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**第119話 盤上の出来事 「那々美……か」 菅原神社の本堂入り口で、洵は同じ倭国出身のエインフェリアの事を思い出した。 倭国最大の国『海藍(ファイラン)』にある、昂后神社の巫女職の継承者だった少女。 初対面の時には大人しく真面目で控えめな少女という印象だったが、それは彼女の一面に過ぎない。 夢瑠と2人で行動する時には、一緒になってカシェル辺りに悪戯を仕掛けて楽しんだり、 仲間内の恋愛話に興味を持ったりからかったりという、どこにでもいる少女のような面も有った。 いや、エインフェリアとしての資質以外を見れば、実際どこにでもいるような少女だったのだろう。 この遊戯の開戦の狼煙代わりにされたのはそんな少女だった。 あの時は流石に洵も怒りを覚えたが、殺し合いに乗ると決めてからは、その事を敢えて思い出そうとはしなかった。 決意が鈍るとか非情になりきれないとか、そういった理由からではない。只、無意味だからだ。 それでも神社という特殊な環境に1人で居ると、自然とその巫女の事が脳裏に浮かんでくる。 (お前が生きていたなら、やはりこの遊戯を止めようと行動したのだろうな。  ……俺にはお前の想いは汲めないが、悪く思うな。お前の分の道具は有効に使わせてもらう) 那々美を思い出したからといって「仇討ち」などの方向に心が動く訳ではない。 だが、争い事を好まなかった彼女の事を思い起こさせるこの場所は、少々居心地悪く感じられた。 早いところ探索を終えて本堂を出るとしよう、洵がそう考えた所で 『……今、何か言ったのか?』 耳の裏からルシオの声が聞こえてきた。 正確には耳の裏に接着して取り付けた、コミュニケーターに付属されていた『小型イヤホン』だ。 これと衣服に取り付けた『小型マイク』で、2人は今コミュニケーターを手に持たずとも会話が出来るようになっている。 どうやら洵の呟きは伝わってしまったらしい。 『……何でもない。それより俺の方には今の所は見当たらないが、そっちはどうだ?』 『あ、ああ。有ったよ。階段のところに有った。中身はまだ見てないけど』 『分かった。今行く』 先程の放送によると、新たに支給品が置かれるのは「菅原神社入口前」だった。 しかし、この伝え方だと「神社境内の入口」とも「神社本堂の入口」とも受け取れた為、 E-01エリアからだと神社の裏側から敷地内に入る事になる2人は、二手に分かれて探索する事にしたのだ。 何か有った場合にはすぐに駆けつけられるように、コミュニケーターの通信を入れたままにしておいたのだが 結果的には必要の無い事だったらしい。 洵は通信を切り、本堂の扉を開く。 その時には、那々美の事などは完全に忘れていた。 ☆ 新たなパックを入手した2人はすぐに神社を離れ、E-01へと向かった。 道具を詳しく確認するのは禁止エリアを出て安全圏へと移動してからだ。 ルシオは時計を見て時刻を確認する。充分E-02を抜けられる時間は残っていた。 「……結局誰も居なかったな。人を集める罠だと思ったんだけど……」 ルシオは独り言のように呟いた。 新たに支給品が置かれたのはルシファーの気紛れや、ましてや言葉通りの「褒美」で有る筈も無い。 これを餌として殺し合いを加速させる罠である筈なのだ。 場合によっては自分達同様に支給品を取りに来る他の参加者と一戦交える覚悟はしていたのだが、 実際には神社には誰も居らず、支給品も手付かずのまま。 つまり自分達以外には誰もここには来なかったし、時間的に見て今から誰かが来る可能性も低いと思われる。 これでは菅原神社に置かれた支給品は、本当にただの自分達への褒美にしかならない。 「禁止エリアとなる時間が近い事も有る。他の奴らはそう言った意味での危険は無い鎌石村の方に流れたのかもしれんな」 「それにしても誰も来ない可能性を考慮しないなんて……ルシファーはそんな甘い奴なのか?  ……いや、何かおかしい。何かを見落としてる……?」 事が都合よく運びすぎている時は、落とし穴が大口を開いて待ち構えている場合が多い。 そんな貧民街での経験がルシオに警告を発していた。だがその警告が具体的な形を成さない。 「見落とし?」 「ああ。そんな気がする。  そもそも『褒美』で人を集めるんなら、ここを禁止エリアにする必要なんか無いんだ。  禁止エリアにさえならなければ、ここに向かってくる人数だって増える筈なんだから……  まてよ、禁止エリア?……待ち伏せ……?」 ルシオは考え込む。 今回臨時に増やされた分を合わせて計6つの禁止エリア。 この内の4つはおそらくは、島を縦断して島の東側から出てくる参加者を待ち伏せさせる為、 そしてエリアごとの人口密度を一気に高めて参加者達を遭遇させる為に配置された。 狙いは明確では有るが、抵抗する事が困難な罠となっている。ここまでは先程の民家で気付いていた。 残る2つの禁止エリアのE-02とE-04。 ここが禁止された事で、鎌石村に居る参加者が村から出ていく場合にはE-01、またはE-03を通らざるを得ない。 同時に、もしもD-05に参加者が居るのなら、E-05とF-05以外に道は無くなる。 そう考えると今回の禁止エリアは今までの禁止エリアに比べ、 より参加者の移動経路を限定し、待ち伏せをし易くなるように定められたように見えてくる。 ならばE-02に置かれた支給品はどうなのか?これが罠でも何でも無いなどという事があるのだろうか? 神社に支給品が置かれた理由も他と同様なのだとしたら…… 「……もしかして……そういう事か?」 「何か気付いたのか?」 後方から聞こえてきた呟きに洵が反応を返して振り返ると、ルシオは険しい顔付きで立ち止まっていた。 「……これも『ネズミ取り』だったのかもしれない。  今まで気付かなかったけど、よくよく考えれば今の俺達は完全にハマってるんだ」 「ハマっている?……どういう事だか説明しろ」 ルシオは辺りを見回しながら口を開いた。 「ああ。走りながら話すよ。とにかくこのエリアを抜けよう。俺の考えが正しかったら敵が近くまで来ているかもしれないんだ」 「……分かった。行くぞ」 洵は走り出す。確かに間も無く禁止エリアになる場所での戦いなどは御免だった。 ルシオも、1度後ろを振り返り誰も居ない事を確認すると、洵に続いて再び走り始めた。 「……今度の禁止エリアはまずこの島を縦断するように配置されてる。  これには移動経路を制限して参加者同士をぶつけ合わせようとするルシファーの意図が有るのが明白だったな」 「ああ」 「だけど、それは縦断された場所に限った事じゃない。支給品が置かれた神社だって同じ事なんだ。  こっちも俺達の移動経路を制限して待ち伏せされやすいように考えられてる」 神社での待ち伏せならともかく、移動経路を制限した上での待ち伏せ。それを聞いた洵は眉間に皺を寄せる。 「どういう事だ?」 「良いか。0時に放送を聞いて神社に支給品を取りに行くとする。  ……俺達が1番だったんだから、俺達を基準で考えるけど、  到着した時には、禁止エリアになるまで残り1時間をとっくに切ってただろ?」 お前との会話が無ければもっと早くに到着していたがな。洵はそう思いながらも相槌を打った。 「E-02は2時に禁止エリアになる。で、神社はエリアの西側の端に在るんだ。  多少時間が余ってたとしても、誰だって1番速くエリアを出られる所へ向かいたがるさ」 つまり、今彼等が向かっているE-01へと。 「……確かに俺達はE-01への最短距離を走っているが、これはルシファーに誘導されての事……奴の思惑通りという訳か」 「多分な。支給品を手に入れてE-01に出たら、その後はもうD-01かF-01に出るしかない。  他のやる気になってる奴らがこの事に気付いていたら、確実にそこで待ち伏せてるだろうな」 そういった輩からすれば、洵とルシオはわざわざ新たな支給品を持ち運んで来てくれる『運び屋』であり『獲物』だ。 ミッドガルドでも、例えばアルトリアからヴィルノアへと続く街道では、運び屋が襲われる事など日常茶飯事だった。 バドラック辺りの言葉を借りれば洵とルシオを襲撃するのは『おいしい仕事』となるだろうか。 「最悪D-01方向、F-01方向、それと俺達のように支給品を取りに行ってE-02から出てくる奴の  3組に囲まれる可能性だってある。……今のところ後ろから誰か来る気配は無いけど」 それを聞き、洵は忌々しげに舌を鳴らした。 「傍観を決め込む事にした矢先にこの状況か……とにかくE-01の道路まで出るぞ。  見通しの良い場所で、まずは新たな道具を確認する。良いな」 今は何よりも禁止エリアからの脱出が優先だ。 2人はエインフェリアの仲間内でも1、2を争える敏捷さでE-02エリアを駆け抜けていった。 ☆ 道具の確認を終えた洵とルシオは、元居た民家を目指して街道を歩いていた。 出来れば急いで移動したいが、ルシオの読みが正しければこの先には敵が待ち構えている可能性が高いのだ。 街道の周囲には木々や茂みなど、隠れられる箇所も多く存在する。現に洵が最初に殺した男も茂みに潜んでいた。 襲撃者があのような小物なら問題は無い。だが強敵に不意を衝かれれば気付かぬ内に殺されてしまう事も考えられる。 それ故、2人は移動速度よりも周囲の警戒に重点を置き、進んでいた。 そうして移動してきた現在地、E-01の南部の街道。 ここで、ミカエル戦以来となる緊張感が洵とルシオを包んだ。道の先に灯りが見えるのだ。 ランタンの灯りかどうかまでは分からないが、あの様な灯りは2人が菅原神社へ向かう時には無かった。 何者かがこの辺りに居るのは確実だ。 「どう思う?」 「…………分からない。罠だとしても露骨過ぎる」 「確かにな。アレは避けて進むか?」 「……いや、もしかしたらそれが狙いかもしれない。あの灯りは囮で、避けて移動した俺達を暗闇で叩く罠なのかも……」 ルシファーに移動経路を誘導されていたという考えは、ルシオの心に軽い疑心暗鬼をもたらしていた。 「ならば――」 洵は抜刀した。 「――ここで考えていても堂々巡りとなるだけだな。行くぞルシオ。コミュニケーターで会話が出来るようにしておけ」 「行くって……正面からか?!」 「そうだ。