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 **第118話 鎌石村大乱戦 第二幕 ~龍を屠る赤き一撃~(前編)
 
 僕はひたすらに道なりに歩みを進め続けていた。その足が目指す先は大切な仲間との再会の場所鎌石村。 
 ブレアさんとロキと名乗る青年と別れてからしばし歩き続けていた僕は、E-4とF-4の境目で一度その足を止めた。 
 このまま道なりに北へと進めば目的地には到着できる。 
 しかしこのままではアシュトンと交わしたもう一つの約束、仲間を集めるという事が達成できない。 
 特にアシュトンはプリシスとの再会をとても楽しみにしていた。 
 今からプリシスを探して鎌石村に辿り着く事は不可能かもしれないけれど、せめて僕達にかけられた疑いを晴らしてくれる仲間は集めておきたい。 
 このまま鎌石村で合流した時に、もしもアシュトンも仲間を集める事が出来ていなかったら、何のために二手に分かれたのかわからなくなってしまう。 
 それに正直な所、初対面の人がアシュトンの姿を見て警戒しないなんて思えない。 
 だったら、ここは僕が無理をするしかなさそうだ。 
 すっかり忘れていたけれど、僕はジャックの使っていた首輪探知機を持っている。 
 こいつを使って近くに誰かいないか探してみよう。出来れば1人でいる人よりも二人以上纏まっている人達がいいかな。 
 少なくとも殺し合いに乗っている人間が仲間を作るとは考えにくいしね。 
 ジャックがこの機械を見せてきた時に行っていた操作を思い出しながらあれこれと弄ってみる。 
 僕の不用意な発言の所為で死んでしまったと言っても過言ではない彼の事を思うと心が痛む。けれども、ここで立ち止まってはいけない。 
 まだここには生きている人達がいて、その中には助けを求めている人だっているはずなのだから。 
 なんとか動作を始めた探知機のモニターの中心点に光点が一つ、少し離れて二つの光点浮かび上がった。 
 (多分これは僕の首輪の反応だろう。こっちはブレアさん達だろうな。操作は出来そうだけど他には誰も周りにいないな…。 
  もっと広域表示とか出来ないのかな? っと。出来た出来た) 
 装置側面についたボタンを押してみたところ、中心にあった光点のサイズが一回りほど小さくなった代わりに、 
 北東に五つ光点が纏まっている箇所とそこから少し離れて一つ、南東方向と北西方向に二つの光点が重なっている箇所が表示された。 
 (鎌石村からそんな離れてなさそうだし、北東の方に向かってみよう。 
  それにもしかしたらこの人達は打倒ルシファーを掲げた大集団なのかもしれない。) 
 探知機をデイパックにしまい五つの光点があった地点へと僕は足を向けた。 
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 「君達はここで殺す!」 
 そう吼えたアシュトンが大剣を構え一直線にこちらに突っ込んできた。 
 (クロード? クロードがなんだって? あの口ぶり、アイツはクロードと手を組んでいるのか?  
  それに今の台詞は殺し合いに乗っているって事なのか?  
  くそっ! 訳がわからねぇ。とっ、とにかくアシュトンを無力化しないと!) 
 湧き出る疑問を振り払い、筒から3本いっぺんに取り出した矢を間髪入れずに2連射する。 
 アシュトンの機先を制すべく放たれた俺の攻撃は、その長身とは裏腹に軽やかなステップで回避されてしまった。 
 だが、この程度の攻撃で抑えられる様な生易しい相手ではない事は、こいつの戦いぶりを見ていた俺にだってわかっていた。 
 撃たずにおいた矢に闘気を送り込み、その矢をアシュトンの足元に向けて打ち出す。 
 矢が地面に突き刺さると同時に送り込んでおいた気が開放され大地を炸裂させた。 
 特訓の末に編み出した技のうちの一つ『衝破』だ。 
 そして、この技の役目は攻撃の他にももう一つある。打ち出した大地の破片でアシュトンの視界を奪う事だ。 
 この状態なら回避も、迎撃も間に合わないはず。 
 狙いはアシュトンの右手。武器を持つ事が出来なくなればきっとアシュトンを止められる。 
 そう思って放った一撃は、大地の破片と破片の僅かな隙間を潜り抜け、狙い通りの軌跡を描いた。 
 狙いは完璧。確かな手応えを感じた俺だったが、次の瞬間赤い炎が夜闇に瞬いた。 
 咄嗟にその炎を横っ飛びで回避し、体勢を整え新たな矢を構える。 
 そこには降り注ぐ破片をその背に受けたアシュトンが立っていた。それも無傷のままだ。 
 その背中から伸びる紅い龍の口に燻っている炎が見える。 
 (あの龍の吐いた炎で俺の矢を焼き落としたってのか?) 
 「へぇ、中々面白い事ができるじゃないか? でも、残念だったね。 
  普通の剣士だったら今の攻撃で手傷を負っていたかもしれないけど、 
  生憎僕にはこの二人がいるからね。今みたいな攻撃は通用しないよ」 
 「くそっ」 
 悪態と共に構えた矢を放つが、アシュトンはその攻撃を切り払った。 
 「無駄だって言ってるのわからない? さっきみたいに目を眩ましてからの攻撃ならいざ知らず。 
  君と僕との実力差じゃ正面からの攻撃なんて当たりっこないよ。だから、おとなしく僕に殺されちゃいなよ!」 
 今度もさっきと同様にまっすぐに突っ込んでくる。 
 多分俺の矢を完全に見切っているんだ。確実に捌ききれる自身があるからこその突撃だろう。 
 (だからって、おいそれと引き下がっていたら、守りたい者なんて何一つ守れやしない。今度こそ、俺は守りきってみせる!) 
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 チェスターが訳のわからない事を言って寝返った時は少し驚いたけど、今のやり取りだけでわかった。こいつは僕の敵じゃない。 
 確かに矢を狙った所に撃つ技術は高いけど、それだけなんだ。 
 常に正確な狙い故に、攻撃が来るタイミングさえ掴めれば簡単に見切ることが出来る。 
 チェスターが新たな矢を構えた。僕の間合いまではまだ遠い。 
 攻撃を阻む事は出来そうにないけれど、チェスターの視線の先を捉えれば彼の狙いは丸わかりだ。 
 おそらく彼の狙いは僕の右肩。 
 攻撃の来るタイミングは狙いを定めてから攻撃に移る時の僅かな呼吸の変化。 
 
