てがたいが、非力な自分の腕力ではうまく振り回せそうに無いからだ。 力いっぱい振り下ろしたがガブリエルは難なく手にした刀でそれを受け止め、はじき返した。 体勢を崩したアリーシャの首筋目掛けて刀を逆袈裟に振り下ろす。 何とかそれを柄の部分で捌くと、すかさず左手でボーガンを抜きガブリエル目掛けて引き金を絞る。 額目掛けて飛んできた矢を、ガブリエルは顔を反らし、寸でのところでかわした。 視線をアリーシャに戻した彼だったがその姿は既にそこにはない。 (どこだ?) 地面に突如影が現れた。咄嗟に振り向くと彼女は空中で戦斧に全体重を乗せた一撃を撃ち下ろそうとしていた。 アリーシャは矢を放つと素早くボーガンを捨て、その矢目掛けて光子を放ち転移していたのだった。 「やあああぁぁぁぁっ!!」 彼女の放つ一撃は天を裂く雷光の様に鋭く、激しい。 流石に受けきれないと判断したガブリエルはサイドステップでそれを回避した。 地面を深々と戦斧は切り裂いた。 「獲った!」 アリーシャの頭部目掛けて刀を唐竹に振り下ろす。 またも光子を撃ちだすアリーシャ。 今度の標的は一矢目の壁に突き刺した矢だった。 カブリエルの剣閃は矢を真っ二つにするだけにとどまった。 壁を蹴り一気に間合いをつめたアリーシャは戦斧をフルスイングした。 肢閃刀でそれを受け止めるガブリエル。 キィンッ!と金属同士がぶつかり合う音と共に火花が散る。 ガブリエルはそのまま剣を押し込み鍔迫り合いに持ち込んだ。 腕力と体重の差から見て負ける要素は無いからだ。 思惑通りに徐々に押し込んでいっている。 (そろそろまずい。あの女の詠唱が完了してしまう) そう判断すると刀を手前に引き、押し込まれまいと力を加えていたアリーシャの体勢を崩した。 すかさず彼女に足払いをかけ転倒させると、セリーヌ目掛けて刀を腰だめに構え突進した。 「まずは貴様からだ!セリーヌ・ジュレス!!」 地に伏せたアリーシャは背筋に冷たいものを感じた。 「いけない!」 この体勢ではガブリエルの行く手を阻めそうに無い。 これだけは最後の手段だったが迷っている暇など無かった。 アリーシャはセリーヌ目掛けて光子を連射した。 光子が命中したセリーヌは1射目で凍結、2射目で眩い光を放った。 ガブリエルはそれには構わず、刀を光の中にある人影に突き刺した。 確かな手応えを感じたガブリエルだったが、刀で突き刺した相手は先程まで対峙していた少女だった。 「貴様っ!あの女と入れ替わったのか!?」 刀を引き抜こうとするがその手を少女は力強く掴んで離さない。 「はい。もうこうする…しかなかったから…」 口からこぼれる言葉は擦れ始めていたが、手に込めた力は一向に緩くならない。 「人間同士の転移が可能ならば、私と入れ替われば…」 「それだと、ダメです…。あの人の魔法の…照準が定…まらないから」 「クソッ!放せっ!!」 ほぼ密着状態の上、右腕は刀傷によりまともに使えない。必死に体を振り動かすもこの少女は腕を放さない。 キィンッ!と金属同士がぶつかり合う音が前方から聞こえてきた。 (もう少し耐えてくださいませ) そう思いながらセリーヌは、己の中に秘めた魔力を込めながら自分の習得した最強の呪文『メテオスォーム』を放つため詠唱を続けていた。 続けてどさりと何かが地面に倒れる音が聞こえたかと思うと、何者かがものすごい勢いで近づいてくる気配を感じた。 目を開けて回避したい衝動に駆られたが、その衝動を押しとどめた。 (私が命を預けたあの娘は時間を稼ぐと約束してくれました。それに、私はあの娘の命を預かりました。 あの娘の命を救うにはガブリエルを今一度倒す他ありませんわ。だから私は詠唱をやめるわけにはいきませんの!) そう思った刹那。体に何か魔力のかたまりの様な物が触れたかと思うと、離れた位置で刃物が肉を突き刺す嫌な音が聞こえてきた。 「貴様っ!あの女と入れ替わったのか!?」 ガブリエルの叫びが聞こえる。 「はい。もうこうする…しかなかったから…」 あの娘の次第に擦れてくる声が聞こえる。 「人間同士の転移が可能ならば、私と入れ替われば…」 「それだと、ダメです…。あの人の魔法の…照準が定…まらないから」 「クソッ!放せっ!!」 尚も詠唱を続けるセリーヌ。もうまもなく術は完成する。 「刺し違えてでもこの私を倒したいかっ!?小娘!!」 「ええ…。貴方はこの暴力が支配する…島にいてはいけない…。 貴方の振りかざす拳は…、この殺し合いに…抗う者達の命を奪ってしまう…。私は…この島に来る…前、確かに死にました。 貴方の…様に、この殺し合いの…主催者の様に、強大な力を…己のために使い、弱者を虐げる…暴君を討つ為…戦って死にました…。 でも、気付くと…なぜかこの島にいました…。けどきっと…ここにいるのは意味があるのだ…と思います…。 最初はルーファスと…もう一度会って…ここから抜け出す事だと思って…いました。けれど、それは間違っていました…。 生前…果たす事の出来なかった…事を成す為。弱者を虐げる…者の蛮行を…止める為。きっと私は…ここにいる!  だから…私は貴方を止めるっ! 命を賭してでも…貴方を止めるっ!!」 (そこまでの覚悟がおありでしたのね…。ならば私も貴女の想いに応えます!) 最後の呪詛の言葉を紡ぎ術は完成した。 標的の再確認のため目を開く。 少女と一瞬目が合った。 (私に構わずこの男を倒してください!)と瞳が告げている。 体内に溜め込んだ精神力と魔力を解放し呪文を発動させた。 「メテオスォーム!!」 仮想空間のエクスペルの遺跡内部で見つけた呪文書に記されし、失われた太古の呪文にして最強の呪文。 次元を切り裂き無数の隕石を召喚して操る呪文。 隕石の全てを過去最大の敵であったであろう男目掛けて降り注がせた。 辺りにはエクスプロードの時以上に煙が昇っている。 地面には無数のクレーターが出来上がっている。 自身の放った呪文『メテオスォーム』の残した爪跡を見てセリーヌは身震いをした。 (相変わらずとんでもない呪文ですわ) 突如眩暈を感じその場に跪いた。 (いつも以上に堪えますわね。これも制限の影響ですのね) まだ精神力は枯渇してないが中級魔法一発も満足に撃てそうにない。 (これでも止めをさせてなければ…) 突然煙がはれた。 強い衝撃波がセリーヌを襲った。 (これは…?ガブリエルのディバインウェーブ!?) 大きく後方に弾き飛ばされるセリーヌ。 頭を振り、頭上を回る星を振り払って前を見据える。 はれた煙の向こうには、やはりガブリエルが立っていた。 その体には『エクスプロード』の時以上のダメージが見て取れたが、ガブリエルは尚も生きている。 少女の死体を自分に覆い被せ直撃を防いでいたらしい。 (実は光子で転移する為の一時的な凍結により詠唱が途絶え、 術が完全な威力を発揮することができなかった事もガブリエルを倒しきれなかった要因となっていた) ガブリエルは少女を貫いた刀を振り払い無造作に死体を抛った。 セリーヌは歯噛みした。 彼女の死体をゴミ同然に扱ったガブリエルに。 そして、それ以上に自分で任すようにと頼んでおきながら、仕留める事の出来なかった自分の無力さに。 「今の…は、かなり…堪えた…。だが、もう…仕舞いだ…。 いくら今…の私が傷ついて…いようが、壁役の…いない術師を始末…する事は…容易い」 一歩一歩とこちらに近づいてくるガブリエル。 彼の言うとおり前衛のいない術師は大した抵抗も出来ないだろう。 だがそれでもセリーヌは詠唱を始めた。 (私にはこれしかございませんものね。それに、ここで諦めてはあの娘に申し訳が立ちませんわ!  せめてもう一撃。でないと死んでも死に切れませんものっ!) そう思ったところでセリーヌの目に予想もしなかった光景が映った。 なんと、死んだと思っていたジェストーナが立ち上がり、ガブリエルを羽交い絞めにしているではないか。 羽交い絞めしたガブリエルが叫ぶ。 「貴様っ!!大人しく死んだ振りを続けていれば見逃してやったものを!」 あっ、やっぱばれてたか。 「何故今になってその様な真似を!?」 あぁ、なんでだろうな? 俺はもっと賢しく生きていたはずなんだけどなぁ。 ただ理由はなんとなく察しがつく。 俺は過去に子供を盾に取り、敵に自害を迫るという鬼畜な事をした。 何故かって?あいつらを止めないと俺がダオス様に殺されちまうからだ。 クレス一行を殺せと命じられれば何としてでも殺さねばならない。 例えどんな汚い手を使おうとな。 きっと草葉の陰で息子も泣いていたに違いない。 まぁ、息子はおろか嫁すらいなかったわけだが。 けどそんな事を本心からしたかったわけじゃなかったんだ。 そう、言うなれば俺もダオス様という強者に虐げられる弱者だったんだ。 生きるためには仕方が無い。ダオス様の命令に逆らったら死が待っている。イヤだがやるしかない。そんな想いがどこかにあった。 そしてそこに来て少女Aのセリフだ。 (生前…果たす事の出来なかった…事を成す為、弱者を虐げる…者の蛮行を…止める為、 きっと私は…ここにいる! だから…私は貴方を止めるっ! 命を賭してでも…貴方を止めるっ!!) 俺の抱えていた憤りに対して少女Aはそう言った。 もし少女Aと過去に出会っていたら、もしかしたら俺にも、まともな生き方が出来ていたのかもしれない。 それに、窮地を救ったとはいえ(主にセリーヌだが)見ず知らずの俺達(こっちも主にセリーヌだが)を信頼して命を賭けやがる。 こんな年端もいかない少女がだ。 そんな熱い想いを見せられて、このまま死体の振りを続ける程、俺様は腐っちゃいないぜ。 「放せ!この下等魔族が」 俺の戒めを解こうと、ものすごい力で暴れるガブリエル。 あのバカみたいな威力の呪文を食らって、死に掛けなんじゃねぇのかよ? 「へっ、確かに俺はあんたの言うような下等魔族かも知れねぇ。あんたに手も足も出せなかった下等魔族かも知れねぇ。 だがな、そんな俺でも呪文の詠唱時間を稼ぐことぐらいならできる。流石にその傷じゃあもう一発も耐えられねえだろ?  あんたはその下等魔族が稼いだ時間で死ぬんだ!」 「ちっ」 ガブリエルは悪態をつくと呪文の詠唱を始めた。 「無駄だ無駄だ。セリーヌの詠唱速度を侮っちゃあいけねえ。あの人より先に呪文を撃とうなんざ無理だね。 良くて同時発動で相打ち。普通に行けば発動することなくてめえは死ぬ」 呪文を完成させたらしいセリーヌがこちらを見て微笑みを浮かべている。 (ありがとうジェストーナ。あなたは良くやってくれたわ)とでも言いたげな表情だ。 恐らく俺も呪文に巻き込まれて死ぬだろう。 けど死ぬ前に見た光景が、これ程素敵な美女の微笑み(服装がかなり奇抜でぶっ飛んでいるが)なら俺は地縛霊となる事もなく天に召されるだろうさ。 