ここから眺めていて罠かどうか看破出来る筈も無いのだからな。  他にやりようが無いなら向かうまでだ。罠ならば叩き切れば良いだけの事!」 しばし逡巡する様子を見せていたが、その言葉で心が決まったのだろう。 ルシオは黙って頷き、コミュニケーターを操作すると、自身の腰から剣を静かに引き抜いた。 2人は同時に攻撃される事を避ける為、左右に若干距離を離して進んだ。 灯りが罠、囮であるなら、襲撃されるのは灯りよりも遥か手前である可能性も有るが、 2人のそのような警戒心をまるで無視するかのように、灯りは何事も起こさず、ただ揺らめくのみだった。 E-01とF-01の境界、二股に分かれている道の手前まで到達したところで、灯りの正体が次第に明確になり始める。 「見えるか?」 「ああ。女……だよな」 灯りの正体はランタンであり、歩み寄るに連れて浮かび上がるのは、それを手に持つ1人の女性の顔だった。 洵もルシオもこの女性に見覚えは無い。 「この女……?」 洵は女の立ち振舞いを見て訝しむ。 堂々と姿を見せて待ち構えている割には、女はあまりにも隙だらけなのだ。 洵がその気になれば、この女に抵抗らしい抵抗もさせる事なく殺せるだろう。 「私に戦う気は有りません。あなた方にその気が無いのでしたら止まって頂けますか?」 女の方から声を掛けてきた。 彼女から見れば、洵とルシオの姿まではまだ確認出来ていない筈だが、誰かが近付いてくる気配には気付いていたようだ。 『ルシオ、俺が止まるまでは止まらなくて良い。周囲を警戒しろ。この女自体が罠かもしれん』 囁くように話しかけるが、マイクとイヤホンのおかげで問題も無く、聞かれる事も無く会話が出来る。 『分かった』 ルシオの返事を確認すると、洵は女に向けて話し掛けた。 「こちらにもやる気は無い。だが貴様の顔がはっきりと確認出来る位置までは進む。良いな!」 方便だった。洵の狙いは自身の最速の技にして奥義でもある『千光刃』の間合いに入る事。今の位置は、それには少し遠い。 「…………でしたら私から行きます。私の顔が確認出来たら声を掛けて下さい。……『洵』さん」 「「なっ?!」」 2人に動揺が走り、足が止まった。代わりに女は洵達に向かってゆっくりと歩き出す。 何故この女は姿も見えない洵の事を判別出来たのか。 いや、姿を見られていたとしても、洵はこの女と面識は無い。姿だけで参加者の誰かまで特定出来る筈もない。 『知り合い……じゃないよな?』 ルシオから通信が入った。 『……全く知らん女だ。何者だ?この女……』 考えられるとしたら、洵から見たルシオのように未来の人物か、もしくは、 「貴様、ミランダか?」 ミランダが何らかの方法で化けている事くらいだった。 「…………いいえ。ミランダ・ニームではありません。私は……」 「そこで止まれ!顔は確認出来た。……ミランダでは無いのならば何故俺を知っている?」 動揺して声を掛ける事を失念していた。 女までの距離は10mも無い。彼女の持つランタンの灯りが洵とルシオの顔を照らしている。 向こうからも既に2人の顔は見えている筈だ。 「……それは……私がルシファー・ランドベルドの妹だからです」 「……何?」「……え?」 意外すぎる返答に、洵とルシオは言葉を失った。 と言うのは驚いて、という訳ではない。女の言っている事への理解が追いつかないのだ。 そんな2人の様子に構わず、女は続けた。 「お2人にお願いが有ります。……助けて下さい。私は今、貴方達の良く知る人物に脅されているんです」 ルシファーの妹がここで自分達の知り合いに脅されている?洵もルシオも状況が上手く理解出来なかった。 だが、何者かに待ち伏せされている事だけは確実のようだ。一体誰だと言うのか。 「……俺達の良く知る人物だと?」 「はい。私はその男に脅され、ここで待ち伏せする事を強要されています」 今この島で生き残っていて、女を脅して利用するような、自分達の知る男。 洵もルシオも、瞬時に約2名の顔を思い浮かべた。 「彼は少し離れた場所からこちらの様子を監視しています。  私程度の声でしたら届かない距離だと思いますが、念の為に出来るだけ声を抑えて頂けますか?」 「……その人物とは?」 洵はそれには素直に従い、声を抑える。 「それは――」 女はルシオを見て、続けた。 「――ルシオさん。特に、貴方が良く知る男です」 わざわざ『ルシオ』を強調するのならば、その男とは―― 「ロキ……ロキが……近くに居るのか……?」 ☆  ★  ☆ ロキは気配を消し、ブレアからある程度離れた場所から様子を窺っていた。 菅原神社へと向かっていたロキとブレアが何故E-01とF-01の境界付近に居るのか? 簡潔に言えば、それはほぼルシオの考えた通りの理由での『待ち伏せ』であった。 ブラムス達を追って菅原神社を目指していたロキとブレア。 ロキ1人でなら充分追い付ける筈だったのだが、ブレアの足の遅さが計算外だった。 このまま進んでも、自分達が菅原神社に到着する頃には既にブラムス達は去った後だろう。 それでは神社に向かう意味が全く無い、と考えたロキは、 神社に居るブラムス達には追い付けないとしても、 ブラムス達が神社から平瀬村に向かう所ならば、このペースでもまだ先回り出来るはず。 そう判断し、早々に進路を菅原神社から平瀬村に切り替えていたのだ。 F-01とE-01の境に到着した後は灯りを持たせたブレアを1人で街道に立たせ、ロキは大きく距離を取った。 ブラムスのパーティにブレアを潜り込ませるにはロキ自身が姿を見せて待ち伏せる訳にはいかないし、 あまり近くで様子を窺っていれば、ブラムスに自分の気配を感付かれてしまう恐れも有るだろう。 だから、ロキ自身は大っぴらには動かない。その代わりに、このようにしてブレアを目立たせる事にした。 こうすれば、ブラムス達でなくとも神社方向から平瀬村に入る者と接触出来る確率は高くなる。 ここで接触するのがブラムス達なら後は作戦通りにブレアに頑張ってもらい、 別の誰かなら情報交換だけ行わせ、その情報次第で行き先を考えれば良い。 もしも接触する人物がブレアに攻撃を仕掛けようとした場合には、ロキが容赦無く魔法を撃ち込むつもりだった。 遠距離から飛び道具で攻撃された場合でも、ロキにはそれを察知して撃ち落とせる自信も有る。 一応ブレアはロキにとって使える駒なのだから、そう簡単に殺させる訳にもいかない。 そしてどのくらい待っただろうか。ようやく他の人物の気配を感じた。 (やっと誰かお出ましか。ブラムスなら話が早いが……違うみたいだな) ややあって、ブレアに動きが有った。接触した様子だ。 ロキの位置からは、はっきりとした言葉までは聞き取れないが、今の所はその誰かがブレアに襲いかかる気配は無いようだ。 それならばロキが動く必要は無い。動くとしたらブレアが情報交換を済ませた後。その情報次第だ。 ロキは、ここでブレアがブラムス達以外の人物と出会った場合には、ブラムス達の移動先をある程度特定する為、 その人物から『菅原神社で支給品を手に入れたかどうか』を聞き出す事を命じていた。 ロキが最後に見たブラムス達の居た場所を考えるに、 第3回放送後にどちらの支給品配置場所にも尤も近い位置に居た参加者は、まずブラムス達だ。 つまり、ブラムス達が支給品を取りに行けば、どちらに行ってもまず間違いなく一番乗り出来るだろう。 その前提で考えると、もしも今ブレアと接触する人物が菅原神社で支給品を入手していたとしたら(Aパターン) ブラムス達は神社に行かなかったという事になる。つまり鎌石村に向かった可能性が高い。 逆に支給品を入手していなかったのなら(Bパターン)、 ブラムス達が支給品を手に入れている場合と、更に別の誰かが支給品を手に入れている場合とが有るが、 どちらにしてもブラムス達が既に平瀬村の何処かに来ている可能性は生まれる。 Aパターンならともかく、Bパターンの場合はブラムス達がこの場所の近くに居るかもしれないのだ。 ここで派手に動いてロキがブレアと一緒に居る所を見られてしまえば、ブレアが警戒されてロキの作戦は台無しとなる。 出来る事なら、ロキもここでは余計な騒ぎを起こしたくは無かった。 ブレアが接触した人物に近付き始めた。ランタンの灯りがその人物、いや、人物達の姿を照らし出す。 見覚えのある姿に気付いたロキはそのシルエットを凝視した。そして、若干の驚きの後、薄ら笑いを頬に浮かべる。 (あの姿……もしかしたらルシオか!?名簿の『ルシオ』はやっぱりあいつだったか。ここで見つけられるとはね。  さて、こうなると……とりあえずは情報交換が終わるのを待って、その後は……どうしようかな?) ☆  ★  ☆ 「――貴様の顔がはっきりと確認出来る位置までは進む。良いな!」 (良いわ!とても良い!『声』を出してくれたのだからね!) ブレアからは姿が見えなかったが、聞こえてきた声のおかげで暗がりから向かってくる人物の正体を『検索』する事が出来た。 (この声は、レナス・ヴァルキュリアのエインフェリアの1人『洵』ね。  私の呼び掛けに返事を返してきたのだから、今すぐに私を殺そうとする事は無いでしょうけど……) とは言え、警戒されているのは事実。 データでは洵の視力は決して悪くなく、この距離でランタンを掲げ上げているブレアの顔が見えないとは考え難い。 おそらくは、自身の攻撃し易い距離まで近付く為の方便だろう。 洵の他にもう1人分の気配も有るし、攻撃をされる事を避ける為にも、この場でのペースは掴まなければならない。 「――私の顔が確認出来たら声を掛けて下さい。……洵さん」 ブレアは彼らに『謎』を1つ提示した。『何故か自分の事が知られている』という『謎』だ。 この殺し合いの状況下で、面識も無い人物の口から自分の情報が出てくれば、こちらが何者かが気になるはずだ。 洵がゲームに乗っているとしても、少なくともいきなりブレアを殺そうとはせず、『謎』の答えを聞き出そうとするだろう。 そうなればしばらくの間はブレアの安全は保証される。 一応危険な時にはロキがブレアを守る手筈となってはいるが、 ロキなど信用出来る訳がないのだ。自分で打てる手は打っておかなくてはならない。 ブレアが洵の名前を口にした事で、2人は驚愕の声を同時に漏らした。 それを聞いたブレアはすかさずもう1人の声で検索をかけ、その人物を割り出した。 (ルシオ!?