「カタストロフィーは想いとは裏腹に」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

カタストロフィーは想いとは裏腹に」(2008/10/30 (木) 07:31:36) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**第95話 カタストロフィーは想いとは裏腹に 「はあ…はあ…はあ…」 痛い。 胸が痛みで疼く。 つい半時間前に対峙したミラージュと呼ばれる女によって刻まれた傷が疼く。 肋骨を破壊された。人間業とはおもえないほど素早い踏み込みで付けられた傷。 相手が万全な状態だったら確実に骨を折るどころではなかっただろう。 そう、リドリーはソファに腰掛け、胸を押さえながら痛みに耐えていた。 応急処置はとうに済ましている。だが……痛みは引くどころか、徐々に増していくばかりである。 「はあ、はあ、はあ――――」 動悸が荒くなっていく。心臓が胸を引き裂かんばかりに飛び出そうとする。 刻々と増していく。体に寄生した蟲の様に刻々と蝕んでいく。 毒物を飲まされたような吐き気。 全身を焼かれるような熱さ。 全身を鎖で縛り付けたような重さ。 ナイフで抉られたような頭痛。 リドリーは知っていた。この痛みの正体が何なのか。 耐え難い激痛が体中を蹂躙していく。 痛い。 ―――そ…… 痛い。痛い。 ―――て…の 痛い。痛い。痛い。 ―――相手に 痛い。痛い。痛い。痛い。 ―――く…ん 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 ―――さ……… 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 ―――こ…る 激痛の中にノイズ交じりの声が聞こえる。 その断片的な言葉を少しずつ紡ぎ出す。 ―――その程度の相手に苦戦されては困る 意識にその声が響くと共にリドリーの意識は深淵の闇に堕ちていった。 +++ ―――目を覚ますのだ。 ―――リドリー・ティンバーレイクよ。 誰かが私を呼んでいる。 私はまだ寝ていたいのに声の主はそれを邪魔する。 目蓋に明かりが灯る。 あれほどあった痛みが治まっている。 リドリーは軽くなった身体を起こし、辺りを見渡す。 「ここは…金龍城」 金龍城。 目を覚ました場所はかつて自分の中に金龍を宿した場所。 自分が銀龍に殺された場所だった。 ―――ドックン 『リドリーーー!! オレだ! ジャックだ!』 ―――ドックン―――ドックン 『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』 ―――ドックン―――ドックン―――ドックン 「リドリーよ」 「!?」 突如の声にリドリーはハッと声の元を振り向く。 黄金の神殿の中央に光の粒子が集まり、形を成していく。 そこには、毅然と佇む一匹の龍。 全身を金色の鱗を覆わせ、神々しいまでに金色のオーラを漂わせる金の龍。 金龍―――クェーサーである。 クェーサーはリドリーを見据えると。 「時は満ちた。銀龍フォティーノ亡き今、お前は器として役目を果たす時が来たのだ」 リドリーは表情を変えず向き合う。 「我は銀龍に代わって、歪みに満ちた世界を正し、新たな世界を創造し、監視せねばならない。  我らは復活したのだ。運命はもう近くまで来ている。  我らは融合し、一つになった。だが、フォティーノがいる限り、交代することは叶うことはなかった。  しかし、フォティーノは死んだ。この殺し合いの舞台で消え去ったのだ。  銀龍をも屠る力を有する者がこの舞台に蔓延っているのだ。  我らは人間如きに殺されるわけにはいかない――――この意味が分かるな?」 「はい」 リドリーは小さく頷く 「そうだ。リドリーよ。お前の力では最後まで生き残れない。  我らはトゥトアスの秩序を監視しなければならないのだ。ここで倒れるわけにいかないのだ」 「………」 「さて、始めようではないか。案ずることはない。  