そう思わせるほど魅力的な微笑みだった。 今目にしている光景を一枚の絵にしてタイトルを付けるなら、俺だったらこう付けるね『勝利の女神の微笑み』ってさ。 「スターライト!」 セリーヌが今唱えられる最大威力の呪文に、極限まで魔力を込め発動させたその次の瞬間。 「スターフレア!」 ガブリエルも呪文を発動させた。 星々の光の奔流が混ざり合い地表に降り注いだ。 その光は術者以外の全ての者をなぎ払った。 辺りに静寂が訪れた。 この場にただ一人立った勝者がつぶやいた。 「危険な…、賭けであった…」 ジェストーナに羽交い絞めにされ、セリーヌの詠唱を阻止できない絶望的な状態においてガブリエルは咄嗟に閃いた。 それは今戦っていた者達が、死を間際にして見せた最後の抗いに似ていた。 アリーシャはガブリエルの攻撃を阻止できないと悟ると、その身を犠牲にしてセリーヌを守った。 あまつさえその傷ついた体のどこに秘めているのか分からないような握力でガブリエルの自由を奪った。 セリーヌは前衛がいない絶望的な状況の中、不屈の闘志を見せガブリエルにせめて一噛み牙を突きたてようと呪文を唱えガブリエルを追い詰めた。 ジェストーナはそんな二人の姿に心を打たれ、自らも決死の覚悟を伴い時間を稼ごうと、 彼の生涯で恐らく最初で最後であったであろう、圧倒的な力の差を持つ者に逆らってみせた。 そんな追い詰められし者達の最後の抵抗が、力の差が歴然としている相手ガブリエルをとうとう追い詰めた。 だが、彼らが見せたようにガブリエルも最後の抵抗をした。 ガブリエルの場合、それはこの窮地を脱する閃きだった。 彼は紋章術同士の干渉を引き起こす事を思い立った。 紋章術の干渉とは、同属性または、それに近い属性。もしくは、対立する属性同士の紋章術がほぼ同時に発動した場合に起こる現象で、 威力の強い術の方が弱い術を飲み込んで、威力まで取り込み標的を襲う。 過去に戦った経験があるが、それでもあの場でセリーヌが放つ呪文の属性は予測する事しかできない。 仮に予測と一致したとしても、術の完成がもう少し遅かったりしたらこの現象は引き起こせなかった。 干渉を起こせても自分の術のほうが飲み込まれるリスクもあった。 そうなれば確実に自分が死んでいただろう。 一種の賭けであったがそれでも、あの状況はそれを狙わねばならぬ程切迫していた。 そして、閃きを実行し、その賭けに勝った。 その賭けの払い戻しとして敵を駆逐する事ができた。 「一寸の虫にも五分の魂とは、よく言ったものだな…。いや、この場合は窮鼠猫を噛むか…。 これからは、何か事を起こされる前に手早く始末すべきだな。」 ガブリエルは3つの死体の持つバックを戦利品として回収すると再び焼き場の建物の中に消えていった。 [現在位置:H-07 焼場建物内部/現在時刻:午後(もうまもなく夕方)] 【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:10%] 状態:右の二の腕を貫通する大きい傷。右腕は使えない。右肩口に浅い刺し傷。太ももに軽い切り傷。右太腿に切り傷。 左腕をはじめとする全身いたるところの火傷と打撲傷(ジェストーナの火炎、エクスプロード、メテオスォームによるもの) 装備:肢閃刀@SO3+ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界 道具:荷物一式 *4+セントハルバード@SO3+ボーガン@RS+矢*28本 +暗視機能付き望遠鏡@現実世界+????(0~2)(セリーヌからの戦利品) 行動方針:フィリアの居ない世界を跡形も無く消し去る 思考1:コンテニュー 思考2:参加者の人数が減るまで行動はしない 思考3:潜伏先に侵入者が現れた場合は排除する。その際は何か手を打たれるような暇も与えず殺す 思考4:体の傷を癒す 備考:3人の死体は焼き場前に放置されています。原形はとどめているので知人なら誰だか識別できるでしょう。 スターネックレス@SO2はセリーヌの首にかかったままです。 無人君は次なる主を求めどこかに逃げました。特にどこに向かった等は指定しませんので、使えると思った書き手の方使ってください。 &color(red){【アリーシャ@VP2 死亡】} &color(red){【セリーヌ・ジュレス@SO2 死亡】} &color(red){【ジェストーナ@TOP 死亡】} &color(red){【残り36人】} ---- [[第73話>対戦乙女用最終兵器]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第75話>断ち切る思い]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|ガブリエル|―| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|COLOR(red):アリーシャ|―| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|COLOR(red):セリーヌ|―| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|COLOR(red):ジェストーナ|―|