この2人はルシオと洵なの!?……ツイてるわ!この2人なら、使える!) ブレアとしては、ここでブラムスに出会いロキを始末させる事が出来ればベストだったが、 この2人に出会うという状況も悪くない。いや、現状で考えるならブラムス達の次に良いかもしれない。 ブレアはゆっくりと歩き出し、ランタンの灯りで徐々に彼等の身体を照らし出していく。 「――ミランダでは無いのならば何故俺を知っている?」 ブレアの思惑通り、洵が食いついてきた。 ミランダ・ニームと間違われた理由は不明だが、それは取るに足らない事だ。 今重要な事は、これで当面の間はブレアの安全が確保出来たという事。 そして2人の全身を照らし出せる距離まで近付けた事。 (これでロキもこの2人の姿を確認出来たはず……当然、ロキならルシオを生かしておくはず無いわよね。  貴方達には悪いけれど、ロキを疲弊させる為の道具になってもらうわ!!) 「ロキ……ロキが……近くに居るのか……?」 「はい。ですが、今はロキが攻撃を仕掛けてくるような事はありません。まずは私の話を聞いて下さい」 ☆ “ミッドガルドに対する神界アスガルドのように、神界よりも更に上位に位置する異世界が存在する。  ルシファーとブレアはその異世界の人間で、そこの人間は簡単にミッドガルドや神界、  そしてこの島に集められた様々な参加者達の世界に関わる事が出来るし、情報を引き出す事が出来る。  自分はルシファーに反抗したが為にこの殺戮ゲームの登場人物とされてしまった” ブレアは名乗った後、まず自分の事や自分が提示した謎の答えをこのように説明した。 ルシオ達からしてみれば、神界の更に上位の世界の存在など荒唐無稽な話で信じ難い事ではあったようだが、 本人以外誰も知り得ないような洵とルシオの過去の話やこの島へ連れて来られた時期、ラグナロクの顛末までブレアが話すと、 不承不承という素振を見せながらも彼女の話を信じたようだった。(ラグナロクの顛末については少々ルシオが口を挟んで来たが) ブレアの話が一段落すると、やや興奮した面持ちでルシオが口を開いた。 「それじゃあ……あんたもルシファーと同じように死んだ者を甦らせ――」「待てルシオ。それは後にしろ」 が、洵が口を挟んできた。 「貴様が俺達の事を知っている理由は分かった。  本当にルシファーの妹かどうかは判断しようも無いが、その異世界から送り込まれた人間だという話は信じよう。  それで、ロキの目的は何だ?何故わざわざ灯りを点けて目立たせて、貴様をここで待たせている?」 ルシオはともかく、洵はどうやらブレアの話の全てを鵜呑みにしている訳では無さそうだ。 だがブレア自身に危害を加えようとしない限りは問題は無い。 「これは私の推測も交えているんですが――」 そう前置きをして、ブレアはこれまでの経緯を簡潔に話し始めた。 “自分はこの殺し合いを止める為に行動していたが、その最中、ブラムスに敗北した直後のロキに捉えられてしまった。  ロキの目的は、ロキ自身にとって強敵であるブラムスを味方に付ける事。自分を捕らえたのは、その際に利用する為。  そして、新たに置かれた支給品を取りに行ったと予想されるブラムスを待ち伏せる為に、自分はこの場所に立たされていた。  ロキは少し離れた場所から自分を監視しており、自分に襲いかかる相手がいたらロキが攻撃を仕掛ける事になっている” 無論、脚色と偽りも交えて。 「この灯りを消せないのも、ロキが私の様子を監視する為なんです。  お願いです、助けて下さい。ロキは用が済んだら私を殺す……そういう男です。  この殺し合いを止める為にも、私はまだ死ぬ訳にはいかないんです」 ブレアはそう訴えかけて2人を見た。 「……ロキは今は襲っては来ないんだな?」 「はい。情報交換が終わり、その内容を確認するまでは手を出さないでしょう。  それはロキ自身の利益に繋がる事でもあるのですから」 「ならば、少しルシオと話をする。貴様は離れていろ」 何か言いたそうなルシオを抑えながら、洵は少し下がった。 やはり完全には信用されていないようだが、 どうせすぐにロキに殺される男達なのだから信用などされなくて良い。いや、極端な話、正体がばれても良い。 ブレアも素直に後ろに下がり、2人から距離を取った。 (私を助けたいと考えているの?見捨てたいと考えているの?  でも、近くにロキが居るのは分かったでしょう?ロキが自分の正体を知るルシオを逃がすと思う?思わないわよね?  なら、ロキを倒す策を考えなさい!勝てないまでも、ロキを疲弊させるのよ。私の為にね!) ロキと2人を戦い合わせるだけならば、ロキに合図を送ってこの場に出てきてもらえば済む。 だが、ルシオ達には出来る限り善戦してロキを疲弊させてもらわなければならないのだ。 その為にも、戦い合わせる前に多少なりともロキ対策を考えてもらった方が都合が良かった。 (ロキを疲弊させておけば、ブラムス達の勝利はより確実になる……その時が楽しみだわ!) ☆  ★  ☆ 「ルシオ、この女に気を許すな。こいつは何か妙だ」 洵は、先程からブレアを信じている様子を見せるルシオに忠告をした。 ルシファーの妹を名乗る人物ブレア・ランドベルド。洵は彼女に違和感を感じていたのだ。 それはほんの些細な事がきっかけだったのだが、この状況下では、疑惑の種としては申し分の無いものだった。 「…………妙だって?……何が妙なんだ?」 洵の忠告に対するルシオのあっけに取られた様な反応からも、ブレアを疑おうなどとは全く考えていない事が窺える。 おそらくはルシファー以外の異世界の人物に対する期待、優勝せずともヴァルキリーを甦らせる事が出来る可能性が、 無条件でルシオにブレアを信じさせているのだろう。 ここでルシオを切り捨てるならともかく、駒として利用し続けるつもりの洵としては、 脱出の可能性などという期待を持たれるのは好ましくない。 洵は内心でルシオの甘さに舌打ちし、自分の感じた違和感を話す事にした。 「何を考えているのかは知らん。  だがこの女、俺達の姿を見ずに俺達の事を判別出来ていたというのに、その後、ランタンで俺達の姿を照らしたな?  いくら俺が声をかける事を失念していたからと言ってだ、  ロキとお前の因縁を知っていたこの女が、ロキにわざわざお前の姿を晒す理由が何処に有る?  助けを請う人間が、何故助ける側の人間に不利になるような事をする?この女、言動と行動が合っていない」 「それは……たまたま照らしちまっただけかもしれないだろ?」 ルシオは無意識に、だろうが、ブレア側の立場に立って意見を述べていた。 洵は再び、内心で舌を打つ。 「いや、さっきの理路整然とした話し方からしても、この女は馬鹿ではないし、慌てている素振りも無い。  灯りを近付ければロキに俺達の姿が見える、その程度の事に気付かない筈あるまい。あれは故意にした事だ」 実の所、洵も『たまたま照らしてしまっただけ』という可能性が無いとは考えていない。 だが、今は少々無茶な理屈でも『ブレアが疑わしい』という話を納得させる事が出来ればそれで良いのだ。 「そんな――」 「ルシオ、お前は何を以ってこの女を信用している?」 「え?」 「この場でもしもロキが同じ様な事を言ってきたとしたら、お前は信用するのか?」 「……え?」 一瞬の後、ルシオはハッと息を飲んだ。洵の言わんとする事を理解したようだ。 「この女が異世界の人間であろうと、この島に居る以上は優勝を目指して行動していても何の不思議も無い。  寧ろ、俺達の事を知っているからこそ、それらしい作り話で騙す事も容易い筈だ。  本人の言い分だけで信用するなど、愚かにも程がある」 「……いや……だけど…………じゃあ、ロキに脅されてるって話は嘘だって言うのか?」 それについてはブレアと話している時に、洵は既に結論を出していた。 「ロキに関して話した事はおそらく真実だ。脅されている事も、ブラムスを待ち伏せていた事も、俺達に助けを求めた事もな。  脅されでもしなければ、こいつのようにまるで戦闘能力の感じられない女がこれほど危険な待ち伏せなどする筈が無い。  脅されているなら、脅しているその誰かの事を偽って伝える必要も無い」 つまり今、洵とルシオの2人にロキという危険が迫ってきている事は確実なのだ。 「……俺達に不利になるような事をして、俺達に助けを求めてる?……そんな事をして何の意味が有るんだよ?」 「さあな。言っただろう。この女が何を考えているのかは知らん。  今、最も重要なのは、こいつは決して俺達の味方ではないという事だ。  ルシオ、この女を救おうなどと余計な事を考えるな。さもなければ、ここでまたロキに殺されるぞ」 ルシオは俯きながら顔を歪めた。その表情が物語る感情が何なのかは分からない。 だが、ルシオが次に顔を上げた時、 「……そう……だな。洵、お前の言う通りだ」 つい今まで見せていた興奮の面持ちは、もう見られなかった。 決して期待を捨て切れてはいないのだろうが、今はこれが限度だろう。 「けど、だったらどうするんだ?逃げるのか?」 「……いや、ロキとはここで決着を着ける」 洵はロキと戦う事を明言した。 「!?……戦うのか?」 その言葉を聞いたルシオは、意外そうな表情を浮かべて洵を見た。 つい先程、戦闘での消耗を避ける為に傍観を選択したのは他ならぬ洵本人だし、彼はブレアを疑ってもいる。 逃げる事を選択するものだとばかり考えていた。 「ああ。ロキがあのブラムスと組もうとしているのなら、それは阻止しなくてはならん。  奴らに組まれてしまえば俺達に勝機はなくなるからな。ロキはここで殺す」 確かに他の参加者の疲弊を待つ事が洵の計画ではあったが、この場合はそれに準じて行動する訳にはいかない。 ロキが、ただ優勝を狙っている、ただ脱出を目指していると言うなら今はまだ戦う必要は無いが、 ロキはブラムスと手を組む為に行動していると言うのだ。 例えここでロキとの戦闘を回避出来たとしても、万が一ブラムスと組まれてしまえば、 ロキは今よりも強大な障害として洵達の前に立ち塞がるだろう。 それではますます勝ち目が無くなってしまう。そうなる前に叩かなくてはならない。 「だけど……いや、確かにロキを倒すなら今がチャンスかもしれないな。  