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もしも願いが叶うなら」(2011/10/20 (木) 08:48:21) の最新版変更点

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**第94話 もしも願いが叶うなら 訳が分からなかった。 ジャックがあたしの所へ来て。 最初はあたしを殺すつもりで来たのかと思ったけど。 ジャックはそんなつもりは全然無かったみたいで。 私に、一緒にルシファーを倒そうと言ってくれた。 でも…。 いきなりだった。 ボンって音がしたと思ったら、ジャックが突然倒れて。 そしてジャックの首から上が無くなってることに気付いて。 叫ばずにはいられなかった。 その直後に、誰かの声がして。 あたしはその場から逃げ出した。 何でジャックが死んだのか。何で逃げ出したのか。 全部分からない。 もう自分が何をしてるのか、何を考えているのかも分からなかった。 遅い。遅すぎる。 クロードは木々の枝の隙間から暗くなった空を見上げ、ジャックを待っていた。 しかし彼がアーチェの所へ向かってから既に二十分近く経っている。 探知機で見たアーチェの位置は決して遠くなかったし、そろそろ何らかの反応があってもいいはずだ。 まさか道に迷ったって事は…いやさすがにそれは無いだろう。…多分。 それでもジャックと別れた時に感じた不安がどうしても消えない。 (ジャックは自分より先に見つかるなって言っていたけど…) やはり心配だ。自分も行ってみることにしよう。 説得中でも、見つからないように遠くから様子を見ていれば大丈夫だろう。 物音を立てないよう、注意深く歩きながらジャック達(がいると思われる)方向へ向かった。 (そろそろだよな?) 月明かりを頼りにクロードは地図を見る。 アーチェと思われる光点があったのは、F-03、F-04、G-03、G-04と4つのエリアの境界が交差する位置だった。 かなり近づいてきている筈だが話し声や物音も一向に聞こえてこない。 あれだけ大声で喋っていたジャックの事だ、説得の際も大声を上げていると思っていたが…。 ここなら彼らと合流後、分校に行く事も容易だ。いや、彼らが仲間になってくれるなら分校よりホテルへ向かうべきか。 そんな事を考えながら歩いていた時だった。 「きゃああーっ!」 突如、クロードの耳に女性と思われる悲鳴が飛び込んできた。 (い、今のは…!?) 「ジャック?」 悲鳴がした方に問いかける。だが返事は来ない。 その代わりにと言わんばかりに人が走っていくような足音がした。 そしてその音は遠ざかっていく。 (まさか!?) 嫌な予感が膨れあがる。クロードはすぐに声がした方向へと走った。 そこで彼が見たのは、うつ伏せに倒れていた死体だった。 「ジャ、ジャック――――!?」 その死体は首から上が吹き飛んでいたが、着ている服からジャックだと分かる。 クロードが慌てて駆けつける。だが死体に近づいた時、クロードの付けている首輪から音声が発せられた。 『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』 「な、何だって!?」 聞こえてきた声に思わず後ずさる。ほんの少し下がった所で音はやんだ。 すぐにコンパスと地図を取りだして現在位置を確認する。 (さっきまで僕がいたのはG-04…ここがさっきまでアーチェがいた場所だとするとF-03、F-04、G-03、G-04の交点近くか…。 て事は、G-03が禁止エリアって事か?) だとすると、ジャックは禁止エリアに入った事で首輪が爆発して死に至ったのだろうか? いや、今自分自身が禁止エリアに進入したが、首輪からは警告音声が発せられていた。 三十秒以内にエリアから脱出できなかったのか?しかし警告はエリアに入ってすぐに出されるのだからそれも無いか…。 それよりここにいた筈のアーチェはどこに行った?さっき聞こえた人の声は彼女のものなのだろうか? もしかしたら、ジャックを殺したのは…。 …ダメだ。状況に混乱して冷静な思考ができない。 とにかくハッキリしているのはジャックが死んでしまった事。そして、アーチェはここにはいない事。 自分の誤解が解けたかどうかも分からない。 (ジャック…) 改めてジャックの遺体を見る。ほんの僅かな間だけだったが、この殺し合いで初めてまともにコミュニケーションを取れた相手だ。 少し抜けた所もあるが、正義感の強い頼りになりそうな人間だった。 そんな彼の遺体をこのままにしておくのは気が引ける。 クロードは再度ジャックの遺体の下へ向かった。 首輪から警告音が出るが気にしない。三十秒間は大丈夫なんだ。 遺体とジャックの荷物を担いで禁止エリア外に出る。 吹き飛んだ首から上の部分はあまり見ないようにして、上から土を被せた。 「ジャック…君の無念は僕が晴らす。アーチェも、リドリーって子も助けてみせるから…」 遺品となってしまった首輪探知機を見てみると、自分の付近に光点がある。 恐らくこれがアーチェだろう。 (だけど一人で行って、僕の話を聞いてくれるのか…?) 頼みの綱だったジャックを失い、あんなに怯えた様子だったアーチェを自分一人で説得できるだろうか? だがこのまま彼女を放っておく訳にもいかない。自分の為にも、ジャックの為にも。 どの道分校へ行くという手段は無くなったんだ。 クロードがアーチェを追おうと一歩を踏み出した、その時。 「あれは…!?」 北の夜空に、地面から煙のようなものが立ち上っているのが見えた。 あの方向には確かホテルがあったはず。 ホテルの方角から煙…。嫌な思考がクロードの頭の中を支配する。 まだあそこにはチサト達がいるかもしれないのだ。もし彼女に何かあったら…。 こうしてはいられない、すぐにホテルへ戻らなければ。 