第45話 不可視の未来


鎌石村と平瀬村とを繋ぐ道の上で、二人の男女が密接していた。
別に疚しい事をしているわけではない。

「さあ、クレス君。答えはYES? それともNO?」
マリアはスタンガンをクレスの首筋に押しつけたまま、同じ質問を繰り返す。
その指はスタンガンのスイッチ部分に乗せてあり、いつでも効果を発揮できる状態にしてある。
だが実際、今はこれを使うことにはならないとマリアはわかっていた。
「も、勿論。YESに決まってます!」
ほらやっぱりと心の中で呟きながら、マリアはクレスからスタンガンを離す。

今の状況では、殺し合いに乗っている乗っていないに関わらず、プライドが余程高くない限り普通はYESと言う。
それでは危険な相手かどうかもわかりかねる。
しかしマリアはクレスがそういう人間ではないと判断していた。
マリアがクレスにスタンガンを当てる前に聞いた言葉。
『僕は…ルシファーをゆルシファー(許しは)しない!』
ダジャレだったとはいえ、ルシファーに対して敵意を抱く旨の発言をしていたのだ、
そんな人間が、殺し合いに乗っているとは思えない。
それがクレスを信用した決め手だった。

「そう。それは良かったわ」
スタンガンをデイパックにしまいながら、クレスの正面方向に移動する。
クレスは額に滲んだ脂汗を袖で拭き取りながら、マリアと向き合った。
「マリア・トレイターよ。よろしく」
青い髪を背に払いながら、マリアは素っ気無く名前を告げた。
「あんなことしなくても、僕は協力しますよ……」
苦笑いを浮かべながらも、クレスはそう言ってみせる。
「念の為よ。私はこんな状況下で、危険かもしれない初対面の相手に正面から話かけるような馬鹿じゃないの」
それに……、とマリアは続ける。
「私の質問はまだ終わってないわよ。気を抜かないで真剣に答えて」
また何かされるのだろうか。
不安をできるだけ顔に出さないようにしながら、クレスは次の質問を待ち構えた。

「クレス君。君はこの殺し合いに乗る人間がいると思う?」
「……はい、いると思います」
クレスは殆ど間を置かずに、答えを返した。
彼とてそうだとは言いたくなかったが、荷物を確認する際に名簿にダオスの名前を見つけていた。
ダオスならほぼ確実に殺し合いに乗るはずだ。
何故、倒したはずのダオスが生きているのか気になったが、それは保留とした。
「そうね、乗る人間は必ずいるわ。私にも多少心当たりがあるからそう思う。
 それとこの首輪のせいで乗るという人間も出てくるはずよ」
マリアは忌々しげに首輪を手で撫でた。

「……それじゃあ次の質問」
まだ続くのか。
クレスはそう思ったが、マリアには逆らってはいけないような気がしたので黙っておく。
「君は自分の仲間が殺し合いに乗ってしまうと思う?」
「思いません! 僕の仲間はそんなに軟弱じゃない!」
今度は少し、声を張り上げてクレスは即答した。
「そう……。私も自分の仲間がそうなるとは思ってない」
癖なのかまた髪を背に払いながら、マリアは事も無げに言う。
事実、マリアはフェイトやクリフたちが凶行に走るとは思っていなかった。(約一名に若干の不安はあったが)

「……これが最後の質問」
マリアは両の碧眼でクレスをじっと見据える。
「君はもし自分の仲間が命を落としたとしても、それに耐える事ができる?」
「――っ!」
今度は即答できなかった。
「さっき言ったわよね。殺し合いに乗る人間は必ずいるって。
 それはつまり狩られる側の人間も、少なからずは出るってことよ」

この島に参加者達はバラバラに飛ばされている。
その中には今のクレスとマリアのように一対一で遭遇する人間もいるだろう。
もしそれが、殺人者と脱出派の人間だったら?
もしそれが、ダオスと仲間の誰かだったら?
もし、あれほどの力を持っているダオスと一人で出会ってしまったら?
もし、仲間が抵抗も空しく殺されてしまったとしたら?

