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**第102話 くそむしテクニック 「いつまで泣いてやがんだよ!」 ガブリエルとの戦いが終わっても泣き止む気配の無いプリシスにアルベルは苛立つ。 とりあえずいつまでも外にいるのは危険と判断し、引き摺るように民家へ連れて行ったのではあるがこの有様である。 アリューゼ、ディアス、そして無人くんと仲間が目の前で死んだのだから悲しいのは分かるが…。 (仲間が死んで、ね…。ケッ、くだらん) 思い浮かんだ感情を自ら打ち消す。 このまま泣かせっぱなしでは埒が明かない。プリシスにはさっさと首輪解除の為に働いてもらいたいのだが。 しかし口を開けば罵詈雑言が飛び出すアルベルには、プリシスを上手く慰める事は不可能に近かった。 事実先程からアルベルなりに泣き止ませようとはしていたのだが全く効果が無い。 (やれやれ、やってられん) 現時点でプリシスを何とかするのは困難と判断したアルベルは腰を上げ、民家の外へ出ようとする。 その時今まで泣いてばかりだったプリシスから声がかかった。 「…どこ行くの?」 少し不安そうな口調。こんな凶悪な男でもいなくなると寂しいものなのか。 「あいつらそのままにしとくのも気分が悪いだろ」 その問いに対し、アルベルは振り返らずに答えて民家を出て行った。 アルベルが向かったのは先程ガブリエルと戦った場所だった。 そこにはあるのは瓦礫の山に埋もれたままのディアスの遺体。 「ったくよ、偉そうにしてた割にはこのザマかよ」 悪態付きながら瓦礫をどけ、ディアスの遺体を背負って引っ張り出す。 「ま、あの訳の分からん翼野郎を倒せたのはお前の功績もあるからな。こんくれーはしてやるよ」 瓦礫から離れ、地面が土になっている場所まで来ると一旦遺体を降ろす。 「剛魔掌!」 左手にオーラを纏わせて地面を殴りつけると、1m程の深さの穴が開いた。 同時に負傷していた左腕に痛みが走るがこの程度問題無い。 無残な状態となった背中を隠すように、ディアスを仰向けにその穴の中へと入れた。 「精々、成仏しろや。ま、それは無理か」 上から土を被せて穴を塞ぐ。 ここにディアスの使っていた剣でも突き刺しておけば墓らしくなるだろうが、剣はこの状況においては非常に有用な武器だ。 言い方は悪いが剣を無駄遣いするという事は避けたい。 埋葬してやっただけでもありがたく思えよ、とアルベルは土の下のディアスに言った。 「ん…?」 ふと足元を見ると、短剣が一本転がっている。 そういえばディアスの奴が短剣を一本持っていた。恐らくそれだろう。 「こりゃあ…確かあの野郎も」 やけに見覚えがあると思い拾い上げてみると、その短剣は以前ネルが使っていた短剣だった。 「まあんな事は関係無いが…こいつも貰っておくぜ」 別にお前らの分まで戦ってやるって訳じゃねえ。使えそうだから貰っておくだけだ。文句あるか? ディアスの埋葬を終えたアルベルは、もう一人の戦死者の所へと向かう。 その男アリューゼは十数本もの矢をその身に受けながらも、今もその場に立ち続けていた。 「てめえは気に入らねえ奴だったが中々の腕っ節だったな。それに免じてちったあ弔ってやるか」 そう言ってアリューゼに刺さったままの弓を引き抜く。 全て引き抜いた後、アルベルはあえてアリューゼをそのままにしておいた。 立ち往生したその姿に、同じ武人としての誇りや気迫を感じて。 …まあ、彼の持っていた支給品はちゃっかり頂戴しておいたが。 プリシスの待つ民家へ戻りながら、アルベルは心に沸いた疑問について考えていた。 思えばこの場に連れて来られてから、彼はある種の違和感を感じていた。 最初に感じたのは、ラブレターなどというふざけた支給品を掴まされた時…では無く。 氷川村へ向かう途中、女性の死体を発見した時だ。 ――俺は戦場で死んだ奴に情けをかけるような奴だったか? 以前の自分ならそんな物には目もくれ無かった筈だ。 なのにあの時といい、今といい。死者を弔うという摩訶不思議な行動に自分は出ている。 それだけでは無い。 放送でネルやロジャー、スフレといった面々の名前が呼ばれた時に感じた怒り。 連中は知り合いとはいえ利害の一致で共闘したまで。ネルに至っては元々敵対関係にあった人物だし、共に行動している間も互いにいがみ合ってばかりだった。 何故そんな奴らが死んだだけで自分は憤りを感じたのだろうか? 戦場で頼れるのは自身の力のみ。他者と助け合ったり馴れ合ったりなんぞ、力の無いクソ虫共がやる事だと思っていた。 しかしフェイト達と戦い、この殺し合いでもディアス達と行動していた今の自分は、かつて自分が弱いと思っていた人間そのものだ。 ならば自分は弱くなったのだろうか? それでもフェイト達と会う前の自分が、今の自分よりも強いとは到底思えなかった。 その矛盾がアルベルの苛立ちを余計に大きくさせる。 (くそっ、むかつくぜ。ここらで一暴れしてえ所だが…) だが今のアルベルにはもう一つやらなければならない事があった。 プリシスがいる民家のドアを乱暴に開けると、未だ座り込んだままのプリシスに声をかける。 「おい、ガキ」 プリシスの体が少し動いたような気がするが、明かりも点いていない夜の屋内では目の前の人物の様子もよく見えない。 「俺は今からレオンとレナっつー奴らを探す。見つけたら連れて戻って来るから、てめえはこの建物にいろよ」 「レナと…レオン……」 「そうだ。ディアスの話だと東に向かってるらしい。今から追って連れ戻してくる」 それだけ言って、アルベルは再び建物を後にする。 早いとこ二人を連れ帰って、そいつらにプリシスを叱咤激励させて首輪の解析を進めてもらわなければならない。 (あくまで、俺の首輪を外して怪我を治療してもらう為だ。ディアスの為でも、ガキ共が心配な訳じゃねえし、ましてや早くメイド服が見たいからでもねえ) 誰に言っているのか分からないが心の中でのみ呟く。 そして、東へ向かおうと数歩歩き出した時だった。 「待って…」 民家のドアが開き、中からプリシスが姿を現す。 「あたしも行くよ。レナやレオンを探しに」 涙声では無くはっきりとした口調。まだ目に涙は残っていたが、頬にはもう流れていない。 「ああ?てめえなんぞ足手まといだ。そこで首輪についてもう少し調べてろ」 アルベルがそう言うと、プリシスはその言葉を予測していたのかメモ用紙を渡してきた。 「調べてみたけど、あたしにはよく分からないし…」 (あたしに調べられる事は調べた。これ以上の解析はレオンの協力が必要) 言葉とメモの内容の違い。恐らく盗聴器とやらを警戒しての行動だろうが、こうした事ができている辺り冷静な思考が出来るようになっているのかもしれない。 「それに、アルベルの言う通りだった。いつまでもこうしてる場合じゃないし」 「…いいのか、ホイホイ着いてきて?俺は殺し合いに乗ってない奴でも構わず喧嘩売っちまうような男なんだぜ?」 わざと意地が悪い事を言ってみる(勘違いされまくってる事も考慮してるので強ち意地悪でもないが)。 それにプリシスとアルベルが出会ったのは二時間も前の事では無いし、その出会いも最悪の形だった。安心して信頼できる、とはまだ言い難い。 「大丈夫よ。そしたらあたしが力づくでも止めてやるから!」 だが、プリシスはもう怯んでいない。力強いその答えにアルベルも僅かな笑みを浮かべた。どうやら立ち直ったようだ。 「けっ、好きにしな」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 時間を遡る事一時間、時間にして午後七時。 レナが目を覚ましたのは丁度その時刻だった。 ディアスに言われた通り、レナを背負ってレオンはI-07を横断していた。 「うぅん…あれ、私……ってえ!?レオン!?」 「あっレナ姉ちゃん、目覚めたんだね!」 「え、えっと、これはどーなってるの?私確か、レオンの治療をして…それで、ええと…」 「レナ姉ちゃん、僕を治療してくれたの?あ、いや今それは関係無いか…」 とりあえず、レオンはレナに降りてもらう事にした。正直彼女を背負って走るのは相当にキツい。 