お前の意識は取り込まれ、完全に我のものとなる。  お前は何も心配いらな――――」 「――――クェーサー……」 リドリーはイグニートソードを取り出し、自分の首元に剣を当てる。 「私と一緒に死にましょう」 「何…!?」 金龍の顔が強張る。 「私にはどうしても守りたい人間がいます。  ですから、我が命をもって使命を終わらせます」 「何だと!? 貴様は気は確かなのか?  一人の人間のために世界を滅ぼしていいのか?  人間を野放しにしておけばトゥトアスの大地はどうなる?  お前一人の勝手の行動がアルガンダースを蔓延させ、世界を滅ぼすことになるのだぞ」 「私も―――」 リドリーは金龍城に再び戻って、あることを思い出していた。 何故忘れていたのであろう? こんなに大切なことを。 +++ 金龍の器。 私には宿命があった。私には成就しなければならない理由がある。 だから、私はもう引き返せない。 霊継ぎの儀式を受けてから自分の存在意義を考えてきた。 そして、決心したのだ。 トゥトアスの歪みを救えるのなら喜んでこの身を金龍に捧げようと。 騎士たるもの常に冷静であり、正しい判断をしなければならない。 国と民を守る者は国と民のためならば個人的な感情に流されてはならない。 私は幼いころからそう教わってきた。 そうか―――ならば私は皆の見本になるために貴族の名に恥じない立派な騎士になろう。 そのために不要のことは一切排除しよう。 そう決意した。 それからというものずっと寒かった。私の心は城壁のように凍えていた。 でも、自分を殺し、前に進まなければならなかった。 だって……それが一番正しいことだから――――…… 後悔はなかった。私が死ぬことで世界が救われるのだから。 トゥトアスはもう疲弊しきっていた。 人間たちの傲慢が世界を枯渇させ、アルガンダースを蔓延させる原因を生んだ。 人間たちがこのまま繁栄しつつければ、世界は近いうちに滅び去ってしまう。 だから、私は一度世界を創り直すために、金龍の器になることを望んだ。 ―――この私…リドリーという存在を失ってでもいいと ―――自分が自分でなくなっていいと 金龍が光臨すれば、私の意識は失われ、人間たちの滅亡は必至である。 でも、トゥトアスが救われるなら、私は全てを擲った。 人間たちを裏切ってでも、私は成さなければならい。 唯一自分だけが世界を救えるのだ。自分と人間たちを犠牲にすれば、世界の秩序が守られる。 そう、自分に言い聞かせる。 度に―――アイツのことが頭に浮かんだ。 でも、世界を救うためには私を捨てなければならない。 そう、また言い聞かせた。 でも、また―――アイツの事が心に浮かんだ。 私はアイツを振り切るように世界の果てへと金龍降臨の地へと向かった。 ……いや、今思えば逃げていたかもしれない。 そして、私は金龍の器へとなろうとしていたとき。 『リドリーーー!! オレだ! ―――だ!』 それでも アイツは アイツは 追いかけてきてくれた。 ―――ドックン 嬉しかった。 初めて会ったときと変わらないまま、何も変わらないまま、呼んでくれた。 その瞬間、意識が薄れる。銀龍の攻撃を一身に受けたのだ。 死。 命の灯火が薄れるのが分かった。 それでも、アイツは心配そうに私を抱きしめくれた。 ―――ドックン―――ドックン 暖かい抱擁。永遠に解けることのないと思っていた心が満ちていく。 そして、また呼んでくれた。 『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』 私の名前を―――リドリーを。私として呼んでくれた。 ―――ドックン―――ドックン―――ドックン その瞬間、分かったんだ。 『……嬉しい。また名前を呼んでもらえた』 困惑するアイツの顔、見物だったな。 『…私はお前と…』 +++ 「私も初めは金龍に全てを捧げるつもりでした。  そのためにかつての仲間を殺めることになっても、宿命に従うことが正しいことだから。  でも、アイツは何度傷つけても、私を仲間だと家族だと言ってくれた。  何もなかった私に。  