**第74話 追い詰められし者の牙 「なめんなよ!死ぬ前にこのジェストーナ様の力、とくと目に焼き付けておけ!」 と威勢よく飛び出してはみたものの、やっぱりガブリエル超恐え~。 もうなんつーの? 身に纏うオーラからして格の違いを感じさせやがる。 だがしかし、男ジェストーナ、一度腹を括ったからには背中は見せねぇ。 こうなりゃ最初からクライマックスだぜ。 この俺様の鋼鉄をも引き裂くこの爪でミンチにしてやらぁー。 ザシュッ! 鋭い刃物で切り裂く音が聞こえた。 だが手応えが無い。確認するとガブリエルは傷一つついてない。 ありゃ?切れたのは服だけですか? 「この程度か?やはり魔物は魔物と言う事か…」 ひどく冷めた目で俺を睨むガブリエル。 「いけない離れて!」 そう叫んでこちらに駆け寄るセリーヌが助けた少女A(俺命名) 肝心のセリーヌは目をつぶって精神を集中なさってるご様子。 相変わらずの早口で詠唱してる。 その足元に無人君がのんきに手を振ってやがる。 やっぱり君は役に立たなかったね。 とか突っ込んでる場合じゃねぇ。 少女Aの援護もセリーヌの呪文もすぐに来そうにない。 つまり俺が、目の前の恐怖から逃れるには、俺自身でどうにかするしかないわけだ。 こうなりゃ奥の手だ。 地獄の業火と恐れられたこの火炎で。 「食らえ!」 放った火球でガブリエルが火だるまに………ならねぇ!? せいぜいガードに使った左腕の袖を焦がし、軽い火傷を負わした程度。 おいおい? 冗談だろ!? もうあれだよ? 俺のバトルフェイズは終わりだよ? 「多少芸はできる様だな? 他には何ができるんだ?」 だから終わりだっての。 「もう品切れか…。なら死ね!」 そう叫ぶやいなや手をかざすガブリエル。 その刹那。ガブリエルを中心にリング状の力場が広がった。 なにこれ? 痛っ! 超痛い! その力場に吹き飛ばされる俺「くぅっ!」「ああっ!」と他二名。 無人君だけはしゃがんでその力場をやり過ごしてやがった。あの野郎っ! しかしこれでわかった。 俺達には万が一にも勝ち目がねぇ。 だから、この二人には悪いがこのまま死んだ振りをしてやり過ごしさせてもらうぜ。 隙を見てとんずらだ。 卑怯者と罵りたければ罵りな。だがこれが、このジェストーナ様の処世術よ! と、誰に聞かせてるのかわからない言い訳じみたことを考えながら、ジェストーナはそれこそ死ぬ気になって死んだ振りを始めた。 肢閃刀を地面に突き刺し杖代わりに立ち上がるアリーシャ。 ちらりと左右を見る。 左には、先程魔法で自分の危機を救ってくれた、奇抜な服を着た女性が頭を押さえながら立ち上がっている。 (よかった。無事みたいね) 右には、果敢にも男に飛び掛かった一見凶悪な魔物が、身動き一つしないで倒れている。 (まさか? やられてしまったの?) ふと、死ぬ間際に見た光景が脳裏をよぎる。 オーディンの放った攻撃から、その身を呈し自分を守った深緑を思わせるような色した長髪、少し捻くれたハーフエルフの青年の後姿。 (また、私は誰かに守られてしまった。オーディンと戦った時もルーファスがその身を盾にして私をかばってくれた。 私が弱いから。傷つけたくないからと、泣き言を言っているから、私を守ろうとした人はみんな死んでしまう…) 「ふん、脆弱な。たかが魔物風情が出てくるからこうなるのだ」 燃えるような髪の色をした男が魔物に向かって吐き捨てた。 キッとその男を睨むアリーシャ。 (この人はオーディンと同じだ。強大な力を持ちながら、自分より弱い者達を虐げる事にその力を使う。 この人はこの島で生かしておいてはいけない人だ。今ここで止めないと、もっと多くの人を殺してしまう。 傷つきたくないとか、傷つけたくないとか言っている場合じゃない!) 刀を構え、バックからボーガンを取り出すと矢を装填した。 「詠唱時間は私が何とかします。貴方は魔法に集中してください!」 左にいる女性にそう告げる。女性は少し驚いたような表情を見せたが力強く頷きすぐさま詠唱を始めた。 それを見てアリーシャはボーガンの照準をガブリエルの頭に向け、矢を放った。 シュッと鋭い風切り音と共に射出された矢だったが、ガブリエルは少し首を反らしただけで回避した。 矢は背後の建物の壁に突き刺さった。 「やあぁぁぁっ!」 すかさず刀の間合いに飛び込むアリーシャ。 戦う事を嫌う彼女だったが、旅の中でそんな事も言って入られない。 不向きながらも自分の能力が活かせる戦い方を習得していた。 小柄な彼女は、持ち前の機敏さを活かした戦い方をする。 一撃は軽いがとにかく手数を入れる。 間髪いれずに攻撃し、その隙に重戦士による一撃か、術師による強力な魔法を見舞ってもらう。 今回も自然とその様な戦闘スタイルとなった。 刀を袈裟懸けに振り下ろす。 その太刀筋を見切りバックステップにてそれをかわすガブリエル。 すかさずアリーシャ目掛けて蹴りを放つ。 が、アリーシャはその蹴りを、体を捻り紙一重でかわしながら刺突を右の肩口に見舞った。 さして深い一撃ではなかったが、その肩口から出た血が肢閃刀を伝った。 「ちぃっ!」 大きく飛び退き間合いを離したガブリエルは、左手をかざしディバインウェーブを放とうとした。 「させないっ!」 身を低くし、地を這うように飛び掛かりガブリエルの足目掛けて刀を横薙ぎに払う。 アリーシャは今までのやり取りの中でフットワークならこの男に勝っていると確信していた。 