「僕は……」
喉の奥から搾り出した声は、僅かに掠れていた。
「……きっと耐えてみせます」
最悪の想像を打ち消すように、クレスははっきりとした声で答えた。
「それに僕は信じてますから。ミントやチェスターはこんなところで死なないって」
自身の言葉に何の疑いも持たずに、クレスはそう続けた。
「なら約束して」
「約束?」
「そう。……君はさっき私に協力すると言った。協力して貰う以上、足手まといになって欲しくないの。
 例えば、仲間の死に動揺して暴走されたりしたらたまったもんじゃないわ」
随分と酷い事を言っている。
マリアは心中で自虐的に呟いた。
「だから誓ってちょうだい。絶対に挫けないと。絶対に最後まで戦い続けると」
そこまで言い終え、マリアはクレスの答えを待った。

「……誓います。この戦いを終わらしてルシファーを倒すまで、絶対に挫けないと。
 それに言ったはずです。僕の仲間はこんなところで死なないって」

クレスは強く、それでいて一切の迷いがない口調で言い切った。
その曇りのない瞳には、仲間に対する絶対的な信頼が見えた。
「……なら、良いわ」
クレスから視線を逸らしながら、マリアは思った。
だからこそ心配なのだと。
仲間を心から信頼しきっているからこそ、もしもの時に、
例えば信頼している仲間が敵になってしまった時に、
例えば死ぬはずが無いと思っていた仲間が死んでしまった時に、
目の前の少年はその現実に耐えることができるのか。
自分自身もそれに耐える事ができるのか。
その一抹の不安が、マリアの心の奥で小さく燻っていた。





その後二人は、近くの茂みで情報交換を始めた。
まずは参加者のこと。
知り合いはどれぐらいいるのか、敵になりそうな者はどれぐらいいるのか。
この際にクレスはダオスの脅威をマリアに伝えた。
(そんな奴までいるなんて……少々難易度が高いみたいね)
話を聞いたマリアは気を引き締めなおし、次にクレスにルシファーに関する情報を教えた。
ルシファーが自分達の世界そのものを作った創造主だということも、包み隠さずに。
それを聞いたクレスは最初こそショックを受けたものの、何か納得の行く点があったのかその事実を受け入れた。
(成程……。これでダオスが生きていることにも説明が付く)
主催者の正体が創造主という強大な存在だと知って、言い知れぬ恐怖を感じたが、
マリア達が一度戦って勝利したという話も聞いたので、クレスは僅かに安堵を覚えた。

参加者の情報を整理した二人は、お互いの支給品を確認することにした。
クレスは木刀とコミュニケーター×2をマリアに見せたら、そのままコミュニケーター×2を取り上げてしまった。
本人曰く、「未開惑星の住人には不要なもの」らしい。
ただ、その代わりにマリアはクレスにある物を渡した。
「等価交換よ。それが君の役に立つかどうか分からないけど」
そう言って押し付けられたポイズンチェックをクレスは大人しく貰っておくことにした。

「さて、一通りの情報交換は終わったわね」
言いながら、マリアは地図を取り出す。
「これから私達は移動するけど、問題はどこに行くかよ」
マリアは地図のいくつかの点、平瀬村、鎌石村、ホテル跡、神社などを指し示す。


「何箇所か人が集まりそうな場所が設けてあるけれど、まずはどこに向う?」



【D-1/午前】
【クレス・アルベイン】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:木刀、ポイズンチェック]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーをゆルシファー(許しは)しない]
[思考1:マリアに協力する]
[思考2:仲間を探す]


【マリア・トレイター】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:サイキックガン@SO2]
[道具:???(0~1個、ある場合は確認済み)、コミュニケーター@SO3×2、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:クレスと協力してゲームを止める]
[思考2:他の仲間達と合流]

[現在位置(二人共通):D-1 道沿い]

【残り52人】




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最終更新:2007年03月17日 18:35