想いを  意志を  教えてくれたのは彼だった」 頬が温かくなっていく。 アイツを想えば        笑みがこぼれる。 アイツを想えば        胸が締めつけられる。 アイツを想えば ―――生きていると実感する 悲しくないのに涙が溢れてくる。 「私は―――ジャックが愛おしい。  愛しくて  愛しくて  たまらない」 本当は嫌だ。 自分が自分じゃなくなるのは嫌だ。 私が私でなくなれば、この想いもなくなってしまう。 ジャックに対する愛しい想いも消えてしまう。 ジャックは私の希望だ。だから命に代えて彼を『守りたい』。 自力では金龍を抑えられない。しかし、好機は今であった。 金龍が私の意識に融合する前に手を打つ。 強制的に入れ替わる前に自分を殺す。 私たちは一心同体、私の精神を殺せば、同時に金龍も殺せる。 これは使命でもなんでもない。 これは紛れもなく自分の意志。 暖かい愛しい涙が頬中に伝い落ちていく 「出会ってくれてありがとうジャック。  ―――大好き」 瞳を閉じ、覚悟を決める。最後の戦い。 人類の敵である金龍クェーサーを倒すべく、リドリーは剣を自分の心臓に振り翳す。 愛しき者を守るため、少女は自分の想いを身体に刻む。 ―――どうしてあなただけ助かろうとするの? か細い生気のない声が耳朶を打つ。 「え…!?」 リドリーは閉じていた目を見開く。その瞬間、金縛りにあう。 そこには、褐色肌の少女と凛とした風貌の女性、長い金髪の女性が私を覗きこんでいた。 その目は生気がなく恨めしそうに私を魅入っていた。彼女たちは皆この舞台で私が殺した者たちであった。 一同は一斉に壊れたオルガンのように訴えかける。 「「「どうしてあなただけ助かろうとするの?」」」 三人の身体から夥しい血が溢れ出る。それは私が刻み込んだ箇所から止め処なく吹き出る。口元から蛇口のように零れ出る。 「「「痛かったよ」」」「「「苦しかったよ」」」「「「死にたくなかったよ」」」「「「生きたかったよ」」」 「「「報われなかったよ」」」「「「家族のところ帰りたかったよ」」」「「「愛する人のところに戻りたかったよ」」」 「「「助かりたかったよ」」」 「「「でもどうしてあなただけ助かろうとするの?」」」 「「「私たちはあなたに対して何もしなかったのにどうしてこんなことするの?」」」 「「「どうして殺したの?」」」 「ちっちがう!!」 リドリーは後退しながらも頭を左右に振り必死に否定する。 恐怖から涙が滲み出る、目を背けられない。 言い聞かせる。これは幻だと、性質の悪い幻覚だと。 しかし、悪夢は覚めない。死体達は生々しく私を睨みつける。 「ククク、リドリー・ティンバーレイク。これがお前が背負ってきた道程だ。  どの人間よりも業に満ちておる。足下を見るがいい」 どこからか金龍の声が聞こえる。その声に咄嗟に足元を見る。 足元には積み上げてきた死体の数々。 人間。妖精。ライトエルフ。ダークエルフ。ブラッドオーク―――― ありとあらゆるの種族が無造作に積み上げられていた。 数十万という死体の山の上でリドリーは足を踏みしめていた。 あまりの凄惨な光景に思考が停止する。何も考えられない。 「そうだ、すべてお前によって引き起こされた戦争で死んだ者たちだ。  お前はその頂点に立っている。お前が望もうと望むまいと本来唾棄される存在」 「違う、私は私は―――」 突然死体たちがコーラスを上げるように絶叫する。 「「「「「「「「「「「「「――――――――」」」」」」」」」」」―――――――― 終わりのない怨恨の言葉、罵声、呪詛。 耳が脳が全身が引き裂ける。精神が粉々に砕かれてしまう。 「リドリーよ。意志には関係なく、償わなければならない。 金龍の器として、お前は使命を完遂しなくてはならない」 「違う違う違う違う違う違う違う違う違う」 リドリーはジャックのことを想い、剣を手に取る。 これら全ては金龍が見せている幻だ。 今のうちに始末をつけないと手遅れになる。 リドリーは自らの命を絶つべく剣を振り下ろす。 だが、身体が動かない。 持っていた剣をカランと地面に落とす。 