あいつが何時から来てるのかは分からないけど、ここでは少なくともドラゴンオーブは持っていない筈だ」 ルシオも洵もこの島に連れて来られた時に、持っていた道具も装備も全てルシファーに没収されていた。 それはロキとて例外では無い筈なのだ。 「そう、その事も有る。ドラゴンオーブの無い今、奴はオーディンを倒せる程の能力は解放出来ない。  下級神以上の能力を出せないのなら、そしてダメージを負っている今ならば、俺達が手が届かない程の相手ではない。  ……それからもう1つ、俺達に有利な点が有る」 「もう1つ?」 もったいぶる事も無く、洵は言った。 「ブレアだ。この女は俺達の味方ではないが、ロキの味方でもない。こいつにとってもロキは敵の筈。  弱点だろうと何だろうと知ってる事は素直に話す筈だ。こいつからロキの情報を聞き出せるだけ聞き出すぞ」 ☆ ブレアがロキに合図を出した。 詳しい事は洵達は知らないが、今出した合図はこの場にロキを呼び出す為の合図らしい。 ブレアが合図を出すとすぐ、彼女のかなり後方から人の気配が感じられた。 その気配に反応した2人は思わず武器を構える。 ルシオはアービトレイターを。 洵は新たに入手した支給品の1つ『マジカルカメラ』で複写したアービトレイターとダマスクスソードを。 ロキは、2人が剣を構えたのは見えているだろうが、それを警戒してもいない様子で、 まるでペースを変える事無く近付いてくる。やがて暗がりから、無邪気そうに微笑んでいるロキの顔が見え始めた。 「ロキ!!」 ルシオが叫んだ。 「こいつがロキ……」 洵が呟いた。神界に送られた事の無かった洵は、これがロキとの初対面だ。 こんな形で会う事になるとは2日前には想像もしなかったが。 「何でここに……ブレアの仲間って……」 ルシオはブレアをチラリと見た。無論、これは演技だ。 ロキには『ブレアはロキを裏切っていない』と思わせておく方が彼等にも都合が良かった。 「俺だよ。驚いたかい?……それにしても久しぶりだね、ルシオ。元気だったかい?心配してたんだよ?」 「……何を、白々しい事を!」 このロキがルシオ殺害後から来たロキだという事はブレアから聞いている。 「本当さ。お前には色々聞きたい事が有るんだ。そう構えるなよ、俺はお前を殺す気は無いよ」 ロキの意外な一言。この場に居る誰1人として、その言葉を信じる者は居なかった。 洵は思わず失笑を漏らす。 「確かに白々しい。誰がそんな言葉を信じる?」 「ん?何だお前?」 ロキが洵を睨み付けた。 「どうやらお前も俺がルシオを殺した事は聞いてるみたいだな。  だけどもうそんな事はどうでも良いのさ。フレイとレナスが死んだ今となってはね」 「何?」 「俺がルシオに何をしたかなんてばらされてたらマズイのは彼女達だけさ。  よく考えたらブラムスは神界の揉め事なんてどうでもいいだろうし、この島に居る他の……おい、何をしてるんだ?」 話の途中だが、ロキはルシオに問いかけた。 ルシオがいつの間にかボールを手に持ち、掲げているのだ。 ルシオはその問いに答えず、一言だけ“ロキ”と呟き、ボールを放り投げた。 すると、ボールは光となり、ロキに向かって飛んでいく。 「おいおい、聞く耳持たずか?」 ロキは素早くグーングニルを手に持つと、その光に向かって叩きつけた。 しかし、槍には何の手応えも感じられず、光はまっすぐにロキへと向かい、命中した。 「くっ?!」 命中したがロキには変化は無い。ダメージはおろか、状態異常にかかる訳でも無い。 それも当然だ。今のボールは攻撃用のアイテムでは無いのだから。 ロキは自分の身体を見回し、何かが起こる事も無い様子に気付くと、ルシオを睨みながら言った。 「……今のは何だ?」 ルシオは黙って睨み返すのみだ。 「答えろッ!俺に何をしたッ!」 今ルシオが投げたボールは、新たに入手した支給品の1つ『アナライズボール』だ。 ルシオ達の世界で言えば『スペクタクルズ』と同等の性能を持つ道具で、対象者の状態を調べる事が出来る。 2人にボールからの情報が伝わった。確かにロキは大きなダメージを負っている。 魔力は9割以上有るが、体力は3割程度しか残っていない。ブラムスから受けたダメージはあまり回復していないようだ。 そう言えば、と洵は思い出す。 アスガルド丘陵でロキと戦う事になった時に、ヴァルキリーから聞いていたロキの能力についてだ。 ロキは基本的には魔術師タイプの神族だが、攻撃魔法を好む為か、回復の類の魔法は得意ではないのだと聞いた。 魔力が充分に残っているのに体力を回復させていないロキ。それがこの話の裏付けとなっている。 使えない訳ではないようだが、おそらくは不得手の魔法故、消費する魔力と回復力の量が割に合っていないのだろう。 そしてこのロキの状態は、ロキがブラムスに敗北したと言うブレアの話の裏付けともなっていた。ならば、迷う事は無い。 2人は左右に散らばり、剣を構え直した。 「……まさか『これが答えだ!』とか言いたいのかい?  ふんっ、貴様等、見逃してやると言ってるのに……本気で神である俺と戦う気か?  いや、戦いになると思ってるのか?……思い上がるなよッ!人間ごときがッ!!!」 ロキは怒鳴りつけると同時にグーングニルを振りかざし、構える。瞬間、闘気の波動が周囲に広がった。 「くっ!」「うっ!」「キャアァァ!!」 それを受け、ブレアだけが10m程後方に吹き飛ばされた。ルシオだけがブレアを反射的に目で追った。 「ウスノロ!貴様は邪魔だよ!引っ込んでいろ!」 この行動と言動が意味する事。ロキはブレアをまだ殺したくないという証明だ。 『ブレアが下がるのは俺たちにも好都合だ!行くぞ、ルシオ!』 『ああ!』 2人は同時にロキに向かって駆け出した。 ルシファーの手によって中断させられていたロキとエインフェリア達の闘い。或いは既に過去の出来事となっていた戦いは、 ルシファーとルシファーの送り込んだプログラムに導かれ、形を変えてこの島で再開されようとしていた。 舞台が変わった事で彼等の運命は変化するのか?それはきっとルシファーにも分からないのだろう。 この沖木島という盤面の上では、ポーンがクィーンよりも必ずしも劣っているとは限らないのだから。 案外、そこがこのゲームの魅力なのかもしれない。 【E-01/黎明】 【洵】[MP残量:100%] [状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない] [装備:ダマスクスソード@TOP,アービトレイター@RS] [道具:コミュニケーター@SO3,アナライズボール@RS,木刀,スターオーシャンBS@現実世界,荷物一式] [行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする] [思考1:ロキを殺す。今はその事だけに集中] [思考2:基本的にブレアは信用しないが、対ロキに関してのみ信用] [備考1:ロキの使用できる技は過去にヴァルキリー、ここでブレアから聞いて把握している可能性があります] 【ルシオ】[MP残量:100%] [状態:軽い疲労、焦燥と不安] [装備:アービトレイター@RS] [道具:コミュニケーター@SO3,マジカルカメラ(マジカルフィルム付き),????×1,荷物一式×2] [行動方針:レナスを……蘇らせる] [思考1:ロキを倒す。今はその事だけに集中] [思考2:ブレアは信用しない(だが、心では淡い期待を持つ)] [備考1:コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。(イヤホン、マイク込みで)] [備考2:マリアとクレスを危険人物と認識] [備考3:新たな支給品はアナライズボール×2,マジカルカメラ(マジカルフィルム付き),????×1です。      アナライズボールは洵と分け合い、ルシオの分は使用しました。      マジカルカメラで複写出来る物、マジカルフィルムの個数は後の書き手さんに一任。      ????×1は洵、ルシオとも確認済み] [備考4:ロキの使用できる技はブレアから聞いて把握している可能性があります] 【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%] [状態:ロキを疲弊させられる事に対する期待感が高まっている] [装備:無し] [道具:荷物一式] [行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい] [思考1:ルシオ、洵を利用しロキを疲弊させる。2人は死んでも良い] [思考2:出来る限りロキの足を引っ張る] [思考3:その他の事は後で考える] 【ロキ】[MP残量:90%] [状態:顔面に大きな痣&傷多数 顎に痛み、残り体力30%程度] [装備:グーングニル3@TOP,パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔50/100〕@SO3] [道具:10フォル@SO,万能包丁@SO3,ファルシオン@VP2,空き瓶@RS,スタンガン,ボーリング玉,拡声器@現実世界,首輪,荷物一式×2] [行動方針:ゲームの破壊] [思考1:ルシオ、洵を殺す] [思考2:ブレアは今は簡単に殺させる訳にはいかない] [思考3:その他の事は後で考える] [備考1:顎を治しましたが、まだ長い呪文詠唱などをすると痛みが走るかもしれません] [現在地:E-01南部。二股の道] 【残り21人+α?】 ---- [[第118話>鎌石村大乱戦 第二幕 ~龍を屠る赤き一撃~(前編)]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第114話>罪状はDV 判決は死刑]]|IMITATIVEブレア|―| |[[第114話>罪状はDV 判決は死刑]]|ロキ|―| |[[第115話>君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ]]|洵|―| |[[第115話>君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ]]|ルシオ|―|
