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変態と不愉快な中年共」(2014/07/11 (金) 15:54:42) の最新版変更点

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**第127話 変態と不愉快な中年共 俺は目の前の光景に唖然とした。 レザードの野郎が死んでいたクリフを操り始めた事にも驚いたが、そのクリフの繰り出した剛腕の破壊力にも驚いた。 闇夜に響き渡る大音響。 胸に風穴が開いたままフラフラと立っていたクリフが直ぐ傍に生えている木に対して放った右ストレートがもたらした破壊音だ。 素手なのにも関わらず、その一撃は大木と言っても差し支えの無いサイズの立木を軽々とへし折った。 今更ながらぞっとする威力だ。こんな馬鹿げた怪力の持ち主と正面から戦ってよく生き延びれたものだと自分でも思う。 「さて、どうでしょうか? 貴方の目から見てクリフの力に衰えは無かったでしょうか? それとももう何回か試した方がよろしいですか?」 少し離れた位置に立って同じ様にクリフを観察していたレザードが聞いてきた。 「どうって言われてもな…、よく考えたらこいつが木を思いっきり殴る所なんて見てないからなぁ」 「そうですか、でしたら仕方ありませんね。直接彼の拳を受けてみて下さい」 さらっととんでもない事を抜かしやがったこのクソメガネ。当然ながら返答はノーだ。 「ふざけんなっての! こんな凶暴なデモンストレーション見させられた後で、はい、やりますなんて誰が言うんだよ!」 「しかし、それでは私の実験の答えが出せませんからねぇ。これは私の屍霊術の効力がどれほど発揮できているかを知る為の実験なんですが…」 「だったらよ、あっち見てみろ」 そう言って俺はちょっと離れた位置を指差した。そこには無数の薙ぎ倒された木が直線状に並んでいる。 「あれはクリフがぶっ放した気弾で出来た痕跡だ。同じ事をやらせてみたらどうだ?」 「そうですか、では…」 そう言ってレザードは一言二言、聞き慣れない言葉を発した。おそらくこいつが操っている相手に対する命令か何かなのだろう。 しかし、クリフはフラフラとその場に立ち尽くしたままだ。 「おい、どうなってんだ? さっさとしてくれよ」 「なるほど…そういう事ですか」 なにやら納得した様子のレザードが続けて先程とは別の命令を飛ばした。 その命令を受けたクリフは直ぐさまに次の動作に移ると、繰り出した後ろ回し蹴りで背後に立つ木を文字通り真っ二つにした。 「では、行きましょうかボーマン」 「ちょっと待て、なに一人で納得してんだよ! なにがなるほどだ。しっかり説明しろよ」 俺の抗議を受けて歩き始めていたレザードが振り返ると、うんざりとした表情で答えを返してきた。 「気という力は人の持つ生命力を使った力ですからね。死んでしまった体では扱えないという事ですよ」 「そうかい。それでお前さんの言ってた実験てのは終わったんだな?」 「えぇ、求めていた結果とは多少違っていましたが…」 「まぁ、結果ってのはこの際どうでもいいさ。さっさと鎌石村に行くぞ。お前の言ってた仲間ってのと合流しようぜ。出来れば民家か何かで一休みしたいしな」 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (さて、生命力を扱う事ができないという事はわかりましたが、まだ確かめてみたい事もありますね…) 先に行くボーマンの後に続きながら思考を巡らすレザード。 一先ずは使役したクリフの戦闘能力の検証は終えたが、ここでは出来ない実験も残っていた。 例えば、精神力を使った魔術は行使できるのか? または、ソフィア達の持つ脱出に必要な技能は扱えるのか? といった内容だ。 (前者はこのクリフを見る限り不可能でしょう。精神力も生きた人間が持つ力に過ぎませんからねぇ。  しかし、私の精神力を供給してやればその者の持つ術も行使できるかも知れんな…。一応サンプルが手に入ったら試してみるか。  後者は…、流石にこれは実験しようとして例の3名を殺すわけにはいかないか…。合流時に死体になっていたら試す程度にしましょう) 続けて、伴ったクリフを横目に見ながらクリフをどうするかを考える。 (置いていく事も出来ますが、最悪肉壁として使えますからねぇ。私の詠唱の時間を稼ぐ為にも連れて行きましょう。  ブラッディーアーマーの効力は期待できそうもありませんね。  どんな攻撃も無効化する代わりに生命力を奪われると説明書に記述されていますが、  元より奪う生命力が無いのですから身に着けてやったところで普通の鎧と変わらないでしょう) ドラゴンオーブの力を借りて屍霊術を使ってみたが、思ったより便利なものではなかった。 今の実験と考察をまとめれば多大な精神力を消費して作った操り人形は、壁役程度の価値しかない事になる。 (まぁ、私の魔力を高める霊装があれば話は変わってくるかもしれませんが…。  ドラゴンオーブを以ってしてもこの程度の効果をもたらすのが精一杯なのだ、これ以上のものを望むのは無理な話か…) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 足を踏み入れたエルネストは目を細めた。 僅かに月光を窓から取り込む以外の光源がない役場内は真っ暗で、何処になにがあるか把握できない状況だ。 だが、視覚ではなく嗅覚が告げるこの部屋に充満した独特な臭い。 (血の臭いだな…) 額の第3の目も含めて目を凝らし、僅かな異変にも対応できるようにと忙しなく視線を移していく。 いつでも『ダークウィップ』を抜けるように右手を柄にかけていた。 「エルネストどうなっているか分かるか?」 背後で周囲を警戒しているクラースからだ。 「もう少し待て、まだ暗さに目が慣れていなくて何があるのか掴めん。だが、血の臭いがするのは確かだ。周囲に異変は?」 「変化なしだ。シルフは些細な風の流れの変化も見逃さん。血の臭いといってももう荒事が終わった後なのかも知れんぞ」 今のところ奇襲の心配は無いみたいだがそれでも細心の注意を払い周囲を警戒する。 ややあって暗さにも目が慣れ状況がある程度掴める様になった。 そんな中真っ先に目にしたものにエルネストは息を呑んだ。金髪を腰の辺りまで伸ばした女性がうつ伏せに倒れていたからだ。 まだ、完全に目が慣れていない現状では判別できないが、その特徴は彼の良く知る女性のものに酷似していた。 「オペラッ!?」 「おい!? エルネスト! いきなり近づいては危険だ」 クラースの制止の声も聞かずに血溜まりに伏している女性に駆け寄り抱えるようにしてその体を起こした。 「オペラ!」 再度呼び掛ける。 起こす時に触れた身体の冷たさがこの女性が既に事切れていることを告げていたが、それでも彼は声をかけずにはいられなかった。 しかし、こちらに向けたその顔は彼の愛した女性のものではなかった。 「いきなり飛び込む奴があるか? まったく何も起こらなかったから良かったものの…」 ここまで決定的な隙を晒しても何も起こらなかったので、襲撃者が潜んでいる事は無いだろうと判断したクラースも遅れてロビー内に入ってきた。 「すまない…。後姿が俺の知っている女性の姿に似ていたから何も考えられなくなってしまった。気付いたら抱き起こしていた…」 オペラと呼び掛けるエルネストの様子からその女性と彼は特別な間柄である事を察したクラースはこれ以上エルネストを責める事を止めた。 「お前の気持ちも分かるが、次からは気をつけてくれよ…。それよりもルシファーの奴め、  支給品を一目で分かる所に置いておくと言っていたが何もこんな事をしなくても…」 この役場に踏み込んだ理由の一つ、放送時にルシファーの言っていた支給品の回収。 目的のその品は目の前の女性の遺体が抱きかかえるようにして持っていた。 この女性の支給品かとも思ったが、辺りにはこれ以外デイパックも無い。彼女の分はこれをやった人間が持ち出したのだろう。 「…悪趣味な奴め」 憎々しげにエルネストも悪態をついた。 「あまりこうしている時間も無いな…。早くこいつの中身を確認してブラムスの言っていた合流地点を目指そう」 「…俺はこの遺体を弔ってくる」 「しかし…」 危険だと続けようとしたクラースを静止してエルネストが続ける。 「大丈夫だ。警戒は怠らん。お前は中身の確認をしてくれ」 有無を言わせるつもりは無い様子だったのでクラースは黙ってそれに従った。 死後硬直が全身に廻り始めている女性から支給品のバックを引き剥がすのに苦労しながらも、二人は陰惨な気持ちに包まれていった。 ルシファーはそう易々と品物をくれてやるつもりはないらしい。 この作業のもたらす心理的な苦痛を見据えてこの位置にデイパックを配置したのなら作戦は大成功だろう。 この自分達の姿を見てルシファーが嘲笑っているのかと思うと彼に対する怒りがますます募っていった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ どうにか回収したデイパックの中身を改めようとクラースは中身に手を伸ばした。 エルネストは先ほどの遺体を抱えて外に出ている。 ちょうど窓ガラス越しに見える位置で貸したままの『シウススペシャル』をスコップ代わりに穴を掘っていた。 「まったく…」 物品を取り出しながら呆れ顔のクラース。 「では問うが、さっきの遺体がミラルドに似ていたのならどうしたかな?」 その横には四本の腕で起用に腕組をしながらオリジンがからかう様な声でクラースにたずねた。 自転車での移動中は邪魔になると言われ引っ込んでいたが、再度クラースの許可も得ず表に出てきた。 