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第41話 静かな湖畔の森の陰から



静かな湖畔の森の陰から、男と女の声がする――

男は女を説き伏せようと声をかけ。
女は男をねじ伏せようと隙を窺う。

しばしの膠着。

そして両者は賭けに出る。賭けるものは己の命。







忍は非情でなければならない。
仕えるべき者のために相手の命と、そして必要とあらば己の命をも犠牲にしなければならない過酷で誇り高い職業。
自分は、そんな忍の頭領になるのだ。
「げっ、またフルーツポンチかよ」
「何よー、文句あるなら食べなきゃいいでしょー!」
だけど――チェスターさんやアーチェさん、ミントさんにクラースさん、それにクレスさんと居る時間は楽しくて。
「……いただきます」
「すずちゃんはどっかの馬鹿男と違って文句ひとつ言わないもんねぇ~」
「……好きですから」
「すずちゃん甘党だもんね~。あのスケベ大魔王はいらないみたいだし、すずちゃんおかわりしてもいいんだからね~」
「なっ……いらねぇとは言ってねぇだろうが!」
非情にならねばと押し殺し続けてきた感情が表に出てきてしまって。
「やれやれ、あの二人は静かに食事が出来ないのか……」
「賑やかでいいじゃないですか。ね、すずちゃん」
「……はい。悪くはありません」
いつしか、普通の女の子も悪くないかなと心のどこかで思ってしまって。
「アーチェの言う通りだぞチェスター。フルーツポンチしかまともに作れないってわかってるんだから、嫌なら食事当番をアーチェの代わりにやればよかったじゃないか」
「……なぁんか微妙に馬鹿にされてる気がするんだけど?」
「ま、チェスターの言い分もわからなくはないがな。アーチェもそろそろ他の料理を作れるようになってもいいんじゃないか?」
「何よ~、クラースはあの馬鹿の肩を持つって言うの!? あぁやだやだ、スケベはスケベと共感するんだ。すずちゃん、あの馬鹿二人には近づいちゃダメだよ」
「なっ……! 私は別にチェスターの肩を持ったわけでもスケベなわけでもだなぁ……」
「二人の言い分はイーブンですもんね!」
「…………」
「…………」
「あれ?み、みんなどうしたの?笑うとこ笑うとこ」
「……食べるか」
「……そだね」
本当に、楽しかった――(クレスさんの冗談自体はアレでしたが)
だけど、その楽しかった日々もこれまでだ。
『最後の一人になるまで・・・殺し合え』
このふざけた戯言に、最初は付き合う気などなかった。
仲間と力を合わせればなんとかなると思えたから。
だけど――名簿にダオスの名を見つけ、事情が変わった。
自分が仲間と力を合わせ六人がかりでようやく倒したあの男を、ルシファーと名乗った男は蘇らせた。
死者の蘇生だけでも恐ろしい能力だというのに、あのダオスに反抗すら許さない強大な力をも持っている。
正直に言って、万に一つも勝ち目などないだろう。
だとしたら、やるべきことはひとつだ。
ダオスを討ち、優勝し、散っていった者達の分まで生き続ける。
本心を言うなら、優勝者は自分ではなく苦楽を共にした誰かがいいのだが――自分にも、待っている者がいる。
いまやこの命は自分一人のものではない。
(私は……次期頭領。ここで散るわけにはいかない!)
楽しかった思い出を頭から叩き出し、瞳に冷たさを宿した少女は、無防備な細目の青年へと――
いや、楽しかった思い出を頭から叩き出し、瞳に冷たさを宿すために、少女は青年へと飛び掛る。
一線を越え、あの頃の甘い自分に戻れぬよう己の追い込むために。