周囲は地獄のような光景ではなく、元の金龍城へと変わっていた。 「ククク……助かったよ。お前が躊躇している内に身体のほとんどをのっとることができた」 自分が自分でなくなる感覚が蝕んでいく。精神が腐蝕していく。 いいようのない嫌悪感が広がる。 「そんな……」 思考が絶望に塗り潰されていく。 そんなリドリーを見て金龍は満足げに笑みを浮かべる。 吐き気を催すぐらい邪悪な笑み。 「人間ごときがこの私に敵うと思ったか!? 愚か者がッ!!」 その瞬間、身体は完全に自分ではなくなった。 ―――ジャック、ごめんね…… +++ ソファの上で横たわっていた少女は身体を起こす。 ここは鎌石局の待ち受けの一室。少女は戦闘で傷ついたケガを癒すために、休息を取っていた。 あれほど悩ませていた全身の激痛は治まっている。 ケガはまだ残っているが戦闘に支障はきたすことのない微々たるものだ。 突如、少女は大声で笑い出す。 「あはははははははははははははははははははは。  ああ、なんて気分がいい! 最高に気分がいいよ!  やっとこの手で直接いたぶれる。人間どもをいたぶれる」 そこには、姿形は少女のなりをしているが、全てにおいて元の少女とは違った。 そいつは金龍クェーサー。トゥトアスの監視者。秩序を調停する者。 人類にとって紛れもなく悪。全人類を脅かす敵。 クェーサーが今そこに吼えていた。 「さーて、身体の馴染み具合はどうかな」 クェーサーは手を翳す。無尽蔵といえる魔力によって形成された武器が現れる。 器となった少女が得意としていた武器―――黄金の斧が具現化する。 「……」 金龍はいまいち納得いかず、頭を掻く。 今度は両手を合わせ魔力を込め、正面に振り下ろす。収束させた魔力を放出させる。 爆音と共に正面に巨大な穴が出来上がる。 手加減をしているとはいえかなりの威力である。 「これが、ルシファーが言っていた制限か?  ……違うな」 確かに真の力が開放できない。 いまいち魔力が練り上がらない。 だが、内部から自分の能力を抑えている奴がいる。 「あははは。リドリーめ。無駄な足掻きを」 微力ながら、リドリーが自分の動きを拘束するために抗っている。 所詮は海原に石を投げ込むぐらいの抵抗。本当に微力なものだ。 だが、鬱陶しい。この私に付き纏うな羽虫が。 金龍は考える。リドリーの思考を完全に融合させるにはどうすればいいのか。 答えは簡単だ。 「だったら、お前が守ろうとし、愛していた者を殺そう。お前のひどく絶望する様を見届けよう」 今後の行動方針? 否、もうすでに決まっている。 金龍の胸には、心に決めていたものがある。銀龍フォティーノとジャック・ラッセルの邪魔が入ったために、叶えられなかった願い。 渇望、切望、熱望していた。 金龍は望む――― 殺戮を。抹殺を。惨殺を。虐殺を。根絶を。絶滅を。殲滅を。死滅を。滅亡を。 すべてを人間どもに刻み込むのだ。 それだけが金龍クェーサーが求める最上級の望みだから。 【C-4/夜中】 【リドリー・ティンバーレイク】[MP残量:80%] [状態:金龍クェーサー、腹部に激しい痛み、肋骨にヒビ、自己治癒中] [装備:イグニートソード@SO3] [道具:グラビティレイザー(エネルギー残量[90/100])@SO3、忍刀菖蒲@TOP、アーチェのホウキ@TOP     他クレアとスフレの支給品幾つか(0~4)、荷物一式×3] [行動方針:人間の根絶、最後まで生き残る] [思考1:ジャックを殺す] [思考2:人間を殺す] [現在位置:鎌石局受付] ※ミラージュの荷物(支給品一式、ルーズリーフ、及びそれに記したメモ)は役場内に放置されています ※リドリーの意識はまだ消えていません ※制限により金龍化はできません。  魔力を増幅するようなデバイスがあるなら別。 【残り31人】 ---- [[第94話>もしも願いが叶うなら]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第96話>天才(変態)が欲するモノ]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第88話>Partner]]|リドリー|―|