「ミッミラルドは関係ないだろうがっ! あいつは私の助手でそれ以上でもそれ以下でもない! それと勝手に出てくるなと何度言えば…」 「いいではないか、減るものでもないし。それよりも手が止まってるぞ」 クラースは言う事を聞きそうに無いオリジンを無視する事に決めて中身の確認作業を続けた。 共通支給品と思われる水やら食料やらを取り出した傍から床に並べていく。 その手が止まった。共通支給品のそのどれとも違う手触りの物品を掴んだその手をバックの口から引き抜く。 「これはっ?」 「ほう」 二人の視線が取り出した物品に集まる。 掴んだものは棒状の柄の部分だった。その両端には肉厚な刃が取り付けられている。 (筆者はこの形状の武器の一般的な名称を知りません。てか上手く形状の説明も出来ないのでゲル○グのヒートナギナタみたいな形をした武器と言っておきます) そして、なによりその武器から流れ出てくる凄まじいまでの魔力。その魔力にクラースだけでなくオリジンも圧倒された。 「とんでもない力を秘めた一品じゃないか。なんという武器なのだ?」 「説明書には…『神槍グングニル』と書いてあるな。神…アス……ドに安定……らすと言われ…槍。四…の一つ…駄目だ、血でまともに文字が読めん」 「見たところ呪いの品とも思えんが…、どうだクラース扱えそうか?」 「こいつから溢れる魔力の助けを借りれば今とは比べ物にもならない威力の召喚術が使えそうだが…如何せん重過ぎる。  こんなの持ち歩くだけで疲れてしまうし、戦闘中もまともに動けんだろうな」 「どうだ? これを期に肉体派に転向してみては?」 「無茶を言うな。私の年を考えろ。まぁ、安全に詠唱できる状況が確保されてれば必殺の一撃を撃つ時などは使えそうだな」 「では、普段は隠しておくのだな。こんな代物ロキの様な輩の手に渡ったら手がつけられなくなるし、そんなもの持ってれば不必要に敵に狙われるぞ」 「うむ、そうしておこう」 オリジンの言ってる事ももっともだったので、とりあえず彼に従っておく事にして自分のデイパックにしまった。 他の物品の確認をすべく再度手を突っ込んだクラースは棒状の何かを掴んだ。 おもむろに引き抜く。それは一振りの剣だった。紅蓮の炎を連想させる輝きを放つ刀身が先の『グングニル』に勝るとも劣らない魔力を放っている。 「『魔剣レヴァンテイン』というらしい…説明書は、さっきより酷くて何も読めん。  まぁ、このデイパックは大当たりだったみたいだな。武器を扱う者から見ても、私の様に魔力を扱う者から見てもこれ以上無い名品だと分かる」 「で、そいつは上手く使えそうか?」 そのオリジンからの問いにクラースは首を左右に振った。 「さっきの『グングニル』よりは軽いがそれでも私の腕力では持ったまま動き回ることは困難だ」 「まったく…このもやしっ子め」 ぼやくオリジンにうるさいと言い放ってから結局この剣もグングニルと同じ扱いにする事にした。 (もしくは、完全に対主催を目指す事にでもなったらクレスやフェイトの様な信頼できる剣士に託すか。  それまでは、生き残りを狙う時の切り札として隠しておこう) 「しかし、ここまで良い品が入っているにもかかわらず、一番欲しい魔力を秘めた書物が出てこないとはな…」 「そうだな、この豪華さを見たらエロ本と札束しか支給されなかったエルネストは憤慨するかも知れんな」 「違いない。…む?」 そう言いながらバックを漁っていたクラースの動きが止まる。 厚さは7センチそこそこ、手にした時に伝わる感触はハードカバーの書籍が持つ独特の重厚感。 (漸く当りを引いたか…) 念願の書物を探り当てたクラースは嬉々としてそれを取り出すと、閉じられたページを開いた。 そこには 「おっおにいちゃん…僕怖いよ…」と頬を染めながら呟く、青い色の髪の毛をした猫耳の女の子?(なにやら悪魔っぽい蝙蝠の羽をつけたフリフリの衣装を着込んでいる)と 「ここは初めてか? 力抜けよ」とその少女?に語りかける、毛先の方を脱色しているいわゆるプリン頭な悪人面の青年が一コマ目に描かれていた。 そして次のコマでは二人がもつれ合うように倒れこんで… そこでクラースはそっとページを閉じ、 (因みにちらりと視界に飛び込んできた別のコマで猫耳の方は男の子だという事が分かった。ちょうどベタで隠している位置があれだったのだ) 「なんなんだこれはっ!!」 怒りを露にし床に叩きつけた。 床にビターン!!と叩きつけられた『どーじん♂』はそれはそれは異様な魔力を秘めていたが、残念な事にクラースの求める魔力とは別ベクトルのものだった。 「戻ったぞ…って何をしているクラース?」 ちょうどそこに女性の遺体を埋め終えたエルネストが帰ってきた。 「どうもこうもあるかっ! せっかくまともな書物が手に入ったと思ったら…」 ところがエルネストは興味を示したらしい。黙ってクラースが叩きつけた本を拾い上げるとパラパラと捲りだした。 「フフッ、こいつはハズレだなクラース。他には何が?」 そう言われるとクラースは冷静な表情を取り戻した。 「それだけだ…」 切り札として隠しておく事にした『グングニル』と『レヴァンテイン』の存在は当然黙っておく。 エルネストの事を信頼していないわけではないが、勝ち抜けを狙う時に手の内を知られていないという事は大きなアドバンテージになるからだ。 「これだけ? まったく…これなら俺の最初の支給品の方が豪華じゃないか。何せ俺のには札束も入ってたしな!」 当然クラースの隠し持っている2つの武器の存在を知らないエルネストはそう言った後声に出して笑った。 「無駄足だったな…、とにかくここを出てブラムスが言っていた合流地点に向かおう」 床に並べた共通支給品をバックに詰め終えると二人は役場を後にしたのだった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「どうやらいないようだな…」 目的地の民家にたどり着いたエルネストとクラースは内部を探り終えるとどちらとなく呟いた。 道中も大規模な戦闘の形跡は見られなかった。調べ終える前から察し始めていたがどうやらこっちはハズレの様だ。 「さて、どうしたものかな?」 「今からまっすぐ戻ってもちょっと合流までには早いな。おそらく危険な目にあっているフェイトとブラムスには悪いが少しだけ休ませてもらおうか」 そう言ってエルネストは見知らぬ民家の台所にある戸棚を漁りだして陶器と茶葉を見つけるとお湯を沸かし始めた。 とりあえずクラースも居間の適当な位置に腰を下ろした。まだまともな戦闘には参加していないが、足が棒の様になっている。 ほぼ丸一日歩き回っていたから無理もないがやはり年なのか…と落ち込み始めた。 ややあって、エルネストがお茶を淹れた容器を二つもって戻ってきた。 それを二人で仲良くすすっていると、僅かであるが床が揺れた。そして少し遅れてから重たい何かが地面に倒れる様な音が聞こえてきた。 「なんだ?」 「わからん」 まったりモードから一転。即座に戦士の顔を取り戻す二人。同時に立ち上がると壁側に移動する。 居間の真ん中などにいてはどうぞ狙い打ってくださいと言っている様なものだ そっと窓から外を確認するが、人の気配は感じられない。だが、二人同時に振動と音を感じたのだから気のせいである訳は無い。 しばし警戒を続けていると再度同じ様な振動と音が聞こえてきた。 「ここから東南の方向からだ。それなりに遠い」 床に目を瞑って手を当てていたクラースが呟く。どうやら彼は大地の精霊の力を借りて振動の発信源を突き止めたらしい。 「戦闘中か?」 「わからんが、行くしかあるまい。フェイトのガールフレンドの可能性が高い」 二人は残ったお茶を飲み干すと、くつろいでいた民家から駆け出した。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ レザードとクリフ、ついでに長髪男を背負って移動を続けていた。 大体今はD-5の北西部の角辺りだ。そこからC-4へ移る予定だった。また首輪は警告メッセージを発するだろうが問題はない。 何故俺がこの長髪を背負っているのかというと、クリフに背負わせろと抗議したら 「あなたはこんな足取りのこれに背負わせるつもりなのですか?」と千鳥なクリフを指差して言ったからだ。 じゃあお前が担げと言おうとしたが、どうせ適当な難癖をつけられて押し付けられるに決まっていたので止めておいた。我ながら賢明な判断だ。 やや歩くと、首輪から例の警告メッセージが流れてきた。どうやら境界に差し掛かったらしいがどうにも気になる事があった。 (何故この長髪からは警告音が鳴らないんだ? クリフのが鳴らないのは死んでるからだろうが…。この兄ちゃんも死んでんのか?) その疑問を即座に否定した。この男からはしっかりと体温と心臓の鼓動を感じるし、寝息だって聞こえてきている。 (こいつの首輪は動作してないって事か? 調べてみる価値はあるな…、何か分かれば脱出派の連中との交渉に使える。  まぁ、レザードの奴がなぜかこいつに執着していやがるから簡単にはいかないだろうがなぁ) 当のレザードはこの男を見つめながら何かを納得した様子だった。どうやらレザードもこの男の首輪の機能が停止している事に気付いたらしい。 やがて首輪からの警告音も止み、無事C-4に入ることが出来た。 もう少し歩けば休めると思うと、背中の大荷物の重さも気にならなくなってきた。 軽くなった足で歩みを進める中こちらを伺っている何者かの気配に気付いた。 長髪男を地面に降ろし、周囲に目を配る。レザードもこの気配に気付いたらしく立ち止まって警戒し始めた。 (さて、どうしたものか…。殺し合いに乗ってる奴なら厄介だが、かといって脱出を狙ってる奴も今は困るな。  