それから一刻ほど経った。
未だにアントラー・ソードが細目に致命傷を与えることはない。
それでも分はこちらにある。
相手はただ速いだけ。動き自体は素人のそれである。
争いとは無関係な――いや、この場合は“無関係だった”と表現するのが適切か――本来ならば守るべき一般人なのだろう。
せめて苦しまないよう逝かせてやりたい。
「隙有り」
観念したのか、はたまた草に足でも取られたか、とにかく細目の動きが止まった。
その隙を見逃す手はなく、一思いにと躊躇うことなくその刀身を細目の身体へと滑り込ませる。
「…………ッ!」
深く突き刺すための前傾姿勢のおかげで、細目が何かを呟いていることに気が付いた。
遺言や恨み言の類である可能性は否定できないが、それでも念のため素早く細目から離れる。
「忍法・飯綱落とし!」
それが効を奏し、石の槍を回避して背を向ける男に飯綱落としを叩き込むことに成功した。
呻く姿を見、早く楽にしてやろうと細目へと歩み寄る。

「…………!」
ガサリ、という音を聞き、素早く後方へと飛び退いた。
音源に目を向けると、武器も持たない金髪の青年が姿を現した。
姿を隠すつもりがないということは、あの細目の仲間ということだろう。
でなければこんなリスクを犯してまで割り込んでこず、決着が付いた後で奇襲をかけるはずだ。
「君は……どうしてこんなことをするんだ」
金髪の青年は、こちらをまっすぐと見据えて問う。
「答える義務はありません」
「何故だ……君にも、お父さんやお母さんはいるだろう!? 君のそんな姿を見たら悲しむぞ!」
…………そんなことは、ない。
父上と母上は、忍として里の者のために非情になれたすずを見て喜んでくれるはずだ。
弱くて足を引っ張るばかりの甘ちゃんだった自分に別れを告げようとするすずを、あの世から応援してくれるはずだ。
「こんな愚かなことはもう止めろ!」
忍として散った両親のためにも
「…………御免」
ここで退くわけには、いかない。







外見とその戦闘力は必ずしもイコールではない。
神界ではそのことを改めて思い知らされた。
ロキにフレイア――二人には劣るがジェラード姫なんかも非力な子供のような外見のわりにかなりの実力を有している。
だから、相手が子供だろうと殺人者は殺人者だと割り切って間に入った。相手を倒す覚悟だってある。
――だけど、言わずにはいられなかった。
「君は……どうしてこんなことをするんだ」
強いだけの子供はたくさん知っている。戦乱の中で瞳に恐怖や憎悪の色を宿した子供もたくさん見てきた。
だが、こんな冷たい瞳をする子供を見るのは初めてだ。この子の瞳には、恐怖も憎悪もない。
ただただ冷たい感情のない瞳に微量の殺気を込めている。
――何故、こんな子供がそんな目を出来るんだ? どうして躊躇なく人を殺そうとするんだ?
「答える義務はありません」
「何故だ……君にも、お父さんやお母さんはいるだろう!?」
そう、誰にだって家族はいる。大切な人はいる。
悲しむ人が、いる。
「君のそんな姿を見たら悲しむぞ!」
そうだ、そんなことをしたら悲しむ人が出る。
子供が取り返しの付かないことをしたとき、一番傷つくのは親なんだ。
何が子供をそんな行動に走らせたのか悩みに悩み、最後には子供にそんな衝動があったことに気づけなかった自分を責める。
親は、子供の罪を子供以上に背負わされるのだ。
――僕の父さんがそうだったように。
「…………御免」
少女が地を蹴る。
矢の如き速さで距離を詰めた少女の斬撃を、どうにか右腕でガードする。
「忍法・五月雨」
連続した剣撃。その全てを回避する術は無く、無様にも膝を付いてしまう。
そして当然の如く、その隙を少女は見逃してはくれない。
「……え?」
衝撃でバランスを崩してしまったが、骨折はもちろん擦り傷ひとつ負っていない。
剥き出しの顔面にも剣撃を受けたのに、だ。
(伊達に命を吸ってはいない、か)
先程よりも疲労感が増したが、そんなことは気にしてられない。
呆然とする少女の身体に拳を叩き込もうと走り出す。
「……忍法・葉隠!」
が、拳が届くよりも早く、目の前の少女は木の葉に包まれたかと思うと忽然と姿を消してしまった。
ブラッディーアーマーに命を吸われているため重くなった足では、やはり機敏な少女の相手をするのは厳しいようだ。
「大丈夫ですか?」
とりあえず逃げてくれたのならよかった。
血濡れの男を介抱し、ブラッディーアーマーも一端外して休息を取ろう。
そう思い歩み寄った矢先だった。
「忍法・曼珠沙華」
微かに聞こえた。幼さの残るその声が。
「上!?」
血濡れの男の叫びと同時に空を見上げる。
木の枝に乗った少女が、何かを放るのが見えた。