**第95話 カタストロフィーは想いとは裏腹に 「はあ…はあ…はあ…」 痛い。 胸が痛みで疼く。 つい半時間前に対峙したミラージュと呼ばれる女によって刻まれた傷が疼く。 肋骨を破壊された。人間業とはおもえないほど素早い踏み込みで付けられた傷。 相手が万全な状態だったら確実に骨を折るどころではなかっただろう。 そう、リドリーはソファに腰掛け、胸を押さえながら痛みに耐えていた。 応急処置はとうに済ましている。だが……痛みは引くどころか、徐々に増していくばかりである。 「はあ、はあ、はあ――――」 動悸が荒くなっていく。心臓が胸を引き裂かんばかりに飛び出そうとする。 刻々と増していく。体に寄生した蟲の様に刻々と蝕んでいく。 毒物を飲まされたような吐き気。 全身を焼かれるような熱さ。 全身を鎖で縛り付けたような重さ。 ナイフで抉られたような頭痛。 リドリーは知っていた。この痛みの正体が何なのか。 耐え難い激痛が体中を蹂躙していく。 痛い。 ―――そ…… 痛い。痛い。 ―――て…の 痛い。痛い。痛い。 ―――相手に 痛い。痛い。痛い。痛い。 ―――く…ん 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 ―――さ……… 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 ―――こ…る 激痛の中にノイズ交じりの声が聞こえる。 その断片的な言葉を少しずつ紡ぎ出す。 ―――その程度の相手に苦戦されては困る 意識にその声が響くと共にリドリーの意識は深淵の闇に堕ちていった。 +++ ―――目を覚ますのだ。 ―――リドリー・ティンバーレイクよ。 誰かが私を呼んでいる。 私はまだ寝ていたいのに声の主はそれを邪魔する。 目蓋に明かりが灯る。 あれほどあった痛みが治まっている。 リドリーは軽くなった身体を起こし、辺りを見渡す。 「ここは…金龍城」 金龍城。 目を覚ました場所はかつて自分の中に金龍を宿した場所。 自分が銀龍に殺された場所だった。 ―――ドックン 『リドリーーー!! オレだ! ジャックだ!』 ―――ドックン―――ドックン 『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』 ―――ドックン―――ドックン―――ドックン 「リドリーよ」 「!?」 突如の声にリドリーはハッと声の元を振り向く。 黄金の神殿の中央に光の粒子が集まり、形を成していく。 そこには、毅然と佇む一匹の龍。 全身を金色の鱗を覆わせ、神々しいまでに金色のオーラを漂わせる金の龍。 金龍―――クェーサーである。 クェーサーはリドリーを見据えると。 「時は満ちた。銀龍フォティーノ亡き今、お前は器として役目を果たす時が来たのだ」 リドリーは表情を変えず向き合う。 「我は銀龍に代わって、歪みに満ちた世界を正し、新たな世界を創造し、監視せねばならない。  我らは復活したのだ。運命はもう近くまで来ている。  我らは融合し、一つになった。だが、フォティーノがいる限り、交代することは叶うことはなかった。  しかし、フォティーノは死んだ。この殺し合いの舞台で消え去ったのだ。  銀龍をも屠る力を有する者がこの舞台に蔓延っているのだ。  我らは人間如きに殺されるわけにはいかない――――この意味が分かるな?」 「はい」 リドリーは小さく頷く 「そうだ。リドリーよ。お前の力では最後まで生き残れない。  我らはトゥトアスの秩序を監視しなければならないのだ。ここで倒れるわけにいかないのだ」 「………」 「さて、始めようではないか。案ずることはない。  お前の意識は取り込まれ、完全に我のものとなる。  お前は何も心配いらな――――」 「――――クェーサー……」 リドリーはイグニートソードを取り出し、自分の首元に剣を当てる。 「私と一緒に死にましょう」 「何…!?」 金龍の顔が強張る。 「私にはどうしても守りたい人間がいます。  