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第44話 犯人に告ぐ、人質を解放しろ



人質の女性を盾にされ、ガンツは今日で何度目かとなるその選択をサメ男に迫られる。

「さぁ、どうする。いつまでも考えていないでさっさと決めてしまったらどうだ」
「お、お願いですから、もう少しだけ考えさせてくださいっ、もうちょっとですから」
荷物を渡していいものかどうか、ガンツはその答えを未だに出すことができずに
朝からこの調子でズルズルと回答を引き延ばしていた。
以前に経験した、これと似たような事件を思い出そうとしているのだが、
薄れて久しいその記憶はどうしても手繰り寄せるのに時間がかかってしまう。
(たしか前にも同じような事がありまして、え~っと、できる限り話し合いでの解決をして、
 それと騎士団憲章では、何を最優先にするんでしたっけ?)

「おいっ! もう十分だろう、さっさと荷物をこちらに渡せ」
「す、すいませんっ。もうほんのちょっとだけですから、そこをなんとかっ」
あたふたと身振り手振りを交えながら、再度サメ男に考える時間をくれるよう懇願する。
「ッチ、しようのない」
何度目かの懇願にサメ男も渋々ながら了承してくれるが、
相当に苛立っているであろうことはサメの表情などわからないガンツにも想像に難くない。
額から吹き出てくる玉のような汗を袖で拭いながら、またも思索に没頭する。
(……確か……犯人を刺激しないよう気をつけて……最優先に考えることは……
 そうです、人質の救出でした!)
とうとう騎士団憲章の一節を思いだすことができた。そうだ、優先すべきは人命だ。
まるで喉に刺さっていた小骨を取ることができたような感覚に思わず表情をほころばせる。
「ん? ようやく決まったのか?」
「あっ、いえ、そのぉ、本当に申し訳ないんですが、もう少しだけでも………」
何度となくしたそのお願いに苦々しい顔をするサメ男を見ていると
次第に本当に申し訳のない気持ちになってくるのだが、
そう簡単に決めてしまえればガンツとしても苦労はしない。
睨んでくるサメ男と目が合わないようあらぬ方向に顔を向ける
ともかくも方針は決められた、人質の命が最優先だ。
という事で言われるとおりサメ男に荷物を渡してしまおうか、
ようやく決まりそうになる答えにガンツは、はたと首を捻る。
最初に悩んでいたことはなんだったろう、そうだ荷物を渡してもサメ男が襲ってこないとは限らない。
とはいえ熟考の末に決まった方針では、最優先すべき人質の救出のためにサメ男に荷物を渡さなければならない。

(つまり、人質が救出できなおかつ私の安全が保障されるような
 荷物の渡し方を考えなければならないということですね!)

ガンツは今までの騎士と盗賊という職業遍歴を踏まえ、その条件に合致する何かいい方法はないかと思案する。
この場で渡すのはいくらなんでも危険すぎる。
あちらの木立まで一緒に来てもらう、いや根本的に変わらない。
その時、ガンツの頭に妙案が閃く。

「……あのぉ~……荷物を渡そうとおもうのですが……できれば…その…渡し方はこちらで決めさせてもらえませんか?」
「何だ、言ってみろ」
やれやれといった様子でサメ男が聞き返してくる。
「いえ、ですから、荷物をですね……向こうの方に置いてきますので、
 よければそちらまで取りに行ってもらえないかなぁ、なんて……」
そう言って身を縮こまらせて恐る恐るといった様子で、ガンツは民家より少しはなれた所にある木立を指でさす。
それを聞いたサメ男はその顎に片手をあてて少し考えるような素振りを見せる。
迷っているのだろう、疑わしげに見てくるその視線にガンツの背筋は冷や汗をかくが
「いいだろう、ならさっさと荷物を置いて来いっ」
これ以上引き伸ばされてはかなわないとでも思ったのか結局はサメ男もその提案を許可する。
「あ、ありがとうございますっ!」
途端にほくほくと顔をほころばせ、サメ男の気が変わらぬうちにとガンツは荷物を持って駆け足で木立へと走り出す。
その意外に俊敏な動作にサメ男は感心した風にガンツを眺めるが、ガンツはそのまま駆けてゆく。
ようやく木立に着いた頃には肩で息をしていたがそれを気にしている暇はない。
素早く周囲にある背の低い草を掻き分けて、なるべく見やすい所に荷物を置く。
そして民家の手前で女性の首に剣をあてるサメ男に両手を振ると、ガンツはまた元の場所へと走り出す。
まだ少し距離の残るところで息を切らせて立ち止まり、額から零れる汗を拭いながらガンツは大きな声をだす。

「どうぞ~、もっていってくださ~い」

荷物の方へと向かうサメ男を警戒しながら途中でぶつからないようガンツは遠回りに女性へと近づいていく。
ちらと後ろを振り返り、サメ男が変わらず木立の方へと進んでいるのを確かめて安堵の息をつく。
なんとか交渉は成功したようだ。後は人質となっていた女性を介抱しなければならない。
ガンツは女性へと駆け寄り呼びかけてみるが返事はない、もしやと思い口の辺りに手をあててみる。
当てた手が僅かではあるが空気の移動する感覚をガンツに伝える。
どうやら呼吸はしているようなので命に別状はなさそうだ、
荷物はどうやらサメ男が持っていったようなので女性だけを抱き上げ確かな足取りで近くの民家へと運び込む。
奥にあった布団にそっと横たわらせて毛布を被せしばらく様子を見ることにする。
気を失っているだけなので経過した時間から考ると程なく目が覚めるだろう。