動く死体と気絶した男を連れ歩く二人組の男なんて怪しさ大爆発だ…。とりあえず相手の出方を見てみるか…) 「こう見えても俺達は殺し合いに乗ってはいない! そっちも殺し合いに乗ってないってのならとりあえず出て来い!」 しばしの沈黙。 その後、右前方100メートル程度の木の陰から二人の男の影が出てきた。 その二人の内の一人を見て俺は心の中でガッツポーズをした。残り僅かになってきた俺の見知っている人物。 無条件で受け入れてくれるほど甘い相手ではないが、それでも初対面の連中よりかは遥かに信頼を得やすい相手だ。 「エルネストじゃねぇか!」 「元気そう…でもないか、ボロボロじゃないか。まぁ、無事で何よりだボーマン。一先ずお前の言う事を信じて出てきたが…」 「あぁ、我ながらこの状況はとても信じてくれと言えるもんじゃないと思ってるよ。とりあえず落ち着ける所で話をしたいんだが…」 旧友との再会を素直に喜びあうが、いずれ殺さなければならないという事実が俺の中の僅かに残る良心を苛んだ。 「待って欲しい。私達はお前達が来た方角から謎の揺れを感じてここまできたのだが…」 エルネストの連れの男が口を開いた。こいつは見た事が無いがクロードの言うところの未開惑星の住人だろう。 身に付けた衣装とかまさにそんな感じである。戦闘力は未知数だが、少なくとも荒事向きではなさそうでもある。 「その音なら多分俺達だ。詳しくは後で話すがちょっと木を切り倒してたからな」 とりあえず嘘をつく必要は無いので事実を説明しておく。なんでそんな行動を?と思われているようだがまぁこれはしょうがない。 「落ち着ける所でと言うのでしたら、私の連れと合流予定の地点が直ぐ近くなのでそちらで構いませんか?」 背後に立ったまま押し黙っていたレザードが口を開いた。正直このいかがわしい男には黙っていて欲しかった。いらん誤解を生みそうだから。 「ん? あんたまさかブラムスが言っていたレザード・ヴァレスか?」 「ほぉ、彼を知っているのですか? どうです? 彼は元気ですか?」 「あぁ…、それはもう手が付けられん位にな…」 エルネストはそう言うと連れの男と共にげんなりした様子で顔を伏せた。 なにか思い出してはいけないものを思い出した、そんな感じの表情だが一体なんなのだろうか? 「ところで彼は?」 「今は別行動だ。それよりこっちも聞きたいのだが、お前と一緒にいると聞いていたソフィアという少女は何処にいる? 無事なのか?」 「こちらも別行動中です。今は私達に先行してもらって平瀬村に向かっています」 「入れ違ったという事か…」 「おいおい…こんなところで立ち話なんて危ないだろうが。これ以上踏み込んだ話をするなら先ずは移動しないか?」 とりあえず俺の提案は受け入れられた。 速やかに移動を再開してしばらくした後に見かけた民家で俺達はそれぞれの持つ情報の交換会を開始した。 エルネスト達から提供された情報は、打倒主催に関するソフィア達の重要性。そして彼らはソフィアとの合流を目指してここを目指していた事、 それとブラムスというミカエルすら無傷で倒す化け物(しかも素手で)の他にソフィアの話にもあった主催を倒す上で重要な役割を担う少年と協力関係にある事。 後はエルネストの同行者(クラースという名らしい)から彼の知っている人間の中で生存している者とこの島で遭遇した要注意人物についての話を聞いた。 クラース曰くチェスターは「若干向こう見ずな所もあるが正義感に溢れた男だ」と言っていた。流石に若干の部分には疑問を抱かずにはいられない。 俺といる時はその向こう見ずな正義感とやらが遺憾なく発揮され、練っていた計画を何度も練り直しさせられたからな。 最後に聞いたのはクラースは精霊という存在を呼び出して戦わせる事が出来るらしい。威力はエルネストからのお墨付きでセリーヌやレオンの紋章術にも引けを取らないそうだ。 それに対して俺達から提供した情報は、俺とアシュトンとチェスターが誤解の末戦った事から説明を始めて、レザードの介入から犠牲者を出さずにすんで(当然これは事実ではないが)手を組んだ事。 チェスターからもたらされた情報で脱出のキーパーソン、マリア・トレイターが平瀬村にいると知った俺達がブラムスとの合流とマリア達との合流を果たすべく別行動に移った事。 その後、クリフの死体を発見したレザードが戦力の確保を目的にクリフを屍霊術を使って動かし、その戦闘能力を確かめた時の音がエルネスト達が聞いた音だという事。 加えてクロードが殺し合いに乗っているという事を話した。それを聞いたエルネストは一瞬だけ陰鬱な表情を見せた。 お互いの持ち物の確認をする事になりかけたがそれはさせなかった。レザードに対する切り札『サイレントカード』が露呈するからだ。 何とかそれを回避しようとしていると、何故かクラースも同調してくれて事なきを得た。 今は互いの情報交換も終え今後の行動方針を話し合っている最中だ。 俺達4人はちゃぶ台を囲んでエルネストの淹れたお茶をすすっていた。 「ところで…、まだ聞きたい事があるのだがいいだろうか?」 湯飲みを卓上に置きクラースがレザードに向かって語りかけた。 どうぞと促すレザードの姿をみてクラースが口を開く。 「いつまで、そこの彼をあのままにしておくつもりだ?」 語気を荒げたクラースがレザードに詰め寄る。 「そこの彼? クリフの事ですか? でしたら当分はこのままのつもりですが…何か問題でも?」 「あぁ、大有りだ。さっきの話では戦力の確保の為、彼にそのような仕打ちをしたそうだが…」 レザードを睨み付けながらクラースは大きく息を吸いなおして続けた。 「正直言わせてもらう! 私はお前のその死者に鞭を打つ様な行いに嫌悪感を抱いている! 今すぐ彼を安らかに眠らせてやるんだ!  私やエルネストといった戦力が整った今、お前が死者の眠りを妨げてまで強制的に仕えさせる必要は無いはずだ!」 ちゃぶ台を叩きながら今にも掴みかからんばかりの剣幕でクラースが立ち上がった。 そんなクラースの視線を浴びながらもレザードは嘲笑を浮かべながら返答した。 「貴方は何を言っているのですか? ここは最早弱肉強食の世界。持てる技能の全てを用いて生き延びようとする事のどこに疑問がありますか?  なるほど、確かに一般論を考えれば私の行いは魂を冒涜した罪深いものだ。  だが、その様なつまらない倫理観の所為で死んでしまったらそれは愚か者の所業ではありませんか?」 「気に入らんな…」 その横で話を聞いていたエルネストもクラースに同意した。一触即発のピリピリとした空気がお茶の間に充満していく。 俺としてはこんな所での荒事は勘弁して欲しかった。このまま戦闘開始となったら迷わずエルネスト達側につくつもりだがまだ勝算が薄い。 クラースの実力が未知数だからだ。それに前衛一歩後ろの位置から援護をするスタイルのエルネストしか他にメンバーがいない。当然消去法で俺は最前線担当となってしまう。 無用な危険は避けたいし、出来ればルシファーに対する一大反抗組織となるだろうエルネスト達の中に入り込みたい。その時の方がレザードを殺す事も容易いだろう。 だから、俺はこいつらを抑える事にした。 「おらっ! お前ら仲間割れはよせっ! レザード! どうしてもクリフを元に戻してやるつもりは無いんだな?」 「はい。戦力が多いに越した事はありませんからね」 「だとよ。俺も感情の方では理解したくないが、こいつは身を守る為に身に着けた戦闘技術を使っているのと同じ感覚なんだろうよ。  お前らもきれい事だけじゃ生き抜いていけないってのも分かってんだろうが!」 「「…」」 そろって沈黙する両名。 (なんとか事なきを得たか…。ったく、手間かけさせんなよな) 「とにかくしばらく休憩だ。こんな空気じゃ話も纏まらんだろう。一旦頭を冷やしてから再開だ」 手を打ち鳴らして他の3人を促し、無理やり休憩時間にした。 渋々といった様子でそれぞれが席から立ち上がった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (まったく…これだから一般人の感覚というものは理解できない) レザードは居間の脇にある和室で瞑目していた。その傍らにはクリフを伴っている。 (まぁ、構わないか…。うるさいのであればクリフと同じにしてしまえば済む話ですし…) ソフィア達の様に脱出に不可欠な存在というわけではない。最悪殺してしまって操り人形にしたほうが都合がいい。 そう考えると、別にこのまま言わせておけばいいという気になってきた。 気を取り直して目を開ける。そこでレザードはとある異変に気付いた。 自分のデイパックの口から淡い光が洩れ出ているのだ。 (あれは一体…? クラースのつれている精霊達に共鳴しているのか? 確かに世界の根幹を司るほどの高位な存在となればそれも納得できるが…) どこか違和感を感じる。 何か別のものに反応していると感じるが、その別の何かに彼は心当たりが無かった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (珍しいなクラース。お前があそこまで怒りを露にするなんて…) オリジンが中に引っ込んだまま私に語りかけてきた。 (当然だ。あんな行いを見過ごしてなるものか!) (まぁ、お前の怒りは分かるのだが、話がある…) オリジンが改まってこんなことを言ってくるとは中々無い事だ。だまって彼の話に耳を傾けるクラース。 (確信を持てないのだがな…、あれの力を感じる) (あれ?) (『エターナルソード』だ。おそらくボーマンかレザードのどちらかが持っていると思うが…荷物を見せてもらう訳には) (いかんな。一回私はそれを拒んでいるしな。それにそうすれば同時に私の持っている切り札もばれてしまう) (だな。