第32話 二人の父親


「ふう~。」
男――アドレー=ラーズバード――は、ため息をつきながら近くにあった石に腰かけた。
「あやつは間違いなくわしらで倒したはずなんじゃがな。しかも殺し合いをしろじゃと?
気付いたらこんな所におるし、まったくわけがわからん。」
そうつぶやき周りを見渡すと、支給されたデイパックが目に留まった。
今のままでは埒が明かないので、とりあえず中身を確認した。
「ふむふむ、地図にペンそれにこれは...」
アドレーは、名簿を手に取って中を開いた。
「フェイト殿に、マリア殿、アルベルのやつまでおるのか...。」
一人、一人名前を確認していくと、ある一人の名前で表情が凍りついた。
「ク、クレアまでおるのか!!」
――クレア=ラーズバード、アドレーの最愛の娘の名だ。彼は娘を溺愛していた。
どれ程かというと、彼の背中には彼女の似顔絵の刺青が刻まれている。――
アドレーは、頭を抱えなら勢いよく立ち上がった。
「こうしてはおれん!一刻も早くルシファーのやつを倒さねば!!
ワシの、ワシのクレアの身に危険がーーーー!!!」
荷物をまとめながら地図を眺めた。
(ここから南に村があるようじゃな。きっと誰かがいるはずじゃ。ひとまずはそこを目指すかの。)

ドサッ

「どうやらこれも支給品のようじゃな。」
デイパックから何種類もの植物とすり鉢とすり棒が出てきた。
「そういえば小腹がすいていたところじゃった。こんな草でも腹の足しになるじゃろう、腹が減ってはと言うしの。」
そう言うと手に持った草を一口食べた。

モッサモッサ

「うむ、意外といけるな。」
道具の説明書に目を向けながら別の草も食べだした。

モシャモシャ。

「どうやら調合用の薬草が一通りそろっておる様じゃな。
ワシは調合とか細かい作業は苦手じゃから非常食にでもするかの。」

ドサッ

急に力が入らなくなりその場でうつ伏せに倒れてしまった。

カサッ

デイパックからアドレーが最初に口にした植物の説明書が出てきた。
――トリカブト。キンポウゲ科トリカブト属の多年草食べると嘔吐や下痢・呼吸困難などから死に至ることもある。――

(すまないクレア。どうやらパパはここまでの様だ...。
お前をこの手で守ってやれることができなかったのが心残りだ...。
お前の父でワシは幸せじゃったよ。
フェイト殿、クリフ殿、誰でもいい娘を、クレアを.たの..む...。)

「まったく、どうなてるんだこりゃ?」
ボーマン=ジーンは額に手を当てながらつぶやいた。
(OK、状況を確認しよう。
いきなり見たことのない部屋につれてこられたと思ったら、
目の前でなぜか生きてたルシフェルが殺された。
んでもって気づいたらこの神社の社の中にいて、
外に出てみたはいいものの変なおっさんが倒れてたと。)
額に当ててた手で頭をかきながら更に考えた。
(おそらくだが、
このおっさんは俺と同様この島に連れてこられたやつだろう。しかし...)
ボーマンが気になったのはその男の姿だった。
上半身は服を着ておらず、その体は立派な筋肉に覆われている。
手に握られているのはかじったあとのあるトリカブト、
そして何より目を引いたのは男の背中に彫られた刺青だった。
(...。女の子の顔だな、こりゃ....。)
しかも満面の笑顔だ。
(この状況に絶望して服毒自殺でもしたのかね?)
(まぁ、この仏さんには悪いが何かに役立つかもしれないし荷物はいただいてくか。)
地面に転がっている荷物に手を伸ばそうとしたその時。
「うっ、うう..。」
男がうめき声を上げた。
(まだ、生きているのか?)
そう思った次の瞬間には体が動いていた。
医学に携わる者として目の前の救えるかもしれない命を見捨てることができなかったのだ。
(確か荷物を確認した時に...。)
デイパックを漁る手が目的の物(アクアベリー)を掴む。
(支給されたアイテムがこれだけだった時は、正直がっかりしたがこうも早く役に立ってくれるとはな。)
ボーマンは男にアクアベリーを食べさせた。
みるみる男の顔色が良くなっていく。
(どうやら間に合ったようだな。)