 まだだ…、まだ来ない。 
 残りの距離を更に詰める。 
 
 そして、残りの距離が僕の間合いまで後数歩となった所でチェスターの呼吸が変わった。 
 
 来る! 
 
 チェスターの指が矢羽を離すと同時に、踏み込んだ左足を軸に体を捻り回転させる。 
 僕の左肩を掠めた矢が闇の彼方へと消え去るのを横目に剣を振りかぶる。 
 回転の勢いと共にフルスイングした『アヴクール』の切っ先が二の矢を放とうとしたチェスターの弓を逸らした。 
 次の攻撃に移れるのは僕の方が早い。振り抜いた剣を両手に持ち直し、叩きつける様に『アヴクール』を振り下ろす。 
 だけど、この攻撃は地面を叩いてしまった。やはり使い慣れていない武器だと僅かに振りが遅れるみたいだ。 
 飛び退いて僕の攻撃をかわしたチェスターが反撃の矢を空中で構えている。 
 (狙いは僕の左足か。紙一重で交わして着地間際を攻撃するか?  
  いや、さっきみたいに地面を砕いてくるかもしれない。なら、間合いをいったん離した方が良さそうだ) 
 チェスターの攻撃と共にバックステップで距離を開ける。 
 寸前まで僕の左足があった位置を彼の放った矢が貫いていた。 
 (予測どおりだ。一気に間合いを…。なっ!?) 
 僕は驚いた。突如として地面に突き刺さる軌道を取っていた矢がホップアップしたからだ。 
 薄緑色の闘気を纏ったそれは周囲の空気を陽炎のように揺らしながら地を這って僕に迫ってきた。 
 「頼んだよギョロ!」 
 「ギャッフ!(わかった!)」 
 ギョロが放った火炎弾の狙いは寸分違わずチェスターの矢を捕らえていた。 
 なのに、その炎は矢に当たる寸前に消滅してしまった。突然の出来事に一瞬回避が遅れてしまう。 
 なんとか直撃は間逃れたけれど、その矢は僕の左腿を掠めていた。 
 「痛っ」 
 掠っただけのはずだったのに、僕の腿には切り傷の様な痕が残っている。 
 (今の攻撃は一体?) 
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 (裏をかいた『鷲羽』でも掠り傷程度しか与えられないか…) 
 矢に纏わせた闘気を真空に変え、風に乗せて矢を放つ攻撃。これも特訓の中で身につけた技だ。 
 「ちょっと君を侮ってたみたいだ…。本気で行くよ!」 
 アシュトンから放たれる気迫が一段と増した気がした。 
 『リーフスラッシュ』 
 俺の体を中心に木の葉が渦を作って視界を奪い去った。さっきの金髪との戦いで見せたあの技だ。 
 (どこから来る? 右か? 左か? せめてあいつの位置さえわかれば…。 
  『震天』で手当たり次第攻撃を…。駄目だ。そんなに矢の本数に余裕が無い。そうか! あれを使えば!) 
 「『衝破』」 
 左右に一回ずつ『衝破』を使い大地を巻き上げる。 
 続けて俺はデイパックに手を突っ込んで目的の品を引っ張り出した。 
 「行けーっ」 
 取り出したそれを思いっきり地面に叩きつける。 
 地面に出来た凹凸にぶつかった『スーパーボール』が勢いよく跳ね上がり、そして、さっき巻き上げた大地の破片にぶつかりまた跳ねる。 
 俺の周囲を跳ね回る『スーパーボール』が木の葉の群れの一角にぶつかると地面や欠片とぶつかった時と異なる挙動を示した。 
 
