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**第59話 幸運と不幸は紙一重? (ごめんね……プリシス。訂正する、2つじゃなかった) 黒服の男を追い掛けて森を抜けると、驚くことに獲物の数が増えていた。 (4つだった。目の前の3人と拡声器の娘) 自然に笑みが浮かんでくる。 『運が良い』こんなことを思ったのは何時が最後だったろうか? 獲物の様子がおかしい。 どうやら自分が現れたことに気付いていない様だ。 『運が良い』3人とはいえ、そんな間抜けの集まりなのだから。 思わず声に出して笑い出しそうになるのをグッとこらえ、代わりとばかりに剣を構えなおす。 「行くよ2人とも」 そしてアシュトンは一気に間合いを詰めに掛った。 ■ 「はやく、たす…逃げ……ごろざれちまう」 「あー、もう、だから何なのよ!」 助けを求めつつもこの場から逃げようとする男を、メルティーナは捕まえて思わず怒鳴る。 このキモ男の様子から切羽詰まった状態であること、何者かに追われていたことは予想できる。 だが、キモ男がやって来た方向からその『何者か』は一向に現れないではないか。 取り合えず何がおこったのか聞き出したかった。 「兎に角落ち着きなさい! 冷えない敵って一体何なの?」 その言葉を聞いた男は、メルティーナの両肩に掴みかかる。 「ちょっ……」 「またか、このド変態! お姉さまから離れろ!」 またしてもロジャーの言葉を無視し、男は必死の形相で訴える。 「ち、ちが……、み、見えない敵が……」 「……見えない敵?」 「そうだ、見えなアガァッーー!」 突然キモ男に異変がおこった。言葉の最中に妙な声を上げる。必死だった顔は間抜けなものに変わった。 横を見るとロジャーは何かに驚いた表情――こちらも中々の間抜け面だ。 メルティーナ自身にも異変があった。キモ男の変化とほぼ同時に腹部に鈍い痛みを感じた。 腹部を見てみる、透明な刃物の様な物が、キモ男を貫通して自身の腹部に刺さっていた。 メルティーナは慌ててキモ男を『更に後ろにいる何者か』ごと突き飛ばし、距離を取る。 ロジャーはそれを見るなり我に返り、心配そうに近寄ってきた。 「お姉さま、大丈夫ですか!」 「何とかね、深くは刺さってなかったみたい。それより……」 倒れた『2人』に目を向けると、キモ男は右側面を上に向けた状態で横になっていた。 「がぁ……」 キモ男が苦痛の声を上げると同時に、腹部から血が噴き出す。傷口をえぐったのだろうか? 「ぐぎゃぁぁああぁあぁぁ!!」 次の瞬間、腹部の傷口が上方向に向かって広がっていった。腹に刺さっていた刃物をそのまま振り上げたのだ。 傷口から勢い良く血が噴き出し、男の上――何もないはずの空間から臓物が現れ、ベチャっと地面に落ちる。 更にキモ男の首筋から血が滴り始め……ロジャーはその光景を呆然としながら眺めていた。 メルティーナは、そんなロジャーの耳元で、何かを囁いく。 ■ (まずは1人……簡単じゃないか) 男の首を切り落としながら、アシュトンはそんなことを思った。 (クロード達や十賢者以外は対したことないのかもなぁ) そうしている内に獲物の方に動きがあった。 女の方はデイパックから杖を取りだし、その場で構える。 少年の方は手ぶらでこちらに向かってくる。 (まずは彼から) 牽制のために、足下に転がっている男の首を少年に向かって蹴り飛ばす。 それに驚いたのか、少年は小さな悲鳴を漏らし足を止めた。 チャンスとばかりに急接近、斬りつけようとするも――その攻撃は途中から防御に切り替えた。 「でぇぇいやぁぁ!」 少年の手から斧の様な物が現れ、それを振り下ろしてきたのだ。 剣でそれを防ぎ、バックステップで距離を取り、次の攻撃に備えるが――それだけだった。 後の攻撃はその場で斧を振り回すだけのもの。つまり先程の攻撃はまぐれだったのだろう。 「……ギョロ」 溜め息混じりの一言、直後少年は炎に包まれた。 のたうち回る少年に止めを刺すべく近寄るが、背後からの声がそれを止める。 「ギャフー!(不味いアシュトン! 女の方だ!)」 女の方に目を向ける。 「……安息を得るだろう……」 術の詠唱だろうか? 術は余り詳しくないアシュトンだったが、ウルルンの様子からアレが相当不味いものだと判断。 直ぐに女の方へ向かおうとする。今ならまだ阻止できると思ったから。 「永遠に……」 だが、駆け出す瞬間何かを踏みつけて転倒。