だがレナ姉ちゃん意外と体重あるんだね、筋肉質なの?などとはさすがに聞けない。 「ごめん。とにかく急いでるから、悪いけど走りながら話そう!」 レナを降ろすと、レオンはすぐに走り出す。レナもまだ意識が完全に覚めては無いものの彼に並走した。 「聞きたい事は沢山あると思うけど…まず何から…」 「えーっと…じゃあまず、その服は一体どうs」 「…これは聞かないで。自分でも分からないんだよ…」 走りながらレオンは伝えるべき事を簡単に伝えた。 どうやら自分は気絶していて、目が覚めたら目の前にディアスがいた事。 そのディアスに言われて、レナを背負って今東へ向かっている最中である事。 どうやら自分達が眠っていた場所の近くに危険人物がいたらしく、ディアスはそいつと戦う為に残った事。 そこまで話すと、急にレナは足を止めてしまった。 「レナ姉ちゃん、どうしたの?」 遅れてレオンも足を止めて振り返った。 レナは俯いておりその表情を見る事は出来ない。レオンは何かあったのかと、心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。 「ごめん…」 ポツリと呟く。 それと同時にレナはレオンに背中を向けた。 「え…!?ま、待ってよレナ姉ちゃん!!」 レオンが慌ててレナの腕を掴み、そのスタートを止めさせた。 「どこ行くのさ!?今からI-08に向かうって言ったでしょ?」 「私、ディアスの所へ戻る」 「えええ!?」 「ディアスが戦ってるのに、私だけ逃げるなんてできない!」 自分の腕を掴んでいた手を振りほどき、レナは本来進むべき方向とは逆…西へ向かって走り出した。 「あ、ちょっと、おーい!」 レオンが叫ぶが、レナはそんな声は聞こえていないとばかりに無視して走り去っていってしまう。 自分もすぐに追おうとして…少し躊躇する。 時刻はもう午後8時過ぎ。あと1時間も経たない内にこのI-07は禁止エリアになってしまう。 このまま東へ向かえば9時までには余裕で突破できるだろう。 だが今からレナを追いかけた場合を考えると厳しい。最悪、戻れなくなる可能性もある。 レナを放ってこのまま東へ向かうか、危険覚悟で西に戻るか…。 「ああーっ!もう!!」 レオンは結局走り去るレナを追う事にした。 ディアスの考えには背く事になるが、彼からはレナを守るように言われている。 I-09へは行けなくなるかもしれないが、どうせ一人で向かった所でディアスの言う事は守れないのだ。 しかしレナを追おうと走り出したのはいいが、全く追いつく気配が無い。 それどころかどんどん差を広げられるばかりだ。 元来レオンはあまり運動が得意では無い。冒険でも専ら頭脳労働が担当だし、まだ身体的にも未発達。 加えて何故か着せられているこのスカートに慣れず上手く走る事ができなかった。 「レ゛ナ゜ね゛え゛ぢゃ~ん……ま゛っでよ゛ぉぉぉ……」 結局レオンのスタミナはものの十数分で尽き、レナを連れ戻すのはほぼ不可能となってしまったのである。 (俺は重大な事を忘れていた…) I-07のエリアを前に、アルベル達は立ち往生していた。 時刻は20時55分。あと僅か5分でこの先は禁止エリアとなってしまうのである。 第二回放送をあまりよく聞いていなかったせいですっかりその事が頭から抜けていた。 もしプリシスが同行していなかったら、彼女の制止を受ける事もなく、禁止エリア進入によって惨めに死んでいた事だろう。 「仕方ねえ。となるとここは避けるしかねえか…」 「でもこの北のエリアも既に禁止エリアになってるわ。向こう側に行くには、相当回り道しなきゃいけないよ?」 「…くっそ!ディアスの野郎、面倒くせえ所に逃がしやがって!」 「うーん…どうしようか?」 「迂回して行くしかねえだろ。ここに留まってたって何も進展しねえ」 二人がしぶしぶ北へ向かおうとすると。 「…今、何か聞こえなかった?」 後ろを歩いていたプリシスが足を止める。 「あ?何も聞こえねえぞ?」 「しーっ!ちょっと静かに!聞こえなくなるでしょ!」 何だとてめえ、とアルベルは言い返そうとしたのだが。 「……ね~……ちゃ……」 微かだが、I-07の方から叫んでいるような声が聞こえる。 「ね!?今聞こえたでしょ!?」 「ま、まあ…な」 「誰かいるのかな…?」 暫く声がした方向を見ていると、やがて見覚えのある人物が見えてきた。 「あっ…!?」 「あのガキ!」 「はぁ……はぁ…レナ……ねえちゃ………おぉーい……ぜぇ…ぜぇ…」 そこに現れたのは、紛れもなくレオン・D・S・ゲースケ。 その顔は汗にまみれており、足取りもフラフラ。一応本人は走っているつもりらしいが、その速さは最早一般人の歩くスピードより遅い。 顔も上げていられないようで、こちらにも気付いていないようだ。 「お、おい!ここが禁止エリアになるまであと何分だ!?」 「え、えっと…」 プリシスが支給品袋から時計を取りだして時刻を確認する。 「あ、あと30秒…」 「……ちっ、クソッタレがぁっー!」 レオンに向かい、アルベルは疾走した。 頭が揺れる。足がガクガクする。喉が渇いた。肺が痛い。 そんな状態になってもレオンは足と口を止めず、レナを追い続けていた。 「はぁ……はぁ…レナ……ねえちゃ………おぉーい……ぜぇ…ぜぇ…」 もうどの位走ったのか。さすがにI-07のエリアは抜けたと思う。 しかしレナの姿は見えてこない。年齢が違うとはいえ、仮にも男の自分が女の子に全く追いつけないとは…。 さすがのレオンも少し自分が情けなくなる…そこまで考えた時だった。 『禁止エリアに抵触しています』 (えええええ!?) 突如首輪から発生した音声にレオンは混乱する。 『首輪爆破まで後30秒』 (ちょ、ちょっと待って!?タンマタンマタンマ!そ、そうだ素数を…ってあと30秒!?そんな場合じゃないって!) どうやらまだ自分はI-07にいたらしい。 これだけ走ってまだ1エリアも抜けられないとは情けない…が、そんな事を考えている余裕は無い。 あと30秒で首輪が爆発してしまう。一刻も早くこのエリアから脱出しなくては。 (走れ、動け、僕の足!火事場の馬鹿力を出すんだ!人間死ぬ気になれば何でも出来る!) だが体は正直だ。いくらレオンが頭で命じても、その通りに動いてくれない。 『首輪爆破まで後20秒』 「くそおぉぉぉっ!」 歯を食いしばって前を向く。心なしか、少しだけまともに走れる気がした。 そして、前を向いた所で見たものは。 「ガキィィィッッッ!!!」 恐ろしい形相でこちらへ向かってくるヘソを出した男だった。 (うわぁっ!?あの人って、確か夕方会ったやばそうな人…!) そうだ。確か気味の悪い笑みを浮かべながら自分に近づいてきた男。 何でこんな所に!?ここまで自分を追ってきたのか? いや、でも今僕はセイクリッドティアを持ってないわけで…。 どちらにしろ今の状態では逃げる事は出来ない。 いや、逃げた所で首輪が爆発して死ぬだけだ。 ああ、自分の命もここまでか…。 「手を出せぇぇぇ!」 叫びながらヘソ出し男は手を延ばしてくる。掴まれ、という事だろうか? レオンは一瞬考える。 首輪を爆破させられる。ヘソ出し男の手を掴む。どちらの方が生存率が高いか。 『首輪爆破まで後10秒』 (考えるまでも無いっ!) レオンは突き出された手をしっかりと掴む。 首輪が爆発するのは恐らく100%だろうが、この男が自分を殺そうとしているかどうかは分からない。 「うおりゃあああっっっっ!!」 ヘソ出し男は声を上げながらレオンが掴んだ腕を思いっきり回し、放り投げた。 レオンの体は宙を舞い、そして地面に衝突する…。 「うわあっ!」 「きゃあっ!」 …いや、衝突したのは地面ではなく、人間。 衝突した人物を巻き込んで倒れ込む。結局地面に叩きつけられたのは同じだが、おかげで衝撃は多少和らげられた。 そしてぶつかったのは、やはりレオンが知っている人物で。 「プ、プリシス…!」 「いったぁ~い……あ、へへ、久し振り、かな?」 首輪からの警告は、もう聞こえなかった。 レオンをぶん投げたヘソ出し男ことアルベルは、その後すかさず踵を返す。 