何が起きたのか、未だにノエルには理解が出来なかった。
クロードやディアス、アシュトン達が助けに来たのならまだわかる。
だが、目の前の青年は全くの初対面だ。
耳が尖っていないため、懐かしすぎて顔を覚えていない同級生ということもあるまい。
つまり、目の前の青年は見ず知らずの自分のために武器もないのに飛び出してきてくれたのだ。
(加勢をしないと……でも、どうする……早く動く相手には何を放てば……)
傷口を押さえ、ただただ二者のやりとりを見守ることしか出来ないノエル。
同じ紋章術士でも、セリーヌやレオンなら接近戦でも放てる詠唱の早い魔法を持っている。
レナに至ってはその肉体で相手を殴り飛ばすことだってあるのだ。
なのに――自分には大切なものを守り抜くだけの力がない。
彼らの力になりたくて――大切なものを守りたくて、僕はあの時飛び乗ったのに。
「忍法・五月雨」
「…………!」
“忍法”という言葉に、ノエルの意識は現実へと引き戻される。
刺された時に血を流しすぎたのだろうか。うっかり仲間へと想いを馳せるのに夢中になってしまった。
これがいわゆる走馬灯か?
いや、今はそんなことをしている場合ではない。
とりあえずこれ以上失血するのは不味い。だんだん意識もぼやけてきた。
フェアリーライトを――いや、助けに来てくれた青年も少女の猛攻を受けていた。
ぼやけていてよく見えないが、心なしか動きも鈍いように見える。
「キュア……オール……」
力を振り絞り、自身の傷と青年の傷を癒すために唱えられた紋章術。

だが――ノエルの望んだ結果は得ることが出来なかった。

(血は止まった……傷口も塞がった……だけど、ダメだ……)
それが何なのかはよくわからない。
強いて言うなら『傷は塞がったが失われた血液が戻らない』とでも言うのだろうか。
“悪化する”ことは防げたが、“好転はしていない”。
キュアオールの威力が格段と下がっている。
(それに……この感じは……)
十賢者と戦い、紋章術を撃ちつくした時に感じたそれと同じ感覚だ。
おそらく、しばらく紋章術は使えないだろう。
どうやら制限されたのは威力だけではないようだ。
「大丈夫ですか?」
青年が歩み寄ってくる。気付けば戦いは終わりを迎えていた。
本当は大丈夫ではないのだが、とりあえずこのお人よしの青年が無事なだけでも良しとしよう。
そう思い、細い目を更に細めてややぼやける青年の顔をしっかりと見ようとした矢先だった。
「忍法・曼珠沙華」
ぼやける視界に映った、赤色の何か。
とにかく不味いという事だけはわかったので――ノエルは青年に覆いかぶさった。
(僕は、まだ死ねないのにな……)
背中が熱い。それにすごく痛い。
(バーニィ……他のみんな……僕がいなくても、野生で強く生き抜くんだよ……)
ノエルが最期に想うのは、エクスペルに残して来た動物達。
旅の仲間のことは想わなかった。
何故なら、彼らは十分強いから。彼らならきっとこのゲームを終わらせられるから。
だから、彼らについては心配することは何もない――