**第119話 盤上の出来事 「那々美……か」 菅原神社の本堂入り口で、洵は同じ倭国出身のエインフェリアの事を思い出した。 倭国最大の国『海藍(ファイラン)』にある、昂后神社の巫女職の継承者だった少女。 初対面の時には大人しく真面目で控えめな少女という印象だったが、それは彼女の一面に過ぎない。 夢瑠と2人で行動する時には、一緒になってカシェル辺りに悪戯を仕掛けて楽しんだり、 仲間内の恋愛話に興味を持ったりからかったりという、どこにでもいる少女のような面も有った。 いや、エインフェリアとしての資質以外を見れば、実際どこにでもいるような少女だったのだろう。 この遊戯の開戦の狼煙代わりにされたのはそんな少女だった。 あの時は流石に洵も怒りを覚えたが、殺し合いに乗ると決めてからは、その事を敢えて思い出そうとはしなかった。 決意が鈍るとか非情になりきれないとか、そういった理由からではない。只、無意味だからだ。 それでも神社という特殊な環境に1人で居ると、自然とその巫女の事が脳裏に浮かんでくる。 (お前が生きていたなら、やはりこの遊戯を止めようと行動したのだろうな。  ……俺にはお前の想いは汲めないが、悪く思うな。お前の分の道具は有効に使わせてもらう) 那々美を思い出したからといって「仇討ち」などの方向に心が動く訳ではない。 だが、争い事を好まなかった彼女の事を思い起こさせるこの場所は、少々居心地悪く感じられた。 早いところ探索を終えて本堂を出るとしよう、洵がそう考えた所で 『……今、何か言ったのか?』 耳の裏からルシオの声が聞こえてきた。 正確には耳の裏に接着して取り付けた、コミュニケーターに付属されていた『小型イヤホン』だ。 これと衣服に取り付けた『小型マイク』で、2人は今コミュニケーターを手に持たずとも会話が出来るようになっている。 どうやら洵の呟きは伝わってしまったらしい。 『……何でもない。それより俺の方には今の所は見当たらないが、そっちはどうだ?』 『あ、ああ。有ったよ。階段のところに有った。中身はまだ見てないけど』 『分かった。今行く』 先程の放送によると、新たに支給品が置かれるのは「菅原神社入口前」だった。 しかし、この伝え方だと「神社境内の入口」とも「神社本堂の入口」とも受け取れた為、 E-01エリアからだと神社の裏側から敷地内に入る事になる2人は、二手に分かれて探索する事にしたのだ。 何か有った場合にはすぐに駆けつけられるように、コミュニケーターの通信を入れたままにしておいたのだが 結果的には必要の無い事だったらしい。 洵は通信を切り、本堂の扉を開く。 その時には、那々美の事などは完全に忘れていた。 ☆ 新たなパックを入手した2人はすぐに神社を離れ、E-01へと向かった。 道具を詳しく確認するのは禁止エリアを出て安全圏へと移動してからだ。 ルシオは時計を見て時刻を確認する。充分E-02を抜けられる時間は残っていた。 「……結局誰も居なかったな。人を集める罠だと思ったんだけど……」 ルシオは独り言のように呟いた。 新たに支給品が置かれたのはルシファーの気紛れや、ましてや言葉通りの「褒美」で有る筈も無い。 これを餌として殺し合いを加速させる罠である筈なのだ。 場合によっては自分達同様に支給品を取りに来る他の参加者と一戦交える覚悟はしていたのだが、 実際には神社には誰も居らず、支給品も手付かずのまま。 つまり自分達以外には誰もここには来なかったし、時間的に見て今から誰かが来る可能性も低いと思われる。 これでは菅原神社に置かれた支給品は、本当にただの自分達への褒美にしかならない。 「禁止エリアとなる時間が近い事も有る。他の奴らはそう言った意味での危険は無い鎌石村の方に流れたのかもしれんな」 「それにしても誰も来ない可能性を考慮しないなんて……ルシファーはそんな甘い奴なのか?  ……いや、何かおかしい。何かを見落としてる……?」 事が都合よく運びすぎている時は、落とし穴が大口を開いて待ち構えている場合が多い。 そんな貧民街での経験がルシオに警告を発していた。だがその警告が具体的な形を成さない。 「見落とし?」 「ああ。そんな気がする。  そもそも『褒美』で人を集めるんなら、ここを禁止エリアにする必要なんか無いんだ。  禁止エリアにさえならなければ、ここに向かってくる人数だって増える筈なんだから……  まてよ、禁止エリア?……待ち伏せ……?」 ルシオは考え込む。 今回臨時に増やされた分を合わせて計6つの禁止エリア。 この内の4つはおそらくは、島を縦断して島の東側から出てくる参加者を待ち伏せさせる為、 そしてエリアごとの人口密度を一気に高めて参加者達を遭遇させる為に配置された。 狙いは明確では有るが、抵抗する事が困難な罠となっている。ここまでは先程の民家で気付いていた。 残る2つの禁止エリアのE-02とE-04。 ここが禁止された事で、鎌石村に居る参加者が村から出ていく場合にはE-01、またはE-03を通らざるを得ない。 同時に、もしもD-05に参加者が居るのなら、E-05とF-05以外に道は無くなる。 そう考えると今回の禁止エリアは今までの禁止エリアに比べ、 より参加者の移動経路を限定し、待ち伏せをし易くなるように定められたように見えてくる。 ならばE-02に置かれた支給品はどうなのか?これが罠でも何でも無いなどという事があるのだろうか? 神社に支給品が置かれた理由も他と同様なのだとしたら…… 「……もしかして……そういう事か?」 「何か気付いたのか?」 後方から聞こえてきた呟きに洵が反応を返して振り返ると、ルシオは険しい顔付きで立ち止まっていた。 「……これも『ネズミ取り』だったのかもしれない。  今まで気付かなかったけど、よくよく考えれば今の俺達は完全にハマってるんだ」 「ハマっている?……どういう事だか説明しろ」 ルシオは辺りを見回しながら口を開いた。 「ああ。走りながら話すよ。とにかくこのエリアを抜けよう。俺の考えが正しかったら敵が近くまで来ているかもしれないんだ」 「……分かった。行くぞ」 洵は走り出す。確かに間も無く禁止エリアになる場所での戦いなどは御免だった。 ルシオも、1度後ろを振り返り誰も居ない事を確認すると、洵に続いて再び走り始めた。 「……今度の禁止エリアはまずこの島を縦断するように配置されてる。  これには移動経路を制限して参加者同士をぶつけ合わせようとするルシファーの意図が有るのが明白だったな」 「ああ」 「だけど、それは縦断された場所に限った事じゃない。支給品が置かれた神社だって同じ事なんだ。  こっちも俺達の移動経路を制限して待ち伏せされやすいように考えられてる」 神社での待ち伏せならともかく、移動経路を制限した上での待ち伏せ。それを聞いた洵は眉間に皺を寄せる。 「どういう事だ?」 「良いか。0時に放送を聞いて神社に支給品を取りに行くとする。  ……俺達が1番だったんだから、俺達を基準で考えるけど、  到着した時には、禁止エリアになるまで残り1時間をとっくに切ってただろ?」 お前との会話が無ければもっと早くに到着していたがな。洵はそう思いながらも相槌を打った。 「E-02は2時に禁止エリアになる。で、神社はエリアの西側の端に在るんだ。  多少時間が余ってたとしても、誰だって1番速くエリアを出られる所へ向かいたがるさ」 つまり、今彼等が向かっているE-01へと。 「……確かに俺達はE-01への最短距離を走っているが、これはルシファーに誘導されての事……奴の思惑通りという訳か」 「多分な。支給品を手に入れてE-01に出たら、その後はもうD-01かF-01に出るしかない。  他のやる気になってる奴らがこの事に気付いていたら、確実にそこで待ち伏せてるだろうな」 そういった輩からすれば、洵とルシオはわざわざ新たな支給品を持ち運んで来てくれる『運び屋』であり『獲物』だ。 ミッドガルドでも、例えばアルトリアからヴィルノアへと続く街道では、運び屋が襲われる事など日常茶飯事だった。 バドラック辺りの言葉を借りれば洵とルシオを襲撃するのは『おいしい仕事』となるだろうか。 「最悪D-01方向、F-01方向、それと俺達のように支給品を取りに行ってE-02から出てくる奴の  3組に囲まれる可能性だってある。……今のところ後ろから誰か来る気配は無いけど」 それを聞き、洵は忌々しげに舌を鳴らした。 「傍観を決め込む事にした矢先にこの状況か……とにかくE-01の道路まで出るぞ。  見通しの良い場所で、まずは新たな道具を確認する。良いな」 今は何よりも禁止エリアからの脱出が優先だ。 2人はエインフェリアの仲間内でも1、2を争える敏捷さでE-02エリアを駆け抜けていった。 ☆ 道具の確認を終えた洵とルシオは、元居た民家を目指して街道を歩いていた。 出来れば急いで移動したいが、ルシオの読みが正しければこの先には敵が待ち構えている可能性が高いのだ。 街道の周囲には木々や茂みなど、隠れられる箇所も多く存在する。現に洵が最初に殺した男も茂みに潜んでいた。 襲撃者があのような小物なら問題は無い。だが強敵に不意を衝かれれば気付かぬ内に殺されてしまう事も考えられる。 それ故、2人は移動速度よりも周囲の警戒に重点を置き、進んでいた。 そうして移動してきた現在地、E-01の南部の街道。 ここで、ミカエル戦以来となる緊張感が洵とルシオを包んだ。道の先に灯りが見えるのだ。 ランタンの灯りかどうかまでは分からないが、あの様な灯りは2人が菅原神社へ向かう時には無かった。 何者かがこの辺りに居るのは確実だ。 「どう思う?」 「…………分からない。罠だとしても露骨過ぎる」 「確かにな。アレは避けて進むか?」 「……いや、もしかしたらそれが狙いかもしれない。あの灯りは囮で、避けて移動した俺達を暗闇で叩く罠なのかも……」 ルシファーに移動経路を誘導されていたという考えは、ルシオの心に軽い疑心暗鬼をもたらしていた。 「ならば――」 洵は抜刀した。 「――ここで考えていても堂々巡りとなるだけだな。行くぞルシオ。コミュニケーターで会話が出来るようにしておけ」 「行くって……正面からか?!」 「そうだ。ここから眺めていて罠かどうか看破出来る筈も無いのだからな。  他にやりようが無いなら向かうまでだ。罠ならば叩き切れば良いだけの事!」 しばし逡巡する様子を見せていたが、その言葉で心が決まったのだろう。 ルシオは黙って頷き、コミュニケーターを操作すると、自身の腰から剣を静かに引き抜いた。 2人は同時に攻撃される事を避ける為、左右に若干距離を離して進んだ。 灯りが罠、囮であるなら、襲撃されるのは灯りよりも遥か手前である可能性も有るが、 2人のそのような警戒心をまるで無視するかのように、灯りは何事も起こさず、ただ揺らめくのみだった。 E-01とF-01の境界、二股に分かれている道の手前まで到達したところで、灯りの正体が次第に明確になり始める。 「見えるか?」 「ああ。女……だよな」 灯りの正体はランタンであり、歩み寄るに連れて浮かび上がるのは、それを手に持つ1人の女性の顔だった。 洵もルシオもこの女性に見覚えは無い。 「この女……?」 洵は女の立ち振舞いを見て訝しむ。 堂々と姿を見せて待ち構えている割には、女はあまりにも隙だらけなのだ。 洵がその気になれば、この女に抵抗らしい抵抗もさせる事なく殺せるだろう。 「私に戦う気は有りません。あなた方にその気が無いのでしたら止まって頂けますか?」 女の方から声を掛けてきた。 彼女から見れば、洵とルシオの姿まではまだ確認出来ていない筈だが、誰かが近付いてくる気配には気付いていたようだ。 『ルシオ、俺が止まるまでは止まらなくて良い。周囲を警戒しろ。この女自体が罠かもしれん』 囁くように話しかけるが、マイクとイヤホンのおかげで問題も無く、聞かれる事も無く会話が出来る。 『分かった』 ルシオの返事を確認すると、洵は女に向けて話し掛けた。 「こちらにもやる気は無い。だが貴様の顔がはっきりと確認出来る位置までは進む。良いな!」 方便だった。洵の狙いは自身の最速の技にして奥義でもある『千光刃』の間合いに入る事。今の位置は、それには少し遠い。 「…………でしたら私から行きます。私の顔が確認出来たら声を掛けて下さい。……『洵』さん」 「「なっ?!」」 2人に動揺が走り、足が止まった。代わりに女は洵達に向かってゆっくりと歩き出す。 何故この女は姿も見えない洵の事を判別出来たのか。 いや、姿を見られていたとしても、洵はこの女と面識は無い。姿だけで参加者の誰かまで特定出来る筈もない。 『知り合い……じゃないよな?』 ルシオから通信が入った。 『……全く知らん女だ。何者だ?この女……』 考えられるとしたら、洵から見たルシオのように未来の人物か、もしくは、 「貴様、ミランダか?」 ミランダが何らかの方法で化けている事くらいだった。 「…………いいえ。ミランダ・ニームではありません。私は……」 「そこで止まれ!顔は確認出来た。……ミランダでは無いのならば何故俺を知っている?」 動揺して声を掛ける事を失念していた。 女までの距離は10mも無い。彼女の持つランタンの灯りが洵とルシオの顔を照らしている。 向こうからも既に2人の顔は見えている筈だ。 「……それは……私がルシファー・ランドベルドの妹だからです」 「……何?」「……え?」 意外すぎる返答に、洵とルシオは言葉を失った。 と言うのは驚いて、という訳ではない。女の言っている事への理解が追いつかないのだ。 そんな2人の様子に構わず、女は続けた。 「お2人にお願いが有ります。……助けて下さい。私は今、貴方達の良く知る人物に脅されているんです」 ルシファーの妹がここで自分達の知り合いに脅されている?洵もルシオも状況が上手く理解出来なかった。 だが、何者かに待ち伏せされている事だけは確実のようだ。一体誰だと言うのか。 「……俺達の良く知る人物だと?」 「はい。私はその男に脅され、ここで待ち伏せする事を強要されています」 今この島で生き残っていて、女を脅して利用するような、自分達の知る男。 洵もルシオも、瞬時に約2名の顔を思い浮かべた。 「彼は少し離れた場所からこちらの様子を監視しています。  私程度の声でしたら届かない距離だと思いますが、念の為に出来るだけ声を抑えて頂けますか?」 「……その人物とは?」 洵はそれには素直に従い、声を抑える。 「それは――」 女はルシオを見て、続けた。 「――ルシオさん。特に、貴方が良く知る男です」 わざわざ『ルシオ』を強調するのならば、その男とは―― 「ロキ……ロキが……近くに居るのか……?」 ☆  ★  ☆ ロキは気配を消し、ブレアからある程度離れた場所から様子を窺っていた。 菅原神社へと向かっていたロキとブレアが何故E-01とF-01の境界付近に居るのか? 簡潔に言えば、それはほぼルシオの考えた通りの理由での『待ち伏せ』であった。 ブラムス達を追って菅原神社を目指していたロキとブレア。 ロキ1人でなら充分追い付ける筈だったのだが、ブレアの足の遅さが計算外だった。 このまま進んでも、自分達が菅原神社に到着する頃には既にブラムス達は去った後だろう。 それでは神社に向かう意味が全く無い、と考えたロキは、 神社に居るブラムス達には追い付けないとしても、 ブラムス達が神社から平瀬村に向かう所ならば、このペースでもまだ先回り出来るはず。 そう判断し、早々に進路を菅原神社から平瀬村に切り替えていたのだ。 F-01とE-01の境に到着した後は灯りを持たせたブレアを1人で街道に立たせ、ロキは大きく距離を取った。 ブラムスのパーティにブレアを潜り込ませるにはロキ自身が姿を見せて待ち伏せる訳にはいかないし、 あまり近くで様子を窺っていれば、ブラムスに自分の気配を感付かれてしまう恐れも有るだろう。 だから、ロキ自身は大っぴらには動かない。その代わりに、このようにしてブレアを目立たせる事にした。 こうすれば、ブラムス達でなくとも神社方向から平瀬村に入る者と接触出来る確率は高くなる。 ここで接触するのがブラムス達なら後は作戦通りにブレアに頑張ってもらい、 別の誰かなら情報交換だけ行わせ、その情報次第で行き先を考えれば良い。 もしも接触する人物がブレアに攻撃を仕掛けようとした場合には、ロキが容赦無く魔法を撃ち込むつもりだった。 遠距離から飛び道具で攻撃された場合でも、ロキにはそれを察知して撃ち落とせる自信も有る。 一応ブレアはロキにとって使える駒なのだから、そう簡単に殺させる訳にもいかない。 そしてどのくらい待っただろうか。ようやく他の人物の気配を感じた。 (やっと誰かお出ましか。ブラムスなら話が早いが……違うみたいだな) ややあって、ブレアに動きが有った。接触した様子だ。 ロキの位置からは、はっきりとした言葉までは聞き取れないが、今の所はその誰かがブレアに襲いかかる気配は無いようだ。 それならばロキが動く必要は無い。動くとしたらブレアが情報交換を済ませた後。その情報次第だ。 ロキは、ここでブレアがブラムス達以外の人物と出会った場合には、ブラムス達の移動先をある程度特定する為、 その人物から『菅原神社で支給品を手に入れたかどうか』を聞き出す事を命じていた。 ロキが最後に見たブラムス達の居た場所を考えるに、 第3回放送後にどちらの支給品配置場所にも尤も近い位置に居た参加者は、まずブラムス達だ。 つまり、ブラムス達が支給品を取りに行けば、どちらに行ってもまず間違いなく一番乗り出来るだろう。 その前提で考えると、もしも今ブレアと接触する人物が菅原神社で支給品を入手していたとしたら(Aパターン) ブラムス達は神社に行かなかったという事になる。つまり鎌石村に向かった可能性が高い。 逆に支給品を入手していなかったのなら(Bパターン)、 ブラムス達が支給品を手に入れている場合と、更に別の誰かが支給品を手に入れている場合とが有るが、 どちらにしてもブラムス達が既に平瀬村の何処かに来ている可能性は生まれる。 Aパターンならともかく、Bパターンの場合はブラムス達がこの場所の近くに居るかもしれないのだ。 ここで派手に動いてロキがブレアと一緒に居る所を見られてしまえば、ブレアが警戒されてロキの作戦は台無しとなる。 出来る事なら、ロキもここでは余計な騒ぎを起こしたくは無かった。 ブレアが接触した人物に近付き始めた。ランタンの灯りがその人物、いや、人物達の姿を照らし出す。 見覚えのある姿に気付いたロキはそのシルエットを凝視した。そして、若干の驚きの後、薄ら笑いを頬に浮かべる。 (あの姿……もしかしたらルシオか!?名簿の『ルシオ』はやっぱりあいつだったか。ここで見つけられるとはね。  さて、こうなると……とりあえずは情報交換が終わるのを待って、その後は……どうしようかな?) ☆  ★  ☆ 「――貴様の顔がはっきりと確認出来る位置までは進む。良いな!」 (良いわ!とても良い!『声』を出してくれたのだからね!) ブレアからは姿が見えなかったが、聞こえてきた声のおかげで暗がりから向かってくる人物の正体を『検索』する事が出来た。 (この声は、レナス・ヴァルキュリアのエインフェリアの1人『洵』ね。  私の呼び掛けに返事を返してきたのだから、今すぐに私を殺そうとする事は無いでしょうけど……) とは言え、警戒されているのは事実。 データでは洵の視力は決して悪くなく、この距離でランタンを掲げ上げているブレアの顔が見えないとは考え難い。 おそらくは、自身の攻撃し易い距離まで近付く為の方便だろう。 洵の他にもう1人分の気配も有るし、攻撃をされる事を避ける為にも、この場でのペースは掴まなければならない。 「――私の顔が確認出来たら声を掛けて下さい。……洵さん」 ブレアは彼らに『謎』を1つ提示した。『何故か自分の事が知られている』という『謎』だ。 この殺し合いの状況下で、面識も無い人物の口から自分の情報が出てくれば、こちらが何者かが気になるはずだ。 洵がゲームに乗っているとしても、少なくともいきなりブレアを殺そうとはせず、『謎』の答えを聞き出そうとするだろう。 そうなればしばらくの間はブレアの安全は保証される。 一応危険な時にはロキがブレアを守る手筈となってはいるが、 ロキなど信用出来る訳がないのだ。自分で打てる手は打っておかなくてはならない。 ブレアが洵の名前を口にした事で、2人は驚愕の声を同時に漏らした。 それを聞いたブレアはすかさずもう1人の声で検索をかけ、その人物を割り出した。 (ルシオ!?この2人はルシオと洵なの!?……ツイてるわ!この2人なら、使える!) ブレアとしては、ここでブラムスに出会いロキを始末させる事が出来ればベストだったが、 この2人に出会うという状況も悪くない。