ここで更に足に傷をつければより有利に戦えると思い、無理な体勢ながら足を狙った。 それにこの低さなら、この男の放つ力場もかわせると踏んだ。 ガブリエルはディバインウェーブを中断し、跳躍するとその攻撃をかわした。 足元にはうつ伏せ状態のアリーシャがいる。 その頭目掛けて足を振り下ろす。 アリーシャは転がり攻撃をかわし、立ち上がりざまに刀を振り上げた。 踏みつけようとしたところをかわされ隙が生じたガブリエルは、回避行動がとれず右腿に傷を負った。 そのまま返す刀を上段に構え、左足で踏み込むと共に振り下ろし追撃を加える。 この一撃は身を反らされ空を切った。 アリーシャはそのままその反動を利用し、体を回転させ右薙ぎに刀を大きく振り切る。 一撃目の振り下ろしは布石で本命はニ撃目であった。 だがガブリエルも十賢者の頂点に君臨する人物である。 場数もそれなりに踏んできている。 彼女の攻撃を先読みし、その横薙ぎを屈んで避けた。 続けざまに大振りの動作で開いた体に掌打を打ち込む。 「もらった!」 普通の相手なら当たっていただろうし、肋骨の数本はへし折る一撃だったが、かわされていた。 アリーシャはニ撃目をかわされるや否や、振りきった時に柄から離した左手で光子を2連射し、 ガブリエルの魔法によって作られた瓦礫に打ち込み転移した。 ガブリエルの掌打はアリーシャの肋骨の代わりに瓦礫を砕いていた。 すかさず間合いをつめるアリーシャ。 動きっぱなしでそろそろ息があがってきている。 (まだなの? このままではいつか反撃を許してしまう) だが、尚も果敢に攻めるアリーシャ。 鋭い踏み込みと共に無数の突きを浴びせる。 大きな動作を伴う攻撃はもう避けたい。 先程のような転移による回避は少々博打が過ぎる。 だが、この思考がいけなかった。 無数に細かい突きを放ってはいたが、どうしても攻撃のリズムが単調になってしまう。 ガブリエルはその旋律にあわせたステップを踏み、これらをことごとくかわした。 そしてガブリエルはアリーシャの疲れが出てきたその時を狙って刀の鍔元を握った。 刀の鍔元は刀身よりも切れ味に劣る。 「しまったっ!」 がっしりと握られ、押す事も引く事もできず驚愕の表情をするアリーシャ。 「離れてくださいませっ!」 背後で詠唱を続けていた女性から朗報が届いた。 すぐさま柄から手を離し、離れた位置にある瓦礫に光子を当て転移する。 「エクスプロード!」 ガブリエルの目の前に直径が人間の身長ほどありそうな火球が生じ、 それが徐々に大きくなりガブリエルを飲み込むと巨大な爆発を起こした。 それなりに離れた距離にいたものの、その熱風はすさまじく、息を吸えば肺が火傷しそうな程だった。 尚も爆発によって生じた煙が立ち昇る中、アリーシャはセリーヌのすぐ側まで駆け寄った。 「間一髪でした。ありがとうございます」 助けてもらった礼を言い、手を差し出す。 「申し遅れました私…」 だが彼女はこちらを見ようとはしない。視線は煙に固定したまま、額からは汗がにじみ出ている。 「まだですわ! 残念ですが自己紹介をする余裕はありませんわ!」 風が吹き、煙を払った。 そこにはまだあの男が立っていた。 爆発によるダメージを受けながら、尚も鋭い殺意と眼光をこちらに向けて。 アリーシャは驚いた。 これほどの威力の魔法を放つこの女性にもだが、それに耐え切ったこの男の底の見えない実力と生命力に。 「もう一度…。もう一度だけ、時間を稼いでくれませんこと? 今度はもっと強力な魔法をお見舞いしてやりますわ」 呆然とガブリエルを眺めていたアリーシャにセリーヌが告げた。 そう言った彼女の表情は硬く険しい。 アリーシャは自信が無かった。既にかなり疲弊していたし、扱いになれた刀剣タイプの武器は奪われてしまっている。 手元の武器は近接戦闘ではおよそ役に立ちそうに無いボーガンと、使用者と対峙した事はあるが扱ったことなど無い戦斧だけだ。 (けれど、やるしかない! 相手も疲れているだろうし、ダメージも残っているはず) 「わかりました。私の命を貴女に預けます。そして、貴女の命を預かります!」 バックからしまったセントハルバードを取り出し矛先を少し下げたような構えを取る。 矢を装填したボーガンは咄嗟に抜けるように腰帯に括りつけた。 「一蓮托生ってヤツですわね。よろしいですわ。私も貴女に命を預けますわ。私は何があっても詠唱を中断いたしません。 ですから、貴女も何があっても私の詠唱時間を稼いでくださいませ!」 セリーヌは目を瞑ると、体内の魔力を引き出しながら呪詛の言葉を紡ぎ始めた。 それと共に肌に彫りこんだ紋章が淡い光を放つ。 「わかりました。行きますっ!」 アリーシャは地面を蹴ると真っ直ぐ男に向かって行った。 その動きを見て男は左手をかざした。 (またあの攻撃がくる!) アリーシャはガブリエルと背後で詠唱をしているセリーヌとの間に立ち彼女の盾となった。 吹き飛ばされそうになるが、戦斧の石突を地面に突き刺し何とか踏ん張った。 力場の余波を受けたらしく、背後の女性は苦悶の表情を浮かべていた。 だが尚も詠唱を続けている。 再度間合いをつめるべく駆け抜けた。 ガブリエルを間合いに入れると、アリーシャは戦斧の柄の中程を持ち攻撃した。 リーチの差による優位は捨てがたいが、非力な自分の腕力ではうまく振り回せそうに無いからだ。 