「ここは...。ワシはたしか...。」
アドレーは上半身だけ起き上がって周りを見渡した。
(天国にしては殺風景な場所じゃな。)
「おっ、気がついたか?」
急に背後から男の声がしたので身構えた。
「おいおい、仮にも命の恩人にその態度はないんじゃないか?」
ボーマンは両手を軽く上げ、手をぶらぶらさせて武器を持ってないことをアピールした。
「命の恩人?」
アドレーはなおも警戒しながら聞き返した。
「そう、とりあえずいきさつ説明したいんだが、その拳はしまってくれないか?
あんたみたいなのに殴られたら一発でKOだからな。」
そう言われるとアドレーはボーマンの顔を見つめた。
(どうやら危険なやつではなさそうじゃな。)
そう思うと警戒を解いて手ごろな石の上に腰掛けた。
ボーマンもそばにある石に座っていきさつを話し出した。



「――――と、言うわけで俺はあんたになけなしのアクアベリーを食わせてやったのさ。」
アドレーはボーマンの話を聞き終わえると。
「そうじゃったか、まさにお主はワシの命の恩人のようじゃな。
ワシの名はアドレー、アドレー=ラーズバードじゃ。」
そう言いつつ笑顔で右手を差し出した。
「ボーマン=ジーンだ、よろしくな。」
ボーマンも右手を差し出し握手を交わした。

「ところでお主もルシファーにこんな所に連れてこられたのか?」
「ルシファー?」
どこかで聞いたことのある名前だったが、顔が思い浮かばなかったのでボーマンは聞き返した。
「なんと?やつと面識のないのにここにおるのか?
ここに来させられる前に、銀髪の男と黒髪の少女を殺したやつじゃよ。」
「あいつか...。」
ボーマンはあの薄暗い部屋での出来事を思い出した。
「どうやらワシの仲間もここに連れて来られているようなんじゃよ。」
アドレーは名簿のフェイトの欄あたりを指しながら言った。
まだ名簿を確認していなかったことを思い出したボーマンは参加者の名前を確認した。
(クロード達までいやがるのか、それにミカエルにガブリエルまで!?)
他の名前は聞いたことのない名前ばかりだったが一人気になる名前が目に留まった。
「このクレアってのは、あんたの奥さんかなんかかい?」
ボーマンは名簿のクレアの名が書かれているところを指しながら尋ねた。
アドレーは良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら答えた。
「クレアはわしの娘じゃ。どこに出しても恥ずかしくない娘じゃよ。ホレ」
アドレーはボーマンに背を向けると刺青を指しながら続けた。
「彫士に頼んで娘の似顔絵を彫ってもらったんじゃよ。ワシに似ず可愛らしい顔をしておってのぉ。」
「ハハッ」ボーマンは少し乾いた笑いを返した。