いや、現状で考えるならブラムス達の次に良いかもしれない。 ブレアはゆっくりと歩き出し、ランタンの灯りで徐々に彼等の身体を照らし出していく。 「――ミランダでは無いのならば何故俺を知っている?」 ブレアの思惑通り、洵が食いついてきた。 ミランダ・ニームと間違われた理由は不明だが、それは取るに足らない事だ。 今重要な事は、これで当面の間はブレアの安全が確保出来たという事。 そして2人の全身を照らし出せる距離まで近付けた事。 (これでロキもこの2人の姿を確認出来たはず……当然、ロキならルシオを生かしておくはず無いわよね。  貴方達には悪いけれど、ロキを疲弊させる為の道具になってもらうわ!!) 「ロキ……ロキが……近くに居るのか……?」 「はい。ですが、今はロキが攻撃を仕掛けてくるような事はありません。まずは私の話を聞いて下さい」 ☆ “ミッドガルドに対する神界アスガルドのように、神界よりも更に上位に位置する異世界が存在する。  ルシファーとブレアはその異世界の人間で、そこの人間は簡単にミッドガルドや神界、  そしてこの島に集められた様々な参加者達の世界に関わる事が出来るし、情報を引き出す事が出来る。  自分はルシファーに反抗したが為にこの殺戮ゲームの登場人物とされてしまった” ブレアは名乗った後、まず自分の事や自分が提示した謎の答えをこのように説明した。 ルシオ達からしてみれば、神界の更に上位の世界の存在など荒唐無稽な話で信じ難い事ではあったようだが、 本人以外誰も知り得ないような洵とルシオの過去の話やこの島へ連れて来られた時期、ラグナロクの顛末までブレアが話すと、 不承不承という素振を見せながらも彼女の話を信じたようだった。(ラグナロクの顛末については少々ルシオが口を挟んで来たが) ブレアの話が一段落すると、やや興奮した面持ちでルシオが口を開いた。 「それじゃあ……あんたもルシファーと同じように死んだ者を甦らせ――」「待てルシオ。それは後にしろ」 が、洵が口を挟んできた。 「貴様が俺達の事を知っている理由は分かった。  本当にルシファーの妹かどうかは判断しようも無いが、その異世界から送り込まれた人間だという話は信じよう。  それで、ロキの目的は何だ?何故わざわざ灯りを点けて目立たせて、貴様をここで待たせている?」 ルシオはともかく、洵はどうやらブレアの話の全てを鵜呑みにしている訳では無さそうだ。 だがブレア自身に危害を加えようとしない限りは問題は無い。 「これは私の推測も交えているんですが――」 そう前置きをして、ブレアはこれまでの経緯を簡潔に話し始めた。 “自分はこの殺し合いを止める為に行動していたが、その最中、ブラムスに敗北した直後のロキに捉えられてしまった。  ロキの目的は、ロキ自身にとって強敵であるブラムスを味方に付ける事。自分を捕らえたのは、その際に利用する為。  そして、新たに置かれた支給品を取りに行ったと予想されるブラムスを待ち伏せる為に、自分はこの場所に立たされていた。  ロキは少し離れた場所から自分を監視しており、自分に襲いかかる相手がいたらロキが攻撃を仕掛ける事になっている” 無論、脚色と偽りも交えて。 「この灯りを消せないのも、ロキが私の様子を監視する為なんです。  お願いです、助けて下さい。ロキは用が済んだら私を殺す……そういう男です。  この殺し合いを止める為にも、私はまだ死ぬ訳にはいかないんです」 ブレアはそう訴えかけて2人を見た。 「……ロキは今は襲っては来ないんだな?」 「はい。情報交換が終わり、その内容を確認するまでは手を出さないでしょう。  それはロキ自身の利益に繋がる事でもあるのですから」 「ならば、少しルシオと話をする。貴様は離れていろ」 何か言いたそうなルシオを抑えながら、洵は少し下がった。 やはり完全には信用されていないようだが、 どうせすぐにロキに殺される男達なのだから信用などされなくて良い。いや、極端な話、正体がばれても良い。 ブレアも素直に後ろに下がり、2人から距離を取った。 (私を助けたいと考えているの?見捨てたいと考えているの?  でも、近くにロキが居るのは分かったでしょう?ロキが自分の正体を知るルシオを逃がすと思う?思わないわよね?  なら、ロキを倒す策を考えなさい!勝てないまでも、ロキを疲弊させるのよ。私の為にね!) ロキと2人を戦い合わせるだけならば、ロキに合図を送ってこの場に出てきてもらえば済む。 だが、ルシオ達には出来る限り善戦してロキを疲弊させてもらわなければならないのだ。 その為にも、戦い合わせる前に多少なりともロキ対策を考えてもらった方が都合が良かった。 (ロキを疲弊させておけば、ブラムス達の勝利はより確実になる……その時が楽しみだわ!) ☆  ★  ☆ 「ルシオ、この女に気を許すな。こいつは何か妙だ」 洵は、先程からブレアを信じている様子を見せるルシオに忠告をした。 ルシファーの妹を名乗る人物ブレア・ランドベルド。洵は彼女に違和感を感じていたのだ。 それはほんの些細な事がきっかけだったのだが、この状況下では、疑惑の種としては申し分の無いものだった。 「…………妙だって?……何が妙なんだ?」 洵の忠告に対するルシオのあっけに取られた様な反応からも、ブレアを疑おうなどとは全く考えていない事が窺える。 おそらくはルシファー以外の異世界の人物に対する期待、優勝せずともヴァルキリーを甦らせる事が出来る可能性が、 無条件でルシオにブレアを信じさせているのだろう。 ここでルシオを切り捨てるならともかく、駒として利用し続けるつもりの洵としては、 脱出の可能性などという期待を持たれるのは好ましくない。 洵は内心でルシオの甘さに舌打ちし、自分の感じた違和感を話す事にした。 「何を考えているのかは知らん。  だがこの女、俺達の姿を見ずに俺達の事を判別出来ていたというのに、その後、ランタンで俺達の姿を照らしたな?  いくら俺が声をかける事を失念していたからと言ってだ、  ロキとお前の因縁を知っていたこの女が、ロキにわざわざお前の姿を晒す理由が何処に有る?  助けを請う人間が、何故助ける側の人間に不利になるような事をする?この女、言動と行動が合っていない」 「それは……たまたま照らしちまっただけかもしれないだろ?」 ルシオは無意識に、だろうが、ブレア側の立場に立って意見を述べていた。 洵は再び、内心で舌を打つ。 「いや、さっきの理路整然とした話し方からしても、この女は馬鹿ではないし、慌てている素振りも無い。  灯りを近付ければロキに俺達の姿が見える、その程度の事に気付かない筈あるまい。あれは故意にした事だ」 実の所、洵も『たまたま照らしてしまっただけ』という可能性が無いとは考えていない。 だが、今は少々無茶な理屈でも『ブレアが疑わしい』という話を納得させる事が出来ればそれで良いのだ。 「そんな――」 「ルシオ、お前は何を以ってこの女を信用している?」 「え?」 「この場でもしもロキが同じ様な事を言ってきたとしたら、お前は信用するのか?」 「……え?」 一瞬の後、ルシオはハッと息を飲んだ。洵の言わんとする事を理解したようだ。 「この女が異世界の人間であろうと、この島に居る以上は優勝を目指して行動していても何の不思議も無い。  寧ろ、俺達の事を知っているからこそ、それらしい作り話で騙す事も容易い筈だ。  本人の言い分だけで信用するなど、愚かにも程がある」 「……いや……だけど…………じゃあ、ロキに脅されてるって話は嘘だって言うのか?」 それについてはブレアと話している時に、洵は既に結論を出していた。 「ロキに関して話した事はおそらく真実だ。脅されている事も、ブラムスを待ち伏せていた事も、俺達に助けを求めた事もな。  脅されでもしなければ、こいつのようにまるで戦闘能力の感じられない女がこれほど危険な待ち伏せなどする筈が無い。  脅されているなら、脅しているその誰かの事を偽って伝える必要も無い」 つまり今、洵とルシオの2人にロキという危険が迫ってきている事は確実なのだ。 「……俺達に不利になるような事をして、俺達に助けを求めてる?……そんな事をして何の意味が有るんだよ?」 「さあな。言っただろう。この女が何を考えているのかは知らん。  今、最も重要なのは、こいつは決して俺達の味方ではないという事だ。  ルシオ、この女を救おうなどと余計な事を考えるな。さもなければ、ここでまたロキに殺されるぞ」 ルシオは俯きながら顔を歪めた。その表情が物語る感情が何なのかは分からない。 だが、ルシオが次に顔を上げた時、 「……そう……だな。洵、お前の言う通りだ」 つい今まで見せていた興奮の面持ちは、もう見られなかった。 決して期待を捨て切れてはいないのだろうが、今はこれが限度だろう。 「けど、だったらどうするんだ?逃げるのか?」 「……いや、ロキとはここで決着を着ける」 洵はロキと戦う事を明言した。 「!?……戦うのか?」 その言葉を聞いたルシオは、意外そうな表情を浮かべて洵を見た。 つい先程、戦闘での消耗を避ける為に傍観を選択したのは他ならぬ洵本人だし、彼はブレアを疑ってもいる。 逃げる事を選択するものだとばかり考えていた。 「ああ。ロキがあのブラムスと組もうとしているのなら、それは阻止しなくてはならん。  奴らに組まれてしまえば俺達に勝機はなくなるからな。ロキはここで殺す」 確かに他の参加者の疲弊を待つ事が洵の計画ではあったが、この場合はそれに準じて行動する訳にはいかない。 ロキが、ただ優勝を狙っている、ただ脱出を目指していると言うなら今はまだ戦う必要は無いが、 ロキはブラムスと手を組む為に行動していると言うのだ。 例えここでロキとの戦闘を回避出来たとしても、万が一ブラムスと組まれてしまえば、 ロキは今よりも強大な障害として洵達の前に立ち塞がるだろう。 それではますます勝ち目が無くなってしまう。そうなる前に叩かなくてはならない。 「だけど……いや、確かにロキを倒すなら今がチャンスかもしれないな。  あいつが何時から来てるのかは分からないけど、ここでは少なくともドラゴンオーブは持っていない筈だ」 ルシオも洵もこの島に連れて来られた時に、持っていた道具も装備も全てルシファーに没収されていた。 それはロキとて例外では無い筈なのだ。 「そう、その事も有る。ドラゴンオーブの無い今、奴はオーディンを倒せる程の能力は解放出来ない。  下級神以上の能力を出せないのなら、そしてダメージを負っている今ならば、俺達が手が届かない程の相手ではない。  ……それからもう1つ、俺達に有利な点が有る」 「もう1つ?」 もったいぶる事も無く、洵は言った。 「ブレアだ。この女は俺達の味方ではないが、ロキの味方でもない。こいつにとってもロキは敵の筈。  弱点だろうと何だろうと知ってる事は素直に話す筈だ。こいつからロキの情報を聞き出せるだけ聞き出すぞ」 ☆ ブレアがロキに合図を出した。 詳しい事は洵達は知らないが、今出した合図はこの場にロキを呼び出す為の合図らしい。 ブレアが合図を出すとすぐ、彼女のかなり後方から人の気配が感じられた。 その気配に反応した2人は思わず武器を構える。 ルシオはアービトレイターを。 洵は新たに入手した支給品の1つ『マジカルカメラ』で複写したアービトレイターとダマスクスソードを。 ロキは、2人が剣を構えたのは見えているだろうが、それを警戒してもいない様子で、 まるでペースを変える事無く近付いてくる。やがて暗がりから、無邪気そうに微笑んでいるロキの顔が見え始めた。 「ロキ!!」 ルシオが叫んだ。 「こいつがロキ……」 洵が呟いた。神界に送られた事の無かった洵は、これがロキとの初対面だ。 こんな形で会う事になるとは2日前には想像もしなかったが。 「何でここに……ブレアの仲間って……」 ルシオはブレアをチラリと見た。無論、これは演技だ。 ロキには『ブレアはロキを裏切っていない』と思わせておく方が彼等にも都合が良かった。 「俺だよ。驚いたかい?……それにしても久しぶりだね、ルシオ。元気だったかい?心配してたんだよ?」 「……何を、白々しい事を!」 このロキがルシオ殺害後から来たロキだという事はブレアから聞いている。 「本当さ。お前には色々聞きたい事が有るんだ。そう構えるなよ、俺はお前を殺す気は無いよ」 ロキの意外な一言。この場に居る誰1人として、その言葉を信じる者は居なかった。 洵は思わず失笑を漏らす。 「確かに白々しい。誰がそんな言葉を信じる?」 「ん?何だお前?」 ロキが洵を睨み付けた。 「どうやらお前も俺がルシオを殺した事は聞いてるみたいだな。  だけどもうそんな事はどうでも良いのさ。フレイとレナスが死んだ今となってはね」 「何?」 「俺がルシオに何をしたかなんてばらされてたらマズイのは彼女達だけさ。  よく考えたらブラムスは神界の揉め事なんてどうでもいいだろうし、この島に居る他の……おい、何をしてるんだ?」 話の途中だが、ロキはルシオに問いかけた。 ルシオがいつの間にかボールを手に持ち、掲げているのだ。 ルシオはその問いに答えず、一言だけ“ロキ”と呟き、ボールを放り投げた。 すると、ボールは光となり、ロキに向かって飛んでいく。 「おいおい、聞く耳持たずか?」 ロキは素早くグーングニルを手に持つと、その光に向かって叩きつけた。 しかし、槍には何の手応えも感じられず、光はまっすぐにロキへと向かい、命中した。 「くっ?!」 命中したがロキには変化は無い。ダメージはおろか、状態異常にかかる訳でも無い。 それも当然だ。今のボールは攻撃用のアイテムでは無いのだから。 ロキは自分の身体を見回し、何かが起こる事も無い様子に気付くと、ルシオを睨みながら言った。 「……今のは何だ?」 ルシオは黙って睨み返すのみだ。 「答えろッ!俺に何をしたッ!」 今ルシオが投げたボールは、新たに入手した支給品の1つ『アナライズボール』だ。 ルシオ達の世界で言えば『スペクタクルズ』と同等の性能を持つ道具で、対象者の状態を調べる事が出来る。 2人にボールからの情報が伝わった。確かにロキは大きなダメージを負っている。 魔力は9割以上有るが、体力は3割程度しか残っていない。ブラムスから受けたダメージはあまり回復していないようだ。 そう言えば、と洵は思い出す。 アスガルド丘陵でロキと戦う事になった時に、ヴァルキリーから聞いていたロキの能力についてだ。 ロキは基本的には魔術師タイプの神族だが、攻撃魔法を好む為か、回復の類の魔法は得意ではないのだと聞いた。 魔力が充分に残っているのに体力を回復させていないロキ。それがこの話の裏付けとなっている。 使えない訳ではないようだが、おそらくは不得手の魔法故、消費する魔力と回復力の量が割に合っていないのだろう。 そしてこのロキの状態は、ロキがブラムスに敗北したと言うブレアの話の裏付けともなっていた。ならば、迷う事は無い。 2人は左右に散らばり、剣を構え直した。 「……まさか『これが答えだ!』とか言いたいのかい?  ふんっ、貴様等、見逃してやると言ってるのに……本気で神である俺と戦う気か?  いや、戦いになると思ってるのか?……思い上がるなよッ!人間ごときがッ!!!」 ロキは怒鳴りつけると同時にグーングニルを振りかざし、構える。瞬間、闘気の波動が周囲に広がった。 「くっ!」「うっ!」「キャアァァ!!」 それを受け、ブレアだけが10m程後方に吹き飛ばされた。ルシオだけがブレアを反射的に目で追った。 「ウスノロ!貴様は邪魔だよ!引っ込んでいろ!」 この行動と言動が意味する事。ロキはブレアをまだ殺したくないという証明だ。 『ブレアが下がるのは俺たちにも好都合だ!行くぞ、ルシオ!』 『ああ!』 2人は同時にロキに向かって駆け出した。 ルシファーの手によって中断させられていたロキとエインフェリア達の闘い。或いは既に過去の出来事となっていた戦いは、 ルシファーとルシファーの送り込んだプログラムに導かれ、形を変えてこの島で再開されようとしていた。 舞台が変わった事で彼等の運命は変化するのか?それはきっとルシファーにも分からないのだろう。 この沖木島という盤面の上では、ポーンがクィーンよりも必ずしも劣っているとは限らないのだから。 案外、そこがこのゲームの魅力なのかもしれない。 【E-01/黎明】 【洵】[MP残量:100%] [状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない] [装備:ダマスクスソード@TOP,アービトレイター@RS] [道具:コミュニケーター@SO3,アナライズボール@RS,木刀,スターオーシャンBS@現実世界,荷物一式] [行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする] [思考1:ロキを殺す。今はその事だけに集中] [思考2:基本的にブレアは信用しないが、対ロキに関してのみ信用] [備考1:ロキの使用できる技は過去にヴァルキリー、ここでブレアから聞いて把握している可能性があります] 【ルシオ】[MP残量:100%] [状態:軽い疲労、焦燥と不安] [装備:アービトレイター@RS] [道具:コミュニケーター@SO3,マジカルカメラ(マジカルフィルム付き),????×1,荷物一式×2] [行動方針:レナスを……蘇らせる] [思考1:ロキを倒す。今はその事だけに集中] [思考2:ブレアは信用しない(だが、心では淡い期待を持つ)] [備考1:コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。(イヤホン、マイク込みで)] [備考2:マリアとクレスを危険人物と認識] [備考3:新たな支給品はアナライズボール×2,マジカルカメラ(マジカルフィルム付き),????×1です。      アナライズボールは洵と分け合い、ルシオの分は使用しました。      マジカルカメラで複写出来る物、マジカルフィルムの個数は後の書き手さんに一任。      ????×1は洵、ルシオとも確認済み] [備考4:ロキの使用できる技はブレアから聞いて把握している可能性があります] 【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%] [状態:ロキを疲弊させられる事に対する期待感が高まっている] [装備:無し] [道具:荷物一式] [行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい] [思考1:ルシオ、洵を利用しロキを疲弊させる。2人は死んでも良い] [思考2:出来る限りロキの足を引っ張る] [思考3:その他の事は後で考える] 【ロキ】[MP残量:90%] [状態:顔面に大きな痣&傷多数 顎に痛み、残り体力30%程度] [装備:グーングニル3@TOP,パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔50/100〕@SO3] [道具:10フォル@SO,万能包丁@SO3,ファルシオン@VP2,空き瓶@RS,スタンガン,ボーリング玉,拡声器@現実世界,首輪,荷物一式×2] [行動方針:ゲームの破壊] [思考1:ルシオ、洵を殺す] [思考2:ブレアは今は簡単に殺させる訳にはいかない] [思考3:その他の事は後で考える] [備考1:顎を治しましたが、まだ長い呪文詠唱などをすると痛みが走るかもしれません] [現在地:E-01南部。二股の道] 【残り21人+α?】 ---- [[第118話>鎌石村大乱戦 第二幕 ~龍を屠る赤き一撃~(前編)]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第114話>罪状はDV 判決は死刑]]|IMITATIVEブレア|[[第122話>Carnage Anthem]]| |[[第114話>罪状はDV 判決は死刑]]|ロキ|[[第122話>Carnage Anthem]]| |[[第115話>君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ]]|洵|[[第122話>Carnage Anthem]]| |[[第115話>君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ]]|ルシオ|[[第122話>Carnage Anthem]]|

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