隙を見て盗み見るしかないか…) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ふぅ…」 (さっきは思わず止めちまったけど、あのまま煽った方が良かったかもな) さっきの出来事を思い出し俺はため息を付いた。レザードを倒すには絶好の機会だったはずだ。 よく考えたらあいつは転移の術やら死体の蘇生やらの大規模な術を連続で使っている。 どんな人間だって精神力には限りがあるだろう。 どれほど余力を残しているかは知らないが、大技はそこまで打ってこないんじゃないか? 俺も万全とは言えないが、あいつもそれは言える。 下手に休ませて体力を回復された方がこちらの勝率が下がってしまうかもしれない。 (今更さっきの様な状況に持っていくのも多少不自然かもな…だが、火種は残していた方がいいかもな) そう思い立ち、庭で一服している最中のエルネストに近づいて小声で話しかける。 「ちょっといいか?」 「どうした?」 さりげなく横目でレザードの様子を伺う。こういった小芝居も重要である。 「レザードの事なんだが…俺は奴に脅迫されるような形で無理やり協力させられていた…」 あながち間違っていないのだが、こう言っておけばレザードに対する不信感を煽ることが出来る。 俺の話を聞き深刻そうな表情をして考え込むエルネスト。予想通りの反応に俺はほくそ笑むのを隠すのに苦労した。 「今のところ怪しい動きは示していないが奴は危険だ。おそらくゲームにも乗っているだろう」 「ではどうする? 奴を倒すのか?」 「いずれはな…。だがレザードも強制的に従わせてる俺に対して警戒をしているはずだ。  だから、仕掛けるにしても機を伺う必要があるだろう。仕掛ける時になったら俺が合図を出す。協力してくれるか?」 「もちろんだ。クラースにも言っておこう」 「あぁ、頼んだ」 一先ずこの程度でいいだろう。レザードをこの場で倒すにしても、エルネストの仲間と合流するにしても俺がある程度コントロールできる。 後はレザードのコンディションを探るか…。常に気味の悪い笑みを浮かべてる表情な上隙も見せないから難しいかもしれんが探るだけ探ってみるか…。 【C-04/黎明】 チーム【変態魔導師と不愉快な中年達】 【レザード・ヴァレス】[MP残量:5%] [状態:精神力を使用した事による疲労(やや大)] [装備:サーペントトゥース@SO2、天使の唇@VP、大いなる経典@VP2] [道具:ブラッディーアーマー@SO2、合成素材×2、ダーククリスタル、スプラッシュスター@SO3、ドラゴンオーブ、アントラー・ソード、転換の杖@VP、エルブンボウ(矢×40本)、レナス人形フルカラー@VP2、神槍パラダイム、ダブった魔剣グラム@RS、荷物一式×5] [行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る] [思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える] [思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない] [思考3:フェイト、マリア、ソフィアの3人は屍霊術で従えることは止めておく] [思考4:ボーマンを利用し、いずれは足手纏いのソフィアを殺害したい] [思考5:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考6:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す] [思考7:首輪をどうにかしたい] [備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません] [備考2:クリフの持っていたアイテムは把握してません] [備考3:ゾンビクリフを伴っています] [備考4:現在の屍霊術の効力では技や術を使わせることは出来ません。ドラゴンオーブ以外の力を借りた場合はその限りではない?] 【ボーマン・ジーン】[MP残量:10%] [状態:全身に打身や打撲 上半身に軽度の火傷 フェイトアーマーの効果により徐々に体力と怪我は回復中] [装備:エンプレシア@SO2、フェイトアーマー@RS] [道具:サイレンスカード×2、メルーファ、調合セット一式@SO2、バニッシュボム×5、ミスリルガーター@SO3、七色の飴玉×2@VP、エターナルソード@TOP、首輪×1、荷物一式×5] [行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還] [思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない] [思考2:とりあえずレザードと一緒に行動。取引を行うか破棄するかは成り行き次第] [思考3:調合に使える薬草を探してみる] [思考4:レザードのコンディションを見てからレザードを倒すかブラムスと合流を優先するか決める] [備考1:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています] [備考2:ミニサイズの破砕弾が1つあります] 【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%] [状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中] [装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2] [道具:なし] [行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する] [思考1:???] [思考2:ルシオの保護] [思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)] [思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考5:協力してくれる人物を探す] [思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す] [備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます] [備考2:ルーファスの意識はほとんどありません] [備考3:後7~8時間以内にレナスの意識で目を覚まします] [備考4:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています] 【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%] [状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)] [装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界] [道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ、荷物一式] [行動方針:打倒主催者] [思考1:仲間と合流] [思考2:炎のモンスターを警戒] [思考3:ブラムスを取り引き相手として信用] [思考4:ボーマンを信頼。レザードは警戒] [思考5:次の放送前後にF-4にてチーム魔法少女(♂)と合流] 【クラース・F・レスター】[MP残量:50%] [状態:正常] [装備:ダイヤモンド@TOP] [道具:神槍グングニル@VP、魔剣レヴァンテイン@VP、どーじん♂@SO2、薬草エキスDX@RS、荷物一式*2] [行動方針:生き残る(手段は選ばない)] [思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動(ブラムスの同盟破棄は警戒)] [思考2:ゲームから脱出する方法を探す] [思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ] [思考4:グングニルとレヴァンテインは切り札として隠しておく] [思考5:次の放送前後にF-4にてチーム魔法少女(♂)と合流] [思考6:ブラムスに対してアスカが有効か試す(?)] [思考7:レザードを警戒] [思考8:可能なら『エターナルソード』をボーマンとレザードの荷物から探す] 【現在位置:C-04南東部の民家】 ---- [[第126話>王子様はホウキに乗ってやってくる?]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第128話>Flying Sparks]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]]|レザード|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]]|ボーマン|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]]|レナス@ルーファス|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第117話>ヴァンパイアハンターK]]|エルネスト|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第117話>ヴァンパイアハンターK]]|クラース|[[第130話>大人の嗜み]]| ----