力いっぱい振り下ろしたがガブリエルは難なく手にした刀でそれを受け止め、はじき返した。 体勢を崩したアリーシャの首筋目掛けて刀を逆袈裟に振り下ろす。 何とかそれを柄の部分で捌くと、すかさず左手でボーガンを抜きガブリエル目掛けて引き金を絞る。 額目掛けて飛んできた矢を、ガブリエルは顔を反らし、寸でのところでかわした。 視線をアリーシャに戻した彼だったがその姿は既にそこにはない。 (どこだ?) 地面に突如影が現れた。咄嗟に振り向くと彼女は空中で戦斧に全体重を乗せた一撃を撃ち下ろそうとしていた。 アリーシャは矢を放つと素早くボーガンを捨て、その矢目掛けて光子を放ち転移していたのだった。 「やあああぁぁぁぁっ!!」 彼女の放つ一撃は天を裂く雷光の様に鋭く、激しい。 流石に受けきれないと判断したガブリエルはサイドステップでそれを回避した。 地面を深々と戦斧は切り裂いた。 「獲った!」 アリーシャの頭部目掛けて刀を唐竹に振り下ろす。 またも光子を撃ちだすアリーシャ。 今度の標的は一矢目の壁に突き刺した矢だった。 カブリエルの剣閃は矢を真っ二つにするだけにとどまった。 壁を蹴り一気に間合いをつめたアリーシャは戦斧をフルスイングした。 肢閃刀でそれを受け止めるガブリエル。 キィンッ!と金属同士がぶつかり合う音と共に火花が散る。 ガブリエルはそのまま剣を押し込み鍔迫り合いに持ち込んだ。 腕力と体重の差から見て負ける要素は無いからだ。 思惑通りに徐々に押し込んでいっている。 (そろそろまずい。あの女の詠唱が完了してしまう) そう判断すると刀を手前に引き、押し込まれまいと力を加えていたアリーシャの体勢を崩した。 すかさず彼女に足払いをかけ転倒させると、セリーヌ目掛けて刀を腰だめに構え突進した。 「まずは貴様からだ!セリーヌ・ジュレス!!」 地に伏せたアリーシャは背筋に冷たいものを感じた。 「いけない!」 この体勢ではガブリエルの行く手を阻めそうに無い。 これだけは最後の手段だったが迷っている暇など無かった。 アリーシャはセリーヌ目掛けて光子を連射した。 光子が命中したセリーヌは1射目で凍結、2射目で眩い光を放った。 ガブリエルはそれには構わず、刀を光の中にある人影に突き刺した。 確かな手応えを感じたガブリエルだったが、刀で突き刺した相手は先程まで対峙していた少女だった。 「貴様っ!あの女と入れ替わったのか!?」 刀を引き抜こうとするがその手を少女は力強く掴んで離さない。 「はい。もうこうする…しかなかったから…」 口からこぼれる言葉は擦れ始めていたが、手に込めた力は一向に緩くならない。 「人間同士の転移が可能ならば、私と入れ替われば…」 「それだと、ダメです…。あの人の魔法の…照準が定…まらないから」 「クソッ!放せっ!!」 ほぼ密着状態の上、右腕は刀傷によりまともに使えない。必死に体を振り動かすもこの少女は腕を放さない。 キィンッ!と金属同士がぶつかり合う音が前方から聞こえてきた。 (もう少し耐えてくださいませ) そう思いながらセリーヌは、己の中に秘めた魔力を込めながら自分の習得した最強の呪文『メテオスォーム』を放つため詠唱を続けていた。 続けてどさりと何かが地面に倒れる音が聞こえたかと思うと、何者かがものすごい勢いで近づいてくる気配を感じた。 目を開けて回避したい衝動に駆られたが、その衝動を押しとどめた。 (私が命を預けたあの娘は時間を稼ぐと約束してくれました。それに、私はあの娘の命を預かりました。 あの娘の命を救うにはガブリエルを今一度倒す他ありませんわ。だから私は詠唱をやめるわけにはいきませんの!) そう思った刹那。体に何か魔力のかたまりの様な物が触れたかと思うと、離れた位置で刃物が肉を突き刺す嫌な音が聞こえてきた。 「貴様っ!あの女と入れ替わったのか!?」 ガブリエルの叫びが聞こえる。 「はい。もうこうする…しかなかったから…」 あの娘の次第に擦れてくる声が聞こえる。 「人間同士の転移が可能ならば、私と入れ替われば…」 「それだと、ダメです…。あの人の魔法の…照準が定…まらないから」 「クソッ!放せっ!!」 尚も詠唱を続けるセリーヌ。もうまもなく術は完成する。 「刺し違えてでもこの私を倒したいかっ!?小娘!!」 「ええ…。貴方はこの暴力が支配する…島にいてはいけない…。 貴方の振りかざす拳は…、この殺し合いに…抗う者達の命を奪ってしまう…。私は…この島に来る…前、確かに死にました。 貴方の…様に、この殺し合いの…主催者の様に、強大な力を…己のために使い、弱者を虐げる…暴君を討つ為…戦って死にました…。 でも、気付くと…なぜかこの島にいました…。けどきっと…ここにいるのは意味があるのだ…と思います…。 最初はルーファスと…もう一度会って…ここから抜け出す事だと思って…いました。けれど、それは間違っていました…。 生前…果たす事の出来なかった…事を成す為。弱者を虐げる…者の蛮行を…止める為。きっと私は…ここにいる!  だから…私は貴方を止めるっ! 命を賭してでも…貴方を止めるっ!!」 (そこまでの覚悟がおありでしたのね…。ならば私も貴女の想いに応えます!) 最後の呪詛の言葉を紡ぎ術は完成した。 標的の再確認のため目を開く。 少女と一瞬目が合った。 (私に構わずこの男を倒してください!)と瞳が告げている。 