肩に掛けていたデイパックが放り出され、中身を前方にぶちまける。 踏みつけたものを確認すると、それは先程自分が蹴り飛ばした男の頭部だった。 「儚く」 今からでは間に合わない。何だか分からないが直撃を貰う訳にはいかない。 身を守る手段を必死に探し―― 「セレスティアルスター!」 女が術名叫ぶと同時に、天から光の柱が次々と降り注いだ。 ■ 大魔法『セレスティアルスター』 降り注ぐ光の柱がアシュトンの周辺を、ロジャーもろとも飲み込んだ。 位置が完全に把握できない敵を倒すなら、大魔法で広範囲を攻撃すればいい。 彼女の支給品に大魔法が行使できる『エレメント・セプター』が有ったのは幸運だった。 もっとも、エレメント・セプターは使い捨て。彼女のそれは大魔法と引き替えに崩れさっていた。 正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。 『ロジャー、お願いが有るんだけど』 『ひっ……あ、はい、何でしょうお姉さま』 『悪いんだけど、アイツの相手をしてくれない? 私の武器貸して上げるから』 そう耳打ちすると、ロジャーは驚愕の表情を浮かべてこちらを見た。 『アレはおそらくディメンジョン・スリップ。簡単に言うと透明人間になれる道具。  アレ姿や気配は消せるけど、物音や声は消せないの。だから……』 『それを頼りに戦えってこと? そんなのオイラには無理……』 『あんたは強いんでしょ? 全力で私を守ってくれるんじゃなかったの?』 それを聞いてロジャーはうつむいた。 さすがに無理なお願いだと思った。断られたらさっさとこの場から退くつもりだった。ところが……。 『解りました、オイラがお姉さまのために必ずや奴を倒して見せます!』 そう言ってレーザーウェポンを手に取り、駆け出して行った。 守るべき対象に見捨てられるとも知らずに。 光の柱も最後の一本が収束していき、明らかになった視界には一見誰も立っていないように見えた。 「まっ、これで死ななきゃ……!?」 言葉途中で気付いた。何処かおかしい。何処だ? 地面に転がっているのは男の頭部といくつかの道具――これは別におかしく無い。 敵の死体が無い――透明人間なのだから当たり前だ。 ロジャーは――ボロ雑巾の様な姿になって、ぐったりしていた…… 空中で静止した状態で。 「……ッ!! ダーク・セイヴァー!」 メルティーナは直ぐ様魔法を放つ。それに対し、相手は手にしたロジャーを投げつけて応戦。 (……これって、まさか) 彼女は数時間前に同じ様なことを体験している。そして、今回も同じ様に魔法は無効化された。 「また!?」 ただ、その後は違った。今回のロジャーは止まらずに激突する。 尻餅を付いた彼女は直ぐに起き上がろうとするが、相手はそれを許さなかった。 足を一閃。 倒れた彼女の腕を掴んで持ち上げ、その状態で一言悪態を付いた。 「さっきの術、凄く痛かったんだけど」 『何て無様なんだろう』『何故あの時逃げなかったのか』『私にはまだやらなければならないことがあるのに』 メルティーナの頭に様々な弱い言葉が浮かぶが、それらを無視して集中力を高める。 駄目元で、一発かましてやるために魔法の詠唱を行うが、 「させないよ」 それすら中断を余儀なくされる。 「あああああっ!!」 顔面に焼ける様な痛みが走る。顔を斬りつけられた様だ。 それだけでは終わらない、相手は更に剣を走らせる。腕に、胴に、足に、 何度も何度も何度も何度も……。 不可視の剣はメルティーナを相手に踊り続けた。 ■ 「やれやれ、大分てこずっちゃったな」 アシュトンは、ダルそうに体を引きずりながら荷物の回収・整理を行う。彼の体もボロボロだった。 大魔法が放たれた瞬間、彼はロジャーを掴み上げ、盾として利用した。 もっとも、形の小さいロジャーでは完全に防ぐことはできなかった。 それでもアシュトンは死ななかったし、四肢も無事だ。動くこともできる。 「ギャフ?(おいアシュトン、あの小さい奴は何処へ行った?)」 「あれ? そう言えば……」 言われてからロジャーの首輪を回収していないことを思い出した。 辺りを見回すが、そこに有る死体は2つだけ。 「ギャ?(逃げられたのか?)」 「んー……多分そうなんだろうね。折角の獲物を取り逃がすなんて、やっぱり僕は不幸だなぁ」 溜め息を付きつつ彼は立ち上がる。 「ギャウ?(探すのか?)」 「いや、例の娘の所へ急ぐよ」 それを聞いてギョロとウルルンは顔を見合わせる。 