**第127話 変態と不愉快な中年共 俺は目の前の光景に唖然とした。 レザードの野郎が死んでいたクリフを操り始めた事にも驚いたが、そのクリフの繰り出した剛腕の破壊力にも驚いた。 闇夜に響き渡る大音響。 胸に風穴が開いたままフラフラと立っていたクリフが直ぐ傍に生えている木に対して放った右ストレートがもたらした破壊音だ。 素手なのにも関わらず、その一撃は大木と言っても差し支えの無いサイズの立木を軽々とへし折った。 今更ながらぞっとする威力だ。こんな馬鹿げた怪力の持ち主と正面から戦ってよく生き延びれたものだと自分でも思う。 「さて、どうでしょうか? 貴方の目から見てクリフの力に衰えは無かったでしょうか? それとももう何回か試した方がよろしいですか?」 少し離れた位置に立って同じ様にクリフを観察していたレザードが聞いてきた。 「どうって言われてもな…、よく考えたらこいつが木を思いっきり殴る所なんて見てないからなぁ」 「そうですか、でしたら仕方ありませんね。直接彼の拳を受けてみて下さい」 さらっととんでもない事を抜かしやがったこのクソメガネ。当然ながら返答はノーだ。 「ふざけんなっての! こんな凶暴なデモンストレーション見させられた後で、はい、やりますなんて誰が言うんだよ!」 「しかし、それでは私の実験の答えが出せませんからねぇ。これは私の屍霊術の効力がどれほど発揮できているかを知る為の実験なんですが…」 「だったらよ、あっち見てみろ」 そう言って俺はちょっと離れた位置を指差した。そこには無数の薙ぎ倒された木が直線状に並んでいる。 「あれはクリフがぶっ放した気弾で出来た痕跡だ。同じ事をやらせてみたらどうだ?」 「そうですか、では…」 そう言ってレザードは一言二言、聞き慣れない言葉を発した。おそらくこいつが操っている相手に対する命令か何かなのだろう。 しかし、クリフはフラフラとその場に立ち尽くしたままだ。 「おい、どうなってんだ? さっさとしてくれよ」 「なるほど…そういう事ですか」 なにやら納得した様子のレザードが続けて先程とは別の命令を飛ばした。 その命令を受けたクリフは直ぐさまに次の動作に移ると、繰り出した後ろ回し蹴りで背後に立つ木を文字通り真っ二つにした。 「では、行きましょうかボーマン」 「ちょっと待て、なに一人で納得してんだよ! なにがなるほどだ。しっかり説明しろよ」 俺の抗議を受けて歩き始めていたレザードが振り返ると、うんざりとした表情で答えを返してきた。 「気という力は人の持つ生命力を使った力ですからね。死んでしまった体では扱えないという事ですよ」 「そうかい。それでお前さんの言ってた実験てのは終わったんだな?」 「えぇ、求めていた結果とは多少違っていましたが…」 「まぁ、結果ってのはこの際どうでもいいさ。さっさと鎌石村に行くぞ。お前の言ってた仲間ってのと合流しようぜ。出来れば民家か何かで一休みしたいしな」 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (さて、生命力を扱う事ができないという事はわかりましたが、まだ確かめてみたい事もありますね…) 先に行くボーマンの後に続きながら思考を巡らすレザード。 一先ずは使役したクリフの戦闘能力の検証は終えたが、ここでは出来ない実験も残っていた。 例えば、精神力を使った魔術は行使できるのか? または、ソフィア達の持つ脱出に必要な技能は扱えるのか? といった内容だ。 (前者はこのクリフを見る限り不可能でしょう。精神力も生きた人間が持つ力に過ぎませんからねぇ。  しかし、私の精神力を供給してやればその者の持つ術も行使できるかも知れんな…。一応サンプルが手に入ったら試してみるか。  後者は…、流石にこれは実験しようとして例の3名を殺すわけにはいかないか…。合流時に死体になっていたら試す程度にしましょう) 続けて、伴ったクリフを横目に見ながらクリフをどうするかを考える。 (置いていく事も出来ますが、最悪肉壁として使えますからねぇ。私の詠唱の時間を稼ぐ為にも連れて行きましょう。  ブラッディーアーマーの効力は期待できそうもありませんね。  どんな攻撃も無効化する代わりに生命力を奪われると説明書に記述されていますが、  元より奪う生命力が無いのですから身に着けてやったところで普通の鎧と変わらないでしょう) ドラゴンオーブの力を借りて屍霊術を使ってみたが、思ったより便利なものではなかった。 今の実験と考察をまとめれば多大な精神力を消費して作った操り人形は、壁役程度の価値しかない事になる。 (まぁ、私の魔力を高める霊装があれば話は変わってくるかもしれませんが…。  ドラゴンオーブを以ってしてもこの程度の効果をもたらすのが精一杯なのだ、これ以上のものを望むのは無理な話か…) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 足を踏み入れたエルネストは目を細めた。 僅かに月光を窓から取り込む以外の光源がない役場内は真っ暗で、何処になにがあるか把握できない状況だ。 だが、視覚ではなく嗅覚が告げるこの部屋に充満した独特な臭い。 (血の臭いだな…) 額の第3の目も含めて目を凝らし、僅かな異変にも対応できるようにと忙しなく視線を移していく。 いつでも『ダークウィップ』を抜けるように右手を柄にかけていた。 「エルネストどうなっているか分かるか?」 背後で周囲を警戒しているクラースからだ。 「もう少し待て、まだ暗さに目が慣れていなくて何があるのか掴めん。だが、血の臭いがするのは確かだ。周囲に異変は?」 「変化なしだ。シルフは些細な風の流れの変化も見逃さん。血の臭いといってももう荒事が終わった後なのかも知れんぞ」 今のところ奇襲の心配は無いみたいだがそれでも細心の注意を払い周囲を警戒する。 ややあって暗さにも目が慣れ状況がある程度掴める様になった。 そんな中真っ先に目にしたものにエルネストは息を呑んだ。金髪を腰の辺りまで伸ばした女性がうつ伏せに倒れていたからだ。 まだ、完全に目が慣れていない現状では判別できないが、その特徴は彼の良く知る女性のものに酷似していた。 「オペラッ!?」 「おい!? エルネスト! いきなり近づいては危険だ」 クラースの制止の声も聞かずに血溜まりに伏している女性に駆け寄り抱えるようにしてその体を起こした。 「オペラ!」 再度呼び掛ける。 起こす時に触れた身体の冷たさがこの女性が既に事切れていることを告げていたが、それでも彼は声をかけずにはいられなかった。 しかし、こちらに向けたその顔は彼の愛した女性のものではなかった。 「いきなり飛び込む奴があるか? まったく何も起こらなかったから良かったものの…」 ここまで決定的な隙を晒しても何も起こらなかったので、襲撃者が潜んでいる事は無いだろうと判断したクラースも遅れてロビー内に入ってきた。 「すまない…。後姿が俺の知っている女性の姿に似ていたから何も考えられなくなってしまった。気付いたら抱き起こしていた…」 オペラと呼び掛けるエルネストの様子からその女性と彼は特別な間柄である事を察したクラースはこれ以上エルネストを責める事を止めた。 「お前の気持ちも分かるが、次からは気をつけてくれよ…。それよりもルシファーの奴め、  支給品を一目で分かる所に置いておくと言っていたが何もこんな事をしなくても…」 この役場に踏み込んだ理由の一つ、放送時にルシファーの言っていた支給品の回収。 目的のその品は目の前の女性の遺体が抱きかかえるようにして持っていた。 この女性の支給品かとも思ったが、辺りにはこれ以外デイパックも無い。彼女の分はこれをやった人間が持ち出したのだろう。 「…悪趣味な奴め」 憎々しげにエルネストも悪態をついた。 「あまりこうしている時間も無いな…。早くこいつの中身を確認してブラムスの言っていた合流地点を目指そう」 「…俺はこの遺体を弔ってくる」 「しかし…」 危険だと続けようとしたクラースを静止してエルネストが続ける。 「大丈夫だ。警戒は怠らん。お前は中身の確認をしてくれ」 有無を言わせるつもりは無い様子だったのでクラースは黙ってそれに従った。 死後硬直が全身に廻り始めている女性から支給品のバックを引き剥がすのに苦労しながらも、二人は陰惨な気持ちに包まれていった。 ルシファーはそう易々と品物をくれてやるつもりはないらしい。 この作業のもたらす心理的な苦痛を見据えてこの位置にデイパックを配置したのなら作戦は大成功だろう。 この自分達の姿を見てルシファーが嘲笑っているのかと思うと彼に対する怒りがますます募っていった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ どうにか回収したデイパックの中身を改めようとクラースは中身に手を伸ばした。 エルネストは先ほどの遺体を抱えて外に出ている。 ちょうど窓ガラス越しに見える位置で貸したままの『シウススペシャル』をスコップ代わりに穴を掘っていた。 「まったく…」 物品を取り出しながら呆れ顔のクラース。 「では問うが、さっきの遺体がミラルドに似ていたのならどうしたかな?」 その横には四本の腕で起用に腕組をしながらオリジンがからかう様な声でクラースにたずねた。 自転車での移動中は邪魔になると言われ引っ込んでいたが、再度クラースの許可も得ず表に出てきた。 「ミッミラルドは関係ないだろうがっ! あいつは私の助手でそれ以上でもそれ以下でもない! それと勝手に出てくるなと何度言えば…」 「いいではないか、減るものでもないし。