危なかった。
仕留めたと思った獲物が流血すらしていないことに驚き、不覚にも棒立ちになってしまった。
そのため飛び退くだけで避けられたであろう攻撃に対し、判断を誤って葉隠を使ってしまった。
冷静さを欠いた先にあるのは死だけだ。
もう一度だけ目を瞑り、もう戻れない日を思い、その日々に別れを告げるために曼珠沙華を放つ。
冷静になったせいであの頃への未練が僅かばかり蘇り、ほんの一瞬曼珠沙華を放つのを躊躇してしまう。
それでも今更戻るわけにも行かず、未練を振り払うために過剰な量の曼珠沙華を放ってしまった。
しばらく曼珠沙華は使えそうにないが、まぁ、未練を断ち切るために支払ったと思えば安いものだろう。
「…………」
油断はしない。細目が金髪に覆いかぶさるのが見えていたし、金髪にまだ息がある可能性がある。
それでも骨折ぐらいはしているだろうし、とどめを刺すために近づいても敗れることはないだろうと木から飛び降り足を進める。
あまり戦闘が長引くと更に人が来てしまうかもしれない。
そうなったら小柄で単純な腕力では大多数の者に劣り、かつ使い慣れた忍刀を持っていない自分では厳しい戦いとなってしまう。
まだまだ先は長いのだ。ここでの更なる連戦は避けるべき。
手早くとどめを刺し、デイパックを回収したら早急に移動しよう。
「くっ……」
――細目の亡骸をどけ、金髪が立ち上がった。
どうやら、あまりダメージはないらしい。
骨折どころか流血すらしていないように見える。
これが制限とやらの効果なのだろうか?

金髪がチラリと細目の亡骸へと視線を向ける。
その隙を見逃すはずもなく、今度こそアントラー・ソードを金髪の首筋へと叩き込んだ。

「…………!?」
が、死なない。それどころか血すら出ない。
おかしい。明らかにおかしい。
細目にはしっかりと突き刺さったことから、この剣が模造刀の類である可能性はまず無い。
なら、一体何故――
「もう、やめるんだ。これ以上やっても君に勝ち目は無い」
金髪は立ち続けている。傷は、やはり無い。
「君の攻撃は効かない。そういう鎧を着ているんだ。
君が何をしようと、僕には傷ひとつつけられない。」
鎧の力。ありえない話ではない。
勿論鎧ではなく別の何かの効果である可能性は大きいが、アントラー・ソードが効かないということだけは不動の事実なのだ。
だとしたら、これ以上アントラー・ソード一本で立ち向かっても無意味。
「もし君が素直に降伏し、脱出のために尽くしてくれると約束するなら、命までは奪わない。
 武器は没収させてもらうことになるけど……代わりに君は僕が守るから」
その自信はどこから来るのだろうか。
自分如きから一人の男を守ることすら出来ない人間に、あのダオスよりも強いルシファーを倒す力があるとでもいうのだろうか。

――だが、このままでは相手に勝てないこともまた事実。
敗走という手もあるが、情報が広まると色々と面倒だ。何せ忍法のほとんどを披露してしまっている。
分が悪いが、ここは賭けに出るしかあるまい。
「だから頼む。武器を捨ててくれ」
意を決し、アントラー・ソードを放り投げた。







「くっ……」
助けたかった男は、自分を助けようとして死んでしまった。
自分がもっとうまく立ち回れていれば彼はもっと長く生きられたのかもしれない。
(僕は、何も出来ないのか……?)
生前は父の期待に応えるため、死後は神の期待に応えるために尽力してきた。
だが――どちらも無難な結果しか残すことが出来なかった。
それどころか父には反旗を翻してしまった。
その事実は父の中で傷となり永遠に残ってしまうだろう。
今回も、助けるはずだった男を助けることが出来なかった。結果として彼を傷つけてしまった。
僕はあまりに無力だ。