 「そこか! 『紅蓮』」 
 矢を炎の闘気で包んで撃ち出す俺の得意技が触れた木の葉を焼いて直進する。 
 『スーパーボール』がぶつかった木の葉に『紅蓮』が当たると同時に俺の周囲を舞っていた木の葉が一斉に消えた。 
 晴れた視界の先には右の肩口に矢を受けたアシュトンの姿があった。 
 思った以上に距離を詰められている。すぐさまバックステップで距離を開ける。 
 「こんなおもちゃで…」 
 肩口に突き刺さった矢を抜きながら忌々しげに呟くアシュトン。 
 「悪足掻きをっ! 『デッド・トライアングル』」 
 アシュトンが目の前で突然消え去った。 
 そして次の瞬間には俺を取り囲むようにアシュトンが、 
 (3人!?) 
 まるで三角形を形作るように出現したアシュトン達が同時に剣を大地に突き刺した。 
 すると、アシュトンを頂点とした三角形の中が高濃度の魔力で満たされる。 
 「ぐあああぁぁぁぁっ!」 
 まるで体が焼かれるような衝撃に意識が飛びそうになる。 
 漸く魔力の渦から解放された俺は両膝を折り、前のめりに崩れ落ちた。 
 (駄目だ…。力が、入らない…) 
 しばらくは今の攻撃のショックで動けそうに無い。 
 「手間取らせないでよっ!」 
 冷たい視線を俺に投げかけるアシュトンが剣を振りかぶった。 
 (クソッ、こんな所で…) 
 剣を振り下ろそうとするアシュトンが急に飛び退いた。 
 さっきまでアシュトンがいた位置に複数の氷の矢が突き刺さる。 
 (この魔法はアーチェ? いや…、アーチェは死んだはずだ…、じゃあ誰が?) 
 氷の矢が放たれた先を辿るとそこには、さっきまでアシュトンと戦っていたあの娘が杖を構えて立っていた。 
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 (どうして? あの子はあの人と戦っているの?) 
 戸惑う私はしばらく弓を持った子と龍を背負った男の人の戦いを眺めていた。 
 弓を持って戦うその姿は、私を何度も守ってくれたあの人の姿に少しだけダブって見える。 
 