それよりも手が止まってるぞ」 クラースは言う事を聞きそうに無いオリジンを無視する事に決めて中身の確認作業を続けた。 共通支給品と思われる水やら食料やらを取り出した傍から床に並べていく。 その手が止まった。共通支給品のそのどれとも違う手触りの物品を掴んだその手をバックの口から引き抜く。 「これはっ?」 「ほう」 二人の視線が取り出した物品に集まる。 掴んだものは棒状の柄の部分だった。その両端には肉厚な刃が取り付けられている。 (筆者はこの形状の武器の一般的な名称を知りません。てか上手く形状の説明も出来ないのでゲル○グのヒートナギナタみたいな形をした武器と言っておきます) そして、なによりその武器から流れ出てくる凄まじいまでの魔力。その魔力にクラースだけでなくオリジンも圧倒された。 「とんでもない力を秘めた一品じゃないか。なんという武器なのだ?」 「説明書には…『神槍グングニル』と書いてあるな。神…アス……ドに安定……らすと言われ…槍。四…の一つ…駄目だ、血でまともに文字が読めん」 「見たところ呪いの品とも思えんが…、どうだクラース扱えそうか?」 「こいつから溢れる魔力の助けを借りれば今とは比べ物にもならない威力の召喚術が使えそうだが…如何せん重過ぎる。  こんなの持ち歩くだけで疲れてしまうし、戦闘中もまともに動けんだろうな」 「どうだ? これを期に肉体派に転向してみては?」 「無茶を言うな。私の年を考えろ。まぁ、安全に詠唱できる状況が確保されてれば必殺の一撃を撃つ時などは使えそうだな」 「では、普段は隠しておくのだな。こんな代物ロキの様な輩の手に渡ったら手がつけられなくなるし、そんなもの持ってれば不必要に敵に狙われるぞ」 「うむ、そうしておこう」 オリジンの言ってる事ももっともだったので、とりあえず彼に従っておく事にして自分のデイパックにしまった。 他の物品の確認をすべく再度手を突っ込んだクラースは棒状の何かを掴んだ。 おもむろに引き抜く。それは一振りの剣だった。紅蓮の炎を連想させる輝きを放つ刀身が先の『グングニル』に勝るとも劣らない魔力を放っている。 「『魔剣レヴァンテイン』というらしい…説明書は、さっきより酷くて何も読めん。  まぁ、このデイパックは大当たりだったみたいだな。武器を扱う者から見ても、私の様に魔力を扱う者から見てもこれ以上無い名品だと分かる」 「で、そいつは上手く使えそうか?」 そのオリジンからの問いにクラースは首を左右に振った。 「さっきの『グングニル』よりは軽いがそれでも私の腕力では持ったまま動き回ることは困難だ」 「まったく…このもやしっ子め」 ぼやくオリジンにうるさいと言い放ってから結局この剣もグングニルと同じ扱いにする事にした。 (もしくは、完全に対主催を目指す事にでもなったらクレスやフェイトの様な信頼できる剣士に託すか。  それまでは、生き残りを狙う時の切り札として隠しておこう) 「しかし、ここまで良い品が入っているにもかかわらず、一番欲しい魔力を秘めた書物が出てこないとはな…」 「そうだな、この豪華さを見たらエロ本と札束しか支給されなかったエルネストは憤慨するかも知れんな」 「違いない。…む?」 そう言いながらバックを漁っていたクラースの動きが止まる。 厚さは7センチそこそこ、手にした時に伝わる感触はハードカバーの書籍が持つ独特の重厚感。 (漸く当りを引いたか…) 念願の書物を探り当てたクラースは嬉々としてそれを取り出すと、閉じられたページを開いた。 そこには 「おっおにいちゃん…僕怖いよ…」と頬を染めながら呟く、青い色の髪の毛をした猫耳の女の子?(なにやら悪魔っぽい蝙蝠の羽をつけたフリフリの衣装を着込んでいる)と 「ここは初めてか? 力抜けよ」とその少女?に語りかける、毛先の方を脱色しているいわゆるプリン頭な悪人面の青年が一コマ目に描かれていた。 そして次のコマでは二人がもつれ合うように倒れこんで… そこでクラースはそっとページを閉じ、 (因みにちらりと視界に飛び込んできた別のコマで猫耳の方は男の子だという事が分かった。ちょうどベタで隠している位置があれだったのだ) 「なんなんだこれはっ!!」 怒りを露にし床に叩きつけた。 床にビターン!!と叩きつけられた『どーじん♂』はそれはそれは異様な魔力を秘めていたが、残念な事にクラースの求める魔力とは別ベクトルのものだった。 「戻ったぞ…って何をしているクラース?」 ちょうどそこに女性の遺体を埋め終えたエルネストが帰ってきた。 「どうもこうもあるかっ! せっかくまともな書物が手に入ったと思ったら…」 ところがエルネストは興味を示したらしい。黙ってクラースが叩きつけた本を拾い上げるとパラパラと捲りだした。 「フフッ、こいつはハズレだなクラース。他には何が?」 そう言われるとクラースは冷静な表情を取り戻した。 「それだけだ…」 切り札として隠しておく事にした『グングニル』と『レヴァンテイン』の存在は当然黙っておく。 エルネストの事を信頼していないわけではないが、勝ち抜けを狙う時に手の内を知られていないという事は大きなアドバンテージになるからだ。 「これだけ? まったく…これなら俺の最初の支給品の方が豪華じゃないか。何せ俺のには札束も入ってたしな!」 当然クラースの隠し持っている2つの武器の存在を知らないエルネストはそう言った後声に出して笑った。 「無駄足だったな…、とにかくここを出てブラムスが言っていた合流地点に向かおう」 床に並べた共通支給品をバックに詰め終えると二人は役場を後にしたのだった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「どうやらいないようだな…」 目的地の民家にたどり着いたエルネストとクラースは内部を探り終えるとどちらとなく呟いた。 道中も大規模な戦闘の形跡は見られなかった。調べ終える前から察し始めていたがどうやらこっちはハズレの様だ。 「さて、どうしたものかな?」 「今からまっすぐ戻ってもちょっと合流までには早いな。おそらく危険な目にあっているフェイトとブラムスには悪いが少しだけ休ませてもらおうか」 そう言ってエルネストは見知らぬ民家の台所にある戸棚を漁りだして陶器と茶葉を見つけるとお湯を沸かし始めた。 とりあえずクラースも居間の適当な位置に腰を下ろした。まだまともな戦闘には参加していないが、足が棒の様になっている。 ほぼ丸一日歩き回っていたから無理もないがやはり年なのか…と落ち込み始めた。 ややあって、エルネストがお茶を淹れた容器を二つもって戻ってきた。 それを二人で仲良くすすっていると、僅かであるが床が揺れた。そして少し遅れてから重たい何かが地面に倒れる様な音が聞こえてきた。 「なんだ?」 「わからん」 まったりモードから一転。即座に戦士の顔を取り戻す二人。同時に立ち上がると壁側に移動する。 居間の真ん中などにいてはどうぞ狙い打ってくださいと言っている様なものだ そっと窓から外を確認するが、人の気配は感じられない。だが、二人同時に振動と音を感じたのだから気のせいである訳は無い。 しばし警戒を続けていると再度同じ様な振動と音が聞こえてきた。 「ここから東南の方向からだ。それなりに遠い」 床に目を瞑って手を当てていたクラースが呟く。どうやら彼は大地の精霊の力を借りて振動の発信源を突き止めたらしい。 「戦闘中か?」 「わからんが、行くしかあるまい。フェイトのガールフレンドの可能性が高い」 二人は残ったお茶を飲み干すと、くつろいでいた民家から駆け出した。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ レザードとクリフ、ついでに長髪男を背負って移動を続けていた。 大体今はD-5の北西部の角辺りだ。そこからC-4へ移る予定だった。また首輪は警告メッセージを発するだろうが問題はない。 何故俺がこの長髪を背負っているのかというと、クリフに背負わせろと抗議したら 「あなたはこんな足取りのこれに背負わせるつもりなのですか?」と千鳥なクリフを指差して言ったからだ。 じゃあお前が担げと言おうとしたが、どうせ適当な難癖をつけられて押し付けられるに決まっていたので止めておいた。我ながら賢明な判断だ。 やや歩くと、首輪から例の警告メッセージが流れてきた。どうやら境界に差し掛かったらしいがどうにも気になる事があった。 (何故この長髪からは警告音が鳴らないんだ? クリフのが鳴らないのは死んでるからだろうが…。この兄ちゃんも死んでんのか?) その疑問を即座に否定した。この男からはしっかりと体温と心臓の鼓動を感じるし、寝息だって聞こえてきている。 (こいつの首輪は動作してないって事か? 調べてみる価値はあるな…、何か分かれば脱出派の連中との交渉に使える。  まぁ、レザードの奴がなぜかこいつに執着していやがるから簡単にはいかないだろうがなぁ) 当のレザードはこの男を見つめながら何かを納得した様子だった。どうやらレザードもこの男の首輪の機能が停止している事に気付いたらしい。 やがて首輪からの警告音も止み、無事C-4に入ることが出来た。 もう少し歩けば休めると思うと、背中の大荷物の重さも気にならなくなってきた。 軽くなった足で歩みを進める中こちらを伺っている何者かの気配に気付いた。 長髪男を地面に降ろし、周囲に目を配る。レザードもこの気配に気付いたらしく立ち止まって警戒し始めた。 (さて、どうしたものか…。殺し合いに乗ってる奴なら厄介だが、かといって脱出を狙ってる奴も今は困るな。  動く死体と気絶した男を連れ歩く二人組の男なんて怪しさ大爆発だ…。とりあえず相手の出方を見てみるか…) 「こう見えても俺達は殺し合いに乗ってはいない! そっちも殺し合いに乗ってないってのならとりあえず出て来い!」 