だけど――父を裏切る覚悟と命を失う覚悟をしてまでロイの脱獄を成し遂げようとしたように。
命を失う覚悟と辛い思いをする覚悟をしてでも、ルシファーの打倒を成し遂げないといけないんだ。
「もう、やめるんだ。これ以上やっても君に勝ち目は無い」
容赦のない剣撃を放ってきた少女を見据える。
そうだ。仲間を集め、この非道な行いを止めさせる。その想いは変わらない。
そのためには一人でも多くの協力者が必要なのだ。
「君の攻撃は効かない。そういう鎧を着ているんだ。
 君が何をしようと、僕には傷ひとつつけられない。」
人を殺してしまったこの子とて――殺されてしまった彼には申し訳ない話だが――例外にする気はない。
彼女を仲間に出来たら、もっと早く彼女を止められなかった償いとして彼の分まで彼の仲間に手を差し伸べよう。
それぐらいしか今の僕には出来ないから。
「もし君が素直に降伏し、脱出のために尽くしてくれると約束するなら、命までは奪わない。
 武器は没収させてもらうことになるけど……代わりに君は僕が守るから」
これは賭けだ。彼女が仲間になってくれるか否か。
この場はうまく停戦しても、後で背後から襲われ死を迎える可能性が高い危険な賭け。
それでも、賭けに出ないわけにはいかない。今は少しでも戦力が必要なんだ。


だが――想いは、届かなかった。


顔面めがけて放られたアントラー・ソード。ダメージは受けないが、一瞬視界が塞がってしまう。
視界が開けた時既に少女は踏み込んでおり、右の拳を左の頬へと叩き込んできた。
どうやら、一緒にルシファーと戦って皆で脱出しようという気は無いらしい。
悲しいが――彼女とは、殺し合うしかないようだ。
幼い少女の命を奪う覚悟をするまでの僅かな時間に、何発も拳が打ち込まれる。
ブラッディーアーマーの性能のおかげで傷を負う心配はないが、顔面に拳が繰り出されたことにより再び視界が塞がれてしまう。
「僕を甘く見るな!」
定期的に視界が塞がれようと、相手が近くに居ることさえわかれば大した問題ではない。
重い獲物を愛用してきたのだ。素早い相手に一撃を叩き込む訓練は嫌というほどしてきた。
獲物が無かろうが、重戦士である僕の戦闘スタイルは変わらない。
リーチが短くなった問題も相手が近距離に入ることで解消される。
「ハッ!」
スマッシュアックスを放つときと同じ要領で振りかぶり、右の拳を叩き込む。
鎧の効果か腕を振りにくかった。
手首の辺りに何かが当たる。おそらく肩で止められたのだろう。
「ヤアッ!」
そのまま肩を掴んで一歩踏み込み、相手を引き寄せると膝を繰り出す。
少女の手が止まった。こちらの攻撃は止めない。
呻く少女を突き飛ばし、少女の放った剣へと手を伸ばす。
剣を掴み、振り返り、少女を殺す覚悟を決め、
「この一撃ですべてを断つ!」
振りかぶり、体勢を立て直そうとする少女目掛けて剣を振り下ろす前に、

視界が傾き、ロウファの体は地に伏した。







これは敗色濃厚の危険な賭けだ。それでも、降りることは出来なかった。
ルシファーには攻撃を完全に無効化する鎧を支給する余裕がある。
反逆者が現れる可能性がある以上、それを装備されると手も足も出なくなるなどといったお粗末なことはないだろう。
おそらくあの鎧かそれ以上の性能のものを装備していると考えられる。
ルシファーの打倒は仲間が揃ったところで――それこそダオスを討伐したあの時のメンバーが勢ぞろいしたとしてもやはり不可能だ。
だから彼の誘いを断った。この鎧があったところでルシファーに勝てる見込みなどない。
かといってここで武器を素直に渡すと殺害の機会を失ってしまう。
自分が生きて帰るために――そして、万が一のときは仲間の内の誰かが生還出来るように、この男はここで殺さねばならない。
そう思ったから、説明書を読んだだけの支給品・サーペントトゥースで賭けに出たのだ。
説明書によると稀に相手を痺れさせる事があるという――すずには知る由もないが先程命を奪ったノエル・チャンドラーが使用していた――武器。
“傷を負わせられない”鎧でも、傷つける以外の効果――たとえば毒なんかは防げないのではないか。そう思った末の賭けだった。
鎧で覆われていない顔面まで保護してしまう鎧なので毒や痺れなども通じないのではないかと少しばかり不安になったが、根気よく殴り続けた甲斐があって結果はご覧の通りだ。

「くそっ、こんなところで……」
だがまだ賭けは終わっていない。いつまで麻痺させていられるかは定かではないのだ。
相手が地に伏すと同時にその鎧を引き剥がしにかかる。念のため痺れが取れてもすぐには起きられぬよう馬乗りの体勢で、だ。
思ったよりも簡単に鎧は剥がせた。が、同時に思ったよりも早く相手が痺れから回復してしまった。
「やられるものか……っ!」
鎧とサーペントトゥースを後方に放ると、鎧と共に引き剥がしたアントラー・ソードを握り締める。
これが最後にして最難関の賭け。
“相手が無傷なのは本当に鎧の効果だったのか否か”
自分ではどうしようもないうえ、嘘を言い切り札を隠し持っている可能性のほうが遥かに高かった。
だが――意外なほどあっさりと賭けは終わる。
全体重を乗せたアントラー・ソードの刀身は、何とか起こしたもののまだ痺れが残っているのであろう金髪の体にずぶりと飲み込まれていった。
金髪の体が朱に染まる――
「ア……ゼさ…………」
何やら呟いているが、もはや金髪に関心はなかった。返り血を気にすることもなくアントラー・ソードを引き抜く。
それより今は今後のことだ。
あまり響いてはいなかったと思うが、それでも戦闘を聞きつけ誰かがやってくると厄介だ。
待ち伏せも出来ないこともないが、今は休息を取り手持ちの武器をしっかりと把握したほうが良いだろう。
二人から奪った武器を使い効率的に数を減らす策が見つかるかもしれない。
何より自分は忍者だ。隠密行動と暗殺に長けた忍だ。
暗闇に紛れて仕留めていく方が確実だし、疲労も溜まりにくいだろう。
とにかく、今はここから離れよう。
奪い取った鎧を着込み、三人分のデイパックを掴むと足音を立てず小走りに移動を開始した。
楽しかったあの日々に、もう、未練など無い。
すずは――忍の頭領として、戦います。







静かな湖畔の森の陰から、無事出られたのは少女だけ。

二人の男は、もう、動かない。



【D-04 朝】

【藤林すず】[MP残量:0%]
[状態:ほぼ無傷]
[装備:アントラー・ソード@VP、ブラッディーアーマー@SO2]
[道具:サーペントトゥース@SO2、ノエルの支給品×0~2(本人未確認)、荷物一式×3]
[行動方針:生き残る]
[思考1:どこかで休息を取りながら支給品の説明書を読み手駒を把握]
[思考2:暗くなったら行動開始]
[思考3:自分が死んだ場合はクレス、ミント、チェスター、アーチェ、クラースの誰かに優勝して欲しい。そのため五人の殺害には消極的]
[現在位置:D-04 森を移動中]
[備考]ブラッディーアーマーの“体力を奪う”という効果にまだ気づいていません。

※バーニィシューズはノエルの死体が装備したままです。
※ブラッディーアーマーは棒立ちの状態で一時間に10%の体力を消費します。
 運動量が増えるとブラッディーアーマーによって奪われる体力は増加します(例/山道を探索する時は20分毎に5%消費、肉弾戦の時は1分で2%消費)
 その代わり顔面などアーマーで覆われていない部分へのダメージを防ぎます。
 状態異常は普通に起こります。
 体力を失うにつれ疲労もたまってきます(貧血みたいな感覚になる)


【ロウファ@VP 死亡】
【ノエル・チャンドラー@SO2 死亡】

【残り53人】




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