クロードは走り出すが、しかしまた一歩を踏み出した所で足を止めてしまう。 今自分がホテルへ行ったらどうなる? まだチサト達の誤解を解ける人も見つけていない。例え駆けつけたところで話がこじれるだけではないのか? それに、アーチェを放っておいたらまた誤情報が広まるかもしれない。 これ以上自分に無実の罪を着せられるわけには…。 バシッ!とクロードは自分の両頬を叩いた。 (しっかりしろクロード・C・ケニー!お前はこの期に及んで、自分の保身を一番に考えるのか!?) 仲間が危ないかもしれないのだ。自分が疑われる?危険になる?そんなの関係無いだろ! 既に三人の仲間を失っている。これ以上仲間を失わずにすむなら、自分の事なんてどうでもいいんだ! クロードは後ろを振り返り、ジャックを埋葬した場所に頭を下げる。 「ごめんジャック。でも、僕の仲間が危ないかもしれないんだ。チサトさん達を助けたら、絶対アーチェも助けに向かうから」 一礼をすると、クロードはホテルへと真っ直ぐに走り出した。 【F-04/夜】 【クロード・C・ケニー】[MP残量:85%] [状態:右肩に裂傷(応急処置済み、武器を振り回すには難あり)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)] [装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード] [道具:昂魔の鏡@VP、レーザーウェポン(形状:初期状態)、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)] [行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す] [思考1:ホテル跡へ向かい、チサト達を助けて誤解を解く] [思考2:チサト達の安否を確認した後、アーチェを追って誤解を解く] [思考3:第一回放送の禁止エリアの把握] [思考4:リドリーを探してみる] [思考5:アーチェの行動に疑問] [現在位置:F-04、森] [備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません] [備考2:第一回放送の内容の内、死亡者とG-03が禁止エリアという事は把握] ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「う、ううん…」 体が痛い。頭の中が朦朧としている。 だがこうして意識を保っているという事は、僕は無事なのだろうか? 「目が覚めた?」 マリアさんの声がする。 そうか。マリアさん、無事だったのか。 僕もこうして生きているって事は、あの男から逃げることが出来たのか…。 痛む頭を抑えながらクレスは起き上がった。 どうやら森の中のようだ。あの男に襲われた時、最後に力を振り絞って空間翔転移を放ったのは覚えているのだが…。 その後の記憶は全く無い。 既に周囲は暗くなり始めている。随分長い時間気を失っていたようだ。 「マリアさん、大丈夫でしたか?」 近くにいたマリアに話しかける。 「ええ、私は大丈夫。クレス君の方が遙かに重傷よ。自分の体を心配しなさい」 「あ、すいません」 「別に謝る事じゃないんだけど」 マリアはそう言うが、クレスは歯痒い思いだった。 ミントの死に動揺して、マリアを危険な目に合わせて。 結局襲ってきたあの男を倒すことも叶わず、離脱できたのはいいがここまでずっと気を失っていたなんて…。 (情けないな…) 自分は何をやっているのだろう。何がアルベイン流剣術師範代だ。何が時空剣士だ。 女性一人も、愛する人も守れずに。 「クレス君」 俯くクレスにマリアが話しかける。 「あまり自分を責めるのは止めなさい。少なくとも、私は貴方に命を助けられたわ。貴方もまだ生きている以上、出来ることがある筈よ。 今は落ち込んでる暇なんて無いわ。後悔するのはルシファーを倒してからにしなさい」 ピシャリとそう言い切るマリア。 クレスは無意識の内に思わず「は、はい」と返事をしてしまった。 どうもこの人には逆らえない。彼女が自分の母親と同じ名前である事も原因かもしれないが。 「ところで…僕はどの位気を失っていたんですか?もう結構遅い時間のようなんですけど…」 「大体4時間程度かしら?クレス君が目を覚ます少し前に二回目の放送があったから」 「放送が…!?」 クレスの顔に動揺の色が浮かぶ。 また誰か仲間の名前が呼ばれたのではないか。そう考えると気が気でない。 「安心して。クレス君の仲間の名前は呼ばれていないわ」 そんなクレスの心情を察したのか、マリアはそう前置きした。 そしてこれまでの経緯…自分達が転移した後、ボーマンという薬剤師に助けられた事などを話した後、放送内容を語った。 「これで26人…もうそんなに…」 確かに死亡者の中にクレスの仲間の名前は無かった。むしろ敵であるジェストーナの名前が呼ばれたのは朗報だ。 人質を取ったりと卑怯な手を使う奴だ、この殺し合いにも乗っていたに違いない。 実際は強敵を倒すために自ら犠牲になったなど、クレスは思いもしないだろう。 しかしチェスター達が無事なのは良かったが、命を落としてしまった13人の人達の事を考えると手放して喜ぶことはできない。 それに…。 「マリアさん…」 「どうしたの?」 「その…ロジャー君って子とネルさんという人は…」 そう、ロジャーとネル。放送で呼ばれたという彼らはマリアの仲間だったはずだ。 だがマリアには悲しんでいる様子はほとんど無い。 「私の事は心配しなくてもいいわ。それにお互い敵対していた人物も死んだようだし、悪い事ばかりじゃないわよ」 「…」 悲しくないんだろうか? いや、仲間が死んだのだ。幾らなんでも全く平気という訳では無いだろう。 そこまで冷酷な人とも思えないし、きっと心の中では――。 