 木の葉が舞い、大地が砕け、炎が闇夜を駆け抜けた。 
 
 二人の戦いはなんとか弓を持った男の子が食らいついていっていると言った感じだった。 
 けれど、状況は突如として一変する。 
 龍を背負った男の人の姿が消え、次に姿を現した時には3人になっていた。 
 突き立てた剣と共に地面に陣が描かれ、その中をここからでも判るくらい凄まじい紋章力が満たしていく。 
 地に伏してしまった男の子に龍を背負った男の人が歩み寄り剣を振り上げた。 
 (助けなきゃ!) 
 その光景を目にした時、頭の中を巡る疑問はどこかに吹き飛んで、代わりに私は強くそう思った。 
 (あの女の子の仇を取りに来たんじゃないの?)とか(何故仲間同士で戦っているの?) 
 なんて今はどうでもいいんだ。 
 (あの男の子は私を助けようとしてくれている。それはつまり、また誰かが私を守ろうとして傷つこうとしているという事。 
  役立たずの私を守ろうとして傷つこうとしている。もう誰にもそんな事になって欲しくない…。 
  だから私は決めたんだ。変わろうって。守られてばかりいる自分を変えようって) 
 「『アイスニードル』」 
 龍を背負った男の人目がけ氷の矢を殺到させる。矢は全て回避されてしまったけれど、なんとか男の子の事を守ることが出来た。 
 (そうよ。もう、守られてばかりじゃないんだから!) 
 そんな私の行動が癇に障ったのか、イラついた様子でこっちを睨みつけながら龍の青年は呟いた。 
 「どいつもこいつも邪魔ばかり! チェスターの次は君なんだから、もう少し黙っててよ!」 
 剣を虚空に奔らせ印を結び、鋭く巨大な氷の槍を作り出して私の方に打ち出してきた。 
 (『リフレクション』でなんとか弾かないと) 
 障壁呪紋の詠唱を始めた所で氷の槍は溶解した。 
 青い髪をした男の子が放った炎の矢が氷の槍を打ち落としていた。 
 「言っただろ! その娘は俺が守るって!」 
 大きく飛び退いて距離を開け、男の子はそう叫んだ。 
 苛立ちをよりいっそう強くした様子で、私とチェスターと呼ばれた男の子に鋭い視線を送る龍を背負った青年。 
 そんな彼の背負った龍が青年に声をかける。 
 「ギャフー」 
 「そうだね、ウルルン。少し頭に血が上りすぎてたみたいだ。その作戦で行こう」 
 そう呟いて大きな剣をデイパックにしまうと新たに赤い刀身の剣を引き抜いた。 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 そうだ。ウルルンの言う通りだ。別に正面からぶつかる必要は無いじゃないか。 
 ウルルンはこう言った。 
 「ギャフー(頭を冷やせアシュトン。持久戦に持ち込めばいずれ抵抗できなくなる)」 
 そう、僕はこの剣で牽制だけを繰り返していればいいんだ。 
 何故かと聞かれれば単純な話だ。紋章術使いと弓使い。この二者に共通して言える弱点は攻撃回数に限界がある事だ。 
 厳密に言うと剣も刃こぼれ等を考えればその範疇ではあるけれど、矢や紋章術と比べればその差はあって無い様な物だ。 
 ソフィアっていったっけ? 君は後何回紋章術が撃てる? 
 僕とボーマンさんを相手にしてた時からずっと戦いずくめだよね? そろそろ限界なんじゃないか?  
 そして、チェスター。今何本矢を使った? 確かあの子の荷物から取り出した矢は40本だったよね?  
 この短時間で結構な本数使ってたみたいだけど、残りの本数で僕を倒すことは出来るのかな? 
 このまま僕はこの剣から火炎弾を飛ばし続ければいい。 
 多少疲れるけど紋章剣技を使うのに比べたらこんなの疲労の内に入らない。 
 必死に、矢で打ち落としたり呪紋で逸らしたりしているけど、そのままでいいのかい? 
 僕は別に構わないけどね。君達が抵抗できなくなったらゆっくり殺させてもらうよ。 
 それが一番疲れなくて済むからね。 
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 (クソッ! アシュトンの奴さっきから剣を振って火の玉を飛ばしてくるだけじゃないか!) 
 火球自体の速度はたいした事は無いから『凍牙』で簡単に打ち落とせる。 
 間断なく撃ってくるから反撃のチャンスは中々作れないけれど、こんなのただの時間稼ぎにしかならないじゃないか。 
 またもや飛ばしてきた火の玉を迎撃しようと、矢筒に手を伸ばしたその時、 
 俺は残りの矢の本数が心許なくなっているのに気付くと同時に、漸くアシュトンの狙いがわかった。 
 火炎弾を撃ち落さずギリギリまで惹きつけてから横っ飛びでそれをかわす。 
 (アシュトンの奴こっちの弾切れを狙って? そういやあの娘もずっと戦っていたけどまだ魔法が使える余力は残っているのか?) 
 さっきまでは火炎弾の合間に反撃の魔法を撃ち込んでいたあの娘が、今はずっと回避に専念している。 
 (クソッ、このままじゃ追い詰められちまう) 
 