体内に溜め込んだ精神力と魔力を解放し呪文を発動させた。 「メテオスォーム!!」 仮想空間のエクスペルの遺跡内部で見つけた呪文書に記されし、失われた太古の呪文にして最強の呪文。 次元を切り裂き無数の隕石を召喚して操る呪文。 隕石の全てを過去最大の敵であったであろう男目掛けて降り注がせた。 辺りにはエクスプロードの時以上に煙が昇っている。 地面には無数のクレーターが出来上がっている。 自身の放った呪文『メテオスォーム』の残した爪跡を見てセリーヌは身震いをした。 (相変わらずとんでもない呪文ですわ) 突如眩暈を感じその場に跪いた。 (いつも以上に堪えますわね。これも制限の影響ですのね) まだ精神力は枯渇してないが中級魔法一発も満足に撃てそうにない。 (これでも止めをさせてなければ…) 突然煙がはれた。 強い衝撃波がセリーヌを襲った。 (これは…?ガブリエルのディバインウェーブ!?) 大きく後方に弾き飛ばされるセリーヌ。 頭を振り、頭上を回る星を振り払って前を見据える。 はれた煙の向こうには、やはりガブリエルが立っていた。 その体には『エクスプロード』の時以上のダメージが見て取れたが、ガブリエルは尚も生きている。 少女の死体を自分に覆い被せ直撃を防いでいたらしい。 (実は光子で転移する為の一時的な凍結により詠唱が途絶え、 術が完全な威力を発揮することができなかった事もガブリエルを倒しきれなかった要因となっていた) ガブリエルは少女を貫いた刀を振り払い無造作に死体を抛った。 セリーヌは歯噛みした。 彼女の死体をゴミ同然に扱ったガブリエルに。 そして、それ以上に自分で任すようにと頼んでおきながら、仕留める事の出来なかった自分の無力さに。 「今の…は、かなり…堪えた…。だが、もう…仕舞いだ…。 いくら今…の私が傷ついて…いようが、壁役の…いない術師を始末…する事は…容易い」 一歩一歩とこちらに近づいてくるガブリエル。 彼の言うとおり前衛のいない術師は大した抵抗も出来ないだろう。 だがそれでもセリーヌは詠唱を始めた。 (私にはこれしかございませんものね。それに、ここで諦めてはあの娘に申し訳が立ちませんわ!  せめてもう一撃。でないと死んでも死に切れませんものっ!) そう思ったところでセリーヌの目に予想もしなかった光景が映った。 なんと、死んだと思っていたジェストーナが立ち上がり、ガブリエルを羽交い絞めにしているではないか。 羽交い絞めしたガブリエルが叫ぶ。 「貴様っ!!大人しく死んだ振りを続けていれば見逃してやったものを!」 あっ、やっぱばれてたか。 「何故今になってその様な真似を!?」 あぁ、なんでだろうな? 俺はもっと賢しく生きていたはずなんだけどなぁ。 ただ理由はなんとなく察しがつく。 俺は過去に子供を盾に取り、敵に自害を迫るという鬼畜な事をした。 何故かって?あいつらを止めないと俺がダオス様に殺されちまうからだ。 クレス一行を殺せと命じられれば何としてでも殺さねばならない。 例えどんな汚い手を使おうとな。 きっと草葉の陰で息子も泣いていたに違いない。 まぁ、息子はおろか嫁すらいなかったわけだが。 けどそんな事を本心からしたかったわけじゃなかったんだ。 そう、言うなれば俺もダオス様という強者に虐げられる弱者だったんだ。 生きるためには仕方が無い。ダオス様の命令に逆らったら死が待っている。イヤだがやるしかない。そんな想いがどこかにあった。 そしてそこに来て少女Aのセリフだ。 (生前…果たす事の出来なかった…事を成す為、弱者を虐げる…者の蛮行を…止める為、 きっと私は…ここにいる! だから…私は貴方を止めるっ! 命を賭してでも…貴方を止めるっ!!) 俺の抱えていた憤りに対して少女Aはそう言った。 もし少女Aと過去に出会っていたら、もしかしたら俺にも、まともな生き方が出来ていたのかもしれない。 それに、窮地を救ったとはいえ(主にセリーヌだが)見ず知らずの俺達(こっちも主にセリーヌだが)を信頼して命を賭けやがる。 こんな年端もいかない少女がだ。 そんな熱い想いを見せられて、このまま死体の振りを続ける程、俺様は腐っちゃいないぜ。 「放せ!この下等魔族が」 俺の戒めを解こうと、ものすごい力で暴れるガブリエル。 あのバカみたいな威力の呪文を食らって、死に掛けなんじゃねぇのかよ? 「へっ、確かに俺はあんたの言うような下等魔族かも知れねぇ。あんたに手も足も出せなかった下等魔族かも知れねぇ。 だがな、そんな俺でも呪文の詠唱時間を稼ぐことぐらいならできる。流石にその傷じゃあもう一発も耐えられねえだろ?  あんたはその下等魔族が稼いだ時間で死ぬんだ!」 「ちっ」 ガブリエルは悪態をつくと呪文の詠唱を始めた。 「無駄だ無駄だ。セリーヌの詠唱速度を侮っちゃあいけねえ。あの人より先に呪文を撃とうなんざ無理だね。 良くて同時発動で相打ち。普通に行けば発動することなくてめえは死ぬ」 呪文を完成させたらしいセリーヌがこちらを見て微笑みを浮かべている。 (ありがとうジェストーナ。あなたは良くやってくれたわ)とでも言いたげな表情だ。 恐らく俺も呪文に巻き込まれて死ぬだろう。 けど死ぬ前に見た光景が、これ程素敵な美女の微笑み(服装がかなり奇抜でぶっ飛んでいるが)なら俺は地縛霊となる事もなく天に召されるだろうさ。 そう思わせるほど魅力的な微笑みだった。 