「どうした?なにか言いたそうじゃの?」
ボーマンの微妙なリアクションを見てアドレーは尋ねた。
「いや、うちにも娘がいてな。今頃心配しているだろうなと思ってな。」
表情は笑顔だが、何かを考え込んでいるような表情で答えた。
「そうか、そうか。どうやらワシらは似た者同士な様じゃな。
なら尚更こんなわけのわからんゲームで死ぬわけにはいくまいて。」
アドレーは勢いよく立ち上がりボーマンに尋ねた。
「お主はどうするつもりなんじゃ?
ワシは仲間と合流し今一度やつを倒そうと思っておるんじゃが。
ワシとしてはお主がいてくれれば心強いのじゃが。」
「倒す?ルシファーとかいうやつを?勝算は?」
正直あのルシフェルが手も足も出せなかった男に勝てる気がして無かったボーマンは尋ねた。
「うーむ。一度倒したとは言ってもあの時は武具も整っておったし
何よりこんな物騒な物を首につけていなかったからのぉ。」
アドレーは自分の首に付けられてる首輪を指しながら答えた。
「まぁ、わしの仲間にこういった物の扱いに長けた者もおる。きっと何とかなるじゃろう。」
先ほどから元気のないボーマンを励ますよう語りかけたが尚も表情は暗い。
「ホレ、娘に会いたいんじゃろ?
ならこんなところで立ち止まっているわけにいかんじゃろ!」
そういうとアドレーは石に腰かけているボーマンに手を差し出した。
ボーマンはそれを見上げて決意したように答えた。
「あぁ、あんたの言うとおりだ。
俺はニーネとエリスの為にも必ず生きて帰らなければないんだよな!」
そう言うと、差し出された手に掴まり立ち上がった。
「そうそう!その意気じゃ。地図によるとここから西のほうに村がある。
そこに行けば誰かしらがおるはずじゃ。」
そう言いコンパスを確認しながら歩き出した。

「アドレー。」
ボーマンに呼び止められたアドレーは振り返った。
ボーマンの手にはピンポン玉をもう一回り小さくしたサイズの玉があった。
「これは、秘仙丹といって俺の調合した丸薬だ。多少だが体力回復の効果がある。
また変な草を食って倒れられても困るしな。腹の足しにでもしてくれや。」
ボーマンは丸薬をアドレーに手渡し歩き出した。
「これはこれはかたじけない。それでは早速いただくとしようかの。」
アドレーはもらった丸薬を一口で飲み込んだ。
「うむ、なかなかうま」
爆発音が鳴り響きアドレーはそれ以上の言葉を発することなく爆散した。
自慢の刺青とともに上半身が飛び散り下半身だけが力なく地面に転がった。
ボーマンが手渡したのは秘仙丹ではなく破砕弾だったのだ。
ボーマンはアドレーがいたところに歩み寄って悲しげにつぶやいた。
「悪いなアドレー。あんたは俺とあんたは似ていると言っていたがそれは違う。
俺は今の状況をあんたほど楽観視できない。確かにこんな殺し合いなんて馬鹿げてる。
だが、あの男に勝ち目のない戦いを挑むことはもっと馬鹿げている。
家族の元へ帰るにはこの方法しかないんだ。」
自分の作った薬で人を殺めた事が彼の心を傷めていた。
(おいおい、しっかりしろよ。これから先はクロード達も場合によってはこの手で殺さなければならないんだぞ。)
ボーマンはそう心の中で自身を励ますとアドレーのデイパックを拾い上げその場を去った。

【E-02/昼】
【ボーマン=ジーン】[MP残量:80%]
[状態:正常]
[装備:なし]
[道具:調合セット一式+荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:人を殺したことを気に病んでいる]
[思考2:できればSO2の仲間たちとは会いたくない]
[現在位置:E-02]

【アドレー・ラーズバード@SO3DC 死亡】
【残り55名】
[備考1]:MPは、破砕弾を使用したために消費しています。
[備考2]:調合用薬草ですがマンドレイク*1、ローズヒップ*1、
     アルテミスリーフ*1トリカブト(食いかけ)*1となってます。
     アセラスとラベンダーは回復薬やリザレクトボトル系の材料になるので
     アドレーが食べてしまったことにしてます。


※ボーマンの特技の丸薬系は非戦闘時にMPを消費してストックしといて、
 戦闘になったらそれを使う形がいいかと思いましたがどうでしょう?
 何も無い空間から戦闘中に作るのも不自然でしょうし。




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ボーマン 第70話
アドレー

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最終更新:2007年06月29日 00:57