 「キャッ!」 
 女の子が足をもつれさせて体勢を崩してしまった。その隙をアシュトンは見逃す訳も無く火球を放つ。 
 (間に合え!) 
 残り少なくなってきた矢を取り出し、火の玉目掛け『凍牙』を放つ。 
 しかし、焦って照準をした所為か標的から僅かに上に逸れてしまった。 
 「しまった!」 
 女の子は咄嗟にデイパックを盾にしてなんとか直撃を間逃れていた。彼女の荷物の中身が辺りに散らばったがどうやら無事みたいだ。 
 (もうこっちには余力が残されてない。こうなったら一発もらうのを覚悟で、勝負に出るしかない!  
  一撃で決める為の大技…。やっぱりあれしかないか) 
 特訓を続けて最近編み出した技『大牙』。 
 送った闘気で矢を巨大化させて放つあの技ならば、あの剣の火炎弾や炎のブレスでも焼き落とされることは無い。 
 けど、この技は直ぐには撃てない。送り込まなきゃいけない闘気の量の多さ故、どうしてもタメが必要になってしまう。 
 撃ち落されはしなくても避けられてしまっては意味が無い。 
 (どうすればアシュトンの足を止める事が出来る? 思い出せ。戦いの中でアシュトンは何回か足を止めていた事があったはずだ 
  あの娘が使った炎の魔人の攻撃の時か? 違う。 
  あの娘が使った無数の光線魔法の時か? 確かに足は止めていたけれど違う。 
  俺にも出来そうな攻撃で足を止めていた事があったんだ) 
 アシュトンの戦闘の光景を記憶の中から引っ張り出し、該当するシーンを必死に探し出す。 
 その最中に飛んで来た炎弾を横っ飛びでかわすが、着地の際に地面を砕いた時にできた出っ張りに躓いてしまった。 
 追撃の火球が迫ってくる。躓いた時の勢いを利用し、そのまま地面を転がりなんとか回避して体を起こす。 
 その時だ、探していた光景が脳裏にフラッシュバックしてきたのは。 
 (そうだ! アシュトンは岩の雨を降らす魔法の時や俺の『衝破』の時に足を止めていた! 視界が塞がれていたからか?  
  多分そうだ。下手に動くよりも迎撃に勤めた方が被害が少ないんだ。 
  それにアイツには二匹の龍もいる。事迎撃に関しては他の剣士なんかよりも安全に出来るんだ。 
  ならば、視界さえ奪えば『大牙』を叩き込むチャンスは作れる!) 
 
 女の子の方をチラリと見やる。着ている服は切り傷や擦り傷でボロボロ。その上息が上がってきている。 
 (もう一刻の猶予もない。ここで勝負に出る!)
  
 矢筒から3本纏めて取り出して構える。 
 俺の動きに気付いたアシュトンが剣を振り、炎の弾を飛ばしてきた。 
 しかし、迎撃している余裕なんて無い。肉を切らせて骨を断つ。多少の怪我でアシュトンを止められるならば御の字だ。 
 「『衝破』」 
 火炎弾の脇を掠めるように矢を放った。火の玉の影で少しでもアシュトンにこの矢を気付かれるのを遅らせる為だ。 
 アシュトンの目の前の地面に着弾。砕かれ巻き上げられる大地の欠片。 
 それと同時に火炎弾が俺に当たった。さっきのアシュトンから受けた魔力攻撃の時に負った傷が響く。 
 だけど、怯む訳には行かない。炎により与えられる痛みを省みず、俺は降り注ぎ始めた地面に狙いをつけた。 
 「『豪天』」 
 一際大きなかけらに突き刺さった矢に眩い雷光が降り注いだ。 
 「ギャッ!」「ギャッフ!」 
 これで、アシュトンも二匹の龍も目を潰されたはずだ。 
 アシュトンは粉塵を受けて目をつぶっているし、その間を守る為に二匹の龍は暗闇に目を凝らしていた。その最中にあの雷。 
 (今しかない!) 
 掴んでいた最後の矢を装填し思いっきり弦を引き絞る。 
 矢に巡らした闘気を質量に変え、矢を次第に巨大なものに変えていく。 
 その矢のサイズが槍を越え、そして、大地に根を下ろす大樹の様に巨大になった。 
 「『大牙』!!」 
 弦を離し、戒めを解かれた巨大な1本の矢が真っ直ぐにアシュトンへと突き進んでいく。 
 『大牙』をその身に受けたアシュトンは周囲の瓦礫や木々を巻き込みながら吹き飛ばされた。 
 
 「どうだ?」 
 アシュトンが吹っ飛んだ時に巻き上がった土煙と、夜闇の所為でどうなったかわからない。 
 手加減をする余裕なんてなかった。もしかしたら殺してしまったかもしれない。 
 でも、この女の子を守る為にはしょうがなかったんだ。 
 (クソッ、なんでこんな事に…) 
 そんな事を考えている時だ、炎の中に吹雪の入り混じった空気の渦が煙の向こうから飛んで来たのは。 
 それを間一髪でかわして矢を抜き煙の先を見据える。 
 
 「今のは結構危なかったよ…。後一瞬気付くのに遅れたら僕はこの剣みたいにバラバラになっていたんじゃないかな?」 
 そう言って煙の向こうからアシュトンが出てきた。その手に握っていた炎を出す剣は刀身を砕かれ柄だけになっていた。 
 その柄を放り捨て、デイパックから大剣を引き抜く。 
 「もう面倒だ…。ギョロ、ウルルン。アレをやるよ。バックアップをお願いね」 
 そう言うとアシュトンは両手で持った大剣を眼前に掲げ凄まじい量の魔力を放ちだした。 
 まるで嵐の中にいるかの様な風が巻き起こる。さっきの分身攻撃の比じゃない魔力がこの位置からでも感じられる。 
 
 撃たせたらヤバイ。 
 直感がそう告げている。どんな攻撃かわからないが身を隠すような場所も無いこんな所で直撃を受けたら無事じゃあすまない。 
 「させるか! 『鷲羽』」 
 この風に流されること無く、また、龍の炎の息に撃ち落される事のない攻撃を選択する。 
 「「ギャギャッ、ギャフ!」」 
 すると、アシュトンの背に生えた二匹の龍の内赤い方が大地に火炎の息を当て無数の瓦礫と粉塵を巻き上げ、 
 もう一方の蒼い方の龍がそれらを凍らせて即席の氷の盾を作り上げ俺の『鷲羽』を弾いた。 
 
 「大いなる創造神トライアよ――」 
 アシュトンが剣を振り上げる。その剣閃を追う様に蒼白い凝縮された魔力が光の筋を残す。 
 (責めて、この娘だけでも!) 
 この女の子はずっと守っていた緑色の長髪をした男を覆う様に抱きしめていた。 
 俺はこの身を盾とする為にアシュトンとこの娘の間に立ち塞がる。 
 
 「全ての敵を滅せよ!! 『トライエース』」 
 
 一閃 
 刀身から蒼白い燐光が迸り、極限まで凝縮した魔力が開放される。 
 大気がぐらりと歪み、周囲の粉塵や瓦礫、更には焦土の中生き残ることが出来た僅かな木々でさえ飛び散らした。 
 
 更にもう一閃 
 巻き起こる爆風。大気が更にいびつに歪み、よじれ、空間そのものが悲鳴をあげた。 
 
 そして最後にもう一閃 
 一際強烈な魔力の奔流。数百匹の魔獣の咆哮に似た大音響と共に空間、果ては重力すら捻じ曲げるかの様な凄まじく圧倒的な力。 
 その全てが俺たちに牙を剥いた。 
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 「思った以上に疲れるね…。これもルシファーが言ってた制限って奴なのかな?」 
 『トライエース』を使った疲労からその場に膝を突くアシュトン。 
 「ギャフ、フギャ(大丈夫かアシュトン?)」 
 「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと眩暈がしただけさ。さぁ、早くあの三人の首輪を回収しよう。 
 そうしたらボーマンさんと合流しようか。まだあの人には使い道がありそうだからね」 
 「フギャフフギャー(待て、どうやら技の威力も制限されていた様だ)」 
 ウルルンの言葉を聞いて顔を上げたアシュトンは、ゆっくりと脇腹を押さえながら立ち上がるチェスターの姿を捉えた。 
 「そうみたいだね…。でも、もう抵抗する力すら残ってはいないだろうからさっさと済ましちゃおう」 
 (巻き込まれた瓦礫に当たって、穴でも開いちゃったのかな?  
  あんまり運はいい方じゃないみたいだな。少し親近感を感じるよ) 
 剣を支えにしながら立ち上がると、その剣を引き摺る様にしてチェスターに歩み寄るアシュトン。 
 「これでまた一歩、プリシスの一番に近づける訳だね…。フフフッ、待っててねプリシス。僕がもっと首輪を集めてあげるから…」 
 何かに取り憑かれた様な不気味な笑みを浮かべたアシュトンは、確かな足取りでチェスターへと迫った。 
 
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