第43話 ジョーカーと竜人と変態と


「さて、どこへ向かおうかしら…」
ブレアは地図から現在位置、人が集まりそうな場所を探す。
人が集まるのは、村や建物など目印となる場所。
この位置からと鎌石小中学校、観音堂、鎌石村辺りが挙げられる。
どの地点も西にあるので、とりあえず西へ向かう事にした。
「待っていて下さいね、ルシファー様。私は必ず使命を果たしてみせますから」

西へと向かっていると、早速参加者らしき人物を発見した。
二人で行動している所を見ると、恐らくゲームには乗っていないのだろう。
「すぐに殺しにかかってもいいんだけど…」
積極的に人を殺そうとする「マーダー」は、このゲームを円滑に進める為にも必要な存在。だから今は殺さない方がいい。
だがゲームに乗っていない者、いわゆる「対主催」の人物は邪魔なだけだ。
こういった人物にはできるだけ苦痛や絶望を与え、殺す。それが与えられた使命。
少し唇の端をつり上げると、ブレアは二人の下へ向かっていった。



「ハッ!ハッ!てやっ!」
エイミはレザードから渡された神槍パラダイムを振り回しながら歩いていた。
そこらの木に突きをしたり、草むらを払ったり。これも槍を使いこなす為の訓練の一環である。
使ってみて分かったがこの槍、かなりの上物だ。ロウファ辺りもこれを見たら驚くかもしれない。
レザードはというと、自分から少し離れた場所を歩いている。相変わらず気味悪い笑みを浮かべて。
「…確か、貴様は竜人だったな」
これまでほとんど喋っていなかったレザードが唐突に話しかけてきた。
「ああ、そうだけど?」
そう答えたところで、エイミの頭に天啓の如くあるアイディアが閃いた。
「そうか!あたしが竜化すれば、こんな首輪簡単にぶっ壊…」
「それはやめた方がいいでしょうね。これだから短絡思考は…」
間髪入れずにレザードがエイミの天啓を否定する。
「あんだと!?」
エイミは怒りを露わにするが、レザードは気にする事もなく続ける。
「いいか。この首輪は主催側の『切り札』なんだ」
「切り札?」
「そうだ。主催者の話を聞く限り、首輪は向こうの意志で自由に爆破できるようだ。このお陰で主催側は参加者側を束縛し、反抗できないようにしている。
結果、私達は殺し合いを強要されている」
レザードは続ける。
「だが逆を言えば、この首輪を外されたら主催側はこちらの動きを管理するのが困難になる。
だからこそ、この首輪は何があっても外れないよう徹底して作られている筈だ。
それにこれだけの人物を集め、殺し合いを計画した者の事だ。こちらの能力なども全て念頭に置いた上でこの首輪を作りだしたはず。
そんな首輪が、貴様の竜変化如きで難なく外せるとは思えない。いや、下手をすると…」
「下手をすると…?」
レザードの考えに、エイミも神妙な顔つきで聞き入った。
「…竜に変化して首輪が破壊された瞬間、爆発して貴様が死ぬ可能性もある」
エイミはぞっとした。自分が死ぬかもしれなかったという言葉より…それを言った時のレザードのにやけた顔に。
「そもそも主催者は私達の能力にある程度の制限をかけたと言っていた。その制限された能力の中に、貴様の竜化や私の屍霊術が含まれている可能性も…」
そこまで言ったところでレザードは黙った。エイミもすぐその理由を理解する。
――人の気配がする。誰かが接近してきているのだ。
ブレアは発見した二人組にこっそりと近づいていった。
一人は赤い髪の女性。もう一人は眼鏡をかけた薄気味悪い男。何やら会話をしている。だが会話の内容はよく聞こえなかった。
…とその時、二人の声が急に途切れる。
(気付かれたかしらね?)
まあいいわ。どのみち接触するつもりだったし。
頭の中でそう呟くと、ブレアは二人の前に姿を現した。


姿を現すと、二人はより警戒を強めるように身構えた。
「ああすみません。私は殺し合いに乗っているわけではありませんよ?」
少し慌てたような演技をし、いかにも状況に対応しきれていないといった参加者を装う。
「…こっちも出来ることなら疑いたくないんだけどね。悪いけどこんな状況だ。荷物を捨てて、両手を挙げて後ろに少し下がってくれ」
ここは素直に女の言うとおりにしておく。
女は自分の捨てた荷物を拾い、投げ返してきた。
「疑ってすまなかったね。あたしはエイミってんだ。よろしくね」
どうやらこちらの事を信用したようだ。全くこの程度で信用するとは。
後ろの眼鏡男はレザード・ヴァレスと名乗った。

とりあえずブレアは、こちらの考えを悟られないように自己紹介した。
「全く妹をこんな殺し合いに参加させるなんて…!ルシファーって野郎は本当にゲスな奴だね!」
主催者ルシファーの妹だと名乗ると、エイミは怒り心頭といったように吐き捨てた。
「…ええ。ですが私は、何としても兄の凶行を止めなければなりません。その為にお二人には是非とも協力して頂きたいのです」
勿論ウソ。本当の使命は全く逆である。
「ああ、勿論さ。レザード!文句無いね!」
「…まあいいでしょう」
レザードも了承したようだ。
話し合った結果、まずは鎌石村に向かい、エイミらの知り合い及び協力者を捜す事になった。