「もし自分の仲間が命を落としたとしても、それに耐える事ができる?」 マリアと会った時に聞かれた質問を思い出す。 あの時自分は「耐えてみせる」と言った。それなのにこのザマだ。 恐らく耐えているであろうマリアに申し訳が立たない。 あの時自分が言った事を思い出し、クレスは今一度決意を固めた。 ルシファーを倒すまで、絶対に自分は挫けないと。 「それじゃ悪いけど、すぐに移動を開始するわ」 「今からですか?」 「ええ、平瀬村へ向かうわよ。これから夜になって見通しが悪くなるし、いつまでも森の中へいるのは危険だわ」 「分かりました」 こうして二人は歩き出した。 森の中は見通しが悪く危険なため、注意深く辺りを見渡しながら進んでいく。 程なくして、二人は平瀬村まで到達した。 「どこか村内で拠点になりそうな所を探しましょうか」 「そうね。でも村は他の参加者に会える可能性も高いけど、敵も多く集まってくる可能性もあるわ。今まで以上に警戒するつもりでね」 特にクレス君は怪我もしてて武器も無いから特に用心する事」 「大丈夫ですよ。これでも少しは体術もできますし、武器が無くても多少は戦えます」 「そう。でも怪我をしてるのは変わらないのだから無理は禁物よ」 周辺は完全に闇に包まれている。ランタンなどを使えば多少明るくなるが、それではマーダーなどがいたら格好の獲物にされてしまう。 道を歩いていけば迷う事はないし、このままでいるのが得策だろう。 そして歩き始めて数分。 「クレ、ス…?」 背後からした少女の声にクレスは振り向く。 そこにいたのは、共に旅をした頼もしい仲間の一人。 底抜けに明るくて、パーティーのムードーメーカーだった少女。 アーチェ・クラインだった。 「アーチェ!無事だ…」 「クレス!クレスゥゥーー!!」 クレスが何かを言おうとする間も無く、アーチェは彼の下へと飛び込んできた。 「ちょ、ちょっと、アーチェ…」 「クレス…あ、あたし…ああ、あたし……!」 狼狽えるクレスだが、アーチェはそれをお構いなしといった風にクレスに抱きついたまま泣きじゃくった。 「…知り合い?」 背後からマリアが聞く。 「は、はい。僕の仲間です。アーチェといって…」 クレスはしどろもどろになりながら答えた。 そしてその最中、立て続けに再会が訪れる。 「クレス!」 聞こえた声の主は、頼もしい親友のものだった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『残った36人で張り切って殺し合ってくれたまえ…。フフッ、フハハハハハッ!』 ルシファーがそう言って二回目の放送は終わった。 午前中と同じく13人もの死者が出るなか、自分の知る名前が出なかったのは幸運だ。 だが喜べるわけがない。 犠牲者の中には子供や、戦う力の無い者がいたかもしれない。 そして今こうしている間にも命の危機に瀕している者がいるかもしれないのだ。 現にボーマンの話によると、クレスは怪我が酷いらしい。誰か、殺し合いに乗った奴と戦ったのだろうか? 「あのオッサンの話だと、この辺にいる筈なんだけどな…」 E-2の森までやって来てクレス達の姿を探すが、彼らを発見する事は出来ない。 その内に周囲は暗くなって、数m先も見るのが困難になってきた。 「もしかしたら、もう移動した後なのか?」 有り得ない話ではない。ボーマンは彼らと会ったと言ったがいつ会ったかは言っていない。 もしかしたら怪我も多少回復してどこかへ移動したという可能性も否めない。 チェスターは地図を広げ、もう僅かになった空の明かりを頼りにそれを見る。 「この周辺で移動しやすい箇所っていうと…やっぱ平瀬村だよな」 もし二人が移動済みだとしたら、やはりすぐ近くの村へ向かったと考えるのが妥当だろう。 元々平瀬村へ向かう予定だったのだ。それに運が良ければ昼間会ったルシオという男に再会できるかもしれない。 放送で名前が呼ばれてないのなら、彼もまだ生きている筈だ。 そしてやって来た平瀬村で、チェスターはクレスと再会する事となる。 しかも、彼だけでなく。 「アーチェ…お前も無事だったか!」 もう一人の大事な仲間とも。 良かった、本当に良かった。 ダオスを倒してから、一体どれほどこの時を待っていただろう。 ここまで色々な事があったけど。 例え今が殺し合いゲームの真っ直中だったとしても。 みんなに会えただけで、今までボロボロだったあたしの心は安心感に満たされていく。 あたしはこれまでの事を正直にみんなに話した。 最初にジャックに会ったこと。 得体の知れない男に襲われたこと。 ネルさんを誤って石化させてしまったこと。 そして金髪の男に襲われ…ジャックが目の前で死んでしまったこと。 全て話した。 ネルさんを石化させた話をした時、マリアという人の表情が一瞬変わったような気がしたけど、何も言わなかった。 「あの野郎、アーチェまで襲ってたのかよ!」 チェスターが何やら激高している。 こいつの話だとその金髪の男はクロードという名前で、分校で女の子を殺して燃やし、さらにホテルでも人を襲っていたみたい。 そんな奴に襲われて、よくあたしは無事でいられたなあ。 「大丈夫だよアーチェ。ミントの分まで僕達が頑張ってルシファーを倒してやろう」 クレスが励ましてくれる。 ミントが死んじゃって、一番悲しいのはクレスのはずなのに…。 「ネルは私の仲間だった人よ。でも、彼女は助けようとした人を恨むような人間じゃない事は保障するわ。安心しなさい」 やっぱりそうか。ネルさんとマリアは知り合いだったんだ。 彼女を殺しちゃったのはあたしなのに、マリアはあたしを許してくれるのだろうか? …ううん、許してくれなくてもいい。でもそういう言葉をかけてくれるのが嬉しかった。 「おいおいどうしたよ、何かいつものアーチェらしくないじゃねえか」 チェスターが軽口を叩く。 いつもなら速攻で言い返す所だけど、もう体がクタクタで言い返す気力が無い。 