今目にしている光景を一枚の絵にしてタイトルを付けるなら、俺だったらこう付けるね『勝利の女神の微笑み』ってさ。 「スターライト!」 セリーヌが今唱えられる最大威力の呪文に、極限まで魔力を込め発動させたその次の瞬間。 「スターフレア!」 ガブリエルも呪文を発動させた。 星々の光の奔流が混ざり合い地表に降り注いだ。 その光は術者以外の全ての者をなぎ払った。 辺りに静寂が訪れた。 この場にただ一人立った勝者がつぶやいた。 「危険な…、賭けであった…」 ジェストーナに羽交い絞めにされ、セリーヌの詠唱を阻止できない絶望的な状態においてガブリエルは咄嗟に閃いた。 それは今戦っていた者達が、死を間際にして見せた最後の抗いに似ていた。 アリーシャはガブリエルの攻撃を阻止できないと悟ると、その身を犠牲にしてセリーヌを守った。 あまつさえその傷ついた体のどこに秘めているのか分からないような握力でガブリエルの自由を奪った。 セリーヌは前衛がいない絶望的な状況の中、不屈の闘志を見せガブリエルにせめて一噛み牙を突きたてようと呪文を唱えガブリエルを追い詰めた。 ジェストーナはそんな二人の姿に心を打たれ、自らも決死の覚悟を伴い時間を稼ごうと、 彼の生涯で恐らく最初で最後であったであろう、圧倒的な力の差を持つ者に逆らってみせた。 そんな追い詰められし者達の最後の抵抗が、力の差が歴然としている相手ガブリエルをとうとう追い詰めた。 だが、彼らが見せたようにガブリエルも最後の抵抗をした。 ガブリエルの場合、それはこの窮地を脱する閃きだった。 彼は紋章術同士の干渉を引き起こす事を思い立った。 紋章術の干渉とは、同属性または、それに近い属性。もしくは、対立する属性同士の紋章術がほぼ同時に発動した場合に起こる現象で、 威力の強い術の方が弱い術を飲み込んで、威力まで取り込み標的を襲う。 過去に戦った経験があるが、それでもあの場でセリーヌが放つ呪文の属性は予測する事しかできない。 仮に予測と一致したとしても、術の完成がもう少し遅かったりしたらこの現象は引き起こせなかった。 干渉を起こせても自分の術のほうが飲み込まれるリスクもあった。 そうなれば確実に自分が死んでいただろう。 一種の賭けであったがそれでも、あの状況はそれを狙わねばならぬ程切迫していた。 そして、閃きを実行し、その賭けに勝った。 その賭けの払い戻しとして敵を駆逐する事ができた。 「一寸の虫にも五分の魂とは、よく言ったものだな…。いや、この場合は窮鼠猫を噛むか…。 これからは、何か事を起こされる前に手早く始末すべきだな。」 ガブリエルは3つの死体の持つバックを戦利品として回収すると再び焼き場の建物の中に消えていった。 [現在位置:H-07 焼場建物内部/現在時刻:午後(もうまもなく夕方)] 【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:10%] 状態:右の二の腕を貫通する大きい傷。右腕は使えない。右肩口に浅い刺し傷。太ももに軽い切り傷。右太腿に切り傷。 左腕をはじめとする全身いたるところの火傷と打撲傷(ジェストーナの火炎、エクスプロード、メテオスォームによるもの) 装備:肢閃刀@SO3+ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界 道具:荷物一式 *4+セントハルバード@SO3+ボーガン@RS+矢*28本 +暗視機能付き望遠鏡@現実世界+????(0~2)(セリーヌからの戦利品) 行動方針:フィリアの居ない世界を跡形も無く消し去る 思考1:コンテニュー 思考2:参加者の人数が減るまで行動はしない 思考3:潜伏先に侵入者が現れた場合は排除する。その際は何か手を打たれるような暇も与えず殺す 思考4:体の傷を癒す 備考:3人の死体は焼き場前に放置されています。原形はとどめているので知人なら誰だか識別できるでしょう。 スターネックレス@SO2はセリーヌの首にかかったままです。 無人君は次なる主を求めどこかに逃げました。特にどこに向かった等は指定しませんので、使えると思った書き手の方使ってください。 &color(red){【アリーシャ@VP2 死亡】} &color(red){【セリーヌ・ジュレス@SO2 死亡】} &color(red){【ジェストーナ@TOP 死亡】} &color(red){【残り36人】} ---- [[第73話>対戦乙女用最終兵器]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第75話>断ち切る思い]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|ガブリエル|[[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|COLOR(red):アリーシャ|―| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|COLOR(red):セリーヌ|―| |[[第64話>人は困難を乗り越えて強くなる。魔物は知らん]]|COLOR(red):ジェストーナ|―|

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