「ギャフー(少し休んだ方が良いぞ)」 「僕のことなら心配いらないよ。それより、例の娘がいなくなってないかの方が心配だよ」 そう言って彼はよろよろと歩き出す。背中の二匹は『やれやれ』といった感じの仕草をしていた。 ■ アシュトンがいた場所の直ぐ近くに、ロジャーは倒れていた。 直ぐに死んでもおかしく無いくらい重傷だったが、彼はまだ生きていた。 彼の幸運は3つ。 セレスティアルスターを受けたとき、グリーンタリスマンが発動したこと。 ダーク・セイヴァーに対し、ウィザードクロスが発動したこと。 そして、倒れたときに、もう一つのディメンジョン・スリップを無意識の内に握っていたこと。 【G-05/真昼】 【アシュトン・アンカース】[MP残量:70%] [状態:疲労、ダメージ大] [装備:アヴクール@RS、ディメンジョン・スリップ@VP] [道具:無稼動銃、マジックミスト、レーザーウェポン、ルナタブレット、首輪×2、荷物一式] [行動方針:プリシスの望むまま首輪を狩り集める] [思考1:拡声器の主のところへ急ぐ] [現在位置:G-05、南へ移動中] &color(red){【ノートン@SO3 死亡】} 【&color(red){【メルティーナ@VP 死亡】} ――あれから何時間経ったのかな? それとも何分かな? 身体のあちこちが痛い。 声が出せない、呼吸をするたびに苦痛が押し寄せる。 手足が動かない、四肢がちゃんと付いているかどうかすら分からない。 「……ッ!? これは」 「え……!? いやぁ!」 ――声が聞こえた、男と……たぶん綺麗なお姉さまの声だ! 人が来たんだ! 「惨いな」 ――惨いと言った。きっとオイラ達の状態のことだ。惨い状態でも、オイラはまだ生きているんだぞ。 「ディアス、この人……」 「あの時の男か」 ――バカチン! そっちじゃない! まずはオイラを……。 「あの呼び掛け……この女性のものだったのかな?」 「この状態では何とも言えんな。それより……」 ――そうだ、それよりオイラを……。 「早くここから離れるぞ。有らぬ疑いを掛けられるは御免だ」 ――待って! オイラを無視するなんて酷いじゃんか! お願いだ、助けて……。 「……けて……」 「? レナ、何か言ったか?」 「え? 何も言ってないけど」 「そうか」 彼の不幸。 それは、最期までディメンジョン・スリップを手放さなかったこと。 【G-05/真昼】 【ディアス・フラック】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:護身刀“竜穿”@SO3] [道具:????×2←本人確認済み、荷物一式] [行動方針:ゲームに乗った参加者の始末] [思考1:レナを最優先に保護] [現在位置:G-05、三つに分かれた道] 【レナ・ランフォード】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:無し] [道具:????×2←本人確認済み、荷物一式] [行動方針:死にたくない] [思考1:仲間と合流したい] [現在位置:G-05、三つに分かれた道] &color(red){【ロジャー・S・ハクスリー@SO3 死亡】} &color(red){【残り45人】} ※ロジャーの死体はディメンジョン・スリップを握っているため見えません。 ※エレメント・セプター、ウィザードクロス、グリーンタリスマンは壊れました。 ---- [[第58話>またまたご冗談を]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第60話>蘇る決意 ]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|アシュトン|[[第71話>絶望の笛(前編)]]| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):ノートン|-| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):メルティーナ|-| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):ロジャー|-| |[[第4話>野望のはじまり……?]]|ディアス|[[第66話>LIVE A LIVE]]| |[[第4話>野望のはじまり……?]]|レナ|[[第66話>LIVE A LIVE]]|