とりあえず休みたいなあ。 「はは、アーチェも疲れてるんだろ。ここまでずっと走りっぱなしだったんだから」 クレスがあたしとチェスターの間に入る。こんな光景も久しぶりね。 全く、チェスターも少しはクレスを見習って他人への気配りってのを考えてよね。 「そういえばアーチェ、君の荷物は?何も持って無いみたいだけど」 クレスに言われて、あたしは自分のバッグが無い事に気付く。 「あれ?どうしたんだろ…。どっかで落としちゃったのかなあ」 クロードから逃げるのに必死で、荷物の事なんてすっかり忘れていた。 まあそんな大した物も入ってなかったし、別にいいんだけど。 「落とした事にも気付かなかったのか?ホントに大丈夫かよ…。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」 そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。 「チェスター、それは?」 「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」 「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」 「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」 「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」 何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。 全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。 「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」 そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。 今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。 ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。 ミントやネルさん、…ジャックの分まで。 あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。 そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ どうなってんだよ。 これは体力が回復する薬じゃないのか? 何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ! どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ! 「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」 爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。 【F-02/夜中】 【クレス・アルベイン】[MP残量:30%] [状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、混乱] [装備:ポイズンチェック] [道具:なし] [行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる] [思考1:一体何が!?] [思考2:平瀬村を捜索] [思考3:武器を探す(できれば剣がいい)] [現在位置:平瀬村内北東部] 【マリア・トレイター】[MP残量:60%] [状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有、混乱] [装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2] [道具:荷物一式] [行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる] [思考1:状況の把握] [思考2:平瀬村の捜索] [思考3:他の仲間達と合流] [現在位置:平瀬村内北東部] 【チェスター・バークライト】[MP残量:100%] [状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的、精神的疲労(重度)、混乱] [装備:なし] [道具:エンプレシア@SO2、スーパーボール@SO2、チサトのメモ、荷物一式] [行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)] [思考:不明] [備考:チサトのメモにはまだ目を通してません] [現在位置:平瀬村内北東部] &color(red){【アーチェ・クライン 死亡】} &color(red){【残り31人】} ---- [[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第95話>カタストロフィーは想いとは裏腹に]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第92話>CROSS]]|クロード|[[第97話>不協和音]]| |[[第92話>CROSS]]|COLOR(red):アーチェ|―| |[[第70話>最後の良心?]]|マリア|[[第97話>不協和音]]| |[[第70話>最後の良心?]]|クレス|[[第97話>不協和音]]| |[[第85話>会えるといいね]]|チェスター|[[第97話>不協和音]]|
**第94話 もしも願いが叶うなら 訳が分からなかった。 ジャックがあたしの所へ来て。 最初はあたしを殺すつもりで来たのかと思ったけど。 ジャックはそんなつもりは全然無かったみたいで。 私に、一緒にルシファーを倒そうと言ってくれた。 でも…。 いきなりだった。 ボンって音がしたと思ったら、ジャックが突然倒れて。 そしてジャックの首から上が無くなってることに気付いて。 叫ばずにはいられなかった。 その直後に、誰かの声がして。 あたしはその場から逃げ出した。 何でジャックが死んだのか。何で逃げ出したのか。 全部分からない。 もう自分が何をしてるのか、何を考えているのかも分からなかった。 遅い。遅すぎる。 クロードは木々の枝の隙間から暗くなった空を見上げ、ジャックを待っていた。 しかし彼がアーチェの所へ向かってから既に二十分近く経っている。 探知機で見たアーチェの位置は決して遠くなかったし、そろそろ何らかの反応があってもいいはずだ。 まさか道に迷ったって事は…いやさすがにそれは無いだろう。…多分。 それでもジャックと別れた時に感じた不安がどうしても消えない。 (ジャックは自分より先に見つかるなって言っていたけど…) やはり心配だ。自分も行ってみることにしよう。 説得中でも、見つからないように遠くから様子を見ていれば大丈夫だろう。 物音を立てないよう、注意深く歩きながらジャック達(がいると思われる)方向へ向かった。 (そろそろだよな?) 月明かりを頼りにクロードは地図を見る。 アーチェと思われる光点があったのは、F-03、F-04、G-03、G-04と4つのエリアの境界が交差する位置だった。 かなり近づいてきている筈だが話し声や物音も一向に聞こえてこない。 あれだけ大声で喋っていたジャックの事だ、説得の際も大声を上げていると思っていたが…。 ここなら彼らと合流後、分校に行く事も容易だ。いや、彼らが仲間になってくれるなら分校よりホテルへ向かうべきか。 そんな事を考えながら歩いていた時だった。 「きゃああーっ!」 突如、クロードの耳に女性と思われる悲鳴が飛び込んできた。 (い、今のは…!?) 「ジャック?」 悲鳴がした方に問いかける。だが返事は来ない。 その代わりにと言わんばかりに人が走っていくような足音がした。 そしてその音は遠ざかっていく。 (まさか!?) 嫌な予感が膨れあがる。クロードはすぐに声がした方向へと走った。 そこで彼が見たのは、うつ伏せに倒れていた死体だった。 「ジャ、ジャック――――!?」 その死体は首から上が吹き飛んでいたが、着ている服からジャックだと分かる。 クロードが慌てて駆けつける。だが死体に近づいた時、クロードの付けている首輪から音声が発せられた。 『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』 「な、何だって!?」 聞こえてきた声に思わず後ずさる。ほんの少し下がった所で音はやんだ。 すぐにコンパスと地図を取りだして現在位置を確認する。 (さっきまで僕がいたのはG-04…ここがさっきまでアーチェがいた場所だとするとF-03、F-04、G-03、G-04の交点近くか…。 て事は、G-03が禁止エリアって事か?) だとすると、ジャックは禁止エリアに入った事で首輪が爆発して死に至ったのだろうか? いや、今自分自身が禁止エリアに進入したが、首輪からは警告音声が発せられていた。 三十秒以内にエリアから脱出できなかったのか?しかし警告はエリアに入ってすぐに出されるのだからそれも無いか…。 それよりここにいた筈のアーチェはどこに行った?さっき聞こえた人の声は彼女のものなのだろうか? もしかしたら、ジャックを殺したのは…。 …ダメだ。状況に混乱して冷静な思考ができない。 とにかくハッキリしているのはジャックが死んでしまった事。そして、アーチェはここにはいない事。 自分の誤解が解けたかどうかも分からない。 (ジャック…) 改めてジャックの遺体を見る。ほんの僅かな間だけだったが、この殺し合いで初めてまともにコミュニケーションを取れた相手だ。 少し抜けた所もあるが、正義感の強い頼りになりそうな人間だった。 そんな彼の遺体をこのままにしておくのは気が引ける。 クロードは再度ジャックの遺体の下へ向かった。 首輪から警告音が出るが気にしない。三十秒間は大丈夫なんだ。 遺体とジャックの荷物を担いで禁止エリア外に出る。 吹き飛んだ首から上の部分はあまり見ないようにして、上から土を被せた。 「ジャック…君の無念は僕が晴らす。アーチェも、リドリーって子も助けてみせるから…」 遺品となってしまった首輪探知機を見てみると、自分の付近に光点がある。 恐らくこれがアーチェだろう。 (だけど一人で行って、僕の話を聞いてくれるのか…?) 頼みの綱だったジャックを失い、あんなに怯えた様子だったアーチェを自分一人で説得できるだろうか? だがこのまま彼女を放っておく訳にもいかない。自分の為にも、ジャックの為にも。 どの道分校へ行くという手段は無くなったんだ。 クロードがアーチェを追おうと一歩を踏み出した、その時。 「あれは…!?」 北の夜空に、地面から煙のようなものが立ち上っているのが見えた。 あの方向には確かホテルがあったはず。 ホテルの方角から煙…。嫌な思考がクロードの頭の中を支配する。 まだあそこにはチサト達がいるかもしれないのだ。もし彼女に何かあったら…。 こうしてはいられない、すぐにホテルへ戻らなければ。 クロードは走り出すが、しかしまた一歩を踏み出した所で足を止めてしまう。 今自分がホテルへ行ったらどうなる? まだチサト達の誤解を解ける人も見つけていない。例え駆けつけたところで話がこじれるだけではないのか? それに、アーチェを放っておいたらまた誤情報が広まるかもしれない。 これ以上自分に無実の罪を着せられるわけには…。 バシッ!とクロードは自分の両頬を叩いた。 (しっかりしろクロード・C・ケニー!お前はこの期に及んで、自分の保身を一番に考えるのか!?) 仲間が危ないかもしれないのだ。自分が疑われる?危険になる?そんなの関係無いだろ! 既に三人の仲間を失っている。これ以上仲間を失わずにすむなら、自分の事なんてどうでもいいんだ! クロードは後ろを振り返り、ジャックを埋葬した場所に頭を下げる。 「ごめんジャック。でも、僕の仲間が危ないかもしれないんだ。チサトさん達を助けたら、絶対アーチェも助けに向かうから」 一礼をすると、クロードはホテルへと真っ直ぐに走り出した。 【F-04/夜】 【クロード・C・ケニー】[MP残量:85%] [状態:右肩に裂傷(応急処置済み、武器を振り回すには難あり)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)] [装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード] [道具:昂魔の鏡@VP、レーザーウェポン(形状:初期状態)、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)] [行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す] [思考1:ホテル跡へ向かい、チサト達を助けて誤解を解く] [思考2:チサト達の安否を確認した後、アーチェを追って誤解を解く] [思考3:第一回放送の禁止エリアの把握] [思考4:リドリーを探してみる] [思考5:アーチェの行動に疑問] [現在位置:F-04、森] [備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません] [備考2:第一回放送の内容の内、死亡者とG-03が禁止エリアという事は把握] ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「う、ううん…」 体が痛い。頭の中が朦朧としている。 だがこうして意識を保っているという事は、僕は無事なのだろうか? 「目が覚めた?」 マリアさんの声がする。 そうか。マリアさん、無事だったのか。 僕もこうして生きているって事は、あの男から逃げることが出来たのか…。 痛む頭を抑えながらクレスは起き上がった。 どうやら森の中のようだ。あの男に襲われた時、最後に力を振り絞って空間翔転移を放ったのは覚えているのだが…。 その後の記憶は全く無い。 既に周囲は暗くなり始めている。随分長い時間気を失っていたようだ。 「マリアさん、大丈夫でしたか?」 近くにいたマリアに話しかける。 「ええ、私は大丈夫。クレス君の方が遙かに重傷よ。自分の体を心配しなさい」 「あ、すいません」 「別に謝る事じゃないんだけど」 マリアはそう言うが、クレスは歯痒い思いだった。 ミントの死に動揺して、マリアを危険な目に合わせて。 結局襲ってきたあの男を倒すことも叶わず、離脱できたのはいいがここまでずっと気を失っていたなんて…。 (情けないな…) 自分は何をやっているのだろう。何がアルベイン流剣術師範代だ。何が時空剣士だ。 女性一人も、愛する人も守れずに。 「クレス君」 俯くクレスにマリアが話しかける。 「あまり自分を責めるのは止めなさい。少なくとも、私は貴方に命を助けられたわ。貴方もまだ生きている以上、出来ることがある筈よ。 今は落ち込んでる暇なんて無いわ。後悔するのはルシファーを倒してからにしなさい」 ピシャリとそう言い切るマリア。 クレスは無意識の内に思わず「は、はい」と返事をしてしまった。 どうもこの人には逆らえない。彼女が自分の母親と同じ名前である事も原因かもしれないが。 「ところで…僕はどの位気を失っていたんですか?もう結構遅い時間のようなんですけど…」 「大体4時間程度かしら?クレス君が目を覚ます少し前に二回目の放送があったから」 「放送が…!?」 クレスの顔に動揺の色が浮かぶ。 また誰か仲間の名前が呼ばれたのではないか。そう考えると気が気でない。 「安心して。クレス君の仲間の名前は呼ばれていないわ」 そんなクレスの心情を察したのか、マリアはそう前置きした。 そしてこれまでの経緯…自分達が転移した後、ボーマンという薬剤師に助けられた事などを話した後、放送内容を語った。 「これで26人…もうそんなに…」 確かに死亡者の中にクレスの仲間の名前は無かった。むしろ敵であるジェストーナの名前が呼ばれたのは朗報だ。 人質を取ったりと卑怯な手を使う奴だ、この殺し合いにも乗っていたに違いない。 実際は強敵を倒すために自ら犠牲になったなど、クレスは思いもしないだろう。 しかしチェスター達が無事なのは良かったが、命を落としてしまった13人の人達の事を考えると手放して喜ぶことはできない。 それに…。 「マリアさん…」 「どうしたの?」 「その…ロジャー君って子とネルさんという人は…」 そう、ロジャーとネル。放送で呼ばれたという彼らはマリアの仲間だったはずだ。 だがマリアには悲しんでいる様子はほとんど無い。 「私の事は心配しなくてもいいわ。それにお互い敵対していた人物も死んだようだし、悪い事ばかりじゃないわよ」 「…」 悲しくないんだろうか? いや、仲間が死んだのだ。幾らなんでも全く平気という訳では無いだろう。 そこまで冷酷な人とも思えないし、きっと心の中では――。 「もし自分の仲間が命を落としたとしても、それに耐える事ができる?」 マリアと会った時に聞かれた質問を思い出す。 あの時自分は「耐えてみせる」と言った。それなのにこのザマだ。 恐らく耐えているであろうマリアに申し訳が立たない。 あの時自分が言った事を思い出し、クレスは今一度決意を固めた。 ルシファーを倒すまで、絶対に自分は挫けないと。 「それじゃ悪いけど、すぐに移動を開始するわ」 「今からですか?」 「ええ、平瀬村へ向かうわよ。これから夜になって見通しが悪くなるし、いつまでも森の中へいるのは危険だわ」 「分かりました」 こうして二人は歩き出した。 森の中は見通しが悪く危険なため、注意深く辺りを見渡しながら進んでいく。 程なくして、二人は平瀬村まで到達した。 「どこか村内で拠点になりそうな所を探しましょうか」 「そうね。でも村は他の参加者に会える可能性も高いけど、敵も多く集まってくる可能性もあるわ。今まで以上に警戒するつもりでね」 特にクレス君は怪我もしてて武器も無いから特に用心する事」 「大丈夫ですよ。これでも少しは体術もできますし、武器が無くても多少は戦えます」 「そう。でも怪我をしてるのは変わらないのだから無理は禁物よ」 周辺は完全に闇に包まれている。ランタンなどを使えば多少明るくなるが、それではマーダーなどがいたら格好の獲物にされてしまう。 道を歩いていけば迷う事はないし、このままでいるのが得策だろう。 そして歩き始めて数分。 「クレ、ス…?」 背後からした少女の声にクレスは振り向く。 そこにいたのは、共に旅をした頼もしい仲間の一人。 底抜けに明るくて、パーティーのムードーメーカーだった少女。 アーチェ・クラインだった。 「アーチェ!無事だ…」 「クレス!クレスゥゥーー!!」 クレスが何かを言おうとする間も無く、アーチェは彼の下へと飛び込んできた。 「ちょ、ちょっと、アーチェ…」 「クレス…あ、あたし…ああ、あたし……!」 狼狽えるクレスだが、アーチェはそれをお構いなしといった風にクレスに抱きついたまま泣きじゃくった。 「…知り合い?」 背後からマリアが聞く。 「は、はい。僕の仲間です。アーチェといって…」 クレスはしどろもどろになりながら答えた。 そしてその最中、立て続けに再会が訪れる。 「クレス!」 聞こえた声の主は、頼もしい親友のものだった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『残った36人で張り切って殺し合ってくれたまえ…。フフッ、フハハハハハッ!』 ルシファーがそう言って二回目の放送は終わった。 午前中と同じく13人もの死者が出るなか、自分の知る名前が出なかったのは幸運だ。 だが喜べるわけがない。 犠牲者の中には子供や、戦う力の無い者がいたかもしれない。 そして今こうしている間にも命の危機に瀕している者がいるかもしれないのだ。 現にボーマンの話によると、クレスは怪我が酷いらしい。誰か、殺し合いに乗った奴と戦ったのだろうか? 「あのオッサンの話だと、この辺にいる筈なんだけどな…」 E-2の森までやって来てクレス達の姿を探すが、彼らを発見する事は出来ない。 その内に周囲は暗くなって、数m先も見るのが困難になってきた。 「もしかしたら、もう移動した後なのか?」 有り得ない話ではない。ボーマンは彼らと会ったと言ったがいつ会ったかは言っていない。 もしかしたら怪我も多少回復してどこかへ移動したという可能性も否めない。 チェスターは地図を広げ、もう僅かになった空の明かりを頼りにそれを見る。 「この周辺で移動しやすい箇所っていうと…やっぱ平瀬村だよな」 もし二人が移動済みだとしたら、やはりすぐ近くの村へ向かったと考えるのが妥当だろう。 元々平瀬村へ向かう予定だったのだ。それに運が良ければ昼間会ったルシオという男に再会できるかもしれない。 放送で名前が呼ばれてないのなら、彼もまだ生きている筈だ。 そしてやって来た平瀬村で、チェスターはクレスと再会する事となる。 しかも、彼だけでなく。 「アーチェ…お前も無事だったか!」 もう一人の大事な仲間とも。 良かった、本当に良かった。 ダオスを倒してから、一体どれほどこの時を待っていただろう。 ここまで色々な事があったけど。 例え今が殺し合いゲームの真っ直中だったとしても。 みんなに会えただけで、今までボロボロだったあたしの心は安心感に満たされていく。 あたしはこれまでの事を正直にみんなに話した。 最初にジャックに会ったこと。 得体の知れない男に襲われたこと。 ネルさんを誤って石化させてしまったこと。 そして金髪の男に襲われ…ジャックが目の前で死んでしまったこと。 全て話した。 ネルさんを石化させた話をした時、マリアという人の表情が一瞬変わったような気がしたけど、何も言わなかった。 「あの野郎、アーチェまで襲ってたのかよ!」 チェスターが何やら激高している。 こいつの話だとその金髪の男はクロードという名前で、分校で女の子を殺して燃やし、さらにホテルでも人を襲っていたみたい。 そんな奴に襲われて、よくあたしは無事でいられたなあ。 「大丈夫だよアーチェ。ミントの分まで僕達が頑張ってルシファーを倒してやろう」 クレスが励ましてくれる。 ミントが死んじゃって、一番悲しいのはクレスのはずなのに…。 「ネルは私の仲間だった人よ。でも、彼女は助けようとした人を恨むような人間じゃない事は保障するわ。安心しなさい」 やっぱりそうか。ネルさんとマリアは知り合いだったんだ。 彼女を殺しちゃったのはあたしなのに、マリアはあたしを許してくれるのだろうか? …ううん、許してくれなくてもいい。でもそういう言葉をかけてくれるのが嬉しかった。 「おいおいどうしたよ、何かいつものアーチェらしくないじゃねえか」 チェスターが軽口を叩く。 いつもなら速攻で言い返す所だけど、もう体がクタクタで言い返す気力が無い。 とりあえず休みたいなあ。 「はは、アーチェも疲れてるんだろ。ここまでずっと走りっぱなしだったんだから」 クレスがあたしとチェスターの間に入る。こんな光景も久しぶりね。 全く、チェスターも少しはクレスを見習って他人への気配りってのを考えてよね。 「そういえばアーチェ、君の荷物は?何も持って無いみたいだけど」 クレスに言われて、あたしは自分のバッグが無い事に気付く。 「あれ?どうしたんだろ…。どっかで落としちゃったのかなあ」 クロードから逃げるのに必死で、荷物の事なんてすっかり忘れていた。 まあそんな大した物も入ってなかったし、別にいいんだけど。 「落とした事にも気付かなかったのか?ホントに大丈夫かよ…。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」 そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。 「チェスター、それは?」 「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」 「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」 「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」 「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」 何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。 全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。 「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」 そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。 今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。 ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。 ミントやネルさん、…ジャックの分まで。 あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。 そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ どうなってんだよ。 これは体力が回復する薬じゃないのか? 何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ! どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ! 「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」 爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。 【F-02/夜中】 【クレス・アルベイン】[MP残量:30%] [状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、混乱] [装備:ポイズンチェック] [道具:なし] [行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる] [思考1:一体何が!?] [思考2:平瀬村を捜索] [思考3:武器を探す(できれば剣がいい)] [現在位置:平瀬村内北東部] 【マリア・トレイター】[MP残量:60%] [状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有、混乱] [装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2] [道具:荷物一式] [行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる] [思考1:状況の把握] [思考2:平瀬村の捜索] [思考3:他の仲間達と合流] [現在位置:平瀬村内北東部] 【チェスター・バークライト】[MP残量:100%] [状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的、精神的疲労(重度)、混乱] [装備:なし] [道具:エンプレシア@SO2、スーパーボール@SO2、チサトのメモ、荷物一式] [行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)] [思考:不明] [備考:チサトのメモにはまだ目を通してません] [現在位置:平瀬村内北東部] &color(red){【アーチェ・クライン 死亡】} &color(red){【残り31人】} ---- [[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第95話>カタストロフィーは想いとは裏腹に]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第92話>CROSS]]|クロード|[[第97話>不協和音]]| |[[第92話>CROSS]]|COLOR(red):アーチェ|[[第118話>鎌石村大乱戦 第二幕 ~龍を屠る赤き一撃~(前編)]]| |[[第70話>最後の良心?]]|マリア|[[第97話>不協和音]]| |[[第70話>最後の良心?]]|クレス|[[第97話>不協和音]]| |[[第85話>会えるといいね]]|チェスター|[[第97話>不協和音]]|

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