しばしの沈黙。 その後、右前方100メートル程度の木の陰から二人の男の影が出てきた。 その二人の内の一人を見て俺は心の中でガッツポーズをした。残り僅かになってきた俺の見知っている人物。 無条件で受け入れてくれるほど甘い相手ではないが、それでも初対面の連中よりかは遥かに信頼を得やすい相手だ。 「エルネストじゃねぇか!」 「元気そう…でもないか、ボロボロじゃないか。まぁ、無事で何よりだボーマン。一先ずお前の言う事を信じて出てきたが…」 「あぁ、我ながらこの状況はとても信じてくれと言えるもんじゃないと思ってるよ。とりあえず落ち着ける所で話をしたいんだが…」 旧友との再会を素直に喜びあうが、いずれ殺さなければならないという事実が俺の中の僅かに残る良心を苛んだ。 「待って欲しい。私達はお前達が来た方角から謎の揺れを感じてここまできたのだが…」 エルネストの連れの男が口を開いた。こいつは見た事が無いがクロードの言うところの未開惑星の住人だろう。 身に付けた衣装とかまさにそんな感じである。戦闘力は未知数だが、少なくとも荒事向きではなさそうでもある。 「その音なら多分俺達だ。詳しくは後で話すがちょっと木を切り倒してたからな」 とりあえず嘘をつく必要は無いので事実を説明しておく。なんでそんな行動を?と思われているようだがまぁこれはしょうがない。 「落ち着ける所でと言うのでしたら、私の連れと合流予定の地点が直ぐ近くなのでそちらで構いませんか?」 背後に立ったまま押し黙っていたレザードが口を開いた。正直このいかがわしい男には黙っていて欲しかった。いらん誤解を生みそうだから。 「ん? あんたまさかブラムスが言っていたレザード・ヴァレスか?」 「ほぉ、彼を知っているのですか? どうです? 彼は元気ですか?」 「あぁ…、それはもう手が付けられん位にな…」 エルネストはそう言うと連れの男と共にげんなりした様子で顔を伏せた。 なにか思い出してはいけないものを思い出した、そんな感じの表情だが一体なんなのだろうか? 「ところで彼は?」 「今は別行動だ。それよりこっちも聞きたいのだが、お前と一緒にいると聞いていたソフィアという少女は何処にいる? 無事なのか?」 「こちらも別行動中です。今は私達に先行してもらって平瀬村に向かっています」 「入れ違ったという事か…」 「おいおい…こんなところで立ち話なんて危ないだろうが。これ以上踏み込んだ話をするなら先ずは移動しないか?」 とりあえず俺の提案は受け入れられた。 速やかに移動を再開してしばらくした後に見かけた民家で俺達はそれぞれの持つ情報の交換会を開始した。 エルネスト達から提供された情報は、打倒主催に関するソフィア達の重要性。そして彼らはソフィアとの合流を目指してここを目指していた事、 それとブラムスというミカエルすら無傷で倒す化け物(しかも素手で)の他にソフィアの話にもあった主催を倒す上で重要な役割を担う少年と協力関係にある事。 後はエルネストの同行者(クラースという名らしい)から彼の知っている人間の中で生存している者とこの島で遭遇した要注意人物についての話を聞いた。 クラース曰くチェスターは「若干向こう見ずな所もあるが正義感に溢れた男だ」と言っていた。流石に若干の部分には疑問を抱かずにはいられない。 俺といる時はその向こう見ずな正義感とやらが遺憾なく発揮され、練っていた計画を何度も練り直しさせられたからな。 最後に聞いたのはクラースは精霊という存在を呼び出して戦わせる事が出来るらしい。威力はエルネストからのお墨付きでセリーヌやレオンの紋章術にも引けを取らないそうだ。 それに対して俺達から提供した情報は、俺とアシュトンとチェスターが誤解の末戦った事から説明を始めて、レザードの介入から犠牲者を出さずにすんで(当然これは事実ではないが)手を組んだ事。 チェスターからもたらされた情報で脱出のキーパーソン、マリア・トレイターが平瀬村にいると知った俺達がブラムスとの合流とマリア達との合流を果たすべく別行動に移った事。 その後、クリフの死体を発見したレザードが戦力の確保を目的にクリフを屍霊術を使って動かし、その戦闘能力を確かめた時の音がエルネスト達が聞いた音だという事。 加えてクロードが殺し合いに乗っているという事を話した。それを聞いたエルネストは一瞬だけ陰鬱な表情を見せた。 お互いの持ち物の確認をする事になりかけたがそれはさせなかった。レザードに対する切り札『サイレントカード』が露呈するからだ。 何とかそれを回避しようとしていると、何故かクラースも同調してくれて事なきを得た。 今は互いの情報交換も終え今後の行動方針を話し合っている最中だ。 俺達4人はちゃぶ台を囲んでエルネストの淹れたお茶をすすっていた。 「ところで…、まだ聞きたい事があるのだがいいだろうか?」 湯飲みを卓上に置きクラースがレザードに向かって語りかけた。 どうぞと促すレザードの姿をみてクラースが口を開く。 「いつまで、そこの彼をあのままにしておくつもりだ?」 語気を荒げたクラースがレザードに詰め寄る。 「そこの彼? クリフの事ですか? でしたら当分はこのままのつもりですが…何か問題でも?」 「あぁ、大有りだ。さっきの話では戦力の確保の為、彼にそのような仕打ちをしたそうだが…」 レザードを睨み付けながらクラースは大きく息を吸いなおして続けた。 「正直言わせてもらう! 私はお前のその死者に鞭を打つ様な行いに嫌悪感を抱いている! 今すぐ彼を安らかに眠らせてやるんだ!  私やエルネストといった戦力が整った今、お前が死者の眠りを妨げてまで強制的に仕えさせる必要は無いはずだ!」 ちゃぶ台を叩きながら今にも掴みかからんばかりの剣幕でクラースが立ち上がった。 そんなクラースの視線を浴びながらもレザードは嘲笑を浮かべながら返答した。 「貴方は何を言っているのですか? ここは最早弱肉強食の世界。持てる技能の全てを用いて生き延びようとする事のどこに疑問がありますか?  なるほど、確かに一般論を考えれば私の行いは魂を冒涜した罪深いものだ。  だが、その様なつまらない倫理観の所為で死んでしまったらそれは愚か者の所業ではありませんか?」 「気に入らんな…」 その横で話を聞いていたエルネストもクラースに同意した。一触即発のピリピリとした空気がお茶の間に充満していく。 俺としてはこんな所での荒事は勘弁して欲しかった。このまま戦闘開始となったら迷わずエルネスト達側につくつもりだがまだ勝算が薄い。 クラースの実力が未知数だからだ。それに前衛一歩後ろの位置から援護をするスタイルのエルネストしか他にメンバーがいない。当然消去法で俺は最前線担当となってしまう。 無用な危険は避けたいし、出来ればルシファーに対する一大反抗組織となるだろうエルネスト達の中に入り込みたい。その時の方がレザードを殺す事も容易いだろう。 だから、俺はこいつらを抑える事にした。 「おらっ! お前ら仲間割れはよせっ! レザード! どうしてもクリフを元に戻してやるつもりは無いんだな?」 「はい。戦力が多いに越した事はありませんからね」 「だとよ。俺も感情の方では理解したくないが、こいつは身を守る為に身に着けた戦闘技術を使っているのと同じ感覚なんだろうよ。  お前らもきれい事だけじゃ生き抜いていけないってのも分かってんだろうが!」 「「…」」 そろって沈黙する両名。 (なんとか事なきを得たか…。ったく、手間かけさせんなよな) 「とにかくしばらく休憩だ。こんな空気じゃ話も纏まらんだろう。一旦頭を冷やしてから再開だ」 手を打ち鳴らして他の3人を促し、無理やり休憩時間にした。 渋々といった様子でそれぞれが席から立ち上がった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (まったく…これだから一般人の感覚というものは理解できない) レザードは居間の脇にある和室で瞑目していた。その傍らにはクリフを伴っている。 (まぁ、構わないか…。うるさいのであればクリフと同じにしてしまえば済む話ですし…) ソフィア達の様に脱出に不可欠な存在というわけではない。最悪殺してしまって操り人形にしたほうが都合がいい。 そう考えると、別にこのまま言わせておけばいいという気になってきた。 気を取り直して目を開ける。そこでレザードはとある異変に気付いた。 自分のデイパックの口から淡い光が洩れ出ているのだ。 (あれは一体…? クラースのつれている精霊達に共鳴しているのか? 確かに世界の根幹を司るほどの高位な存在となればそれも納得できるが…) どこか違和感を感じる。 何か別のものに反応していると感じるが、その別の何かに彼は心当たりが無かった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (珍しいなクラース。お前があそこまで怒りを露にするなんて…) オリジンが中に引っ込んだまま私に語りかけてきた。 (当然だ。あんな行いを見過ごしてなるものか!) (まぁ、お前の怒りは分かるのだが、話がある…) オリジンが改まってこんなことを言ってくるとは中々無い事だ。だまって彼の話に耳を傾けるクラース。 (確信を持てないのだがな…、あれの力を感じる) (あれ?) (『エターナルソード』だ。おそらくボーマンかレザードのどちらかが持っていると思うが…荷物を見せてもらう訳には) (いかんな。一回私はそれを拒んでいるしな。それにそうすれば同時に私の持っている切り札もばれてしまう) (だな。隙を見て盗み見るしかないか…) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ふぅ…」 (さっきは思わず止めちまったけど、あのまま煽った方が良かったかもな) さっきの出来事を思い出し俺はため息を付いた。レザードを倒すには絶好の機会だったはずだ。 よく考えたらあいつは転移の術やら死体の蘇生やらの大規模な術を連続で使っている。 どんな人間だって精神力には限りがあるだろう。 どれほど余力を残しているかは知らないが、大技はそこまで打ってこないんじゃないか? 俺も万全とは言えないが、あいつもそれは言える。 下手に休ませて体力を回復された方がこちらの勝率が下がってしまうかもしれない。 (今更さっきの様な状況に持っていくのも多少不自然かもな…だが、火種は残していた方がいいかもな) そう思い立ち、庭で一服している最中のエルネストに近づいて小声で話しかける。 「ちょっといいか?」 「どうした?」 さりげなく横目でレザードの様子を伺う。こういった小芝居も重要である。 「レザードの事なんだが…俺は奴に脅迫されるような形で無理やり協力させられていた…」 あながち間違っていないのだが、こう言っておけばレザードに対する不信感を煽ることが出来る。 俺の話を聞き深刻そうな表情をして考え込むエルネスト。予想通りの反応に俺はほくそ笑むのを隠すのに苦労した。 「今のところ怪しい動きは示していないが奴は危険だ。おそらくゲームにも乗っているだろう」 「ではどうする? 奴を倒すのか?」 「いずれはな…。だがレザードも強制的に従わせてる俺に対して警戒をしているはずだ。  だから、仕掛けるにしても機を伺う必要があるだろう。仕掛ける時になったら俺が合図を出す。協力してくれるか?」 「もちろんだ。クラースにも言っておこう」 「あぁ、頼んだ」 一先ずこの程度でいいだろう。レザードをこの場で倒すにしても、エルネストの仲間と合流するにしても俺がある程度コントロールできる。 後はレザードのコンディションを探るか…。常に気味の悪い笑みを浮かべてる表情な上隙も見せないから難しいかもしれんが探るだけ探ってみるか…。 【C-04/黎明】 チーム【変態魔導師と不愉快な中年達】 【レザード・ヴァレス】[MP残量:5%] [状態:精神力を使用した事による疲労(やや大)] [装備:サーペントトゥース@SO2、天使の唇@VP、大いなる経典@VP2] [道具:ブラッディーアーマー@SO2、合成素材×2、ダーククリスタル、スプラッシュスター@SO3、ドラゴンオーブ、アントラー・ソード、転換の杖@VP、エルブンボウ(矢×40本)、レナス人形フルカラー@VP2、神槍パラダイム、ダブった魔剣グラム@RS、荷物一式×5] [行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る] [思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える] [思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない] [思考3:フェイト、マリア、ソフィアの3人は屍霊術で従えることは止めておく] [思考4:ボーマンを利用し、いずれは足手纏いのソフィアを殺害したい] [思考5:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考6:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す] [思考7:首輪をどうにかしたい] [備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません] [備考2:クリフの持っていたアイテムは把握してません] [備考3:ゾンビクリフを伴っています] [備考4:現在の屍霊術の効力では技や術を使わせることは出来ません。ドラゴンオーブ以外の力を借りた場合はその限りではない?] 【ボーマン・ジーン】[MP残量:10%] [状態:全身に打身や打撲 上半身に軽度の火傷 フェイトアーマーの効果により徐々に体力と怪我は回復中] [装備:エンプレシア@SO2、フェイトアーマー@RS] [道具:サイレンスカード×2、メルーファ、調合セット一式@SO2、バニッシュボム×5、ミスリルガーター@SO3、七色の飴玉×2@VP、エターナルソード@TOP、首輪×1、荷物一式×5] [行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還] [思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない] [思考2:とりあえずレザードと一緒に行動。取引を行うか破棄するかは成り行き次第] [思考3:調合に使える薬草を探してみる] [思考4:レザードのコンディションを見てからレザードを倒すかブラムスと合流を優先するか決める] [備考1:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています] [備考2:ミニサイズの破砕弾が1つあります] 【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%] [状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中] [装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2] [道具:なし] [行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する] [思考1:???] [思考2:ルシオの保護] [思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)] [思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考5:協力してくれる人物を探す] [思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す] [備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます] [備考2:ルーファスの意識はほとんどありません] [備考3:後7~8時間以内にレナスの意識で目を覚まします] [備考4:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています] 【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%] [状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)] [装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界] [道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ、荷物一式] [行動方針:打倒主催者] [思考1:仲間と合流] [思考2:炎のモンスターを警戒] [思考3:ブラムスを取り引き相手として信用] [思考4:ボーマンを信頼。レザードは警戒] [思考5:次の放送前後にF-4にてチーム魔法少女(♂)と合流] 【クラース・F・レスター】[MP残量:50%] [状態:正常] [装備:ダイヤモンド@TOP] [道具:神槍グングニル@VP、魔剣レヴァンテイン@VP、どーじん♂@SO2、薬草エキスDX@RS、荷物一式*2] [行動方針:生き残る(手段は選ばない)] [思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動(ブラムスの同盟破棄は警戒)] [思考2:ゲームから脱出する方法を探す] [思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ] [思考4:グングニルとレヴァンテインは切り札として隠しておく] [思考5:次の放送前後にF-4にてチーム魔法少女(♂)と合流] [思考6:ブラムスに対してアスカが有効か試す(?)] [思考7:レザードを警戒] [思考8:可能なら『エターナルソード』をボーマンとレザードの荷物から探す] 【現在位置:C-04南東部の民家】 【残り18人+α】 ---- [[第126話>王子様はホウキに乗ってやってくる?]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第128話>Flying Sparks]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]]|レザード|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]]|ボーマン|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第120話>Stairway To Heaven(前編)]]|レナス@ルーファス|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第117話>ヴァンパイアハンターK]]|エルネスト|[[第130話>大人の嗜み]]| |[[第117話>ヴァンパイアハンターK]]|クラース|[[第130話>大人の嗜み]]| ----

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