なにはともあれ荷物は失ってしまったが人質の女性の救出には成功したのだ。
昔は犯人との交渉などまったくできなかったガンツは自分の力だけでその成果をだせたことに満足し、
先程の緊張をほぐすがてら周囲を散策しようかと外へと向かう。

民家から出てしばらくぶらぶらしているとこちらに近づいてくるサメ男が見える。
ガンツはまるで久方ぶりの知り合いのように声をかけようとするが、
相変わらず剣を携えてこちらへと迫ってくるサメ男にガンツの背筋を嫌な汗が伝う。
確かに荷物と女性の交換はスムーズに進んだがガンツはその後のことまでは考えていなかった。
お願いを何度も聞いてくれ長い時間待ってくれていたせいか
まるでサメ男がいい人物であるかのように錯覚していたのかもしれない、
しかしサメ男こそまさしく人質をとり自分を脅迫していた悪党なのだ。
もはや丸腰となった自分達を殺すのに何の躊躇いがあるだろうか

歓迎したくない未来予想図が鮮明な色合いを伴って思い描かれる。
前方からの威圧感に気圧されるように我知らず後ずさるのを自覚すると
ガンツはすかさず逆方向へと駆け出した。
後ろなぞ見なくともサメ男も走り出したのが空気で分かる。
その事実に全身から脂汗が滲み出てくるのを感じる。
少しの間とはいえ盗賊として生計をたてていたのだ
走る事にかけて自分がそこまで劣っているはずがない。
そう思いガンツはなるべく女性のいる民家から離れサメ男から逃げ切るべく走り続けるも
そのふくよかな体型のせいか、それとも木立に向かうときに走りすぎたのか
さほどの時間を待たずして息は乱れていき、足がもつれそうになる。
だが後ろについてくる足音はなおも途絶えず次第に焦りが募りだす。
まだサメ男は引き離せないのだろうか、
サメ男と自分との距離はどれほど離れているのだろうか、
とうとうガンツが不安に耐え切れなくなり後ろを振り返ろうとしたその時、
「ぁがああっっ」
肩の辺りに感じた灼熱のごとき熱さに呻き声をあげ前方に倒れ転げまわる。
熱さと全身に出来た擦り傷の痛みとに耐えて、
何とか今走ってきた道を振り返り、ようやくガンツは何が起きたか理解する。
紅く染まる肩口、道には先程女性に突きつけられていた剣が落ちている。
さらには自分の荷物であった斧を目の前で振りかぶるサメ男の姿が
これからここで起きる事を何よりも雄弁に物語る。
「ちょっ、ま、まってくだ――――」





「ふん、くだらん事で手間をとらせおって」
脅しとった男の血にまみれた斧を拭きながらビウィグは呟き、
首が胴体にサヨナラを告げた死体を見て嘲笑う。
変な正義感をださずに人質を見殺しにして逃げるなり、この斧で攻撃してくるなりすれば
まだ生き延びる事もできたかもしれないが、結局この男は言われるままに武器をこちらに渡したのだ。
馬鹿馬鹿しくて思わず笑いがこみ上げてくる。
かなりの時間を費やしたが相手が丸腰になったところで殺せたのだから
結果的には危険も無くそれなりに有意義な時間だったといえよう。
「女が見当たらんな」
真っ赤だった斧を拭き終えると、辺りを見渡し再度呟く。
どうやら男を追ってそれなりに長い距離を走ったようだ。
周囲はどこも見慣れぬ風景で、しんと静まり返っている。
ここに自分以外に誰もいない事は疑りようが無い。
あの女はまだ目覚めていないのだろうか、気絶させてからかなりの時間が経過しているので
いつ目覚めてもおかしくはないが、起きていたとしても女ごときにそれ程手間は取らないだろう、
あの男を見かけたところには誰もいなかった。
おそらくは民家の中か見つかりにくい茂みにでも置いてきたに違いない
血の池に沈む死体を一瞥し、つまらなそうに鼻をならす。
その手に鈍く煌く斧を持ちビウィグは次なる獲物を求め、走ってきた道を戻ることにする。



【C-4/昼】
【ミラージュ・コースト】[MP残量:100%]
[状態:気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:このゲームから脱出してルシファーを倒す]
[思考1:???]
[思考2:鎌石村で仲間を探す]
[思考3:煙の発生場所(G-3平瀬村分校跡)に行く]
[現在位置:C-4 東部付近 民家内部布団の中]


【ビウィグ】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:ファルシオン@VP2、ストライクアクス@TOP]
[道具:グーングニル3@TOP、空き瓶@RS、デッキブラシ@TOPスタンガン、???←本人確認済み、荷物一式×3]
[行動方針:生き残る]
[思考:女を捜して殺す]
[現在位置:C-4 西部近辺 道路上]
[備考:返り血を多少浴びています]

※ガンツの死体は西部道路上に放置されています。


【ガンツ・ロートシルト@RS 死亡】

【残り52人】




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