ですから、我が命をもって使命を終わらせます」 「何だと!? 貴様は気は確かなのか?  一人の人間のために世界を滅ぼしていいのか?  人間を野放しにしておけばトゥトアスの大地はどうなる?  お前一人の勝手の行動がアルガンダースを蔓延させ、世界を滅ぼすことになるのだぞ」 「私も―――」 リドリーは金龍城に再び戻って、あることを思い出していた。 何故忘れていたのであろう? こんなに大切なことを。 +++ 金龍の器。 私には宿命があった。私には成就しなければならない理由がある。 だから、私はもう引き返せない。 霊継ぎの儀式を受けてから自分の存在意義を考えてきた。 そして、決心したのだ。 トゥトアスの歪みを救えるのなら喜んでこの身を金龍に捧げようと。 騎士たるもの常に冷静であり、正しい判断をしなければならない。 国と民を守る者は国と民のためならば個人的な感情に流されてはならない。 私は幼いころからそう教わってきた。 そうか―――ならば私は皆の見本になるために貴族の名に恥じない立派な騎士になろう。 そのために不要のことは一切排除しよう。 そう決意した。 それからというものずっと寒かった。私の心は城壁のように凍えていた。 でも、自分を殺し、前に進まなければならなかった。 だって……それが一番正しいことだから――――…… 後悔はなかった。私が死ぬことで世界が救われるのだから。 トゥトアスはもう疲弊しきっていた。 人間たちの傲慢が世界を枯渇させ、アルガンダースを蔓延させる原因を生んだ。 人間たちがこのまま繁栄しつつければ、世界は近いうちに滅び去ってしまう。 だから、私は一度世界を創り直すために、金龍の器になることを望んだ。 ―――この私…リドリーという存在を失ってでもいいと ―――自分が自分でなくなっていいと 金龍が光臨すれば、私の意識は失われ、人間たちの滅亡は必至である。 でも、トゥトアスが救われるなら、私は全てを擲った。 人間たちを裏切ってでも、私は成さなければならい。 唯一自分だけが世界を救えるのだ。自分と人間たちを犠牲にすれば、世界の秩序が守られる。 そう、自分に言い聞かせる。 度に―――アイツのことが頭に浮かんだ。 でも、世界を救うためには私を捨てなければならない。 そう、また言い聞かせた。 でも、また―――アイツの事が心に浮かんだ。 私はアイツを振り切るように世界の果てへと金龍降臨の地へと向かった。 ……いや、今思えば逃げていたかもしれない。 そして、私は金龍の器へとなろうとしていたとき。 『リドリーーー!! オレだ! ―――だ!』 それでも アイツは アイツは 追いかけてきてくれた。 ―――ドックン 嬉しかった。 初めて会ったときと変わらないまま、何も変わらないまま、呼んでくれた。 その瞬間、意識が薄れる。銀龍の攻撃を一身に受けたのだ。 死。 命の灯火が薄れるのが分かった。 それでも、アイツは心配そうに私を抱きしめくれた。 ―――ドックン―――ドックン 暖かい抱擁。永遠に解けることのないと思っていた心が満ちていく。 そして、また呼んでくれた。 『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』 私の名前を―――リドリーを。私として呼んでくれた。 ―――ドックン―――ドックン―――ドックン その瞬間、分かったんだ。 『……嬉しい。また名前を呼んでもらえた』 困惑するアイツの顔、見物だったな。 『…私はお前と…』 +++ 「私も初めは金龍に全てを捧げるつもりでした。  そのためにかつての仲間を殺めることになっても、宿命に従うことが正しいことだから。  でも、アイツは何度傷つけても、私を仲間だと家族だと言ってくれた。  何もなかった私に。  想いを  意志を  教えてくれたのは彼だった」 頬が温かくなっていく。 アイツを想えば        笑みがこぼれる。 アイツを想えば        胸が締めつけられる。 アイツを想えば ―――生きていると実感する 悲しくないのに涙が溢れてくる。 「私は―――ジャックが愛おしい。  