**第59話 幸運と不幸は紙一重? (ごめんね……プリシス。訂正する、2つじゃなかった) 黒服の男を追い掛けて森を抜けると、驚くことに獲物の数が増えていた。 (4つだった。目の前の3人と拡声器の娘) 自然に笑みが浮かんでくる。 『運が良い』こんなことを思ったのは何時が最後だったろうか? 獲物の様子がおかしい。 どうやら自分が現れたことに気付いていない様だ。 『運が良い』3人とはいえ、そんな間抜けの集まりなのだから。 思わず声に出して笑い出しそうになるのをグッとこらえ、代わりとばかりに剣を構えなおす。 「行くよ2人とも」 そしてアシュトンは一気に間合いを詰めに掛った。 ■ 「はやく、たす…逃げ……ごろざれちまう」 「あー、もう、だから何なのよ!」 助けを求めつつもこの場から逃げようとする男を、メルティーナは捕まえて思わず怒鳴る。 このキモ男の様子から切羽詰まった状態であること、何者かに追われていたことは予想できる。 だが、キモ男がやって来た方向からその『何者か』は一向に現れないではないか。 取り合えず何がおこったのか聞き出したかった。 「兎に角落ち着きなさい! 冷えない敵って一体何なの?」 その言葉を聞いた男は、メルティーナの両肩に掴みかかる。 「ちょっ……」 「またか、このド変態! お姉さまから離れろ!」 またしてもロジャーの言葉を無視し、男は必死の形相で訴える。 「ち、ちが……、み、見えない敵が……」 「……見えない敵?」 「そうだ、見えなアガァッーー!」 突然キモ男に異変がおこった。言葉の最中に妙な声を上げる。必死だった顔は間抜けなものに変わった。 横を見るとロジャーは何かに驚いた表情――こちらも中々の間抜け面だ。 メルティーナ自身にも異変があった。キモ男の変化とほぼ同時に腹部に鈍い痛みを感じた。 腹部を見てみる、透明な刃物の様な物が、キモ男を貫通して自身の腹部に刺さっていた。 メルティーナは慌ててキモ男を『更に後ろにいる何者か』ごと突き飛ばし、距離を取る。 ロジャーはそれを見るなり我に返り、心配そうに近寄ってきた。 「お姉さま、大丈夫ですか!」 「何とかね、深くは刺さってなかったみたい。それより……」 倒れた『2人』に目を向けると、キモ男は右側面を上に向けた状態で横になっていた。 「がぁ……」 キモ男が苦痛の声を上げると同時に、腹部から血が噴き出す。傷口をえぐったのだろうか? 「ぐぎゃぁぁああぁあぁぁ!!」 次の瞬間、腹部の傷口が上方向に向かって広がっていった。腹に刺さっていた刃物をそのまま振り上げたのだ。 傷口から勢い良く血が噴き出し、男の上――何もないはずの空間から臓物が現れ、ベチャっと地面に落ちる。 更にキモ男の首筋から血が滴り始め……ロジャーはその光景を呆然としながら眺めていた。 メルティーナは、そんなロジャーの耳元で、何かを囁いく。 ■ (まずは1人……簡単じゃないか) 男の首を切り落としながら、アシュトンはそんなことを思った。 (クロード達や十賢者以外は対したことないのかもなぁ) そうしている内に獲物の方に動きがあった。 女の方はデイパックから杖を取りだし、その場で構える。 少年の方は手ぶらでこちらに向かってくる。 (まずは彼から) 牽制のために、足下に転がっている男の首を少年に向かって蹴り飛ばす。 それに驚いたのか、少年は小さな悲鳴を漏らし足を止めた。 チャンスとばかりに急接近、斬りつけようとするも――その攻撃は途中から防御に切り替えた。 「でぇぇいやぁぁ!」 少年の手から斧の様な物が現れ、それを振り下ろしてきたのだ。 剣でそれを防ぎ、バックステップで距離を取り、次の攻撃に備えるが――それだけだった。 後の攻撃はその場で斧を振り回すだけのもの。つまり先程の攻撃はまぐれだったのだろう。 「……ギョロ」 溜め息混じりの一言、直後少年は炎に包まれた。 のたうち回る少年に止めを刺すべく近寄るが、背後からの声がそれを止める。 「ギャフー!(不味いアシュトン! 女の方だ!)」 女の方に目を向ける。 「……安息を得るだろう……」 術の詠唱だろうか? 術は余り詳しくないアシュトンだったが、ウルルンの様子からアレが相当不味いものだと判断。 直ぐに女の方へ向かおうとする。今ならまだ阻止できると思ったから。 「永遠に……」 だが、駆け出す瞬間何かを踏みつけて転倒。肩に掛けていたデイパックが放り出され、中身を前方にぶちまける。 踏みつけたものを確認すると、それは先程自分が蹴り飛ばした男の頭部だった。 「儚く」 今からでは間に合わない。何だか分からないが直撃を貰う訳にはいかない。 身を守る手段を必死に探し―― 「セレスティアルスター!」 女が術名叫ぶと同時に、天から光の柱が次々と降り注いだ。 ■ 大魔法『セレスティアルスター』 降り注ぐ光の柱がアシュトンの周辺を、ロジャーもろとも飲み込んだ。 位置が完全に把握できない敵を倒すなら、大魔法で広範囲を攻撃すればいい。 彼女の支給品に大魔法が行使できる『エレメント・セプター』が有ったのは幸運だった。 もっとも、エレメント・セプターは使い捨て。彼女のそれは大魔法と引き替えに崩れさっていた。 正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。 『ロジャー、お願いが有るんだけど』 『ひっ……あ、はい、何でしょうお姉さま』 『悪いんだけど、アイツの相手をしてくれない? 私の武器貸して上げるから』 そう耳打ちすると、ロジャーは驚愕の表情を浮かべてこちらを見た。 『アレはおそらくディメンジョン・スリップ。簡単に言うと透明人間になれる道具。  アレ姿や気配は消せるけど、物音や声は消せないの。だから……』 『それを頼りに戦えってこと? そんなのオイラには無理……』 『あんたは強いんでしょ? 全力で私を守ってくれるんじゃなかったの?』 それを聞いてロジャーはうつむいた。 さすがに無理なお願いだと思った。断られたらさっさとこの場から退くつもりだった。ところが……。 『解りました、オイラがお姉さまのために必ずや奴を倒して見せます!』 そう言ってレーザーウェポンを手に取り、駆け出して行った。 守るべき対象に見捨てられるとも知らずに。 光の柱も最後の一本が収束していき、明らかになった視界には一見誰も立っていないように見えた。 「まっ、これで死ななきゃ……!?」 言葉途中で気付いた。何処かおかしい。何処だ? 地面に転がっているのは男の頭部といくつかの道具――これは別におかしく無い。 敵の死体が無い――透明人間なのだから当たり前だ。 ロジャーは――ボロ雑巾の様な姿になって、ぐったりしていた…… 空中で静止した状態で。 「……ッ!! ダーク・セイヴァー!」 メルティーナは直ぐ様魔法を放つ。それに対し、相手は手にしたロジャーを投げつけて応戦。 (……これって、まさか) 彼女は数時間前に同じ様なことを体験している。そして、今回も同じ様に魔法は無効化された。 「また!?」 ただ、その後は違った。今回のロジャーは止まらずに激突する。 尻餅を付いた彼女は直ぐに起き上がろうとするが、相手はそれを許さなかった。 足を一閃。 倒れた彼女の腕を掴んで持ち上げ、その状態で一言悪態を付いた。 「さっきの術、凄く痛かったんだけど」 『何て無様なんだろう』『何故あの時逃げなかったのか』『私にはまだやらなければならないことがあるのに』 メルティーナの頭に様々な弱い言葉が浮かぶが、それらを無視して集中力を高める。 駄目元で、一発かましてやるために魔法の詠唱を行うが、 「させないよ」 それすら中断を余儀なくされる。 「あああああっ!!」 顔面に焼ける様な痛みが走る。顔を斬りつけられた様だ。 それだけでは終わらない、相手は更に剣を走らせる。腕に、胴に、足に、 何度も何度も何度も何度も……。 不可視の剣はメルティーナを相手に踊り続けた。 ■ 「やれやれ、大分てこずっちゃったな」 アシュトンは、ダルそうに体を引きずりながら荷物の回収・整理を行う。彼の体もボロボロだった。 大魔法が放たれた瞬間、彼はロジャーを掴み上げ、盾として利用した。 もっとも、形の小さいロジャーでは完全に防ぐことはできなかった。 それでもアシュトンは死ななかったし、四肢も無事だ。動くこともできる。 「ギャフ?(おいアシュトン、あの小さい奴は何処へ行った?)」 「あれ? そう言えば……」 言われてからロジャーの首輪を回収していないことを思い出した。 辺りを見回すが、そこに有る死体は2つだけ。 「ギャ?(逃げられたのか?)」 「んー……多分そうなんだろうね。折角の獲物を取り逃がすなんて、やっぱり僕は不幸だなぁ」 溜め息を付きつつ彼は立ち上がる。 「ギャウ?(探すのか?)」 「いや、例の娘の所へ急ぐよ」 それを聞いてギョロとウルルンは顔を見合わせる。 「ギャフー(少し休んだ方が良いぞ)」 「僕のことなら心配いらないよ。それより、例の娘がいなくなってないかの方が心配だよ」 そう言って彼はよろよろと歩き出す。背中の二匹は『やれやれ』といった感じの仕草をしていた。 ■ アシュトンがいた場所の直ぐ近くに、ロジャーは倒れていた。 直ぐに死んでもおかしく無いくらい重傷だったが、彼はまだ生きていた。 彼の幸運は3つ。 セレスティアルスターを受けたとき、グリーンタリスマンが発動したこと。 ダーク・セイヴァーに対し、ウィザードクロスが発動したこと。 そして、倒れたときに、もう一つのディメンジョン・スリップを無意識の内に握っていたこと。 【G-05/真昼】 【アシュトン・アンカース】[MP残量:70%] [状態:疲労、ダメージ大] [装備:アヴクール@RS、ディメンジョン・スリップ@VP] [道具:無稼動銃、マジックミスト、レーザーウェポン、ルナタブレット、首輪×2、荷物一式] [行動方針:プリシスの望むまま首輪を狩り集める] [思考1:拡声器の主のところへ急ぐ] [現在位置:G-05、南へ移動中] &color(red){【ノートン@SO3 死亡】} &color(red){【メルティーナ@VP 死亡】} ――あれから何時間経ったのかな? それとも何分かな? 身体のあちこちが痛い。 声が出せない、呼吸をするたびに苦痛が押し寄せる。 手足が動かない、四肢がちゃんと付いているかどうかすら分からない。 「……ッ!? これは」 「え……!? いやぁ!」 ――声が聞こえた、男と……たぶん綺麗なお姉さまの声だ! 人が来たんだ! 「惨いな」 ――惨いと言った。きっとオイラ達の状態のことだ。惨い状態でも、オイラはまだ生きているんだぞ。 「ディアス、この人……」 「あの時の男か」 ――バカチン! そっちじゃない! まずはオイラを……。 「あの呼び掛け……この女性のものだったのかな?」 「この状態では何とも言えんな。それより……」 ――そうだ、それよりオイラを……。 「早くここから離れるぞ。有らぬ疑いを掛けられるは御免だ」 ――待って! オイラを無視するなんて酷いじゃんか! お願いだ、助けて……。 「……けて……」 「? レナ、何か言ったか?」 「え? 何も言ってないけど」 「そうか」 彼の不幸。 それは、最期までディメンジョン・スリップを手放さなかったこと。 【G-05/真昼】 【ディアス・フラック】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:護身刀“竜穿”@SO3] [道具:????×2←本人確認済み、荷物一式] [行動方針:ゲームに乗った参加者の始末] [思考1:レナを最優先に保護] [現在位置:G-05、三つに分かれた道] 【レナ・ランフォード】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:無し] [道具:????×2←本人確認済み、荷物一式] [行動方針:死にたくない] [思考1:仲間と合流したい] [現在位置:G-05、三つに分かれた道] &color(red){【ロジャー・S・ハクスリー@SO3 死亡】} &color(red){【残り45人】} ※ロジャーの死体はディメンジョン・スリップを握っているため見えません。 ※エレメント・セプター、ウィザードクロス、グリーンタリスマンは壊れました。 ---- [[第58話>またまたご冗談を]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第60話>蘇る決意 ]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|アシュトン|[[第71話>絶望の笛(前編)]]| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):ノートン|-| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):メルティーナ|-| |[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):ロジャー|-| |[[第4話>野望のはじまり……?]]|ディアス|[[第66話>LIVE A LIVE]]| |[[第4話>野望のはじまり……?]]|レナ|[[第66話>LIVE A LIVE]]|

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