視界に入るのはプリシスと衝突するレオンの姿。 (何とかあのガキは助かったようだが…) 今度は自分が危ない。I-06目掛けて全力疾走で向かう。 「アルベルー!急いでー!」 プリシスの声がする。 「言われなくても分かってんだよぉぉぉぉぉ!」 走る!走る!走る! 十数mも無い距離が異様に長く感じる。 「早くー!」 「があああああっっっっ!」 あと3秒。 2秒。 1秒。 アルベルの首は繋がっていた。 渾身のヘッドスライディングにより、彼は首輪が爆発するコンマ1秒前に上半身をI-07から出す事に成功したのである。 「ア、アルベル、大丈夫!?」 「…見りゃ分かんだろ。とりあえず生きてるようだぜ」 心配そうに駆け寄ってくるプリシスに答え、アルベルはよっと言いながら立ち上がる。 「プ、プリシス、この人味方なの?」 「うん。一応殺し合いには乗ってないみたいだし」 「けっ。二度も助けてやったのに、まだ俺が殺し合いをしてると思ってやがったのか」 面白く無さそうに言うアルベル。 「あ、ご、ごめんなさい。それと、ありがとうございます」 レオンは素直に謝る。思えばレオンが彼を警戒したのは、ただ単に「顔が恐かったから」の一点に尽きる。 根拠も無く外見で人を判断するなんて、何て失礼な事をしてしまったのだろうか、と。 「わ、分かりゃいいんだよ!フン!」 それだけ言ってアルベルはそっぽを向いてしまった。 やはりまだ少し怒っているんだろうか? …心無しか顔が赤かった気がするが、それは多分気のせいだろう。 (ああ、そういえば…) さっきまで色々あって忘れていたが、レオンにはまだ今の状況が飲み込めていないのだ。この際色々整理しておかなければ。 とりあえず、まず真っ先に聞いておきたい事があった。 「ところでプリシス…僕の格好を見てよ、こいつをどう思う?」 「何とも思わねえよクソ虫があっ!!!」 「ご、ごめんなさい!」 何故か聞かれてもいないアルベルが切れた。 そこでレオンは不意に思い出す。ディアスに会う前に残っている彼の最後の記憶は、アシュトンに会った時の記憶で…。 「プリシス…」 「ん?」 「僕さ、アシュトン兄ちゃんに会ったんだよ…そ、それで…」 そう、その時アシュトンから出た言葉。 『プリシスは……生き残るために、僕達を皆殺しにするつもりなんだって』 もし彼の言う事が正しいなら、プリシスは…。 「おい、ガキ。一緒にいた女はどうした」 アルベルの声でレオンの思考は中断された。 「え、あ、そうだ。プリシス、レナ姉ちゃん見なかった?」 「レナ?ううん、見てないけど…。レオン一緒じゃなかったの?」 「僕より先にこっちに向かってたと思うんだけど…」 「おい、とりあえず戻らねえか?その女も戻りながら探せばいいだろ」 こんな所で呑気に立ち話なんてしている場合では無い。 この二人にはさっさと首輪を外す方法を考察してもらいたいし、レナには腕の治療をさせなければならない。 それまでは出来るだけ効率良く事を運んで行きたい、というのがアルベルの考えだ。 「あー、そうだねえ。でもレナはどこ行ったんだろ?レオンは分からないの?」 「う~ん…ディアスお兄ちゃんを助けに行く、みたいな事を言ってたんだけど…。そう言えば、二人はディアスお兄ちゃんに会った?」 レオンの言葉に、プリシスとアルベルの表情が僅かに曇る。 「…それについても移動しながら話す。とりあえず戻るぞ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 嫌な予感が止まらない。 記憶を頼りに、レナはレオンを治療した場所のそばまで戻って来ていた。 「何…これ……」 見えてきたのは、無残にも崩れ落ちた民家と瓦礫の山。 その様子を見るに、恐らくここで何か尋常でない事態があったとしか思えない。 (まさか…この瓦礫の下に…) そう思ったが、すぐにそんな訳は無いと首を振る。 これだけの倒壊を引き起こしたのだ、かなりの轟音が響くはず。だがレナがここに駆けつけるまでにそんな音は聞いていない。 周囲に人の気配は全く無いし、この民家が崩れてから結構時間が経っていると思われる。 だから、レナは瓦礫の下にディアスはいないと結論付けた。いや、いないと信じ込んだ。 もし彼が瓦礫の下敷きになっていたとしたら、もう助かっていないだろうから。 崩れた民家を後にして、レナはさらに走る。 足に疲労が溜まるが我慢する。ディアスが危ないかもしれないのだ。 先程の惨状を目の当りにして、彼女はさらに嫌な予感を膨らませていった。 「あ……!?」 それほど離れていない場所で、立っている人を見つける。背格好から男のようだがディアスでは無さそうだ。 少し離れて様子を伺うがその人物はこちらに気づく様子は無い。 いや…気づくどころか、動く気配すらなかった。 「えっと…すいません…」 意を決して、レナはその人物に声をかけてみたのだが返事は無い。 「…こ、この人……!?」 そこで気付いた。 その人物が、既に絶命している事に。 「ど、どうして…」 よく見れば、その男が立っている正面の民家が無残にも破壊されている。 先程の民家と違ってほぼ全壊だ。 レナの中で不安が加速度的に大きくなる。 (ディアス…ディアス……どこ?どこにいるの……!?) ふらふらとした足取りで周辺を探る。膨らむ不安を抑える為、それだけを気力にして。 そして…とうとう見つけてしまう。 「ここの地面…」 全壊した民家のそばに、やけに不自然な地面がある。 まるで穴を掘った後、何かを埋めたような…。 「違うよね…違うよね?ディアス…!?」 震える声で、最悪の想定を打ち消そうとする。 「違わねえよ」 だがその望みは、背後から聞こえた声によって絶たれてしまった。 聞き覚えのある声にレナは振り返る。 「アルベル…さん…」 そこに立っていた三人の人物。 数時間前までディアスと共に行動していた青年、アルベル。 切断された左腕の治療を施した少年、レオン。 共に十賢者を倒した仲間で、この殺し合いでは初めて顔を会わせる少女、プリシス。 「アルベルさん…今の、違わないって…」 レオンはここに来る途中までに、自分がレナと逃げた後、合流したアルベル達4人でガブリエルと戦った所までの経緯を聞いた。 だが、そのガブリエル戦がどういう結果で終わったのかはまだ聞いていない。 「……どういう、事…ですか?」 レナもレオンと同じように問いかける。 …だが、もう二人共分かっていた。それでも問いかけたのは、まだ認めたく無かったからだろう。 「…ディアスは死んだ。ガブリエルを倒す為に…俺達を守る為にな」 アルベルがそう言うと、レナは糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。 その目にはやがて涙が浮かんで、止め処なく流れ出す。 「ディアス……ディアス………う、うぅぅ…ディ……ア…」 「お兄ちゃん…あ…あぁぁ…」 つられるかのようにレオンもまた泣き出した。 アルベルとプリシスに二人の涙を止める手段は無く、ただその場に立ち尽くす事しかできなかった。 「それでさ、一応調べたんだけどもうチンプンカンプン。さすがのあたしもお手上げって感じかなー」 プリシスがそう言いながら渡してきたメモ用紙には、首輪の構造に関する情報がびっしりと書き込まれていた。 さすがプリシスだ、と僕は唸る。 「う~ん…正直僕も自信無いなあ。あんまり期待しないでね?」 消極的な台詞を言いつつも、僕はそのメモ用紙に熱心に目を通していく。こういった会話は勿論、盗聴器を考慮してのものだ。 …死んでしまったのはディアスお兄ちゃんだけじゃなかった。 プリシス達に聞いた放送の内容によれば、セリーヌお姉ちゃんやオペラお姉ちゃんも死んでしまったらしい。 悔しかった。悲しかった。さっきまで泣いてはいたけど、今でもまだ涙が出そうになる。 でも、今はそんな場合じゃない。僕はすぐに泣くのを止めて、首輪の考察を始めた。 僕が役に立てるのはこれ位だ。でも、だからこそこれに全力を注ぐ必要がある。そしてその価値はある! そう、こういった頭脳労働こそが僕のやるべき事なんだ。 一刻も早く首輪を解除して、これ以上犠牲者が出るのを防がないといけない。 