(さてこれで潜入する事はできたわ。後は、どうやってこいつらを殺すか…)
歩きながらブレアは殺害方法を考える。
グールパウダー、万能包丁、パラライズボルト。道具は豊富だ。こいつらが死に逝くと姿を想像すると思わず笑みがこぼれる。
「ククク…」
思わず笑いが声に…いや違う。これは自分の笑い声では無い。
振り返ると、レザードがこちらを見ながら薄ら笑いを浮かべていた。
「…何か?」
怪訝な表情でレザードに尋ねる。
「…あの程度の演技で私を欺いたつもりか?あの女は騙せても、私を騙す事はできんぞ」
「――!」
気付かれていた…!?
自分の演技を見破っていたというのか。動揺するが、あくまでそれは表情には出さない。
「どういう事ですか?」
「先程貴様が言った事は全て嘘。貴様がやろうとしている事はその逆…参加者の抹殺。違いますか?」
レザードの指摘は的確だった。…ここまで読まれているのなら、もう隠す必要も無いだろう。
「なかなかやるじゃない。ならどうする?私をここで殺す?」
開き直ったように言う。ブレアもまたレザードに勝るとも劣らない位の不敵な笑みを浮かべ、構えを取った。
「…いや、今はやめておこう。主催の妹なら、このゲームを脱出する手掛かりとなる情報を知っている可能性があるからな。
それを聞くまでは殺さん。貴様としてもここで争うのは得策では無いと思うぞ?」
…確かに、それはレザードの言う通りだった。
ブレアはゲームの開始前、あらかじめ今回の参加者の情報をルシファーから与えられていた。
ドラゴンに変化する能力を持つ竜人エイミ。そして参加者の中でも屈指の魔力を持つ魔術師レザード・ヴァレス。
一度にこの二人を相手にしたら、さすがのブレアも無傷ではいられないのは分かっていた。
不本意だが、ここは相手に合わせた方がいい。
「今ここで殺さない事、後で後悔しても知らないわよ?せいぜい背後には気を付けることね」
「ククク…それはお互い様だな」
お互いまた不気味に笑う。だがブレアの内心は笑っていなかった。
(私を侮辱するなんて…こいつは許さないわ。ありったけの絶望と苦痛を味あわせて葬ってあげるわよ…!)


「あいつら急に立ち止まって、何やってるんだ?」
先頭を歩いていたエイミは二人が付いてこないと気付き、後ろを振り返った。
そこで見たのは、お互い笑顔で話すブレアとレザード。
(あの変態がヴァルキリー以外の女に興味を持つ…なんて事はないよなぁ?)
だがその雰囲気はやけに和やかに見えなくもない。あくまでもエイミ視点での話だが。
「おい!話は歩きながらにしろよーっ!早く来ーいっ!」
叫ぶが、二人は聞こえていないのか全くこちらに向かってくる気配はない。
「全く何話してんだよ…」

【C-06/午前】

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔100/100〕@SO3]
[道具:グールパウダー@VP2・万能包丁@SO2・荷物一式]
[行動方針:参加者にできる限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:エイミ、レザードと共に鎌石村へ向かう]
[思考2:善人ぶった奴にグールパウダーを飲ませる]
[思考3:隙を見てエイミ、レザードを殺害する(レザードには出来る限りの苦痛を与えて殺す)]

【エイミ】
[状態]:正常
[装備]:神槍パラダイム@RS
[道具]:アップルグミ@TOP×4、エルヴンボウ@TOP、????(0~1個。あるとしたら本人未確認)、支給品一式
[基本方針]:ルシファーを倒す。
[思考1]:鎌石村へ向かい、エインフェリア仲間やヴァルキリーを探す。
[思考2]:売られた喧嘩は買う。
[思考3]:レザードは信用しない。
[思考4]:出来れば神槍パラダイムを使いこなせるように練習がしたい(※優先順位は低い)
[備考]:※アップルグミをただの食料だと思っています。
    ※レザードの支給品は神槍パラダイムしか把握していません。

【レザード・ヴァレス】
[状態]:正常
[装備]:天使の唇@VP
[道具]:????(本人確認済み)、支給品一式
[基本方針]:ヴァルキュリアと共に生き残る。
[思考1]:愛しのヴァルキュリアと再会し、二人で一緒に生還できる方法を考える。
[思考2]:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない。
[思考3]:エイミを利用する。エイミが裏切る可能性を考慮して行動する。
[思考4]:ブレアを警戒。ブレアから主催や殺し合いについての情報を聞き出す。
[備考]:※ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません。

[現在地]:南東・道沿い

【残り53人】




前へ キャラ追跡表 次へ
第14話 IMITATIVEブレア 第65話
第22話 エイミ 第65話
第22話 レザード 第65話

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年06月14日 06:22