愛しくて  愛しくて  たまらない」 本当は嫌だ。 自分が自分じゃなくなるのは嫌だ。 私が私でなくなれば、この想いもなくなってしまう。 ジャックに対する愛しい想いも消えてしまう。 ジャックは私の希望だ。だから命に代えて彼を『守りたい』。 自力では金龍を抑えられない。しかし、好機は今であった。 金龍が私の意識に融合する前に手を打つ。 強制的に入れ替わる前に自分を殺す。 私たちは一心同体、私の精神を殺せば、同時に金龍も殺せる。 これは使命でもなんでもない。 これは紛れもなく自分の意志。 暖かい愛しい涙が頬中に伝い落ちていく 「出会ってくれてありがとうジャック。  ―――大好き」 瞳を閉じ、覚悟を決める。最後の戦い。 人類の敵である金龍クェーサーを倒すべく、リドリーは剣を自分の心臓に振り翳す。 愛しき者を守るため、少女は自分の想いを身体に刻む。 ―――どうしてあなただけ助かろうとするの? か細い生気のない声が耳朶を打つ。 「え…!?」 リドリーは閉じていた目を見開く。その瞬間、金縛りにあう。 そこには、褐色肌の少女と凛とした風貌の女性、長い金髪の女性が私を覗きこんでいた。 その目は生気がなく恨めしそうに私を魅入っていた。彼女たちは皆この舞台で私が殺した者たちであった。 一同は一斉に壊れたオルガンのように訴えかける。 「「「どうしてあなただけ助かろうとするの?」」」 三人の身体から夥しい血が溢れ出る。それは私が刻み込んだ箇所から止め処なく吹き出る。口元から蛇口のように零れ出る。 「「「痛かったよ」」」「「「苦しかったよ」」」「「「死にたくなかったよ」」」「「「生きたかったよ」」」 「「「報われなかったよ」」」「「「家族のところ帰りたかったよ」」」「「「愛する人のところに戻りたかったよ」」」 「「「助かりたかったよ」」」 「「「でもどうしてあなただけ助かろうとするの?」」」 「「「私たちはあなたに対して何もしなかったのにどうしてこんなことするの?」」」 「「「どうして殺したの?」」」 「ちっちがう!!」 リドリーは後退しながらも頭を左右に振り必死に否定する。 恐怖から涙が滲み出る、目を背けられない。 言い聞かせる。これは幻だと、性質の悪い幻覚だと。 しかし、悪夢は覚めない。死体達は生々しく私を睨みつける。 「ククク、リドリー・ティンバーレイク。これがお前が背負ってきた道程だ。  どの人間よりも業に満ちておる。足下を見るがいい」 どこからか金龍の声が聞こえる。その声に咄嗟に足元を見る。 足元には積み上げてきた死体の数々。 人間。妖精。ライトエルフ。ダークエルフ。ブラッドオーク―――― ありとあらゆるの種族が無造作に積み上げられていた。 数十万という死体の山の上でリドリーは足を踏みしめていた。 あまりの凄惨な光景に思考が停止する。何も考えられない。 「そうだ、すべてお前によって引き起こされた戦争で死んだ者たちだ。  お前はその頂点に立っている。お前が望もうと望むまいと本来唾棄される存在」 「違う、私は私は―――」 突然死体たちがコーラスを上げるように絶叫する。 「「「「「「「「「「「「「――――――――」」」」」」」」」」」―――――――― 終わりのない怨恨の言葉、罵声、呪詛。 耳が脳が全身が引き裂ける。精神が粉々に砕かれてしまう。 「リドリーよ。意志には関係なく、償わなければならない。 金龍の器として、お前は使命を完遂しなくてはならない」 「違う違う違う違う違う違う違う違う違う」 リドリーはジャックのことを想い、剣を手に取る。 これら全ては金龍が見せている幻だ。 今のうちに始末をつけないと手遅れになる。 リドリーは自らの命を絶つべく剣を振り下ろす。 だが、身体が動かない。 持っていた剣をカランと地面に落とす。 周囲は地獄のような光景ではなく、元の金龍城へと変わっていた。 「ククク……助かったよ。お前が躊躇している内に身体のほとんどをのっとることができた」 自分が自分でなくなる感覚が蝕んでいく。精神が腐蝕していく。 いいようのない嫌悪感が広がる。 「そんな……」 思考が絶望に塗り潰されていく。 