でも、僕の頭にどうしてもひっかかる事がある。 『プリシスは……生き残るために、僕達を皆殺しにするつもりなんだって』 アシュトンお兄ちゃんが言っていたあの言葉が頭から離れない。 勿論、プリシスは僕達を殺そうなんて考える人じゃない。 でも…アシュトンお兄ちゃんだって、どんな事があっても無意味な人殺しをするような人じゃない。 そんな人が、僕に斬りつけてきたのだ。もしも…って事を考えてしまう。 「おい、さっさと頼むぜ。とりあえず次の放送まではここにいるが、そっちが一段落したら移動するからな」 隣りに立つアルベルさんが僕達に言う。 「え?移動するの?」 「ああ。こんだけ暴れても誰も集まって来ねえし、禁止エリアで一部分潰されてるんだ。多分この村にはもう俺達以外の人間はいないだろ」 「確かにそうだろうけど…」 「じゃあ後は頼むぞ。悪いが俺は少し休む。放送のちょっと前に起こしてくれや」 この人は…確かに顔は恐いけど殺し合いにはのっていないらしい。それはレナお姉ちゃんも話してくれたし、何より僕を助けてくれた人だ。 いい人だとは思う。ディアスお兄ちゃんのように、自分の感情を他人に伝えるのが苦手なだけなんだろうと。 分かってる。それは分かっているんだ。だけど…。 プリシス……信じて、いいんだよね? ったく、やっと落ち着いたぜ。 ここまでほぼ休み無しできたからな…さすが俺も疲れてきたぜ。向こうではガキ二人が首輪をいじってあーだこーだ相談している。 悔しいが、俺にはあーいう頭を使う作業はサッパリだ。 まあガキ共がそれに慣れてるんならそれでいい。俺が無理にそんな作業するこたあねえし、俺は俺の本業である「戦い」に専念すりゃいいんだ。 いわゆる適材適所ってやつだな。 さて、今ん所の問題は…。 部屋の隅で俯きながら座り込んでいるあのレナとかいう女。 ガキ共は立ち直ったようだが、あいつは未だにディアスの死を受け入れられないらしい。ずっと落ち込んだままだ。 俺としてはさっさと腕の治療をしてもらいたい所だが、あの様子じゃ今は出来そうにない。 本来なら無理矢理にでも治療させたいところだが、何故だがそういう気分にならない。 ありゃ、立ち直るのを待つしかねえな。 だが俺にはあいつを立ち直らせる術が分からん。励ませばいいのか?んな事俺にできる訳ねえだろうが。 ここにフェイトやスフレみてーな連中がいればそういう事も期待できたんだが。 ディアスの野郎、厄介な問題残して逝きやがって。 まあ、あいつのお陰で俺が生きているのは確かだ。 それに免じて、当分はガキ共のお守りを引き受けてやらあ。 ただ、首輪を解除するまでだがな。ルシファーと戦う時には、俺は何も気にせず直々にあの野郎をぶっ潰させてもらう。 そん時までは面倒見てやるから感謝しろよ。 ふとアルベルは自分のバックの中身を見る。 咎人の剣。 護身刀竜穿。 鉄パイプ。 この殺し合いでアルベルと会い、そして散っていった者達が使っていた武器。 (こーいうのは柄じゃねえな) バッグを閉めて再び寝っ転がり、天井を見つめる。 (てめーらの分までルシファーをぶちのめしてやるよ。あの世で指銜えて見てろよ) そんな事を考えながら、アルベルはゆっくりと目を閉じた。 【I-06/真夜中】 【アルベル・ノックス】[MP残量:70%] [状態:睡眠中 左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、左の奥歯が一本欠けている。内臓にダメージ 疲労大] [装備:セイクリッドティア@SO2] [道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0~1、護身刀“竜穿”@SO3、     鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)] [行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!] [思考1:放送まで寝て疲れを取る] [思考2:首輪が解除されるまでプリシス、レオン、レナの用心棒をする] [思考3:レナを立ち直らせたいが…べ、別に心配だからじゃねえぞ、傷を治して貰わなきゃならねえからだ。文句あっか?] [思考4:レオン達の首輪解析が一段落したら移動する] [思考5:龍を背負った男(アシュトン)を警戒] [現在位置:氷川村内民家] ※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。 【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%] [状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック、仲間と友人の死に対しての深い悲しみ(どちらも立ち直りつつある)] [装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2] [道具:ドレメラ工具セット@SO3、????←本人確認済み、解体した首輪の部品(爆薬のみ消費)、無人君制御用端末@SO2?、荷物一式] [行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒] [思考1:レオンと一緒に首輪の解析を進める] [思考2:自分達の仲間、ヴァルキリーを探す] [思考3:アシュトンを説得したい] [現在位置:氷川村内民家] 【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%] [状態:左腕にやや違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)] [装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)] [道具:どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式] [行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す] [思考1:プリシスと一緒に首輪の解析を進める] [思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する] [思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む] [思考4:時間があったら左腕のリハビリをしたい] [思考5:服着替えたい…] [備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません] [備考2:第二回放送の内容は把握] [現在位置:氷川村内民家] 【レナ・ランフォード】[MP残量:30%] [状態:深い悲しみ、精神的疲労特大] [装備:無し] [道具:荷物一式] [行動方針:………。] [思考1:ディアス…] [現在位置:氷川村内民家] 【残り26人】 ---- [[第101話>今夜の沖木島は所により一時棺桶、その後に炎が降るでしょう。ご注意下さい(前)]]← [[戻る>本編SS目次]] →第102話 |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第99話>もの言わぬ友よ(前編)]]|アルベル|―| |[[第99話>もの言わぬ友よ(前編)]]|プリシス|―| |[[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]|レオン|―| |[[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]|レナ|―| |[[第99話>もの言わぬ友よ(前編)]]|COLOR(red):アリューゼ|―|
**第102話 くそむしテクニック 「いつまで泣いてやがんだよ!」 ガブリエルとの戦いが終わっても泣き止む気配の無いプリシスにアルベルは苛立つ。 とりあえずいつまでも外にいるのは危険と判断し、引き摺るように民家へ連れて行ったのではあるがこの有様である。 アリューゼ、ディアス、そして無人くんと仲間が目の前で死んだのだから悲しいのは分かるが…。 (仲間が死んで、ね…。ケッ、くだらん) 思い浮かんだ感情を自ら打ち消す。 このまま泣かせっぱなしでは埒が明かない。プリシスにはさっさと首輪解除の為に働いてもらいたいのだが。 しかし口を開けば罵詈雑言が飛び出すアルベルには、プリシスを上手く慰める事は不可能に近かった。 事実先程からアルベルなりに泣き止ませようとはしていたのだが全く効果が無い。 (やれやれ、やってられん) 現時点でプリシスを何とかするのは困難と判断したアルベルは腰を上げ、民家の外へ出ようとする。 その時今まで泣いてばかりだったプリシスから声がかかった。 「…どこ行くの?」 少し不安そうな口調。こんな凶悪な男でもいなくなると寂しいものなのか。 「あいつらそのままにしとくのも気分が悪いだろ」 その問いに対し、アルベルは振り返らずに答えて民家を出て行った。 アルベルが向かったのは先程ガブリエルと戦った場所だった。 そこにはあるのは瓦礫の山に埋もれたままのディアスの遺体。 「ったくよ、偉そうにしてた割にはこのザマかよ」 悪態付きながら瓦礫をどけ、ディアスの遺体を背負って引っ張り出す。 「ま、あの訳の分からん翼野郎を倒せたのはお前の功績もあるからな。こんくれーはしてやるよ」 瓦礫から離れ、地面が土になっている場所まで来ると一旦遺体を降ろす。 「剛魔掌!」 左手にオーラを纏わせて地面を殴りつけると、1m程の深さの穴が開いた。 同時に負傷していた左腕に痛みが走るがこの程度問題無い。 無残な状態となった背中を隠すように、ディアスを仰向けにその穴の中へと入れた。 「精々、成仏しろや。ま、それは無理か」 上から土を被せて穴を塞ぐ。 ここにディアスの使っていた剣でも突き刺しておけば墓らしくなるだろうが、剣はこの状況においては非常に有用な武器だ。 言い方は悪いが剣を無駄遣いするという事は避けたい。 埋葬してやっただけでもありがたく思えよ、とアルベルは土の下のディアスに言った。 「ん…?」 ふと足元を見ると、短剣が一本転がっている。 そういえばディアスの奴が短剣を一本持っていた。恐らくそれだろう。 「こりゃあ…確かあの野郎も」 やけに見覚えがあると思い拾い上げてみると、その短剣は以前ネルが使っていた短剣だった。 「まあんな事は関係無いが…こいつも貰っておくぜ」 別にお前らの分まで戦ってやるって訳じゃねえ。使えそうだから貰っておくだけだ。文句あるか? ディアスの埋葬を終えたアルベルは、もう一人の戦死者の所へと向かう。 その男アリューゼは十数本もの矢をその身に受けながらも、今もその場に立ち続けていた。 「てめえは気に入らねえ奴だったが中々の腕っ節だったな。それに免じてちったあ弔ってやるか」 そう言ってアリューゼに刺さったままの弓を引き抜く。 全て引き抜いた後、アルベルはあえてアリューゼをそのままにしておいた。 立ち往生したその姿に、同じ武人としての誇りや気迫を感じて。 …まあ、彼の持っていた支給品はちゃっかり頂戴しておいたが。 プリシスの待つ民家へ戻りながら、アルベルは心に沸いた疑問について考えていた。 思えばこの場に連れて来られてから、彼はある種の違和感を感じていた。 最初に感じたのは、ラブレターなどというふざけた支給品を掴まされた時…では無く。 氷川村へ向かう途中、女性の死体を発見した時だ。 ――俺は戦場で死んだ奴に情けをかけるような奴だったか? 以前の自分ならそんな物には目もくれ無かった筈だ。 なのにあの時といい、今といい。死者を弔うという摩訶不思議な行動に自分は出ている。 それだけでは無い。 放送でネルやロジャー、スフレといった面々の名前が呼ばれた時に感じた怒り。 連中は知り合いとはいえ利害の一致で共闘したまで。ネルに至っては元々敵対関係にあった人物だし、共に行動している間も互いにいがみ合ってばかりだった。 何故そんな奴らが死んだだけで自分は憤りを感じたのだろうか? 戦場で頼れるのは自身の力のみ。他者と助け合ったり馴れ合ったりなんぞ、力の無いクソ虫共がやる事だと思っていた。 しかしフェイト達と戦い、この殺し合いでもディアス達と行動していた今の自分は、かつて自分が弱いと思っていた人間そのものだ。 ならば自分は弱くなったのだろうか? それでもフェイト達と会う前の自分が、今の自分よりも強いとは到底思えなかった。 その矛盾がアルベルの苛立ちを余計に大きくさせる。 (くそっ、むかつくぜ。ここらで一暴れしてえ所だが…) だが今のアルベルにはもう一つやらなければならない事があった。 プリシスがいる民家のドアを乱暴に開けると、未だ座り込んだままのプリシスに声をかける。 「おい、ガキ」 プリシスの体が少し動いたような気がするが、明かりも点いていない夜の屋内では目の前の人物の様子もよく見えない。 「俺は今からレオンとレナっつー奴らを探す。見つけたら連れて戻って来るから、てめえはこの建物にいろよ」 「レナと…レオン……」 「そうだ。ディアスの話だと東に向かってるらしい。今から追って連れ戻してくる」 それだけ言って、アルベルは再び建物を後にする。 早いとこ二人を連れ帰って、そいつらにプリシスを叱咤激励させて首輪の解析を進めてもらわなければならない。 (あくまで、俺の首輪を外して怪我を治療してもらう為だ。ディアスの為でも、ガキ共が心配な訳じゃねえし、ましてや早くメイド服が見たいからでもねえ) 誰に言っているのか分からないが心の中でのみ呟く。 そして、東へ向かおうと数歩歩き出した時だった。 「待って…」 民家のドアが開き、中からプリシスが姿を現す。 「あたしも行くよ。レナやレオンを探しに」 涙声では無くはっきりとした口調。まだ目に涙は残っていたが、頬にはもう流れていない。 「ああ?てめえなんぞ足手まといだ。そこで首輪についてもう少し調べてろ」 アルベルがそう言うと、プリシスはその言葉を予測していたのかメモ用紙を渡してきた。 「調べてみたけど、あたしにはよく分からないし…」 (あたしに調べられる事は調べた。これ以上の解析はレオンの協力が必要) 言葉とメモの内容の違い。恐らく盗聴器とやらを警戒しての行動だろうが、こうした事ができている辺り冷静な思考が出来るようになっているのかもしれない。 「それに、アルベルの言う通りだった。いつまでもこうしてる場合じゃないし」 「…いいのか、ホイホイ着いてきて?俺は殺し合いに乗ってない奴でも構わず喧嘩売っちまうような男なんだぜ?」 わざと意地が悪い事を言ってみる(勘違いされまくってる事も考慮してるので強ち意地悪でもないが)。 それにプリシスとアルベルが出会ったのは二時間も前の事では無いし、その出会いも最悪の形だった。安心して信頼できる、とはまだ言い難い。 「大丈夫よ。そしたらあたしが力づくでも止めてやるから!」 だが、プリシスはもう怯んでいない。力強いその答えにアルベルも僅かな笑みを浮かべた。どうやら立ち直ったようだ。 「けっ、好きにしな」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 時間を遡る事一時間、時間にして午後七時。 レナが目を覚ましたのは丁度その時刻だった。 ディアスに言われた通り、レナを背負ってレオンはI-07を横断していた。 「うぅん…あれ、私……ってえ!?レオン!?」 「あっレナ姉ちゃん、目覚めたんだね!」 「え、えっと、これはどーなってるの?私確か、レオンの治療をして…それで、ええと…」 「レナ姉ちゃん、僕を治療してくれたの?あ、いや今それは関係無いか…」 とりあえず、レオンはレナに降りてもらう事にした。正直彼女を背負って走るのは相当にキツい。 だがレナ姉ちゃん意外と体重あるんだね、筋肉質なの?などとはさすがに聞けない。 「ごめん。とにかく急いでるから、悪いけど走りながら話そう!」 レナを降ろすと、レオンはすぐに走り出す。レナもまだ意識が完全に覚めては無いものの彼に並走した。 「聞きたい事は沢山あると思うけど…まず何から…」 「えーっと…じゃあまず、その服は一体どうs」 「…これは聞かないで。自分でも分からないんだよ…」 走りながらレオンは伝えるべき事を簡単に伝えた。 どうやら自分は気絶していて、目が覚めたら目の前にディアスがいた事。 そのディアスに言われて、レナを背負って今東へ向かっている最中である事。 どうやら自分達が眠っていた場所の近くに危険人物がいたらしく、ディアスはそいつと戦う為に残った事。 そこまで話すと、急にレナは足を止めてしまった。 「レナ姉ちゃん、どうしたの?」 遅れてレオンも足を止めて振り返った。 レナは俯いておりその表情を見る事は出来ない。レオンは何かあったのかと、心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。 「ごめん…」 ポツリと呟く。 それと同時にレナはレオンに背中を向けた。 「え…!?ま、待ってよレナ姉ちゃん!!」 レオンが慌ててレナの腕を掴み、そのスタートを止めさせた。 「どこ行くのさ!?今からI-08に向かうって言ったでしょ?」 「私、ディアスの所へ戻る」 「えええ!?」 「ディアスが戦ってるのに、私だけ逃げるなんてできない!」 自分の腕を掴んでいた手を振りほどき、レナは本来進むべき方向とは逆…西へ向かって走り出した。 「あ、ちょっと、おーい!」 レオンが叫ぶが、レナはそんな声は聞こえていないとばかりに無視して走り去っていってしまう。 自分もすぐに追おうとして…少し躊躇する。 時刻はもう午後8時過ぎ。あと1時間も経たない内にこのI-07は禁止エリアになってしまう。 このまま東へ向かえば9時までには余裕で突破できるだろう。 だが今からレナを追いかけた場合を考えると厳しい。最悪、戻れなくなる可能性もある。 レナを放ってこのまま東へ向かうか、危険覚悟で西に戻るか…。 「ああーっ!もう!!」 レオンは結局走り去るレナを追う事にした。 ディアスの考えには背く事になるが、彼からはレナを守るように言われている。 I-09へは行けなくなるかもしれないが、どうせ一人で向かった所でディアスの言う事は守れないのだ。 しかしレナを追おうと走り出したのはいいが、全く追いつく気配が無い。 それどころかどんどん差を広げられるばかりだ。 元来レオンはあまり運動が得意では無い。冒険でも専ら頭脳労働が担当だし、まだ身体的にも未発達。 加えて何故か着せられているこのスカートに慣れず上手く走る事ができなかった。 「レ゛ナ゜ね゛え゛ぢゃ~ん……ま゛っでよ゛ぉぉぉ……」 結局レオンのスタミナはものの十数分で尽き、レナを連れ戻すのはほぼ不可能となってしまったのである。 (俺は重大な事を忘れていた…) I-07のエリアを前に、アルベル達は立ち往生していた。 時刻は20時55分。あと僅か5分でこの先は禁止エリアとなってしまうのである。 第二回放送をあまりよく聞いていなかったせいですっかりその事が頭から抜けていた。 もしプリシスが同行していなかったら、彼女の制止を受ける事もなく、禁止エリア進入によって惨めに死んでいた事だろう。 「仕方ねえ。となるとここは避けるしかねえか…」 「でもこの北のエリアも既に禁止エリアになってるわ。向こう側に行くには、相当回り道しなきゃいけないよ?」 「…くっそ!ディアスの野郎、面倒くせえ所に逃がしやがって!」 「うーん…どうしようか?」 「迂回して行くしかねえだろ。ここに留まってたって何も進展しねえ」 二人がしぶしぶ北へ向かおうとすると。 「…今、何か聞こえなかった?」 後ろを歩いていたプリシスが足を止める。 「あ?何も聞こえねえぞ?」 「しーっ!ちょっと静かに!聞こえなくなるでしょ!」 何だとてめえ、とアルベルは言い返そうとしたのだが。 「……ね~……ちゃ……」 微かだが、I-07の方から叫んでいるような声が聞こえる。 「ね!?今聞こえたでしょ!?」 「ま、まあ…な」 「誰かいるのかな…?」 暫く声がした方向を見ていると、やがて見覚えのある人物が見えてきた。 「あっ…!?」 「あのガキ!」 「はぁ……はぁ…レナ……ねえちゃ………おぉーい……ぜぇ…ぜぇ…」 そこに現れたのは、紛れもなくレオン・D・S・ゲースケ。 その顔は汗にまみれており、足取りもフラフラ。一応本人は走っているつもりらしいが、その速さは最早一般人の歩くスピードより遅い。 顔も上げていられないようで、こちらにも気付いていないようだ。 「お、おい!ここが禁止エリアになるまであと何分だ!?」 「え、えっと…」 プリシスが支給品袋から時計を取りだして時刻を確認する。 「あ、あと30秒…」 「……ちっ、クソッタレがぁっー!」 レオンに向かい、アルベルは疾走した。 頭が揺れる。足がガクガクする。喉が渇いた。肺が痛い。 そんな状態になってもレオンは足と口を止めず、レナを追い続けていた。 「はぁ……はぁ…レナ……ねえちゃ………おぉーい……ぜぇ…ぜぇ…」 もうどの位走ったのか。さすがにI-07のエリアは抜けたと思う。 しかしレナの姿は見えてこない。年齢が違うとはいえ、仮にも男の自分が女の子に全く追いつけないとは…。 さすがのレオンも少し自分が情けなくなる…そこまで考えた時だった。 『禁止エリアに抵触しています』 (えええええ!?) 突如首輪から発生した音声にレオンは混乱する。 『首輪爆破まで後30秒』 (ちょ、ちょっと待って!?タンマタンマタンマ!そ、そうだ素数を…ってあと30秒!?そんな場合じゃないって!) どうやらまだ自分はI-07にいたらしい。 これだけ走ってまだ1エリアも抜けられないとは情けない…が、そんな事を考えている余裕は無い。 あと30秒で首輪が爆発してしまう。一刻も早くこのエリアから脱出しなくては。 (走れ、動け、僕の足!火事場の馬鹿力を出すんだ!人間死ぬ気になれば何でも出来る!) だが体は正直だ。いくらレオンが頭で命じても、その通りに動いてくれない。 『首輪爆破まで後20秒』 「くそおぉぉぉっ!」 歯を食いしばって前を向く。心なしか、少しだけまともに走れる気がした。 そして、前を向いた所で見たものは。 「ガキィィィッッッ!!!」 恐ろしい形相でこちらへ向かってくるヘソを出した男だった。 (うわぁっ!?あの人って、確か夕方会ったやばそうな人…!) そうだ。確か気味の悪い笑みを浮かべながら自分に近づいてきた男。 何でこんな所に!?ここまで自分を追ってきたのか? いや、でも今僕はセイクリッドティアを持ってないわけで…。 どちらにしろ今の状態では逃げる事は出来ない。 いや、逃げた所で首輪が爆発して死ぬだけだ。 ああ、自分の命もここまでか…。 「手を出せぇぇぇ!」 叫びながらヘソ出し男は手を延ばしてくる。掴まれ、という事だろうか? レオンは一瞬考える。 首輪を爆破させられる。ヘソ出し男の手を掴む。どちらの方が生存率が高いか。 『首輪爆破まで後10秒』 (考えるまでも無いっ!) レオンは突き出された手をしっかりと掴む。 首輪が爆発するのは恐らく100%だろうが、この男が自分を殺そうとしているかどうかは分からない。 「うおりゃあああっっっっ!!」 ヘソ出し男は声を上げながらレオンが掴んだ腕を思いっきり回し、放り投げた。 レオンの体は宙を舞い、そして地面に衝突する…。 「うわあっ!」 「きゃあっ!」 …いや、衝突したのは地面ではなく、人間。 衝突した人物を巻き込んで倒れ込む。結局地面に叩きつけられたのは同じだが、おかげで衝撃は多少和らげられた。 そしてぶつかったのは、やはりレオンが知っている人物で。 「プ、プリシス…!」 「いったぁ~い……あ、へへ、久し振り、かな?」 首輪からの警告は、もう聞こえなかった。 レオンをぶん投げたヘソ出し男ことアルベルは、その後すかさず踵を返す。 視界に入るのはプリシスと衝突するレオンの姿。 (何とかあのガキは助かったようだが…) 今度は自分が危ない。I-06目掛けて全力疾走で向かう。 「アルベルー!急いでー!」 プリシスの声がする。 「言われなくても分かってんだよぉぉぉぉぉ!」 走る!走る!走る! 十数mも無い距離が異様に長く感じる。 「早くー!」 「があああああっっっっ!」 あと3秒。 2秒。 1秒。 アルベルの首は繋がっていた。 渾身のヘッドスライディングにより、彼は首輪が爆発するコンマ1秒前に上半身をI-07から出す事に成功したのである。 「ア、アルベル、大丈夫!?」 「…見りゃ分かんだろ。とりあえず生きてるようだぜ」 心配そうに駆け寄ってくるプリシスに答え、アルベルはよっと言いながら立ち上がる。 「プ、プリシス、この人味方なの?」 「うん。一応殺し合いには乗ってないみたいだし」 「けっ。二度も助けてやったのに、まだ俺が殺し合いをしてると思ってやがったのか」 面白く無さそうに言うアルベル。 「あ、ご、ごめんなさい。それと、ありがとうございます」 レオンは素直に謝る。思えばレオンが彼を警戒したのは、ただ単に「顔が恐かったから」の一点に尽きる。 根拠も無く外見で人を判断するなんて、何て失礼な事をしてしまったのだろうか、と。 「わ、分かりゃいいんだよ!フン!」 それだけ言ってアルベルはそっぽを向いてしまった。 やはりまだ少し怒っているんだろうか? …心無しか顔が赤かった気がするが、それは多分気のせいだろう。 (ああ、そういえば…) さっきまで色々あって忘れていたが、レオンにはまだ今の状況が飲み込めていないのだ。この際色々整理しておかなければ。 とりあえず、まず真っ先に聞いておきたい事があった。 「ところでプリシス…僕の格好を見てよ、こいつをどう思う?」 「何とも思わねえよクソ虫があっ!!!」 「ご、ごめんなさい!」 何故か聞かれてもいないアルベルが切れた。 そこでレオンは不意に思い出す。ディアスに会う前に残っている彼の最後の記憶は、アシュトンに会った時の記憶で…。 「プリシス…」 「ん?」 「僕さ、アシュトン兄ちゃんに会ったんだよ…そ、それで…」 そう、その時アシュトンから出た言葉。 『プリシスは……生き残るために、僕達を皆殺しにするつもりなんだって』 もし彼の言う事が正しいなら、プリシスは…。 「おい、ガキ。一緒にいた女はどうした」 アルベルの声でレオンの思考は中断された。 「え、あ、そうだ。プリシス、レナ姉ちゃん見なかった?」 「レナ?ううん、見てないけど…。レオン一緒じゃなかったの?」 「僕より先にこっちに向かってたと思うんだけど…」 「おい、とりあえず戻らねえか?その女も戻りながら探せばいいだろ」 こんな所で呑気に立ち話なんてしている場合では無い。 この二人にはさっさと首輪を外す方法を考察してもらいたいし、レナには腕の治療をさせなければならない。 それまでは出来るだけ効率良く事を運んで行きたい、というのがアルベルの考えだ。 「あー、そうだねえ。でもレナはどこ行ったんだろ?レオンは分からないの?」 「う~ん…ディアスお兄ちゃんを助けに行く、みたいな事を言ってたんだけど…。そう言えば、二人はディアスお兄ちゃんに会った?」 レオンの言葉に、プリシスとアルベルの表情が僅かに曇る。 「…それについても移動しながら話す。とりあえず戻るぞ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 嫌な予感が止まらない。 記憶を頼りに、レナはレオンを治療した場所のそばまで戻って来ていた。 「何…これ……」 見えてきたのは、無残にも崩れ落ちた民家と瓦礫の山。 その様子を見るに、恐らくここで何か尋常でない事態があったとしか思えない。 (まさか…この瓦礫の下に…) そう思ったが、すぐにそんな訳は無いと首を振る。 これだけの倒壊を引き起こしたのだ、かなりの轟音が響くはず。だがレナがここに駆けつけるまでにそんな音は聞いていない。 周囲に人の気配は全く無いし、この民家が崩れてから結構時間が経っていると思われる。 だから、レナは瓦礫の下にディアスはいないと結論付けた。いや、いないと信じ込んだ。 もし彼が瓦礫の下敷きになっていたとしたら、もう助かっていないだろうから。 崩れた民家を後にして、レナはさらに走る。 足に疲労が溜まるが我慢する。ディアスが危ないかもしれないのだ。 先程の惨状を目の当りにして、彼女はさらに嫌な予感を膨らませていった。 「あ……!?」 それほど離れていない場所で、立っている人を見つける。背格好から男のようだがディアスでは無さそうだ。 少し離れて様子を伺うがその人物はこちらに気づく様子は無い。 いや…気づくどころか、動く気配すらなかった。 「えっと…すいません…」 意を決して、レナはその人物に声をかけてみたのだが返事は無い。 「…こ、この人……!?」 そこで気付いた。 その人物が、既に絶命している事に。 「ど、どうして…」 よく見れば、その男が立っている正面の民家が無残にも破壊されている。 先程の民家と違ってほぼ全壊だ。 レナの中で不安が加速度的に大きくなる。 (ディアス…ディアス……どこ?どこにいるの……!?) ふらふらとした足取りで周辺を探る。膨らむ不安を抑える為、それだけを気力にして。 そして…とうとう見つけてしまう。 「ここの地面…」 全壊した民家のそばに、やけに不自然な地面がある。 まるで穴を掘った後、何かを埋めたような…。 「違うよね…違うよね?ディアス…!?」 震える声で、最悪の想定を打ち消そうとする。 「違わねえよ」 だがその望みは、背後から聞こえた声によって絶たれてしまった。 聞き覚えのある声にレナは振り返る。 「アルベル…さん…」 そこに立っていた三人の人物。 数時間前までディアスと共に行動していた青年、アルベル。 切断された左腕の治療を施した少年、レオン。 共に十賢者を倒した仲間で、この殺し合いでは初めて顔を会わせる少女、プリシス。 「アルベルさん…今の、違わないって…」 レオンはここに来る途中までに、自分がレナと逃げた後、合流したアルベル達4人でガブリエルと戦った所までの経緯を聞いた。 だが、そのガブリエル戦がどういう結果で終わったのかはまだ聞いていない。 「……どういう、事…ですか?」 レナもレオンと同じように問いかける。 …だが、もう二人共分かっていた。それでも問いかけたのは、まだ認めたく無かったからだろう。 「…ディアスは死んだ。ガブリエルを倒す為に…俺達を守る為にな」 アルベルがそう言うと、レナは糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。 その目にはやがて涙が浮かんで、止め処なく流れ出す。 「ディアス……ディアス………う、うぅぅ…ディ……ア…」 「お兄ちゃん…あ…あぁぁ…」 つられるかのようにレオンもまた泣き出した。 アルベルとプリシスに二人の涙を止める手段は無く、ただその場に立ち尽くす事しかできなかった。 「それでさ、一応調べたんだけどもうチンプンカンプン。さすがのあたしもお手上げって感じかなー」 プリシスがそう言いながら渡してきたメモ用紙には、首輪の構造に関する情報がびっしりと書き込まれていた。 さすがプリシスだ、と僕は唸る。 「う~ん…正直僕も自信無いなあ。あんまり期待しないでね?」 消極的な台詞を言いつつも、僕はそのメモ用紙に熱心に目を通していく。こういった会話は勿論、盗聴器を考慮してのものだ。 …死んでしまったのはディアスお兄ちゃんだけじゃなかった。 プリシス達に聞いた放送の内容によれば、セリーヌお姉ちゃんやオペラお姉ちゃんも死んでしまったらしい。 悔しかった。悲しかった。さっきまで泣いてはいたけど、今でもまだ涙が出そうになる。 でも、今はそんな場合じゃない。僕はすぐに泣くのを止めて、首輪の考察を始めた。 僕が役に立てるのはこれ位だ。でも、だからこそこれに全力を注ぐ必要がある。そしてその価値はある! そう、こういった頭脳労働こそが僕のやるべき事なんだ。 一刻も早く首輪を解除して、これ以上犠牲者が出るのを防がないといけない。 でも、僕の頭にどうしてもひっかかる事がある。 『プリシスは……生き残るために、僕達を皆殺しにするつもりなんだって』 アシュトンお兄ちゃんが言っていたあの言葉が頭から離れない。 勿論、プリシスは僕達を殺そうなんて考える人じゃない。 でも…アシュトンお兄ちゃんだって、どんな事があっても無意味な人殺しをするような人じゃない。 そんな人が、僕に斬りつけてきたのだ。もしも…って事を考えてしまう。 「おい、さっさと頼むぜ。とりあえず次の放送まではここにいるが、そっちが一段落したら移動するからな」 隣りに立つアルベルさんが僕達に言う。 「え?移動するの?」 「ああ。こんだけ暴れても誰も集まって来ねえし、禁止エリアで一部分潰されてるんだ。多分この村にはもう俺達以外の人間はいないだろ」 「確かにそうだろうけど…」 「じゃあ後は頼むぞ。悪いが俺は少し休む。放送のちょっと前に起こしてくれや」 この人は…確かに顔は恐いけど殺し合いにはのっていないらしい。それはレナお姉ちゃんも話してくれたし、何より僕を助けてくれた人だ。 いい人だとは思う。ディアスお兄ちゃんのように、自分の感情を他人に伝えるのが苦手なだけなんだろうと。 分かってる。それは分かっているんだ。だけど…。 プリシス……信じて、いいんだよね? ったく、やっと落ち着いたぜ。 ここまでほぼ休み無しできたからな…さすが俺も疲れてきたぜ。向こうではガキ二人が首輪をいじってあーだこーだ相談している。 悔しいが、俺にはあーいう頭を使う作業はサッパリだ。 まあガキ共がそれに慣れてるんならそれでいい。俺が無理にそんな作業するこたあねえし、俺は俺の本業である「戦い」に専念すりゃいいんだ。 いわゆる適材適所ってやつだな。 さて、今ん所の問題は…。 部屋の隅で俯きながら座り込んでいるあのレナとかいう女。 ガキ共は立ち直ったようだが、あいつは未だにディアスの死を受け入れられないらしい。ずっと落ち込んだままだ。 俺としてはさっさと腕の治療をしてもらいたい所だが、あの様子じゃ今は出来そうにない。 本来なら無理矢理にでも治療させたいところだが、何故だがそういう気分にならない。 ありゃ、立ち直るのを待つしかねえな。 だが俺にはあいつを立ち直らせる術が分からん。励ませばいいのか?んな事俺にできる訳ねえだろうが。 ここにフェイトやスフレみてーな連中がいればそういう事も期待できたんだが。 ディアスの野郎、厄介な問題残して逝きやがって。 まあ、あいつのお陰で俺が生きているのは確かだ。 それに免じて、当分はガキ共のお守りを引き受けてやらあ。 ただ、首輪を解除するまでだがな。ルシファーと戦う時には、俺は何も気にせず直々にあの野郎をぶっ潰させてもらう。 そん時までは面倒見てやるから感謝しろよ。 ふとアルベルは自分のバックの中身を見る。 咎人の剣。 護身刀竜穿。 鉄パイプ。 この殺し合いでアルベルと会い、そして散っていった者達が使っていた武器。 (こーいうのは柄じゃねえな) バッグを閉めて再び寝っ転がり、天井を見つめる。 (てめーらの分までルシファーをぶちのめしてやるよ。あの世で指銜えて見てろよ) そんな事を考えながら、アルベルはゆっくりと目を閉じた。 【I-06/真夜中】 【アルベル・ノックス】[MP残量:70%] [状態:睡眠中 左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、左の奥歯が一本欠けている。内臓にダメージ 疲労大] [装備:セイクリッドティア@SO2] [道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0~1、護身刀“竜穿”@SO3、     鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)] [行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!] [思考1:放送まで寝て疲れを取る] [思考2:首輪が解除されるまでプリシス、レオン、レナの用心棒をする] [思考3:レナを立ち直らせたいが…べ、別に心配だからじゃねえぞ、傷を治して貰わなきゃならねえからだ。文句あっか?] [思考4:レオン達の首輪解析が一段落したら移動する] [思考5:龍を背負った男(アシュトン)を警戒] [現在位置:氷川村内民家] ※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。 【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%] [状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック、仲間と友人の死に対しての深い悲しみ(どちらも立ち直りつつある)] [装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2] [道具:ドレメラ工具セット@SO3、????←本人確認済み、解体した首輪の部品(爆薬のみ消費)、無人君制御用端末@SO2?、荷物一式] [行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒] [思考1:レオンと一緒に首輪の解析を進める] [思考2:自分達の仲間、ヴァルキリーを探す] [思考3:アシュトンを説得したい] [現在位置:氷川村内民家] 【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%] [状態:左腕にやや違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)] [装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)] [道具:どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式] [行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す] [思考1:プリシスと一緒に首輪の解析を進める] [思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する] [思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む] [思考4:時間があったら左腕のリハビリをしたい] [思考5:服着替えたい…] [備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません] [備考2:第二回放送の内容は把握] [現在位置:氷川村内民家] 【レナ・ランフォード】[MP残量:30%] [状態:深い悲しみ、精神的疲労特大] [装備:無し] [道具:荷物一式] [行動方針:………。] [思考1:ディアス…] [現在位置:氷川村内民家] 【残り26人】 ---- [[第101話>今夜の沖木島は所により一時棺桶、その後に炎が降るでしょう。ご注意下さい(前)]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第103話>Start Up from Prolonged Darkness]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第99話>もの言わぬ友よ(前編)]]|アルベル|[[第107話>進展]]| |[[第99話>もの言わぬ友よ(前編)]]|プリシス|[[第107話>進展]]| |[[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]|レオン|[[第107話>進展]]| |[[第93話>目障りなら“殺せばいい” これ以外やり方を知らない]]|レナ|[[第107話>進展]]| |[[第99話>もの言わぬ友よ(前編)]]|COLOR(red):アリューゼ|―|

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