第42話 馬鹿ではない!決して馬鹿ではない!


「おーい!リドリー!団長!ミランダ!大隊長!いるなら返事してくれー!」
殺し合いの最中に大声で叫ぶ馬鹿が一人、道を全力で走っていた。
「おーい……誰かいないのかー」
やがて速度と声をゆっくりと落としながら、ジャックは大きく溜息を吐いた。

「誰もいねぇ……」
来るべき道を間違えたのかと、不安そうに後ろを振り返る。
視線の先には、先程通り過ぎた氷川村の影が薄っすらと見えた。
「リドリーたちと入れ違いになってなきゃいいけどなぁ」
呟いてから、ジャックは前に向き直った。

何故ジャックが、この異常な状況下でこのような愚行を冒しているのかというと、
それは彼なりの考えがあってのことであった。
今から数刻前……。

ジャックはリドリーやガンツたちと会うために、島内を探索することにしていた。
「なんだこれ……ここ結構広いじゃん」
地図を見てみると以外と面積があること気が付き、少し絶望。
しかし、三秒後には気を取り直し。
「こうなったら一気に島を一周して探してみるか!」
と勢いづいたまでは良かったが。
「あー、いちいち家の中まで探すの面倒くさいな……」
家内に知り合いの誰かがいて、それを見逃しては一大事だ。
「そうだ!大声で呼びかければ家の中を探す手間が省けるじゃん!」
そんな、場の空気を読む気ゼロの答えを導き出した。
これぞ愚の骨頂。
馬鹿丸出しで、俺冴えてるなーとか言いながら、ジャックはさっそく行動を開始したのだった。

そして現在に至る。

大声を出し続けていた所為で渇いた喉を、水を飲んで潤す。
ゴクゴクと威勢の良い音を出しつつ、ペットボトルに入っている水を殆ど飲み干してしまった。
恐るべき無計画。
またリドリーと会える可能性があって我を忘れているからであろう。
「よしっ行きますか!」
水分を補給したおかげで体全体に力が戻ってくるのを感じて、ジャックは再び歩き始め――
「その前にトイレ」
――なかった。
意気揚々と近くの木陰に入って、せかせかとベルトを緩める。
立ち小便の始まりだ!
「なにやってんの?」
「うわっ!」
だが肝心の用を足す前に、突然現れた人物により中断されてしまう。
急いでいたせいで、周囲への警戒を怠っていた。
そんなことは微塵も考えないで、ジャックは来訪者を見た。
ピンク色の髪をポニーテイルで纏めている少女が、訝しむようにジャックを見据えている。
「なにって……小便」
「あ、そう……」
ジャックのデリカシーの欠けらも無い発言に、少女が不快を露にする。
その態度にジャックも多少、ムッとした顔をする。
「そう言うお前は何してんだよ」
「大声で叫ぶ声が聞こえたからここに来たのよ。もしかしてあんたが叫んでたの?ふ~ん……」
「な、なんだよ」
少女に値踏みするように見られて、ジャックはややたじろぐ。
「あんた仲間を探してたでしょ。名前呼んでたもんね。……実はあたしも仲間を探してるんだよねー」
「ふーん。で?」
察しが悪い。
「だからぁ、一緒に行動しない?」
「別にいいよ」
ズルッと、少女がずっこける。
勿論、二つ返事でOkしたジャックに対して。
「随分と軽いわね……まぁいいか。
 それよりあんた、あんな効率の悪いやりかたで仲間を探そうとしていたの?」
「そうだけど」
やれやれと、少女が頭を振る。
そしてデイパックをがさごそと漁りだす。
「馬鹿だねー。もっと効率の良いやり方ってものがあるんだよ。えーと……あった!」
ジャジャーンという効果音がどこかで鳴り響いた気がした。

「拡声器ーー!」

「何だそれ?」
「これを使うと声が何倍にもなって、かなりの範囲に聞こえるようになるらしいわ」
「すげー!これがあれば簡単にみんなが見つかるじゃん!」
思わぬアイテムの登場に、ジャックは思わず小躍りして喜ぶ。
「そう!これをあの」
ビシッと神塚山を指差す。
「山の上から使えば島全体に呼びかけれるわ!」
なるほどと感心したようにジャックは頷く。
なるほどじゃない。
今の状況を彼等は理解しているのか。
「じゃあさっそく行こうぜ!……あ、俺ジャック、ジャック・ラッセル」
「あたしはアーチェ・クライン」
「よろしくアーチェ!それじゃあ気を取り直して……」
出発進行!と大きく叫んで、二人は山に向って歩き――

「その前にトイレ!」

――ださなかった。

【I‐4 昼】
【アーチェ】[MP残量:100%]
[状態:普通]
[装備:ド根性バーニィ@SO3、他にも装備している可能性あり]
[道具:エリクシール@TOP(実際の中身はスーパーボトル@SO3)、拡声器、不明支給品0~2(本人確認済)、荷物一式]
[行動方針:仲間を探す]
[思考1:ジャックと一緒に神塚山に登り、拡声器で仲間に呼びかける]
[現在位置:I-4 道]

【ジャック・ラッセル】[MP残量:100%]
[状態:普通]
[装備:無し]
[道具:首輪探知機・荷物一式(ただし水は残り僅か)]
[行動方針:仲間を集めてルシファーを打倒する]
[思考1:アーチェを一緒に神塚山に登り、拡声器で仲間に呼びかける]
[思考2:知人と接触(リドリー優先)]
[現在位置:I-4 道]

【残り53人】




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最終更新:2007年03月31日 21:51