そんなリドリーを見て金龍は満足げに笑みを浮かべる。 吐き気を催すぐらい邪悪な笑み。 「人間ごときがこの私に敵うと思ったか!? 愚か者がッ!!」 その瞬間、身体は完全に自分ではなくなった。 ―――ジャック、ごめんね…… +++ ソファの上で横たわっていた少女は身体を起こす。 ここは鎌石局の待ち受けの一室。少女は戦闘で傷ついたケガを癒すために、休息を取っていた。 あれほど悩ませていた全身の激痛は治まっている。 ケガはまだ残っているが戦闘に支障はきたすことのない微々たるものだ。 突如、少女は大声で笑い出す。 「あはははははははははははははははははははは。  ああ、なんて気分がいい! 最高に気分がいいよ!  やっとこの手で直接いたぶれる。人間どもをいたぶれる」 そこには、姿形は少女のなりをしているが、全てにおいて元の少女とは違った。 そいつは金龍クェーサー。トゥトアスの監視者。秩序を調停する者。 人類にとって紛れもなく悪。全人類を脅かす敵。 クェーサーが今そこに吼えていた。 「さーて、身体の馴染み具合はどうかな」 クェーサーは手を翳す。無尽蔵といえる魔力によって形成された武器が現れる。 器となった少女が得意としていた武器―――黄金の斧が具現化する。 「……」 金龍はいまいち納得いかず、頭を掻く。 今度は両手を合わせ魔力を込め、正面に振り下ろす。収束させた魔力を放出させる。 爆音と共に正面に巨大な穴が出来上がる。 手加減をしているとはいえかなりの威力である。 「これが、ルシファーが言っていた制限か?  ……違うな」 確かに真の力が開放できない。 いまいち魔力が練り上がらない。 だが、内部から自分の能力を抑えている奴がいる。 「あははは。リドリーめ。無駄な足掻きを」 微力ながら、リドリーが自分の動きを拘束するために抗っている。 所詮は海原に石を投げ込むぐらいの抵抗。本当に微力なものだ。 だが、鬱陶しい。この私に付き纏うな羽虫が。 金龍は考える。リドリーの思考を完全に融合させるにはどうすればいいのか。 答えは簡単だ。 「だったら、お前が守ろうとし、愛していた者を殺そう。お前のひどく絶望する様を見届けよう」 今後の行動方針? 否、もうすでに決まっている。 金龍の胸には、心に決めていたものがある。銀龍フォティーノとジャック・ラッセルの邪魔が入ったために、叶えられなかった願い。 渇望、切望、熱望していた。 金龍は望む――― 殺戮を。抹殺を。惨殺を。虐殺を。根絶を。絶滅を。殲滅を。死滅を。滅亡を。 すべてを人間どもに刻み込むのだ。 それだけが金龍クェーサーが求める最上級の望みだから。 【C-4/夜中】 【リドリー・ティンバーレイク】[MP残量:80%] [状態:金龍クェーサー、腹部に激しい痛み、肋骨にヒビ、自己治癒中] [装備:イグニートソード@SO3] [道具:グラビティレイザー(エネルギー残量[90/100])@SO3、忍刀菖蒲@TOP、アーチェのホウキ@TOP     他クレアとスフレの支給品幾つか(0~4)、荷物一式×3] [行動方針:人間の根絶、最後まで生き残る] [思考1:ジャックを殺す] [思考2:人間を殺す] [現在位置:鎌石局受付] ※ミラージュの荷物(支給品一式、ルーズリーフ、及びそれに記したメモ)は役場内に放置されています ※リドリーの意識はまだ消えていません ※制限により金龍化はできません。  魔力を増幅するようなデバイスがあるなら別。 【残り31人】 ---- [[第94話>もしも願いが叶うなら]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第96話>天才(変態)が欲するモノ]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第88話>Partner]]|リドリー|[[第103話>Start Up from Prolonged Darkness]]|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: